【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第二十一話

 ―――ゲーム開始直後。白亜の宮殿内部。

 

  宮殿は五階建てのつくりとなっている。

 最奥が宮殿の最上階にあたり、進むには絶対に階段を通らねばならない。

主催者(ホスト)>側の人間がどれだけ配置されているかはわからないが、最低でも一つの階段を確保せねば次の階へは進めない。

 それが<ノーネーム>を阻む最大の難点だった。

 

 が、<ペルセウス>側は現在、階段を封鎖し守りの態勢に入る余裕すらなかった。

「誰か手を貸してくれ!こっちにまだ一人埋まってる!」

「もうゲームは始まってるんだ!敵が来る。埋まった者達は放っておけ!」

「通路が埋まってて配置に着けない!手を貸してくれ!」

 番一のゲーム開始の先制攻撃により、一階正面部分は半壊状態にあり、散弾のように撒き散らされた門だったものが宮殿に甚大な被害をもたらしている。

 本来であれば一糸乱れぬ統制を取れるはずであろう騎士たちは焦っていた。

 本拠を舞台としたゲーム。地の利は<ペルセウス>側にあるはずなのに、一瞬にして失った。

 ましてや勝利条件は単純明快。戦わずとも敵を見つけさえすればいい。瓦礫の立てた土煙と、大量の死角によって困難となっているが。

 

 そんな惨状を知らずに、最奥の大広間で玉座に腰掛けていたルイオスは既に勝ったつもりでいる。

 その胸中は挑戦を許した部下達に対する憤りで一杯だった。

(ふん……役に立たない奴ら。<ノーネーム>なんかに挑戦を許すなんて)

 どんなに従順でも、そんな無能は自分のコミュニティには必要ない。

 ゲームが終わり次第全員粛清してやる、と物騒に呟く。

 

 

 

 ―――把握はしていた。相手に回したのが問題児集団であるということは。

 

 理解できていなかった。名立たる英傑達にも劣らない世界屈指の最凶問題児集団だという事を。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 正面の階段前広間を飛鳥に任せ、十六夜達は宮殿の奥へと進んでいた。

 奥は被害が少なく、騎士達には焦りも油断も見られなかった。

 宮殿の柱の陰に隠れ、耳を澄まして周囲の気配を探る春日部耀と長井番一。

 やや間があって閉じていた眼を番一が開き、耀も同時に反応し、二人で目配せをした。

「来たな。準備」

「兜は私が」

 短い言葉で伝え合い、行動を始めた。

 

 如何に姿が見えないと言っても、物音や臭いまで消せるものではない。

 五感が鋭ければ不可視のギフトにも対抗できるのだ。

 

 柱の影から番一が足音の方向に向けてバットを全力で投げつける。

「あぐりがっ!?」

 虚空に当たり、突き刺さるような鈍い音と共に不可視の敵が変な声を上げる。

 直後、耀が駆け寄り、すかさず後頭部を激しく強打する。

 騎士は何故居場所がばれたのかわからずに失神した。

 前のめりに倒れこんだ騎士から兜が落ちる。

 すると虚空から騎士の姿が現れた。その様子を見て耀が察する。

 

「これが不可視のギフトで間違いなさそう」

「……。そうっぽいな。ジン。被っとけ」

「わっ」

 番一が一拍置いてから駆け寄り、兜を拾い上げてジンに向けて放り投げる。

 そのまま兜はジンの頭にスッポリとはまり、ジンの姿は瞬く間に色を無くして姿を隠す。

 即座に番長が柱の陰に隠れる。必要以上な警戒は不可視のギフトを持っていないからだ。

 

 

 姿の消えたジンを確認して耀が二度三度と頷く。

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になってる。どんなに気をつけたところで姿を見られる可能性は排除できないもの」

「連中が不可視のギフトを限定しているのは、安易に奪われないためだろうな。なら最低でも後一つ、贅沢言えば二つ三つ欲しいところだが……」

 珍しく言いよどむ十六夜。確実に最奥に進む必要があるのはジン・十六夜の二人だけ。

 番一もいれば勝率はさらに上がるだろうし、耀もいれば文句はないのだが、欲をかいては仕損じることもある。

 

 番一が柱の影から耀に話しかけた。

「……。索敵に問題はなかったよな耀。一人でもいけるか?」

「え?うん。一人でも十分わかる」

 そう応えた後、番一は深呼吸して決断するように皆に伝えた。

 

 

「……。おし。なら俺がちょっくら全力で囮かましてくるか。見つかったらどんまい、見つからなければ万々歳。でかい音出して暴れ回って敵集めとくから、その隙に兜を集めてまわっとけ」

「いいのか番長?挑めなくなるぞ」

 十六夜が驚いたような顔で番一に向け声をかける。

「飛鳥だって面倒な役買って出てくれただろ?そも俺は全部の役割押し付けられてるんだし。  じゃあな。ガハハハハハハ!」

「あ、オイ番長!せめてもう少し作戦をだな!」

 制止の声も聞かず、番一は柱の陰から飛び出し駆け出した。

 

 ……その数分後、宮殿が爆砕される音が響いた。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 ―――数分後、宮殿三階。四階への東階段。

 

 

<ノーネーム>が中央突破を図る可能性は低い。

 したとしてもバレた瞬間東西の階段、上階や階下から増援が来る。であるならば中央階段は多少は手薄でも構わないと<ペルセウス>側は判断するであろう。

 東西の階段であれば中央からもしくは階下から上階からの増援のみ。少なくとも挟撃は防げる。

 ならば攻めるべきは東西の階段。番一が他の皆を突破できるようにするならばそれが当然。

 囮として出来うる限り敵を引き付け守りを薄くする。

 その隙に皆を通す。これが最善。

 

 

 

 ―――知ったものか。正面で暴れて敵を全部集めよう。待ちを選ぶなら潰しに行こう。

 

 

 

「ガハハハハハハハ!オラオラ!どうしたこの程度かクソ共!」

 

 文字通り、暴れ暴れ回っていた。

 しかしその姿は誰の眼にも捉えられない。

「いやはや我ながら素晴らしい発想だな!土煙のおかげで不可視の敵が見える見える!」

 最初の爆砕、その攻撃により立ち込める土煙が視界を遮る。

 三階の中央階段を含めたかなりの範囲に煙が立ち込める。

 とはいえ、こうまで都合よく濃い土煙がたちこめるのには当然理由がある。

 番長必殺を使ったからである。

 

 

 番長必殺・十九式『砂塵砂楼(さじんさろう)

 

 効果は、砂や石造り、コンクリートの建物等を破壊したり殴りつけた時、必要以上に土煙が立ち込めるというもの。

 現代日本ではほぼ使い物にならない。というより使えない。砂の地面(グラウンド)に使うならまだしも建物に使えば警察案件だ。

 ちなみにゲーム開始直後の攻撃には使っていない。

 欠点としては水分が含まれている地面、たとえば草地や森の中、木造家屋などには効果があまり出ない。

 一階で飛鳥が水を撒き散らしているが、三階までは影響は来ていない。

 

 そして何故、敵に番一は見えず、番一に敵は見えるのか、コレもまた番長必殺である。

 

 

 番長必殺・十式『眼前霧中ニツキ』

 

 ふざけた名前とは裏腹に、今この状況。『砂塵砂楼』を使ったときぐらいしか(・・・・・)使えない(・・・・)必殺技(・・・)

 土煙を少し曇ったガラス越しくらいの視界で見ることができるようになる必殺。

 霧や煙を透視するこの必殺を使えば、透明化した敵なら土煙を押しのけるその体を目印に発見できる。

 欠点として使い終わった後、目が酷くシパシパしてしまうことだろうか。

 

(番長必殺の組み合わせが、全局面対応たる所以だからな!)

 透明化しているだけならば、その体は物理的に触れられる。

<ペルセウス>の所持している兜が、透明化(・・・)ではなく透過(・・)であったなら、ここまで不利にはならなかっただろう。

 

「ん。ざっとこんなところか。ホント都合のいいことは大体番長必殺で説明がつけられそうで怖いな。四十八個しかないけど」

 死屍累々。一人土煙の中で立つ番一は手の中で手に入れた兜をくるくると回す。

 兜を被り、姿を消し階段を上り始めた。

 

 ギフトカードをポケットから取り出し、じろじろと眺める。

「見つかってたら確か紋章が出るんだっけ?あれ、確認するのはギフトカードだっけ?」

 まあいいか出てないし、と呟いてギフトカードをポケットにしまい次の階へ向かった。

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 白亜の宮殿、四階。

 最奥に続く階段前にはたった二人の騎士が階段の前に立っているだけだった。

(まぁ油断させて不可視の奴等が襲ってくる算段だろうな)

 

 

 ―――ふとそのとき、隣からコツ、コツ、と息を潜めるように歩く一人分の足音がした。

 姿は見えない。

(おっと、見張りの交代か?なら潰しておくべきか)

 と、バットを振りかぶり、ピタッとその動きを止めた。

(いや、ジンとかだったらどうすんだって話か。まま、とりあえず)

 そのままバットを下ろし、階段前の騎士に突進する。

「見えてる奴から片付ける!あらよっと!」

 勢い良く振りぬき、二人纏めて壁に叩きつける。

 振りぬいた姿勢をそのままに、足に力を込めそのまま前転する。

 直後、番一がいた場所に複数の打撃跡が残る。

「っとと、あぶなかったな。兜を壊されるとこだった」

 兜を抑え、階段に上下逆さまに倒れこんだ体勢で呟く。

 その瞬間、短い悲鳴が重なり、天地逆の体勢の番一の隣にいくつもの『人型の穴』が開いた。

 

 昏倒し、砕けた兜を被った騎士達が姿を現す。

「誰だ?仲間割れじゃないだろうし」

「やっぱり番長か。囮ご苦労だったな」

 虚空から十六夜の声が聞こえた。それで納得のいった番一がぶつぶつと呟く。

 

「って、ああ。まぁそうか。威力的に十六夜しかねえか。てか気づけなかったな、歩法でも使ったのか?いやそれでも気づけるか……」

 番一が倒れた体勢のまま考え出す。確かに聞こえたのは一人分のはず。ジンは別行動なのか、あるいは片方を背負っていたから一人分なのか、あるいはあるいは……。

 

「答えは簡単。本物の兜を手に入れたってことだよ、番長」

「本物足音とか体温まで消しきるのか?ってことは俺が被っているのは偽物?」

「レプリカって言うのが正しいと思うが。詳しくはこの上にいる奴を叩きのめして聞けばいい」

 十六夜が、顔が見えないのでわからないがおそらく、不敵な笑みを浮かべて答える。

「ま、それが一番か。てか耀はどうしたんだ?」

「……本物持ちに奇襲かまされたあげく見られて失格、今は下で乱戦中」

「そいつは残念。飛鳥含め、今度面白おかしいギフトゲームでも探して主役にしてやらなきゃな」

 苦々しい声で告げる十六夜。出来るなら失格にはしたくなかったのだろう。

 

「それでは、行きましょうか。番一様は失格には?」

 階段を少し上った先からジンが、番一に問いかける。

「多分なってないはず。おそらく、きっと」

「それ失格になってる奴の言う事だぞ?」

 決戦直前に雑談をかましながら階段を上る。

 

 

 ゲームの終わりも、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ジン」

「なんです?」

「ルイ……なんとかとの戦いの時、大してすることないだろ?」

「……まぁそうですね。御二人にお任せすることになるかと」

「だったらよ、この……この?あれ、どこにしま……あぁ出てきた出てきた。このミニゴングを鳴らしてもらいたい!」

 虚空から小さなゴングが出てくる。なんとなく自転車のベルに似ている気がするが気のせいだろうか。

「自転車のベルを改造して作ったもので……ってのはどうでもいいか。ルイ……なんとかの姿が見えて、俺が『番長必殺』って言ったら鳴らして欲しいんだ」

「『番長必殺』ですね。わかりました。気をつけておきます」

「一回だけでいい。鳴らした後は、戦闘に巻き込まれないように逃げとけ。

―――番長必殺大盤振る舞いだ」

「何するんだ番長?」

「たしか吸血鬼の少女が石にされてたろ?番長必殺に石になる状態を想定したのは殆ど無くて対策の仕方が無い」

「それで?」

「だから、石にする変なの使われる前に一撃必殺で決める」

「面白そうだから止めないぜ。それで終わったらどうせ二人じゃ過剰戦力だろうしな」

「使う必殺技も、初見でも何とか避けられるものだ。どうせ避けられると思って準備しとけ」

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 

 白亜の宮殿・最奥。

 最奥に天井はなく、まるで闘技場のような簡素な造りだった。

「十六夜さん、番一様、ジン坊ちゃん……!」

 最上階で待っていた黒ウサギは安堵したように三人の姿を見てため息を漏らす。

 眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。

 

 

「―――ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 空に浮かぶ人影には、確かに翼があった。

 膝まで覆うロングブーツから、光り輝く対の翼が。

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できているのか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを省みてもらうには良い切っ掛けだったかな」

 

 

 

「……なぁ十六夜。この規模の組織ってリーダーがどれほど優れてても、チームとして回してくの無理だよな。部下が有能じゃなきゃ潰れるやつだと思うんだけど。頭悪いのかなアイツ」

「思っても口に出すな番長。可哀想だr……そうでもないな?もっと言ってやれ」

「やーいやーい無能ー!ルイ……ルイ何とかー!」

 

 バサッと翼が羽ばたく。たった一度の羽ばたきでルイオスは風を追い抜き、落下速度の数十倍の勢いで十六夜達の数歩前に立った。

「散々言ってるようだけど、その威勢がいつまで続くかな?なにはともあれ、ようこ

 

 

 

 

 

 

 

「番長必殺!」

 カーンッ!

「三十六式『殺意奔葬(さついほんそう)』ッッッ!!!」

 

 

 

 炸裂音と、衝撃が闘技場を駆け抜けた。

 体の残像が残る速度で踏み出された一歩と、風を薙ぎ切り飛ばし振り抜かれ、天を指すバット。

 

 一歩分。たった一歩分。番一の叫びとゴングの音で仰け反った事がルイオスの命を救った。

 

 ルイオスの前髪の先の一部が持っていかれただけで済んだのは、悪運が強いおかげだろう。

 もし、動じなかったのなら。今頃ルイオスは頭と胴体を別れさせられていたかもしれない。

 

「外したか!やるなお前……!」

「オイ、番長。止めないとは言ったがせめてセリフぐらい言わせてやれ」

 軽く舌打ちして讃える番一。十六夜が思わず突っ込むが論点はそこじゃない。

 ルイオスは翼を羽ばたかせ空へ逃げた。

 

「クソ!ああそうかい!礼儀も知らない猿共(ノーネーム)なんかに丁寧に挨拶なんて何を考えてたんだが!」

 ルイオスは<ゴーゴンの首>の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。

 さらに首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 

「そっちがその気なら手加減は無しだ……!」

 ルイオスの掲げたギフトが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱をつけながら一つ一つ封印をといていく。

 光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

 

「目覚めろ―――<アルゴールの魔王>!!」

 

 

 光は褐色に染まり、四人の視界を染めていく。

 白亜の宮殿に共鳴するように甲高い女の声が響き渡った。

 

「ra……Ra、GEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

 冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

 現れた女は体中に拘束具とベルトを巻いており、乱れた灰色の髪を逆立てて叫び続ける。

 女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。

 黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

「ra、GYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「な、なんて絶叫を」

「……向こうのほうの空で何か落ちてんな」

 一人ケロリとした顔で女の絶叫を聞き流している番一は眼を凝らす。

 

「あれ?雲散らされてた?雲を落として、飛べないお前らを笑ってやろうかと思ったんだけど」

 空を眺めて呟くルイオス。先ほどの番一の攻撃が思わぬところで助けていた。

 

 

<アルゴールの魔王>と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放ったのだ。

 瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を、黒ウサギは戦慄と共に口にする。

「星霊・アルゴール……!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔……!!」

 

 

 ―――<アルゴル>とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、<悪魔の頭>という意味を持つ星のこと。

 同時に、ペルセウス座で<ゴーゴンの首>に位置する恒星でもある。

 ゴーゴンの魔力である石化を備えているのはそういう経緯があるのだろう。

 一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強の一角、<星霊>がペルセウスの切り札だった。

 

 

「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になってるだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」

 不敵に笑うルイオス。何の防御もしていない黒ウサギや十六夜達が石化せずに済んだのは彼が こんなに簡単に終わらせるつもりがないからだろう。

 

「さて、とりあえずやることやったジンは後ろに下がってな」

「そうだな。守ってやれる余裕はなさそうだ」

 二人がジンの前に歩み出る。番一が肩を回しながら十六夜に話しかける。

「んで?十六夜はどっち()るんだ?」

「どっちも、って言ったら怒るか?」

 十六夜がニヤリとした笑みを浮かべて返す。

 

「怒りはしないがキレるな」

「同じ意味だろ」

 番一も同じ様な笑みで返す。二人でニヤニヤとした笑顔で応酬し、

 

 

 ―――同時に地面を砕き、駆け出した。

 

「―――はっ。いいよ、かかって来いッ!!!」

「ra、GYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 輝く翼と、傷だらけの灰翼が舞う。

 

 ルイオスはアルゴールよりさらに上空に飛び、陰に隠れながら炎の弓を手早く幾度も引く。

 蛇のように蛇行する軌跡の炎の弓を、十六夜は気合の一喝で弾き、番一はバットで薙いだ。

()ッ!!」

「オラァッ!!」

 炎の矢を消し飛ばす、その一瞬の隙を縫うようにアルゴールが上空から十六夜に襲い掛かった。

「押さえつけとけ、アルゴール!」

「RaAAAAAAAaaaaa!!LaAAAAAA!!」

 ルイオスはアルゴールに十六夜を任せ、番一に向けて再び弓を引く。

 番一は舌打ちをしながら、降り注ぐ炎の矢を再びバットで振り払う。

 

 瞬間。翼を羽ばたかせ、<星霊殺し>のギフトを付与された鎌・ハルパーを持ったルイオスが一気に距離を詰め切り掛かった。

(所詮、只の金属の棒!ハルパーならバットごと切り捨てて……?)

 ガキンッ!と甲高い音と火花を散らし、バットと鎌が噛み合う。

「危ねえな!絡め手好きかよお前!?」

「くっ!?」

 少々予定が外れた。ルイオスは再び空に舞い上がる。

 

(何で切れなかった?まさか<金剛鉄(アダマンテイウム)>と同等かそれ以上の素材の特注品?いや、七桁の名無しにそんなものが用意できるはずが)

 

 と、そのとき耳障りな甲高い女の悲鳴(・・・・)が響いた。

「ハハ、どうした元・魔王様!今のは本物の悲鳴みたいだぞ!」

 獰猛な笑顔を浮かべた十六夜が、真正面からアルゴールを力技で捻じ伏せていた。

 更に腹部を幾度も踏みつける。闘技場全体に亀裂を発生させるほどの威力を秘めていた。

 

 

 

「……―――『アルゴール』!!」

 ルイオスはしばし逡巡するが、意を決したように再びチョーカーの装飾を掲げる。

 灰色の光が溢れ、アルゴールの拘束具が甲高い音を立て、弾け飛んだ。

 

 

 危惧した十六夜が即座に押さえつけにかかるが、遅すぎた(・・・・)

 アルゴールは数段加速した動きで十六夜を闘技場の壁へと殴り飛ばす。

 

「ぐっ!?余力有りかよ、楽しくなって来たな!」

 ぱらぱらと降る瓦礫を払いながら姿を現す。壁に陥没する勢いで殴られたというのに

無傷の様だ。

 

「出来ればしたくなかったけど、仕方ない。アルゴール、こいつ(番一)を処理しろ!」

「Ra、LAaaaaaaaaAAAAAAAAA!!GYAAAAAAaaaaaaAAAAAA!!」

 ルイオスが番一を指差し、叫ぶ。

 

「RAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 その声に反応し、身悶えする様に叫んだアルゴールが狂ったような荒々しい動きで天を仰ぐ。

 

 

 そして石化のギフトを解放し、褐色の光を闘技場中に放った。

 これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。

 天地に至る全てを褐色の光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。

 放たれる光は幾つもの光線の様相を呈していた。

 数十本に及ぶ光線が番一に集中する。道を塞ぐ様に、あるいは十六夜も巻き込むように、光線は十六夜にも迫る。

 

 

「番長!」

 十六夜が叫び、駆け出す。

 番一を心配したわけではない。ただ、二対二になるはずの戦場を、たった一瞬の油断で不利にしてしまったという責任があった。

 自分で請け負ったわけではないが、それでも一度相手にした敵をみすみす見逃し、その矛先が番一に向いた。

 

 

 ゲームが終わった後に愚痴を言われたくは無い。

 

 

 光は十六夜にも迫る。しかし、褐色の光は、

「―――……邪魔だッッ!!」

 

 振り抜かれた十六夜の拳により砕かれた(・・・・)

 ……比喩は無い。他に表現のしようもない。

 アルゴールの放つ褐色の光の一筋は、逆廻十六夜の一撃でガラス細工のように粉々に砕け散り、影も形も無く引き飛んだのだ。

 横向きに駆け、二本三本と褐色の光線を砕く。

 

 しかし、対極に居る番一に迫る光を防ぎに行くことは叶わなかった。

 

 

 

 

(石になった状態からの必殺技、殆ど無い。光線に対する必殺技、あるにはあるが無い。

どっちも(・・・・)条件が(・・・)整ってない(・・・・・)。マズい!)

 数瞬の焦り、致命的だった。

 対策も、対応も出来ぬまま番一の眼前に褐色の光が迫り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――雄雄しく全てを任せられるかのような、そんな誰かの声が聞こえた。

 

 

『ったく、もう少し史実を掻き乱すかと思ったんだが。ま、いいや。助けてやるよ。四代目(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番一の背に光が灯る。褐色ではない、黄金に輝く光が。

 はたして、その光の集結が何を意味するのか。

 その真実は判らずとも、その効果だけはハッキリと分かる。

 四角い立方体の光の箱に包まれる番一が其処に居た。

 

 

 淡く灯る光は褐色の光を弾き、全てを霧散させる。

「こ、れは?てか、誰だ(・・)!?」

 

 

 

『コレに懲りたら、次は避けろよ?もう助けねぇからな。ワハハハハハハハ!!』

 一方的に言い切った誰かの声が(かす)れ、遠のくように消えるのと同時に背の光も、番一を守った箱もまるで夢のように掻き消えた。

 

 

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 ルイオスが眼を剥き叫ぶ。叫びたくもなるだろう。

 階下から戦況も見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。

「せ、<星霊>のギフトを無効化した!?」

「あ、あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

 番一が誰かによって助けられたのも、十六夜が砕いたのもほぼ同時。

 ルイオスには何が起きたかは分からない、だがどちらにも必殺の一撃を防がれた。

 事情も分からず、防がれたことだけを突きつけられたのは、二人を倒す手段を失ったと錯覚するには十分だった。

 

 

 

「ふざけてんじゃねえぞテメェ!!」

 風を切り、駆ける十六夜が力任せにアルゴールを殴り飛ばす。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!??」

 そのままアルゴールは第三宇宙速度にも劣らぬ速度で吹き飛び、

 

 

 

 

「……今は気にしても仕方ねえか。んじゃ、ホームランで決めさせてもらうかね」

 吹き飛ぶ、その先に居た、

 

 

 

 

 

「もう一回放つぜ?大盤振る舞いだからな!」

 番一によって、

 

 

 

 

 

「番長必殺・一式『ホームランバット』ッッ!!!!」

 打ち抜かれ、空を飛ぶルイオスに直撃した。

 

 

「ガッ!?」

「Gya……!?」

 ルイオスが、アルゴールが錐揉み状に回転し落ちてくる。

 

 アルゴールがクッションのように落ちたおかげかルイオスは大怪我を負う事は無かったが背中を強く打ったようで仰向けのまま(うめ)いていた。

 そこに二人が歩み寄り、上から見下ろした。

「「さて、続けようか?ゲームマスター。まだいけるだろ?」」

 挑発する二人。しかしもうルイオスの戦意は涸れていた。

 石化の光は防がれ、制空権を取っていても効果の無い弓の攻撃、ハルパーの一撃を防ぐバット。

 なにより既にアルゴールが動く様子がない。今もルイオスの下で痙攣している。

 

 黒ウサギがため息混じりに割って入る。

「残念ですがもうこれ以上は何も出てこないでしょうね」

「どういうことだ黒ウサギ。まだ変身の一つや二つ持ってるのが魔王って奴だろ」

「……拘束具に繋がれた状態で出てきた時点で察するべきだったのでしょうね。扱いきれていないのでしょう?ルイオス様」

「っ!?」

 ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿る。射殺さんばかりの眼光を放つルイオスだが……否定する声は上がらなかった。

「拘束具を付け、力を抑えねば扱いきれず。それを外したことで力の一端を解放できたものの所持者の力と釣り合わずに、上限使い果たして力尽きている……ってとこか」

 失望したように呟く十六夜。それが真実だった。

 

 勝敗は決した。黒ウサギがゲーム終了を宣言しようとした、その時、

 

「ああ、そうだ。もしこのままギフトゲームで負けたら<ペルセウス>の旗印。どうなるか分かってるんだろうな?」

「な、何?」

 十六夜がこの上なく凶悪な笑みでルイオスを追い立てた。

 ルイオスが不意を突かれたような声を上げる。

 彼らはレティシアを取り戻すために旗印を手に入れるのではなかったのか。

 

「あれ、何すんの十六夜クン?」

「ああ、答えは簡単だ番長クン。旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込むんだ」

 何かを察した番一が茶化す。

「それで何を奪うんだい、十六夜クン?」

「そうだなぁ。次は<名前>を戴こうか」

 

 ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。

 その時初めて周囲の惨状に目が行った。砕け壊された宮殿と、石化した同士達に。

 十六夜はルイオスを見下ろして吐き捨てるように言う。

「徹底的に貶め続けてやる。たとえ泣こうが喚こうが。コミュニティの存続を出来ないぐらい。徹底敵にだ(・・・・・)

「や、やめろ……!」

 認められない。認めてはいけない。ここで敗北を認めては旗印を奪われる。

 そうなれば<ペルセウス>は決闘を断れなくなる。

 ましてやこんな壊滅した状態で戦えるはずも無い。

 

 

「なら答えは簡単。死ぬ気でこの状態から勝ちをもぎ取ってみろ」

 番一の声に応じるように体を無理やり起こしたルイオスが再び翼を羽ばたかせ距離をとる。

 

 

「……『アルゴール』」

 呟くように装飾を握る。再び褐色の光が手から(こぼ)れる。

 アルゴールの体が震え、光と共に拘束具がその体を縛り付ける。―――再び、立ち上がった。

 

「―――あぁ、いいだろう。負けるかッ!負けてたまるかッッ!!行くぞアルゴールッッ!!!」

 輝く翼と、灰色の翼が羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 

 

<ペルセウス>に勝利した六人はレティシアを<ノーネーム>本拠の大広間に運び石化を解いた。

 途端に、問題児四人は口を揃えて、

 

 

「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

 

「え?」

「え?」

「……え?」

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方(あなた)達は本当に くっ付いて来ただけだったもの」

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」

「挑戦権の半分と、挑戦権の情報持ってきたのは俺……だし、ボスにトドメ刺したのも俺だし」

「オイ番長、トドメの話はもっと議論を重ねて判断するって決めただろ?とりあえず取り分はトドメ抜きで俺、番長、春日部、お嬢様。3:3:2:2でもう付いてる!」

 

「何を言っちゃてんでございますかこの人達!?」

 ツッコミが追いつかないなんてものじゃない。

 黒ウサギも、ジンも混乱していた。

 唯一当事者のレティシアだけが冷静だった。

 

「んっ……ふむ。そうだな。親しき仲にも礼儀あり。コミュニティの同士であっても忘れてはならない。恩義を感じるなら尚の事。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

「れ、レティシア様!?」

 黒ウサギの声は今までに無いくらい焦っていた。尊敬していたコミュニティの先輩をメイドとして扱わねばならないとは、と困惑していると、

 

 

「なら、メイド服だな。ここに……オラァ!!!」

 ごそごそと学ランの内胸ポケットを漁った番一がその内胸ポケットから、驚くほど大量の、様々な色、装飾の付いたメイド服を取り出した。

「うお!?どこから取り出した番長!?」

「そうよ!番一君の体温で暖められたメイド服なんて着せないわ!」

「……っ!?」

 まだまだ続くメイド服の山に驚きを隠せない三人。

 

「ふっ、これぞ番長必殺最大にして最強の必殺技……番長必殺・九式『超整理術(ハイパー・ソート)』だ!」

 やいのやいのと騒ぐ一同。黒ウサギは力なく肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 ―――それから三日後。

 子供達を含めた<ノーネーム>一同は巣移住の貯水池付近に集まっていた。

 その数百二十七人+一匹。数字だけなら中堅のコミュニティと言い張れる。

「えーそれでは!新たな同士を迎えた<ノーネーム>の歓迎会を始めます!」

 ワッと子供達の歓声が上がる。周囲には長机の上にささやかながら料理が並んでいる。

 本当に子供だらけの歓迎会だったがそれでも四人は悪い気はしていなかった。

 

 

「だけどどうして野外の歓迎会なのかしら」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

「単にこの人数が入る部屋が無いだけだろ?」

「「「それだ!」」」

 既に料理に手を伸ばしている番一に賛同する三人。

 

 

 と、番一の肩にふわふわと串焼きが飛んできた。

「「「「!?」」」」

「おっと、コレは失礼」

 ふと空間が揺らぎ、そこから一つ目の手のひらサイズの少女?が現れた。

 

「何コレ、かわいいわ!」

「うん。かわいい」

「こう、ぷちっと潰さないか不安になるサイズだな」

「あれ?お前確かラプラスの小悪魔……だっけか。の『RS』か?」

 思い当たる節があった番一は名前を思い出す。

「ええ。そうです。ラプラスの小悪魔の『RS』です」

 

 

 自分の背丈ほどもある串焼きを器用に食べながら名乗る。

「へぇ?悪魔ね……」

 十六夜が(いぶか)しげな目で尋ねるが、それ以上は何も反応しなかった。

 

「まぁ用件は特には無いのですが、一応伝えておこうと思ったのでこうして姿を現したわけです」

 食べ終わった串を番一の学ランに刺し入れてふわり、と飛び上がった。

「ちょ、刺すなよ……」

 

 

 

「長井番一。私は貴方を監視しています。つきましては番長必殺について詳しく教えてもらえます?」

 表情は読めないが、その声はえらく平坦な声だった。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 会話を遮るように黒ウサギの大きな声が響く。

 RSも話を切り上げ空を見上げたので四人も釣られて空を、箱庭の天幕を注視する。

 

 その夜も満天の星空だった。空に輝く星々はこうも燦然(さんぜん)と輝きを放っている。

 異変が起きたのは、注目を促してから数秒後のことだった。

「……あっ!」

 星を見上げている誰かが、声を上げた。

 それから連続して星が流れる。それが流星群だと気づき、皆が口々に歓声を上げる。

 黒ウサギが十六夜達や子供達に聞かせるような口調できっかけについて語る影で、

RSが番一に耳打ちする。

 

 

 

 

「―――箱庭番長について、先日の件(対ペルセウス戦)で分かったことが多少あります。ですが、まだ全貌は(・・・・・)分かりません(・・・・・・)。協力して欲しいのですよ」

「……なるほど。必殺技と関係があるのかわかんねぇが、まぁいいか。公開したのだけ教える」

「未公開は自力で調べるか、使うのを待てと?」

「そうだな。そこは譲らん。絶対にだ。ストーカー行為は認めてやるよ。存分に見るといい」

 

 そう言って、両手を広げ、

 

 

 

 

「俺の、この箱庭での生き様―――そうだな、<箱庭番長四代目の物語>を。な?」

 そう、告げた。

 

 

 

 

 




赤坂です。
全部まとめました。小分けにすると絶対に三月中に書き終わらないと思いまして。
完徹して書いたんで誤字が多い可能性が高いです。
もしかしたら書き直すかも知れないけど多分しません。

すぐに舞台裏次回予告コーナー作ります。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。
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