プロローグ
―――20XX年・四月三日。ある学校の校庭。
桜舞い散る校庭に、二人の男の影があった。
長ランを靡かせバットを担ぎ、髪をオールバックにしている呆れ顔の男。
赤いカーディガンを羽織り、ジーパンを履いたラフな姿の何処か楽しげな顔で相対する男。
あたりに他に人影は無く、耳を澄ませば桜の木の葉擦れの音が薄く聞こえる。
あるいは誰かが傍から見れば、それは一触即発の状況にも見えただろう。
番長への下克上を挑もうとする様に見える男が懐から紙を取り出し、口を開いた。
「さて、番長。作った番長必殺シリーズを覚えるぞ」
「ふざけるな。あんな動き再現できるかよ」
即座に却下する番長風な男。
赤い服装の男がズンズンと番長に近づき、手に握ったバットを奪う。
「いいか?
番長風の男がバットを奪い返し、紙を受け取る。
「そうは言ってもよ。さすがに、さすがにさ。
雷を纏って電磁加速を人体で起こす、とか。
超空まで全力で跳んで、衛星を地面代わりに
無理だろ。俺が死ぬって!?」
バットを奪い叫ぶ赤い服の男。
「威力<は>強いだろ!いい加減にしろ!」
バットを奪い返し叫び返す番長風の男。
「<は>ってなんだ<は>って!?俺の安全も考慮してくれ!」
二人でバットを奪い合い叫び合っているが、最終的に赤い服の男が奪い取り番長を引きずり倒して天を指差しアイ・ウィン……と呟く。
「あークソ取られた……。それならまずはお前がやれよ」
「ああ。わかってる。見せてみて、やらせてみて、誉めてやらねば人は動かじって昔の偉い人も言ってたみたいだしな」
「ええ……。マジで出来るのか?ありえないだろ」
「どっかの漫画で言ってたぞ『ありえない、は、ありえない』ってな」
桜舞う校庭の中心で、ニヤリと笑ったその男がバットを構え、優雅に舞う。
―――数時間後。校庭は破壊しつくされた。
大地は砕け、空からバラバラと小石が降り、砂埃が立ち込めあたりに落ちていた桜の葉が再び空を舞う。
「マジかよ……」
全ての番長必殺を額面通りの威力と効果で披露された。
唖然とする番長にスタスタと番長必殺を華麗に披露した男がバットを手渡す。
そして肩を叩き笑顔で言った。
「ね。簡単でしょう?」
※
―――箱庭二一〇五三八〇外門商店街。
時は進んで数ヵ月後。人通りが少しづつ出てくる、肌寒い時間帯。
朝の運動を終えた番一は、肩にRSを乗せて日課の散歩に興じていた。
「以上。俺が番長必殺シリーズを使えるようになった原点だ」
「いや、どういうことですか?」
至極全うなRSの突込みだった。
いつもの散歩中に、冗談半分でRSが『番長必殺って結局何です?』と聞いてみた結果返ってきたのは、使えるようになった経緯だった。
―――番長必殺シリーズは、
しかし、既存の物理法則にも則っていない。
人体構造上も、霊格や所持している恩恵も、番長必殺のような現象を発現出来るはずがない。
それがRSが把握している番長必殺である。
そもそも、番一がギフトによる能力でもなく身体能力で使えるというなら十六夜にも使えるはずで、それこそ『九式・超整理術』などはRSでも実現可能なはずだ。
しかし、番一がした動きを十六夜が再現しても、状況再現などを黒ウサギが手伝っても出来たためしがない。
とはいえ、番一はそんなことは大して気にしていない。
なにかしらの理由が、原理があって発動しているのではなく。
ただ、
故に、番一以外には現状番長必殺は、他人が物真似のように再現は出来ても様々な手順を踏んで行わなければならず。
特定条件が必要なものは一部あるものの、ほぼ無条件で発動できる番長必殺は、それを知る人の間で問題視されている。
曰く『強すぎる。ふざけるな。こんな下層になぜいる』と。
下層になぜいる、は十六夜も陰では言われているようだが。
番一の弁解は作り上げた友人の言葉を借りて答えている。
『理不尽には理不尽で対抗しなきゃいけない。わかるか?
「バットの空白部分についても、解析中止についても、背中の光とやらについても。わからないことだらけなのですが」
「まぁ、いつかわかるだろ。俺だって知らないけどな!」
RSがため息をつき、番一はガハハと笑いながら商店街を通り過ぎていった。
※
所変わって、二一〇五三八〇外門居住区・<ノーネーム>農園跡地。
そこには農地の土をいじくるレティシアと黒ウサギの姿があった。
話の主題はやはり、農場の再生の方法についてだった。
わずかな時間で土地が死ぬほどの凶悪な力を持つ魔王。
局地的な現象ならまだしも、広域に及ぶ時間操作による土地の自壊ともなれば<星霊>級以上、星の運行を支配する力を持つ者の領域だ。
紛う事なき、箱庭<最強種>の魔王。
白夜叉レベルの実力者だということだ。
―――生来の神仏である<神霊>。
―――鬼種や精霊、悪魔等の最高位たる<星霊>。
―――幻獣の頂点にして系統樹の存在しない<龍種の純血>。
箱庭における最強種とはもはや、人智の及ぶ相手ではない。
しかもその最強種の中でも最高位ときた。外界ではお目にかかる機会すらないだろう。
「しかし、これほどの力を有しているならコミュニティの名前くらい聞けそうなものだがな」
「白夜叉様に聞いても東側のコミュニティではないだろうという程度です」
レティシアがぼやく様に呟き、黒ウサギが力なく返す。
黒ウサギが頭を振って気持ちを切り替えるように、力強く笑う。
「大丈夫でございますよ!私達には実力者が四人もいるのですから!皆様が力を合わせれば、この荒廃した土地を復活させることなど容易いのです!」
ムン、と両腕に力を入れる黒ウサギ。レティシアも笑って頷いた。
「……あぁ。主殿達ならば、この苦境も笑って跳ね除けてくれるだろう」
箱庭の外から来た、四人の新たな同士。
彼らならばどんな試練でも乗り越えられるだろう。
もう、かつての何も出来なくなったコミュニティではない。
「理想的なのはコミュニティ内で生活のサイクルが確立できることでございます。今は番一様に生活費の大部分を受け持って戴いているおかげで、多少の備蓄も出来ましたが、負担をかけ続ける訳にはいきません。更なる備蓄に、組織力も高める必要があります」
―――番一の日課の散歩は、商店街の店主達との週一回行われるギフトゲームのおまけのようなものであり、番一はそのゲームに勝っては負けてを繰り返していた。
勝利した場合、商店街の皆は数日分の食料を<ノーネーム>へほぼ無償で提供する。
敗北した場合、一週間の労働及び掃除や町内会の様々な仕事が番一を襲う。
それ以外にも多々ある細々としたギフトゲームに参加し、堅実に番一は<ノーネーム>の為に働いていた。
「……それもそうだな。まずは土地の再生。となれば南側で開催される収穫祭が目下の目標」
「YES!今は力を蓄えておく時期なのです!」
「だが北側の大祭はどうする?収穫祭まで時間もある。主殿達が聞けば喜ぶと思うぞ?」
うっ、と気まずい表情で黙り込む黒ウサギ。
蓄えは、一応ある。
だがそれを切り崩してもいいのかと聞かれると正直難しい。
ノーネームの主力組が行って帰れる分はあるが、それを使えば蓄えの殆どが消える。
祭りで開催されるであろうギフトゲームに勝てるならばあるいは採算がつくかもしれないが、ほとんど博打に近い。
眉を顰めて黒ウサギを見るレティシアに、ぽつぽつと諸事情を説明する。
レティシアもまた閉口し、苦笑と共にため息。
「……貧乏は辛いな」
「で、ですがもう少しの辛抱でございます!皆様達なら必ず収穫祭でギフトを」
「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁぁん!た、大変ーーー!」
叫び声に振り向く二人。本拠に続く道の向こうから、割烹着姿の年長組の一人―――狐耳と二尾を持つ、狐娘のリリが泣きそうな顔で走ってきた。
「リリ!?どうしたのですか!?」
「飛鳥様が十六夜様と耀様の二人を連れて……あ、こ、これ、手紙!」
パタパタと忙しなく二本の尾を動かしながら、手紙を渡す。
『黒ウサギへ
北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。
貴女もレティシアも後から必ず来ること。
私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合
死ぬ気で捜してね。応援してるわ。
P/Sジン君は案内役に連れて行きます』
「…………、」
「…………?」
「――――!?」
たっぷり黙り込むこと三十秒。
黒ウサギは手紙を持つ手を震わせながら、悲鳴のような声を上げた。
「な、――……何を言っちゃてんですかあの問題児様方あああああーーーーー!!!」
黒ウサギの絶叫が一帯に響き渡る。
脱退とは穏やかな話ではない。
巨大な力を持つ新たな同士四人は―――世界屈指の最強問題児集団だったのだと。
しかし、考えて欲しい。
リリは、飛鳥様が十六夜様と耀様の二人を連れて、と言った。
それならば手紙には三人、と書くのが正しい。
なのに手紙には
つまりは――――――…………、
赤坂です。
新生活に慣れるまで書けませんでした(言い訳)
すぐに次を出します。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。
2017/10/11 一部文章を変更