―――<サウザンドアイズ>旧支店内。
捕まった耀は白夜叉と共にお茶を
場を移し、座敷の縁側で中庭の
「それにしても驚いた。RSがあんな変な雰囲気だすなんて。さっきの変な雰囲気って霊格?」
「うむ。そうだ。増えたあの二人・・・・・・二匹? は、小端末ではなく化身とのことだから霊格を開放する必要があったのだ。久しく見ていなかったから忘れておったわ」
「それって白夜叉もできるの?」
「当然出来るぞ。霊格の規模が大きな者ほど開放した際の周囲への影響は大きい。あまりにも大規模すぎる……例えば私などは、下層に訪れるには霊格の規模を一時的にでも下げる必要が出る。現にそうだしの。対応を怠れば本人にその意思が無くとも天災になりえる。私とてそれは本望ではないしの。先程のは流石に問題があるが……」
そこまで聞いた耀は手を上げて白夜叉の言葉を再び遮りそのまま押し黙る。
徐々に言葉が尻すぼみになり、同じように黙った白夜叉の目が
耀が口を開き、質問する。
「……さっきのRSの雰囲気って」
「……霊格の開放じゃの」
「……今、下の街って」
「……祭りの最中じゃの」
「最後にもう一つ質問いいかな。―――私達への用ってなんだったっけ?」
「おんしのような感のいい小娘は嫌いじゃよ……茶番はさておき、警報の一つも鳴っておらんし平気だと思うぞ。RSの事だ、おそらく何かしら対処でもしたのだろう。もし何か起きたとしたら全てあやつの責任にするしの」
扇子を開き、呵々と笑う白夜叉。
「それならいいんだけど。せっかくのお祭りがこれで中止になったら残念だし」
「なに、私が祭りに携わるのだ。何も起こさせんし、起きたとしても、何もさせん」
そこまで伝えてから、ふと思い出したように白夜叉は話を切り出した。
「そうじゃ。少し相談があっての」
「なに?」
「大きなギフトゲームがある、といったであろう。特におんしに出て欲しいゲームがある」
「私に?」
和菓子を食べ続ける耀に、自身の着物の袂に手を入れ一枚の紙を取り出し手渡した。
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ギフトゲーム名 <造物主達の決闘>
・参加資格、及び概要
・参加者は創作系のギフトを所持
・サポートとして、一名までの同伴を許可
・決闘内容はその都度変化
・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず
・授与される恩恵に関して
・<階層支配者>の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。
<サウザンドアイズ> 印
<サラマンドラ> 印
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「・・・・・・? 創作系のギフト?」
「うむ。人造・霊造・神造・星造問わず、製作者が存在するギフトのことだ。箱庭北側では苛酷な環境に耐え忍ぶために恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合うためのゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしの持つギフト―――<
「そうかな?」
「うむ。幸いなことにサポーター役として番一もおる。ルールは違えどこういった形式のゲームによく参加しておるから役に立つだろう。というより、本件とは別に祭りを盛り上げる為に一役買って欲しいのだ。勝者の恩恵も強力なものを用意する予定だが・・・・・・どうかの?」
番一がよく参加していると白夜叉が知っているということは斡旋しているのだろうか。
龍に興味が沸いて参加した祭りなだけにあまり気乗りがしないが―――と、ふっと思い立ったように質問する。
「ね、白夜叉」
「なんだ?」
「その恩恵で・・・・・・黒ウサギと仲直りできるかな」
幼くも端正な顔を、小動物のように小首を傾げる。
半ば冗談で脱退すると告げたが、あの怒りは本物だった。
白夜叉は、温かく優しい笑みで頷いた。
「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのなら」
「そっか。それなら、出場してみる・・・・・・番長は誘わないけど」
いつもでてるみたいだしと呟きながら縁側から立ち上がる。
陽は昇りきり、昼を廻り始め、チンピラが空を舞っていた。
「いや穏やかな日常の風景じゃないだろうに。どういう状況なんじゃ・・・・・・」
※
―――東北の境界壁・自由区画・商業区。裏道。
番一は赤いガラスの歩廊から一本離れた裏手の道で
「誰にッ!断ってッ!ここでカツアゲしてんだゴルァァァァァァァァァァッッッ!!」
「「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」」
ポロシャツにサングラスに頬に傷という、異世界感の欠片も無いテンプレチンピラな二人組を速力全開の跳び蹴りで第三宇宙速度もかくや、という勢いで吹き飛ばす。
遠くのほうで致命的な爆発音と崩壊音が響き、空にチンピラが舞って出来た雲が見事な跡を残しているが、きっと生きているだろう。この箱庭でチンピラをしているくらいなのだから。
番一は付いた汚れを取るように足を振りながら絡まれていたお面屋台の老いた店主に話しかける。
「怪我とか、被害とか出てないか?じいさん」
「平気じゃよ。ありがとうの」
呵々と笑うその顔には絡まれたことへの恐怖といった雰囲気はなく、面白い展開に喜んでいる様子があった。
それはそれで肝が座っている感じがするが年老いている分経験も豊富なのだろう。そう考えておこう。
「そいつはよかった。んじゃ俺はこれで」
「少し待っとくれんか? いま礼を……」
そう言ってしゃがみ込み背を向けて、屋台の中にあった荷物を漁り始める老人。
その背に番一は苦笑いしながら声を掛けた。
「礼はいらねえぞ? 単に俺がムカついただけで」
「ほれ。オヌシ顔のお面じゃ」
「なんだコレ!?」
老人の手渡してきたのは精巧な番一の顔のお面だった。似すぎている。というより触り心地が人の、自身の顔を触るのと同じで純粋に気持ち悪い。一瞬で現れたところを見るにギフトによるものだろうか。それにしては需要が無さそうなギフトだ。何を考えて生まれたギフトなのだろうか。
鏡や絵以外の自身の顔を、苦い顔で見つめる番一。
「いいじゃろ。特別製じゃぞ?」
「あ、ありがたく戴いておく。何かに使えるかもしれないし」
長ランの内胸のポケットに納める。使い所はどこにあるのだろう。
黒ウサギに被せたら十六夜辺りが爆笑しそうだ。
以外と需要があるかもしれない。お笑い方面に。
「それじゃそろそろ……」
「おお、そうじゃもうひとつやろう!」
クルリと背を向けた途端にポン、と手を叩く老人。今度は何だと番一が振り向くとすぐ左斜め後ろに屋台から出てきた老人が立っていた。
「うお、急に移動した」
「ふむふむ。オヌシに予言をやろうかの」
老人は番一の胸ほどの高さしかない背を伸ばし、耳に顔を近づけると呟いた。
「展示場に向かうと良い。出会いがある」
頭にいくつもの疑問符を浮かべる番一。だが、それ以上老人は何も語らずに屋台に戻ってしまった。
「・・・・・・それはどういう」
頭上の時計塔が突然、爆発した。
いきなり何を言っているかわからないが、爆発したのだ。
撒き散らすのではなく、散弾のように降り注ぐ瓦礫は爆弾などによる爆発ではなく、人為的な力が一方向から何かを狙うために加わったことを物語っている。が、それは重要なことではない。
「じいさ……ん!?」
瓦礫老人と屋台に襲いかかるより早く反応した番一は即座に屋台の老人に声をかけようとし、屋台ごとその姿が無いことに驚愕する。
反応がその所為で遅れた。無闇に番長必殺に頼るわけにもいかず力任せに瓦礫を振り払う。
だが、その瓦礫の吹き飛んでくる勢いは番一の想定の数段上だった。
(やべ、やらかした)
咄嗟に考えられたのはそれだけで、番一は敢えなく瓦礫に呑まれた。
※
しばらくして、何事もないように街を歩く番一の姿があった。
呑まれた、などというが白夜叉の渾身の一撃を耐えきる耐久力を誇る番一には大して意味はない。
少したんこぶが出来ただけだ。
飛んできた瓦礫によって少し砂っぽくなったり、辺りが破壊された方が問題だった。
「さて、言われたままに来たはいいがどうしたものか」
辿り着いたのは洞穴の展示会場。天然の洞窟に手を加え会場にしたという洞穴は点々と灯る蝋燭によって薄明かるく照らされていた。
外にも中にも人は疎らに居り、そこそこ盛況の雰囲気を出している。
「出会い、出会いねぇ。好敵手ならいいんだがそうじゃないなら女か……?」
性に興味がないわけではない。ただ元の世界で彼の回りにいた女性の戦力と殺意が高すぎて、少し枯れているだけだ。
「ま、入ってみるか」
人の波に混じり、中へと進む。
両脇に飾られている色鮮やかなステンドグラスや様々な彫刻品を眺め、『ほう』や『へぇ』を雑に連発しながら進んだ先で大きな空洞に出た。会場の中心に当たるであろうその場所には、紅い鋼の大きな巨人像が鎮座していた。
「うおお!でけぇ!かっこいい!赤いとはわかってんなこれの作者!」
紅い鋼に金の華美な装飾。目測でも三十尺はある体躯。太陽の光を装甲に描き、堂々と屹立するその姿。
年頃の男子のように喜ぶ姿に周りの人々の目線が静かにしてくれ、と伝えるが番一には届かない。
ほえー、とした顔でうろうろと眺めていると人にぶつかってしまった。
「おぉっとぉ、これは失礼」
「ああいや、こっちからぶつかったんだし失礼した……って、すげえ服だな」
相手が即座に謝ってきたため、こちらこそと謝罪を返したがその言葉は相手の服への感想になってしまった。
―――奇妙奇天烈 摩訶不思議 奇想天外。
虹色ともまた違う、あらゆる色をパレットに乗せて撒いて無造作に描かれたような、それでいて絶妙に均衡の取れた不快感を与えない極彩色の服装。
展示場の展示物と言われても何も違和感が無いほどの珍妙な服を絶妙に着こなす姿はもはや変人にしか見えない。
着ている本人の顔にメイクをして、髪も染めてあればピエロで押し通せるかもしれない。
だが、見る者に感嘆の声を出させるほどに端正に整った顔と芸術品のような緑がかった黒い髪が異様なほどの存在感を放っていた。
むしろ、何故展示場に来てこの姿に気づけなかったのか。
「ぃーえいえ。構いませんよ。『私の服が目に入らぬほど』この作品は素晴らしいですし」
そう言う本人は番一の呟きへの当て付けのように私の服、というところを強調した。
「あ、いや、まぁ、いいんじゃないか。その服も、こう、個性的で」
歯切れ悪く誉めようとするがどうにも言葉が出てこない。そんな様子を見た極彩色の服の男は腹を抱えて笑いだした。
「ふふ、ははは!ぃーえいえ。構いませんよ。私自身を誉めるより、私の作品が誉められる方が嬉しいですし」
「作品? ここにあるコレか?」
そういって赤い巨人像を指し示す。
作成コミュニティの名は<ラッテンフェンガー>。作品名は<ディーン>
「ぃえ。違います。私のものは入り口からズラリと並んでいたステンドグラスですよ」
「あれか。たしかに色鮮やかで綺麗だったな!」
「お褒めいただき光栄です。ここにあるのは一部で、町中にもまだまだ沢山特別に展示させていただいてますので、よろしければ探してみてください」
そう言って口に人差し指を当ててウィンクを送ってくる。これで服装が極彩色ではないタキシード等で、ウィンクの相手が女性であれば傍から見て様になっただろう。
番一は笑いながらそのウィンクを流して話を続ける。
「ゲームみたいで面白いな。何かの縁だし、探してみるか」
「……ゲーム、なるほど。ならもう少し趣向を凝らしてみましょうか」
そう言うと極彩色の服の男は、番一の手を取り片目を閉じる。
「町中にあるステンドグラスをしっかりと見ていくと、私の名前がわかります。あなたにはこの祭りの終わりまでに私の名前を当てて頂きましょう」
「……ほう? ギフトゲームか」
「そうですね。報酬は私と友達になれる、で」
「しょっぱい報酬だが、挑まれたなら頑張るしかないな!もう少しここを回ったら行くか」
「それがよろしいでしょう。時間は有限です」
クスクスと笑った男は背を向けると人混みの中へ溶けるように消えていった。
しばらく他の作品を眺めて歩き、さぁ行くかと笑みを浮かべた瞬間、悲鳴が洞穴の中に木霊し、人々が一斉に駆け出した。
「うおっ!なんだよ今日は何が起きてんだ!ってうおおおおおお!!??」
番一の愚痴のような悲鳴は聞き覚えのある声が洞窟内に響くと同時に移動がスムーズになった人並みに押し潰されて消えていった。
赤坂です。
お久しぶりです(約四ヶ月ぶり)
全編を書き直したり、手直ししたりしました。
ストーリーに変更はありません、情報の量も変わっていないはずです。
細かな言動が少し変更されました。
ちびちびと再開していきます。
失踪はしないです。絶対に。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは
2017/10/11 一部変更