プロローグ
―――その日はあまりにも絶好の昼寝日和だった。
初夏の薫りに、暑すぎず寒すぎずそれでいてヒュウ、と吹く心地の良い風。
ただし彼、
左肩に金属バットを担ぎ、平日の河原の道を、高校にも行かずにのらりくらりと歩いていた。
(あー暇だ。超暇。誰か俺と同じように暇を売り出しているに違いない)
特にすることもなく歩き続けるのにも飽きてきたしいっそ河原に寝転んで惰眠を貪ろうか。
と、そこまで考えた所でふと違和感を覚えた。
(なんかいつもより人が少ねぇな、もう少しは居てもいいもんだが……)
平常であればジョギングをする人や釣りをしている人、寝転んでる人がいるべきである。
が、今日に限ってそういった人々の姿は無く、閑散としていた。偶然とは言えないだろう。何年もその様子は人が変わろうと続いているものなのだから。
それでもそこまで気にせずに歩みを続け、気を緩めていたのは平和に染まりすぎたせいだろう。
(なんか面白いことでも起きねぇかな……)
他愛もないことを考えながら大欠伸をする。
(ん……なんだ……眠い……)
静かで誰にも会えずすれ違わない所為か、一層増して抗いがたい睡眠欲が長井番一に訪れていた。
(あー……俺らしくねぇ……)
遠くで爆撃のような音と怒声のようなものが聞こえる。呵々大笑と笑う声が聞こえる。
だが意識をそちらに割けない。見ようとする意志が持てない。
歩みを止められずに、本人も意識しないまま町中へと入って行く。
(あぁ……駄目だ……どっかで寝よう……そうだそうしよう……)
閉じ行く意識、回らない思考。
手紙を咥え走っていく三毛猫を蹴り飛ばしそうになりながらも、歩く。歩く。歩く。
(どうしたもんか……何処かの家にでも侵入して……)
そう思えるほどに瞼は閉じ掛け、意識は朦朧とする。
ふかふかの柔らかなベッドに倒れられたらどれほど心地良いのだろうか。
きっと何処までも穏やかで平和な微睡みがあるはずだ。
歩き続けるうちに和風の屋敷の門の前に通りかかった。
(待てよ……俺の地元にこんな屋敷あったか……?)
眠い目を擦りつつ見るが、屋敷の壁は昔からあるように思える程風景と一致している。
だがそれよりも気になることがあった。
(今は初夏のはず……なんでこんなに蝉の鳴き声がある……?うるせぇ……)
蝉時雨の五月蠅い音が彼の耳を打つ。
まだ目覚めた蝉も少ないはず。この大合唱は一体?
突然、屋敷の中から凛とした声が響いた。
『鬱陶しいわ、黙りなさい!!』
聞こえてくる大声に眉を潜める。
それと同時に止まる蝉時雨、番一の意識が少し戻り、そして唖然とした。
(―――もうなにがなんだかわからん……どうなってやがる)
そう思う理由は簡単である。少し眠気が覚めた彼の身は、図書館の古臭い本の匂いのする本棚の棚の間にあった。
外の強い日差しからうって変わって薄暗い棚の間へ。
(夢でも見てんのか俺は……?)
強く、瞬きを一つ。
(……ありえねぇ、ありえねぇぞ、これは)
瞬き一つの間で、彼の体は図書館の椅子に座り目の前の机に、本が一冊置かれていた。
先程まで立っていたはず。だというのに違和感を覚えることもなく座っていた。
「……………」
頭を掻き、頬を叩き、一度冷静になる。もはや眠気など覚めていた。
(冷静さを失うのは愚行だな。まずは状況分析するか……)
ひとまず左手に握りしめている愛用の金属バットはあるのでひと安心する。
あたりを見回し気配や声を探るが何も聞こえず人の姿も見えない。
(人の姿はない……気配もない、か。次は…)
そう考え番一は立ち上がろうとするも、体は椅子から離れない。
(立てない……立とうとする意志が消される……ふむ)
立ち上がろうと机に手を掛けるも自然と力を抜き、離れてしまう。
冷静になる
打つ手なし、と言わんばかりに本を見下ろす。
(読めと言わんばかりの本……さて、罠か。あるいは)
ライトノベルのような本ではなく、どちらかと言えば重厚な本。純文学系の本よりは辞書に近いだろうか。
本自体読むことの方が珍しい彼にとっては
背表紙には『箱庭番長伝説』と書かれており、
表紙絵として『晴天の下、左手にバットを下げ旗を掲げる男の姿』が描かれていた。
(
さも意味ありげに目前に置かれている、謎の本。
意を決して、長井番一はその本の表紙を
―――視界が開けた。
急転直下、その体は上空4000mほどの位置で投げ出されていたのだ。
周囲にある気配は自身を除き、三つ。
そして四人の体は自然の摂理に従い落下を開始する。
三人が何かを叫んでいるし、落下の圧力が苦しいが―――どうでもいい。
「は…はは…はははははははははは!!」
笑いが噛み殺せず長井番一は高らかに笑う。
眼前には見た事のない風景が広がっていた。
視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。
眼下に見えるのは、縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。
彼らの眼前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。
「何かが起きてほしいとは確かに願ったが、ここまでするとは思わなかったぞ!!クソ野郎が!!」
腹の底から振り絞り心の底から叫ぶ、信じてなどいない神へのその声は
―――――歓喜に満ち溢れていた。
……いかがだったでしょうか?
とはいってもまだプロローグ段階ではありますが(汗)
少しづつ少しづつ書いていくので長い目と生暖かい目で見守ってやってください。
by書きたい時と書きたくない時が分かれすぎている赤坂