【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第五話

「クソ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代くらいは出るんだよな黒ウサギ」

 その十六夜の冗談めかした言葉は黒ウサギには届いていなかった。

 彼女の頭の中はパニックで、もうそれどころではなかったのだ。

(人間が……神格を倒した!?それもただの腕力で!?そんなデタラメが―――!)

 黒ウサギはハッと思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた<主催者>の言葉を。

 

「彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」

 

 黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。

(信じられない……!だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのならば……!私たちのコミュニティの再建も、夢じゃないかもしれない!)

 黒ウサギは内心の興奮を抑えきれず、鼓動が早くなるのを感じ取っていた。

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

「え、きゃあ!」

 

 背後に移動した十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から足の内股に絡むように手を伸ばしていた。

 

「な、ば、おば、貴方はおバカです!?二百年大事に守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

「おい十六夜、二百年守った貞操とか、二百年彼氏いない宣言だし触れてやるな」

「……そうだな、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」

「さ、左様デスか」

 

 ヤハハ、ガハハと笑う期待の新星達は黒ウサギの天敵かもしれない。

 そもそもにウサギという種は容姿端麗・天真爛漫・強靭不屈と言うどこかの愛玩趣味を詰め込んだような種族であり、今まで彼女を狙って襲ってきた賊は星の数いた。

 しかし身がすり合うほどの距離まで反応できなかった相手はいなかったし、ましてや腋の下から胸に触れる寸前まで接近を許したこともなかった。

 

「と、ところで十六夜さんその蛇神様はどうされます?というか生きてます?」

「命までは取ってねえよ。戦うのは好きだが、殺しは面白くねえ。<世界の果て>にある滝を拝んだら箱庭に帰るさ」

「おお、そういえば<世界の果て>を目指していたのだったな。白蛇との喧嘩で忘れてた」

 番一は本来の目的を思い出してうなずく。

「ではギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容がどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから。ご本人を倒されましたから、きっと凄いものが戴けますよー♪」

「あれか、修羅神仏との戦いでギフトを得るとかいう奴。・・・これが修羅神仏なのか?それにしちゃ手応えが無かったが」

「それはあれだろ?十六夜が強すぎるってだけだろ。ガハハハハ!」

「それもそうだな。ヤハハハハハ!」

 二人が笑う傍、黒ウサギは小躍りでもしそうな足取りで大蛇に近寄る。

 しかし突然二人の笑いが止まり立ちはだかるように黒ウサギの前に立つ。

 

 

「……ちょっと待て黒ウサギ。ひとつ聞きたいことがある」

 番一が尋ね、

「……オマエ、何か決定的なことをずっと俺らに隠してるよな?」

 十六夜が本題を伝える。

 

 

「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

「違うな。俺が聞いているのはオマエ達の事―――いや、核心的な聞き方をするぜ。黒ウサギ達はどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ?」

「それは……言った通りです。十六夜さんたちにオモシロオカシク」

「オモシロオカシク過ごしてもらう件じゃない。お前の事だ黒ウサギ」

「ああそうだ。俺も初めは純粋な好意か、さもなくば何処かの誰かの遊び心で呼び出されたもんだと思ってた。

 俺だって大絶賛<暇>を売り出してたわけだし、他の三人も異論を上げないって事は、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。けど俺の目には―――黒ウサギが必死に見える」

 番一と十六夜の二人で黒ウサギを追い詰めるように繰り返す。

 

 その時初めて黒ウサギは動揺を表情に出した。

 瞳は揺らぎ、虚を突かれたように見つめ返す。

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小チームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺たちは組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺や番長がコミュニティに入るのを拒否したときに本気で怒ったことも合点がいく。―――どうよ?一〇〇点満点だろ?」

「っ……!」

「十六夜は頭がいいんだな。俺は黒ウサギが何か隠し事をしているところまでしか解らなかった」

「で、だ。この事実を隠していたということは、俺たちにはまだほかのコミュニティを選ぶ権利があるという事だと判断できるんだが、その辺どうよ?」

「…………」

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ」

「早く自白したほうが楽になるぞ?」

 二人は川辺にあった手頃な岩に腰を下ろして黒ウサギの話を聞く体勢をとる。

 

 しかし黒ウサギにとって今のコミュニティの状況を話すのはあまりにもリスクが大きかった。

(気づかれるなら、せめてコミュニティの加入承諾を取ってからなら良かったのに……)

 一度加入したコミュニティからの脱退は簡単ではない。

 要するになし崩し的にコミュニティの再建を手伝ってもらおうとしていた。

 

 ……くじ運が悪すぎた。黒ウサギが相手にしているのは世界屈指の問題児集団なのだ。

「……さて番長。黒ウサギが固まったからお前に質問をする。回答を出してみてもらえるか?」

「俺の頭が悪いことを知ってか?まあいいぜ」

「質問は『黒ウサギがなぜ、俺らのコミュニティを選ぶ権利があることを秘密にしていたか』だ」

 

「ふむ……さっき十六夜の言っていたコミュニティ強化の為に、他のコミュニティに行ってほしくなかったから、か?衰退だとしたら再建の為。けど秘密にしてたって意味がない。コミュニティ加入後にすぐに発覚するからな。

 ……いや、待てよ。コミュニティ脱退にもし条件があるとしたら……確信はできないが回答としては『俺らになし崩し的に協力させるために黙ってた』が正解か?」

 

「おう回答ありがとな番長。十分だ。で、どうなんだ()(ウサ)()?」

 悔しいが大正解である。黒ウサギは心の中で降参する。

「……話せば、協力していただけますか?」

 二人は目を合わせて同時に応える。

 

「「ああ、面白ければな」」

 

 ケラケラと笑い合っているが二人の目は笑っていない。

 黒ウサギはようやく気づく。この二人は黒ウサギの話を聞くだけではなく<箱庭の世界>を見定めているということに。

「……わかりました。腹をくくって、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

 コホン、と咳払い。内心ほとんど自棄っぱちである。

 

「私たちのコミュニティには名乗るべき名がありません。よって呼ばれるときは名無しのその他 大勢<ノーネーム>という蔑称で呼ばれます。」

「へぇ……その他大勢扱いかよ」

「<ノーネーム>よりは<ネームレス>の方が格好いいと思うんだが」

「それはさておき。次に私たちにはコミュニティの誇りである旗印もありません。旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

「名刺みたいなものか。それで?」

 

「<名>と<旗印>に続いてトドメに中核をなす仲間たちは一人も残っていません。ぶっちゃけちゃいますとゲームに参加できるだけのギフトを持っているのはコミュニティ一二二人中黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

「もう崖っぷちだな!」

「どん底じゃねえか!」

「ホントですねー♪」

 ガクリとうなだれる黒ウサギ。口に出してみると本当に自分たちのコミュニティが末期なのだなと思わずにはいられなかった。

「で、どうしてそうなったんだ黒ウサギ。託児所でもやってるのか?」

 黒ウサギは沈鬱そうに首を振り、

 

「いえ、彼らの親も奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――魔王によって」

 

「ま……魔王!なんだよそれ超カッコイイじゃねえか!」

「マオウ!?箱庭にはそんな素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 二人の目はショーウィンドウに飾られる新しいおもちゃを見た子供のように輝いていた。

 

「え、ええまあ。ただお二人の思い描いている魔王とは差異があると……」

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るってことは強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることの無いような素敵に不敵にゲスイ奴なんだろ?」

「どっちなんだ……『魔の限りを尽くす王』なのか『魔を総べる王』なのか……」

「……何を高度な考えしてるんだ番長」

「いや違うぞ十六夜。前者は不敵に素敵にゲスイ奴だが、後者は魔族の王ってだけだ、後者だったらいい奴の可能性もある」

「天災って言ってたし前者じゃね?」

「そうだな。で、どうなんだ黒ウサギ。魔王ってのは叩き潰しても問題ないよな?」

「ま、まあ……倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

「へえ?」

「魔王は<主催者権限(ホストマスター)>という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません。その<魔王>のゲームに強制参加させられ……コミュニティは活動していくために必要なすべてを奪われてしまいました。」

 

 これは比喩ではない。黒ウサギ達のコミュニティはその地位も名誉も仲間も、すべて奪われたのだ。残されたのは空き地だけになった廃墟と子供たちだけである。

「もう一度コミュニティを新しく作り直すことは簡単です。ですがそれはコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私たちは何よりも……仲間たちが帰ってくる場所を守りたいだけなのですから……!」

 名も旗印もない。箱庭世界では信頼を得られないのと同義。周囲に組織として認められない。

 それでも、魔王との戦いで居なくなってしまった仲間たちが返ってくる場所を守りたい。

 蔑まれたとしても残したいと黒ウサギは誓ったのだ。

 

 だからこそ黒ウサギ達は、異世界から同士召喚という最終手段に望みを掛けていた。

「茨の道ではあります。けど私たちは仲間の帰る場所を守り、コミュニティを再建し、

 ……いつの日かまた名と旗を取り戻して掲げたいのです。そのためには皆さんの強力な力を頼るほかありません!どうかその力を我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……!?」

「……ふぅん。魔王から誇りと仲間を……ねえ」

 深く頭を下げて黒ウサギは懇願する。しかし必死の告白に十六夜は気のない声で返す。その態度は黒ウサギの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

(ここで断られたら……私たちのコミュニティはもう……!)

 黒ウサギは唇を強く噛む。こんな後悔をするなら、初めから話せばよかった。

 番一は岩から降りそっぽを向き、十六夜は足をけだるげに組み直し、たっぷり三分間悩んだ後、

 

 

「いいな、それ」

 

 

「―――……は?」

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 不機嫌そうに言う十六夜。呆然と立ち尽くす黒ウサギは二度三度と聞き直す。

「え……あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

「そんな流れだったぜ。番長はどうなんだ?」

 そういってそっぽを向き続けている番一に十六夜が問う、

「いいんじゃねえか?底の底まで落ちたなら、後は上がるだけだしな」

「お、名言か」

「末代まで語り継げるほどの名言だな!」

「あ、あはは……」

「苦笑いしてないで、ほれ、あのヘビ起こしてさっさとギフト貰ってこい。その後は川の終端にある滝と<世界の果て>を見に行くぞ」

「は、はい!」

「なんかやる気出てきた。俺は先に行ってる!」

 番一はうきうきと走りだし、黒ウサギは蛇に駆け寄り、十六夜は嬉しそうな黒ウサギの背を見つめる。

 男二人の箱庭での方針は決まった。

 

 

 

 

 ―――彼女(黒ウサギ)の願いを叶えてあげよう。




赤坂です。
説明回ですね。飛ばした方は飛ばしたでしょう。
実際、原作を読んだことのある人なら飛ばしてもいい回だと思います。
次の話は女性サイドをやるかどうか悩みます。
自分は描かれなかったシーンを描きたいと思っていますので。
……どうしましょう。


11/26 一部表記間違いがあることに気づき訂正しました
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