執筆と逃亡を繰り返しながらも半年以上かけて出来たのがこの一話ですが……ほんと構成に時間かけた訳なんですがほんとすいませんしたああぁぁ!
こっから本編の完結までやります。まあ、週に一度ペース(今日でこの話、来週で二話目、三週目でラスト)ですけど勘弁くだせえorz
サブタイですけど、ファンは説明いらないですよね
「シャマルさん、このは、とりあえず俺以外に回復を!」
「待って八高くん! 流石にそんな怪我じゃ」
「チャージングGOは見せ物でもないし、そんなむやみに使うことは許されないんDA!」
「そんな美少年な頼み事してないし! じゃあ、このはも頼んだ! あいつは俺が引き付ける!」
我ながらかなり雑だなと思えるほどの指示を頼んでから、あの銀河美少年とか言い出しそうなムカツクハンサムに近づく。このはとのやり取りのせいで変に力が抜けたのは感謝すべきだろうが、なぜにチャー研なんだ? 考えたところで分かる訳でも無いし、それについては気にしない方が良さそうだな。
「貴様一人で挑むつもりか?」
「だな。来いよ、ぶっ壊す前にお前の鼻っ柱へし折ってやる」
「ほう。そんな状態で勝てるとほざくか?」
「予想が正しけりゃ、今のお前ならなのはやフェイト、いやこのはどころか、俺とすら互角になりそうなんでな」
「言ってくれるな」
「まあな。そうそう言い忘れていた。俺の名前は八高輪、お前を倒す人間の名前だ。脳が震える程に覚えとけ」
「くくく、そうか―――吠えるな蟲が!」
さあ始まった。眼の前のハンサムは、黒い魔力光を剣の形に変えて、俺と切り結ぶことを選択したようだ。 ……これだけでまず一つが確定した。フェイトやシルヴァの速さに比べれば、遅い。それにシグナムたちのような洗練された動きを間近で見てきたせいか、こいつの挙動はどれも
思い返せば、長らく虚数空間を漂っていたんだ。そして、目覚めたのは少し前にしても、戦闘そのものの経験が浅い。虚数魔力に頼ったゴリ押しが通っていた戦法も、要となるものが無くなった今、模擬線のスペシャリストみたいなもんだ。いくら資質があったところでスペシャルで! 2000回で! 模擬戦なんだよォ! その意味じゃ、模擬戦と実践も積んでる俺の方が有利だ。ただの蹂躙で相手を殲滅していたこいつと違って、俺は格上としか相手になったことが無い(しかも基本勝ち知らず)なんでね。負ける理由があるかよ!
ただし、今回は絶対的に条件が違うけどな。
「舐めるなよ! 腐れハンサムが!」
「なっ!?」
「充てが外れたらしいな」
今の俺は、本気の本気だからな? 手加減も遠慮も無い。俺は戦いに来たんじゃない、勝ちに来たんだ。普段と違って試すことはしない。倒す為に動き、剣を振るう。
テンションも凄いこともあるが、俺のそんな気分と比例するように、合体剣として振るったアヴァロンの一振りは、エンヴィの魔力剣を
「お前の能力は素晴らしかった! レアスキルも! 戦略も! だが ! しかし! まるで全然! この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!」
「この蟲風情がああああぁああああぁああぁあぁッ!!」
「まだ行くぜ!」
「ちぃっ!」
これはラウンドシールドか……だが、俺は自分のデバイスのことはよく把握しているつもりだ。
がんと展開されたシールドによって、当然防がれる。さっきの剣と違って競り合いになっているし、刃も通る気配が無い。だが、いける。この程度予想内だ。
「いけよぉおおおぉおおおぉおぉおぉぉッッ!!」
シールドの次はバリアまでもが斬られた。本気で、ぐっと力を押した一振りは、それどころか、自分にまで刃のダメージが通ったんだ。これほど直接的なダメージというのは初めてなんじゃないか? そもそも、こいつ関連の話って能力とかしか分からんし。だが、自分のご自慢が悉く破られてるんだ。そりゃあ悪い気分しか無いだろうよ。にしても、本当にバリアを破れるとは思わなかったな。
……っぶねぇ。元から斬る気があったのは気付いてたが、いかんせんダメージが残っているせいで反応は遅れたが、刃の一振りはどうにか頬を掠める程度に済んだぜ。こりゃ魔力反応に鋭いのが救われたな。余程気に入らないのか、俺の頬を斬られた拍子に浴びた返り血を舐めても、微塵も嬉しそうじゃない。むしろ不快そうだ。まあ理解出来るぞ、蟲と呼んでいる相手に苦戦強いられているからな。それに、俺としちゃ都合の良い展開に流れているんだ。否応ににやっとせざるを得ない。
「こんな! なぜこんな蟲如きに! 息も切らせているような蟲に、なぜ吾が押される!? 満足に動くこともままならずに、なんの力も残ってないようなこんな下劣な存在にいぃっ!」
「生憎様! まだ不屈の精神が残ってるんでな!」
「ほざくなッ!」
「人間舐めんなよバカ野郎が!」
「ぬああぁあぁあぁああぁっ!」
「……そう言えばさっき、一人で挑むって約束したな。 ――あれは嘘だ」
俺の方をチラチラ見ていただけあってタイミングを図ってたようだけど、若干食い気味に言葉を返しながら、シルヴァは高速を以ってエンヴィに詰め寄る。念話とかで声かけて良かったのに。
いくらシルヴァが早いにしてもだ。既に反応されている。手の中には再び黒く揺れる剣が納まっている。今無傷のシルヴァにしても、この状況だ。タイマンとして一撃入れるよりは、即席でもコンビでした方が良いだろう。なに、陽動なら慣れている。
【八高さん、私はこれから一撃離脱を行います。その時に、エンヴィを凍らせます】
【分かった。俺が陽動する、合図したら来てくれ】
【分かりました】
「なにか算段を立てたようだが……どうする?」
「こうするんだよ!」
「ふん、ただの一つ覚え――」
半分正解。だから違う。
確かに俺がしたのは、ただの振り下ろし。だが、ビット装着された大剣の状態を解除されたガンブレイドでの一振りは、簡単に止められる。これじゃバリアブレイクは見込めないが、それでいい。
狙いはあくまで俺とアヴァロンでの陽動。放たれた四枚刃を飛来させる。四方より急速するビットを正面以外から奔らせる。デバイスとしてオート機能が付いていないのは痛手だったな。全て自分でどうにかするしかない。俺の一振りと二枚のビットを防いだところで、もう二枚を防ぐことは出来ん。なすがままに切られていく。
「なっ、ぐああぁあぁあぁ!」
「離れて下さい!」
シルヴァの指示通り、速攻で後ろに飛び退く。ダメージを与えた拍子にバリアを外すとは、やはり経験が浅いな。
そしてシルヴァは、横切る刹那に一閃を払う。本当に容赦を無くしたのか、シルヴァの氷は全身に広がりながらも、斬られた傷口に侵入するように重点的に氷結を始める。うわ、見ていて気分悪くなるな。味方で良かったよほんと。
「ロリコォオオオオオォオオォオオォオォオォォン!!」
一瞬本気で心臓が止まるほど、とんでもない一言を空に響かせながらこのはが黒い空の中を泳ぐ。優雅に、と思いきや割と弾丸みたいな直線軌道でエンヴィに急速接近してくる。まずなんでロリコンって叫んだんだよ。俺を社会的に殺す気か? 不当なことでキレないこのはの性格を考えるなら、シルヴァと俺が連携したことに大きな不満があった、の線が強いかもしれない。嫁(二次元)がいる俺としてはその気持ちは分かるが、それほどの愛は向けられんぞ。
……このはへ印象だが、なのはに近しい感じの中距離以上が強いと思っていたんだが、このはがエンヴィに取った行動というのが、俺よりとんでもない。超至近距離で殴ってるんだぞ。しかも素手。「オラオラオラオラオラ!」とまで言ってるし。え、ちょっと待って。幼女のしていい顔じゃないぞ。遊戯王の顔芸に近しいものを感じたくらいだ。俺泣いて良いよね?
「ぼんやりしないで下さい!」
なにやら催促されてしまったが、一緒に殴っていい許可が降りたようだ。ようし、じゃあ俺もっと。ただし、アヴァロンで殴ってこのはにまで振るっても気分悪いから、こっちも素手で。
「やりますよ八高さん! この光は私たちだけが生み出しているものじゃない!」
「分かってる! みんながこの中に……!」
「ぐっ、ごはあぁっ!」
「合わせて下さい! 虹の彼方にです!」
「え、なに!? どういうこと!?」
「そそっかしいんだよお前は! 八高さん!」
「……それでもっ! 俺はもう迷わない!」
すっげぇ意外だ。このはってフルブ勢だったのか。しかもフルコーン好きと見える。俺も好きだけどね。特に第三形態でビスト神拳したりN格闘ぶっぱのチンパンしたり特射からサブキャンセルで無駄にアニメ再現したりするのが俺の生き甲斐で……なんの話だよ。
とにかく、このはが殴りあげたことをきっかけに、俺は切り抜ける。そこでこのはも殴り抜けて、同時に撃つだけで全て再現される。最高に気持いなぁ!
「迷いはしなうおおぉおぉおぉぉおおぉおぉおぉおおぉおぉぉ!?」
俺はエンヴィを撃ち抜こうと身を翻した訳だが、なにが見えたと思う? 緑の砲撃だ。しかもその色合いや方向は、どう考えてもこのはだ。ってちょっと待て! この状況でなに味方の背中撃ってるの!? そんなに俺とシルヴァが仲良くしたのが気に入らないのか!? ガチ過ぎるわ!
とにかくだ。あんなのに当たるとか冗談じゃない! かといって誤射を回避する為にイグナイト使うのも超勿体ない。全速で回避だオラァアアァアァ!
……これはとんでも魔力を込めたのが分かる。本当にギリギリのところで回避は成功したが、だからこそ足元を通った熱から実感し、ぶっちゃけ恐怖すらした。 ……真意は知らないが、避けられる速度で撃った可能性も………いや知らんけど。
「……す。絶対に殺す! 障る音を散らすだけに足りず、吾を低く見るか! なら良いだろう! この力を以って貴様らを一片になるまで踏み砕いてやろうっ!」
一方のエンヴィは砲撃を受けたことで大損傷。虚数魔力も持たなくなったことで、防ぎきることも出来ず、俺と同じくらいに怪我が目立っている。逆になんであの砲撃であの傷で済んでるんだよ。そっちもそっちでおかしい能力しやがって。頭に来ますよ!
なんて内心で文句を垂らしていたら、ある変化が現れた。生物的な印象を感じない触手がエンヴィに巻きついたと思ったら、その全身すらもぐにっと変形を始めている。 ………待て待て待て待て。なにがどうなってるんだ? 説明が難しいほどにエンヴィが変形しだしている!? 中身超きめぇ!
「あれは、取り込んだ闇の書の防衛プログラムを起動させているのです。周囲の物質を浸食し、一部としていくことで融合しています」
「防衛プログラムていうか、最早迎撃兵器だな」
「いえ、私の手を離れ一システムと扱っているので、最早「防衛」範疇に無いと考えていいでしょう。今のあれの能力を以ってすれば、この星を飲み込むことも出来ます」
「そいつは厄介だな。 ……ところですいません。誰でしょうか?」
自然に会話になってしまったが、俺この人知らないぞ。なんか異人感の漂う銀髪と黒を基調としたバリアジャケットを纏った女性の魔導師。うん、知らない。ただひとつ分かるのは、尋常じゃない魔力を持っているとだけ。例に漏れず俺より絶対強い。 ……おかしい。初対面のはずだが、なんか知っているような……
「面と向かって話すのは初めてでしたね。私は……かつて闇の書と呼ばれた存在です」
「違う違う、リインフォースや。わたしの付けた名前、いまいちやったかな?」
「まさかそんな」と困惑しながら彼女ははやてにそう返す。あぁなるほど、バリアジャケットのデザインというか、柄やモチーフが闇の書になっているからか。リインフォースか。良い名前だな。
「オッケーなるほど。つまり、八神家の新しい家族って訳か」
「そういうことやね」
「輪……いや婿殿。私もこの協力しよう。今防衛システムと切り離されているので、どう破壊されようと、私になんら影響はありません」
「婿殿って、こんな時に冗談は止めてよ!」
「失礼を我が主」
「は、はは……ごほん。とにかく、今は正に追い風だな。こりゃいけるぞ」
「希望まっしぐらっすね!」
隣に降り立つ菜摘に、その兄。なのはとクロノ、ヴォルケンリッターからこのはとシルヴァが場に揃い踏む。少し遅れてからクロノ執務官とフェイトもユーノも合流する。 …そうだよな。よく考えたら全員を回復し終えたからこそ、エンヴィを殴りに来てたってことだよな。手際良すぎるわ。
「ここに来たらまずくね? 今防衛プログラムを取り込んでるって聞いたが」
「さっき妨害しようとしたけど、周囲のバリアを張られている」
「執務官でも難しいって……分かった。となると、ここに集まったのは」
「対処策を考える為にです」
なるほどね。この空いた時間に倒す算段を立てると。それは良いな。この人数だ、出来ることは相当あるぞ。
「艦長が君から聞いた発言を元に、作戦プランを預かっている。聞いてくれるか?」
「え、俺から聞いた?」
「正確には正治が君から聞いた話で得た結果だけ、になるけどね。そのままの意味だが、虚数空間内に待機しているアースラで、あの防衛プログラムを破壊する。停止ではない、破壊だ。その為に、システムの構造をよく知る君の知識を借りたい」
執務官は静かにはやてに向ける。確かに、対処法が分かっていれば手順も組みやすいし、することも明白にするだけでも違う。つまり、はやてとリインフォースが仲間であることのアドバンテージが大きく働いている。
こくっと頷いてから、はやては迷いのない光を俺たちに向ける。
「簡潔に説明するね。今多重防御魔法を展開しているから、それをみんなで破壊」
「本体に直接攻撃を与えて敵を疲弊させて」
「――ユーノくんたちの転移魔法で、アースラの前に運ぶ!」
「そして、アースラの主砲による一撃で完全破砕。今アルカンシェルをチャージしているから、あとはこっち次第になる」
はやてからフェイト、なのはが口々に、非常に簡潔な形で説明する。そしてクロノ執務官で結ぶ。なるほどなるほど。聞けば聞くほどシンプルで分かりやすい作戦だ。
つまりこうだろ? 部位破壊(全身)して徹底的に倒すというモンハン脳で良いよな? 大打撃を与えることを目的とするなら、高火力に不揃いは無い。むしろオーバーキル不可避にしかならない。 ……同じことを考えたのか、このはもにっと笑みを浮かべている。
「リインフォース、って名前だったな」
「あぁ」
「人手ならオレが呼んでやる。だが、
「?」
「あんちゃんまさか」
「検索座標、NMV2-12。停留時間は三分。対象名:リインフォース!」
シスコンが唱えたその詠唱をきっかけに、ごうっと篝火があがる。半年ほど前に見た光と違って黒ずんだものだが、発せられた名前のせいで恐怖はほとんど無かった。
リリカルなのはの世界のキャラを呼び出す魔法――管理局の記録では「魔導師を呼び出す魔法」とされているその強大な魔法で呼び出されたリインフォースは、やはり見ていた景色と違うものを見せられた影響で、困惑に辺りを眺めまわしていた。
「ここは…? それに、私や我が主がなぜ? ……アレは、ナハト・ヴァ―レ!? なにがどうなって」
「お願いがあるんだ」
演出としては悪くないぞシスコン。けどな、説明もなくいきなり呼び出されたら誰だってビックリするっつーの。一番驚いてるのはリイン本人だからな? 開いた口が塞がらない守護騎士や本人たちに代わって俺が頭を下げる。
「リイン、ここにははやての愛するものがたくさんあるんだ。はやての好きな世界を、一緒に守ってほしい」
「わたしからもお願いや」
時間も無いから碌な説明出来ない。だから簡潔にそう言うしかない。少なくとも、今眼の前に現れたリインの眼の光ははやての隣並ぶものと同じ、信じている光だ。それを抜きにしても、闇の書とはやての絆というのは本物のはずだ。状況を把握しきれていないはやてだって頭を下げているんだ。だからきっとリインなら
「………頭を下げないでください我が主。 状況は知りませんが、暴走したナハトが世界を飲み込もうとしている、そう理解しても?」
「うん」
「これから私は主と融合する。その後に、これから敵の多重防御魔法の破壊を行うつもりだ」
「心得た。私は私で事を成そう」
「然と。さあ、我が主よ」
「うん。 ――夜天の光に祝福を! リインフォース、ユニゾン・イン!」
黒色の覆う夜空の下に瞬いた光。閃光から姿を見せたはやては、リインのような銀髪をを流しながら、纏う雰囲気を精悍なものへと変える。一瞬別人かと思ったが、瞳を開けながらふっと自然笑った様が紛れもなくはやてそのものだった。大変かわいい。
「行こうシルヴァちゃん」
「うん! この世界を……みんなを守ろう!」
「さて俺も行くかね」
全員が戦闘の配置に向かっている、俺も行こう。そう決めて飛翔しようとした矢先に、はやてが俺のバリアジャケットの裾をちょんと掴む。素でちょっとビックリしたが、なんだかそわそわしてるはやての姿が眼に入ると、落ち着かずにはいられなかった。不安は人にうつるもんだ。だから俺は普通にしていないと。
「…どうしたはやて?」
「怪我が酷い、いまシャマルを」
「…いや、いい。このままで行く。今凄いいいテンションだから、むしろ回復したくない」
「でも…!」
「大丈夫だって。俺はそう簡単にやられない」
「…………分かった。信じる。無事に終わらせなね」
「そうだな。新しい家族も増えたし楽しみが多いもんな」
「そうじゃなくて……その……わたしな、帰ったら八高さんに伝えたいことがあるんや」
んん? 伝えたいこと? 告白か? いやまさかねー。出会って一カ月も経ってないんだぞ。そんな訳絶対無い無い。大方、守護騎士が生きていることやリインという新しい家族を得たことを感謝したいのだろう。あれか。言葉にしようとしたらたくさん出てくるやつ。前のフェイトみたいなもんだ。それなら確かに家帰って落ち着いてからの方が良いな。
「じゃ、無事に終わらせんとな」
「うん!」
「じゃあ行ってくる」
はやてのシチュー、なのはやアリサたちとの日常、翠屋での生活。終わらせてからの楽しみは俺にだってあるんだ。それの為に、俺は重みの減った空を滑る。
――
『消エろ蟲共ォ! 踏ミ潰シた後デ、この世界モろとも消シ飛バしてやる!』
佇む岩を取り込みながら、防衛プログラムを起動させたエンヴィ。傍目から見れば無機物な機械仕掛けである外観に反して、獣のような低い唸りを轟かせている。破壊を旨とことを主張するように、禍々しい色合いと揺らしながら、機械状の蛇を蠢かせている。融合した影響からか、発する言葉の節々に雑音が入ってくる。元より人で無かったにせよ、異形の風体は一層強く示されていた。
「無理をするなユーノ! あくまで君たちの目的は破壊じゃない!」
「分かっている! ケージングサークル!」
「チェーンバインド!」
「囲えッ! 鋼の軛ッ!」
ユーノとアルフによってその全身を捕えられ、不自由を与えられたところに、ザフィーラによって白の軛が降り注ぎ、貫く。どれも相手を拘束する魔法、後手後手に回した揚句に無力させることが最重要だ。その補助として三人が動く。
しかし、相手は強大な力を振るえる。痛苦を感じながらも雄叫びをあげながら全身するだけで拘束が千切らせていく。蠢く触手は乱雑に動くものを標的にし黒い照射を放つ。乱れた枝葉のように伸びる蛇はそれぞれが唸り、光の軸を無数に放つ中、魔導師は怯みを見せず、巨躯に向かいながら飛行をする。
――先陣が突破されたとて、それで攻撃が止む筈も無い。第二波を担うのはなのはとクロノとヴィータ。むしろ、攻勢はこれから。
「……合わせろよ、高町なのは」
「…うん!」
「良い友達を持ったね、なのは」
二人の経緯は知らない。だけど、クロノが感じたものは、やっぱりなのはという人間が得た信用と理解していた。元より敵意を向けない彼女であり、善意を信じる彼女だ。嫌いな人間を探す方が難しいというものだ。ふっと笑った一方、前を疾空していたヴィータはがこんっとカードリッジを機能させる。
「クロノくん、お願いね!」
「分かった、合わせる…! 壊させるものか……ここがもう、僕の生きる世界だから…! なのはのいるこの世界で、僕はなのはと生きる…! だから…!」
「わたしたちの思い出を、とっちゃだめっ! アレグロシューター・バニシングシフト!」
「……シュート!」
二人合わせてでロックした蛇の数は――眼に映る全て。全ての迎撃兵器に対して、なのはとクロノは光弾を放つ。それぞれに緩やかな軸線を画き、照射を避けながら的確に蛇へと直撃させる。
「轟天爆砕ッ!」黒い軸線の雨は止んだその隙に、装填されたカードリッジの全てを使って、ヴィータは身の丈の数倍以上の大槌を振り被る。エンヴィの発した怒号以上の意志を込め、
「ギガント……シュラアアァアァアアアァクッ!」
振り下ろされる。ぐぐっと緩慢に下ろされながらも、重きが最も先行される一振りが、展開されたバリアを粉砕し、且つ本体にまでダメージを通す。
「最初の借りは返したからな」エンヴィと遭遇した当初こそ遅れを取ったもの、今はまるで違う。与えられた強い痛みから、それは咆哮をあげる。
『おのれ…おのれえぇええぇええぇえぇえぇ!』
――第三波。フェイトとシグナム。再生した蛇の襲撃を斬り払いながら空を横切る。飛び交う魔力と緊張感によって風の冷たさなど気にも留めなくなったが、恐怖だけは無かった。
「行くぞテスタロッサ」
「はい、シグナム」
互いが互いを認めている同士である為に、自ずとこみ上げる信頼感に勝ることは無かった。蛇の斬り払いによって攻撃を緩ませていたが、気配が幾分薄まった。二人は視線のみで語り合い、左右に分かれる。これから放たれるのは、鋭利な一撃。万一を想定して、完全な挟み撃ちの陣形を取らずに、敢えて歪に前と後ろを取る。
『Bogenform』鞘と剣の持ち手部分を連結させたレヴァンティンは、誰もが見慣れた剣の形から弓の形へと姿を変える。これより放たれる一射は極めて強力なもの。
時間にして僅か二秒ほど。向かい合ったシグナムとフェイトは同時に眼を開いていた。シグナムの剣とフェイトの両刃剣が奇しくも弓の形状をしたとなれば驚くだろう。当然示し合わせは無く、用途もほぼ同じ。フェイトは結界突破用のフェニックス・フェーズを放つ為に、カードリッジを二つ使用する。極めつけは、弓状態に使用するカードリッジの数も同じ。この状況にも関わらず、二人はふっと笑った。
二人の奇縁の為の微笑は消える。今は戦時、厳として弓を引くのが道理だ。静かに、心に波立たせずに、狙う一点のみに視線を刺す。信頼している味方が敵を引きつけ、陽動までしてくれている。そして味方は撃墜されることは無い。言葉にしがたい根拠を頼りに、一射を放つ。
「――駆けよ、隼!」
「……
紅を纏う一羽と雷鳴を奔らせる一羽が、飛空する。双方向より放たれた二羽は、駆動音を鳴らす機械仕掛けへ翼を広げる。どちらも一点を破壊する為の魔法、展開されたバリアを貫通することも容易い。
『こ……んな、馬鹿、ナ…………亜アアぁ唖ァ嗚呼アアぁああぁ唖ァぁぁああぁッッ!』
「まだだ! まだ終わらんよ! そうだよね、シルヴァちゃん!」
「うん!」
――第四波、このはとシルヴァ。陽動も兼ねて動いていたフェイトとシグナムによって、充分以上の魔力による攻撃の準備は出来ている。展開されたバリアの効力も薄く、後は放つだけで直接ダメージが入る。
そこで思わぬ加勢が加わったことで、特にシルヴァは眼を丸くした。
「私も加わろう。数は多いに越したことは無い」
「アインスさん!?」
「助かりました。お願いします!」
「なに、主と主の生きる世界を救う為だ。当然のこと」
二人が魔力をチャージしている傍で、呼び出しを受けたリインは自身の周囲に禍々しい魔力光を無数に停滞させる。これが敵から来るものだとしたら極めて慄く光景だが、味方として並び立つとなると、心強いこと請け合いだった。
「我らで防衛システムの破壊も兼ねて多く放つ。砲撃はその後で頼む」
「分かりました」
「行くぞ!」
シルヴァはフリーズランサーを展開させ、リインフォースは蒐集した魔導師の魔法をアレンジしての広域拡散射撃魔法を展開させる。『Photon Lancer,Genocide Shift』と響かせた声音から、元の魔法がフェイトのものだと二人は瞬時に理解出来たが、この脅威が自分たちに向かないことに安心感を覚えてしまう。じっくり聞いていなかろうと、世界を滅ぼしかけた存在となのはたちに苦戦を与えたという情報だけあれば、彼女が如何に敵として強大だったかは明白だろう。
凍結を象った魔力と、雷撃を纏った魔力光。合わせて無数が周囲に停滞する。三人が瞬時に考えた戦略は単純にして明快。リインフォースとシルヴァでバリアを突破し、このはの砲撃で直接攻撃。装甲の堅い相手に行うには、この戦力は充分過ぎる。魔力を余分に残すことも考えて、シルヴァは凍結を一際多く展開させる。
「フリーズランサ―!」
「放て!」
二つの浮遊物が同時に放たれる。撃ち出された氷結の突起と雷撃の球体が不揃いな戦列を成して、直線軸を滑る。展開されたシールドが強固ながらも、特にリインフォースの展開する魔法によって弾幕は薄まることなく、絶えることなく降り注がれている。
反撃に放たれた照射も空しく回避され、あまつさえリインフォースは動きながら陽動まで勤める。目的は砲撃を構えるこのはの支援。なるだけ攻撃が来ない方が都合が良いというもの、即座に理解したシルヴァは氷結を放ちながら陽動に回る。
「お願いこのは!」
「ターゲット、ロックオン……排除開始…!」
低く呟いた言葉に込めたものは多々あるが、今は眼の前の巨躯に全てをぶつけることで解消させる。だが、一回だけでは気も晴れない。数度に分けて小出し(少なくするとは言っていない)にしていく方が効率も良い。
ワールドリーフの先を中破されているエンヴィに向ける。一度の砲撃で大打撃を与えるのも構わないけど、陽動が多すぎる。確かに防衛を続ける蛇は増え続けている。かといって、生半可な広域魔法では足止めにしかならない。ならばすることは決まった。半可に収まらない横合いをしてやればいい。優位性を持つ最も単純は方法………相手に不都合を与えれば良いだけ。
「お願いワールドリーフ!」
『All right』
「エメラルド……ブラスタアアァアァアアァアアァアァァアッ!」
『Variation:Rainy』
頭ではなく、手足を徹底して攻める。それがこのはの判断だった。
本来砲撃である魔法を打ち上げ、名の通りの雨として分散させ、降り注がせる。緑色を散らせた先は、正確に伸びた蛇へと落下し破砕していく。
威力そのものも分散されたにしても、狙いは重点的に同じ個所。痛んだ部分を重ねて攻め続ければ、自ずと機能性は万全を発揮しない。生憎と放出されたのは多量の魔力。バケツから矢を返したように未だ緑の雨は注がれる。
「まだシールドを展開してくるか…!」
「気にするな執務官。手で傷口を塞いでるようなもんだ。それなら抉じ開けるのが一番だろう?」
「まったく、簡単に言ってくれるよ」
「ふっ、違いない。いくぞ!」
「おう! 行くぞアヴァロン! これが俺の……俺たちの本領発揮だ!」
『了承した。ならば貴台よ、唱えるが良い』
「――リンカー・イグナイト!」
挙動は既に鈍く、纏っていた装甲は崩れ落ちている。エンヴィへのダメージは通っている。だが、そのどれもが決定打と言い切るのは難しいのは、やはり幾重のバリアの存在によって削がれている部分もあった。だが、その存在に関係なく最接近する影が二つ。
――第五波、ザフィーラとクロノ執務官と輪。彼らが接近する理由はただ一つ。直接攻撃、ではなくバリア破壊を優先した攻撃だった。少なくとも、闇の書の機能の一部も取り込んでいることから再生も可能としている。エンヴィはその時間を稼ぐ為に再びバリアを展開する。
「ぬぉおおおぉおおぉおぉおぉおぉッ!」
「行けよぉおおぉおぉおおおぉおぉおぉッ!」
どちらもバリアブレイクを果たせる能力を有している。 …特に、リンカ―・イグナイトによって強化され、精神状態が最も高揚している輪にかかれば、幹を斬るような手際でバリアを斬り裂く。輪はバリアを引き裂き斬る為に周囲を疾空しながら、バリアに通した刃を圧し通らせる。
ザファーラとて劣りは無い。脅威と判断された輪が陽動も兼ねている一方でバリアを破壊し、本体に打撃まで叩き込んでいる。元より切り口をつくったことで軟になったバリアがより容易に破壊を可能とする。
「陽動のお陰で、こっちも遠慮なくやれる…!」
多くの陽動と攻撃の影響によって、クロノ執務官は迎撃の首が回らないエンヴィを掻い潜り、接触するほどの距離へと詰めた。最も手薄な部分へとデバイスの先を破損した箇所に触れさせ、
その能力から元来生物への使用は極めて難しい魔法だが、相手がデバイスという機械であり、その存在が人や世界に仇成すものとなれば躊躇の必要もない。
振動数の計算には少なからず時間を要するが、その隙すらも相手は突くことも出来ない。周囲の仲間が自分に時間を与える為に動いてくれている。優勢と言ったとて一瞬で撃墜されることも在り得る点では、危険を引き受けたのだ。ならば、その仲間に報いる為に最良を果たす。
「エンヴィ、闇の書……僕らの因縁をここで終わらせる!」
『――Break Impals』
振動数を図った直後、エンヴィの内部に見合った振動数を対送り込むことで内部から砕いた。内部からの破壊を目的にしているだけに、外殻の硬度は意味を成さずして致命的な損害を受けた。今までに響かせた痛烈な怒号とは異なり、生々しい痛みに苛まれたような、耳の奥に刺すような鋭い叫びを轟かせる。
「さっすが執務官!」
「無駄口はしないで貰おうか」
「了解さん!」
「輪、シールドの展開が弱まっているぞ。攻め入るなら今だぞ」
「だな。けど、後は任させよう」
ザフィーラの言うように、展開したシールドは先のような強固な強さは感じなかった。これなら砲撃魔法でも破壊出来るほどだ。少しのやり取りの後で、輪たちは後方から来る二影と交代する。
「輪にい、みんな交代っす!」
「おぉ助かった! 少し頼む! あと」
「オレに指図するな!」
――第六波、森正治と森菜摘の兄妹。普段なら激昂するもの、この場でも変わらぬ憎まれ口に、輪がニッ笑って返す。 ……ごく一瞬の視線の交差、笑顔でないもの正治からは眉間の皺は完全に離れていた。
かつて敵対していたこの男のことは今でも嫌いだ。 …だけど、出会い方が違えば少しはマシな関係になれたのかもしれない。正治はふとそう考えたが、改めて輪の顔を見てその考えを改めることにした。やっぱりいけすかない。お互い憎まれ口を叩き合う関係がしっくり来る。それでこそオレたちだからと信じて。彼はデバイスの先をエンヴィに向ける。
――自分の理想とは違えていた世界。だけど、それが違っていた。ふと視線を移した先のなのはは、周囲の仲間を視線で追いながら迎撃を止めない兵器への攻撃を続ける。その攻撃で助けるたびに、嬉しそうに笑う彼女。表層こそ随分変わったもの、
「……形は変わっても、オレが愛した世界に変わりなかったんだな」
ふとそう零す程に彼女は彼女のままだった。大切な人がいるこの街を守る為に戦う。なんのことはない、根本は変わっていなかった。そして、守る為の戦いをするのはなのはやあロノだけじゃない。この場にいるみんなが傷付きながらも、一縷の希望を抱いて戦う。
「菜摘! オレに合わせずに砲撃しろ! バリアがあるんだ、気にすることは無い!」
「了解っす! ジブンオリジナルの砲撃! 必殺、スマッシュ……」
「バスター……」
「「ストリーム!」」
重なった砲撃。緑と赤の色を混ぜ合わせての一撃が螺旋を描きながら「ゴオォオアアァアアァ!」と悲痛を上げ、迎撃兵器の揺らぎも大きくなる。機能が停止したように蛇の頭も項垂れたまま動かない。
「八高さん! みんな! 離れて!」
第七波、八神はやて。孤にて軍の力を有する彼女は、高々にデバイスを掲げる。
――僅かな一瞬だけ、ふと視線を移した先の彼と合わさった笑顔から、はやては言葉に詰まる安堵を覚えていた。これで悪い時間が終わる。そして、これからが本当に穏やかな時間が来るのだと。大した根拠は無いもの、騎士たちと分かち合った安らぎ、リインから得た強さ、八高輪から貰った安心が彼女を後押しする。
「彼方より来たれ、宿り木の枝」
―銀月の槍となりて撃ち貫け―
「石化の槍――」
「―ミストルティン!―」
夜天に浮かべた八の銀月より放たれた光の柱が巨躯を貫く。万全だったならあるいはいくらか回避や対処も出来たもの、度重なる攻撃と重い損傷の状態からそのどちらも叶わない。結果、八つ全てが身体を通る。
今までにない怒号……否、悲鳴。受けた物にしか分からないだろう恐怖と共に、より無機な石へと身体は蝕まれていく。もがけど叫べど意味は成さない。十数秒足らずと巨躯は石となり果てる。 ……されど、完全硬直とも言えず、胎動のような蠢きが内部からずるると聞こえる。その一押しの為に
「凍てつけ!」
『Eternal Coffin』
放たれた青い閃光がエンヴィを捕える。石化によって止められたところに重ねての凍結となれば、完全な硬直も生まれる。多重に展開されていた防御魔法も迎撃を機能していた蛇の群れも動かない。 ――だが、ここで終わらない。
「後は頼む!」
「任された!」
輪の返事を皮切りに、エンヴィは魔導師に包囲される。
なのはとクロノ、フェイト、はやて、リインフォース、このはとシルヴァ、輪の六隅が巨躯を中心にして構えを取る。
「行くよ、なのは!」
「行こう、クロノくん!」
「待ってて。アリシア、かあさん……! 終わらせて帰るからね…!」
「帰ったら大忙しやね」
「我が主の生きられる世界の為に…!」
「こんな暗い事件終わらせないとね。シルヴァちゃん!」
「アレだね……分かった! ラグナロク!」
『All right』
「さて、帰ったら翠屋で祝杯だな……!」
「なのはに合わせる! 思い切りして…!」
「分かった! 全力全開! スターライト・デュエット……」
「雷光一閃……プラズマザンバー……!」
「響け終焉の笛……ラグナロク……!」
「借りものの魔法だが……スターライト……」
「……我ら、
「確たる意思でそれを成し、その力を解き放つ」
「神を下し、星を護る、全ての決意はこの胸に」
「「二人の絆で!」」
「リーフオブワールドツリー!」
「ラグナロク!」
『『All right』』
「「神をも降せ……!」」
「行くぜ、やるなら長距離ビームソードが良い。良いよな?」
『好きにすれば良いじゃろう。貴台の魔法じゃ』
「じゃあやるか! ――空より
「「「「――ブレイカアァー!」」」」
「神降し・デウスクラッシャー!」
「レイ・オブ・シンシアアァアァ!」
なのはとクロノを筆頭にしたフェイトとはやてにとリインによる全力の、互いのデバイスを連結させて放たれたこのはとシルヴァの渾身の、砲撃と紛う蒼い
幾重に色が一つに向かい、轟音と飛沫を散らせる。どれほど高ランクの魔導師だろうと、この一撃に耐えうる魔法は存在しないだろう。如何に加減しようと、放たれたのは紛れもなく自身の持つ最高の魔法。建造物程の巨躯を飲み込む光なのだから、人が受けるには危険という言葉でもまだ安全な範囲と言えるだろう。率直に言うなら、相手が兵器の類だからこそ出来た行為だ。
結果、エンヴィの迎撃手段として機能していた蛇は全壊し、バリアの完全破壊はおろか本体へのダメージも極めて大きい。少しの挙動を見せただけでがががと軋む音が絶え間なく耳に入る。姿形の8割が瓦解したにしても、この一撃を以っても形が残っているのは、エンヴィ自身の強度と闇の書の再生に寄るところが大きいが、損傷が大きい今ではその再生機能すらも万全に機能しない。
「ユーノ! アルフ!」
「……長距離転送!」
「…目標、軌道上!」
挙動も迎撃もままならい巨体を転送するなら容易い。クロノ執務官の合図を皮切りに、ユーノとアルフとで無機な表皮の剥がれたエンヴィを転送する。相手にはもう虚数魔力は無い。拒否も否定も飲み込まれ、虚数空間内で待機していたアースラの前方に送られる。虚数空間なら魔法に関する一切が使用出来ない――つまり、バリアも展開出来ず、無防備に艦の主砲を受けることとなる。
「目標転送中! 生体部分の修復が早い!」
「構わないわ! 主砲の用意を! バレルオープン!」
怯むことなく、リンディは指示する。艦をまとめる長として怯む姿を見せる訳にはいかないにしても、彼女にはそんな不安は無かった。全てが順調だと、むしろこの上ない良い流れだと確信していた。先の魔導師たちの一撃で受けた損傷が想定していた以上の成果を見せたことで、一層に迷いは無くなっていた。この戦いは勝てると。
――ふっとした光の隙間から、蠢く巨体が姿を現す。損傷が激しかったはずなのに、既に必要な部分が回復している。しかし、ここは虚数空間。どうすることも出来ない。
「アルカンシェル」
形は変わったにしても、リンディの眼前に蠢くものは確かに闇の書に違い無い。因縁はここで終わる。終わらせる。少なからず私情を挟むにしても眼前の脅威を払うことで救われるものが多い。街の人も、闇の書と関わった誰かの因縁も、全てが終わる。
「―――発射ッ!」
言葉に乗せた意味合いを全て語れば冗長になる。だが及ぶ必要もない。
放たれた光は燦爛と奔り、潜り込むように巨体へと溶け…………消滅した。見るものが見れば、花火が散ったような絢爛な光とも見れるが、明らかな破砕の瞬間であると魔導師たちは自ずと理解出来るだろう。尤も、目視できる場所にいない以上、その確認を出来たものは一人といないが。
常に事態を想定しておく必要がある。万一に備えてで生体反応を確認してみるが……
「………生体反応無し。目標、完全消滅です!」
瞬間、艦内は歓喜に揺れた。この最近を悩ませた元凶が倒されたことで、クラッカーを開いたように坩堝の渦へと変わった。アースラは特に空気が張り詰めていたこともあって、大袈裟に抱き合う局員も中にいるが、誰も気にとどめることなく、ただ嬉々とする。
……なにも問題は無い。変化が無いことを確認してから、リンディはクロノ執務官に告げる。
『クロノ執務官、聞こえますか?』
「はい」
『アルカンシェルを使用し、標的は完全消滅しました。と現場の魔導師に伝えて下さい』
原作アニメより酷いブレイカ―祭りをしたかったのです。こういう大味な展開大好きです。書いてて凄くすっきりしました(*´∀`)
ではまた次回にノシ