ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- 作:oyakata
今回は全然予定通りに筆を進めることが出来ず、予定を延ばしたにも関わらず数分オーバーしての投稿になってしまいました。
今回は、ちょっと次回(もしくは次々回)に新キャラが登場する予定なのですが、時間が無い状況で新キャラ+新ガンプラを制作している暇がなかったので、急きょ番外編としてオムニバス形式のキャラストーリーを書きました。
メインキャラであるミズシマ・ユウジ、ナガサキ・アンナ、アシダ・カイトの日曜日を描いた話です。時間軸は五話後篇の後の日曜日。五話の最後に月曜日になっていますので、少なくとも一週間が経過した状態の話です。
あ、六話はちゃんとその後の時間軸になる予定です。
では、お楽しみください。
俺ことミズシマ・ユウジの日曜日の朝は姉の安否確認から始まる。
確か昨日は姉の相方であるイチジマ・カナさんとウチで酒盛りをしていたはずだ。
自室を出てリビングに入ると、カーテンの締まった薄暗い部屋で全裸で寝ている姉とカナさんが目に飛び込んできた。
二人が生きていることを寝息で確認した後、部屋の暖房がかけっぱなしになっていることに気がつく。しかもめっちゃ酒臭い。
俺は風呂場へ向かい、お湯が出ることを確認して適当な着替えを用意し、バスタオルを持ってリビングに戻る。
姉とカナさんにそれぞれ一枚ずつバスタオルを被せ、暖房を切ってカーテンを開けて窓を全開にした。
外は快晴で良い天気。日光が差し込み、風が吹き込んでくる。
最初に目覚めたのは、カナさんだった。
「っびゃあぁ!?」
奇声をあげて飛び上がり、かけてあったバスタオルで体を覆って風から身を守ろうとする。
が、地上28階の風は相当冷たかったらしく、耐えきれなくなって立ち上がった。
そこで俺はいつも通り「お風呂沸いてますよ」と告げる。するとカナさんはとんでもないスピードで風呂に逃げ込んだ。
よし。カナさんは風呂に入れば意識もはっきりするからこれで終わり。
だが、問題は姉だ。姉は寝起きが悪い。悪すぎる。
寝ぼけて襲われた時はマジでどうしようかと思った。
「……よし」
俺は気合を入れ、この時用に用意した音漏れの少ないヘッドホンを寝ている姉の耳に装着する。
コードが繋がっているのは、これまたこの時用に用意したレコーダー。中には姉の大嫌いなゾンビ映画の音源が入っている。
人が食われるシーンの音源のみを繋いだ大作だ。たっぷり20分ある。
再生ボタンをポチり。
俺はコーヒーを飲みながら朝食用に食パンを焼き、マーガレットを用意する。
カナさんは朝食は味噌汁だけなので、インスタントの味噌汁を用意。
姉はいつも食い損ねるのでカロリーメイトを持たせるつもりだ。
酒の空き缶だらけのテーブルを片付けていると、パンが焼き上がる。
そろそろ換気も終わっただろうと窓を閉めようとした時、姉が目覚めた。
目覚めて、足を斜め上にピンと伸ばして俺の膝裏を強打した。
「っぎゃー!」
「それは予想外!」
俺は危うく窓から落下しそうになって、慌てて身をよじって部屋の床に突っ伏す。
そして絶叫を続けて暴れまわる姉からヘッドホンを外し、朝の挨拶をする。
「おはようお姉ちゃん、嫌な夢でも見たのかな?」
「なん、あば、あぷぁ……あ、あれ……夢?」
ようやく目覚めた姉を起こして、風呂へ行くよう促す。入れ替わりでカナさんが風呂から出てくる。
そして俺はようやく焼きあがったパンを食べ始めた。
カナさんも用意されているインスタント味噌汁を見て席に着き、食事を始めた。
「さんきゅー。いやぁ、弟クンが東京来てくれてまじ助かったわぁ。朝のユウカをあんな見事に目覚めさせられるのは弟クンだけよ」
「毎朝戦争でしたから、実家でも」
「んー、弟クンは良いお嫁さんになるわー」
「やめてください」
味噌汁を飲み干して出勤の準備を始めるカナさん。
今日は日曜日だが、カナさんと姉はお笑い芸人。土日に仕事が入ることの方が多い。
用意を終えて、そろそろ出発の時間になる頃、姉がようやく風呂から出てきた。
既に俺が用意した服に着替えている。今日の仕事は屋外フェスティバルのステージでのコントだと言っていたから、暖かいセーターにロングスカート。
良かった、寝ぼけて全裸だったりパジャマに着替えたりはしていないみたいだ。
「ほらユウカ、行くよ」
「え、えぇ~、私朝ごはん……」
「はいお姉ちゃん、お弁当。水筒も用意してあるから行きの車で食べて」
「ゆ、ユウジちゃん、ありがとう……なんかユウジちゃんがどんどんお母さんみたいになってきてる……」
「お姉ちゃんまで言うか」
「ぶはっ!」
吹き出したカナさんと姉を家の外へ押し出して、リビングに散乱している服を集め始める。
ちなみに、東京に来るまで知らなかったことだが、カナさんの家は同じマンションの隣の部屋だった。
姉は実家に一人暮らしをしていると伝えていたが、家事のほとんどをカナさんがやっていた。
そして今は俺がやっている。
「……まぁ、料理なんてできないからインスタントか弁当だし洗濯物も乾燥機付きのヤツだから楽なんだけどね」
というかそうでなければ確実にパンクするレベルで3人とも家事ができない。
姉に至ってはする気がない。
さっさと洗濯機を回してガンプラを作ろうと思い、集まった洗濯物を持って脱衣所へ向かった。
手に持った洗濯物を洗濯機に入れて蓋を閉めた時、床に落ちている下着が目に入った。姉のだ。
「あれ、運んでる時に落とした……かな……い、いや、この下着は……さっき俺が用意したヤツ……」
俺は慌ててカナさんの携帯に電話する。するとリビングのカーペットの下からコール音。
めくってみると、姉の携帯も仲良く隣に落ちてましたとさ。
あ、これ詰んだわ。
「風邪引かなきゃいいけどな……」
現場に着くまでに気がついてコンビニかどこかで購入することを祈り、俺は自室に戻った。
自室に戻った俺は探し人掲示板を開き、自分の投稿にコメントがついていないかチェックした。
俺が投稿したのは、小学生の頃に交流のあった同級生の捜索依頼。ストライクフリーダムを作ってくれたヤツだ。
家族ぐるみでの付き合いだったこともあり、東京から引っ越した後も頻繁にやりとりしていた。だが数ヶ月経った頃から電話もメールも繋がらなくなり、父親が家を確認しに行った所、一家全員行方不明になったことが分かった。
どちらかというと裕福な家庭だったし、借金があったようにも怨みを買うような仕事をしていたわけでもない。
何か事件に巻き込まれたんじゃないかと、その時期に発生した災害状況を探ったが被害者の中に名前はない。
俺の家族はみんな心配したが、仲が良い家族というだけで捜索願は出せない。一応、警察に相談だけはしに行ったが、それから連絡は一度もない。
その頃から、俺はネットの掲示板を利用して目撃者を探し始めた。
中学3年間、色々なサイトに投稿したが、成果は出ていない。
今日もコメントは付いていなかった。
「……『ガンプラバトル、やめるなよ。やめなきゃ、いつかまた会える』……だよな」
引っ越しをする日、ヤツと交わした約束通り、俺はまだガンプラバトルを続けている。
いつかふらっと俺の前に現れて、凄く強いガンプラでバトルを挑んでくる。
そんな未来を空想する。
「さて、ガンプラ……調整しようかな」
俺はカバンからストライクフリーダムコマンドを取り出して、いじり始めた。
昼過ぎまでやって、昼食を食べるついでに新しいガンプラをチェックするためにアナハイムまで行く。
たまに先輩とかカイトとかサオリとかに出会って話すこともあるけれど、夜になったら家に帰る。
そうしたら姉たちが帰ってきて、また戦争になる。
これが俺の日曜日の過ごし方だ。
私ことナガサキ・アンナの日曜日の朝は、両親のモーニングコールから始まる。
「「おっはよーアンナちゃーーん!!」」
「まだ四時だよお父さんお母さん」
と言いつつ起きていた私は自室から出て、親に導かれるままにリビングに降りていく。
両親との約束で、日曜日は家族と過ごすことになっている。
これが普通なのかどうかは分からないが、我が家ではこれがルール。
……まぁ、たぶん普通では無いのだろう。この取り決めがあるから、私は日曜日に友人と遊んだことがない。
友達とカラオケとか、ゲームセンターとか、そういう公共の娯楽施設に行ったことがない。
あ、そういえばこの前、初めて友人とガンプラショップに行ったのだった。
「それでアンナちゃん、今日は"例のアレ"を試してみようと思うんだけどどうだい!?」
「もう出来たの?」
「ばっちりよ!さあラボに行きましょう!」
ちなみに、両親と過ごすといっても、遊んで過ごすわけでは無い。
いや、遊んで過ごす日もあるが、基本的には"ラボ"での実験がメインだ。
父と母はとある研究機関の技術者。研究テーマは"プラフスキー粒子操作技術の転用"だ。
プラフスキー粒子の技術、特に現在世界中で稼働しているガンプラバトルシミュレーターに関する技術はヤジマ・エンジニアリングという会社が開発した。
その内容はプラスチックを動かし、粒子自身も様々な物質に変質することができるというもの。
その技術を転用し、他の分野にも役立てられないかと言う研究だ。
以前、PPSEという会社が独占していた頃に比べれば情報開示されている方だが、まだまだ可能性を秘めた粒子であることに変わりはない。
「粒子で満たされた状態という制約があるが、その中ならどんな物質にもなり得る凄まじい粒子だ!特に医療部門の発展には欠かせないだろう!」
というのが元医療器開発会社の父の意見。
「粒子を凝縮して固める技術はまだ見つかっていないけれど、それが出来れば軽量化と低コスト化も可能よ!持ち運びできるシミュレーターも夢じゃないわ!」
というのが元通信機器開発会社の母の意見。
そして常にこのテンション。二人ともショートスリーパーらしく、まともにベッドで寝ているのを見たことがない。
私もその毛があるらしく、特に高校に入ってから睡眠時間が減ってきている。
とまぁ、こんな両親の影響で私は小学生の頃、無感情無感動無気力な子だった。
そんな私に感情を、感動を、気力を与えてくれたのがガンプラバトルだった。
正確に言うと、中学一年生の時に見たミズシマ・ユウジのガンプラバトル。
生物のように生き生きと動くガンプラ、それを自在に操る少年、そしてその笑顔。
ガンプラに興味を持ち、少年に恋心を抱き、やってみたいと思うようになった。
私の中で、人生が変わった日だ。
ちなみに、それを両親に伝えた次の日に二人とも転職して今の会社に入った。
今思えば、両親が私の変化に合わせて仕事を変えたのかもしれない。
「さあアンナ!これが前に言っていた巨大モビルアーマー……ネオジオングよ!」
ラボと呼んでいる自宅の地下に入ると、巨大な赤いモビルアーマー、ネオジオングが置かれていた。
元々巨大な設定で、1/144サイズのプラモデルでも80cmを超える。
ラボに置かれていたのは、そのさらに倍程度の大きさがあった。
何をしようとしていたかというと……
「さあ!パワーアシストマシンネオジオングに乗り込むのよアンナちゃん!」
ということである。
最近の我が家の研究テーマは、長い入院生活などで筋肉の落ちた患者がリハビリをする際に使用するパワーアシストをガンプラで代用するというもの。
その試作第1号がこれだ。
私がネオジオングに乗り込むと、両親はシミュレーターを起動した。
この部屋の床は金網になっていて、下にはガンプラバトルシミュレーターが敷き詰められている。
つまり、この部屋全体がフィールドになる。
数分の時間を要して、部屋が粒子で満たされる。父親がゆっくりとコントローラーを動かすと、フィールドの中央にいる私が入ったネオジオングが、徐々に動き始めた。
「おぉ……成功だ!ネオジオングの起動に成功したぞ!」
「やっぱりアリスタ事件の資料を取り寄せた甲斐があったわね!プラフスキー粒子で満たされた空間内部でのコントロールの良い参考になったわ!」
ふわりふわりと浮きあがったネオジオングに乗りながら、私は感動していた。
その浮遊感は、体験したことがないけれども、無重力のそれに感じ、ただ重いだけだったネオジオングの手足が自分の手足のように動かせる。
これはガンプラバトルの根幹を揺るがす大事件……
"バツン"
「あ」
「へ」
「ぇ」
突然部屋全体が暗くなり、プラフスキー粒子の放出が止まる。
家族揃って間抜けと言うよりは卑猥な感じにとぼけた声を漏らした後、浮力を失ったネオジオングは50cm程度の高さから落下した。
言うまでも無く、ネオジオングは大破した。私を乗せたまま、ガシャン、と。
「「あ、アンナちゃーーーーん!」」
宇宙世紀なら死んでいたであろうレベルの大破具合のガンプラの中に埋もれた私は、プラスチックのガレキから這い出してきた。
どうやら家のブレーカーが落ちたらしい。
母は慌てて私を助け起こして怪我を確かめ、擦り傷にこれでもかと消毒液を吹き掛ける。
父は家のブレーカーを上げに行って青い顔をして帰ってきた。
「どうしたの?」
「……ブレーカーのメーターが……振り切れてた……」
「「!!!???」」」
電気が復旧した後に確認した所、我が家で飛んでも無い電力が消費されたことによってセーフティーが発動して周囲一帯の電気が止まったとのこと。
そして我が家に見たことも無いような電気料金の請求書が届くことになった。
更に、ガンプラシミュレーターも全滅していることが後で分かった。
どうやら人力でアリスタ事件のような規模のプラスチックを動かすのは、まだまだ難しいようだ。
と、こんな感じで一日中バタバタしているのが、私の日曜日だ。
俺ことアシダ・カイトの一日は、っつーかどこから昨日でどこから今日なのか分からないが、とにかく、俺の日曜日の朝は、艦これから始まる。
っつーか朝から晩までずっと艦これなんだけどな。
と言うと他に話すことが無いので、別のことがあった日のことを話すか。
その日、俺は新しいガンプラを買おうと思ってアナハイムとは別の小さなプラモショップに行った。
そこで俺は見たくない顔を見ちまうことになる。
「おっ、カイトじゃん。久しぶりだな」
「うげっ……シキ……」
ショップの中には、ガンプラを物色中のパーツハンター・シキが居た。
以前アナハイムで開かれた大会で戦って以来、街で目が合う度に挨拶をしてくるようになった。
と言うか、何故かこいつとのエンカウント率が異常に高い。
っつーかコイツ、こんなフレンドリーなキャラじゃなかったろ。
「お前さぁ……何で俺に声かけるんだ?ミズシマにもやってんのか?」
「しねぇよお前だけだ。ミズシマってもう一人のヤツか?あいつの顔も覚えてねぇわ」
「じゃあ何だ、お前俺に惚れでもしたのか?ホモか?」
「惚れてるって言えば、そうかもしれねぇな。ハハッ」
シキの意味深な笑顔にノンケの俺は寒気を覚えて慌てて店を出た。
するとシキは店を出て俺を追ってきた。
「逃げんなって。冗談だからさ」
「いやお前冗談に聞こえねぇよなんだよ気持ち悪いな」
「んなこと言わずにさ、来いよ。俺らの学園にさ」
実はアナハイムで試合をした日、帰りにフードコートで食事をしているシキを発見し、俺は興味本位で声をかけた。
シキは試合の4回戦の会場に姿を現さずに不戦敗となっていた為、何故かと言う内容の質問をした気がする。
だがシキは質問には答えず、俺を見て"お前もそうなのか"と言った。
そしてその後、出会うたびに自分の通っている学園に転校して来いと迫ってくるようになった。
「断るっつってんだろ。ガンプラバトルのために転校するとかバカじゃねぇか」
「珍しい話じゃねーって」
確かに、ガンプラバトルが強い選手は強い監督のいる学校……例えばガンプラ学園とかに転校する話は聞いたことがある。
でも、それはそういう次元の選手の話で、俺みたいな底辺ファイターには関係ないことだ。
……いやまぁ、全日本ガンプラバトル選手権大会の中高生の部ベスト16で底辺っつーのも嫌味っぽいか……
まぁでも、それこそ優勝候補とかでないなら同じこと。
それにガンプラバトルで強い奴が全員そういう学校に行っているわけでもない。
「そんなこと言わずにさあ、お前みたいな奴らには俺らの学園が必要なんだって」
「だからしつこいぞお前!正直俺お前らにボロ負けしたの根に持ってんだからな!」
「そいつはすまなかった。けどお前さ、あんなガンプラ使ってたら当たり前なんだって。ガンプラがお前向きじゃないんだよ」
「っつーかお前さ、俺誘うんだったら俺を負かしたカガミハラ連れ帰る方がいいんじゃないか?俺らの学校に転校してきてから俺らの部活結構めちゃくちゃになってるから、早々に引き取ってくれねぇか?」
「は?あいつお前らの学校に行ったのか?そいつはご愁傷様。あいつマジで学園に迷惑かけまくってたから居なくなって全員ほっとしてるんだぜ」
「ふざけんな引きとりに来い!」
「お前も一緒に来るなら引きとるぜ?」
「……はぁ」
無視だ無視。こういう奴のいうことは真に受けたら負けだ。
俺は買い物先をアナハイムに変更し、歩を進めた。流石に電車に乗ればついてこないだろう。
「なあ、さっきも言ったようにお前は使ってるガンプラが悪いんだって。絶対格闘タイプ使うべきだよ。俺のレッドゲイザー貸してやるよ、ちょっとやってみないか?」
「断る。お前それ誰かからハンティングした奴なんだろ」
「んなわけあるか。これは俺が作った」
「嘘つけVL壊れてるし絶対盗物だゾ」
「嘘じゃねーって!ヴォアは……その、なんだ……バトル中に間違って自分で壊しちまったから……カッコ悪いからつけてないだけだ」
「へっ!?直して使えよ!戦力大幅ダウンじゃないか!」
「いいんだよどうせ殴るだけだから!それに動き回ると邪魔なんだよあれ!」
「そりゃスタゲは格闘機じゃねえからだろ!人にガンプラ合ってないとか言っといてそりゃないだろ!」
「うぐっ、それを言われるとその通りなんだが……」
「なんだよ」
「……好きなんだよ、スタゲ。悪いかよ……」
「い、いや、悪くねえよ」
「……おう」
ようやくシキが言い淀んで会話が途切れた。
しつこく話しかけてくるからついつい応答しちまって、気がつけばずっと喋っている。
というかこいつ、パーツハンターのくせに饒舌だし、好きな機体があってこだわって使ったり、噂みたいな悪列非道な奴じゃないな。
どっちかというとヤンキーだこいつ。
ふと、視界の端に自販機が映る。俺は喋りすぎて喉が渇いていたことに気がつき、炭酸飲料を購入した。
「うげ、黒いのかよカイト。赤いのにしようぜ」
「はぁ!?お前このゼロの濃い味の良さを知らねぇのか!?」
「知らねえよ甘い方がいいだろ。俺は赤にしよっと」
「いや待て!お前に黒の魅力を教えるまで買うのは待て!」
「何でだよ俺は赤いのが好きなんだよ!」
「ゼロ飲んだことあんのかお前!」
「ねえよ!誰が飲むかそんなもん!」
炭酸一本でぎゃいぎゃいと騒ぎ、果てはちょっとした言い争いになり、結局お互いに好きなものを買う。
あれ、これ普通に仲が良い友達じゃね?
「なーなーカイトー、これどこ行くの?」
「……お前なぁ、行き先も聞かずにここまで来るとかバカじゃねえか?アナハイムだよ」
気がつけば俺たちは隣駅、アナハイムの最寄駅まで来ていた。電車に乗って。
「っつーかお前、アナハイム行って暴れるんじゃないぞ」
「誰が暴れるか」
「お前、自分がアナハイムでパーツハントして話題になってたこと知らないのか?誰彼構わず襲ってたんだろ」
「誰がそんな無駄なことするかよ。あれはコー……おっと。こりゃ言うなって言われたんだ」
「?」
「あー、ところで今日は何か買いに行くのか?」
シキが何か含みを持った返答をし、そのことをこれ以上追求するなと言わんばかりに話題を変えた。
どうやらシキにはシキなりにパーツハンターやってる理由があるらしい。
まあ、どっちにしろ関わりたくはないな。
「はー……ったく、マジで来ないわけ?俺らの学園に」
「行かないっつってんだろ」
「でも、来ることになる」
俺の後ろを金魚のフンよろしく付いてきていたシキが、俺を追い抜いて目の前で立ち止まる。
背が低いシキは俺を見上げる形になるが、まっすぐに俺を見つめる瞳が、自分の言っていることが正しいと主張していた。
その視線がなんだかとても嫌で嫌で仕方がないのに、目を逸らすことができなかった。
「お前は俺らと同じだ。いつか俺らと同じじゃない奴らとはいられなくなる」
「なんだよそれ」
「いつか分かる、そう遠くない未来だ」
シキはそう言って駅の方向に向かって歩き始めてしまう。
俺は思わず引き止めようとして手を伸ばすが、その必要は無いことを思い出し、引っ込めた。
去っていくシキから何故か目が離せず、俺はその日、アナハイムに入ることなく、家に帰った。
こんな胸糞悪い日曜日が、あった。
読了お疲れ様でした。
意外と濃い日常を持つ主人公ユウジ君と斜め上の両親を持つ先輩、そして意味深なカイトの話をお届けしました。
書き始めたら意外と長くなってびっくり。
……キャラ掘り下げる話しって、意外と楽しいですね。アンナ先輩の話なんかいっそシャワーシーン入れて先輩の肢体を描写しまくってやろうかと思ったんですが、長くなりそうなんで割愛してしまいました。
次にチャンスがあったら入れようと思います。いやマジで。
次回更新は2/21予定です。