ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- 作:oyakata
その日、都立大岩学園の模型部の部室では選考会が開催されていた。
この選考会の成績が良い者は全国大会へ出場できる。もちろん、勝敗だけが全てじゃない。
撃墜合計や状況把握能力、チーム連携など様々な視点で考慮し、最終的なチームメンバーを決定する。
その為、基本的にチームは実力がバラけるように設定されている。
4月、新入生が入部した時点で3人チームを複数作って経験者と新人を均等に割り振った。
これで実力者は新人のフォローをしてチームプレイを覚え、新人は経験者に手を引かれ、全体的にレベルが上がる。
実際、4月から1ヶ月……今日までは順調だった。今日が終わると五月頭の大型連休。
その最終日に選考会を行い、各自が己の改善点を見つけて、休み中に克服してもらうと言うシナリオだったんだろう。
だがそれは、突如現れた悪魔によって蹂躙された。
悪魔の名前は、
第6話「蝕む翼」
残骸に成り果てたガンプラの山に立つ、一体の龍。
その姿はまるで黒い衣を纏っているようで、心なしか足元から黒い霧のようなものが漏れ出ているように見える。
その異様な光景は、チームメンバーである俺たちにも恐怖を与えた。
『やったぁー!勝ったよ勝ったよ!ユウジ、カイト、見てた!?』
見た目に反し、無邪気にはしゃぐ通信をオープンチャンネルで垂れ流す狂気の龍。
それがカガミハラ・ミズキのガンプラ、エニグマだった。
彼女が大岩学園に転校してきてから、今日で丁度1週間。
転校してきた理由が、なんと俺に会う為だと言うのだから驚いた。
そんな理由で転校してくることもそうだが、それが軽くできるほど、ミズキの家が裕福だったということもだ。
ガンプラを購入した時に持っていた黒色のクレジットカードは見せかけでは無かった。
「ユウジのチームに入ってガンプラバトルやりたい!」
そして模型部に入部した理由はこれである。
模型部員からは、当然恐れられ避けられた。パーツハンターとして顔が割れているし、何より被害者が部内にいる。
当然のごとく、入部したその日にイイジマ・ユキとダイモン・トウキに廊下に呼び出された。
その際、ミズキが腕を離してくれなかったせいで、俺もその場に連行されたのだが……
「私はあんたを恨んではいないよ」
ユキの意外な言葉に、これからここが鉄火場になると怯えていた俺は理性を取り戻した。
「あんたは直接パーツを奪ったり挑発したりしてこなかったし、そもそもダメージレベルAでのバトルも同意の上だった」
ユキの話では、挑発してダメージレベルAの戦いと掛け試合を申し込んできたのはシキの方らしい。
ミズキは終始シキに指示されていただけで、別に恨みはないとのこと。確かに俺たちのバトルの時もそんな感じだったな。
「ユキさんと俺が望んでいるのは、再戦だ。個人を恨んでいるわけじゃない」
「転校してきたのがあっちの金髪だったら、わかんなかったかもしれないけどさ」
ユキとトウキはそう告げ、笑いあった。
二人の顔からは、余裕を感じ取れた。どうやら大会の後に気分を切り替えることができたようだ。
「え~、シキっちは高校には無理だよ~。小学生だもん」
「「「はぁっ!?」」」
「あ。今年から中学生だったっけ」
廊下中、いや学校全体に響くような大声をあげて仰天する俺たち。まさかあの金髪が中学一年生だとは……
「マジでか……中一のくせに金髪に染めてるのか……」
「あ、シキっちはハーフだからあの金髪は地毛だよ」
「しかもハーフ!あっはっは!トウキ!私らの宿敵はハーフの中一だとよ!あっはっはっは!」
ユキはどうにもツボに入ったらしく、腹を抱えて爆笑している。トウキは茫然自失と言った感じだ。
その後、選考会で再戦しようと約束をして、中々良い雰囲気で解散することとなった。
そしてその選考会が今日。
今さっき、ミズキの圧勝で終了したわけだが。
選考会が終わり、各自がシミュレーターから自分のガンプラを回収して作業台へ戻っていく。
そんな中、ミズキと俺の元に先輩が近寄ってくる。
ビルダー志望の先輩は、チームに3人目のミズキが入ったことで、今回から選考会には参加しないことになった。
そして見せたのが、あの実力だ。
チームの輪を乱すようなことやスタンドプレーをすることもなく、事前に決めた作戦通りに事が運び、圧倒的な殲滅力で相手チームを撃墜した。
それも、全試合全てにおいて。個人選手としてもチームメンバーとしても優秀すぎる。
「流石パーツハンターと呼ばれる存在ね」
「えっへっへ~。お褒めくださり光栄の極みですセンパイ!」
「……それはそうと、あなたは何でユウジにくっついているのかしら?」
「反応が面白いから!」
先輩の言う通り、ミズキは俺の腕に手を回してぴったりくっついていた。
これ、今日だけじゃなくて……毎日なんだよなぁ……
教室だろうが部室だろうが道端だろうが駅前だろうがお構いなし。駅前に止まっている黒塗りの車に乗り込むまで、ミズキは一日中俺の腕を掴んで離さない。
1、2日は嬉しかった。正直人生勝ったなくらいの気分だったけれど……3日目あたりから周囲の視線の方が痛くなってきた。
なぜひっついてくるか理由を聞いたら、「私にたくさんの初めてをくれたから」という聞く人が聞くとやばいセリフを吐くので振りほどくのが怖い。
初めてってのは全部ガンプラ関係なんだけどな。
「ユウジが迷惑そうな顔をしているでしょう。離れなさいミズキ」
「え~……ユウジぃ、迷惑なの?」
「えっ、ア、いや、その……」
正直、ミズキって良い匂いするし体温低いからあんま暑苦しくないし……と正直に言ったらミズキは喜ぶだろうが先輩とカイトで白い目で見られそうだし……って言うか先輩まで近づいてきてる……あわわわ。
「ナガサキ先輩もカガミハラもミズシマをいじめるのは止めてやれよ。こいつフリーズしてるぜ」
先輩とミズキにサンドイッチされていた俺を助け出してくれたのは、カイトだった。
ミズキは手を離し、先輩も体を引いてくれた。助かった……。
カイトが王子様に見える……。
「濃厚なホモの気配……!」
「どうしたんですか先輩?」
「ナンデモナイワヨ」
「え、なんで片言……」
「ミズシマ、それ以上は詮索するな。あ、そうそう。カガミハラ、あのガンプラ何なんだ?あの黒いマントみたいな奴」
「あれはマントだよ~?」
唐突に話題転換したカイトが疑問を発したエニグマの正体。それはミズキがタッグ大会の時に作ったダナジンを改修して作成したと言う、黒いマントを纏った紫色のダナジンだ。
本来翼がある部分にマントと鉤爪がついており、不気味さが増している。
「だなじん?だっけ。あれを改造したんだ。モデルはね~、シキが前にやってたモンスターハンターってゲームのゴア・マガラだよ」
「あぁ、確かに似てるわ」
エニグマを掲げて嬉しそうに眺めるミズキ。
普通の発想では出てこない、実際に布を使ったマントの作成。あまりガンダムに馴染みが無いミズキだからこそできたのかもしれない改造に、俺は感心した。
「納得いかねぇ!」
突然、部室に怒号が響き渡る。声を発したのは3年生のサカキ・シンジ。
シンジは模型部の中では少し荒っぽい性格をしていて、稀に部長と口喧嘩になっているのを見かける。
間違えていると思ったら誰の制止も聞かず意見を言ってしまう人だ。
……と、これだけ説明すると熱血漢に聞こえるが、実際の所は”気に食わなかったらとりあえず反発する”と言うはた迷惑な人である。
そして今もそれが発動しているようだ。
「ぽっと出てきてハイ圧勝?っざけんなそんなのアリかよ!俺のチームは今までずっと選考会で優勝だったんだぞ!それを毎回最下位だったチームが優勝?そんなのはチームの力じゃねえ、転校生一人の力じゃねえか!」
その通りである。と言うと俺とカイトの面目が立たないのであんまり強く言えない。
そしてそういう時に怒るのは、俺とカイトではなく、大体が先輩だ。
「私のチームに文句があるなら私が聞きます」
先輩はシンジの真正面に立って俺たちに背の影を落とす。身長差的に全然影落ちてないけど、気分的には悪漢に絡まれた女子高生を助けに現れたイケメン。
……ってあれ、立場逆じゃない?
「そうだよ!文句があるなら私が聞くよ!」
そして更に壁が増えた。いや、シルエット的な話で言うと二人とも山なんだけど。
ミズキの山は攻撃力高いからな。でも大きさは先輩の方が……
「おいミズシマ、鼻の下伸ばしてないで俺らも何か言い返さないと、このままだとマジでヒロインだぞ俺ら」
「カイトみたいなアフロヒロイン需要無いんじゃ……」
「何で俺を攻撃するんだお前は」
女子の後ろでこそこそ話をする俺らを見たシンジが更にボルテージを上げて詰め寄ってきた。
先輩とミズキを目の前にして立ち止まるが、サカキ・シンジの身長は無駄に2メートル。
なんでこの人模型部なんだろうと言わんばかりの威圧感に、流石の先輩とミズキも……
……引いてない!むしろ仰け反って見上げている!あ、胸が強調されて逆にシンジの方が照れ始めた!
「と、とにかく!俺は後ろの雑魚二人が優勝なんてのは認めない!再試合だ!再試合を申し込む!」
「お、いいねサカキ。お前の提案は毎回俺の好奇心を刺激する」
突然会話に藤原啓治みたいな渋い声が混じる。
声の主を探して入り口の方を見ると、そこには顧問の教師が立っていた。
ちなみに名前はアリガ・シンエモン。アリガ先生とかシンさんとか呼ばれている。シンエモンと呼ぶと反応してくれない。
そのアリガ先生が、いつも通り着崩したヨレヨレのスーツで部室に入ってきた。
「俺もそこの転校生の実力は計りかねちゃいたんだ。希望するって言うからナガサキのチームに入れたが……確かに強すぎるな」
「そ、そうでしょう先生!これじゃこいつが入ったチームが勝つに決まってる!」
「おいおいサカキ、常に強気なお前らしくねえな。”俺たちはミズキちゃんには絶対勝てないよぉ”って言ってるのと同じだぞ、それ」
「うっ……」
アリガ先生はサカキの肩をポンと叩いて、ミズキの前に立ちはだかった。アリガ先生は身長190cm。
サカキよりも小さいのだが、威圧感は段違い。見られただけでミズキは俺の背後に隠れてしまった。
ちょっと泣いてる。
「おぉ、すまねぇ。脅すつもりは無かったんだが……どうだいミズキちゃん、再試合しないか?今度は、バトルロワイヤルで」
ざわっ、と、部室が湧いた。先ほどまで負けて落ち込んでいた部員たちも、例外なく目を輝かせている。
これは、もうミズキが嫌だと言っても引けない空気じゃないか……?
「せっかく我が模型部に猛者が入ったんだ、ご指導願わせてもらえねぇか。な、ユウジ」
「え、お、俺ですか!?」
「お前、ミズキのコレなんだろ?いっちょ背中から出してくれねぇかな」
アリガ先生が小指を立てる。ワザとらしく古風なジェスチャーをするのはオヤジアピールなんだろうか。
いや、そういうことじゃなくて、俺はミズキの彼氏でもなんでも無い……!
でもここでそれを言っても解決しないのは明白。
「……はぁ。ミズキ……やる?」
「ユウジも出る?」
「え?いやまぁ、どうせ部員全員参加だろうから……」
「じゃあ、やる」
ミズキはエニグマを取り出し、笑顔で答えた。
ランダムで選択されたバトルフィールドは森。
模型部員が操るガンプラが次々に地面に降り立ち、バトル開始のブザーが鳴った。
『よぉ、聞こえるか参加者諸君。オープンチャンネルから失礼する』
突然浮かんできた通信ウィンドウには、コンソールを握ったアリガ先生の姿が映っていた。
え?先生参加してる!?
『今回のバトルは選考会の一種だからな。評価の方法を発表する。撃墜した相手が今日の選考会で獲得した”評価点”の半分を、撃墜した奴のポイントとして加算してやるよ』
なんかとんでもないことを言い出した。評価点というのは、たぶんこの選考会における順位をポイントに換算したものだろう。
1位になったら何ポイントなのか、マイナスされることはあるのか。そういうのはわからないけれど、やはりそういう評価基準があるってことか。
そしてその点数の半分ということは……現在首位を走るサカキのチームを倒せば、高得点が得られるということ。
だが、首位を取っているのはもちろん”強いから”だ。
バトルロワイヤルだからといっておいそれとやられてくれるわけでは無い。
となると……
そう。今回ポンと優勝してしまった、前回まで最下位だった俺とカイト。
それを狙うのが最も効率の良いポイント稼ぎだ。
……あぁ、俺死んだな。
『悪く思うなよミズシマ!』
「っ、あれは……ゼクミーヌス!?」
木々をなぎ倒して現れたのは、近くにいたゼクミーヌス。ダイモンだ。
ゼクミーヌスは巨大な左腕のクローを振りかぶり、ストライクフリーダムの腕部を狙っている。
どうやら俺の武装はユキから聞いているようだ。アブソーブシールドを物理攻撃で破壊されてしまうと、俺のストライクフリーダムは直ぐにエネルギー切れを起こす。
何とか回避しなくてはならないと、腕を庇って咄嗟に引っ込める。
すると振りかぶられた腕がそのまま足を突き抜け地面に刺さった。
やばい、地面に固定された!
『このまま押し切っ……うがぁ!?』
勝ち誇った声で宣言しようとしたダイモンの声が、途中で途切れた。
何事かと視線をゼクミーヌスの頭部に向けるとが、そこに頭部は存在せず、ビーム跡で抉れた胴体があった。
これは、遠距離射撃で撃ち抜かれたのか?
俺も狙われるかもしれない。
足をビームサーベルで斬り、素早くその場を離れる。
すると先ほどまで俺が居た場所に極太のビームが飛んできた。
『ちっ、回避したか。中々良いカンを持ってるじゃあねぇか』
森の中から現れたのは、無数の砲門を持つティエレンだった。
声の主はサカキ。
「な、何だその武装!?大会規定に引っ掛かるんじゃ……」
『はっ!俺を誰だと思ってるんだ一年坊主が!ギリギリ引っ掛からない範囲でやってんだよぉ!』
凄まじい重武装にも関わらず、通常のティエレンかそれ以上の速度でこちらに接近してくる。
木々がなぎ倒され、土煙が上がる。
「う、うあわあああああ!」
俺の絶叫が、バトルフィールドに響き渡った。
後篇へ続く
読了お疲れ様でした。
タッグ大会も無事終わり、今回から選考会の話に戻ります。
何だかんだと言いながらキャラクターも増えてきましたが、まだまだ掘り下げられていません。
早くちゃんと活躍する場面を作って上げたいです。(と言いつつ再登場した瞬間に大破するダイモン君)
次回更新は2/28予定です。