ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- 作:oyakata
今回はバトルロワイヤルと言うことで、色々なガンプラが乱戦します。対戦カードは……以下の通りです。お楽しみください。
ストライクフリーダムコマンド VS ティエレンフォートレス
ティエレンフォートレス VS ザクコマンドー
ティフシーガンダム VS エニグマ
ストライクフリーダムコマンド VS エニグマ
去年の大会敗退後、俺は作ったガンプラにフォートレスの名をつけた。
理由は敗因にある。
去年の大会の選抜Bチームのメンバーは、俺ことサカキ・シンジと部長とナガサキ・アンナ。
俺は高機動カスタムを施したガンプラを使用していた。
部長は遠距離狙撃を意識したガンプラ、ナガサキは火力に重点を置いたガンプラだった。
バランスの取れたチーム編成で勝ち進んだが、ベスト4で止まったのは、対応力の無さが原因。
相手チームも同じような構成のチームだったのだが、敵はうまいこと位置取りを行い、こちらに不利な状況で1対1の状況を作り出した。
高機動の俺には火力型を、遠距離の部長には高機動型を、火力のナガサキには遠距離型を。
それから部長は1体のガンプラでマルチに対応できるよう、武装の換装システムを取り入れたガンプラを作っていた。
ナガサキは火力重視に加えてパージシステムやゲリラ戦術を学び、戦いに幅をもたせた。
俺はそんな2人を見て、自分のガンプラを高火力の面制圧能力に長けたガンプラに変えた。
2人とも1対1で負けたことが悔しかったのか、個と戦う際の武装は充実したが、チーム戦で多数の敵と同時に衝突した時には対応しきれないだろう。
だから2人が対応できないような敵が来てもそれから守ってやれるガンプラを作り上げたんだ。
高機動カスタムをずっと愛用してきた俺だったけれど、2人と一緒に大会に出て勝ち進むために、拘りを捨てた。
それなのに。
ナガサキはビルダー選考になるからと言ってチームを抜け、一年生とチームを組んだ。
部長は後進に道を譲ると言ってチームを抜け、コスプレ衣装ばかり作っていて選考会すら参加しない。
何なんだ。何なんだよお前ら!
もう諦めちまったのかよ!優勝する為に頑張ってきたんじゃなかったのかよ!
わかったよ。お前らは勝手に諦めてろよ。
俺は諦めねぇぞ……3年生は最後の大会だ。この大会は、選考会でぶっちぎりの成績を残してAチームに入って、優勝まで勝ち進んでやる!
それで道を諦めた馬鹿2人の目を覚まさせてやる!
そう、決めていた。それを、邪魔された。
カガミハラ・ミズキ。お前を倒さなきゃ、俺の夢は叶わない。絶対にぶっ潰す!
バトルロワイヤルが始まって、既に5分が経過していた。
各自初期地点から随分と移動し、様々な場所で戦っている。
だが俺は、未だに初期地点からそれほど移動していない場所で同じ相手と戦い続けていた。
巨大なティエレン……ティエレンを縦に二つ連結したようなシルエットに無数のミサイルポッドと機関銃、ビームバズーカを持つ要塞のようなガンプラ相手に、苦戦を強いられている。
操縦者は、3年生のサカキ・シンジだ。
『いい加減に堕ちろ最下位が!俺はカガミハラをぶっ潰しに行くんだからよぉ!』
「くっ、近づけない……!」
戦い始めてから5分の間、一切途切れない砲火。使用する武装を適切に切り替え、使用していない武装はリチャージを行うことで途切れない砲火を作り上げているようだ。
ティエレンには腕がなく、その代わりに腕のあったところに大容量のミサイルポッドが複数連結されている。あれでは撃ち尽くすことはなさそうだ。
俺は偶に飛んでくるビーム兵器による攻撃をアブソーブシールドで受けて粒子を回復し、回避行動を続けている。
反撃の機会が訪れず、周りの木々が次々になぎ倒されていく。
先ほどからこちらを気にしている様子の別のガンプラもあったが、砲火が凄まじすぎて近づけず、諦めて他所へ行ってしまう。
助けは、期待できない。
『負け続けて避けるのは上手くなってるじゃないか!オラオラ攻めて来いよミズシマ!』
「そんなの……無理だって……おっと……分かってるんでしょサカキ先輩っ……!」
確かに、俺は攻撃を避ける動作が上達してきた。先輩のストライクフリーダム検証に付き合わされ、ここ一週間でストライクフリーダムを使ってバトルをした回数は100回を超えている。どのくらい動けば避けられるのか、最低限のエネルギー消費で済む動作は何か、体が覚え始めた。
けれど、それでどうにかなるのは回避だけだ。圧倒的物量による面制圧攻撃に対しては無力。
この戦いは最初から"戦いのフィールドが違う"。いくら熟練の兵士でも、1人では要塞を破壊することはできない。
『無理と分かっているならさっさとヤられちまえってんだよ!』
『それには及ばないよユウジ』
サカキのセリフに被り気味に通信を挟んできたのは、先輩だった。
次の瞬間、ストライクフリーダムとティエレンの間に照明弾が打ち込まれた。
視界が真っ白になり、何も見えなくなる。
光が晴れた時、ストライクフリーダムとティエレンの間に……ザクコマンドーが立っていた。
「先輩!?」
『ナガサキ!?』
ザクコマンドーはストライクフリーダムの方を見て、視線で逃げるよう促したように見えた。
「……先輩……ありがとうございます!」
俺は一切返事をしない先輩を不思議に思いながらも、その場を後にした。
バトルロワイヤル開始から10分が経過した時、俺の目の前にナガサキが操るザクコマンドーが現れた。
なんだ。選考会に参加していないお前は……ガンプラファイターであることすらやめたお前が、俺の前に立ちはだかる理由はなんだ。
しかし、自然と頬が緩む。そういえば、こいつとガンプラを挟んで対峙するのは久しぶりだ。
「ナガサキぃ……久しぶりだな、お前とやるのは」
『そうですね。楽しみましょう、サカキ先輩』
「抜かせ!」
俺は全てのミサイルを打ち出した。
雨というよりも壁に近い密度のミサイルを打ち出し、ザクコマンドーを爆殺するつもりだった。
だが、そのミサイルの壁を、ザクコマンドーは抜けてきた。
壁の一部にミサイルを撃ち込み、そこをくぐり抜けることにより俺に近づいてきた。
今度は機関銃の連射。これこそ雨と表現するのに相応しい速度と密度を持つ攻撃だったが、ザクコマンドーの装甲が想像以上に固く、ダメージは肩のミサイルポッドを破壊しただけに留まった。
ならばと、俺は突進を開始した。ティエレンの足には装甲の代わりに近接戦用のニードルを取り付けてある。
重さでは勝っている。鋭角のニードルを突きさせば、一撃でガンプラを貫くほどの威力はある。
「これでぶっ壊れろ!」
『やっぱり突っ込んでくるんですね』
ザクコマンドーは突然武装をパージし、それをこちらに投げ込んできた。
ティエレンの足元に落下した武装を踏んで足を掬われることを恐れた俺は速度を落とした。
その瞬間、ザクコマンドーが高く飛び上がった。
「何っ!?」
『その図体では、間に合わないでしょう』
空中でバックパックについていた盾を構え、隠し兵装のビームサーベルを取り出したザクコマンドー。
俺は慌てて機関銃を向けるが、トリガーを引く前に頭上を取られた。
ズガンという音を立ててガンプラの上部に乗られる。
屈辱だ。高機動型を使っている時はこんなこと無かった。
「てめぇ、上に乗るんじゃねぇ!」
『サカキ先輩、やっぱりこういうガンプラ似合ってないですよ』
「うるせぇ!」
俺はザクコマンドーの足を掴んでやった。
『!?』
俺のティエレンには、隠し腕がある。大容量ミサイルポッドの中に隠された腕を解放し、上に乗っているザクコマンドーを引き摺り下ろした。
流石のナガサキも驚いていたようで、あっさりと引き剥がされる。
「俺はお前らが諦めちまった大会優勝を、お前らのバトルを無駄にしないために、このガンプラでやり遂げるんだよ!」
このまま近距離で機関銃を撃ち込んでやろうと銃口を向けるが、その瞬間に正面からミサイルによる攻撃を受ける。
別の敵が近づいてきたのかと視界を広く外に向けるが、誰もいない。
あったのは、さきほどナガサキがパージした兵装。そこからミサイルが発射されていたようだ。
「クソ、遠距離操作か!」
『餅は餅屋ですよ、サカキ先輩。火力支援とミサイル操作では私の方が先輩です』
気がつくとザクコマンドーは背後に回りこんでいて、腕の届かない位置にいた。
ティエレンのような巨大なガンプラは旋回に時間がかかる。
背後を取るのは定石だ。だからこそ、対策はしてある。
「そっちも"正面"だぜ、ナガサキぃ!」
『!?』
背面のティエレンの胸部付近のカバーが外れ、隠しカメラが機動する。
カメラに映るザクコマンドーに向け、隠し兵装であるヒートナタを取り出して斬り掛かった。
ナタはザクコマンドーの右腕と左足に突き刺さった。これで満足な機動はできないだろう。
「近接は甘いなナガサキ。ビルダーなんかに逃げたせいで、腕も鈍ってるんじゃねえか?」
『やっぱりサカキ先輩は近接武装の方が似合ってます』
「しっつけぇなお前は」
『……私も部長も、悪いことをしたと思っているんです』
ナガサキは声色低く語りかけてきた。なんだよその声と顔は。涙目になってんじゃないかお前。
『私がビルダーを選んで、部長もチームを抜けて、サカキ先輩はベスト4入りした世代で唯一残っている現役のファイターです。きっと、また好成績を残さないといけないと思いつめて、大好きだった高機動型のガンプラを封印して、火力支援型を使っているのではと……部長とこの前話したんです』
思いがけない言葉だった。
二人は全国優勝を諦めたから、俺のことなんて見ていない。そう思っていた。
とても、嬉しい。
けれど。
俺はここで喜んではいけない。
今の俺は、二人が諦めた夢を追う人間なんだ。夢を諦めた人間に慰められるわけにはいかない。
「っだからしつっけぇっつってんだ!俺は別に高機動型を封印したわけじゃねぇ!今は火力支援型を使っているってだけだ!」
『え?』
「今の俺のチームには、この構成が一番合ってるんだよ!だから高機動を使うべき時は、使う!」
嘘だ。意地を張っていた。
けれど今、意地を張る理由は無くなった。
だから精一杯強がって、この場を乗り切ろう。乗り切ったら、下手な意地なんて張らず、また研鑽を積もう。
夢のために。
「さぁて、そんじゃあ最後と行くかナガサキぃ」
『……はい。サカキ先輩が腐ってなくて良かったです。考えてみれば変な意地張ったり口が悪いのは元々でしたね。すいません』
「誰が性根が腐ってるだクソが!次に生意気言ったら後輩だろうと容赦しねぇぞ!」
『性根のことまでは言ってませんよ。思ってはいますが』
「ぶっ潰ーっす!」
俺の怒号とナガサキの軽口は、バトルロワイアル終了まで戦場で火花を散らし続けた。
上空にコアスプレンダーが飛んでいるのが見えた。
恐らくアレは先生……シンさんのガンプラだろう。
詳しい話は知らないが、アリガ・シンエモンと言えばガンプラ界ではちょっとした問題児らしく、マトモに大会に出ないのに実力は相当上の方で、非公式で色々と伝説を残しているらしい。
今回も高校生に混じってバトルに参加したかと思ったらコアスプレンダーで高みの見物。噂通りマトモじゃなさそうだ。
「っつーか呼び方が色々ありすぎてわかんないんだよな……ナガサキ先輩とかガンヲタはアリー・アル・サーシェスに似てるからってアル先生って呼ぶし、上級生はみんなシンさんだし真面目や奴らはアリガ先生だし……っと、言ってる場合じゃないか。俺もそろそろ動かないとな」
俺はWOヘッドを開き、ティフシーガンダムを立たせた。
森が深いおかげで伏せればガンプラを完全に隠すことができたので、隠れて周囲の敵影を確認していた。
ビットが届く範囲を調査できればと思っていたが、思いの外フィールド全体を把握することが出来た。
今、フィールドの東側ではサカキ先輩とナガサキ先輩が戦闘中。何でナガサキ先輩が参加してるのかはわからないけれど。
俺の位置はフィールドの西側。丁度真反対の位置だ。参加者の大半が南の方に集中してるみたいで、そこでは反応が次々に消えていく。
北側には……
「おっ、イイジマ先輩とミズシマが居るな。近くに居るのは……カガミハラか?それと後3人か……」
レーダーを見て数を確認した次の瞬間、ミズシマとカガミハラ以外の反応が途絶えた。
一瞬で全て消えたとかならレーダーの故障かと疑ったかもしれないが、カガミハラに近い反応から、順番に一つずつ消えていった。
いや、一番遠かったミズシマが辛うじて残った、と言う感じかもしれない。
「……今、何が……!?」
フィールド北側に視線を向けると、禍々しい黒い霧が充満していた。
霧は木々の間を抜けてどんどんフィールドを侵食していく。
触れたらどうなるか分からない。俺は慌ててティフシーガンダムを上空へ飛ばした。
「ミズシマ、聞こえるか!?その霧なんだ!?」
『カイト!?そ、そうだカイト、今すぐフラグシップ化して!早く!』
「?お、おぅ!」
俺はティフシーガンダムの周囲のプラフスキー粒子を金色に光らせる効果エフェクトを発生させるFlagShipを起動した。
周囲が金色に光る。
その発光エフェクトが黒い霧に触れた瞬間、プラフスキー粒子が弾けた。
「な、なんだ!?」
『たぶんこの霧、カイトのフラグシップと同じだ!粒子を変質させてる!これで周りの人が全滅した!』
「全滅……!?」
恐らく、この霧の中に入るとガンプラを動かしている分の粒子までも霧になってしまうのだろう。
霧に飲まれたら、ただのプラスチックに戻りって終わりってことだ。
「なんでミズシマは平気なんだ!?」
『アブソーブシールドで霧になった粒子を吸収して動力にし続けてる!でも、あんまり長く持たない!』
そう言った瞬間、ミズシマとの連絡が途絶えた。と同時に、霧が揺らめいた。
俺は霧の向こうから何かが向かってくるような予感がして、WOヘッドを被って防御の体勢を取った。
次の瞬間、霧の中からエニグマが現れて俺をマントに包んで引き込もうとしてきた。
「うおぉ!?」
『あれ?動けるの?その光で防いでるのかな?』
無邪気なミズキの声が聞こえてきた。
エニグマはマントから黒い霧を吹き出してティフシーガンダムに吹きかける。まるで俺の光をかき消そうとしているみたいだ。
『ありゃりゃ、相殺されてる。同じ原理で光ってるんだ、それ』
「ちょちょちょっちょま、まっまっまっまままー!」
光と霧がぶつかった部分で連続して粒子が弾ける。まるで爆竹がずっと鳴り続けているような状況に、俺はどうにか離れようとブーストをふかした。
だが、爆竹の音は鳴り止まない。
エニグマが、ぴったり後ろを付いてくる。
「痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い……ってぇっつってんだろーが!」
『きゃあ!?』
叫んだ瞬間、フラグシップの光が強まり、霧どころかエニグマすら吹っ飛ばした。
俺は驚いて周囲を見回す。
光が、通常の3倍くらいの大きさになっている。こんな機能はつけていない。
「……でも、これなら押し返せっ……痛って……?」
体に違和感を感じ、腕をまくって見る。すると、肌に若干の火傷の後があることに気がついた。
まるで大量の爆竹を投げつけられたような状態だ。さっきまでこんなの無かった……
「……え、何これ?」
『よーし勝負だー!』
自分の体を見ていて、エニグマが迫ってきた際に反応が鈍る。
マントの中から伸びてきた爪が顔パーツに直撃した。
その瞬間、顔面に激痛が走る。
「ぬっぐ……何のぉ!」
俺は気合で操作パネルを操作し、ビットを呼び戻して神風特攻剣を作った。
いくつかは霧に触れてしまったらしく、本来の長さの半分程度にしかならなかったが、十分だ。
振りかぶってエニグマに向かって斬りつける。エニグマは回避のために身を引き、そのまま霧の中へと消えていった。
だが、今のこの状況ではカガミハラお得意の不意打ちは使えない。なにせ、近づけばその瞬間に爆竹が鳴るのだから。
「こりゃいい!お前の特技はお預けってことだな!」
『むむー、霧が出ればもっと不意打ちしやすくなると思ってつけたのにぃ~』
確かに、時と場合によるんだろうが、この霧は凄く有用な兵装だ。
カガミハラお得意の死角からの攻撃との相性も抜群だ。
だが、俺のように周囲の粒子に作用するような兵装との相性は悪い。
"霧になれ"と言う命令と"光になれ"という命令が重なった空間にある粒子は双方の命令を無視して透明になるらしく、その際に軽い衝撃波を発生させている。
プラフスキー粒子の特性をより深く理解した者が勝つ……まさにその通りの状況だなこれは。
「さあ、どっからでもかかってこいやぁ!」
『はい捕まえたー!』
「へ?」
ティフシーガンダムの背後から腕が伸びてきて、がっちりホールドされる。
見るとエニグマは霧を出していない。
『霧を出さなきゃいいだけで、霧なんて無くても近づけるしー?』
「し、しまったぁぁぁああぁあ!」
俺は叫びながらエニグマに霧の中に引きずり込まれた。
最初の方は爆竹の嵐に投げ込まれたような衝撃に襲われたが、そのうち周囲を漂う霧の量を捌ききれなくなり、沈黙した。
腕一本動かせない。敗北だ。
『にっひっひー、私の勝ちー』
「うぐぐ……体めっちゃ痛ぇ……」
どうやらこの霧はカメラ機能に回している粒子までをも侵食するようで、画面が暗くなっていく。
ブラックアウト寸前の世界に映るエニグマは、まさに悪魔のそれに相応しかった。
だが、視界が完全に黒に染まる寸前、霧の中で光る物が見えた気がした。
カイトが負けていた。
かろうじてアブソーブシールドで生き繋いでいたストライクフリーダムを歩かせてカイトの居る場所に向かっていた俺の目の前に、ティフシーガンダムとエニグマが落ちてきた。
エニグマは動いている。ティフシーガンダムは沈黙している。
「やっぱり強い……ミズキ」
『ユウジ!まだ生き残ってたんだね!まだ戦えるなんて嬉しい!』
「……俺はちょっと苦しいかな……はは……」
無邪気に開戦宣言したミズキは俺に飛びかかってきた。まずい、今のエネルギー量じゃ瞬殺だ。
俺は慌てて反転して走った。
アブソーブシールドに触れた霧は粒子に変換される。だから走ってシールドに触れる霧の量が増えれば、その分回復速度が上がる。
『むむー、逃げるなぁ!』
「嫌だ、逃げる!」
『無理でーす!』
一瞬で近づいてきたエニグマに、背後からのしかかられる形で押さえつけられる。
そして霧を噴射されてしまう。
「うわああ!」
『ふっふーん。どう、私の考えた"黒蝕流"の威力は?強い?』
黒蝕流。たぶん、元ネタにしたっていうゴア・マガラの黒蝕竜って呼び名をもじった攻撃なんだろう。
そりゃあ強いよ、さっき俺の周りの人たち全滅したし!
でも、俺やカイトみたいにプラフスキー粒子を変換させる機能を持たせたガンプラならかろうじて耐えられることは分かった。
っていうか、そうでもしないと手が出ない。
「と言うか、この霧の量はおかしくない!?フィールドの1/4は侵食しているよ!?」
『粒子変容の基本が分かっていれば誰でも作れるマントだよー、こんなの』
エニグマは更に霧を吹き付ける。もうダメだ。腕一本どころかカメラ機能まで動きが鈍ってきた。
視界に映るエニグマが霞んでいく。
強い。このままでは、負ける。
でも、別に負けても俺の評価点がミズキに加点されるだけ。チーム内で点数が動く分にはあまり意味はなく、俺が倒されても大会出場の競争には関係ない。
カイトが負けたのだってそうだ。チーム内でのポイント移動ならそんなに心配することはない。
無い、けれど……
このままミズキに負けたら、本当に"ミズキの後ろの馬鹿"になってしまう。
踏ん張れ。踏ん張れなきゃ惨めで格好悪いだけだぞ。
「っこ、のぉおおおぉ!」
『うぇ!?なんで動けるの!?』
俺はアブソーブシールドを全開にして腕を突き出した。霧が吹きかけられ、その大半を吸収することに成功する。
漂う霧をかき集めていた時と違い、吹き付けられた霧を吸収した今、ストライクフリーダムのエネルギーは満タンに近い数値になっていた。
だが、この霧の中で行動し続ければ、また粒子がなくなってしまうだろう。
いっそのこと、全て吸収できたら……
「……そうだ!」
『うわっ!?』
俺は勢い良くブーストを吹かしてエニグマの拘束から逃れ、霧の中を両腕を前に突き出した状態で飛び回った。
若干消費量の方が吸収量よりも多いが、この霧全てを吸収した方が、事を有利に進められる!
俺はデタラメに、でもなるべく霧全体を吸い込めるように動きまわる。
……なんか今、自動掃除ロボの気持ちが分かった気がする。
全力でブーストを吹かしていたので、然程時間を掛けずにほぼ全ての霧を吸収することに成功した。
あと残っているのは、エニグマ本体から出ている霧だけだ。
「ミズキは、どこに……」
『ここだよぉー!』
エニグマは、俺の真後ろに居た。俺が霧を消した後に、再び霧を生成している。
いつの間に、と言う暇も無く追いつかれ、マントで覆われる。
霧がガンプラ全体を包み込むが、器用に腕の部分だけをマントの外に出してアブソーブシールドで吸収されることを防いでいる。
「うぐっ!?」
『いや~、勉強になったよユウジ。やっぱりユウジは私に色々なことを教えてくれるね。あんなお掃除上手だなんて思わなかったよ。だから今度は、掃除機の無い所を一気に染めてあげる!』
流石にこれは防げない。もうダメだと諦めた時、突然エニグマにビームが撃ち込まれた。
何事かと周囲を見回すと、ティフシーガンダム、ブレイヴGO改を含める、先ほど霧に飲まれた人たちのガンプラが周囲を取り囲んでいた。
『え!?何で!?ガンプラが動かなくなって、もうバトルから抜けたんじゃ……!?』
『画面にLOSEとは表示されていなかったからな。誰か霧を晴らしてくれるんじゃないかと、ずっと待ってたんだよ』
真っ暗な空間で、誰が助けてくれるかも分からない状態で、ずっと待機していたのか。
それは、みんな相当に辛抱強いな……!
『しっかし良くやったねミズシマ!お礼を言うよ!さあ、先ずはあのバランスブレイカーからやっちまうよ!』
「ユキさん……はい!ミズキ、覚悟!」
『えぇええぇ!?みんなで私狙うの!?なに、私そんなに悪者なの!?』
『ガチでモンスターなんだよお前は!』
ゴア・マガラ……いや、ミズキ・マガラを討伐すべく、ファイター……いや、ハンターである俺たちは連携しての攻撃を始めた。
エニグマが霧を出したら俺のアブソーブシールドかカイトのフラグシップで弾く。
遠距離でユキさんのオルトロスが唸り、近距離で他の3人の攻撃が炸裂する。
流石のミズキも多勢に無勢、数分の激闘の後、討伐となった。
って言うか1対6の戦力差で数分持つって……やっぱモンスターだな……
『ふえぇええぇもうやだぁあぁぁあ』
断末魔を上げて森へと落ちていくエニグマを見送り、俺たちは勝利を確信した。
そしてそれと同時に、再びバトルロワイヤルが再開された。
撃って撃たれて斬って斬られて、恐らく然程実力に差が無い、バトルロワイヤルらしいバトルロワイヤルが行われ、タイムアップで試合が終了した。
バトルロワイヤルが終了し、部内では互いを励まし合う声や反省会を開く部員でごった返していた。
選考会終了直後の、ミズキの強さをどうにかしないと、と言っていた雰囲気はなくなっている。
何せミズキは倒されたのだから。倒せるのだと証明されたから。
たぶんアリガ先生はこうなることを見越してバトルロワイヤルを提案したのだろう。
ちなみに俺の戦績は討伐数0。
カイトは最後のバトル時に2人落として2。
ユキさんは俺たちと会う前も含めて6。
トウキは本当に最初に落ちたのでこちらも0。
ちなみにシンジ先輩は何故か乱入してきた先輩とずっと一騎打ちしていたらしく、最初のトウキを倒した1のみ。
だけど何か嬉しそうだった。
ミズキは霧で行動不能にしていただけだったので、討伐数は0。
実は落とされた人はあまり多く無いようだった。
「さすがアリ先生。ちゃんと一年生の実力も均等に上がってるのね」
「ははっ、フィールド上空から見させて貰ってたが、中々良い仕上がりだったぜ。特に、ミズシマ」
「え?俺ですか?」
バトル後に親しげに話していた先輩とアリガ先生に声をかけられ、少し驚きながら近づいていく。
「最初のバトルロワイヤルの日の夜、お前とナガサキのバトルを見て予感はしてたんだよ。お前は中々キレる選手になるんじゃないかってな」
「は、はぁ」
慣れない褒められ方をしてどう反応しようか困っていた所に、ミズキが飛んできた。人間魚雷とでも言わんばかりにえらくエグい角度で頭からわき腹に突っ込まれて俺は肺の空気を吐き出して悶絶した。
「ぅぐはぅっ」
「酷いよユウジー!私も最後まで戦いたかったよー!」
「お前みたいなマップ兵器を最後まで残しては置けないでしょ。ほら離れてやりな、ユウジが死にかけてるよ」
「うぅぅ、ユキが冷たいー!」
ミズキをひょいと俺からひっぺがしてくれたのは、ユキだった。
お礼を言おうとユキの方を向くと、ユキの向こうに死にそうな顔をしたトウキがいることに気がつく。
「え?ど、どしたんですかトウキさん!?」
「あー、トウキな。開始30秒でサカキの奴に撃ち抜かれてただろ?落ち込んじゃってさ」
「……俺は、ダメな男なんです……ダメ男なんです……うおおぉおおぉお」
「男泣き!?」
「あーもうみっともないんだから……ほら元気だせ」
右手でミズキを諌め、左手でトウキを慰めてる……ユキさんの姉御属性半端ない……
と、そんな感じでバトルロワイヤルの結果について話し合っていると、パンパンと乾いた音が部室内に響く。
アリガ先生が手を叩いたようだ。
「さぁーてぇ、今日の部活はお開きだ。お前ら忘れ物しないように帰れよ。楽しい楽しい、ゴールデンなウィークが待ってるぜ?」
アリガ先生のことセリフに促され、次々に帰り始める部員たち。
俺たちも挨拶をして、部室を去る。ふとカイトが居なくなっていたことに気がついたが、メールに「ブラウザゲームのイベント期間だから先帰る」と言う連絡が来ていた。
何も告げずにいなくなるのは珍しいが、まぁカイトだし心配ないだろう。頑張って、と返信しておいた。
学校を出て帰路を進むと、部員が散り散りになっていく。
俺と先輩は駅前の住宅街、ミズキは駅前に迎えの車。シンジは駅前のマンションに、イイジマとダイモンは駅の反対口に住んでいるらしいので、何となく固まって駅前まで歩いてきた。
このまま解散かな、という雰囲気になった時、ダイモンが声を上げた。
「皆さん、休みは予定あるんですか?」
ダイモンの質問に、みんなそれぞれの予定を告げていくが、特に大きな予定を持つ者はいなかった。
そこでダイモンは提案する。
「休み中、1日でもいいんで、遊びませんか?思えば4月の土日はずっと選考会の準備とかタッグ大会とかで全然遊べていなかったし、せっかく皆さんとも友達になれたので……」
「いいねぇ、私からも提案するよ。トウキお得意のボーリングにでも行くかい?」
「ぁ?ダイモンはボーリングやんのか。俺もやんだよ。もちろんスコア200以上だろうな?」
「え!?サカキ先輩もやるんですか!?い、いや、200なんてそんな……たまにしか行かないです」
「っしゃ勝負だ。おいナガサキ、お前も来い!いつだったかお前に教えるって言ったけど来た試しねぇだろ!」
「……シンジ先輩のボーリングって何だかねっとりしてそうで見る気になれないです」
「おいてめぇぶち殺すぞ」
「ユウジも来る?」
「うん。カイトにも連絡しておくね」
「聞いてんのかゴラぁあぁぁ!」
「ユウジ私も行く!何なら家にあるボーリング場でもいいよ!」
「家にボーリング場あるの!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、互いに休み中に遊ぶ内容で盛り上がった。
この時はまだ、休み明けに起こる大事件のことを、微塵も予感していなかった。
第6話「蝕む翼」 -完-
読了お疲れ様でした。
今回は予想よりも長くなってしまい、少し削ったり何だリして大変でした……
さて、実はここまでで1カ月。4月が終わり、5月が始まります。
さしずめ4月編とでも言いましょうか。
5月から新キャラが更に登場し、それで一応メインとなるメンバーが揃う予定です。
次回更新日時は3/13予定です。
追記:諸事情により更新が少し遅れます。16日には……なんとか……