ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- 作:oyakata
スピーカーから流れた下校時刻を知らせるチャイム音を聞き、私たちは帰り支度を始めた。
ガンプラをケースに詰めて鞄に入れて、模型部の部室を出る。
「スイラン、いつまでこのような無駄な行動を行わなければならないんだ?」
「ハク、前にも言ったけれど、私たちは……」
「シロ、いいですよ。正直私も疲れていまス。真面目に部活に参加していないと、シュセキ率を理由に代表を取り下げられるかもと思い毎日部室で練習していますが、正直に言えば自宅の設備で練習したほうが効率が良いです」
「……?あぁ、出席率の事か。シュセキ率」
「う……また噛んでしまいましタ」
スイランは真っ赤になって俯く。スイランは父親が中国人で、実家が本場中国人向けの中華料理屋。
日本語よりも中国語を聞いていることが多かった環境の為か、句読点や促音が苦手だ。
「区切る溜めるの表現が難しいですね日本語は……」
「ミーラヤ、スイラン。とても日本語上手くなったと思いますよ~」
シロはスイランの頭を撫でる。それに倣うようにハクもスイランの頭に手を乗せる。
「うむ。シロなどはロシア語が混じるし、私はこの通り口下手。時代劇を見て日本語を覚えたせいで時折普段使わないような言葉が混じってしまうし……」
「私たち3人とも日本語は何か苦手意識があるんですよね~」
「ちょ、ちょとお前たち……わ、わ、やめ、ロ~」
スイランは双子に撫でまわされ、まるで猫のようにもみくちゃにされる。
身長差もあり、本当に愛でられているようにしか見えない。と言うか実際にされている。
「もう、前にも言いましたがガコウではこういう事はやめて。こういうのあんまり先生に見られるとマイナスの印象を……」
「リーブリッシュ!よいではないかよいではないか~」
「ほれ、もっと近こう寄れ近こう寄れ」
「悪代官とよろず屋かお前ら!やめてくレ~!」
シロとハクは、スイランにとって家族も同然。
スイランには5歳差の兄がおり、兄がガンプラバトルを始めた時に一緒に始めた。
しばらくは4人で遊んでいたが、兄には才能があった。
とある施設からスカウトが来て以来、一緒に遊ぶことは無くなってしまったが、スイラン達はガンプラバトルを止めなかった。
単にガンプラバトルが好きだったことと、止めてしまったら、兄との思い出が無くなってしまうような気がしたからだ。
「……グーグも、この場に居たら良かったのに」
「スイラン。義兄の話は、しないと約束しただろう」
「スタールシィブラットが部屋から出てこられるように、私たちが世界の舞台に立つって言ったのは、スイランでしょう?」
とある事件がきっかけで兄はガンプラバトルに恐怖を抱き、心を閉ざしてしまった。
今では……自宅に引きこもって部屋から出てこれなくなってしまっている。
そんな兄との約束である『いつか4人で全国へ』と言う約束を果たす為、私たちは乗っ取りのような手法でこの学校の代表を奪った。
私たち3人が全国へ行けば、後は兄が加わるだけ。この思いが勝手なお節介なのは分かっている。
けれど、私は家に帰ったら毎日欠かさず兄の部屋の前でその日の成果を報告している。
全国行きのチケットを手に入れたら、兄の部屋の前で、部屋を出て一緒に戦って下さいと言いたい。
「私の家族の問題に、シロとハクだけでなくガコウまで巻きこんでしまって、申し訳無イ気持ちで……」
「否、スイラン。ガンプラバトルは競技種目。より強き選手が上の舞台へ上がって行くのは当たり前のことだ。他者に罪悪感を抱く必要は無い」
「ハクはもうちょっと他人を気にした方が良い気もしますが、その意見には同意です。スイラン、私たちはスタールシィブラットの為に戦っているのでは無いですよ。私たちは、私たちが高みへ上る為に戦っているのです。何もおかしいことはありません」
シロとハクはスイランを抱き締め、スイランもその身を委ねた。
放課後の部室、夕日が赤みを失うまで、その抱擁は続いた。
前回の選考会から2週間後の金曜日。
悪の三兵器、もとい悪の三女が転校してきてから初めての選考会が始まろうとしていた。
「あー……まぁ、出場チームが3チームだから、総当たり戦な。じゃま、頑張れ」
アリガ先生は頭をポリポリと掻きながらそう告げ、パイプ椅子に座って観戦モードに入ってしまった。
転校生に貶められ選考会の主導権を奪われてから、アリガ先生はずっとこんな調子だ。
顧問のアリガ先生がこんな調子じゃ、転校生を打倒しても選考会の主導権を取り戻すことは不可能なのではないだろうか。
「大丈夫。アル先生はチャンスを逃すような人じゃない。俺達が勝てば、校長に掛け合って今の状況を変えてくれるはずだ」
部長がそう言い、席を立つ。
最初は部長率いる元BチームVS転校生チームで戦う。
部長は、自分たちのチームが囮になって相手の手の内をなるべく引き出すから、俺達1年生チームに頑張れ、と言っていたが……
正直、部長達が負けたら俺達が勝てるとは思えない。
それほどまでに、部長たち3人は……強かった。
「凄いよね~。部長さんが本気で来た時なんか一瞬で吹っ飛ばされちゃったしー。ナガサキ先輩も、何でガンプラバトル止めたって言いだしたのか分かんないくらい強いよね」
ミズキが俺に話しかけてくる。
そう、俺とミズキ、そしてカイトのチームは2週間の間、元Bチームとずっと訓練していた。
ミズキ一強だった俺たちのチームは、初めて"チーム戦"を経験した。
役割分担、連携、指示、救援、支援……今まで何となくこなしてきた3対3が、常識から変わる程のものだった。
俺達からしたら、強さのその先に君臨する元Bチーム。
そのチームと、同じかそれ以上に瞬殺されて実力を測れなかった転校生チーム。
この試合をしっかりと目に焼き付けなければならない。
「ユウジ、始まるぞ」
「……うん」
カイトに促され、俺たちはシミュレーターの横に立った。
先輩達がガンプラを用意しているのが見える。見慣れたザクコマンドー、ティエレンフォートレス、そして部長の新作ガンプラ。
訓練中も何度かマイナーチェンジを繰り返し、完成したのは昨日の夜とのことなので、最終的にどんな風に仕上がったのかは分からない。
対する転校生チームも、ガンプラを取り出している所だった。
ティエレンタオツーの改造機、アストレイブルーフレームの改造機、ガンダムエアマスターの改造機。
以前の戦いでは細部を見る暇も無く落とされてしまった為、まともにそのガンプラを見たのは始めてかもしれない。
タオツーの改造機は、足をホバーに変更し大型のバーニアを背負った、オリジナルを超える近接特化のカスタマイズ。
ブルーフレームの改造機は、背中に大型キャノンを装備した中距離型のカスタマイズ……に見える。腰にはガーベラストレートに見える黒色の日本刀が装備されている。
エアマスターの改造機は、脚部がまるごとブースターになっており、空中戦闘特化型のようだ。ここからだと遠くて見えないが、自立も可能なようだ。
「さて、3人方。いきなりで悪いんだけれど、今回から選考会に参加することになった部長のナツモリ・トモリだ。よろしく」
「あら部長サン?今まで出場していなかたのね」
「ヴィルクリッヒ!スイラン、あの人は去年のベスト4の選手よ!」
「大会の最初の試合で1人で3体を撃ち抜いた猛者か。失念していた、この学校であったな」
3人は部長の顔を見て、去年の試合のことを思い出したようだった。
と言うか、部長って思っていた以上に凄い戦績持ってるっぽいな……
「挨拶も済んだし、始めようか」
プラフスキー粒子がシミュレーター上を満たし、6つのガンプラが降り立つ。
そこは荒野。
互いの姿が既に見えている状態からの戦闘開始となった。
まず最初に動いたのは、スイランのガンプラだった。
「いくよティエレンシェンフー! ハクとシロはカバー!」
「御意!行くぞガンダムアストレイムラマサフレーム!」
「ダー!ガンダムフォルトゥーナ、ゴー!」
弾丸のごとく、まるで弾かれたように前進を始めたスイランのガンプラ・シェンフーは、先輩のザクコマンドーに向かっていた。
ハクのガンプラ・ムラマサフレームは部長のガンプラに、シロのガンプラ・フォルトゥーナはティエレンフォートレスに。
どうやらこの中で最大攻撃力を誇るシェンフーが一機確実に仕留める間、他を抑え込むと言う戦法のようだ。
「最初に選んだのが私か。なるほど、私がどんなスタイルなのか分かっているみたいだ」
先輩のザクコマンドーは、長く戦場に留まりトラップを仕掛けたり味方を援護することに特化したガンプラだ。
それを早々に見抜き、最初に仕留めに行ったのだろう。
シェンフーの突撃に対し、先輩のザクコマンドーは……前進を始めた。
「回避しない!?」
「これが大会なら、ミサイル誘爆させて一緒に散っても良いのだけれど……今はユウジが見ているからね。情報を残して行かないと」
ザクコマンドーは突進してくるシェンフーに向かって、更に加速した。
ゲルググレッグのブースターの出力を限界まで高めて地面を蹴り、凄まじい早さで斜め上に飛び上がる。
それは突っ込んで来るシェンフーの、丁度頭上を飛び越える形となった。
「まさか自分からツコンで来るなんて……初めてだよこんなノ!」
上を取ったザクコマンドーは足元に向かって出鱈目にミサイルを撃ち込んで来る。
シェンフーは飛び越えられた瞬間に反転し、迫りくるミサイルを全て弾いて接近する。
「なっ、そんなに分厚い装甲をしているはず……違う、装甲で弾いているんじゃない……」
スイランはシェンフーの肩にあるピンポイントシールド、ビームライフルについているブレード、膝についているモールドなど、角度のついた部位で器用にミサイルの軌道を"逸らして"いた。
それを突進するのと変わらぬ速度でやってのけ、ザクコマンドーに迫ってくる。
「無茶苦茶な反応速度……これが"持ち味"と言う訳ね」
「まさかこんな考えなしな攻撃の為ニ正面から勝負を挑んだ訳じゃなイでしょう!」
シェンフーはブーストが切れて着地する寸前を狙いつつ、ビームライフルでザクコマンドーを狙う。
ザクコマンドーはシールドでビームを防ぎながらブーストを続ける。
しかし何の前兆もなく突然ブーストを切り、シェンフーの眼前に降下した。
「何ヲ!?」
「それじゃあパワーはどうかしら」
先輩は突進してきたシェンフーに正面からぶつかり、受け止めた。
互いのガンプラから激しくプラスチックが削れる音が聞こえる。
どうやら先輩はシェンフーの出力を見極めようとしているようだ。
「なるほド、勝負を完全に捨テ、データの収集に集中しようと言ウのね。なら、早々に決着を付けなくちゃ。思い通りにさせると後が怖イもの」
「思い通りにさせてもらうわ。その為の私だもの」
ガンプラの強さは、ガンプラの出来の良さで決まる。
いくら凝った改造をしても、いくら状況に合わせた改造をしても、合わせ目消しや塗装など完成度を上げる加工を行っていなければ出力が上がらない。
今のように両腕で組み合った状態であれば、その差が顕著に表れる。
そしてその結果、互いのガンプラのパワーは均衡していることが分かった。
「いいガンプラね、このザク」
「そっちも」
互い、手を離した瞬間から至近距離でのビームライフルの撃ち合いを始めた。
向けられた砲身を自分の砲身で押しのけ、向けられた砲身を腕で押さえこみ、新たに狙いを付け、半身ずらして回避して、再び砲身を向ける。
まるでダンスを踊っているような動きに、残り4人は手が出せない。
「チョルト……あれでは手が出せません。スイランが負けることは無いでしょうが……」
「手なんか出させねえよ!」
「むぅ、貴方もしつこいですねぇ」
フォートレスと対峙したシロのフォルトゥーナは、フォートレスの猛攻の中にあった。
圧倒的物量で範囲攻撃を繰り返すティエレンフォートレス。
そしてその全てを回避しているフォルトゥーナ。
互いの力が完全に拮抗しているスイランと先輩との戦いと違い、フォルトゥーナはフォートレスに一方に攻撃されていた。
だがその全ての攻撃を交わしている。
一見すればシロが苦戦しているように見えるが、サカキの目的はフォルトゥーナの実力を推し量ること。
フォートレスは自然回復のみだけで一切の隙無く範囲攻撃を繰り返すことができる。
だがそれではフォルトゥーナの実力を測ることは出来ないし、恐らく他の2人が応援に来てしまうだろう。
今回は勝利ではなく、相手の手の内を見ることに専念しようと、ナガサキも部長も決めていた。
だから恐らく2人は勝たない。このままでは応援が来てこちらが押し負ける。フォルトゥーナの実力が見えないままだ。
「それなら……こっちから仕掛けるぜぇぇぇぇ!」
サカキは継続攻撃を止め、全弾幕を撃ち出した。
まさに壁と言った物量のミサイルが、フォルトゥーナを襲う。
「ウージャス!!」
シロが悲鳴に近い声を出し、ミサイルの中に消えて行った。
これで敗北するならそれまで。けれど、この攻撃を何らかの方法で切り抜ける実力を持つならば、それがフォルトゥーナの実力だ。
「さあ、見せてみろや転校生……」
「あー、危なかった」
「……は?」
ミサイルの壁が通り過ぎた場所、先ほどと全く変わらない場所に、フォルトゥーナが居た。
恐らく、偶然にもミサイルが全て外れた。
そうとしか思えないような状況だった。
「では、こちらから!」
「ま、マジかよ!」
フォルトゥーナは急降下してフォートレスに迫ってきた。
逃げる時間はある。迎撃するエネルギーは残っている。けれどサカキが取った選択肢は、攻撃を受けることだった。
フォルトゥーナは急降下して迫ってきて、直前で大型スラスターを可変させ、そのスラスターで地面に立った。
そしてショートバレルのライフルを取り出し、フォートレスの正面に撃ち込んだ。
「まずは情報1つ……それがメインウェポンか!?」
「チョルト!?腕が……!」
至近距離まで不用意に迫ってきたフォルトゥーナを、隠し武装の腕を展開したフォートレスで掴みあげるサカキ。
ライフルの銃身を握られ、武装を手放すことになったフォルトゥーナ。フォートレスはそれを投げ捨てて再び腕に掴みかかろうとするが、フォルトゥーナは慌てて腕を引っ込めて飛行形態に戻り、空へと逃げた。
「チッ、まだ近接武装隠してんなアイツ……もう少しで暴けたのに……ここまで、か……?」
フォルトゥーナの接近を許してショートバレルライフルの直撃を受けたフォートレスは、足を破壊されていた。
もはや移動しながらの攻撃など出来るはずも無く、スラスターによって無理やり移動することが関の山である。
「まぁ、単騎とタイマンならティエレンフォートレスに機動力は関係ない。もうちょっと……手の内を曝してもらうぜ」
サカキがミサイルポッドにエネルギーをリチャージし始めたのを見て、シロはフォルトゥーナを旋回させ始めた。
「なんてめちゃくちゃなガンプラ……立ち止まったら危ない……なら、ヒットアンドアウェーですね!」
シロは旋回速度を上げ、徐々に距離を縮めてきた。
恐らく、捉えられない距離と速度を保ちつつミサイルでも撃って仕留めようとしているんだろう。
「ミサイルに自速を加えて射程を伸ばして、ギリギリこっちの攻撃が届かない距離から撃つつもりか……けどな、俺のミサイルの射程は!」
フォートレスの背面に搭載されているボンベから、大量のプラフスキー粒子が本体に流れ込む。
これがティエレンフォートレスの隠し玉、粒子補給。
バトル開始時からずっと溜めこんでいる粒子を本体にチャージし、各武装の性能を底上げする。
リチャージ時間が短縮され、瞬時に発射可能になる。
「食らいやがれ転校生!今度は運が良くても避けられねえだろ!」
フォルトゥーナがミサイルを撃ち込んできたのと当時に、フォートレスもミサイルを連射し始めた。
互いのミサイルがぶつかったりかすったりしながら、互いを破壊し合う。
……だが、サカキは直ぐに気がついた。
フォートレスのミサイルが、フォルトゥーナに1つも当たっていないことに。
フォルトゥーナは速度を落とさず、距離を変えず、まるで『当たらないことを知っている』ような気軽さで。
「どういう……ことだ……!?」
サカキの疑問の声が上がった直後、フォートレスの弾幕の中をすり抜けてきたフォルトゥーナのミサイルがフォートレスの頭部を破壊した。
ハクのガンダムアストレイムラマサフレームの前に、部長のガンプラが立ちふさがる。
部長のガンプラは、斧を持った青いガンダムバルバトス。
青いムラマサフレームと向かい合うと、実によく似たシルエットになっていることが分かる。
「……ナツモリ・トモリ。貴殿の噂を耳にしたことがある。入念な調査、周到な準備、隙の無い戦術を持ってして作られる"対戦相手専用メタガンプラ"使いだと」
「……」
「だんまりか、まぁそうであろうな。拙者対策をしてきたと言うのならば下手に喋ればボロが……」
「んなもんはどうでもいいが……」
「?」
「無駄話をしていると、死ぬぞ?」
突然、目の前のガンダムが飛びかかってきた。踏ん張った訳でもなく、ブーストを吹かした訳でもない。
単に前に飛び込んできた。それは転ぶのとそう変わらない速度であった為、対応が一瞬遅れる。
「なっ!?」
「ぬぅおあぁああ!」
倒れながらも斧を前に出し、斬り掛かってくるガンプラ。
ハクは剣を引き抜き、斧を止める。
凄まじい勢いに数歩程後退を余儀なくされたが、何とか受け止めきった。
「ぬぅぅぅう、良い反応だ……楽しくなってきやがったぜええええ!」
「き、貴殿……それ何キャラだ……ガンダムバルバトスのパイロットに成りきっているのであれば、無口な少年のはず……」
「残念だったぬぁ!俺はこのグァンダムブァルブァトスグェーティアのパイルォットォゥ、バルバトスだぁ!」
ガンダムバルバトスG(ゲーティア)。それがこのガンプラの名前だった。
斧を振りおろす、振り下ろす、振り下ろす。およそ先ほどハクが言ったような知将である思えないような、力任せの攻撃。
だが、それを見たハクは苦虫をかみつぶしたような表情をした。
それはすなわち、その攻撃こそがハクが苦手とするものだったからだ。
「ふっふっふっふ、むぉちろん調べて来たぞ貴様の自慢の特技をな……対戦相手の攻撃を一目見ただけでコピーできる、らしいな」
「……左様。しかし、この攻撃では……」
「そぉう!俺の今の攻撃は……別に何か特別な事をしているわけではないからなぁ!」
部長の調べたハクの特技は、対戦相手の攻撃のコピー。
ガンプラのジョイントパーツを狙う銃撃や、粒子の特性を利用した目くらましなどの攻撃を"理解"して"返す"と言う特技だ。
時間をかけて身に付けた自分だけの特技を簡単に真似された相手は大抵その場で戦意を喪失し、そのまま敗北する。
だが、今の部長のような"何の仕掛けも無い攻撃"には、何も対策が立てられない。
部長の狙いはそれだった。
「悪いが、メタを張らせて貰った。貴様の言う通り、俺は対戦相手のことを調べ上げて専用対策ガンプラを作る男だ。今回もその通り、やってやったぜ!」
バルバトスGは斧と刀の撃ち合いを止め、ムラマサフレームに背を向ける。
背には緑色のマントパーツがあり、そのマントがガンプラを覆い隠す。
ハクは背を向けたバルバトスGに向かって刀を突き刺す。
しかしそこにバルバトスGはおらず、マントを突き刺しただけで終わった。
バルバトスGはマントから少しだけ離れた位置に、姿勢を低くして斧を構えていた。
「小細工をっ……!」
「悔しかったらぁ……貴様自身の技を見せてみろ……真似ばかりしていないで、貴様の実力をなぁ!」
部長は低い位置からの斬り上げで刀を弾き飛ばした。
ムラマサフレームは背中から刀では無くブレードを引き抜き、斧に応戦する。
そこから、ハクの様子が変わった。
「……全く、拙者に斬鉄を使わせるとは……これ以上は、拙者の方がボロを出してしまうかもしれんな……早々に、勝負を、付けさせてもらおう」
「ぬっ!?」
バルバトスGが撃ち込む斧が、ムラマサフレームの持つブレード斬鉄に弾かれている。
撃ち合っているのではない。ムラマサフレームの斬鉄は、全くブレていない。
ただ単に構えているムラマサフレームに、バルバトスGの斧が当たっているだけだ。
「これは……まるで大木に打ち込んでいるような、この感覚は……」
部長は気がついた。
この感覚は、出力差が違いすぎる場合のものだ。
大型のモビルアーマーにいくら撃ち込んでも簡単に壊れないようなもので、バルバトスGの斧では、ムラマサフレームの斬鉄にダメージを与える出力に届かないと言うことだ。
「馬鹿な……その剣は、ヴァリアブルフェイズシフト装甲でも積んでるっていうのか……!?」
「"素"が出ているぞ、ナツモリ・トモリ」
「クソ……これがお前の本当の技……いや、装備ってわけか……!」
これまでの対戦で、ハクは斬鉄を使用したことは無かった。この剣自体に、出し惜しみをするような要素は見当たらない。
つまり、今までこの剣を抜くまでも無い、と言う状態だったわけだ。
「とりあえず、装備を引っ張り出す所までは来たって所か……本当に、底が見えないな……」
「……なんだ、もう終わりか?」
ハクがそう呟くと同時にバルバトスGの斧が砕け散る。
何と言うことは無い。ムラマサフレームが、斬鉄を振り抜いた。それだけだった。
たったそれだけで、バルバトスGの斧は砕け散った。
「……ここまで、か……」
結果、元Bチームは大敗を期した。
3人のうち誰も相手を落とすことが出来ず、恐らく実力を引き出すこともできずに。
「すまない、ユウジ君、カイト君、ミズキ君。有益な情報を引き出せたかどうか微妙な結果だった」
部長がそう謝る。俺たちは何と返せば良いのか分からなかった。
事実だけれど、それを咎めることも、慰めることも、正解では無い気がした。
その後、俺達は転校生チームと戦って、当たり前のごとく負けて、俺達と先輩たち元Bチームとの試合をして、また負けて、選考会は終了した。
選考会が終わると、転校生たちはさっさと帰ってしまう。
俺達も帰り支度を整え、部室を出る。
「ユウジ。私たち、ちょっと反省会をするから先に帰っていて」
先輩とサカキ先輩と部長が、俺達のチームに向かってそう言って、アリガ先生と職員室の方へと歩いて行ってしまった。
取り残された俺達は、誰も居なくなった廊下で、俯いていた。
「……なぁユウジ。俺達、頑張る必要、あるのかな……」
カイトが呟いた。それは明らかな弱音だったが、俺にはそれを諌めるだけの自信が無かった。
ミズキも俯いたまま、落ち込んでいるように見える。
俺は、何も言えずに2人を昇降口に促すことしかできなかった。
昇降口で靴を履き替える直線、俺は部室に工具箱を忘れたことを思い出す。
東京に来てからちょっとずつ買いそろえた工具が入った箱だ。
何かあると困るから取りに戻ろうと、2人を昇降口に待たせて部室に戻る。
すると、部室の近くの階段の方から話し声が聞こえてきた。
部室に入るのを止めて、俺は階段に近づいた。
声は、先輩たちのものだった。
「お前はバトルスタイル全然変わらねぇなぁ。キャラ成り切りしすぎてミスしまくるからミスの少ない軍人キャラに成り切ってたっつーのに、肝心な時になんであんなキャラにしたんだよ」
「いや、面目ない。とにかく相手の実力を引き出す為に強いキャラに成り切ろうとした結果でね」
「でも部長は役に立った。あのガンプラが持っているもう一本の剣の存在が分かった」
「ああ。ムラマサフレームは2本目の剣が本命。あの剣の出力は伊達では無かったし、やはり技術の物真似は侮れないだろう」
「一方でナガサキが戦ったシェンフーっつーやつの武器は、自身で磨き上げた超反射神経ってか」
「サカキ先輩がボロ負けしたフォルトゥーナは良く分からなかったですね」
「ぐっ……ナガサキてめぇ……いや、こればっかりは言い返せねぇ」
「……いえ。私も今のは意地が悪かったとほんのマイクロ思ってます」
「ちょっとにも満たないってかてめぇ。口が減らねぇ後輩だな」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて……けれど、この情報だけで、1年生チームを勝たせられるだろうか」
部長の一言で、場が静まりかえる。
判明した情報は、恐らく転校生達の実力の一部。全てを引き出せたわけじゃないし、そもそも勝利へのヒントすら掴めていない。
「……まだ足りないと思う」
「あぁ。俺達が勝つ方法を見つけるんじゃねぇ。あいつ等が勝てるように、情報を引き出さねえと……!」
サカキ先輩は悔しそうな声と共に壁に拳を突き立てる。
後悔と焦りから来るその行動を咎められる人物は、そこには居なかった。
「あー、なんだ。お前ら、本当によくやってるよ。正直、頭上がらねぇわ」
ずっと黙っていたアリガ先生が、サカキの拳を下げながら言った。
その手は暴行を咎めるものではなく、慰めから来る行為だった。
「去年はあいつらのせいでマトモにやれなかったからな。俺も、力不足だった。許してくれ」
「アリガ先生……いいえ、先生はちゃんとやってくれたじゃないですか。俺達2年、1年生が大会に出て実績を残したことで、3年生だけが大会に出場できるって言うこの学校の制度を変えてくれた」
「あぁ。だから俺ら3人、アリガ先生の思いを継いだんだぜ」
「……1年でも2年でも関係無い。ガンプラバトルが大好きで、バトルに真剣で、本気で勝ちを取りに行ける生徒が大会に出られるように……アル先生は制度を作ってくれました」
会話を盗み聞きしていた俺は、カイトから聞いた去年までのこの学校の模型部の状況について思い出した。
一昨年まで、この学校は部活の公式大会に出られるのは3年生だけだと言う習慣があったらしい。
しかし、怠惰に部活を続けている3年生が出場できるのにやる気に満ちた1年・2年が大会に出られない状況を見たアリガ先生は、その習慣を排するために色々と頑張ってくれたと言う。
そして、そんなアリガ先生の働きかけで部長達……元Bチームの3人は出場できるようになったらしい。
元Bチームの3人はそのことに感謝し、それぞれ後輩を育てる為に公式大会から遠ざかると決めたらしい。
「アリガ先生の"受け継ぐ"と言う考え、俺達は指示します」
「あぁ。あの1年生達が大会に出られるように、俺ら"アリガ先生の指導を受けた生徒"があの勘違い転校生から情報を引き出すからよ」
「そう。大会に出るだけじゃ駄目。転校生たちにとって代わられたのなら、それはこの部活の死」
Bチームの3人はやる気に満ちた表情でアリガ先生にそう宣誓した。
それは先生を労う言葉と言うよりは、自分たちを奮い立たせるための言葉のように聞こえた。
「あー……そうだな。ありがとな、お前ら。けどな……」
アリガ先生は部長とサカキ先輩の肩を掴み、引き寄せる。部長とサカキ先輩に挟まれた先輩も一緒に引き寄せられ、3人がアリガ先生に寄り掛かるような体勢になった。
アリガ先生はそのまま壁にもたれかかる。
なにを、と部長達が声を上げる前に、アリガ先生は優しい声で語りかけた。
「辛いだろ?"導く方"ってのは。負けて悔しく無いはず無いもんな。ましてやお前らの年齢じゃ……」
廊下が、しんと静まりかえる。
ちいさく、鼻をすする音が聞こえた。
息を吸い込む音が聞こえた。
歯を、食いしばる音が聞こえた。
「……」
俺は部室に入ることを諦め、昇降口へと向かった。
この今の気持ちを、カイトとミズキに伝える為に。
それが今の俺の責務なんだと、そう感じたから。
つづく
読了お疲れ様でした。
いや何かもう、相当長い間投稿できず申し訳無いです……
それもこれも全部リアル事情ってヤツのせいなんだ。
何だってそれは本当かい!?と言わんばかりに執筆時間が取れないので、今回の話も相当時間が掛かりました。
決して飽きた訳ではないし、ガンプラも作ってましたよ。え?ガンプラ作るなら小説書け?
……い、いや、どっちも止められないので……申し訳無いです。
あ、ちなみに登場した転校生チームのガンプラは以前に話をしていた友人による作品です。いずれ設定と共に写真を投稿する予定です。
次回更新は7/30目安です。かーなーり、執筆に掛けられる時間が不安定なのでどうなるか分かりませんが……
あ、でも時間が取れれば早めにガンプラの方の投稿をすると思います。