ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- 作:oyakata
今回は無改造RGストライクフリーダム VS ザクコマンドー(ザクウォーリア改造機体)のバトルです。
誰もいなくなった部室に、俺と先輩は戻って来た。
電気をつけて時計を確認すると、午後7時を指している。部活でバトロワを終えたのは午後5時半だったから、1時間半ほど時間が経過していたことになる。意外と長いこと落ち込んでいたらしい。
ガンプラシミュレーターの脇に置かれた机の上にある使用予約の表にさらさらとナガサキ・アンナと書き込んだ先輩はシミュレーターを起動した。
自分と反対側に立つように視線で促され、俺は流されるままにシミュレーターの前に立つ。バトル開始のアラートが鳴り、ガンプラが出撃する。
遮蔽物の無い荒野に降り立った二つの機影。
俺のガンプラは白に青に金と目が痛くなるような配色の機体、ストライクフリーダムガンダム。
先輩のガンプラは緑と灰色のもっさりした配色の機体、ザクコマンドー。
『ん、先ほどの乱戦では気がつかなかったが、それはRGなのか。よく一晩で作ったな』
RGとはガンプラの種類のこと。初心者向けのFG(ファーストグレード)、一般的な1/144のHG(ハイグレード)、1/60のMG(マスターグレード)など様々な種類があるが、RG(リアルグレード)は1/144のサイズでありながらPG(パーフェクトグレード)に負けずとも劣らないリアルなディティールと稼働領域を持つガンプラだ。
「いやまぁ、何とかしようと必死でしたし……それより、こんな時間にシミュレーターなんて動かして、何をするんですか?」
『見ての通りバトルだよ。君はもう愛機を取り戻せない。それならば、現状でどうにか戦えるようになるしかない。先ほどのバトロワのような状態では、選抜に選ばれる可能性はゼロだからね』
「ゼロっすか……」
絶望的な現実を突きつけられ、肩を落とす。しかし同時に疑問が湧いた。なぜこの先輩は俺にこんな時間に個人指導みたいなことを……?
「もう遅いですし、今日はやめませんか?先輩も女の子なんですから、あまり遅くなるのは親御さんも心配しますし……」
『親には遅くなると伝えてある』
「……え?」
『今日は一年のために尽くすよ。そう決めた』
「な、なんでそこまで!?」
表情が変化しないから分かりづらいが、どうやら今先輩は燃えているようだった。
なぜそうまでして俺を特訓したいのかは分からなかったが、そこまで言われたら付き合わないわけにはいかない。
……姉にメールで遅くなると連絡しておこう。
『そうだ、一年のガンプラが粒子不足で動かなくなるのなら、オプションで粒子貯蔵量の制限を廃止しよう。それなら一年のガンプラはずっと動ける』
先輩はコンソール画面を開いて、ガンプラに供給される粒子の限界値を無限に設定した。
これでエネルギー切れが起こらず、まさに核を積んだがごとく戦い続けられる。
『合図をしたら開始するよ。準備はいいかい?』
「準備はいいですけど……先輩、こんなルールで戦っていいんですか?先輩のザク、壊れても知りませんよ。ダメージレベルAになってるし」
『一年は私が負けると思っているのかい?有り得ないから安心して戦っていい』
「むっ、その台詞はちょっと刺さりますよ先輩。そこまで言うなら……俺が勝った時は俺の質問に答えてもらいますよ?」
俺はどうしてここまで俺にこだわるのかを聞き出そうと思い、条件を出してみた。
『構わないよ。何がいい?何でもいいよ』
「ん?今何でもって言った?」
『あぁ。この部に居る2年、3年の使用ガンプラの情報でも、ガンプラ作成に必要な知識でも、私の身体情報でも何でもいい。遠慮なく質問すれば良い』
「……ごくり」
『ではその代わり、私が勝ったら私の言うことを聞いてもらう。いいかい?』
「の、望む所ですよ!」
俄然やる気が出てきた俺は景気良く空に向かって一発、高エネルギービームライフルをぶっぱなした。
戦闘が始まってすぐ、先輩のザクは姿を消した。
というより、先輩が打ち出した大量のミサイルの噴射と土煙でどこにいるのか分からない。
俺はミサイルを避けるために上空へ飛んだが、失敗だったかもしれない。
先輩に上空へ追いやられた可能性がある。
「エネルギー無限だから飛び続けられるけど……先輩もミサイル撃ち放題だよな……」
バトル中に出るビームや実弾兵器は、もちろん本物ではない。プラフスキー粒子が粒子変容効果を利用してプログラムに応じて物質化し発生させているものだ。
もちろん、地面も岩山も、土埃もそうだ。バトルフィールドにあるものは全て、ガンプラ以外はプラフスキー粒子。
なので、ミサイル何かの実弾兵器も残存粒子が無い今の状況では撃ち放題。
「でも、ストライクフリーダム射程範囲内だ」
俺はフィールドで一番高い岩山に立ち、二丁のエネルギービームライフルを構え、クスィフィアス3を展開した。
それを土煙の中へと出鱈目に打ち込んでいく。
その動きで、残存粒子が60%を切ったが、エネルギー無制限ルールの効果ですぐさま100%に回復する。
「本当にエネルギー消費が激しいなストライクフリーダムは……」
『RGだからね。中までプラスチックたっぷりだから浸透率が違う代わり、消費も激しいんだよ』
先輩からそんな通信が入ったのと同時に、煙の中からミサイルが飛び出してくる。
「回避するまでもない、ストライクフリーダムの射撃精度なら撃ち落とせる!」
俺は周囲にスーパードラグーンを射出し、オートでミサイルの迎撃を設定した。
8機のドラグーンが俺の周囲を飛び回りながらミサイルを完全に防いでくれる。
その間に俺はミサイルの発射地点に集中的にビームを撃ち込む。
「スーパードラグーンもエネルギー無限だから飛び続けますよ!さあ、どうします!?」
徐々に飛んでくるミサイルの位置が止まり、俺はその位置にビームを集中砲火する。数回撃ち込むと、煙の中で爆発が起きた。
「……ザクの爆発にしては規模が小さい……サンダーボルトのフィッシャー・ネス曹長じゃないけど、あれは機体の爆発じゃない」
モビルスーツが爆発したにしては小さな爆発。違和感を覚えて周囲を見回すが、追加でミサイルが飛んでくる様子はない。ドラグーンも反応していない。
けれど、バトル終了のコールは鳴らない。まだ先輩のザクは生きている。
レーダーで土煙が舞っている辺りを見るも、マーカーが表示されている様子はない。
「どこだ……?」
『ここだよ一年。レーダーに頼りすぎだ』
「!?」
通信に気がつきセンサーを見ると、ドラグーンを表す青いマーカーに混じって敵を表す赤いマーカーがある。
マーカーの方を見ると、ザクが俺の立つ岩山の足元、丁度死角になる位置に立っていた。
土煙に紛れて接近し、一気に山を駆け上ったようだ。
見ると、ザクの左肩のミサイルポッドが無い。先ほどの土煙の中の爆発は、カモフラージュに置いたミサイルポッドが爆発した時のものようだ。
『ドラグーンを展開した瞬間は自分の周りにマーカーが増える。その隙に懐に飛び込まれると、一瞬だが見分けがつかなくなると言うわけさ。一年は随分気がつくのが遅かったけどね』
ドラグーンを展開し始めたストライクフリーダムの懐に突っ込んでくるような無茶なことをする相手は今まで居なかった、なんて言い訳をしている場合じゃない。
「何はともあれ、姿を見せればストライクフリーダムには……」
『遠距離タイプの私のザクでは勝ち目が無いと?』
俺は右手のライフルをマウントしてビームサーベルを取り出し、振り下ろした。
サーベルはザクのバックパックから伸びるサブアームに取り付けられている盾に受け止められる。ならばと左腕のビームライフルを盾でカバー出来て無い足に向けた。
すると、その銃口に何かがぶつかって押し戻される。
見るとザクの右肩についていたミサイルポッドがパージされて飛んできて、ビームライフルの銃口にぶつかったようだ。
ぶつかったミサイルポッドは蓋が変形して、目の前でミサイルが零れ落ちる。
それに気がついた俺は戦慄した。
「やばっ、ドラグーンの攻撃対象……!」
俺の周囲を飛ぶドラグーンが、俺の目の前のミサイルを一斉に打ち抜いた。
至近距離で爆発し、俺のストライクフリーダムは爆風で体勢を崩し、岩山から落ちる。
同じことをやられては堪らないと、俺は慌ててブーストを吹かして機体を立て直し、ドラグーンの攻撃対象をミサイルから外してザクに設定しようとザクの姿を探した。
『バトロワの時も感じたが、やはり一年はあの頃とは違ってしまっているようだね』
ザクは、目の前に居た。
重そうなバックパックを外して身軽になり、ブーストを吹かして上空へ吹き飛ばされた俺の所へ飛んできたのだろう。
バックパックは岩山に無造作に置かれており、サブアームについていた盾を両腕に装着している。
その先端から、ビームサーベルが伸びている。
「速いっ……!」
ドラグーンのロックオンを行っている暇はなかった。慌ててヴォワチュール・リュミエールシステムを起動し、翼から青白い光を放ちつつ超速回避を行う。
迫り来る突きを身を逸らして避け、続いて来た振り下ろしを急降下を行って避ける。上空に来たザクに向かって腰に装備されているクスィフィアス3を打ち込んでやろうと体勢を変える。右腰にはまだビームライフルがマウントされているので左腰のみだ。
それをしっかり見ていたのだろうか、ザクはストライクフリーダムの右側に移動し、盾を前側に構えて接近してきた。
ダメだ、いくらこちらがヴォワチュール・リュミエールシステムで超速で移動できても、この距離で攻め続けられたらどうにもできない。
「キラ・ヤマトみたいな格闘戦は俺にはできない……組み合ったら負けるっ……!」
咄嗟に頭部バルカンでザクの盾を打ち接近速度を緩めた。
その隙に俺は更に上空へと移動する。
いくらスラスターが無限に使えても、ザクの推進力ではこの高度に来るまでに時間がかかるはず。
「このままこの距離でライフルを……」
撃とうとして、迫るアラートに気がつく。
慌てて右腕のビームシールドを展開すると、そこにビームが飛んできた。
「ど、どこから!?」
飛んできた方向を見てみると、そこは先ほどの岩山の中腹。先輩のザクの置いていった兵装があった。
それが、自動でこちらに照準を合わせてビームを打ち込んで来ている。
「固定砲台にもなるのかよっ!」
俺はドラグーンをマニュアル操縦に切り替え、3機のドラグーンで兵装を打ち抜いた。
ミサイルや敵機影などはオフセットで自動照準モードを設定できるが、敵が落とした兵装なんか自動で照準合わせられるように設定しているわけがない。
『システムの特性を理解し、相手がオートに頼っているかマニュアルで戦っているかを見極めて罠を仕掛ける。これが私の戦い方』
先輩の通信の後、真下から高エネルギー反応のアラートが表示される。
見ると、先輩のザクは先ほどの場所から動いていない。
代わりに、先ほどビールサーベルが出ていた盾の下が光っている。
恐らくZガンダムが搭載しているビームガン、もしくはΖΖガンダムに搭載されているビーム・キャノンのようなサーベルと兼用のキャノンなのだろう。
「しまった、回避間に合わない……!」
放たれた極太の光の柱。ヴォワチュール・リュミエールシステムを起動していたお陰でビームシールドの展開とポジション修正が間に合い防ぐことが出来たが、また体勢を崩されてしまった。
『まだガンプラに囚われているな、一年』
先輩の通信が入った直後、俺のストライクフリーダムが叩き落とされる。いつの間にか俺よりも高い位置に移動していた先輩のザクが俺のことを蹴り落としたようだった。
地面に落ちたストライクフリーダムを立ちあがらせようとするが、後から降下してきた先輩のザクに上半身を踏みつけられて起き上がれない。
「ぐっ……な、なんでザクウォーリアベースの機体がそんな高出力なんだ……!?」
『……ザクとは違うのだよ、ザクとは』
先輩の通信の声に違和感を覚えて、俺は足掻くのを止めた。
泣いているような、怒っているような、落胆しているような声だった。
『先ほども言ったが、私は一年のことを知っている。三年前、一年が小学校六年生だった時の大会を客席で見ていたからだ。実を言うと、私がガンプラバトルを始めたのは一年のファンになったからなんだよ』
先輩の言葉に、俺は固まった。先ほどの先輩の言葉では、情報として知っている程度だと思っていた。
まさかファンだと言うほど俺の小学生の頃の戦いを知っているとは思わなかった。
『だが、今の一年からは私がファンになった時に憧れた物が無くなってしまっている』
先輩のザクが俺のストライクフリーダムを押さえつける足に力が籠もり、機体が軋む。
『一年が大人にしてしまったと言うことなのだろうか……そうだったとしたら、私は悲しいよ』
「……大人に?」
『小学六年生の時の一年は、複数のガンダム作品を大量に見ていたかい?武装の名前を全部覚えていたかい?敵に合わせて武装を選んだりしたかい?一年が今やっているのは、まるでガンダムによる戦争だよ』
俺は公式バトルから離れていた中学三年間、ずっとガンダム関連の作品を漁っていた。
ガンダムの出力、ザクのバリエーション、派生機体、宇宙世紀、コズミック・イラ、外伝、黒歴史……
プラモ化されているガンダム、されていないガンダム、限定品、フルスクラッチされた過去のガンプラ……
知識を付ければ、技術を付ければ、ストライクフリーダムを作った友人に追いつけるかもしれないと思っていた。
けれどそれが、俺に固定概念を作ってしまったようだった。
ザクウォーリアは出力が低いとか、キラ・ヤマトのストライクフリーダムならこう動くとか……そういう考え方だ。
今さっき疑問を持った"なぜ、ザクウォーリアがストライクフリーダムを押さえつけられるような出力を出せるのか?"と言う疑問も、そうした知識の中から生まれた疑問だ。
だが、その答えは簡単だ。今横たわっているのはストライクフリーダムでは無く、押さえつけているのはザクウォーリアでは無い。
俺が作ったガンプラと、先輩の作ったガンプラだ。
「……何がビームサーベルだ、何がドラグーンだ、何がビームシールドだ……大げさだな、ただのプラスチックの棒と板じゃないか」
そうだ、これはガンプラバトル。
ガンプラの出来と操縦技術の世界だ。
「……先輩」
『なんだい一年。もしかしてギブアップかい?』
「まさか。"俺のガンプラ"は、こんなものじゃない」
ストフリの挙動とかキラ・ヤマトの戦法とかヴォアチュールなんとかとかどうでもいい。
俺はカリドゥスを撃って無理やり浮き上がり、隙間ができた瞬間にザクの足から逃れた。
すぐさまクスィフィアス3を撃って牽制しつつ体勢を整えて、ビームサーベルを二振り取り出して柄を合わせて連結し振り回す。ザクは斬撃を警戒して少し距離を取る。
それを見た俺は、ビームサーベルをくるくると回して手から離し、空中で回転させてからキャッチし、さらに回転させてから地面に突き出した。そして、ピースを作ってやった。
『……良かった。一年はまだ子供に戻れたんだね。大人のままだったらどうしようかと思った』
「先輩のお陰ですよ。まるで三代目メイジン・カワグチみたいな台詞でした」
先輩のザクが両手を広げて首を振る。ヤレヤレのポーズだ。
『そんな大げさなことじゃない。私の我儘を一年にぶつけただけ』
「それじゃあ、先輩の目的は達せられた訳ですか?」
『いいや。私の目的は"六年生の一年と戦う"ことだから、むしろここから開始だよ』
「……さっきから言おうと思ってたんですけど、その六年生の一年って言うのややこしいんで止めませんか?」
『そうか。ではユウジで』
「……は、はい……えへへ」
『どうしたんだ突然微笑みを浮かべて。ちょっと気持ち悪いぞ』
「い、いや、女子に名前呼びされたの小学生以来だったもので……」
『そうか。では私は高校でのユウジの"初めての女"だと言うわけだな』
「……何だか言い方がイヤらしいですね」
『わざとだよ。ユウジが家に帰って私の台詞を思い出して悶々してもらう為に言っている』
「……先輩性格悪いですね」
『そうかな?ふふっ、そうだな』
シミュレーターの向こう側の先輩が、優しく微笑んだ。先ほどのロンド・ミナ・サハクみたいな微笑ではなく、言うなればラクス・クラインみたいな笑顔だ。
『……さて、では続きを戦ろう』
「はい!」
俺は小学生の頃によくやって友人に怒られていた技を使うことにした。
飛ばしていたドラグーンを自分の動きに追従するように変更し、拳を突き出すタイミングで一個ずつタイミングを少しずつずらして前に出るように指定する。
「うおぉおぉ、ドラグーン百烈拳!」
ザクに突っ込みながら拳を突き出し、打撃の壁を作り出す!
ザクは五発程度を盾で受け止めた後、慌てて後方へ下がった。どうやら防げないと判断したらしい。
すぐさまザクを正面に据えるように構え、クスィフィアス3を若干外側に広げて撃った。いや、撃ち続けた。
腰から伸びる2本の光が、ザクの左右を素通りする。
外れたのでは無い。左右への移動を阻んだんだ。そのまま俺はカリドゥスのチャージを始めた。
『甘いよ』
ザクがその場で反転して背面を見せた。
すると、後ろ腰に小型のミサイルポッドが搭載されていることに気がつく。
気がついた時には遅く、ミサイルが飛び出してくる。
「まだあんな所に武装を……!」
発射されたミサイルがストライクフリーダムを直撃。アンテナが折れ、咄嗟にカリドゥスを庇った腕は装甲が剥がれ、内部フレームがむき出しになってしまった。
クスィフィアス3も左側が折れてしまっている。
だが、まだ動く。
「カリドゥスチャージ完了、撃てぇ!」
極太のビームがザクを捉える瞬間、大きく飛翔した。ギリギリ足に掠ったようで、ゲルググ足のブースターが火を噴き、外れた。
「追撃チャンスだ、急加速!」
ヴォワチュール・リュミエールシステムだけでなく、ファンネルを肩装甲や脚部裏などの場所に押し付けて前進させ、前へと進む力を加える。
俺のストライクフリーダムはザクを追い抜いた。
『速いっ……!』
「必殺ビームサーベ……あっ」
俺はビームサーベルを取り出そうとして、地面に突き刺したまま置いてきたことを思い出した。
仕方がないので、ドラグーンを掴んで殴りかかった。
「……ファンネルクラーッシュ!」
打撃はザクの肩に直撃し、ドラグーンと共に割れた。
割れた肩の下から、未塗装の灰色の関節部が露出する。
「先輩、手抜きですか!?」
『ここは破損しないと見えない場所だからサボった』
そう言いながらザクは盾の下からビームサーベルを出して振り被る。
俺は再び周囲のドラグーンを掴み、それを受ける。鍔迫り合いのような状態になり、そのまま空中を飛行する。
打ち合い、互いの武器を消耗しつつ、バトルフィールドの空を舞った。
ザクは盾を、俺のストライクフリーダムはファンネルを全て砕いた所で、お互いが地面に着地した。
先輩のザクは両肩が砕け、足のバーニアがなくなり、頭にも凹みができた。
俺のストライクフリーダムは全てのファンネルと左羽、クスィフィアス3、カリドゥスも発射口を潰された。
両腕なんか完全に内部フレームだけになってしまった。
左腕は関節パーツにヒビでも入ったのか、もう動かない。
「最後まで……」
『全力で!』
互いに拳を握りしめ、頭部目掛けて殴りかかるが、直前で俺のガンプラだけが動きを止める。
何事かとステータスを確認すると、エネルギー残量が尽きていた。
エネルギー無限設定の為、すぐさま再供給されるはずだが、システムの最大回復速度を超えてしまったようだ。
「こんな時に……」
「おいこらぁ!誰だ、こんな時間まで残ってるのは!」
突然の怒号。驚いて振り返ると、そこにはアリー・アル・サーシェス……ではなく、アリー・アル・サーシェス似の教師が懐中電灯と鍵を持って扉の前に立っていた。
ずんずん部室に入ってきてガンプラシミュレーターの主電源を切る。
バトルフィールドに散布されていたプラフスキー粒子が光を失い、ガンプラが動きを止める。
「またお前かナガサキ。いつも19時以降のシミュレーター使用は俺に申請しろって言ってるだろ」
「はい、すいませんアル先生」
「いつにもまして棒読みだな……で、デートのお相手はお前か。何組の誰だ?」
「で、デートて……えっと、ミズシマ・ユウジです。先生のクラスの生徒です」
「チッ、俺のクラスかよ……」
アル先生はめんどくさそうにシミュレーターの上を見た。その瞬間、少し目を見開いて先輩のザクを手に取った。
「……おいナガサキ。お前、負けたのか?」
「まだ勝負ついてませんでした」
「……とりあえずお前ら今日はすぐ帰れ。あー、校門は監視カメラがあるから裏門から帰れよ。バレると担任の俺が注意を受けるんだ」
それだけ伝えると俺たちを部室から追い出し、顧問だから担任だからとか知るかとブツブツ愚痴を零しながら校舎の暗闇に消えていった。
俺は先輩に案内されて裏門と呼ばれる教員玄関口から学校を出る。
暗い夜道、先輩と並んで下校する。
俺は女子と下校したのなんて、これまた小学生以来なので、何を話したら良いのかわからなくなり、無言で歩いていた。口を開くとガンダムの話しかできないガンヲタである自分を少し呪う。
そんな時、先輩がこちらを向かずに話しかけてきた。
「ユウジ、今日の勝負だけど……引き分けってことでいいのかな」
「え、あ、いや、俺の負けでいいですよ。最後の最後、エネルギー切れで動かなかったんで、先生が止めてなければ先輩の攻撃が直撃してたはずですし」
「そう。それなら約束通り、私の言うことを聞いてもらっていいかな」
「そういえばそんな約束しましたね。勝負に夢中で忘れてました。何をしたらいいですか?」
「私のチームに勧誘したい」
「……チームですか?」
先輩の説明によると、この学校の模型部は部内で複数のチームを作っているらしい。
選抜大会も、今回は個々の実力を見るためにバトルロワイヤルになっていたが、次回からはチームを組んで戦い、最後に残ったチームがそのままトーナメント予選大会に出場するらしい。
逆に言えば、今回のバトルロワイヤルで互いの実力がわかったので、一年は同程度の実力者同士でチームを、優秀な一年は上級生からお誘いがあり、チームが作られるそうだ。
「……って、それだと開始30秒で堕ちた俺は……」
「たぶん、私以外は誰も誘わないと思う」
「先輩のチームに入ります!」
っていうかそれ以外の選択肢ないじゃないか。
しかし、部内であってもチームを組んで競わせるとは。アル先生はいい加減な性格に見えて、実はかなり厳しい教師なのかもしれない。
「……そ、それと、もう一つお願いを聞いてもらっていいかな」
先輩はピタリと立ち止り、すごく言い出しにくそうに目を泳がせ、唇を動かしている。
あまり表情の変化しない先輩だから凄くドキっとした。
そして絞り出すような声で、俺に告げる。
「ファンです……サイン下さい」
「え、今!?」
「あ、でも今、紙とか持ってないんで、えっと……じゃ、じゃあ私の体に直接……」
そう言いつつ先輩は制服の上着をたくし上げ始めた。
「だわぁ!?さ、サインなんていつでもしますからこんな所でそんなことしないで……ほ、ほら、人が来ますし」
そんなやりとりをしていたら、夜道の向こうから人が歩いてきた。
人っつーか、姉が歩いてきた。
「……ユウジちゃん……?」
「……お姉ちゃん……む、迎えに来てくれたのかな、あ、ありがとう。えっとこちら部活の先輩で、こ、これはその、サインを……」
「女の子の体にサインを……ユウジちゃんが変態になっちゃった……私のせい……(カッターすっ」
「お姉ちゃんのせいじゃないからってか俺変態じゃないって言うかカッター取り出すのやめてぇぇぇぇ!」
腹出してる先輩とリスカしようとしてる姉に挟まれ、俺は東京での生活に漠然とした不安を覚えた。
第1話「(物理的に)砕けた翼」 -完-
読了お疲れ様でした。
基本的にバトルのノリはこんな感じで進んでいくと思います。
泥臭いバトルとか機体特性が云々とかそういう感じでは無く、何でもアリでごり押したヤツが勝者って感じの話です。
次回更新日時は、たぶん来週の土曜とかになると思います。