ワールドトリガー-女神の名を持つ黒トリガー-   作:ぼいら~ちん

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#03 三雲湊は万能手である

「はぁ……」

 

「どうした湊、あんまり元気がなさそうだけど?」

 

隣を歩いていた摩梨が私に対して心配そうに声をかけてくる。

今は学校が終わっての帰り道、今日は非番だったため、近くの商店街を吹上家の晩御飯の買い物も兼ねて摩梨を含めた3人でブラブラとしていた。昼間に修が通っている学校にトリオン兵が現れたという報告を受けたのだが、私達よりもA級5位部隊である嵐山隊の方が到着が早いということで結局私達や金倉隊の面々は普通に午後の授業を受けた。

私達B級隊員はトリオン兵を倒せば倒すほどお金がもらえる出来高払いで給料が貰えるが、別に今回敵を倒せなかったから落ち込んでいる訳では無い。

本当の理由は……

 

「先日に引き続き修が訓練用トリガーを無断で使用したみたいなんですよ……あの子がボーダーを首にされてしまわないか心配で……」

 

「あー……確かに鬼怒田のおっさんとかが五月蝿そうだからなぁ……こればっかりは迅とおやっさんに任せるしかないな」

 

「そうだな、確かに修は見た感じは弱っちいけど正義感はあるし、頭が使えるいい子だ。

伸び代はあるし正隊員になって使える装備も増えればきっと活躍の場も増えるだろうからここで首にするのも勿体ないと思うな」

 

全く以て彼女らの言う通りだ。

私は自分自身がブラコンであることは自覚している、しかし修は昔から自ら工夫を凝らして物事を解決することが得意な子だ。

私自身が頭を使って戦うタイプは嫌いではないし、修のような自らの危険を省みず他人を助けようとする人はこの御時世ではとても重要です。

 

「……よし、このまま本部にカチコミかけますか」

 

「「なにいってるのお前?!」」

 

『緊急警報、緊急警報。

市街地に(ゲート)発生、市民の皆様は至急避難してください』

 

黎奈と摩梨のツッコミが入ると同時にけたたましい警告音と共に川の方に真っ黒な球体が現れ、そこから大型のトリオン兵が現れた。

昨日のバムスターと呼ばれるタイプと同様にかなり大型だが、一際異彩を放っていた要因は「空を飛んでいる」ということだ。

 

「空を飛ぶトリオン兵だぁっ?!

あんなタイプ見たことないぞ?!」

 

「あれは対地爆撃用トリオン兵『イルガー』だぜ。

文字通り腹のあたりから爆弾を落として地上を攻撃するタイプだ」

 

「……さっさと墜とさないと大惨事になりますね」

 

私はボーダーに在籍している期間はそこそこ長い。

それなりに戦闘にもなれているし、場慣れはしていると自負している。

しかし、そんな私でも焦ることはある。

そう、それが今だ。

額からは冷や汗が垂れてきて、状況の悪さに思わず苦笑いが漏れる。

 

「ゴチャゴチャ考えるのもめんどくせぇ!

要するにアイツを墜とせば私らの勝ちなんだな!?」

 

「あははっ!

よく分かってるじゃないか黎奈!

湊もやるぞ!」

 

「……もちろん!」

 

「「「トリガー起動!!」」」

 

光が体を包み、体が生身からトリオン製の頑丈なものへと生まれ変わる。

この間コンマ数秒、早いものです。

感慨深げに頷いていると、イルガーの腹部から何かが落ちてくる。

 

「湊、摩梨、あれ撃ち落とせるか?」

 

「そのくらい朝飯前だ!」

 

「ウォーミングアップにもなりませんね」

 

腹部から落とされる無数の爆弾のうちの一つに担いでいた大型のライフル型トリガー「アイビス」で狙いを定める。

横に居る摩利の両手には白い立方体が現れる。

 

「大火力で仕留めて誘爆を狙います!」

 

「No.1射手(シューター)の弾幕をくらえ!!」

 

私が銃のトリガーを引き、摩梨の掛け声とともに四角い箱はクリスマスツリーのてっぺんに付けるための星の飾りのような立体へと分けられイルガーが放つ爆弾へと飛んでいった。

私の放った弾が爆弾に接触すると大きな爆発を起こし、周りの爆弾を吹き飛ばす。

摩梨が放った弾も目まぐるしく起動を変化させながら爆弾を穿つ。

しかし、相手の攻撃は緩むことを知らずどんどん爆弾はイルガーの下にある民家や商店街へと容赦なく降り注ぐ。

 

「くっ……これじゃあキリがないな……!!」

 

「摩梨はこのまま可能な限り爆弾を撃ち落としてください!

黎奈は市民の皆さん救助を、私は本体を落とします!」

 

「「了解!!」」

 

私と黎奈は摩梨を置いてそれぞれの仕事がしやすい場所へと移動する。

そんななか私の脳裏に疑問が過ぎる。

「出現地点を警戒区域内に誘導しているはずの門がなぜ区域外に出現するのか」という点と「なぜ私の鼻で出現を検知出来なかったのか」という点である。

 

「姉さん!!」

 

「修?!

あなた……何故ここに?」

 

「商店街の方でも爆発があったから災害救助でも手伝えればと思って!」

 

川の方から走ってきたのは訓練用のトリガーを起動している修だった。

その手にはレイガストと呼ばれる大剣型のトリガーを持っておらず、彼のトリオンが著しく低下していることは一目瞭然である。

多分昼間の一件でまた無茶をしたのだろう。

 

「……なぜ助けようと思うんですか?

ボーダー隊員として学校の友達にチヤホヤされたいからですか?」

 

「……違う。

僕がそうすべきだと、危険な目に遭っている他の人達を助けなければならないと思っているからだ!」

 

修の答えを聞いて私はホッと息を吐き出す。

なんというか、修の答えを聞いて安心したからである。

 

「……ふふっ。

あなたはやはりそういう子ですよね。

この先に摩梨と黎奈がいます、黎奈が被災者の救助をしているので手伝ってあげてくださいね」

 

「わかった!」

 

『待ってくれオサム、ミナトにも私の一部を分けておきたい』

 

修に別れを告げ、先に行こうと思った矢先どこからとも無く私の名前を呼ばれた。

振り向くと修の顔の横には黒くて小さなチェスの駒のような物体が浮いていた。

 

『私はレプリカ、ユーマのお目付け役をしている自立型トリオン兵だ。

よろしく頼む、ミクモミナト』

 

「御丁寧にありがとうございます。

私は三雲湊と申します、修の姉です。

よろしくお願いします」

 

思わずぺこりと頭を下げてしまうくらいの礼儀正しさでそのレプリカさんという名前の黒いチェスの駒は挨拶をしてきた。

どうやら遊真くんの保護者のようなものらしい。

 

「ところで、遊真くんのお目付け役であるあなたが私にどのような御用が?」

 

『ユーマは今、イルガーを倒そうと奮闘しているキトラの援護をしている。

もしミナトがイルガーを墜とそうと行動しているのであれば状況を知るにはこれが一番の近道だと思った次第だ』

 

説明を終えるとレプリカさんから同じサイズのレプリカさんがぽこんと現れた。

遊真くんが居ないと思ったらイルガー討伐の手伝いをしているとは……しかも話の途中で出てきたキトラという名前……多分嵐山隊の木虎藍ちゃんのことを指しているのだろう。

 

「なるほど……わかりました、ありがとうございますレプリカさん。

さて、私はそろそろイルガーを墜としにいきます、レプリカさん、修のことはお願いします」

 

『心得た』

 

お互いに反対の方向へとダッシュで向かっていく。

私が高い建物を登り終えた頃には既にイルガーの背中からは黒い煙が上がっていた……きっと藍ちゃんがやってくれたんだろう。

A級5位、そして隊員達の人当たりの良さなどからボーダーの広報なんかを担当する嵐山隊のメンバーだから舐められがちなところがあるものの流石だと言わざるを得ない手際の良さである。

 

「……このままだとまずい……ですよねレプリカさん?」

 

『そうだな、イルガーは大きなダメージを負うと近くにある一番人が多い場所へと向かい落下、そして全ての内蔵トリオンを用いて自爆する』

 

ただそれだけなら地上部隊の黎奈や摩梨に任せれば大丈夫なはずだ。

しかし、そうは問屋が卸さないのが現実というものだ。イルガーが自爆モードに移行すると装甲が固くなるのだ。

摩梨の「魔砲」ですら撃墜出来るか微妙で、私の持っているレイガストでは切れ味が足りず弾かれるのがオチだ。

 

「レプリカさん、遊真くんとコンタクトが取りたいのですがよろしいですか?」

 

『心得た……繋がったぞ、ミナト』

 

「遊真くん、こちら三雲湊です。

聞こえますか?」

 

『うん、聞こえるよ。

どうしたの?今の状況でも知りたいの?』

 

「いえ、あのイルガーは私が落とします。

遊真くんはトリガーを起動しないで出来る限り川から離れてください」

 

『わかった、あれは任せるよ』

 

「もちろんです、お任せください」

 

プツッとかすかな音が漏れ、通信が切れたのがわかった。

確かに遊真くんのトリガーの破壊力を持ってすればイルガー程度なら造作もないだろう。

しかし、遊真くんは「近界民」であるという事実がある。それを聞いたらボーダーの上層部、特に「近界民は敵だから殲滅しなくてはならない」という考えを持った城戸派の面々が黙ってはいないだろう。

トリガーを用いた攻撃を行うとそのトリガー特有の反応が出てしまう、それを危惧しての私の配慮だ。

 

「……落とすと言えどどうやってあそこまで行きましょうかね……」

 

『移動手段だな、ユーマ、頼む』

 

『わかった、『弾』印(バウンド)三重(トリプル)!!』

 

「えっ?!ちょっ?!うわぁぁあああっ?!」

 

通信機越しに遊真くんの声が聞こえてきたと思えば、足下によく分からない紋章が現れ、私はイルガーに向かって弾き飛ばされた。

昨日提出された黎奈の報告書にもあった遊真くんのトリガーの「紋章を出す能力」というものがこれなのだろう。

ボーダーのトリガーにも同じような性質を持った「グラスホッパー」というものがあるが、それとはジャンプ力が桁違いに強化されている……バウンドという言葉の後のトリプルというフレーズが関係しているのだろう。

 

「レイガスト、スラスターON!!」

 

レイガストをシールドモードにしてこのトリガーのオプションであるスラスターを起動する。

拳を覆うように展開されたレイガストはスラスターによって加速し、その拳はイルガーの顎(だと思っている)部分に容赦なく叩き込まれる。

 

「斬るのがだめなら、ぶん殴るだけです!!」

 

その一撃によって大きく体を仰け反らせたイルガー、すぐさまレイガストをしまいアイビスを展開、マガジンを入れ替えてその尻尾(だと思っている部分)に狙いを定める。

 

「墜ちろ!!」

 

狙った位置に着弾した真っ黒な弾は鉱石の結晶のような形に一気に膨れ上がり、その重さに引っぱられるようにイルガーは川へと落ちて行き、爆発四散した。

今のはオプショントリガーの「鉛玉(レッドバレット)」と呼ばれるトリガーの効果である。射手/銃手用トリガー及び狙撃手用トリガーと併用することが出来、弾が当たったところに錘を付けるというトリガーだ。

それをトリオン量が多ければ多いほど威力が上がるアイビスと併用することで錘の重さでイルガーを落としたということである。

何にせよ、脅威は排除できたから、一安心だ。

私は重力に身を任せ、河川敷に着地した。

 

「ふぅ……藍ちゃんは大丈夫だったんでしょうか……?」

 

「……なんとか大丈夫です……」

 

「うわ……なんかごめんなさい」

 

川下から聞こえてきた藍ちゃんの声は酷く落ち込んでいるようだった。

彼女はA級隊員という役職に誇りを持っており、それ故にプライドも高い。そんな彼女がB級である私に助けられ、さらに頑張って戦ったのに敵にトドメは刺せない上にずぶ濡れ……テンションが下がるのも仕方が無い。

 

「お疲れ様です、今日はありがとうございました」

 

「……え?

感謝するのは私の方ですよ湊先輩」

 

間の抜けた返事を返す藍ちゃん。

確かに私が居なかったら商店街はイルガーの爆発のせいで更地にされていたかもしれない。手柄は私にあると思っていてもおかしくはないだろう。

 

「いえ、イルガーを自爆モードまで消耗させたのはあなたです。私は少し討伐に手を貸しただけですから、今回は藍ちゃんの手柄ですよ」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

褒められたからなのか少し頬を赤らめる藍ちゃん。

いやぁ、この顔を写真に撮ったらいくらで売れるんでしょうかね?

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「姉さん、僕はこれから本部に行くけど、姉さんはどうするの?」

 

「私ですか?

私は本部へカチコm「「やめなさい」」」

 

市民への対応も終わっていつの間にか夕方に。

修からの質問に素直に答えようとしたけど、黎奈と摩梨に口を塞がれてしまいました。

修の首がかかっているんだからそれを弁明するのはお姉ちゃんの役目でしょう?え、違うんですか?

 

「おい湊、今日は玉狛にアイツが来るんだろ?」

 

「そうですよ、忘れてました。

ごめんなさい修、私は支部に用事があるのでここで失礼します。

摩梨と藍ちゃんに迷惑をかけないようにしてくださいね?」

 

「わかったよ姉さん」

 

「遊真くんも一緒に来ますか?」

 

「オレは遠慮しておくよ」

 

遊真くんには断られてしまいました……まあ、過ぎてしまったことは仕方がありません、待たせるのもアレですし早めに帰りましょう。




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