ワールドトリガー-女神の名を持つ黒トリガー-   作:ぼいら~ちん

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#04 一ノ宮かがりは酒を飲む

「……いきん…………だ?」

 

「……りに…………うぞ」

 

支部に戻ると日本酒の香りと共に男女一人ずつの喋り声が聞こえてきた。

一人はいつも聞いているからわかる、我らが玉狛支部が誇る筋肉モリモリ系のオカンの木崎レイジさんだ。オカンと呼ばれるだけあって料理も上手ければ炊事洗濯はなんのその。果てには陽太郎くんのヘルメットすらも直してしまうのだから凄いものだ。

もう一人の声も私にはわかる。私の昔からの知人であり、言い方を変えれば姉のような存在だ。聞き間違えることは愚かその声を忘れるなんてとんでもない。

 

「ただいま帰りましたレイジさん、かがり」

 

「おかえり、もう晩御飯は出来ているぞ」

 

「よう湊、久々だな」

 

レイジさんとその銀髪の女性に声をかけると2人とも挨拶を返してくれた。彼女の名前は「一ノ宮かがり」、生まれたところは私と同じで、少し特殊な事情を持った21歳の女性である。同い年であるためにレイジさんや本部の隊員の風間蒼也さんや諏訪光太郎さん、チーフエンジニアの寺島雷蔵さん達とは仲がいいみたい。

 

「ええ、久し振りですね。

お元気でしたか?」

 

「数週間前に少し熱を出したくらいで後は大丈夫だよ。

全く、この体(・・・)も難儀なものだよ」

 

お猪口に入っていた日本酒をくいっと飲み干すと、彼女はとても気怠げというか面倒くさげにそう言った。

彼女は性質上……いや、体質と言うべきか、熱を出しやすいのである。その上、それが発症した時は38度を超えることがほとんどなため、そうなってしまったら治るまでは氷枕の上で寝ていなければならない。元来、かがりはじっとしているのが苦手な為、彼女にとっては苦痛でしかないのだろう。

 

「まあ、その辺りは何とかなりますよきっと。

ところで、なんのおはなs」

 

ガチャッ

 

「おじゃましまーす」

 

私が話題を変えようとしたところで玄関の方から声がした。玄関へ続くドアは空いていたのでそちらへと視線を向けるとそこに立っていたのは紙袋を持った彰だった。

 

「彰?

こんな時間に珍しいですね……何かあったので?」

 

「昨日摩梨がここに来たって聞いてさ、なんかお祝いしてもらったらしいからお返しをしようと思ってね」

 

そういうと彰は右手に持った紙袋を手渡してくる。中身を見てみると、最近学校で何かと話題になっているお菓子屋さんが作るマカロンの詰め合わせだった。

 

「おぉ……これは美味しそうですね、ありがとうございます」

 

「いいっていいって、こっちは祝ってもらったんだしな」

 

私達が祝ったのは彰率いる松風隊のメンバーである摩梨なのだが、それに対してちゃんと感謝の言葉とお礼の品を持ってくるあたり、彰は出世するタイプなんだなぁと心のそこで思った。

 

「彰か?

飯がまだだったら何か食べていくか?」

 

「いいんですか?

小南や京介の分だってあるでしょうに」

 

「いいんだ、2人とも飯を食わずに帰ったし、今日はもう林藤さんと陽太郎、俺と湊くらいしか残ってないし余ってるんだ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えてさせていただきます」

 

ぺこりとお辞儀をすると靴を脱いで支部の中へと彰は入っていった。彰は2年ほど前まで玉狛支部に籍を置いていたのだが、レイジさんが作ったご飯がお気に入りで、たまに食べに来る程度にレイジさんの料理のファンである。

 

「げっ……日本酒飲んでるかがりが居る……」

 

「げってなんだげって。

久々に会ったのにそれは流石に酷いと思わないか?」

 

「いやさ、お前、酔ってる時と寄ってない時の見分けがつかないし、何よりも俺に日本酒飲ませようとしてくるじゃんか」

 

ため息を吐きながら私の対面、レイジさんの隣に腰を下ろす彰。私とかがりは7年ほど前までロシアに住んでいたのだが、ロシアでは18からお酒が飲めるからと言って日本の一介のボーダー隊員に無理矢理飲ませるのもどうかと思う。それに未成年の飲酒、喫煙描写はR-15タグを付けているとはいえ何かとまずい。

 

「かがりも程々にしておけ。

未成年の飲酒、喫煙描写はR-15タグを付けているとはいえガイドライン違反になる可能性があるからな。

彰、カツカレー」

 

「あ、レイジさんありがと!」

 

「……何言ってんだお前?」

 

レイジさんもそう言ってるんだからそういう事なんです。

何がともあれ、かがりは彰へのアルハラ紛いなことはやめてくれたようだ。

当の彰はと言えば、レイジさんが出してくれたカツカレーをとても美味しそうに頬張っている。彰は勉強とか運動とか色々あるからお腹が減るのはわかるのだが、なんとなく太らないか心配である。

 

「そうだ湊、さっきなにか話そうとしていたけど、何を話そうとしてたんだ?」

 

「いやですね、私が帰ってきた時に2人はどんな話をしてたのかなと思いまして」

 

「あー……それはあれだ。

あんまり突っ込んで欲しくないところだったんだけど……」

 

「端的に言えば、最近のお前のことについて聞いていたぞ。

あとはボーダーの最近の活動についてだな」

 

「ちょっ?!レイジてめぇ!!」

 

レイジさんが説明をしてくれると恥ずかしいのか酔っているのかわからないが、顔を真っ赤にしながら体をテーブルの上に乗り出して声を荒らげた。

そんなかがりを見た彰はニヤリと口を歪める。

 

「なぁるほど……かがりってやっぱりツンデレだなぁ……」

 

「おいクソガキ、私が礼儀ってものを教えてやろう」

 

「ま、待って!!

悪かった、悪かったからそっちはマジでやめてくrアッー!」

 

リビングから引きずり出される彰、その後数日間、彰は女性(特に三輪隊の月見さんや沢村さんなどの年上)を見ると酷く怯えて居たという。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……こんな朝早くから私のことを呼び出すなんて珍しいですね悠一」

 

「メガネ君と湊が一緒なら一連のイレギュラー(ゲート)の件が解決するって俺の副作用(サイドエフェクト)が言っているんだよ」

 

私と修の前を歩く男はけらけらと笑い声をあげる。

彼の名前は迅悠一、自称実力派エリートである。自らエリートを名乗るのはどうかとは思うが、彼の実力は我らが玉狛支部の支部長である林藤匠のお墨付きであり、私も素直に強いと思う。

悠一が言っていたイレギュラー門とは、本部務めの彰から聞いた話だと最近頻発している警戒区域外で起こる門のことを指し、先日の修の学校で起きた近界民(ネイバー)の襲撃や、商店街で起きた爆撃なんかもそれの影響らしい。

現在は鬼怒田開発室長によって門は強制封鎖されているが持っても2日程度で早急な対策が必要とされている。

この門が開く場所の特徴として、人通りが多い場所で発生しやすいというのが挙げられているが、交通量がまばらな住宅街なんかで起きているケースもあるため、一概に理由もわからないまま完全に後手後手に回っているのである。ちなみに、どのケースにおいても近くに非番の隊員がいたために大事にはならなかったものの、修と遊真君たちのようなケースが今後起こらないかが心配である。

 

「よし、着いたな」

 

「よっオサムとミナト。

……そちらはどちら様?」

 

悠一が足を止めるとそこには遊真くんが居た。勿論レプリカさんも一緒なのだろうが、匂いがするだけで姿は見えなかった。悠一が居るところで姿を見られるのはまずいと思ったのだろう、懸命な判断である。

 

「俺は迅悠一、実力派エリートです!」

 

「俺は空閑遊真、宜しくねじんさん」

 

お互いにニヤリと笑っている表情を崩さず会話をする2人。

年齢的には4つ程しか離れていないのもあって2人は兄弟のように見えなくもない。

 

「それにしてもお前ちびっこいなぁ!」

 

「これでもオサムと同じ15歳です」

 

「おおそうかそうか〜……!!」

 

悠一が遊真くんの頭をわしゃわしゃと撫でているのが尚更兄弟イメージを強めていく。しかし、何かを察した……いや、何かが視えたのか、その手の動きがピタリと止まった。

 

「……お前、向こう側(近界)から来たんだろ?」

 

「……!!」

 

遊真くんは自分の正体を見破られたのに若干の動揺を見せつつもすぐさま悠一から一歩離れて身構える。

勿論修も少しだが表情に動揺が見える、勿論私もこのような展開は望んでいないし、悠一だって同じだろう。

 

「待ってください。

悠一に敵対する意思はありません。

確かにボーダーは近界民を排除することが目的ですが、私も悠一も向こう側には行ったことはありますし、向こう側の人にもいい人が居ることは重々承知です」

 

「……ミナトがそこまで言うなら大丈夫だと思うけどさ……

でも、なんで俺が近界民だって分かったの?」

 

「俺には未来が見える副作用があるんだよ」

 

「未来視の副作用……?!」

 

先程から出てきている副作用という単語は著しく高いトリオン能力を持った人に発現する能力のことであり、私の強化嗅覚や悠一の未来視は副作用のうちの一つである。私の知っている限りだと強化聴覚や向けられている感情を肌の痛みなどで感じることが出来る感情受信体質など様々なものが存在する。

 

「ああ、だから今日ここで遊真と会うことも分かったし、これから遊真がイレギュラーな門の原因を出してくれるのも見えてる」

 

「なら話は早いね、多分原因はコイツだよ」

 

そう言って遊真が持ち上げたのはエイリアンの子供のような小さめのトリオン兵だった。

胴体部分に穴が空いているあたり遊真くんが止めを指したのだろうが、トリオン兵を生身で持つのは何かと気が引ける。

 

『それについての詳しいことは私が説明しよう』

 

「うおっ?!

み、湊……この黒いのはなんだ?」

 

『初めまして、私はレプリカ。

ユーマのお目付け役だ、よろしく頼むジン』

 

「おぉ……これは御丁寧にどうも」

 

私が初めて話した時と同様にレプリカさんに深々と頭を下げる悠一。悠一本人もレプリカさんがトリオン兵だと言うのは薄々わかっているのだろうが些か冷静過ぎるのではないかと思うが、ここは敢えて何も言わないでおこう。

 

『説明に戻るとしよう。これは偵察、隠密用トリオン兵のラッドという。

単体では攻撃力を持たず、所謂雑魚と言っても差支えはないのだが、この個体には地中に潜伏しながら周囲の人間からトリオンを収集、蓄積することで門を発生させるという通常の個体にはない改造が施されていた。

プログラムを解析したところ、先日ここで倒したバムスターの腹部に格納されていて、人の活動が疎らになっている時間帯に移動し街中に散らばったらしい』

 

「なるほど……確かに全てのケースで一般人よりもトリオン量が多いボーダー隊員が居合わせていたというのも頷けますね」

 

『ミナトの言う通り、ボーダーの隊員は一般人に比べて体内にあるトリオン量が多い。

そのため、大量のトリオンを収集することが可能で、それが原因で門が開いたと考えるのが妥当だろう』

 

レプリカさんは淡々と事実を述べることによって私の中で綻んでいた部分のパズルのピースが埋められていった。

 

「一つ思ったんだけど、なんでこのラッドっていうトリオン兵は姉さんの強化嗅覚でも探知できなかったんだろう……?」

 

「その答えは単純です、ラッドが地中に潜っていたのとバムスターの匂いに混じって判別が出来なかったからですね。

いくら私の鼻が優れていようとも蓋をされた容器の中身を判別するのは難しいですし、他の色々な匂いと混ざってしまえば匂いが小さいものが紛れ込んだのに気が付かないのは当然です」

 

伊達に隠密用トリオン兵を名乗っては居ないなと近界に居るまだ見ぬ敵に少しだが畏敬の念を抱いたのは言うまでもない。

 

「で、でも、これを全部倒せばイレギュラー門は発生しないんだろう?」

 

「うーん……それができれば終わりだけど、めちゃくちゃな数がいるよ?」

 

『ユーマの言う通りだ。

少なくとも私が探知できている限りでは数千体はいるな』

 

「す……数千……」

 

途方もない数を耳にして修の顔は青ざめる。

もちろんそんな数は私達4人だけではどう足掻いても2日程度で片付けることは不可能だ。

 

「おっと、ここからは俺たちボーダーにお任せを。

人海戦術ならお手のものってな」

 

「でも……大丈夫なのでしょうか……?」

 

悠一の一言に遊真くんはもっともな意見だとでも言っているかのように大きく頷いた。

しかし、修はどことなく不安感を拭いされない様子だ。

 

「大丈夫です、ボーダーは強くなりました。

一人一人の実力も、隊員の数も、技術力も。

だから大丈夫、何とかなるはずです」

 

「行くぞ湊、本部にコイツを持って帰って解析に回したい」

 

「もちろんです、悠一。

修、あなたは安全な場所にいてください。直に本部から本部から通達があると思うのでそれまで待機を。

遊真くんもありがとうございました、今度お礼に何かご馳走しますね」

 

そう言うとトリガーを起動して悠一共に本部に向かって走って行く。

その後、ボーダー隊員は階級を問わず総動員され、改造ラッドは強制封鎖が解除される前に駆逐され、街に平和は戻った。

いやぁ、良かった良かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ここが三門市……か」

 

夜の三門市のとある駅、黒いボーラーハットを被り、黒い外套を身に纏っている白い口髭を蓄えた外国人風な面立ちの初老の男性はキャリーバッグを引き摺りながら独りごちる。

ガラガラと音を立てながら男性は街の大通りにあるホテルに立ち寄り荷物を置いていくと、三門市の中心部-所謂警戒区域へと歩みを進めていく。

別段彼は人生に疲れて人気のない場所で自殺をしようとかそういうことを考えるような人間では無い。一人黙々と歩いていきもう少しで警戒区域に入るというところで男性に対して散歩中だった彼よりも歳を重ねているであろう老人が声をかけた。

 

「おいあんた、ここから先は危ないよ。

見たところ旅行者みたいだから知らないだろうが、この先は近界民っていう奴らが出て来るんだ」

 

「……ご忠告をありがとうご老人。

亡き友人の遺体が見つかった場所がこの先にあるのです。すぐに戻ってくるつもりなのでご安心を」

 

「そうかぁ……もしもヤツらが出てきたら助けを呼ぶんだぞ?」

 

「ええ、もちろんそのつもりです」

 

帽子を脱いで胸元に当てると老人に対して一礼、そのまま進行方向へと再び警戒区域内へと男性は歩き出した。

警戒区域内に入ってから数百メートル歩みを進めると徐々に遠くにあった四角い建物-ボーダーの本部と距離が近くなってきた。

 

「……さて、このあたりか……」

 

男性はそう呟くとその場で立ち止まり、腕を捲る。すると手首に付いている黒い腕輪がキラリと光るといつの間にか男性の右手にはカラスの頭が象られた柄を持つ杖が握られていた。

 

『登録外のトリガーの反応を確認、日佐人行ってくれるか?!』

 

『わかりました諏訪さん!』

 

これもまたいつの間にか耳に装着されていたイヤホンからは通信を傍受しているのかガラの悪そうな青年の声と素直そうな少年の声が聞こえてきた。その声を聞くと男性はニヤリと口角を吊り上げた。

 

 

 

「さあ、王の凱旋と行こうじゃないか」

 

 

 

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