ワールドトリガー-女神の名を持つ黒トリガー-   作:ぼいら~ちん

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#05 三雲湊は擁護する

「あれっ……?

ここで待ち合わせのはずだったんだけど……」

 

「あの自転車、遊真くんと千佳ちゃんの匂いがします、ここに2人が居たことは間違いなさそうですね」

 

警戒地域からほど近い河川敷、修と一緒に遊真くんと修の友人である雨取千佳(あまとりちか)ちゃんと待ち合わせをしていた場所なのだが、何故か2人とも居ないのだ。遊真くんも千佳ちゃんも約束を無断で破るようなことはしないだろうし、きっと何かあったんだと少し不安になってくる。

 

「千佳に電話してみるよ、電話には出てくれるかもしれないから」

 

「……いえ、理由がわかったので急ぎましょう。

警戒区域内にいるトリオン兵の近くに遊真くんと千佳ちゃんの匂いがしました」

 

「あいつ……わかった、すぐに行こう!!」

 

修が千佳ちゃんに電話を掛けた直後に私は嗅覚が反応した情報を整理し伝える。遊真くんの気配はもともとトリオン兵のまわりにあったのだが、千佳ちゃんには敵の気配を察知するものと自らの気配を知覚出来ないようにする副作用(サイドエフェクト)のような能力が備わっていて、その能力の影響で私の嗅覚にも影響を及ぼしていたのだと考えられる。いきなり匂いが探知できるようになったのは多分修が彼女の電話を鳴らしたことで能力に乱れが生じたのだろう。不幸中の幸いとして遊真くんが襲われないように守ってくれているようだが、危ないのは確かだ。

 

「修、あなたは先に行ってください!

レプリカさんは修のサポートを、私は後ろから援護します!」

 

「わかった!」

 

『承知した』

 

目的地へ向かう途中に修と別れ、私は近くの高い建物の上へと登る。討伐目標は砲撃及び捕獲のために作られたトリオン兵のバンダー。それを確認すると私は弾速に特化した狙撃手(スナイパー)用トリガー「ライトニング」を構え、照準を口のあたりに合わせる。

バンダーの弱点は砲撃後に口の中に見えるあるコアだ、きっと初めて見る修は今頃レプリカさんからその情報を貰っているはずだろう。

 

『こっちだ近界民(ネイバー)!!』

 

通信機越しに声が聞こえた直後にトリガーを起動する修。すると、今までの訓練用のトリガーに換装した時の白い制服とは違い、青い服装へと換装した。その手に展開された武器は右手に防御に特化した攻撃手(アタッカー)用トリガーの「レイガスト」、そして左手には射撃用のトリガー「アステロイド」だ。C級隊員は一つしかトリガーを装備できない、つまり修はB級に昇格したのである。

 

『ぐぅっ……アステロイド!!』

 

レイガストでバンダーの砲撃を防ぐと、すぐさま左手に展開されたレイガストで口の中のコアを撃ち抜いた。

 

「今です修、切り捨ててください!」

 

そう言うと私の持っているライトニングという狙撃用トリガーの色が白から黒へと変化する。トリガーを3回引くと、放たれた黒い弾丸はバンダーの口の下に命中、着弾点には黒い錘が残っていた。その重さによりバランスを崩したバンダーは地に伏せる。

 

「おぉぉぉおおおおおお!!!」

 

顔が地面に着いた時には既に目の前に修がスラスターによって速度が増した剣を振り下ろしていた。見事に真横一文字に両断されたそれからはトリオンが吹き出し、イルガーは動かなくなった。

 

「流石はB級隊員だな」

 

「ふぅ……2人とも一緒なら探す手間も省けて助かりますね」

 

近くの建物の陰に隠れていたと思われる遊真くんが身長が低めの黒髪少女を連れて現れた。遊真くんが連れている彼女こそが雨取千佳ちゃんである。

 

「千佳!危ないって言ったじゃないか!」

 

「……ごめんなさい」

 

「まあまあ、2人とも何事もなかったのですから怒らないであげてください」

 

今回遊真くんと彼女を会わせたのは千佳ちゃんの体質について聞きたいことがあるという修によるものだ。千佳ちゃんはその体質のせいと言えばいいのか定かではないが強い自己犠牲の精神を持っており、このように修がそれを怒るというのはよくある事なのだ。

 

「それはそうだけど……」

 

「それに、今日は千佳ちゃんの体質について遊真くんに聞きたいことがあるんでしょう?」

 

「聞きたいこと?」

 

集まった理由が聞かされていないのか、はたまた社交辞令的なものなのか、遊真くんは首を傾げた。

 

「千佳の事だ。

コイツは近界民(ネイバー)を引き寄せる体質なんだ」

 

「ほほう……何で引き寄せちゃうのか聞きたいって事だな」

 

「そういう事です、仮説は私の中でも立ってはいるのですがそれに確証を持たせるためにも聞きたいんです」

 

遊真くんは少し考えるような素振りを見せるが、顔を上げる時には何かに納得したように表情はいつも通りの朗らかなものになっていた。

 

『取り敢えずこの辺りは目立つ、少し人のいないところに場所を変えたい』

 

「了解です、それなら旧弓手町駅の辺りがいいですね」

 

そう言って私が指し示したのは他のボーダー隊員が戦闘をしている位置と逆方向にだ。警戒区域の端ということもあり、ボーダー隊員に気付かれることもないはずだ。まあ、あとをつけられていたりすればまた別な話ですが。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて、ここなら大丈夫でしょう」

 

手を腰にあて、ふぅ……と息を吐く。外に居ても変に目立ってしまうために結局旧弓手町駅の構内に入ったわけだが、第一次近界民(ネイバー)侵攻以降、近界民が出る地域は立入禁止となり、その範囲に含まれているこの場所は言わずもがな廃駅となっている。改札機を無銭で通っても何も起こらないし、もちろん駅員室にもホームにも人は居ないし、待てど暮らせど電車が来ることもない。その情景に一抹の寂しさを覚えた。

 

「……ところで、なんで2人は一緒に居たんだ?」

 

「待ち合わせ場所に居たら知り合って」

 

「自転車に乗る練習をしたら川に落ちた」

 

「「なるほど、わからない」」

 

修が頬に汗をかきながらズレたメガネをくいっと上にあげる。私はというと、無意識のうちに苦笑いを浮かべていた。

 

「そう言えば、お互いの紹介がまだだったな。

千佳、コイツは空閑遊真、海外出身で僕と同じ学年だ」

 

「よろしく〜」

 

「で、空閑。こっちは雨取千佳、僕の家庭教師だった人の妹だ」

 

「えぇっ?!

ゆ、遊真くんって私よりも年上だったの?!」

 

「背が小さいからよく言われる、気にすんな」

 

確かに遊真くんの身長は低いですけど、どうやら千佳ちゃんは遊真くんのことを同い年くらいの子だと思っていたらしい。ぺこぺこと頭を下げる千佳ちゃんにいつも通りの気の抜けた調子で大丈夫大丈夫という遊真くん。寛大な心をお持ちですね。

 

「……本題に入らせてもらうよ。

空閑は千佳が引き寄せる理由はなんだと思う?」

 

「要するに近界民に狙われやすいって事だろ?

それなら考えられる理由はトリオンだな」

 

「トリオン……どいうことだ?」

 

遊真くんがそういうと、修と千佳ちゃんは首を傾げている。うん、可愛い。写真に撮りたい。

 

「私も遊真くんと同意見ですね。

近界民がトリオン兵をこちら側に送り込んでくる理由はリソースを補充することの一言に尽きますね」

 

それから、私は近界民とトリオンの関係性について説明を始めた。トリオンとはトリガーと組み合わせることにより近界民にとって生活を支えるエネルギーになるということだ。こちら側の世界から人々を攫う理由も様々で、兵力の増強、人がトリオンを生み出す為の器官である「トリオン器官」を収集するという目的が主である。主に兵士として連れ去られるのはトリオン能力の高い人間で、それ以外はトリオン器官を抜かれてしまうのだ。

 

「……と、このようにして兵士とトリオンを集め、向こうの戦争のリソースとして消費する、ということです」

 

「な……なんでわざわざこちら側の人間を……?!」

 

「そりゃこっちの方が人がたくさんいるからね」

 

「逆に、これだけ選り取りみどりな状況下で数年も狙われ続けるということは相当なトリオン能力を有しているということになりますね」

 

「……トリオン能力って?」

 

私達の話になかなか付いてこれなかったからか、おろおろとしていた千佳ちゃんがとうとう疑問の声を上げる。

 

「トリオン能力っていうのはトリガーを使うための力だ」

 

「……仮説を立証するためには千佳ちゃんのトリオン量を測定しなきゃならないのですが……機械を支部まで取りに行かなきゃならないんですよね」

 

『私に任せてくれ』

 

「うわぁっ?!」

 

どうしようかと首を傾けるとにゅっと言う効果音が似合いそうな音と共に遊真くんの指輪からレプリカさんが現れた。いきなり出てきたのでびっくりしたのか素っ頓狂な声を上げた。しかし、すぐさまレプリカさんが自己紹介をすると驚きつつもぺこりと頭を下げた。

 

『この測定索を使えばトリオン能力を測ることが出来る』

 

「ぜひご活用ください」

 

レプリカさんの口(と思われる部分)からにょろんと先端に取っ手のようなものが付いた紐が出てきた。

曰く、これはレプリカさんの機能の一つのトリオン量を測るためのものらしい。流石は多目的型トリオン兵である。

 

「……でも、少し怖いかな……」

 

「レプリカ、先に僕が測ってもいいか?」

 

『ああ、もちろんだ』

 

千佳ちゃんの不安を拭う為か、修が先にレプリカさんに頼んでトリオン量の測定をしてもらおうと名乗り出た。

レプリカさんはもちろん快諾してくれて、取っ手を掴んでから数分もしないうちに測定結果が出たようだ。

レプリカさんの頭の上には仄かに緑色を帯びたトリオン製の立方体が現れる。これは修のトリオン量を視覚化したものらしく、トリオン能力の大小に比例してこの立方体は大きくなるらしい。

 

「このサイズはどれくらいのものなんだ?」

 

「ふむ……トリオン兵から狙われるにはこの3倍は必要だな」

 

「僕は別に狙われたいわけじゃないんだが……

この通り何の問題もないから、千佳も測ってみてくれ。

大丈夫だ」

 

「……わかった」

 

『……少し時間がかかりそうだ、楽にしていてくれ』

 

少し緊張しているような面持ちをしつつも測定策を握ってくれた。そしてレプリカさんの一言にこくこくと頷いた。

 

「そうだ、千佳ちゃんは中学二年生でしたよね?

学校はどうですか?」

 

「はい、友達も沢山いるし、楽しいです」

 

「それなら良かったです」

 

千佳ちゃんの気を紛らわせようと他愛の無い世間話を始める。千佳ちゃんのお兄さんである麟児さんは7か月前に失踪してしまった。その為、日常生活や友人関係に支障を来たしてしまっていないかという心配をしていたのだが、どうやら杞憂に終わったようである。私はそれを喜んでいたのが顔に出たのだろう、気がついたらニッコリと笑っていた。

 

『測定完了だ』

 

「おぉ……これは……!」

 

「オサムの何倍あるんだこれ……?!」

 

『尋常ではないな』

 

千佳ちゃんの計測結果にここにいる全員が感嘆の声を上げた。千佳ちゃんの測定結果を表す立方体は彼女の身の丈以上の大きさを誇り、修のと比較すると軽く10倍以上の大きさはあるだろう。

 

「これだけのトリオン能力があれば狙われ続けるのも納得ですね」

 

「……問題はどうやって千佳を守るか、だな」

 

千佳ちゃんは過去に仲の良かった友人とお兄さんが近界民によって攫われてしまっている。そのことと彼女の内向的な性格が相まって他人に助けを求めることもしないどころか仲のいい人にすらこのことを教えることは無い。修が知っているのは家庭教師を務めていた彼女のお兄さんの麟児さんのお陰であり、私が知っているのも修からこの事を相談されたからである。

 

「動くな、ボーダーだ」

 

「A級隊員……?!」

 

「……なんであなた達が居るのかと思いましたが、まさか彼を追っていたとは……ねぇ、秀次、陽介?」

 

背後から声がしたかと思って振り向くとそこにはボーダー本部に所属しているA級隊員、三輪秀次(みわしゅうじ)米屋陽介(よねやようすけ)が居た。そして、彼らの手にはトリガーホルダーが握られており、私が質問をした頃には2人とも無言でトリガーを起動していた。

 

「ボーダー未登録のトリガーだ。

使っていたお前が近界民か?」

 

「待ってください!

こいつは……」

 

「オレだよ、近界民は」

 

レプリカさんの測定機能を使っていた千佳ちゃんに疑いの目が向けられる。修が誤解を解こうと弁明を始めようとしたが、それは遊真くんの一言によって遮られた。

 

「その言葉に間違いはないんだよな、白髪くん?」

 

「うん、もちろん」

 

陽介が遊真くんに問いかけ、それに肯定するや否やドンドンドンと3回の発砲音と共に3発の凶弾が遊真くんに襲いかかった。

遊真くんの頭のあたりは煙で覆われ、何が起こったかわからない。

 

「いきなり発砲するなんて不躾ですね?」

 

「吹上灯……!

なぜお前も三雲湊も近界民を擁護しようとする?!」

 

その声は空から降ってきた。

声のした方向へと目を向けるとそこにはひと振りの弧月を携えた少女-吹上灯がいた。

煙が晴れると遊真くんは黒トリガーの能力であろうシールドを起動しているものの特に怪我をしている様子もなければシールドを損傷しているような形跡もない。それよりも、あまりに一瞬のことで本人ですら何が起きたかわかっていないようだった。

 

「……彼のお父さんは私の命の恩人ですから。

息子である彼を守るのは当然のことです……手伝ってくださいますか、灯?」

 

「もちろんです、湊先輩」

 

屋根の上から私の隣に移動すると携えている弧月の切っ先を秀次と陽介に向けた。

 

「……裏切り者の玉狛支部め……!!」

 

苦虫を噛み潰したような表情で秀次はそう呟いた。

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