ワールドトリガー-女神の名を持つ黒トリガー-   作:ぼいら~ちん

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また期間が空きましたが、7話目投稿です。


#07 迅悠一は彼を誘う

「ところでさ、白おちびはなんでこっちに来たの?」

 

俺-松風彰が白おちびこと空閑遊真へと問いかける。

今俺は湊の弟、修の友人である雨取千佳ちゃんに連れられて町外れの人気のない小さなお社を訪れていた。なんでも「ここなら人も来ないし安全」とのことで、あまり多人数で居ても怪しまれるということから雷斗と灯には一足先に玉狛支部へと戻ってもらった。そんな訳で俺は二人と一緒にいる訳だが、今は警護なんて堅苦しい言葉は似合わない和やかな雰囲気で昼食用に買ったハンバーガーを食べていた。傍から見たら完全にピクニックである。

 

「理由……というと?」

 

「例えばさ、会いたい人がいるーとか、やりたいことがあるーとかさ。

近界(ネイバーフッド)に行ったことがある俺だからわかるけど、かなり大変な道のりだったんだろ?

それだけの事をする理由を聞いてみたくてさ」

 

「まあ、楽だったと言えば嘘になるね。

うーん……理由か……強いて言うなら親父が死んだから……かな」

 

俺の質問に対して遊真は少し悩むように首を傾げるも、考えるだけ無駄だと思ったのか首をかしげたままそう答えた。

なんでも遊真は近界(ネイバーフッド)にある色々な惑星国家を旅していたそうだ。その最中で彼の父親は(ブラック)トリガーを残して亡くなった。その後は生前「俺が死んだら向こう側に行け」と言われたこととレプリカの勧めもあって、父親の故郷であるこちら側の世界、近界民(ネイバー)から言うところの「玄界(ミデン)」に来たそうだ。

 

「まあ、親父からは『ボーダーは近界(こっち側)玄界(あっち側)を繋ぐ橋になる組織だ』って聞いたけどなんかイメージと違ったな。

トリオン兵は誰彼構わず襲ってるし、ボーダーはボーダーで近界民を目の敵にしてるし」

 

「今はそうだけどな……でも、昔は違ったんだ」

 

「何かあったんですか?」

 

「……5年くらい前の話なんだが……」

 

「……やっぱりここにいたか。

探したぞ彰」

 

背後から突然俺の名前を呼ぶ声がした。いきなりの事だったのか目の前にいた遊真は身構える。その様子を見て俺は腰に付いているトリガーのホルダーに手をかけながら振り向く。

 

「げっ……お前は……」

 

振り向いた先にいた女性の姿を確認すると、額から冷や汗が流れ落ちた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「黒マントのトリガー使い……ですか」

 

「ああ、それに仮面舞踏会に付けてきそうな仮面も被った白い口髭のジジイだったって日佐人(ひさと)が言ってたんだ」

 

「なるほど……」

 

ところ変わってボーダー本部。遊真くんの事の報告、そして彼が旧ボーダー創設に関わった人物である空閑有吾(くがゆうご)さんの息子であることを示したことで私-三雲湊と悠一、そして修は旧ボーダー時代からの仲間である忍田さんから彼とのつなぎ(・・・)を頼まれた。そんな私だが、今は一緒に来た悠一と修を先に行かせて本部のB級隊員である荒船哲次(あらふねてつじ)と休憩スペースで話をしています。

私が本部に来たら一通り中を見回ったり、暇をしてそうな隊員を見つけて世間話をするのはボーダーに人が多くなってきた頃からの習慣になってしまいました。哲次だけと話すわけではありませんが、なんだか今日は本部内の隊員がそこはかとなく浮き足立っているような気がしたので、本部(こっち)で何が起きたとかそういうのを年が近く理論的な思考を持っている彼から知っておきたいなと思った次第です。

 

小佐野(おさの)の話だとトリガー反応はボーダーの登録外のものだったらしいし、ログを見せてもらえばわかると思うが杖みたいな形をした銃のトリガーを使っていたみたそうだ。

上層部にも報告済み、対策が検討されてるって話だが……湊の耳には入ってないのか?」

 

「え?

いえ、特に私のところには……」

 

「……お前、またなんかやらかしたな?」

 

「な、なにもやらかしてないですよー」

 

じーっと目を細めながらこちらを見つめ続ける哲次に思わず目を逸らしてしまいました。視線を逸らすのに釣られて首まで動いてしまった私を見た彼はがっくりと項垂れてしまいました。

 

「はぁ……まあいい。

俺がお前に対して言ったのはお前が夜間の防衛任務に入ることが多いからだ。

マント野郎の目撃情報は現状日佐人の一件だけだが用心するに越したことは無い」

 

「はーい、わかりました」

 

「やる気のねぇ返事だなぁ……ったく」

 

ふんっと鼻を鳴らす彼とは打って変わって生返事とも言えなくもない気が抜けた返事を返した私。しかし、黒いマントと白い口髭というフレーズに妙な引っ掛かりを覚えてしまった。

 

「……キング・アーサー……」

 

「ん?なんだそりゃ?」

 

「ほら、3年くらい前にイギリスの名のある資産家などを皆殺しにしたっていう」

 

「あー、あったなそんなの。

蓋を開けたら殺された奴らはみんな裏でひでぇ事やってて国家規模で隠蔽してたからイギリス政府と警察がボロクソに言われたやつか」

 

「それです、その時に逮捕されたキング・アーサーことアーサー・チュカーリンという人物がそんな格好をしていたので……ほら」

 

スマートフォンをぽちぽちと操作して目当ての写真を探し当てると画面を哲次に向ける。写っているのはにっこりと笑ったダンディーな男性でした。一見とても人当たりが良さそうな男性で、こんな人が大犯罪を犯したとは到底思えないという印象を彼に持ちました。

 

「……確かに服装の雰囲気は似てなくもないが、白い口髭たくわえたジジイ、だぜ?

当時の年齢を考えても3年でそこまで老けるものでもないだろうに」

 

「……刑務所生活のストレスで老けた……とか?」

 

「……有り得ない話でもないな。

わかった、調べてみるが他言は無用だからな?

出鱈目に不安を煽るのはあまり良くないからな」

 

「はーい、ではもう少し休憩したら支部に戻ります。

また会いましょう、哲次」

 

「おう、またな」

 

そういった彼は部屋をあとにします。私は休憩スペースを出ていく哲次の背中にひらひらと手を振りました。彼を見送り終えるとちょうどポケットに入れていたスマートフォンがメッセージを受信したことを知らせるために震えました。ロックを解除し文面を見た後、私は支部へ戻ろうと席から立ち上がり部屋を出ました。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「湊、お前からもこいつになんか言ってやってくれ。

いい加減携帯電話は電源入れておけって」

 

部屋を出る前に悠一から指定された集合場所はちょうど本部から玉狛支部へと戻る途中でした。目的地に到着するや否や声を掛けてきたのはかがりです。彼女は遊真くんと千佳ちゃんの前に立ち、彼らと一緒にいた彰はと言うと、彼女の右手によって奥襟のあたりを鷲掴みにされて宙吊りにされていました。

 

「に、任務のすぐあとだったから仕方ないだろ……?

それに、思いの外遊真と千佳ちゃんとの話が弾んだから忘れててさ……」

 

「有意義な時間を過ごせました」

 

にんまりと笑みを浮かべる遊真くん。隣の千佳ちゃんにも視線を向けるとにこっと笑いながら遊真くんの言葉に同意するかのように頷きます。

 

「……まあ、いいのでは?

遊真くん達だって満足そうですし」

 

「そういう問題か……?

まあ、いいか」

 

「ぐぇっ」

 

遊真くん達の和やかな雰囲気に充てられたのかかがりもどうでも良くなったようで彰の服の奥襟を掴んでいた手がぱっと開きます。しかし、準備が出来ていなかったのか当の彰はべちゃっと音が聞こえてきそうな勢いで地面に落下しました。顔から、べしゃっと。

 

「まあこいつの事はどうでもいいんだ。

修、本部のお偉いさんからはなんか言われたか?」

 

「そうだ、怒られたりしたのか?」

 

「怒られたけど……問題はそっちじゃない。

本部の隊員に空閑が狙われているかもしれないんだ」

 

確かに忍田さんには遊真くんとのつなぎを頼まれましたが、本当に遊真くんと勇吾さんの間に血の繋がりがあると断言出来る訳ではありませんし、今の城戸さんはそんなことなどお構い無しに彼と彼が持つ黒トリガーをボーダーへの脅威だと断定し刺客を送ってくるでしょう。

 

「しかも今は非常に時期が悪いですね」

 

「うぐ……やっぱりあいつらが帰ってきてから送ってくるよなぁ……」

 

「あいつらって?」

 

私の一言に対してやっとこさ立ち上がった彰がため息混じりにそうぼやくと、誰を指しているのかわからない遊真くんが首を傾げました。

 

「彰がいう「あいつら」ってのはボーダーでもトップクラスの実力を持った「近界遠征部隊」ってやつらのことだ。

さっき襲ってきた三輪隊もそいつらもボーダー内でも5%しか属していないA級隊員だが、A級の中でも上位に食い込むやつらのみが選出されるのが近界遠征部隊だ。

精鋭中の精鋭たるそいつらがもう少しで遠征から戻ってくるから、お偉いさんが差し向けて来る可能性があるっていうハナシだ」

 

「なるほど……確かにそれはやばいかもな」

 

「彼らがの選考基準には複数ありますが---」

 

冷静かつ淡々とかがりが説明するとそれに対して遊真くんの表情が少し強ばったような気がしました。

疑問は解消したのだろうが問題が増えてしまった。私がかがりの説明に更に補足を加えると、確かに秀次と陽介……いや、三輪隊対遊真くんでも彼の黒トリガーをもってすれば勝利できるだろう。ただ、遠征部隊となれば話は別です。

遠征部隊の選抜条件は選抜試験において「黒トリガーに対抗することが出来る(・・・・・・・・・・・・・・・・)」と判断されること。つまり、ボーダーにおいての対黒トリガー部隊ということであり確かな経験と高いポテンシャルを持つトリガーを扱う遊真くんですらも辛い戦いになることは必至でしょう。

 

「……あなたのお父さん-勇吾さんには私もかがりもお世話になりましたからね。彼が亡くなってしまった以上、彼が守ろうとしたもの-あなたを守ることでその恩を返させていただきます。

たとえそのならこの身を焼いてでも守り抜きましょう」

 

「私は自分の体を焼かないと戦えないけどな」

 

少し物憂げな表情をする遊真くんの目を見て私は覚悟とでも言うべきことを語る。そんななかかがりは私の背中をばんっと一発叩くと彼女のトリガーの特性とかけたジョークを言ったのだが、なんのことを言っているか分からなかった修と遊真くんと千佳ちゃんは首を傾げていました。なんだか久々に彼らの年相応の可愛らしい姿を見れた気がします。

 

「かがりのドン滑りのシャレのことは置いておいて……こっちにも一応考えはあるんだ。

なあ遊真……」

 

一つ呼吸をおくといつになく真面目な顔をする悠一。名前を呼んだ遊真くんの目を見つめながら口を開きました。

 

「お前……ボーダーに入らないか?」




次の話は2ヶ月くらいでアップしたい……!!

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