burned out 作:シルバーアシュトレイ
第2話
「ふぅ〜こんなもんかな」
この辺りの気候によく合う果物の収穫を終えた赤髪の少女は近くの木陰に腰を下ろした。座って食べようと思って取っておいた収穫したばかりの果物をそのまま齧る。
「ん〜美味し〜。やっぱりアプルの実はみずみずしくて美味しいな〜!」
一人シャリシャリと赤いアプルと呼ばれる実を食べながら、そんな事を誰に話すのでもなく口に出して言った。そんな時、彼女の耳に自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「エイミー!僕にも一つアプルの実くれよー!」
そんな事を言いながら自分の元へやってくる少年を見てやれやれと呆れながらエイミーと呼ばれた彼女は手に持っていたアプルの実を少年へと投げ捨てた。
「アンタはそれでも食べてなさーいっジャムル!」
薄い茶色の髪の毛を持つ少年ジャムルはエイミーよりも身長が大きく、大人達に迫る勢いのある少年だ。
ひどいよ〜全然ないじゃないか〜。と頭に当たったのか手で摩りながらこちらへと寄って来る。頭にぶつかったことには咎めず、ほとんど実のないことに腹をたてる食い意地の張ったジャムル。
「冗談よ、ホラ新しいのあげる」
そう言って、自分の食べたものとは別に持ってきていたアプルの実を手に取りジャムルに手渡すとありがと〜とアプルの実ごとぶんぶんと手を振り回され少し手が痛くなったエイミー。
「それで、なんで来たの?ジャムル」
なんだっけ?と言いたげに首を傾けたジャムルだったが、直ぐに思い出したようで要件をようやく聞き出すことができた。
「あぁ、そうだった。そう言えば、エイミーのお父さんがここから近い村で盗賊に襲われたらしいから早めに帰ってきなさいって行ってきてくれって」
まだ昼過ぎだというのに、自分の親も過保護すぎじゃない?と思いつつも逆らう理由もないので帰る支度を始めた。
「ジャムルはお父さんの手伝いはいいの?」
ジャムルの家は村の建築家でよく駆り出されることがある。父の技術を伝授してもらい、後を継ぐために最近手伝いを始めたのだ。
「うん。今日は早く終わってね、大丈夫だってさ」
「へぇ〜、よかったね」
自分は遅く終わる日はあれど、早く終わる日はないのにな〜と少し嫉妬しながらも聞いていた。おまけに彼の家は村唯一の建築家なので収入もかなりいい。無論、この村の中ではの話ではあるのだが。
「よしっ!」
ジャムルと話している間に、帰るための準備を整え終わったエイミーが、籠の中に入っているアプルの実を見て指をくわえているジャムルに声を掛けた。
「帰るわよー」
「...う、うん」
残念そうにしながらトボトボとエイミーの後をついてくる。やっぱり後で一個だけあげようかなと思っていた時だった。
「盗賊だー!!逃げろー!!」
村の中から子供や女の人の悲鳴が上がる。盗賊らしき人達が何人も村に入り込んでいる。しかし、盗賊たちは村の地下避難所に気づいていいのか、村長の家の辺りにある避難所の方に行っている様子はない。村にいる男たちが応戦しているが、あんなんじゃ絶対に勝つことなどできないだろう。鍬と斧、どちらが戦闘に特化しているかなど比べるまでもない。ましてや低品質の純金属ですらない交ざり物とあれば尚更だ。
次々と村の男たちが殺されていく。エイミーはジャムルに村長の家の近くにある避難所に行きなさいと言うと、別行動を取ろうとする。
「エ、エイミーはどこに行くの?」
「私は家に用事があるから先に行ってて、直ぐに行くから」
半ば強引に納得させると、エイミーは走ってその場を離れた。ジャムルももたついてはいるが隠れながら村長の家近くにある避難所へと向かった。
そして、場所はエイミー宅。エイミーのお父さんは盗賊と戦いに外に出ており居らず、中には母がいた。
...
「ウソ...お母さん、お母さん!!!」
昨日まで笑っていたはずの母、みんなで食卓を囲みその日あった出来事を話し合う幸せだったはずの空間はたった一夜にして、地獄と成り果てた。家具は壊され、箪笥の引き出しは金目の物を奪い取って行ったのが分かる強引に開いたのか、引き出しが地面に落ちているものまである。
「誰かいるぞ!」
まだ襲撃されたばかりだったのか、エイミーがあげた悲鳴に気づき数名の盗賊が家に土足で入り込んできた。
「いや!っ離して!」
強引に取り押さえられたエイミーを見て、盗賊の一人が下衆の笑みを浮かべた。
「こいつ、犯すか」
「いいねぇ、ヤっちまおうぜ」
「ヒュー、誰からヤる?」
16歳のエイミーは彼らの言葉を聞き絶望する。死ぬよりも辛いのであろう辱めを受けることを想像してゾッとした。自分の親を殺された人達に犯されるのなんて絶対に嫌だ。そう思って油断している盗賊の腕に噛み付いた。
「痛っ!?このガキ!!」
一瞬手を離してしまった盗賊からなんとか逃げ出し家の奥にある地下に逃げ込んだ。
「地下に逃げるなんてアホな奴だな〜」
ゲラゲラ笑いながら盗賊三人が歩いて地下室へとつながる入り口へと足を伸ばした。
何とか地下へと逃げ切ったエイミーは自分のやってしまった失態にようやく気付いた。怒られた時、所謂ピンチの時にここに逃げ込んでいた時の癖で来てしまった。両親なら外からガミガミ行ってくるだけだが、今は違う。自分を捕まえ犯してくるのだ。なんとか打開するための案が、ないかと思考を巡らせる。そして、確率は低いが打開するための案を考えつき、行動に移した。その案とは、武器を手に取り戦うことである。無論、鍬などではない。剣である。
なぜそのようなものがここにあるのかというと、エイミーだけが知ることだが、自分たちが作った地下室は実はとある宝物庫のようなところに偶然繋がったのだ。しかし、どれもこれも重すぎる上にものすごい埃を被っている。埃を拭き取れば綺麗な刀身が現れたのだが、それを拭き取るのに何時間もかかった。それらを売るアテもないので、放置していたのだが、ついに使う時が来た。重くてとても振り回さそうにないが、何とか頑張るしかない。そう思い、剣を取りに行く途中で部屋の中央にある金の棺桶を蹴ってしまった。
「いたっ!?っていうか硬い!」
この部屋のどの剣よりも硬く、どの物よりも綺麗である。一切埃のかぶっていないソレにどうして自分が気づいていなかったのか分からない位、目立っていた。
「こんなの、あったっけ?」
以前に来た時も確かにあった。しかし、エイミーは、忘れていたのだ。この部屋に仕掛けられた罠、忘却の煙と無関心の煙を吸い込んだため、入って来た当初は財宝を根こそぎ売りさばこうという気もあったかもしれないが、それらは一瞬にして無関心へと変わり興味を失う。更には忘却の煙によって、完全に忘れるのではなく、大昔に見たことがあるようなぼやけた記憶にまでしてしまうという罠だ。
どうして完全に忘れさせるような罠にしないのか、どうして命を狙うような仕掛けをしないのか、其れは、仕掛けた人物の性格によってそう決められていたのだ。命を奪わない仕掛けは単純に、侵入者にも誰にも興味がないから。完全に忘れさせないような罠にするのは、一度忘れてしまった筈の記憶を取り戻し、再びこの遺跡に足を運ぶことが出来た者、つまり選定に適う者を見つけ出すためである。
聖者が来た時も、棺桶の主の選定に適わず、有名な勇者が来た時も身動きもしなかった。文明がいくつも滅び、何度も蘇ってきた。そんな事が繰り返されるたびにここを訪れるものが現れていた。中には、この中のものを持って行こうとしたものがいて、強烈な欲望によってその仕掛けを乗り越え持ち出そうとしたが、遺跡から出た途端にその宝は遺跡内へと転移した。棺桶の主に認められねば、宝は持ち帰れないのだ。其れは今も変わらない。
しかし、世の中にはイレギュラーな存在という者が居る物である。もし何の取り柄も無い、ただの村娘に棺桶が反応したとしたら、もし、その娘がたまたま記憶を取り戻し、財宝に触れることがあり、明確に持ち出して使おうと考えたのならば、其れは選定に適ったと言えるのであろうか。
答えはーーーーYesだ。
出自など関係無い。能力あるものは評価され優遇される。そんなのはいつの時代でもそうだ。社会主義だなんだと掲げている国は何一つわかっちゃいない。資本主義でなくては人は動かない。働かない。向上しない。そう、人は他者と競い合うことで能力を高めていくのだ。勝者は利益を得て優越感、名誉その他の物も手に入れて地位の維持のためにまた別のスキルを高める。敗者は劣等感、復讐心、嫉妬心を抱き、自分がのし上がるのだと己を高める。では、競い合う敵がいない、その地位を維持するのに苦労することもない人間はどうすればいいのか?人間という概念を破壊すればこの向上することができないという呪縛から逃れることが出来るのではないだろうか、そう思い、ある男は不老不死になることで人間であるということを辞めた。しかし、かといって自分の向上に有益になることは一つも無かった。その答えを得るための過程に不老不死になる。錬金術を極めるといった事があっが、彼にはその事を向上などとは露ほども思っていない。言うなれば、サラの洗い物をしただけの様な感覚なのである。不老不死などいつでもできる。彼は本気でそう思っていたのだ。
人間を辞めても満たされることの無かった彼は遂に世に見切りをつけた。
『俺は、生まれてくる時代を間違えた』
そう言って、1000年待った。そうして漸く出逢えたのだ。奇跡と偶然と必然が混じり合って出会った二人。片や驚きに固まり、片や体の調子を確認する。
「お前か、私を起こした者と言うのは」
「ぇ...ぁ...ぃゃ、あ」
言語が通じていないらしい。それが、目覚めた彼が初めて思ったことであった。