「もーいーかい?」
「まだだめ。 後もう少し待って」
「そこは……まーだだよ、って言って欲しかった……」
リオの復活宣言からおよそ二億年。 地形は所々変わってしまっているけど、自然だけでなく、生態系も元通りになってきた
「…………」
私は今、兎の耳を生やした女の子と、広範囲に渡って生い茂る背の高い竹林でかくれんぼをしていた。 きっかけは、散歩していたらばったり出くわして、向こうから遊びましょコールされたということ。 ……なぜなんだろう
「うーん……」
一応、正体を隠すために変化の術で幼少の頃に戻ってる。 初対面の時に自分が強力だということは、余程のことじゃない限りは隠していたい。 相手に警戒させてしまうから
「……いい?」
「駄目」
「どうせすぐ見つかるくせに……」
「…………」
……ようやく調子が戻ってきたあの後、すぐにロディから念話がきました。 なんでも、落ちてきた隕石は単純なものではなく強力な術式が施されていて、徐々にこの世界を壊していくものだったらしいです。 なんともまぁ……っと……そういえば、封印するために世界を組み込んでるってロディが言ってた気がする。 それで、リオが環境を元に戻すのと同時に、ロディのほうでも侵食された部分の修復作業をしていたみたい。 ……お疲れ様ですよ
「もーいーですかー?」
「まだだめ」
「あくまで言わないのね……」
かなり遠くのほうだけど、ため息が聞こえてくる
そんなため息をついたのは、兎耳の女の子。 くせのある黒髪でピンク色のワンピースを着て人参のペンダントを付けている。 名前は因幡てゐ。 自己紹介して教えてもらった。 垂れた耳が特徴的だ。 開示されている情報によると、どうやら後に国を作った神様の手助けをして、自分も神様になったという逸話があった。 ……後に神様か……
「……?」
ずっと前にノヴァからもらった多機能カメラで情報を閲覧しようとしても、その部分だけまだ見れなかった
……まだ見てはいけないってことなのか
「さすがにもう隠れたでしょ。 もう始めちゃうから」
隠れるのは私のほう、探すのはてゐのほうだ
「んー……」
隠れる場所がなかなか見つからないまま、かくれんぼが始まった
「…………」
……竹林じゃあちゃんと隠れられそうな場所が見当たらないんだよね。 しかも平地だから、なおさら隠れ辛い
「……仕方ない」
近くに生えていたかなり太めの竹に体を隠す
「………………」
足音が近づいてくる。 右へ行ったり左へ行ったりしながら、徐々にこちらに近づいてきているのがわかった
「……!」
足音が唐突に鳴り止む
……ば、ばれた……?
「はい、見ーつけた」
「!!」
結局、勝負はすぐについてしまった。 てゐがいつの間にか背後にいて、肩を叩いてきた
「隠れるの下手すぎ」
「んなこと言われても……」
「あ、ごめんごめん。 こっちが見つけるのが上手いだけだった」
「……」
なかなかにひどい言われだ。 ……何か恨まれるようなことしたかな
「竹に身を隠すよりも、背が低いし茂みがあちこちにあるんだからそっちに隠れればよかったのに。 ……結局見つけるけど」
「……うん」
さっきまで隠れていたかなり太めの竹とか点々としている茂みとか、どっちも特徴的なんだよね。 ……負け惜しみだよ、ちくしょう
「二十回中、二十回とも狼華の負け。 さて……そろそろ観念してもらうよ?」
「な、何をです?」
尋ねると、てゐは笑みを浮かべた
「とぼけちゃ駄目だよ、狼華。 私には狼華が幻惑の衣を纏って正体を偽っていることくらいわかる」
てゐが私を指さして言った
「え、えっと……」
い、偽ってることがばれてた! ……あれ? 本当の正体はわからないのかな?
「初めて会った時からわかっていたからね?」
てゐが胸を張って言う
「わかっててあえて付き合った、ってこと?」
そう聞くと、てゐは首を傾げた
「悪い奴じゃないみたいだし……いろいろと抜けてるから、私を出し抜くには無理かなって」
「…………」
……最初の部分だけ頂戴しておこう
「……もし、その悪い奴だったら?」
「余裕」
「……も、もし、そっちよりも膨大な力を持っていたら?」
「柔よく剛を制すっていうでしょ。 それに私には幸運がついてるから」
「……その幸運を不運に変える術を知っていたら?」
「……その術、完璧に扱えるの?」
「………………」
……だ、駄目だ。 まったく勝てる気がしない。 自分の力を過信しているわけじゃないけど、ここまで地震を喪失させられるのは初めてだ
「もし、その気があるなら……」
てゐが私の目前までくる
「……死ぬ寸前までいたぶって、存分に嬲ってから逆らえないようにしてあげる」
「!?」
耳元でそう囁かれ、全身に鳥肌が立った
……なぜか、奴隷にされていいように扱われている場面が容易に想像できた。 ……これはきっと、昔からそんなふうにされてきたからなのかな……
それにしても……この子、見かけによらず、ものすごく黒い……
「……まぁ、それはもしものことで、狼華はそこらへんにいるような頭の悪いやつらとは全然違うからね。 いたずらに襲い掛かることなんてないって信じる」
「……」
……信じておいてください
「……あ、ところで頭の悪いやつらって?」
話の中で出てきた単語について聞く
「動くものがあったら容赦なく襲い掛かってきたり、冗談が通じなかったり、すごく短気だったり……そういうの」
「……なんか個人的な感情入ってない? 何かあった?」
「ま、いろいろあってね。 笑って水に流せない器の小さい奴らと根が腐ってるやつらに酷い目に遭わされた」
先に言ったほうはともかく……後に言った根が腐ったやつらって、もしかして一部分の神々のことを言ってるのかな
「どうして?」
事の一部始終を知っているけど、客観的なものだから詳しいことを聞きたいのであえて聞く
「小島に渡りたくて、器の小さい奴らを縦一列に並べてそいつらの上に乗って渡っていったの」
「それで?」
「それで、感謝の言葉を投げかけたら……皮を剥がされたの。 ……はぁ」
その時の情景を思い出したのか、てゐはため息をついた
……確か、その時に言ったことって『はっ! 引っかかったな貴様ら。 私を渡らせるためだけにわざわざ並んでくれてありがとう』だったか。 ……なかなかに秀逸な感謝のお言葉だこと
「もうちょっと言葉に善意を込めておけばよかったんじゃない?」
「別に悪いことなんてしてないし。 飛び石代わりにしただけだし」
「してやられたー、で終わってほしかったの?」
「うん」
そこでてゐが笑顔になる
……どうやら神様には融通が利かないのばかりみたいだ。 ……うん、肥えてるほど傲慢になるとはこのことを言うらしい。 ……私のことじゃないよ?
「それで寛大な心を持つ方が、たまたま私を助けてくれたの。 それ以来、細心の注意を払うようにしたよ」
「……それって改心したってことでいいの?」
「うん」
……さっき真っ黒かったからとても改心したようには見えない
「貧しい身なりで貧乏くさかったから小汚い性格してるのかな、って思ったらすごく優しかったから拍子抜けしたよ」
「見かけで判断しちゃだめだよ」
「大体見かけどおりだったから」
「そうなんだ……あ、ちなみに頭の悪い奴らとかの姿形は?」
「異形の者ばかり。 狼華みたいなのは全くと言っていいほどいないよ」
今の時代じゃ心が豊かなのはほとんどいないか。 でも、ちゃんと循環してくれているみたいでよかった。 ロディの修復作業が終盤に差し掛かってる証拠なのかな
……西暦が始まるのはあと何年だったかな
「…………」
手元に多機能カメラ……というかこれはもうカメラが一機能として加わったキューブだ。 それを操作して今の年と西暦が始まる年を比較してみる
……心が豊かな人たちが出てくるようになるまでは、と……
「何見てるの?」
「ひみつー」
「うりゃっ!」
「ぐえっ!」
背後に回られ、首を絞めてくる
「えーと何々? 心が豊かになるまでには後五百万と千年? ……どういうことなの」
「……そのままの意味。 心が誰のものなのかはご想像にお任せ」
「五百万年ってどのくらいなの?」
「騙すものがなくなるくらい膨大な時間」
「そんなに!? ……気長に待とうかな」
……そうしたほうがいいです
「それまで生きていられる?」
「こう見えて結構長生きだから。 狼華こそ生きていられるの? 目を離したら死んでいそうなんだけど」
……そ、そんなに弱そうに見えてるの……
「……そこは……大丈夫かな」
リオから借りてる能力があるから
「そう? ……あー、今の奴らは遊び好きなのも多いから、狼華みたいなのは……」
てゐの視線が私の体を下から見ていき、上へと移っていく
「捕らわれたら……調教されちゃうね」
最後に私の頭の上のほう、狼の耳を見ながらてゐが言う
「……犬じゃないよ?」
「え、犬じゃないの!? じゃあ何?」
大げさにリアクションをとってきた
「……狼」
「オオカミ……? ……え、あの大神なの!? どこからどう見ても犬にしか見えないんだけど」
「どのオオカミなのか知らないけど、とりあえず狼だよ」
「うそ……あの方から聞いてたのと全然違う」
「…………」
何か……話が噛み合っていない気がする。 ……まぁいいや
「ふーん…………」
てゐがじろじろと見てくる
「な、何か?」
「……ふくよかな体つき」
「太ってないから……」
もういいや。 元の姿に戻ろう
「……」
本来の青年期の姿に戻る。 服装は……着物ではなく露出度が高い巫女装束のようなものだ
そういえば、作って以来まだ新調してないなぁ……
「あ、やっぱりやってたんだ」
「え……?」
「いや……ね? なんとなーく体から妖気が滲み出てて、その流れ方がおかしいなって思ったから当てずっぽうで言ってみた。 ……まさか本当に当たるとは思ってもなかったけど」
「…………」
なんという幸運……! さすが幸運の持ち主。 すさまじい幸運の遭遇率です。 どこかの不幸な人に分け与えてあげたいね
「それにしても……隠していた方も豊満な身体つき……。 これはもう……とっとと悪い奴らに捕まって弄ばれればいいのに」
「…………」
嫉妬の念が伝わってきた
「……」
腕を組み、下から胸を寄せ上げる
「……」
てゐがじっと見てくる
「……えいっ!」
「っ!」
一瞬、てゐが笑みを浮かべたかと思うと、地面に仰向けに押し倒されていた
「ったぁ……っ」
てゐがのしかかってきた
「同性なのに誘ってくるとか……バカなんじゃないの? そんなに欲求不満なの? そんなに撫でてほしいの?」
てゐの目の色が変わった
……もう一生分くらい味わったから……欲求は満ち足りてるんですけどね
「別に誘ってなんかないけど……羨ましそうな目で見て――ひゃん!」
言ってる最中に胸を鷲掴みにされた
「ほぉ~なかなかいい声を上げるではないか」
……誰なの……誰が降臨しちゃったの……
「……!!」
……はっ! この流れはマズイ! このままだとまた……
「わざわざ見せつけてくるような畜生には……躾が必要か」
「……!」
……後悔した。 とても、とても後悔した。 寄せ上げるのなんてやらなきゃよかった。 ……まさか、いたずらでやってみたらこんなことになるなんて……。 ごめんね……みんな。 私、もう日の光を見れそうにない……
「うぅ……?」
現実逃避しようとてゐから視線を外すと、空に二つの影が見えた。 逆光で詳しい形が全く分からない。 それがどうやらこっちに近づいてきてるみたいだった
「うりゃああああ!!」
「あああああ!!」
影が何かを振り回した後、一つの影が高速でこちらに向かってきた
「……」
ほんの一瞬、影の正体が見えた。 青い服を着て、背中から半透明の結晶の羽を生やしていた。 そして、頭の近くにあった青いカーソル……
……氷の妖精さんか
「ぐはっ!!」
「っぶ!!」
空中から一直線に飛んできたその妖精さんは、てゐを弾き飛ばし、入れ替わるようにして私に覆いかぶさった
「…………」
妖精さんの顔を間近で見てみる
「あうぅ……」
……気絶していた
「……ん?」
あの妖精のチャームポイントであるリボンがない。 それになんだか服装が違う気がする。 ……どういうことなんだろう
「どうだ! 思い知ったか!」
と、言いながら私のすぐそばに誰かが降りた
見ると、桃色の髪に緑色の服を着た女の子が仁王立ちしていた
「……どちら様?」
青い服の女の子を脇に除けて起き上がり座りなおして、仁王立ちしている緑色の服の女の子に尋ねる
「私達のこと? しがない普通の星霊でーす♪」
「精霊……?」
……ああ、そういうこと。 じゃあこの気絶している子はそっくりさんでいいのか
「……なんか違う気がする」
「じゃあ聖霊?」
「それも違う気が……」
「じゃあ……生霊」
「……こんがらがってきた」
……からかってごめんね。 ほんとは最初からわかってるから。 熟語の違いは’視て’なんとかしてたから
「星霊でしょ?」
「そう。 そんな感じ」
……まさか、リオの中にいる王様の他にも人の形になってる星霊がいたなんて。 これはびっくりだ
「……っ!」
なんだか少し胸が苦しくなった。 ……こういう場合は何かと共鳴してるのが多いんだよね
「……ふう」
「?」
苦しくなくなり一息つく。 そして、桃色の髪の女の子を見る
「…………」
頭の上には黄色のカーソルが見えた
――記憶を引き継ぎ、何かしら知識が与えられている転生者につくもの――
……ということは、この世界のことをよく知っているかもしれないのか
「……ん、うーん……」
脇に除けていた女の子が目を覚ました
「あれ……ここは……」
「目的地に到着だよ?」
「え? あ、うん……」
青い髪の女の子と目が合う
「……」
「……」
「……あ、どうも」
「……こんにちは」
なぜかよそよそしく接した。 ……元々知らないからよそよそしいも何もないか
「ニーアです」
「ニーアっていうの? 私は狼華っていうの」
「ロウカ……さん? よろしくお願いします。 こっちはミュウって言います」
「よろしくでーす」
桃色の髪の女の子、ミュウは手をひらひらさせて、青い髪の女の子、ニーアが軽くお辞儀をした
……おてんばな妖精に比べるとこっちは大人しいな
「……狼の耳に狼の尻尾、それに豊満な身体つきでどこか抜けてる雰囲気……あの人の言ってた通りだ」
「?」
ミュウがぶつぶつと呟いた
……あの人? あの人って誰だ?
「あの人って?」
疑問に思ったことを口に出す
「あ、えっと……」
とても言いづらそうにしている
……まぁ、敵なのかどうなのかわからないのに迂闊に口に出せないよね
「……!」
私の特徴を知っている人なんて、私が知っている中で一名しか知らない
「その人ってもしかして……ピンク色の髪をしててそれをポニーテールにしてて、白衣を着ててなんだか怪しくなかった?」
「!! な、なんでそれを?」
その人……いや神の特徴を言うと、ミュウが動揺した
……大当たりだったんですか
「安心して。 私もそうだから」
「じゃあ、安心。 ……あ、そうだ。 その人から届けてって頼まれたものが」
「?」
ミュウがどこからともなく髪飾りを取り出した
「用途は聞かされてないからわからないけど、付けといたらどう?」
「あ、うん。 そうしておく」
髪飾りをもらい、側頭部に付けてみる
……うん、似合ってるかも。 見えないけど
「……それで、ミュウ達はこれからどうするの?」
「とりあえずニーアといろいろと見て回ろうかなーって思ってる。 便利な移動手段があるし」
そう言ってミュウが羽を動かした
……観光か。 そういえば、風景撮るーって言ってからほとんど撮ってない気がするなぁ
「いてて……あれ、私は何を……」
何かに憑りつかれていたらしいてゐが目を覚ました
「あ、狼華。 ……誰?」
起きて早々、てゐがミュウ達を警戒した
「安心して。 敵じゃないから」
「あ、そう。 ならよかった」
てゐが警戒を解いた
「じゃあ、私はそろそろ帰ろうかな」
立ち上がり、服に付いた土を払う
「……?」
ふと、複数の視線を感じた
「……」
「……」
てゐとミュウが私……正確には胸を見ていた
……もうやるまい……。 今度は二人もいるからどうなるかなんて想像がつかない……
「……あ! あれ!」
何かに気付いたのか、ニーアが空を指さした
「……」
目を凝らして見てみると、空に薄く小さな紋様が描かれていた
……見たことないけど、あんなところに展開して何か意味が――
「!」
紋様が淡く光ると、そこから無数の真っ白なツタが出てきた。
「…………」
まさか……もう……?
[……あー、聞こえる?]
「!」
唐突にロディから念話がくる
(な、何か用ですか? こっちはなんか大変なことになってるんですが)
[ちゃんと荷物届いた?]
(届きました)
なぜ、危機的状況に置かれてるのにこうも呑気に……
[ならよかった。 ちなみに、その様子見させてもらっているのにこうして呑気にしてるということは、それほど大事ではないということなのよ。覚えておいてね]
(…………)
……確かに大事ならノヴァがこっちにくる。 それに、あの時のツタは真っ黒だった
(……どちらにせよ危機が迫ってるんですが)
[まぁ、狼華だけでなんとかなるんじゃない?]
投げやりだ……
「……っ!」
そうこうしているうちに、ツタが私だけを正確に狙ってすさまじい速度で迫ってきた
「このっ……!」
太刀を取り出して、ツタに切りかかる
「んな!」
いともたやすく弾かれ、絡め取られてしまった
「狼華!」
「ああああっ!!」
成す術もなく、いつの間にか空に空いていた穴に引きずり込まれていった
原作キャラにも散々な扱いを受ける狼華ちゃんの図。 狼には妖艶なポーズは許されないのです。 常に気高くありつづけなければならないのです。 多分
オリジナルのセリフから、てゐが渡りきった後に言い放ったセリフを考えるのは楽しかったのです
真っ白なツタはあるものを意識したのです。 sれは次話でお楽しみに
P.S 意外な人物が元巫女だった!?