???「二人の間違いじゃないのか」
「……―い……繋!」
「…………」
蒼天に響き渡る声
「お願いだ、起きてくれ!」
「…………」
「繋……お前じゃなきゃ駄目なんだ……」
「…………」
何度もかけるその声には悲しみがこもっていた
「だから……起きて……!」
言葉だけを聞いていれば、虫の息になっているところに必死に呼びかける、さぞお涙頂戴な場面になっているだろう。 だけど今この状況は――
「繋、起きてくれ!」
「……ん」
――ただ、体内時計に順じて寝息を立てているところに必死に起こしてきている図だった
「ふぁあ~……」
身じろぎしながら体を起こし、さっきから声をかけてきている人物に向く
「……あ、隷音……おはよう」
朦朧とする意識の中、声をかけてきている人物、隷音に朝の挨拶を忘れずにする
「っ……!」
伸びをしながら、隷音が手を振り上げる様子を見ていると、空を切る音とともに頭に鈍い痛みが走り
「しまった……繋ぃーーー!!」
再び意識が眠りについた
<><><><><>
「……それで、そんなに焦ってどうしたの?」
「それが……」
あれから数時間後、意識が戻ってきて最初に目に映ったのは焦燥しきった隷音の顔だった。 なぜか隷音の膝を枕にして寝ていたけど、そのままの体勢で訊く
「これ……」
そう言って隷音は、腕の長さほどある巨大な牙みたいなものを見せてきた
「……牙がどうかしたの?」
「牙じゃない……」
……牙ではなかったみたいだ
「……私の……角だ」
「え!? った……」
驚いて起き上がろうとすると、隷音の持っていた角に頭をぶつけた
「……大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
ぶつけたところを押さえながら起き上がり、隷音の方へ振り向くと、確かに頭の横から生えていたはずの角が無くなっており、横方向分がすっきりしていた
「ん……」
横に回って隷音の髪を掻き上げて見てみても、髪が生えているだけだった
「いつから取れちゃったの?」
「気が付いた時にはもう……」
隷音が俯く
……いつの間にか取れちゃったのか。 でも、なんで取れたんだろう
「何か心当たりない?」
「全くない……」
隷音がゆっくりと抱き着いてくる。 豊満な胸が腕に当たるけれども、一線を越えてしまったことと慣れのおかげでかろうじて自分を抑えることができた
「繋……私、これからどうしたらいい?」
弱々しく隷音が話しかけてくる
「隷音……」
……こんな時、母上はどうするかな
「…………」
母上が考えそうなことを考えてみる
……母上ったら、もうどの位経ったのかわからないほどこっちに戻ってこないし、急に真っ黒な柱が天に伸びたかと思えば空が暗くなってしまうし、それでしばらく見なかった魔物や妖怪達を見かけるようになったし……また何か厄介ごとを起こしたのかな。 ……いや、これじゃない
「…………」
もう一度しっかりと考えてみる
……母上なら、取れちゃったならまた付ければいいでしょ、って言いそう。 ……それだ!
「隷音、隷音」
「……?」
「取れちゃったなら付け直せばいいんだよ」
「……どうやって?」
「それは……」
……そこまで考えてなかった。 どうやって付けようか
「うーん……」
元あった通りに付けるのにはどうすればいいのか、顎に手を置いて思考する
……そのまま付いたら楽なんだけど、そう上手く事が運ぶわけがないんだよなぁ
「…………」
何か解決の糸口がないか、身近なものを見てみる。 自分の着ている服、隷音の着ている服、それから、さっきからずっと空を眺めている朔と白狗の服装を見る
「…………ん?」
白狗の服を見て、とある疑問が浮かび上がってきた
……あの服って、真ん中から縦に裂けているのになんで繋がってるんだろう。 何か、前が開かないように固定するものがあるのかな
「……!」
唐突に、頭の中でこれまで考えてきた断片が繋がっていった気がした
……角を動かないようにぴったりと頭に固定するものを作ればいいんだ
「隷音」
「?」
「角が生えていたところってわかる?」
「あ、あぁ……」
「それじゃあ、角を生えていたところに押し当てていて」
「……わ、わかったが……何をするつもりだ?」
隷音が困惑しつつも、言われたとおりに角を自分の頭に生えていたように押し当てた
「普通に折れていたなら跡が残ってるはずなんだけど、それがないからせめて取り外しができるようにしようと思って……」
「跡がないのか……?」
隷音がさらに困惑した
「うん。 隷音が間違って折っちゃったのかと思ってたんだけど、その部分には元からなかったかのようになってたんだよ」
「……どうりで寝返りができると思った」
納得したように隷音が頷く。 隷音に影響が出ないように霊力を練っているけど、頭が動いたせいでぶれる
「隷音、動かないで」
「すまない……」
動きが止まると、頭の形に沿って霊力を形にし、隷音の髪と同じ色にして角とくっつける
「よし、これで大丈夫なはず」
「なんだか頭が重いな……」
隷音が角を支えながら頭を動かした
「…………」
……何か間違えてしまったかな
「どこかおかしなとこない?」
「今まで重さを感じなかったのに、急に重くなった。 私のものじゃないみたいだ」
「角が合わなくなってきているのかな」
……隷音に一体何が起こったんだろう
「かもしれないな……でも」
「わっ……!」
急に隷音が押し倒してきた
「私の為にそこまでしてくれて……ありがとう」
顔を近づけて、そう囁いてきた
「普通にいいなよ……」
「これが私にとって普通だ」
「あはは――んむっ」
唇を塞がれ、舌が絡まれる。 大体予想できていた展開に、拒む必要もなく受け入れた
「ようやく見つけたぞ!」
「?」
突然、大きな男の声が聞こえてきた。 隷音が体の上から退き、一緒になってその方に向くと、朔のそばを通り過ぎる大男の姿があった。 朔はなんだか面倒くさそうな表情をしてこっちを見ていた
……お兄はなにもしてないよ
「…………」
ドシドシと大男はこちらに向かってくる。 その額には一本の角が生えていた
「一本角……」
隷音が呟く
……まさか、隷音以外にも鬼の生き残りが……?
「絶世の美女がここにいるという噂を聞いてここに来たが……それはお前のことか?」
そう言って大男は指を差してきた。 その指先はもちろん隷音の方に――
「…………」
「………………」
「……え……?」
――向いておらず、こっちの方に向いていた。 チラリと朔の方を向いてみると、面倒くさそうな表情から一変して引き攣った表情をしていた。 それを見ていた白狗は首を傾げて不思議そうにその様子を見ていた
……どうしよう……いくら顔が母上に似ていて女の子っぽいからって、こんなのないよ……
「お前、俺の妻になれ」
「っ!!」
ゾワゾワっと背筋が寒気立ち、全身に悪寒が走った。 手足に力が入らなくなり冷や汗が出てくる。 そして、蛇に睨まれた蛙のごとく大男に睨まれて指一本動かせなかった
……ほ、他にもいい素材がいるのになんで僕なんだ……。 ……怖い……この鬼怖いよ……
「残念だったな。 こいつはすでに私のモノだ」
「ちょ……」
……いきなり何を言い出すんだ
「いいから合わせておけ」
隷音がこちらにしか聞こえないほど小さな声で言い、そして庇うようにして立ち上がった
……ちゃんとやってくれるのかな
「なら力づくで奪い取るまで」
「やれるものなら、な」
「この俺よりも強い奴など存在しない」
「ほう……」
隷音と大男が睨み合う。 あまりの気迫に、両者の間で火花が散っているように見えた
「…………いいだろう……ここでは巻き込む。 場所を移すぞ」
「それくらいは嗜んでいるんだな」
そう言いながら、二人は茂みを掻き分けて奥の方に行ってしまった。 大男がいなくなったことで、ようやく身体を動かすことができた
「ふぅ…………」
息を吐きながら、チラリと朔の方を見る。 悪戯な笑みを浮かべていて、なぜかしてやったりというような表情をしていた
……仕込んだ……そんなわけないか
「…………」
自前の大きな尻尾を抱え込みながら空を眺める
……母上、僕は今……とてつもない修羅場に放り込まれてしまったのではないでしょうか。 ……僕を取り合い、片や屈強な大男、片や男勝りな女傑が争う……。 ……普通は隷音を賭けて僕とあの大男が争うはずなのに……どこで間違えてしまったんだろう
「はぁ……」
一生分の不幸が憑りつくようなため息を吐き、すぐそばにあった折れた大木に寄りかかって座り込む
「…………」
待っている間、隷音と大男の勝敗を予想してみる
「………………」
……もし隷音が勝ったら、当然のように今まで通りになるはず。 逆に、もしあの大男が勝ってしまったら……僕は一体どうなってしまうんだろう……。 ……思い浮かばないや。 よかった
「…………っ!」
轟音とともに吹いてきた突風から身を庇いながらも物思いにふける
……母上……一体いつ帰ってきてくれるの……?
<><><><><>
「……はっ!」
誰かの呼ぶ声に、一気に目が覚める
……今、誰かに呼ばれた気が……
「…………」
周囲を見渡してみると、色とりどりの風景は寝てしまう前とは比べ、色が所々変わっていた
……いつの間にか寝てしまっていたか。 こんなところじゃなくて現実世界に起きれたらよかったのに
「…………」
変わってないのならと思い、視線を下の方に降ろしてみると、案の定、リオが眠っていた。 あれからずっと眠りっぱなし……いや儀式しっぱなしらしい
「……!!」
身体に自分のモノではない感触がして自分の身体に目を向けてみると、誰かの手が私の身体に伸びていた
「……っん」
引き剥がそうとすると、背後でくぐもった声がした
「……だめ……イヤ……」
「!!」
聞こえてきた声……小さかったけど、確かにそれは自分の声だった。 振り向いて正体を確認する
「………………」
驚きのあまり声が出なかった。 そこには自分と瓜二つの顔があったからだ。 違うところは髪が黒いところと肌が褐色くらいだ
「やめて……乱暴しないで……」
もう一人の『私』は、何かにうなされているみたいだった。 夢と関係あるのかわからないが、心なしか、体に冷たいものが入っては出ている感覚がする
「…………」
もう一人の『私』に向けて’みる’能力を使い、過去を’視て’みる
「…………っ」
視ようとした瞬間、身体に電気が走り、急いで能力を切る
……自分の領域なのに過去を見れないなんて……
「…………」
うなされているもう一人の『私』を見る。 どうしてここに居るのかは大体わかった。 だけど、なんでうなされているのかがわからない。 夢を見ているのならどんな夢なのか視れるはずなのに
……これが乗っ取ってきた奴のいう、闇魔神様、なのかな……。 形無き、とか言ってたし……
「……っ」
じっと眺めていると、もう一人の『私』が目を覚ました。 もう一人の『私』はしばらくぼーっとした後、少しだけ私の身体に回してきている手に力を入れた
「……何してるの?」
イメージと180度違う実像に、思わず尋ねてしまう
「……おはようございます」
「あ、はい。 おはようございます」
……なんてマイペースなんだ
「何してるのかって? 抱き着いてるのよ」
「…………それはわかってるよ」
……口調が違うだけで、ここまで声音が違ってくるものなんだなぁ。 自分の声が艶やかな音を出せるなんて知らなかったよ。 ……出さないけど
「どんな夢を見ていたの?」
「……忘れちゃった」
……記憶力を吸い取らせてあげたいよ
「居心地がいいからずっとこうしていたい気分」
……それはちょっと困るなぁ
「…………!」
その言葉に唐突に外の様子が気になって、見ることができないか能力を使って’視て’みる
「………………」
祭壇があり、その上には黒いゼリー状の物体が置かれ、その祭壇の周りを円を描くように人が十二人立っていた。 そのまま見ていると、黒いゼリー状の物体が半透明になって、その中には私が入っているのが見えた
「部下達が闇魔神様の復活を待ってるみたいだけど?」
「代わりにチャッチャッ、ってやっておいて」
……チャッチャッ、って……私が?
「復活したくないの?」
「面倒だからこのままがいいの」
……それでいいのか闇魔神様よ。 身体が欲しかったんじゃなかったのか
「悪の組織じゃないの?」
「悪の組織?」
「何か悪いことを企んでる者達のこと」
「それは知ってるわ」
……知らないと思ってました
「……あ、そういえばこっちと対になっている光魔族、っていうのがいるらしいんだけど、多分それのことなんじゃないかしら?」
「光魔族?」
[呼ばれる前からずっとあなたと繋をモニターしてたから、サポートは万全よ♪]
「…………」
……呼ぼうとした矢先にこれだよ。 いい意味で
(なんで繋が出てくるの?)
[行動が面白いからよ。 目が離せないわー]
(…………)
……繋、未だに隷音とイチャイチャしてるのかな。 見る度に抱き着いていたから、多分、今頃も……
(光魔族って悪の組織なの?)
[そうね……光魔族っていうのは闇魔族と敵対関係にある一族なの。 昔の私とリオみたいな関係よ]
(は、はぁ……)
……今、さらっとすごいことを聞いた気がする。 ロディとリオって昔は敵同士だったんだ
「ほぉあっ!」
もう一人の『私』が頬ずりをしてきたせいで、思わず変な声が出た
「なな、何をしてるんでしょうか?」
「頬ずり」
「それはわかってるよ」
……どうしてだろう。 返答としては間違ってないのに色々と間違っている気がする
「なんで頬ずりしてるのかってこと」
「こうしてると気持ちいいから」
「…………はぁ……」
……もういいや。 このままにさせておこう
[そっちのお話は終わったようね。 話を再開してもよろしくて?]
(どうぞ……)
[今は、光魔一族が勝利して闇魔一族は身を潜めて完全復活の時を待っている、って感じよ]
(はい)
[闇魔神がそのときに倒されちゃったから、そのために器として最適だったのが狼華だったというわけね。 ……すごいわ狼華! みんなから狙われてるわよ!]
(勘弁してよ……)
……あと何回連れ攫われればいいんですか。 風景写真が全く取れないじゃないか
[……んー、あなたのそばにいるのって闇魔神よね?]
(……? そうだけど……どうして?)
[なんか……どこかで似たような感じを……]
(やめてよ……)
……すごく悪い何かが乱立した気がしたよ
[とりあえず、その状態なら変な気は起こさなさそうだから大丈夫かもね]
(もうおかしくなってますけどね……)
……侵食して取り込んでくるはずなのにこんな……いつまでも抱き着いてきて頬ずりしてるやつが変な気を起こしていないわけがない
[慣れっこでしょ?]
(慣れっことか言わない。 ノヴァのこと全部掌握してるんだったら、あの真っ黒ノヴァが具現化しないようになんとかしてよ)
[あれでもかなり矯正したのよ?]
(矯……正……?)
……嘘……あれで? じゃあ、矯正する前は……もっと酷かったってこと? ……想像したら寒くなってきた
[ずっと前に言ったと思うけど、初めて会ったときにあの子……身も心も真っ黒に染まっていたのよ。 ……もちろん肌の色は普通よ?]
(肌の色まで真っ黒だったら……それはそれでちょっといいかも……。 リオとは敵対していたみたいだけど?)
……どうやって友好関係を築けたのか気になる
[共通の敵のおかげね。 真っ黒なノヴァとともに現れたヤツが、無差別に攻撃してきたからそれまで敵対していた陣営が協力して迎撃したのよ]
(なんかいいね)
……敵同士が手を組んで共闘するっていうのは……なんか熱い
[協力したのはリオと私だけよ]
(……他の方々は?)
[突撃して見事に返り討ち。 ノヴァの方に向かっていったのもいたけど、遠くに飛ばされていってたわ]
……いきなり現れた敵に突っ込んでいくなんて正気の沙汰じゃないよ
[あの時のリオはツンツンしてたけどデレデレもしてたわねぇ]
(……デレ?)
昔のリオがどんな性格だったのか想像してみる
……えっと、転生した悪魔のことがあるから身内にはツンツンだったのかな。 それともツンツンしながらデレデレしていたのかな。 ……すごく気になる
[それで残された私達は、ノヴァと一緒に無差別攻撃している邪悪の権化を封印したわけなの]
(邪悪の権化?)
[赤カーソルを創り出してるヤツのことよ。 狼華を付け狙っているって言った方がわかりやすいかしら? ちなみに今、名前考えた]
(うん……ん?)
後半にぼそっと何か言った気がしたが、聞き取れなかった
……引きずり込もうとしてきた奴か。 ……あの後の……ノヴァによる強制開脚の恥ずかしさのせいで消えそうなほど薄れてたよ
(その後どうしたの?)
[ノヴァは……なんとか自我を保っていたらしいんだけど安心からか暴走したみたいでね。 破壊し尽す勢いでリオに重傷を与えたのよ]
(…………)
……聞いちゃまずかったかな。 何気なく傷口をえぐっている気がする
[それで隙をついて、私が無理やりノヴァをねじ伏せたの]
……それは純粋な力では、ロディが勝っているってことじゃないのか
[重傷だと思ったら致命傷を負っていて余命半年くらいのリオと、意識を失わせておいたノヴァを、あの場から連れ出すのにはほんとに苦労したわ。 だって二人分も体重を抱えていないといけなかったんだから]
(術式で浮かせればよかったんじゃ……)
[そんな力………………残ってなかったわ]
……今の間はなんだ。 自分で、私は力ありますよ、って言ってるようなものだよ
[それで、私のいるラボのところまで連れて行って、そこでノヴァの身体を調べまくったのよ。 その時にはすでに8割方掌握できていたわね]
(…………)
……本人の許可がないんだ……
[そのときに闇寄り……黒くなったときにエッチな気分にさせたり、白くなったときに人懐っこい仕草をするようにさせたり……いろいろしたわけよ]
(…………!)
……ノヴァ……ノヴァも知らない間に毒牙にかかっていたんだね
[あの子、白くなっても黒くなっても元の色でも無表情だったから……]
(……)
[つい……]
……ま、マッドサイエンティスト……
[あなたの素っ気ない一言や行動でノヴァがすぐ暴走するのは……実は私の仕業だったのよ]
(ひどい……)
唐突に昔の記憶が浮かんできた。 黒いときのにこやかな笑み、白い時の可愛らしい仕草。 それらは、その後にくる悩ましい思い出によって、微笑ましいものではなくなっていた
……それのせいでどれだけ腰の痛みに悩まされたことか。 やられた後は必ずと言っていいほど夢に出てくるから、睡眠不足と生返事のせいで押し倒される、負の連鎖がしばらく止まらなかったんだから。 これは薬をもらわなくちゃ
[っと……長話が過ぎたわ。 急用ができたから切るわね]
(はい)
いつから繋がっていたのかわからない念話が、プツンと音がして切れた
……このことをノヴァが聞いたら、ロディに近寄らなくなりそう。 聞いていたのが私でよかった
「……で、闇魔神様はどうするの?」
さっきからずっと頬ずりをしていたもう一人の『私』に向けて問いかける
「ギュってしてる」
「…………そう言ってお腹まわりのお肉を揉んでくるのやめて」
「やだ」
「………………」
自分と全く同じ姿をして、それで幼稚な発言をしていることに少し寒気がした
「……いつまで揉んでるの?」
「飽きるまで」
「……離れてよ」
「満足したら」
「そう言って取り込む気でしょ?」
「面倒になってきた」
「…………」
この世に、私が言葉で勝てる相手は果たしているのだろうか。 いや、金輪際ないだろう
「……そろそろ元に戻りたいんだけど、どうしたら戻れると思う?」
「眠りから覚めればいいんじゃない?」
「そもそも寝ているかどうかなんてわからないんですけど……」
……現にロディと念話していたんだから寝ているはずがない
「それか……上の方に行けば出れるんじゃないの?」
「ふーん……」
上を見てみる。 出口らしきものは肉眼では確認できなかったが、きっと出口はないだろう
「あ、でも……」
「……?」
「……寂しくなっちゃうから本当のことはおしえなーい♪」
「…………」
視線を下にずらす。 そこには眠ったまま動かないリオの姿が
……いいこと思いついた
「こっちのじゃだめ?」
リオを指差しながら訊く
「ごちゃごちゃしてて却下」
……ダメだった。 どうしよう……
<><><><><>
「繋、終わったぞ」
「へ? もう?」
隷音に肩を叩かれ気が付くと、あれだけ鳴り響いていた轟音は鳴り止み、衝撃の余波も感じなくなっていた
「隷音だけ?」
「ああ。 完全勝利というやつだ」
そう言って隷音は胸を張った。 豊満な胸がより一層強調される
「繋は私だけの大切なものだからな。 誰にも渡さないよ」
「ははは……」
堂々と言ってのける隷音。 言われた瞬間、顔に熱を帯びるのを感じた
……なんか久々に言われたから、恥ずかしいなぁ///
「そういえば繋、あいつが鬼だって気づいていた?」
隷音が唐突に聞いてきた
……頭から角が生えていれば大体鬼じゃないのかな
「角が生えていたからそうだと思ってた」
「それ……でもいいか。 角が生えている奴なんてそうそういないからな」
隷音が隣に座ってくる
「それがいったいどうしたの?」
「あいつは鬼だから…………種馬になってもらうことにした」
「ふーん……ん?」
……た、種馬……?
「不本意だが、同志を増やすためには致し方ない。 それにあいつには仲間が大勢いるらしいからな」
「…………」
隷音の言葉を聞いていると、胸が締め付けられる
……やっぱり、種族が違うと駄目なのかな……
「っ……」
気分が沈み込んでいると隷音に抱き寄せられた
「心配するな。 繋の子はちゃんといるよ」
「え……!?」
嬉しさと驚きで胸が高鳴った
……母上は異種同士じゃ無理だって言ってたのに。 こんな奇跡……泣きそうだよ
「お、おいおい……そんなに嬉しかったのか?」
「だって……僕たちの子供は、絶対に見れないと思っていたから」
「私達の努力が実ったというわけだ。 やったな、繋」
隷音に頭を撫でられた。 自分の意思とは関係なしに尻尾が激しく振れる
「いつ? いつ生まれるの?」
逸る気持ちで隷音に聞く
「きた! ってわかったのは角が取れる前の日だったから、生まれてくるのは当分先になるな」
「…………」
……ということは後、十一か月ほどで……!
「…………」
「…………」
互いに見つめ合う。 隷音が微笑み、それに微笑み返す
「……繋」
「……ん?」
隷音が静かな口調で話しかけてくる
「私も……狼華みたいに力を失ってしまうのかな」
「……わからない。 けど、力を失っても僕がいるから」
建前ではなく本心から、そう言う
「……繋と出会えて本当によかった」
隷音が抱き締めてきた
「締まってる締まってる!」
思い切り抱き締められ、息が苦しい状態になった
「ああ、すまない」
抱き締めてきている力が緩まった
「繋がかっこいいこと言うからだぞ?」
「えへへ……っ!」
お尻の辺りからこそばゆい感触が伝わってきた。 慣れのせいか、どこをどうされるとそうなってしまうのかすぐにわかった。 これは尻尾の付け根を弄られている感覚だ
「でも、まだ守ってもらう必要はないからな?」
「そのようで……んっ……」
まるで力を示すかのように強引に唇を奪ってくる
「……ん……はっ……」
角度を変えながら、貪るように隷音がキスをする。 息継ぎの為に離れた口元からは、唾液の糸がこちらとつながっていた
「! んんっ……」
キスをしながら、隷音の手が裾を掻き分けて体中をまさぐってくる。
「……っふ……あっ……!」
「…………」
キスが終わったかと思うと、今度は首筋を舐めてきた。 思わず声を上げてしまうと、隷音が上目遣いで見てくる
「毎回思ったが……繋ってこういうことされるのが好き?」
舐めてくるのをやめて隷音が訊いてくる
「……へ?」
ものすごく回答に困る質問に、おかしな声を出してしまった
……隷音の言ってることって……受け続けていることが好きなのかってことかな
「……わからない」
そう言うと隷音がにやっとした
「中途半端ならいっそのこと……女に仕立て上げてやる」
「いっ……!!」
隷音に抱えられたまま倒れこまされた
「さて、いつの間にか私の懐にこんなものが入っていたんだが」
そう言って隷音は胸元から黒い小瓶を取り出した
「名称らしきものがデカデカと書いてあるけど、なんて書いてあるのか読めるか?」
「…………」
母上から教わった文字で「TSFD」と読み取ることができた
……なぜだろう、とてつもなく嫌な予感がする。 僕自身の尊厳に関わってきそうなとてつもなく嫌な予感が
「隷音……よくわからない薬は駄目だよ……」
「もしかしたら男らしくなるかもしれないぞ?」
「じゃあ飲む」
……母上、僕は男になるために一歩踏み出します!
「はい、これ」
起き上がって隷音の手から小瓶を受け取る。 栓を開けてみると、苺の匂いが鼻をくすぐった
……苺は好みじゃないんだなぁ、これが
「じゃあ、飲むよ?」
「効かなかったら後9本あるからな」
「そ、そんなに…………」
気にしながらも瓶に口を付け、中身を一気に飲み干す
「……き、効いてきたか?」
隷音の声が遠く聞こえるような気がした。 それに加え、視界が少し歪んでいる気がする
「なんか…………」
それ以上言うことができず、意識が飛んだ
TSFDとは何か? それは「Transsexual Fever Drink」の略である。 繋のことだから効果は薄いかもしれません
P.S 深夜テンションで書いていると色々とぶっ飛ぶ