「何の話か分からないけど、とりあえず三人で」
「……覚えておくぞぃ」
「…………」
今、とても困惑していた。 思考錯誤して戻る方法を探しているうちに眠くなって、起きた途端にあの場所から急に戻れたと思ったら、いつの間にか誰かが抱えてきていたからだ
「……」
誰かに抱えられたまま周囲を見てみると、薄暗い通路にいるようだった
「……! お目覚めになられましたか?」
私の覚醒に気付いたのか、私を抱えていたフードの人物が声をかけてきた。 声と体格から、フードの人物が女性だということが、なんとなくわかった
「…………うん」
喋れないわけではないので、とりあえず返事をしておく
「私のことは……覚えていますか?」
恐る恐るといった感じで、フードの女性が尋ねてくる
……覚えていますか? って言われても……
{……あれ?}
返答を考えていると、頭の中に私と全く同じ声が聞こえてきた。 その声に、何が起こっているのかを思い出した
……そうだった。 ここに連れてこられて私を何かの器にしようとして……それで闇魔神とかいう何を考えているのかよくわからないやつが私の中に入ってきたんだ。 元に戻ったことで消えたのかと思ってたけど。 それよりも返事をしないと
「……わからない」
考える振りをして返事をする。 そもそも闇魔神がどういう関係を築いたのかなんて知っているわけがない
……わかることは……こうして信頼されていることくらいかな
「そう……ですか……」
「……!」
寂しげな声音とともに、何か柔らかいものに寝かされた。 頭を動かして柔らかなものの正体を確認しようとしてみると、頭のすぐそばに柱が見えた
「貴方が全く使わなかったベッドです」
まるで私の考えていることを読み取ったかのように、フードの女性が教えてくれた
「貴方は、いつも配下である私ばかりに抱き着いてきていました。 それで私が抵抗すると、いつも貴方は頬を膨らませていたんですよ。 そのせいで皆から嫉妬の眼差しが……」
どこか遠くを見ながらフードの女性が言った
……苦労してるんだなぁ……
{誰と話しているの?}
「…………」
話の内容は向こうにも聞こえてるようだが、視界の共有はできないようだ
「っと……」
フードの女性が私の寝ているベッドに座ると、フードを外した
「ふぅ……」
中から、粟色の長い髪をした褐色の肌の女性が姿を現した
「今思えば……受け入れていればよかった」
「…………」
……複雑な心境だ。 もしノヴァを拒絶してしまっていたら……きっと、この人みたいに後悔していたかもしれない
「…………!」
今になって、女性の頭の上に青色のカーソルが浮いていることに気が付いた
……顔がわからないと見えないのか……不便だ
「身体に馴染んでないので動くのはまだ無理ですよ」
身体を動かそうとしていると思ったのか、声をかけてきた
「うん……」
本当に動かせないのか試しに手を開いたり閉じたりしてみると、ちゃんと動いた。 腕は動くには動くが、とてつもなく重かった
……私自身だから馴染むも何もないんだけど…………もしかして儀式のせいなのかな
「…………?」
思考していると、女性が私を見つめてきていた
「どうかしたの?」
「いえ……抱きかかえたとき、貴方の身体が異様に軽かったものでしたから……」
{へーそうなの}
急に頭の中に声が聞こえてくると、胸の内がまさぐられている感覚に陥った
……どうして身体が軽いのかは私にもわからないよ
{ほんとだ。 かるーい}
……試してるんだ。 というか、なんでそこに身体が置いてけぼりになってるんだ。 ……後でロディに聞いてみよう
「……っ!」
身体がふわふわとしている感覚に身を任せていると、視界が唐突にぶれ始めた。 それと同時に何かが頭に流れ込んできた。 目まぐるしく回る景色に耐えようと、目を閉じて歯を食いしばる
「だ、大丈夫ですか?」
大丈夫ではないとも言うことができず、首筋と下腹部からくる熱を感じながら意識を落とした
<><><><><>
気が付けば、周囲一帯が荒れ果てた大地に立っていた。 目の前には、露出度の高めな白い衣装に身を纏った白色の髪の女性が居た。 背からは一対の白い翼が生え、手には二又の槍が握られ、切っ先はこちらに向けられていた
「わざわざ誰もいない場所を選ぶなんて、光魔のくせに大したものね」
『私』の口から私ではない声で勝手に言葉が出てくる。 よく目を凝らしてみれば、視界が水面を通して見ているように微かに波打っていた
……もしかして誰かの視点から見ている? じゃあ頭に流れ込んできたのは……いや、確信するのはまだ早い
「決着をつけるのなら、私と貴方だけで十分のはずです。 わざわざ周りを巻き込む必要はありませんから」
「ずいぶんと余裕があるじゃない。 光魔一族伝統のお仲間パワーとやらは使わなくて大丈夫なの?」
向こうが真面目に話している中で、『私』が挑発する
……ん? 光魔一族?
「生憎、私に仲間などいません。 崇められる存在でしたので」
「………………」
目の前の女性が律儀に答えると、『私』が固まった
……仲間……いないんだ……
「……抱きしめてあげようか?」
「へ?」
女性が驚く。 その後、顔を紅潮させて『私』から目を背けた
……なんでそこで抱きしめるという選択肢が出るんだろう。 しかも敵に
「た、戦うべき相手にそそそ、そんなことされたくありません!!」
目の前の女性が慌てふためく
「きゃー可愛いー! これは無理やりにでも抱きしめたくなってきたわ」
『私』が自分の身体を両手で抱え込むようなしぐさをした
「さぁてさて~? 一体どんな触り心地がするのかなぁ~♪」
両手を大きく広げて、『私』が女性に近づいていく
……おかしいな。 なんだか既視感を感じるぞ?
「ち、近づかないでください!!」
女性が、槍を構えながら後ずさりをする。 こちらのペースに完全に飲まれてるみたいだった
「ほらほら、抵抗しないと抱きしめちゃうぞー」
「ひっ!!」
女性の持つ槍の切っ先は全く定まらなかった
……今、とてつもなくしょうもない戦いを見ている気がする。 初めの一言目の雰囲気はどこに行ってしまったんだ
「こ、来ないで……」
「来させたくなかったら、その手に持ってる槍で私を貫きなさいな。 じゃないと……貴方の負けよ」
「……っ!」
明らかに変わった『私』の声音に、女性が恐る恐る槍を構え直した
……変わっていなかったみたいだ
「…………」
それに『私』が足を止めるが――
「……はぁ……ダメね」
呆れるように額を押さえ、『私』が言った
「え……?」
わけがわからないといった様子の女性に『私』が近づいていく
「っ!!」
そして槍の刃の部分を掴んだ。 手のひらからはピリピリとした感覚が伝わってくる
「あっ……!」
刃の部分を持っているのにも関わらず『私』が思い切り引っ張ると、女性の手からいともたやすく槍を奪い取った
「か、返してください!」
女性が焦るのを無視して、『私』が奪い取った槍を見つめた
「……感じられない」
「え?」
「この槍からは死の匂いが感じられない。 残り香すらも」
『私』が槍を持つ手を替えながら言う。 一瞬だけ見えた手のひらは、黒く焦げ付いていた
……膨大な力が込められているのがわかっていて、あえて掴んだっていうの……?
「……どうやらその手で命を殺めたことはないみたいね」
「……!!」
図星を突かれたのか、女性が手を前に突き出して光を槍状に伸ばした
「やめておきなさい。 武器を手にしたところで、貴方はそれを他者に対して振るうことなんてできない」
「……っ……ぅ……」
『私』の言葉に、女性が完成させようとしていた槍を消失させ、その場にくずおれた
「…………」
『私』がすぐ傍まで近づき、屈みこむ。 そして――
「……貴方の負けね」
「!!」
敵であるのにも関わらず、抱き締めた
「私が勝ったから、好きにしてもいいわよね?」
「……勝手にしてください……」
「それじゃあ……」
……目をつぶったほうがいいのかな
「もう……争うのは終わり」
「……え?」
……目を瞑るようないかがわしいことじゃなくてよかった。 瞑ろうとしても目を瞑れなかったから
「光と闇の争い事は、私が勝ったことでもうおしまい。 この戦いであなたが生き残ったことで、悲しみに包まれることもないの」
『私』が女性の頭を撫でながら言った
「二つに分かれた光と闇の魔族は今、この時、かつてのあるべき姿に戻るの」
……元々一つだったんだ。 最初から分かれてるってことじゃないのね
「…………」
女性が俯いて黙り込み、そして何か思いついたように顔を上げた
「……あの……」
「何?」
「あなたってもしかして……私と……同じですか?」
「おかしなことを言ってくれちゃうわ。 そんなことあるわけないじゃない。 大体――」
密着していたため、女性の鼓動が激しくなったのが伝わってきた
……この女性……もしかして……
「そこまでだ!」
「!!」
唐突に背後から男性の声が聞こえてくる
「ど、どうしてここに……」
女性の声に困惑の色を感じ取った
「誰にも教えていないはずなのに……」
「ああも痕跡を残されたら、逆に迷えという方が無理なんだよ」
ここで『私』が第三者に振り向いた。 視界には、現代風の服装に身を纏ったフード姿の人物が映りこんだ
……フード被るのって流行ってるのかな
「何も言わずに消えたかと思えば敵の口車に乗せられてるなんて……バカじゃねえの?」
「…………」
女性が『私』の胸に顔を埋めてきた。 ほんの少し湿った感触から、涙を流してるみたいだった
……何かがポッキリ折れたような音がしたけど……大丈夫かな
「……マジかよ……」
男が動揺した。 その後、『私』を睨んできた
「……お前、一体何を吹き込んだ?」
「争うのはやめましょう、って言ったのよ」
「…………」
男が何もないところから細身の剣を取り出した。それを『私』が訝しげに見る
「何のつもり?」
「大将でもあるやつがそんなことを口にするなんてな……。 小心者が大将だと碌なことを考えない」
男が剣を向けてきた。 その剣からは、ほんの一瞬だけ青白い光が放たれた
「……必要ないか……」
私特有の地獄耳が、男の呟きを捉えた
……『私』には聞こえていたかな
「!!」
そう思っているうちに、背中にピリッと痛みが走った。 『私』の視界がぐらつき、徐々に暗くなっていく。 どうやら背中を深く斬られてしまったらしい
「きゃっ……!」
その間に男が、『私』の元から女性を引っ張り上げた
「争いは確かに終わる。 俺たち光魔一族が、お前ら闇魔一族を滅ぼすことによってな!」
「……」
『私』が俯いた。 地面を見つめてそっと目を閉じた
「さて、一気に殺るために準備だ」
「…………」
力の余波を感じるが、『私』は目を開けなかった
「…………」
一際大きな力を感じると、気配はすでに無くなっていた
「…………っ」
右肩に衝撃が伝わった。 砂利のような感触から、どうやら傾いて倒れこんだらしい
「っ! そんな……」
聞き覚えのある声がするかと思うと、意識が保っていられなくなった。 真っ暗なのに視界に靄がかかり、耳からは雑音が聞こえてくる
……この声は確か……私を抱えていた……
「器を探―なく―は……」
再び聞き覚えのある声が聞こえると、視界が暗転した
{ねえ……少しだけでいいから…………変わってくれない?}
雑音が消え、『私』の声が聞こえてくる
……確信した。 『私』の正体は闇魔神だ。 きっと私の中に入ったから記憶が流れ込んできたんだ
{お願い……}
……あんなものを見せられてしまっては……断れないよ
{ありがとう}
身体を許すと、落ちていく感覚が全身を襲った
……悪く使われないことを信じていよう
<><><><><>
「…………」
急激な意識の浮上に、目が冴え渡った。 辺りを見渡せば、入れ替わったなら前見たときのような彩られた風景ではなく、あの時のように真っ白な風景だった
「……はぁ」
とてつもない疲労を感じ、その場に座り込んだ。 もう二度と立ち上がれなくなりそうな気がした
「…………!」
……闇魔神のことだから、なんだか心配になってきた。 もし、私の身体で悪さをされたら……考えるだけでぞっとする
「……」
目を瞑って視界を共有しようとすると、なぜか弾かれた。 代わりに能力を使って’周囲の状況を視る’
「…………」
不鮮明ながらも吊り天井のベッドが見えた。 ベッドの中には、闇魔神に変わったであろう『私』の身体と粟色の髪の女性が、ベッドの中で向かい合わせになっていた
……私の髪……なんか前よりも黒く染まっている部分が多くなってる
『っう……』
「!!」
唐突に『私』が呻いた
『動か……な……いで……』
’視る’と、かなり『私』が苦しそうにしていた。 女性が再び身動きをすると、『私』の顔に苦痛の色が浮かんだ
『す、すみません……』
……すみません? 私と闇魔神が同調して副作用に悩まされてるんじゃなかったのかな
『大丈夫ですか?』
『……この身体……すごく敏感……』
『私』の一言で、ベッドの中で何が行われているのかがわかってしまった。 近くにあった椅子を’視る’と案の定、栗色の髪の女性が着ていた外嚢が掛けられていた
「はぁ……」
思わず溜め息が出てきた。 身体を貸す前に、闇魔神に言われた言葉を思い出してしまったからだ
「…………」
……時間がどのくらい経っているかわからないけど、きっとたくさんしたに違いない。 やるためだけに戻ってきたのなら……後始末つけてから戻ってほしいなぁ
『はぁ……。 前よりも……大きくなったんじゃない?』
息を整えた『私』が、もぞもぞとさせながら言った
……まさか、この女性もノヴァや白狗と同じなのか……!?
『貴方がいなかった十年半もの間、寂しさを紛らすために部下としていたときに悪戯で大きくされて……///』
『……なるほどね。 前の身体じゃ、全部入りきらなかったかも』
「…………」
どのくらい大きいのか気になる私がいた。 ただでさえ薄暗い部屋の中、掛け布団が影を作って丁度見えない
…………見てみたい///
「……っ! ダメダメ……ノヴァがいるんだから」
理性を口に出してなんとか自制した。 だけど’視る’のをやめない
『その子どうなったの?』
『相当溜まっていたみたいだったので……お互いに///』
……その部下はもちろん男だよね。 戻れたら探してみよう
『……生き残りがいたの?』
『はい。 貴方を助け出した後、すぐに撤退したので被害はほとんどありません』
『……よくあの場所がわかったじゃない』
……あの場所っていうと、闇魔神が性癖を晒し出していた荒野のことかな
『秘密裏に貴方に付けておいた香りを頼りに探しました』
『素晴らしいまでの嗅覚ね。 感心しちゃった』
『嗅覚といったら……そういえば、今の貴方はワーウルフでしたね』
……ワーウルフ? ……狼少女ってことでいいかな
『……可愛いです』
『前の姿も十分可愛かったと思うけど?』
……前の姿を見てみたかったよ
『動いても大丈夫ですか?』
『ん……』
……その「動いても大丈夫?」って言うのは、『私』が動いたから身体を気にして言ったってことでいいんだよね? なんか抜けている気がするよ
『ぐぅ……っあ!』
女性がもぞもぞと動き、『私』に覆いかぶさろうとしていると、『私』が悲鳴に近い声を上げた
……女性自身が動いてもいいのか聞いたのか。 紛らわしい
『はぁ、はぁ……そ、そういう……意味……じゃ……』
『そういう意味で言いましたよ?』
女性の物言いから、全身に悪寒を覚えた
……黒ノヴァと同じ雰囲気を感じる。 これは……『私』ピンチ!
『もっと動いてもいいですか?』
『……ダメ』
……そういうこと言ったら勢いが……疲労してるのはわかるけど、嫌なら抵抗してよ
『その割には締め付けが強いですけど。 もっとしてほしいんじゃ……』
『そ、それは……』
『私』が口ごもり始めた
……そういうこと言われると……されてないのに恥ずかしい
『っふ……』
女性が動くと『私』の口から空気が漏れた
『ふふっ。 主導権は完全に私が握ってますよ』
『もう……二回もヤったじゃない……』
女性に言われると、『私』が泣きそうな声で言い返した
……私が目を覚ます間に、二回もやってた……
『貴方が二回イっただけで、私はまだ一回もイってませんけど?』
『…………さっさとイかないから悪いのに』
……確かに敏感だけど……そんなに過敏に反応はしない……と思う
『文句がお有りでしたら、ご自身の手で退けたらどうですか?』
『むぅ……』
『私』が自分の体を見て唸った
……何か縛ったりしてるのかな
『……あ、そういえば反撃を予想して、先に貴方の四肢の関節を外させてもらいました』
……関節外した、って……
「!?」
身に覚えのない記憶の数々が脳裏をよぎった。 その中に悪魔のような笑みを浮かべて私の肩関節を外しにかかる、黒いノヴァがいた
「……」
……こんな記憶……全く知らなかった。 闇寄りのノヴァがこんなになったのはロディのせいだから仕方ない。 それに多分、ノヴァに関節を外されたのはその時だけかも
『痛がってないところを見ると、前に外されたことがあるみたいですね。 何があったのでしょうか?』
『………………似たようなことじゃない?』
……似たような、というよりほぼ同じ状況なんだけどね
『っぐぐ……!』
またしても女性が動いたのか、『私』が呻いた
『そろそろ我慢できなさそうです』
『…………』
観念したかのように『私』が目を瞑る。 こころなしか頬が緩み、嬉しそうに見えた。 ……が――
「……っ」
それ以上’視て’いられなかった。 突然頭が割れるような痛みに襲われたからだ。 そのまま頭を押さえ、その場にしゃがみ込む
……もう少し……見ていたかったなぁ
「……………………」
しばらくすると頭痛が収まった。 かなり時間を費やした気がする
「………………」
能力を使おうとして思いとどまる。 また痛くなるのは御免だ
「…………」
さっき見たはずなのに、辺り一面真っ白な空間を見渡す。 しばらく見ていると違和感を感じた
「……」
いるはずのリオの姿が見えない。 前に見た時と変わらなければ、かなりごちゃごちゃしていて目立つ姿をしていたはずだった
……消えちゃったのかな?
「…………!?」
何か知ってると思ってロディに連絡を取ろうとすると、胸元にあるはずのペンダントが無くなっていることに気付いた
……どうしよう……あれがなきゃロディと連絡できない……
「…………」
ぼーっと目の前を見つめる。 ちょうど何もすることがなかったので、これまでの自分を振り返ってみることにした
「…………」
……初めてノヴァと対面したときは、寝ているところを起こそうとしたら急に締め上げられたんだっけ。 その後は、なぜかわからないけど急に身体が火照ってきて、襲っちゃったんだよね。 あの時は、その気になれば自制できて――
「!」
思い出に浸り始めていると真上から気配を感じた。 すぐに見上げてみるが気配の元を見つけることはできなかった
{はぁ……って、あれ? いない……?}
「!!」
どこからともなく『私』の声が聞こえてくる
{すれ違った、わけじゃなさそうね……ここにリオがいるし……}
……リオがそっちにいる? そもそもなんでリオのことを……あ、私の記憶を見たのか
{……もしかして、自力で上がってこられないところにいる?}
そういえば、さっきから身体が上から押さえつけられているような感覚がする
……それよりも……どうやって戻るのかわからない……
{だとしたら……折角だし、身体を戴いちゃおうかしら♪}
「!!」
『私』がとんでもないことを口にし始めた。 冗談には聞こえない言葉に、全身に寒気が走った
……ほんの少しだけって言ってたじゃん……
{あーでも……異常なまでに敏感だからやめとこ。 あれじゃあ仕返しなんて無理そうだし}
……自分が優位じゃないと気が済まないんだ……
{……ん? こんなところに穴が……今までこんなものあったっけ?}
……ぽっかりと空いた心の穴……なんちゃって
{……風が吹いてないのに寒くなってきたわ}
……なんかごめんなさい
{こういうのは必ず確認してから降りるのが鉄則よね。 ということで……}
……何を使って確認するつもりなんだろう
{この子にロープを括り付けて落とせば……}
……浮くってことを思い浮かばないのかな。 浮いたことないけど
{それっ! いってらっしゃい}
「っ!!」
言い終えるとともに、胸の内にこそばゆい感覚が襲ってきた
「…………」
嫌な予感がする。 ごちゃごちゃした何かが降ってくる予感が。 降ってきても受け止められる自信がない
「!!」
上の方からさっきとは別の気配を感じ、見上げると案の定、半透明の黒い紐を括り付けられたリオが降りてきた。 ゆっくりと降りてきているところと力が分散するように紐を括り付けている辺り、闇魔神の気遣いを感じる
{まだ底に着かないの? なかなか深いわね}
……乙女? の心は底が深くて複雑なんです
{……ん? 何かありそう}
リオが間近まで降りてくると降下が止まった。 紐に触れてみると手がピリピリした
……リオ……こんなことされてるのに一向に目を覚まさないんだね
{何かが掴んでる!?}
……私が掴んでます
紐を軽く引っ張ってみる
{お? おお?}
紐が上に引っ張られる。 このまま引き続けそうな気がしたので紐を腕に巻きつけておく
{もしかして……初のフィッシングで初の獲物?}
……その初の獲物は私のことですか
「…………」
引き上げられ続けていると、紐の先が見えなくなるところまできた。 少しだけ怖くなって目を瞑ると、身体全体が温かい感触に包まれた
「おお! 見事に超大物が引っかかったわ!」
間近で聞こえてくる声に目を開けると、私の姿を借りた闇魔神がはしゃいでいた
<><><><><>
「狼華……だったっけ? 貴方のおかげで記憶が戻ったわ。 ありがとう」
「うん」
隣に私とリオを降ろしながら闇魔神が言った。 それに返事をしながら座り直すと、右手首に目が行った。 私には黄金色に光る腕輪がはめられているが、闇魔神の方にははめられていない
……この腕輪、私だけなんだ。 ネックレスはどこにいったんだろう
「それにしても、貴方の内側なのに貴方が外に出れないなんて……間抜けな話ね」
腕輪をぼーっと見つめていると、闇魔神が言ってくる。『貴方』を強調させながら
「うっ……身体が押さえつけられてたから……」
「自分自身に?」
「…………」
……それが本当だったら……私ってなんだろう
「ちょ、ちょっと……貴方大丈夫?」
「……え?」
指摘されると、手の甲に水滴が落ちてきた。 顔に手を当てると頬が湿っていた
「……なんか……自分が惨めに思えてきたら……」
涙を拭いながら、半ば潤んだ声で言う。 自分自身のことを、実際は何一つ知らないんじゃないかと思うと、さらに涙が溢れてきた
「よしよし……」
「んんっ……」
いきなり身体を抱き寄せられ、まるで愛玩動物を扱うかのように頭を撫でられたり顎をさすられたりやりたい放題された
「…………」
そんな愛玩動物扱いをされて、身を委ねたくなる自分がいた
……元々身体を乗っ取るつもりだったみたいだし……後のこと全部任せちゃってもいいかな
「……か、身体が透けてきてるわよ!?」
「!!」
闇魔神の焦った声に手を前に突き出してみると、遠くの景色が透けて見えていた
「そんなに気持ちよかった?」
「ふぁ…………」
返事をしようと口を動かそうとすると、頬が緩んで力が入らなかった
……二番目に至高の気分を味わいました
「気持ち良すぎたから消えかかっているの?」
「…………!」
……そ、そうなのかな……
「……あ!」
「……?」
突然、何かを思い出したかのように闇魔神が声を上げた。 撫でてきている手が止まり、両肩に移った
「…………」
喋ろうとしたが、まだ力が入らなかった
……こういうのにほんと弱いなぁ
「……どっちでもいいわね」
「…………?」
……自己解決されてもわけがわからないよ
「とりあえずそろそろ戻らないと、貴方本当に戻れなくなるかもしれないわ」
「!!」
その言葉を聞いて、全身に寒気が走った
……とんでもないことを聞いたけど、そんなことを言われても……未だに戻り方がわからないんだよ
「私はもうやり残してきたことないから戻れなくなっても構わないけど、貴方はこれからやらなくちゃいけないことが膨大にあるでしょ?」
「……うん」
顎を動かさなくてもいい返事をする
「……もしかして戻り方わからないの?」
「っ……!」
図星を突かれて全身から冷や汗が出てきた
「……なんとなくわからないの?」
私の髪の毛を弄ってきながら訊いてくる
「うーん……」
自分の内側を現したのであろう目の前の風景を眺めながら考えてみる
……戻ることができた時は確か……あれ? どうやって戻れたのか思い出せない……。 もう少しで思い出せそうなのに……もどかしい。 もしかして闇魔神は知ってるんじゃ……
「大丈夫? 愛しのあの子とイチャイチャしすぎてて頭がぼーっとしてるの?」
「愛しのあの子?」
「………………重症ね」
……一度聞いたり見たりしたことは全部覚えられるはずなのに、忘れてるってことは……ボケてるのかなぁ
「しょうがない。 一応楽しませてもらったお礼に教えてあげる」
「お願いします……」
……やっぱり知ってた
「なんとなくだけど、身体がふわふわする感覚を維持したまま上に昇って行こうとするの。 そうすれば多分行けるはずよ」
「……うん」
言われたとおりに身体を宙に浮かせてみる
「そうじゃなくて……」
「あぁあっ!!」
尻尾に強い痛みを感じたかと思うと、強引に引きずりおろされた
「あ……あぁ、尻尾が……」
「ご、ごめんなさい。 掴めるものがちょうどそれだったから」
……尻尾……ジンジンしてる……もげるかと思った
「えっと……本当に浮かぶんじゃなくて、浮かんでいるような感覚?」
「…………」
尻尾を抱えながら闇魔神と距離を取る
「…………そんなに尻尾を握られたくなかったの?」
「…………」
無言で頷く
「……!」
突然、頭の中にとある記憶が蘇ってきた。 繋の後ろに回り込んで思い切り尻尾を引っ張っている情景が
「…………」
……自分のやったことって……こうも簡単に綺麗に戻ってくるものなんだね
「…………」
尻尾の痛みが無くなるのを待って再び闇魔神の傍に寄る
「……許してくれるの?」
「…………」
無言を通す。 自分の意思が反映され過ぎた尻尾を押さえつけながら
「んっ……」
再び身体を抱き寄せられてされるがままになっていると、急に眠気が襲ってきた
「……そうだ! 向こうに行く前にお願いしていい?」
「……手短にお願い」
「やり残したことはないって言ってたけど、ほんとうはまだあるの。 ……貴方なら――」
数秒も経たない内に、それ以上意識を保っていることができなくなった
「あ……」
倒れるようにして闇魔神にもたれかかり、そのまま意識を失った
<><><><><>
「っぐ!!!!」
身に覚えのない激痛が全身を駆け巡ったのと同時に、目を覚ました。 また気絶する前に、治癒力を最大限に活性化させて痛みを和らげようとする
「はぁ、はぁ……」
なんとか痛みを和らげ、乱れた息を整える
「…………」
視界がはっきりしてくると、目の前には白い布が見えた
……またしても、わからない内に戻ってきちゃった……
「……ん」
「!!」
下から声が聞こえてきた
「…………」
冷や汗をかきながら顔だけを声のする方に向ける。 そこには、粟色の褐色肌の女性の姿があった
「ふぁ~……おはようございます、主様。 昨夜は大変乱れておいででしたね♪」
「…………」
頭を撫でられながら女性が言ってくる
……言おうとしたこと忘れちゃった……
「……あれ? 髪が黒っぽくなっていませんか?」
「……」
そんなことを言われても、手が動かないから確認ができない
「……そういえば関節外したままだった。 付けてあげますね」
「――っぐぐぐ!!」
無理やりはめ込められて、痛くもないのに変な声を出してしまった
「これで動くようになりますよ」
「…………」
腕を上げようとすると、確かに動くようになった
……動くようになったことだし、上に乗っていることだし、早速締め上げてやろうか
{そんなことしちゃだめよ}
「!」
頭の中に、急に『私』の声が響いてきた
(……冗談だよ)
{貴方、見た目は白いけど内心は結構黒いことを考えてるのね。 私と色交換しない?}
(元が白いなら白いままの方がいい)
{あの子はどっちでも構わないんじゃない?}
……ノヴァは白い方がいいと思う
[……もしもし、ひと段落ついてモニタリングしたら、貴方の声がたくさん聞こえてきてびっくりなんですけど]
({!!})
闇魔神と心の会話をしている最中に、ロディから念話が送られてきた
「…………」
胸元を見てみると、ネックレスがちゃんと付いていた
{やっほー元気ー?}
(あ、ちょっと……)
[……大丈夫よ。 どっちが声を出しているのか大体わかってるから。 暗いほうが狼華でしょ?]
本人にはそのつもりはないのかもしれないが、その言葉にイラッとした
(用がそれだけだったら、もう切っていい?)
ぶっきらっぼうに言う
[もう……つれないわね。 ……わかったわ。 闇魔神とお話でもしてる]
(そうしてて)
そう言って、一方的に念話を切る
……なんで……突っかかってるんだろう……
「ど、とちらに行かれるのですか?」
「…………っ」
まだ自由に動かない身体を無理やり起こし、おぼつかない足取りで傍に掛けてあった布を纏って扉まで行く
……胸が……苦しい……
「待ってくださ――」
「来るな」
まるで口がひとりでに動いたかのように言葉を発した。 声音が異常なほど低く、自分の声じゃないみたいだった
「……すみません」
「…………」
女性のその言葉を流して扉を閉める
「……っ」
歩き出そうとした瞬間に視界がぐらつき、壁にぶつかるようにもたれかかった
……どうしちゃったんだ……私の身体は。 体力を消耗しただけにしてはおかしすぎる……
「……!!」
視界に映った自分の手が指先から黒く染まっていっていた
……私が……私じゃなくなっていく……
「主様!!」
扉の向こうからあの女性の声が聞こえてきた
「行ってはダメ!」
そして懐かしい声も聞こえてきた
「誰!?」
「今、扉を開ければ貴方も巻き込まれる」
その言葉に、肘まで黒く染まった自分の腕を見る
……この黒いのが……誰かにうつる?
「貴方どこから……」
「私に任せて」
扉の開く音がすると急に目の前が光に覆われ、身体が浮遊感に包まれた
「……!」
背中に柔らかい感触が当たったかと思うと、光が取り払われた。 柔らかい感触を確かめようと首を動かすと、ベッドに寝かされていることがわかった
「主様……!」
心配そうに女性が覗き込んできた。
……そういえばこの人の名前を聞いてなかったっけ。 ……でも……なんだか話しかけづらい
「貴方の言う主は出てきていない」
「……!」
声の主を確認しようとすると、視界に懐かしい姿が見えた。 姿そのものはノヴァだったが、あっさりと言いきったところに違和感を感じた。 その様子はまるで、大切なものを失ってしまったかのようだった
「それじゃあ……もう消滅してしまったってことですか?」
「今は出てきていない。ちゃんと残っている」
「では、今表に出てきているのは?」
「この身体の持ち主」
ノヴァが私の身体に手をかざしてきた。 その手からは光が溢れ出て、私の身体に流れ込んできた
「どうしてこんなことに……」
「貴方は悪くない」
女性の言葉に、一段と強い光を発しながらノヴァが言った。 光からは音が発せられ、辺りに響いていった
「……誰も……悪くない」
「…………」
ノヴァが最後にボソボソと呟いたのを、自慢の聞き耳が逃さなかった
「……よく聞いて」
「……」
私に向けてノヴァが言う
「貴方を蝕んでいるものは治すことができない。 だから私の力w貴方に託すことで、一時的だけど進行を食い止める」
「!!」
ようやく違和感の正体に気付くことができた。 今そこにいるのは、夢で会った様子のおかしかったノヴァだ
……でも……どうして……
「ねぇ、貴方は何者なの?」
あえて名前を呼ばずに尋ねる
「……私は私だよ」
「そんなことを訊いてるんじゃない」
「…………」
「もう一度聞くよ。 貴方は誰? 何者なの?」
きつく問うと、ノヴァは悲しそうな表情をしながら手をかざして光を流し込むのをやめた。
「貴方の……味方だよ」
「答えになってない」
「……ごめん」
……あくまで正体を言わない気か
「私の味方だというなら、私の名前くらいわかるでしょ?」
「……ごめんなさい」
ノヴァはただ謝るばかりだった
「私はもう……自分が誰なのかも、貴方のこともわからないの」
そう言ってノヴァは俯いた
「…………じゃあ、どうやってここにきたの?」
「……わからない。 道があったから辿ってきただけ」
「…………」
その返答には黙り込むしかなかった
……自分のことも私のこともわからないなんて……このノヴァは一体何なんだ。 夢で逢ったノヴァはちゃんと覚えていたのに
「わからないなら、なんで私の味方だって言ったの? なんで私を助けたの?」
「それは……貴方を見たら助けないといけない気がしたから」
起き上がってノヴァと似た少女をまじまじと’視る’。 顔だけしか視界に入らなかったため、服装が全く違うことに今気が付いた
「…………」
少女の身体からはノヴァのものと全く同じ力が流れていた
……どうしてわからなくなっちゃったのかな
「……っ!」
少女を’視て’いると、力の流れが徐々に弱くなっていっていた
「……もう……お別れかな」
「…………!」
少女は俯きながら喋った。 その身体が段々と薄くなっていく
「貴方のことはわからないけど……会えて本当によかった」
少女が顔を上げた。 その表情は先ほどまでの悲しそうなものではなく、とても穏やかな表情をしていた
「このまま消えてしまう前に、貴方の名前を教えて」
「……狼華だよ」
「狼華……いい名前だね」
ノヴァととっても似ている少女は、微笑みながら消えていった
……自分の大切な人がいなくなったみたいで……なんだか複雑な気分だ
「……あのー」
「!!」
呼びかける声で、今まで忘れていた状況を思い出した
「一体何がどうなっているんですか?」
……そういえばこの女性は何も知らないんだった。 私もよくわからないけど
「主は……主様はどうなったんですか?」
「主……?」
……闇魔神のことかな
「……しばらく休んでるって」
「よかった……様子がおかしかったこととは関係なかったみたいですね」
安心したのか、女性はホッと胸を撫で下ろした
「……あ、申し遅れました。 私はエムレイと言います」
「エミィって呼んでいい?」
「ご自由にどうぞ」
……全然聞けなかったし記憶に名前がなかったから、向こうから名乗ってくれて助かった
「私は……聞いてたよね?」
「はい。 狼華さん。でしたよね」
あの会話の内容についていけていたようだ
「……怒らないんですか? 貴方を主様の器にしようとしたこと」
「んー……」
……何か悪いことを考えているならそうするけど……あの記憶もそうだし、ここの人達……悪いことを企んでいる気配が全くない
「怒らないよ。 今、とても大変なことになってるんでしょ?」
「……なんでそれを?」
怪訝そうにエムレイ改め、エミィが訊いてくる
「記憶を視させてもらったよ。 光魔一族が何かしでかそうとしてるんでしょ?」
「そ、そうですが……」
記憶の中で視たことを簡潔に言うと、さらに表情に疑いの色が深く現れた
……そんなに警戒しなくてもいいのに。 ……私よりも狗らしい
「私もその一族に用があるから、力を貸してあげる」
……殲滅しよう企んでいることもそうだけど、あの男のことも気になる。 もしかしたら……赤かもしれない
「……主様は争いを望みません」
少し間が開いてからエミィが言った
「争うつもりはないよ。 気になることがあるから確かめに行くだけ」
「気になること? ……記憶の中で視たという出来事のことですか?」
「そうだよ」
肯定するとエミィが俯いた
「……私が駆け付けたときにはすでに主様は瀕死の状態でした。 あの時、あの場所で一体何があったのか教えてくれませんか?」
「ちょっと待ってね…………」
記憶の中での出来事を思い出し、要点をまとめていく
……よし
「じゃあ話すね」
「はい」
「……エミィの主は、向こうの大将みたいなのと一対一で交渉? をしてたよ」
「……その大将っていうのは、白色の髪の翼の生えた女性で槍を持っていました?」
記憶の中の情報とほとんど同じことを、エミィが言った
「そうだよ。 それで交渉? が成立すると思いきや、第三者に邪魔されて瀕死になったの」
「なぜ疑問形なんですか?」
「……あれを交渉と呼べるのか怪しいところだから」
……闇魔神が一方的に精神攻撃を仕掛けていただけだったからなぁ
「……それで、その第三者を探そうとしているわけなんですね?」
「よくわかったね」
「貴方が話したことで気になることといえば、それくらいだと思います」
……気になってますよー、って言ってたようなものか
「よっと……」
ベッドから立ち上がり、布を脱ぎ捨てて胴着と袴を短くしたものに着替えなおす
「その服は?」
エミィが訊いてくる
「ん? ああ、これ? 私の旅用の服だよ」
襟を持ちながら返す
「なんだか……襲われそうな衣装ですね」
「……」
……よく押し倒されるのはこの服装のせいだったのか。 もう少し露出を抑えたものを考えておこう。 ……そういえば甚平があったっけ
「……それじゃあ行こうか」
「……出口はそちらではないですよ」
扉を開けて通路を右に行こうとすると、エミィから注意を受けた
「こちらが近道です」
エミィが床に敷いてあるカーペットを取り払うと、その下から複雑に術式を組み込んだ魔法陣が現れた
「光魔一族の住処まで繋がっています」
「なんでこんなものがここに……」
そう聞くと、エミィがそわそわしだした
「……光魔一族にとある人物が現れてから、主様が独断で設置したらしいです」
「……」
……闇魔神は不穏な空気に気づいていたんだ
「……今すぐ行くよ」
「え? でも……その人物に鉢合わせしたらどうするつもりですか?」
「とりあえず行ってみないと。 一緒に行く?」
「待ってます。 私では足手まといにしかならないので」
……そんなに卑下しなくてもいいのに。 でも、もしあの男が赤カーソルだったとしたら……連れて行ったら危険か
「うん。 じゃあこれ持ってて」
懐からと見せかけて亜空間ボックスから独特の模様が描かれた紙を出し、エミィに渡す。 ボックスの存在は、なるべく気づかれないようにしたい
「……これは?」
「通信符だよ。 これで何かあったら連絡するね」
暇なときに念話を応用できないか考えながら作った道具だ。 ちなみに、試作品一号は運用中に不慮の事故で消滅した
「わかりました。 じゃあ魔法陣の上に立ってください。 送りますから」
促されて魔法陣の上に立つ。 念のために、太刀を三振りほど帯刀しておく。 鉢合わせしたら先手で確実に致命傷を負わさなくては、不死を殺す術を防げないこちらには勝機がほとんどない
「戦う気満々ですね……」
「念のためだよ」
「それなら結構です。 幸運を」
エミィが言い終わると同時に魔法陣が輝き出し、辺り一面が足元から崩れていった
<><><><><>
景色が完全に移り変わり、巨大な輪の中をくぐっているかと思うと、次の瞬間には小さな空間に立っていた。 周囲にはどんな材質でできているのかわからない箱が積み重ねられ、今にも天井に届いてしまいそうだった
「…………」
……もう……着いたのかな。 とりあえず、周りを’視て’みないと
「…………」
周囲を’視て’みると、今いる場所の近くには、幸いにも誰も居ないようだった
「…………」
さらに範囲を広げてみたが、誰も居なかった。 さらにさらに範囲を広げても、見当たらなかった
「………………」
人影が全くと言っていいほどに見当たらない。 どこを探しても、どれだけ能力を使おうと人影を見つけることができなかった
……おかしい。 おかしすぎる。 どこかに必ずいるはずなのに……どうしてどこにもいないの……?
「…………!」
人影を探すことに躍起になっていたせいか、地上と空中に存在する歪な建築物に今になって気づいた。 球体、塔、所々に光の線が走っている立方体の建築物
「……」
……一番怪しいところ。 球体は……丸くて浮いてるから怪しい。 塔は……最上階には誰もいないけど、その下の階とか地下で何かやってるかもしれないから怪しい。 所々に光の線が入ってる建築物は、変形しそうで怪しい。 ……どれも怪しくてわからないよ。 とりあえず行って確認しないと
「……!!」
突如、殺気を感じてその場から飛び退くと、球体から凄まじい勢いで何かが飛びこんできた
「ちっ! やりそこねたか!」
「!」
土煙の中から聞こえてくるその声には聞き覚えがあった。 記憶の中で聞いたあの男の声だ
「っ!!」
油断している隙に、土煙に向かって居合の要領で刀から真空の刃を放つ
「ぐあっ!」
放った真空の刃でできた土煙が晴れると、中から血塗れになった男が膝を着いていた。 その頭の上には予想通り、赤く輝く宝玉、カーソルが浮かんでいた
「くそっ……身体が動かないっ……!!」
男が立ち上がろうと必死になっている
……先手必殺……にはならなかったか。 だけど、これで闇魔神の仇は取れた
「死に損ないが……!」
私が近づくと男が毒づいた
……私のことにも当てはまるのかな
「あの子の居場所、吐いてもらうよ?」
「誰が言うか――ぐおぉっ!」
切っ先を抵抗しようとする男の腕に突き刺し、捻る
……あ、そういえば球体の方から飛んできたんだっけ。 だったらあの人のいる場所は……
「ふざけ……やが、って……」
「…………」
憎しみに満ちた表情でこちらを見てくる
……動けないみたいだから、全然怖くない
「……なんの真似だ?」
露払いをして太刀を収めると、驚いた表情で男が言った
「もう大体の居場所を特定できたから用済みなだけ」
指鉄砲を構えながら返す。 男が球体の方から飛んできたということは、球体の方にいるということだ
……他に浮いてないみたいだし、いかにもって感じだからね
「はっ! 逃がすってか?」
指先にカーソルを砕く力を注ぎこむ。 相手からは、ただ単に、指鉄砲を構えているだけの滑稽な姿に見えるだろう
「勘違いしないでほしいね……」
そしてカーソルに向け、その力を一気に解放する。 すると、指先で収束された力が一直線にカーソルに向かって飛んでいき、吸い込まれるようにして宝玉の中に入っていった
「誰が逃がすって言った?」
「っな!?」
宝玉が砕け散り、それを再生するために男が吸い込まれていった。 無色透明になった宝玉は、その場に静かに浮かんだ
「お前の野望はここで終わりだ……」
既にいない相手に向かって、そう吐き捨てる。 一度だけ死の淵を彷徨った者として
[あら? いつの間にやっつけたの?]
「…………」
余韻に浸っていると、ロディから念話が入ってきた
……空気を感じ取って欲しかったなぁ
(……そうだよ)
[身体、大丈夫なの?]
……あれ見られていたのか
(見ての通りだけど?)
[そう。 それにしても、よく持ちこたえたわね。 急に光に包まれたと思ったら、黒くなってた部分が引いていったからびっくりしたわ]
(…………)
聞いている中で、ロディの言葉の中に何かおかしい点を感じた
(……どんな様子だった? 目を瞑ってたからわからない)
嘘をついて簡単なことを訊いてみる
[狼華があの女の人を払い除けて床に転がって、その後に身体が黒くなり始めたのよ。 それで狼華の身体から光が溢れだしてきて、気づいたら何事もなかったかのように黒く染まっていた部分もなくなっていたのよ]
(ふーん……知らなかったよ)
……もしかして……あのノヴァによく似た少女のことは、ロディには見えていなかった? いや、そもそもあの光景自体見えていなかった? ……考えても仕方ないか
(それじゃあ回収よろしく)
[はいはい。 あ、一つ訊いてもいい?]
(ん?)
……ロディの方から訊いてくるなんて……天地がひっくり返るんじゃ……
[今失礼なこと考えなかった?]
(そんなことないけど?)
乱さずに返す
(それで、何?)
[あのね、自由に外に出たくなったんだって]
……闇魔神が、か……。 何かやり残してきたことがあったんだっけ
(……それで、私にどうしろと?)
[狼華はそのままでいたいでしょ?]
(その通りですとも)
[だから器を用意してほしいのよ]
……器? 私の時みたいなのかな?
(そっちで用意できないの?)
[それが無理なのよ]
(どうして?)
[唯一干渉できるのはノヴァだけなのよ。 だから、なんとかそっちで用意してくれない?]
……ロディだって干渉してるじゃん。 私に
(んー……わかった)
仕方なく引き受ける
……どうしようか。 リオの能力を使わせてもらおうかな
[それじゃあ、後よろしくね。 お話が盛り上がっちゃったから]
(え、あ、ちょ……いたっ!)
向こうから一方的に念話を切られ、頭に痛みが走った
……話が盛り上がっているとか……まあ、いいか
「もしもーし」
エミィのものと対になっている通信符を取り出して語りかける
{っ!! 紙から声が……}
「落ち着いて、私だよ」
{すみません。 それで、なんでしょうか}
「いきなりで悪いけど、魂を肉体に移すのってどうやるの?」
{……それを聞いてどうするんですか?}
怪訝そうにエミィが訊いてくる
「貴方の主が、私じゃなくて他の身体に乗り移りたくなったんだって。 この身体が敏感だとか言うから」
{そうですか……私の方で術を施す準備をするので、貴方は今成すべきことに集中してください}
「わかった、それじゃあまた後で」
そう言って通信を切る
……機嫌悪くさせちゃったかな
「……」
とりあえず球体のほうを’視て’みる。 中は見えず、何があるのかわからなかった
……男が出てきたし、あそこにいる確率は高いよね
「っと」
小太刀で空間に穴を開け、目的地の球体と今いる場所とを繋げる。 久しぶりに使った技は前よりも格段に安定していた
……術をしるだけでこんなに簡単になるなんて……なんて便利なんだ
「………」
見てみると、穴の向こう側は真っ暗で、やはり何も見えなかった
「…………」
自分の能力が及ばない場所と繋がっているということに、これから入るというのに少し寒気がした
「すぅ~……はぁ……」
深呼吸をして気を取り直す
……もし向こうにまだ敵がいたとしても、なんとかすればいいや
「ふっ!!」
勢いよく空間の裂け目に飛びこみ、目的地に着くと同時に能力を使って周囲を’視な’がら太刀を構えなおす
「!!」
そして、そこにあるものに視線が釘付けになってしまった
「…………」
球体の内部は巨大な空間になっていた。 そして、内部の壁一面を埋め尽くす膨大な量の容器。 それは、人一人分入れそうなものだった
「……」
好奇心からか、容器の一つの中を’視て’しまった
「…………」
容器の中は真っ赤な液体が満たしていた。 その隣も、その隣の隣も、赤い液体で満たされていた
「……」
……どういうこと……? 人が入れるような容器に、人じゃなくて液体が詰まってるなんて……
「……?」
ふと、容器に管が繋がれていることに気付いた。 辿ってみると、膨大な数の管は一つの場所に集まっていた
「…………」
そこには、低い作動音を立てながら動いている巨大な機械があった。 その中心には記憶の中で見た白い女性が、透明な容器の中で拘束されていた。 その表情は苦しそうで、無数の管からは、女性に送り込んでいるかのように光が流れていた
「……」
そして女性の頭上には案の定、青い宝玉が浮いていた
「…………」
……液体なのに、なんで光が流れ込んできているんだ……
「……」
原因を掴むために、周りの容器をひとつずつ’視て’いく。 どれも液体ばかりで、気落ちしそうだった
「!」
もう少しで全て見終わりそうになったその時、一つの容器の中だけが透明だったことに気が付いた。 その一つに絞り込み、さらに詳しく’視て’みる
「!!」
詳しく’視て’いこうとすると、液体が泡で一杯になってしまった
「……!」
泡で一杯になる前に、ほんの一瞬だけ人影がチラッと見えた
「………………」
わかってしまった。 周りにある容器を満たす、赤い液体の正体に。 力を吸い尽くされた光魔一族の民のなれの果てだ
「……」
気づけば、力を込め過ぎて手のひらから血が流れていた。 治癒力を手の平に集め、即座に治す
「…………!!」
再び中央の機械に向き直ると、半透明の触手が目前まで迫ってきていた。 太刀で切り払おうとすると、刃を絡め取られて奪われてしまった
「……っ!」
慌てて後ろに下がると、次から次へと触手が現れ、こちらに向けてゆっくりと距離を縮めてきていた
……これじゃあキリがない。 どうすれば……
―――エネルギー源を絶つ―――
「!!」
頭の中に文字が浮かんでくる
「…………」
予備の太刀を取り出しながら、チラリと女性のほうを見やる
……エネルギー源…………あの人を助け出せば……止まる?
「っ!!」
色々と考えている暇はなかった。 無数の襲い掛かってくる触手を避け、斬りつけ、吹き飛ばしながら一気に中心まで距離を詰める
「はあっ!!」
そして、女性が閉じ込められている容器を勢いよく殴りつける
「っとと……」
あっさりと粉々に砕け散り、女性までも殴ってしまいそうになった
……もっと丈夫に作られてると思ったのに……
「!!」
一段と機械の作動音が大きくなった。 嫌な予感がして、慌てて女性を抱えあげて入ってきた空間の穴に飛び込む
<><><><><>
「……っ!」
外に出て空間に開いた穴を閉じると、地面にヒビが入るほどの轟音が辺りに響き渡った
「っーー……」
女性を庇いながら衝撃波が来る方を見ると、球体があった場所にはそれと同じくらいの光の球が、周りの雲を吹き飛ばしながら膨張していっていた
……危なかった。 少しでも遅れていたら……鳥肌が……
「…………」
閃光が走ると、急にあの場に囚われていた人達のこと考えてしまった
……あの人たちは、一体どういう思いで容器の中に入っていたんだろう。 もし、自由を望んでいたのなら……これで解放したことになるのかな……
「……?」
ふと、衝撃波を受けていないか気になって女性を見ると、未だ苦しそうな表情をしたままだった
……力を注ぎこまれ続けていたなら、どうにかして取り除かないと
―――互いに口を交わすこと―――
「…………///」
唐突に頭の中に浮かんできた方法は、下手をしたらこの女性の初めてを奪ってしまうものだった
……なんで……なんでこういうのばかり……
「…………」
女性の口元を見ていると、したくないのにしたいという矛盾した気持ちが渦巻いてきた。 前に比べて、本能の抑えが利かなくなってきている気がした
「っ……」
理性が本能に押し負け、覆いかぶさるようにして唇を重ねた
「ん……ふっ」
舌を侵入させて絡ませていると、女性が苦しそうに身じろきした
「はぁ……はぁ……」
唇を離すと血色はよくなったが、さっきよりもぐったりとしたような感じだった
「……ごめん。 こうするしか方法がないの」
「はぁ、はぁ…………っ」
女性にちゃんと聞こえているのかはわからなかった
「………………」
女性のぐったりとした表情に、もっとしたいという感情が生まれてきた
……この人には悪いけど……そろそろ限界が……
「…………」
再び、女性と唇を重ねた
<><><><><>
……まダ……足りナい……
[――!]
……もッと……もット……
[狼華!]
「!!」
私を呼ぶ声に、はっとなって気づく。 いつの間にか目の前には衣服がはだけ、気を失った女性がいた
[……またあの時みたいに自分を見失ってるのね。 仕方ない……ショックを――]
(ままま、待って!)
不穏な単語にいち早く反応して、言葉を返す。 慌てて女性の上から退き、服を正してあげた
[あら、戻ってこれたのね。 よかったよかった]
抑揚のない声で、ロディが語りかけてくる
……ん? 戻ってこれた?
(どうなってたの?)
[貴方がその子をイッチャイチャ♪]
(…………)
その言葉に、女性の服に手を忍ばせて胸を揉みしだきながら行為に及んでいる自分の姿が、脳裏に鮮明に浮かんできた
「…………」
本当にやっていたのか認識できず、しばらくの間、呆然としていた
……この女性って、まだ誰ともしてないよね……。 もしかして……初めてを奪っちゃった?
[せ・き・に・ん♪]
(……!)
ロディが呪詛を唱え始めた!
[と・ら・な・い・と♪]
(…………)
[だ・め・よ♪]
(やめて……)
……ロディの精神攻撃! 私に痛恨の一撃! 長年の努力によって作り上げた精神防壁がいとも容易く崩れ去った! ……頭がおかしくなっちゃったのかな
「ん……」
「!」
女性の呻く声がして、気を取り直す
「……あれ? 私……どうしてここに……」
呂律が回らないまま女性が呟いた
「ここは装置の外側だよ」
「装……置……? ……! あの人を止めないと!」
起き上がろうとする女性を押さえつける
「何するんですか! 離してください!」
「落ち着いて」
「落ち着いています! だから離して!」
凄まじい力で拘束を解こうとしてくる
……さすが、光魔一族の頂点に立つ者だ。 押し戻されてしまいそう
「貴方の言っているあの人は、やっつけたから安心して」
「……え?」
そう言うと、女性が暴れるのをやめた。 それを見て、拘束を解く
「そのついでに貴方を助けたの。 衰弱してたから今まで治療してたんだよ」
半分合ってて半分違うことを教える
「……そうなんですか。 ……ところで、どちら様ですか?」
起き上がりながら、女性が訊いてくる
「…………」
……さて、どういうふうに返せばいいものか。 ……そうだ!
「あの時、あの場所で貴方の槍を奪い取った人と同一人物」
「!! ……生きて……いらっしゃったんですか?」
頷く
……生きてるけど……実際は魂だけの状態なんだよね
「……嘘です。 そんなはずがありません。 だって……あの時確かに!」
女性が取り乱した
「魂を移し替えたの。 姿は変わってしまったけど、ちゃんと覚えてる」
……うーん……演技って大変だ。 口調とか慣れない
「…………」
怪訝そうな顔をして私を見つめてくる
……そんな顔をされても……本当のことを言ってるだけなのになぁ
「とりあえず、これからどうするの?」
話題を逸らすために別のことを尋ねる
「私は……自分自身が不甲斐ないせいで、数えきれないほどの民を犠牲にしてしまいました。 だから――」
女性の次にいう言葉が良くないものだと察し、指先で口封じをする
「それ以上は言っちゃ駄目。 貴方のせいじゃないんだから」
「…………ですが……」
「戦争を吹っかけてきたのは、貴方じゃなくてあの人でしょ?」
「はい……」
女性はまだ不満そうにしていた
「……貴方、やっぱり本物ではないですね」
「…………」
何を言い出すのかと思えば、向こうから話題を変えてきて拍子抜けしてしまった
……ずっと言動を監視していたのか
「……そんなこといいじゃん。 本物が来ないとだめ?」
「それは……助けに来てくれたことは感謝します。 ですが、貴方が助ける義理はないはずです」
本物ではないとわかった途端、態度が少し変化した
「ついで、って言ったでしょ? 偶然にも貴方が捕らわれているようだったから助けただけ」
……自分で言っててなんか……胸が苦しいな
「そう言っていましたね……」
「…………」
……なんか、雰囲気が少しだけ悪くなってきちゃった
「私はこれから向こうに戻るけど、一緒に来る?」
「まだ生き残りがいるかもしれません。 その方達を見つけ出してなんとか再建します」
「そう……それじゃあ……またね」
女性に別れを告げ、魔法陣がある建物に向かう
「……待ってください!」
「?」
「お名前を……聞かせてください」
……そういえば名前訊いてなかったっけ
「狼華だよ」
「私はハルです。 ……また、会えますよね?」
ハルと名乗った女性の元に寄る。 いつの間にか、頬が緩んでいた
「会おうと思えばいつでも会えるよ」
……できればハルのほうから来てほしいかな
「はい、これ」
亜空間ボックスからエムレイのものとは違う通信符を取り出して、ハルに渡す
「……これは?」
「通信用のお札だよ。 それに力を注ぎこめば、いつでも私と連絡が取れるからね」
「…………」
ハルが通信符をじーっと見つめたまま固まってしまった
「どうしたの?」
「……貴方も……私と同じですか?」
通信符を見つめながら、ハルが呟いた
「…………」
……前にも聞いたことがあるような……
「……!」
……あ、記憶の中でだ! 同じ転生者なのかもしれないってことだよね
「ちょっと違うけど、大体そうだよ」
「……どういうことですか?」
……何から説明した方がいいかな。 なんでもいいか
「私はね、とある人の魂を取り込んで人格が成り立っているの。 要するに……変わり身ってところかな」
ノヴァから得た情報を元に、自分自身で考え付いた憶測を口に出す
……表に出てこないし、リオがいるのにいないから……きっと融合したのかな
「それは……」
ハルが戸惑った
……無理もないかもしれない
「そこが違うだけ、かな。 それ以外はよくわからない」
「代わり身って……それでいいんですか!」
「!!」
急に大きな声を出されて、ちょっとだけ気圧されてしまった
「代わり身なら……貴方は、その人の道具じゃないですか!」
「……ちょっと待って?」
ハルが何か勘違いしてるようだ
「私が誰かの願望を満たすための道具、ってわけじゃないからね?」
「でも、代わり身って……」
まだ納得がいってないらしい
……意味を取り違えているのかな
「そっちの意味じゃないかな……」
「ただ、生まれ変わっただけなんですか?」
「そうそう」
……そういうことにしておかないと、話がややこしくなりそう
「話はそれだけでいい?」
「はい。 私と同じような人がいることがわかっただけでもよかったです」
再び魔法陣のある建物に向かう
……言い残してきたことは……ないね
「……あの」
「ん?」
まだ何かあるらしい
「そっちには何もないはずでしたけど……」
……ハルにも内緒で作っていたんだ
「向こう側からこっちに来るときに、人気の少ない場所を選んでおいたんだよ。 ちなみに、かなり前から設置してあった」
……多分、代弁できていると思う
「私の部屋に仕掛けられていたらと思うと……ぞっとします」
「…………」
これまでの闇魔神の行動を思い返してみる
「…………」
場所を問わずに抱き着いてくる姿が思い浮かんできた
……そんなのが、寝ている間に傍に居られたら……だ、駄目だ、そんなの考えちゃ
「……他にもありますか?」
恐る恐る、訊きたくなさそうにハルが訊いてきた
「ない……と思うよ」
闇魔神の性格を考慮して答える
……ないとは言ったけど、きっと他にもたくさん設置してるんだろうなぁ
「……今、忙しいですか?」
ハルが手に持った通信符を見ながら訊いてくる
……戻らないといけないけど、急いで戻る必要はないか
「忙しくないよ」
「無理してませんか?」
「してないよ?」
……顔に出てたかな
「生き残っている方達は……あの人の魔の手から逃れることができたなら、心配する必要はないと思いますが……!!」
「?」
ハルが言いかけて、何かを思い出したかのような表情をした
「あの人はあれのことを『祝い玉』と言ってました。 あの人のネーミングセンスは趣味が悪いものばかりですから、きっと良くないことに使われたはずです」
「…………?」
……使われた?
「完璧に消滅させたけど?」
「ならいいんですけど……」
……何かひっかかる物言いだ
「あの人は何を考えてるかわかりません。 後始末もしているかも……崩壊しているところを見てました?」
「……振り返った時には光に包まれてた」
「そうですか……。 何が仕掛けられていたのかなんて、本人にしかわかりませんよね」
「…………」
一瞬、頭を抱えたくなった自分がいた
……その本人を大事なことを聞く前に消し飛ばしたから、もう聞けない……。 助け出すまで生かしておけばよかった
「狼華さん」
「?」
「行かなくていいんですか?」
「あ……うん」
……エミィが心配して待ってるかも
「何かあったら連絡しますね」
「うん。 それじゃあ、またね」
手を振りながら、魔法陣があった建物に向かう
「…………」
ほんの少しの距離だったが、その間に、なぜかすぐに抜け落ちてしまう記憶の整理をした
……まずやらないといけないことは、闇魔神のために早く戻ることかな
[もしもしー]
建物内に入ると、まるでタイミングを見計らったかのように念話がきた
(…………はい)
だが驚かなかった。 先ほどから、頭に何かが張っているような感覚が続いていたからだ
[あ、聞こえた。 どう? 上手くいった?]
(……よくわかんない)
ハルの話から、上手くいっていないことだけは確かだ。 それよりも聞かなくてはいけない最も重要なことを思い出した。
(ノヴァって今は何してるの?)
[相変わらずノヴァのことしか頭にないのね。 微笑ましい限りだわ]
(……いいから)
どうしてもあの少女のことが気になる。 ノヴァにとても似ていて、それでいてどこか決定的に違うあの感じが頭から離れないからだ
[まだそっちに向かってる最中よ。 こっちとそっちじゃ時間の進み方が全く違うからね。 何かを伝えようとして、直接狼華に会おうとしてるみたいよ]
……伝えたかったら、直接来なくてもロディみたいに遠隔で伝えればいいのに。 ……会いたかったのかな
(……わかった、ありがとう)
[なんかそういうの聞いていると気になってきちゃった。 封印の調子を見てくるわね。 それじゃ――]
向こうから切られる前に、こっちから念話を切った
……やっぱり何かが起ころうとしてる。 でも……ノヴァかリオが戻ってきてからじゃないと私一人じゃ……
「…………」
魔法陣を作動させて、その間にエミィに渡しておいた通信符を起動する
……戻ってくるまで待っていよう
{紙から声が……}
「落ち着いて。 私だよ」
通信符から聞こえてくる私の声に、どうやらエミィは動揺していたらしい
……言っておいたはずなんだけどなぁ
{……あぁ、狼華さんですか。 もう済みました?}
「もう済んだよ。 闇魔一族が危機にさらされる必要もなくなった」
{本当ですか!?}
「っ!」
急に叫ばれて耳がキーンとした
「詳しいことはそっちに着いたら話すよ」
{わかりました。 こちらからもいいですか?}
「……いいよ?」
……器を見つけることができたのかな。 憑りついても全く問題がなければいいんだけど
{新たな器を手に入れることができたので、これで魂を移す準備は整いました。 帰還をお待ちしています}
「うん、ありがと……」
……なんだろう……とてつもなく嫌な予感がする。 こういうときの悪い予感って大体当たっている気がするんだよね
「器……器ねぇ」
……やっぱり気のせいかな。 私達の他にも誰かいるかもしれないから
「…………」
思考するのをやめて魔法陣の上に立ち、エミィの待つ部屋まで転移した
<><><><><>
「お待ちしていました」
「んおっ!?」
転移すると、目の前にエミィが居た
「……新たな器っていうのは?」
変な声を上げてしまったのをすぐに忘れ、気を取り直して聞いてみる
「こちらです」
エミィが扉の前に立って、手招いてきた
……私が連れてこられた祭壇に行くのかな
「どこで見つけたの?」
通路を歩いている最中に、新たな器について尋ねた
「森の開けた場所です」
「……」
……森の開けた場所……
「そこには複数人いましたが、とても貴方に似ている気配の持ち主を連れてきました」
「とても……似ている……?」
……森の開けた場所にいて、私にとても似ている気配の持ち主……。 ……いや……まさかね……
「こちらです」
話し込んでいると、一際大きな扉の前に着いた
……この扉の向こうにエミィが連れてきた器がいるのか
「開きます」
「うん」
エミィが扉に手をかけると、扉が跡形もなく消え去った。 部屋の中には、祭壇があり、黒い球体が祭壇の上に置かれていた
「この丸いのがそうなの?」
「はい」
祭壇に近づいて黒い球体を指さすと、エミィが頷いた
「今、解きます」
エミィが、後から祭壇のすぐそばまで近づいて黒い球体に手をかざした。 すると球体が上から崩れていった
……あぁ、閉じ込めていたのか
「どうですか? そっくりだったのでびっくりしましたよ」
「!」
黒い球体が完全に取り払われると、中には人が倒れていた。 真っ白な髪は全身を覆い隠すほどに伸び、頭からは獣の耳、お尻からは尻尾が飛び出ていた。 身体の凹凸がくっきりしていることから、倒れている人物は女の子だということがわかった
「…………」
顔が髪に隠れてしまっていたので、脇に除けて顔を確認すると、なんだか親近感を感じた
……私と同じ種族だからかな
「どうですか? そっくりでしょう?」
「そっくり……だね」
「……!」
私の声に、少女の耳がピクリと動いた
「……母上?」
「!?!?」
唐突に母上と呼ばれ、驚いてその場から飛び退いた。 少女は身じろぎしながら身体を起こし、辺りを見回していた
……私のことを母上って呼ぶのは……まさか………
「……繋? 繋なの!?」
もう一度近づいて顔をよく確認する。 面影が少しだけ残っていた
「……」
私の方を見てくるが、生気の篭っていない目は私を見ていないように思えた
「繋、何があったの?」
「……! っう……」
尋ねると、女の子になってしまった繋がいきなり頭を押さえて苦しみだした。 よく見れば、少女は服を着ていなかった
…………隷音の仕業かな
「どうして女の子になっちゃったの?」
「……」
答えてくれなかった
……答えられる範囲のものを言ってみよう
「隷音がやったの?」
「……」
頭を押さえなら、繋は軽く首を左右に振った
……隷音じゃないのか。 じゃあ誰だろう……
「辛いと思うけど……思い出してみて」
「…………」
……そういえば、隷音は性転換させる方法なんて知らなかった気がする。 そもそも隷音は繋を大事にしてたっけ。 ……第三者の仕業かな
「……あ、そうだ」
エミィの存在を忘れていた。 エミィなら何かわかるかもしれない
「ねえ、エミィ」
「なんでしょうか?」
「け……この子を見つけた時ってどういう状況だった?」
……あえて名前で言わなかったけど、別に言っても良かったかな
「角の生えた男性に抱かれて眠ってました」
「…………」
言葉を失ってしまった。 角を生やしている知人は隷音しか知らない
……ん? 男性?
「他にも、近くに誰かいなかった?」
「近くにもう一人、同じような男性が倒れてました」
……同じような、と言うと……鬼か!
「かなり大柄でしたよ」
「…………」
嬉しいような悲しいような複雑な気分だった
……環境が破壊される前の状態に戻りつつあるのはいいんだけど……それの影響で、私の息子が女の子になるのは嫌だ……
「抱き抱えていた男性のことだけど……見間違いじゃないの?」
隷音の可能性を考えながら言う
「見間違い、ですか……」
エミィが考え込む
「……男性のように見えただけなんでしょうか……」
「そうに違いないよ」
……隷音が簡単に大切なモノを手放すような軽い性格ではないと信じたい。 それに隷音が男になっているはずが……繋が女の子になってるからあり得るかも
「…………」
能力を使って繋を”視る”
……何か原因となったものを少しでも掴まなくては
「……」
身体から出ている気は、繋のもので間違いなさそうだった。 何か別の力が働いてるのかと思い、詳しく調べていく
「…………?」
上から調べていくうちに、繋が円筒状のモノを握りしめていることに、気が付いた
「……繋、その手に持っているモノを見せて」
「…………」
お願いすると、繋は頭を押さえたまま円筒状のモノを持っている手を差し出してきた。 受け取って見てみると、繋が握りしめていたものは瓶だった
「…………?」
回転させてみると、側面に大きく『TSFD』と書かれていた
―――Trans Sexual Fever Drink―――
「………………」
考えようとした瞬間に、頭の中にそれらしき単語が浮かび上がってきた
「…………」
……頭文字を取ったら、てぃーえすえふでぃー、だ。 なんて意味だろう
―――半永久性転換剤―――
「…………」
手元の焦げ茶色の瓶に視線を落とした
……これを飲んだから女の子になったのか
「……」
繋の方に再び向く。 もう少しだけ聞かなくてはいけないことがあった
「これは誰からもらったの?」
「……隷音」
……そうか
「………………ありがと。 それだけで十分だよ」
それだけで誰がやったのかわかってしまった。 しかもその人物は、今は手が届かないところにいる
「……この子はお知り合いですか?」
エミィが聞いてくる
……知り合いも何も……
「私の息子だよ」
「可愛い女の子ですね」
「…………男の子だよ」
「……え?」
「この子は男の子だよ」
「……」
目の前の状況を呑み込めていないのか、エミィが女の子の身体になってしまった繋を祭壇から降ろし、ぺたぺたと触り始めた
「………………どこから見ても女の子なんですが」
「…………」
繋が男の子だったということを説得する手立てを考えてみる
…………元がわからないんじゃ信じるわけがないか……
「ひゃっ!」
「!?」
瓶を見ながら思考していると、いきなり繋が声を上げた
「っあ……!」
見ると、エミィが繋の胸を揉みしだきながら股に手を這わせていた
「……なにやってんのさ」
「男の子だというので確認してみました」
……そんなことやったら、ただでさえ女の子っぽい繋が……完全に女の子になっちゃうじゃないか
「……たす……けて……」
「…………」
その声を聞いて、即座にエミィから繋を助け出す
「繋、大丈夫?」
「母上……」
座り込みながら、切ない声で私を呼んでくる
「必ず元に戻してあげるからね」
「……うん」
抱き締めて、繋の頭を撫でた
……元に戻せる保証はどこにもないけど、なんとかして戻してあげたい。 繋の威厳のためにも
「……狼華さん」
「!」
繋の頭を撫でるのをやめて、エミィの方を向く
……忘れるところだった
「私が悪いんですか?」
いかにも不満そうな声音だった
「…………相手が悪かった」
「……どうしますか?」
……どうしますか、って言われても……。 ……どうしよう、何か他に方法は……
「……!」
……そういえば、ロディが『魂体になればいい』とか言ってた気がする。 ぬくもりが感じられなくなるとか言ってたけど、きっと冗談で言ってたに決まってる
「……魂をこの場に具現化させる」
「……! そんなことをしたら、下手したら消滅します!」
エミィが反論してくる
……主と二度と会えなくなるかもしれない気持ちはわかるけど……
「……なんとかする」
「そんな曖昧な……失敗したら恨みます」
「そうしてくれていいよ」
……無謀な挑戦だけど、このまま闇魔神が外に出れなくなるくらいなら……
「それで、どんな方法でやるんですか?」
「それは……」
術を知るためにリオの能力を意識してみる
―――星に眠る力を抽出、分解して再構成し、器とする――
知ろうとしていたことと全く違うものが浮かんできた
「…………!」
もう一度意識しなおそうとして、あることに気が付いた
……器を……生成することができる? それなら……!
「……エミィ、方法を変えるよ」
「……案が浮かんできたようですね。 お任せします」
察してくれたのかそれとも諦めているのか、エミィは沈んだ調子で返し、祭壇から少し離れたところに立った
「……母上」
繋が呼んでくる
「どうしたの?」
「僕は……どうしたら……」
「…………」
……今の繋は不安定だから、傍にいたほうがいいか
「今から術式を展開するから、傍にいて」
「……うん」
「あと、これ着てて」
繋に、予備の甚平を渡す
……小さい時に着たものの予備だけど、繋なら着れるかな
「……!」
集中し始めると、繋が寄り添ってきた
……邪魔にならないようにしてほしかったけど、まぁいっか
「…………」
祭壇を中心として、器を構成するための収束と構成の術式を描く。 その周りを属性ごとの式で囲んだ後、星命力を分解するための式を外側に描き、それを属性式と結びつける
「……ふぅ」
なんとか完成させることができたが、久しぶりに術式を組み立てたせいか、身体に疲労を感じた
……他に何か必要なことは……そうだ、重要なことが残ってた
「エミィ」
「なんでしょうか?」
「ちょっとこっちにきて」
表情に疑問の色を浮かべながら、エミィが傍までくる
「そこに立ってて」
「……私が器とかじゃないですよね」
祭壇の前を指差すと、ぶつぶつ言いながらエミィがそこまで移動した
「そんなんじゃないよ。 元の姿に似せるために主の像が必要なの」
「……なぜ私が?」
……なぜ、ってそれはもちろん……
「エミィの記憶に主の姿がたくさんあるでしょ?」
「……それがどうかしましたか?」
「それを拝借して器を形成していくの」
「………………?」
頭に疑問符を浮かべながら、エミィが考え込んだ
……流石にエミィでもついてこれないか。 私でも補助されてるだけで、何言ってるのかよくわからないから仕方ないか
「……つまり?」
「主を以前の姿のままこの場に再生させるってこと」
「!!」
エミィが驚く。 ようやく理解したようだ
「早速だけど、用意はいい?」
「はい」
エミィの足元に記憶を読み込む術式を展開し、収束する術式に結び付ける
「エミィは主の姿を思い出しているだけでいいからね」
「それだけでいいんですか?」
「うん。 繋は……ちょっと離れててね」
「……うん」
繋が素直に動じ、私から十歩ほど離れた
「…………」
……そんなに離れなくても……。 次は……星命力の引き出しだったっけ。 これは直接能力をつかって術式に充てていけばいいか
「……すぅ……はぁ……」
深呼吸した後、リオの能力を意識していく
「ぐっ!!」
術式に星に宿る力を流し込もうとしたその時、全身に激痛が走り、その場に膝を着いた。 身体に何か別のモノが流れ込んできて、暴れているようだ
「かはっ……!」
込み上げてくるものを吐いた。 見ると、私を中心に床に鮮血が広がっていた
「……!」
口を拭おうとすると、腕からも血が流れてきていたのが見えた
「母上!」
「大丈夫!」
繋が駆け寄ってくるのを制し、よろけながらも立ち上がる。 体中が血だらけになっていた
「狼華さん……」
「……このくらい、なんともない」
エミィも心配そうに見てくる
……本当は大丈夫じゃないけど……死ねない身体だから問題ない
「…………」
ふらふらになっている中で、昔の記憶が呼び出された。 リオが、自分が死ぬとわかっていても術式を展開して倒れた姿が
……私でこんなに大変なんだ。 自分の代えの作成を環境修復と並行して行ってたリオはもっと辛かったはず
―――星命力を術者に通し、命令式を与えて戻す。 そのために術者自身に式を組み込む―――
「……!!」
もう一度術式に流し込もうとしたその時、頭の中に術が浮かんできた
……身体に流れてきたのは星命力だったのか。 私の中で行き場を無くしていたから……そういうことだったんだ
「………………」
もう一度リオの能力を意識し、今度は術式にではなく、自身の身体に向けて星命力を引き出していく
「…………!」
身体に少しずつ何かが流れ込んでくる感覚がしてきた。 それに合わせて自身に術式を展開し、術式に力が向かうように命令を与える。 今度は痛みは来なくなり、構成の術式の上に光が集まり始めた
……これで、後は器が完成するまで私が引き出し続ければ……
「……っ」
膝の力が急に抜け、その場にうつ伏せに倒れ込んだ。 視界が極端に狭まり、暗くなった
……かなりまずい状態だけど……死ぬことはないし……すぐ回復できる。 それよりも能力を維持してないと……
「……どうしてそこまでするんですか? 狼華さんは被害者なんですよ? 傷ついてまでする必要はどこにもないはずです」
朦朧とする意識の中で、エミィが訊いてきた
「…………」
うつ伏せの姿勢から寝返りを打つように仰向けになって、考えてみる
……赤の他人なら適当に器になるものを探して来ればいいと思うけど、赤の他人じゃ済ませられなくなってる。 それに、私の性格じゃ他人を生贄にして誰かを蘇らせようなんてできるわけがない
「…………!」
……エミィの今の姿が、少し前の私とそっくりだったからかな
「……どうしてなんだろうね」
考え抜いて、あえて曖昧な返事をした。 本当のところ、自分の気持ちなんてわかってない気がしたからだ
「そんな曖昧な理由で自分を危険に晒しているんですか……?」
「そうなるんじゃないかな」
「……正気じゃない」
「なんとでも言いなよ……っ」
身体が鉛のように重たい中、なんとかして上半身を起こす
……リオほどじゃないけど、全力で能力を使ったからもうすぐのはず。 後は、最後の仕上げに……ロディとおしゃべりしてる闇魔神を引きずり出して器に入れるだけ
「…………」
祭壇を見れば大きな結晶が現れており、その中に人が入っていた。 そこに向けて光の球を飛ばす
「……」
エミィと繋は私に注意を惹かれており、無音で割れ始める結晶には気づいていないようだった
「…………はぁ」
疲れから、再び仰向けに倒れ込んだ
……極限状態で力を行使した甲斐があったかな
「狼華さん……?」
「主との……ご対面だよ」
指をエミィの後方に向けて差す
「!!」
エミィが結晶の中にいた人物を抱きしめたのを確認して、目を瞑る
「……ちょっと……休ませてもらうね……」
その声が誰に聞こえたかもわからないまま、意識が闇に落ちていった
リ「最近出番がほとんどないことを危惧したロディの案で、あとがきでコーナーとか設置してみる。 今回は適当に質問でも受けるよ」
ノ「はーい」
リ「どうぞ」
ノ「私のこと黒いとか白いとか言うけど、どういう意味なの?」
リ「このコーナー打ち切りでいい?」
ロ「駄目よ」