東方星霊宴~気がついたら転生してた~   作:ALUM

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「「なんだこのタイトルは」」

「閑話休題みたいなものじゃ。 話が進んでいないのでな。 ところでお主達、いつのまに増えた。 こっちのはどっちじゃ」

「……」「おれだ」


第十六話~できること~

何かがさざめく音に、私は気が付いた

 

 

「……」

 

 

上を見上げてみると空は茜色になっていて、どうやら夕暮れのようだった。 奥へ行くにつれて暗く染まっていくことから、背後に太陽があるらしい

 

 

「……!」

 

 

視線を下に降ろしていくと、何かとてつもない力が働いたのか、地表がめちゃくちゃに荒れ果てていた

 

 

「……」

 

 

さっきから聞こえてくるさざめきは、足元に時折打ち寄せる水が鳴らしていた。 水は足元から地平線の彼方まで伸びており、海を連想させる

 

 

「…………」

 

 

そんな中に立っているのに、別段、特に何も感じることがなかった

 

 

「…………!!」

 

 

ふと、誰かの気配を感じ取り、背後に振り返ってみる

 

 

「……っ」

 

 

太陽の光に怯むものの、逆光で見づらい中で二つの影を認知する。 一つは小さな影、もう一つは、その影よりも頭一つ分大きなものだった

 

 

「…………」

 

 

その二つの影を詳しく”視る”

 

 

「!!」

 

 

小さな影は見覚えがある。 逆光で溶けて見えない部分があったが、能力を使って視たことでその小さな影がノヴァだということがわかった

 

 

「……」

 

 

もう一つの影は、細身でも体格から男性だということがわかる。 でも、ノヴァと一緒にいる男性には見覚えが全くと言っていいほどなかった

 

 

「…………」

 

 

ノヴァがその男性の方に向く

 

 

「……!」

 

 

微かに見えるその眼は、かつてあの湖で逢った時と同じように漆黒に染まっていた

 

 

「――――。 ―――――」

 

 

ノヴァが男性に何かをしゃべっているようだったが、聞き取ることができなかった。 身体を後ろに引っ張られるような感覚とともに、急速に視界が暗転した

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

「…………」

 

 

暗転した視界には、ほんの少しだけ見覚えがある部屋の景色が映っていた。 それは、最初に連れてこられた時に居た、闇魔神の部屋だった

 

 

「…………」

 

 

ぼんやりとした頭で、状況を確認する

 

 

「……」

 

 

祭壇の間に居た二人の内どちらかが運んできてくれたのか、ベッドに寝かされていることがわかった

 

……あれ……夢だったのか。 直前のことをほとんど思い出せていなかったから、現実のことだと思ってた。 それにしても、あの男性は一体何だったんだろう

 

 

「……んーっ」

 

「!?!?」

 

 

背後からの声に、驚きのあまり心臓が止まりそうになった

 

 

「………………」

 

 

長時間抱き着かれていて感覚がほとんどなかったせいか、視界に腕が入ってくるまで全く気が付かなかった

 

……誰が、って……一人しかいないか

 

 

「……あぁ、あまりの抱き心地の良さに、いつの間にか一緒になって寝てしまっていたのね」

 

「…………」

 

 

……やっぱりそうだった

 

 

「……寝たふりは駄目よ?」

 

 

身体に回されていた手が離れ、私の頭を撫でてくる

 

 

「っ! ……ばれてた?」

 

「貴方が全身全霊を込めて用意してくれた器だもの。 貴方が起きてるか起きてないかなんてすぐにわかるわ」

 

「っあう……」

 

 

首筋を撫でられて変な声を上げてしまった

 

 

「…………」

 

「…………見た目に似合わず、かわいい子ね」

 

「……///」

 

 

顔が火照ってくるのがわかった

 

……慣れないなぁ

 

 

「……私を運んできてくれたのって……」

 

 

気を逸らすために話を切り出す。 このままだと、何をされるのかわからない

 

 

「ええ、私よ。 応急処置は……治りきらなかったから包帯を巻いておいたわ」

 

「ん……」

 

 

抱き着いている闇魔神を引き剥がして起き上がり、隅々まで自分の身体を見てみる

 

 

「……」

 

 

服を脱がされ、所々に巻かれた包帯からは血が少し滲み出ており、目が覚めて少し経ってもまだ治っていないことがわかった

 

 

「……?」

 

 

……治りきらなかったってどういうことだろう

 

 

「……」

 

 

治癒力を向上させ、体中の傷を癒そうと試みる

 

 

「…………」

 

 

しばらくしてから包帯をずらして傷口を見てみると、全く治っていなかった

 

 

「術を施したのになかなか治らないから、困ったものよ」

 

「うん……ん」

 

 

再び闇魔神が抱き着いてきた

 

 

「どうしたの……?」

 

「……癖になりそう」

 

「!!!!」

 

「っていうのは冗談で、貴方に力を注いでるの」

 

「……はぁ」

 

 

……冗談じゃなかったら、またおかしな関係の人が増えたかもしれない

 

 

「力を注がれてるわけだけど、何も感じないよ?」

 

「水面が波打たないように水を注ぎこむが如く、貴方に力を注ぎこんでるから当たり前よ」

 

「ふーん……」

 

 

……それで抱き着いてきているというわけなのか。 てっきり違う方面のほうだと思ってた

 

 

「……で、どうしてそんなことしてるの?」

 

 

肝心なことを聞いてみる

 

 

「貴方の中にある魔力の源泉が自力で回復できないまでに、枯渇しかかっていたからよ」

 

「…………」

 

 

……ただ命令式を与えただけなのに、そんなに魔力を消費していたなんて……リオに比べれば元々少なかったけど

 

 

「……ありがとう」

 

「お礼なんかいいわよ。 貴方から借りたものは返しきれないほど大きいからね」

 

「あ、うん……」

 

 

……自覚がないや

 

 

「ああ、それにしてもこの抱き心地はなんて魔性の誘惑なの……吸い込まれてしまいそうよ」

 

 

さらに強く抱き締めてくる。 けれど、傷口が痛むことはなかった

 

 

「……解析してみたら?」

 

「してもいいの?」

 

「駄目に決まってるでしょ」

 

 

……冗談を言うくせに冗談が通じないなんて……

 

 

「……よし、自力で回復できるところまで引き上げたわ」

 

 

闇魔神が頭を撫でてきながら言う

 

 

「うん、ありがと」

 

「ねえ狼華、いきなりだけど私のペットにならない?」

 

「…………前にも聞いた気がする」

 

「気のせいよ」

 

 

……大体の予想がついちゃうな

 

 

「……そんなに抱き着きたかったら、抱き枕でも作ってもらったら?」

 

「本物がいいのよ、こんなかんじにできるから」

 

「はう……!」

 

 

闇魔神の左手が私の胸を掴み、もう片方の手がお腹を撫でまわしてきた

 

 

「なんか……前よりも身体が敏感になってる……」

 

「……私の魔力を、っ……貴方の魔力と感応させてるから、ね」

 

 

私の身体を弄り回している手を止め、やけに色っぽい声で闇魔神が答えた

 

……感覚を共有してる、わけじゃなさそうかな

 

 

「自力で回復できるようになっても、本調子にはまだ程遠いはずよ」

 

「うん……」

 

 

その言葉に、身体に重いものが纏わりつく感覚が未だに取れていないことを感じ取る

 

 

「そこで、私なりに絶好調にさせる最も効果的な方法を考えてみたの」

 

「その方法とは?」

 

「さっきみたいにするの」

 

「…………」

 

 

……さっきみたいに……それってつまり……

 

 

「さ、続きしましょ」

 

 

闇魔神の右手がお腹から下へと這わせてくる

 

……ああ、やっぱり……なら、せめて頼みを聞いてもらわないと

 

 

「……激しくしないでね」

 

「無理よ」

 

 

……駄目だった

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

あれから時間が経過し、身体が元に戻ったことを知らせるために、僕は母上を探していた

 

 

「…………!」

 

 

たまたま通りかかった部屋から、気配を感じ取った。 その部屋の扉の前まで戻り、気配を探る

 

……母上を運び込んだ部屋は……ここかな

 

 

「……」

 

 

二つの気配を見つけ、その二つが結晶の中から出てきた人と母上だと予想する

 

 

「うわっ!!」

 

 

取っ手に手を掛けると、強い力で弾かれた

 

 

「…………」

 

 

扉を軽く叩いてみる

 

 

「……」

 

 

中に誰かいるはずなのに、何も反応がなかった

 

 

「…………」

 

 

無言で大剣を手元に出現させ、扉に向けて構える。 自分の力を具現化させる術、リオから教わったものだ

 

 

「……っ」

 

 

……もし騙されていたとしたら、早く母上を助けないと

 

 

「せぇやっ!!」

 

 

扉に向けて勢いよく振り下ろす

 

 

「っ!?」

 

 

あっさりと刃が通り、扉が粉々に吹き飛んだ

 

 

「わっ!! 何!?」

 

「!!」

 

 

奥から母上の悲鳴が聞こえてきた。 原因はきっと、扉を粉砕したからだろう。 その証拠に、布を身体に被せた母上にはなんの異常も見られず、隣には母上を運んで行った人が寝ていた

 

 

「あ、元に戻れたんだ。 よかったよかった」

 

「……はぁ」

 

 

……あの封印、ただ単に扉を開けられないようにしてただけだったのか

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

大剣を手放してへなへなと座り込む繋を見つめる

 

 

「……どうしたの?」

 

「母上が悪の手先になるんじゃないかって……」

 

「ま、まぁ……闇の一族だしね」

 

 

……私のことが心配過ぎてきちゃったのか。 ……親思いでなんか目頭が……

 

 

「それで繋、どうやって戻れたの?」

 

「……よくわからないよ。 服も、戻れた時に着てたし……」

 

「そっか……なんにせよ元に戻れてよかったね」

 

 

座り込んでいる繋の傍まで寄り、頭を撫でてあげる

 

 

「んっ……」

 

「…………」

 

 

尻尾を揺らしながらじっとする繋に、心が癒された気がした

 

 

「繋は先に帰ってる?」

 

「ふぇ? でも……」

 

 

……でも?

 

 

「……また隷音が何かしてきたら……」

 

 

耳を伏せながら繋が言う

 

……なんだ、そういうことか

 

 

「ああいうタイプの子には力で示してあげれば従順になるよ。 それに、頼りになるところを見せたり、しっかりしていれば大丈夫」

 

「力で……示す? ……大人しくしてほしいけど、傷つけることなんてできないよ」

 

 

……優しいなぁ。 光を司っているだけはある

 

 

「…………」

 

 

繋の頭を撫でるのをやめて、ベッドの縁に腰掛ける。 ベッドには疲れ切ってぐっすり眠りこんでいる闇魔神の姿があった。 私よりも体力がないために力尽きてしまったせいだ

 

……撃退法か。 そうだなぁ……

 

 

「何かちょっかいを出してきたときに、こっちから威圧すればいいんじゃない」

 

「どんなふうに?」

 

 

……それは考えてなかった

 

 

「えっと……例えば誘惑してきたときにこっちから押し倒してみたり?」

 

「……今度やってみる」

 

 

やけにあっさりと案を受け入れる繋

 

 

「…………」

 

 

……いいなぁ、すぐ傍に居て。 私も早くノヴァに会いたくなってきちゃった

 

 

「……それじゃあ送るね」

 

「はい」

 

 

繋の足元に空間の穴を出現させて、向こう側に落とそうとした

 

 

「……あれ?」

 

「母上?」

 

 

が、できなかった。 試しに、ハルの気を辿って穴を開けてみると、ちゃんとできた

 

 

「…………?」

 

 

……向こう側とこっち側を行き来するには、何か必要なものがあるのかな

 

 

「…………」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 

もう一枚のシーツに包まったまま眠っている闇魔神を見る

 

 

「こちらから大きな音が……」

 

「……!」

 

 

エミィが粉砕された入口から顔を出した

 

 

「ちょうどよかった。 向こう側にこの子を送ろうかと思ってたんだけど、どうすればいいの?」

 

「え? ……ああ、そのことだったら任せてください。 転移専用の部屋があるので、そちらまで案内します」

 

 

状況を瞬時に把握したエミィが部屋から出ていく

 

……私も付いていった方がいいか

 

 

「繋、先に行ってて」

 

「うん」

 

 

繋が頷き、エミィに付いていった

 

 

「…………」

 

 

近くにあった全身鏡を使い、自分の身体を改めて見てみる。 片目を包帯で覆われていたことに鏡を使うまで気が付かなかった

 

……もう、傷口は塞がったかな

 

 

「……おお」

 

 

腕に巻かれた包帯をずらしてみると、まるでそこには元々傷がなかったかのようにすべすべとした肌があった

 

……うん、治癒力は元に戻ったみたいだ

 

 

「……」

 

 

前に考えていたお腹を出さない控え目の衣装に身を包み、繋の気を辿って部屋を出ていく

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「………………」

 

「……? なぁに、繋?」

 

 

着いた先で、繋が私を凝視してきた

 

 

「……控え目でも色気丸出しです、母上」

 

「…………」

 

 

そう言われて自分の服を見てみる。 お腹を出さないといっても、ピッチピチな生地で胴体を包み、その上から前に着ていた短い胴着を簡単に羽織り、腰の左右に草摺のように布を巻きつけた衣装は、結局のところ以前とあまり変わっていなかった

 

 

「前よりマシでしょ?」

 

「母上には、出来れば凛としてもらいたいです。 今のままだと格好つかないです」

 

 

……言うようになったな……

 

 

「来ましたか。 ここが向こう側と行き来するための転移部屋になります」

 

「!」

 

 

声とともに、暗がりからエミィが現れた

 

 

「聞きたかったことがあるんだけど、いい?」

 

「どうぞ」

 

「向こうからは来れるけど、どうしてこっちからは行けないの?」

 

「こちら側の住人を、むやみやたらに向こう側に行かせないための処置です」

 

 

……にしては効果が強すぎる。 私の空間移動を無効化するなんて、誰がそんなことをやったんだ

 

 

「誰がやったのかと聞きたそうですね」

 

「なんでわかった」

 

「顔と尻尾に出てました」

 

「…………」

 

 

両手で顔をほぐした。 尻尾は無視する

 

 

「母上……そういうところが……」

 

「うっ……」

 

 

……いつまでも子供じゃいられないのね。 ……辛いなぁ

 

 

「……言ってもいいですか?」

 

「いいよ」

 

 

……どんな人なんだろう

 

 

「その処置を行ったのは、主様です」

 

「………………」

 

 

予想外過ぎて、思考が少しの間止まった

 

 

「……え、えっと……」

 

「正確には、主様と光魔一族の長が協力して行いました」

 

 

……長というと……ハルも一緒にやったのか

 

 

「主様曰く、自力で入るのは簡単だけど出るのは無理だそうです」

 

「へー……」

 

 

……他人事じゃなかった

 

 

「光魔一族が協力したってことは、向こうにも似たようなのがあるってこと?」

 

「その通りです。 信用できる者しか使わせていないみたいですね。 こちらも同じですが」

 

「…………」

 

 

エミィの言葉に、向こうで戦った赤カーソルのしていたことを思い出した

 

……あんなのを向こう側に行かせないように先に手を打っておいたのか。 きっと見えてる世界が違うんだろうなぁ

 

 

「……いい主を持ったね」

 

「危なっかしいですけどね」

 

「……聞こえてるわよ」

 

「「!!」」

 

 

部屋の入口の方から、寝ているはずの闇魔神の声が聞こえてきた。 その方向へ向いてみると、ちゃんとした衣装に身を纏った闇魔神がそこにいた

 

……そういえば、曖昧にされちゃって名前を聞いてなかったっけ

 

 

「主様、いつからそこに?」

 

「最初から。 狼華が部屋から出ていったから後をつけてみたの」

 

「…………」

 

 

……全く気が付かなかった

 

 

「狼華は……その様子だと上手くいったみたいね」

 

「うん。 もう少し別の方法を模索するべきだと思う」

 

「効果がすごくあるのはあの方法だけよ」

 

「………………」

 

 

真っ黒に染まったノヴァに、他の相手とさせないために自分とずっとするために幽閉される未来が見えた

 

……こんな未来……なんで視る羽目に……

 

 

「そういえば……あの子は今どうしてるの?」

 

「!」

 

 

別の意味で嫌な未来に頭を悩ませていると、闇魔神が聞いてきた

 

 

「ハルよ。 どうしてるの?」

 

「復興だって」

 

「復興!? それはまた……どうして?」

 

「……詳しいことは記憶を流し込むよ」

 

 

手に意識を集中させ、光が集まったところで闇魔神に向けて飛ばす

 

 

「!!」

 

 

光の球が闇魔神の中に溶け込むと、一瞬驚いた表情をするものの、すぐにいつもの表情へと戻っていった

 

 

「……なるほどね、私がいない間にそんなことが」

 

「あいつはいつから居たの?」

 

 

赤カーソルについて聞く

 

 

「戦が始まる少し前には既に居たわ。 光こそが正義だとか喧しかった」

 

「……行き過ぎた正義は非道を正当化させる尤もらしい理由でしかない」

 

「そうね……その通りだわ」

 

「…………」

 

 

……私も……そんな正義を振りかざして、しなくてもいいような断罪を行うようになってしまうのかな

 

 

「……母上」

 

「何?」

 

「困っていたら助けるようにすればいいと思う」

 

「繋……」

 

 

……気を使わせちゃったか

 

 

「それじゃあエミィ、よろしく」

 

「はい。 ではこちらに」

 

 

エミィが促し、繋が部屋の中心に描かれた転移術式に乗る。 そしてエミィが何かを呟くと、瞬時に繋の姿がなくなった

 

 

「……すごいね」

 

「私が考えたんだから当然よ」

 

 

豊満な胸を張って闇魔神が返した

 

……平たい子ばっかり胸を張るかと思ったけど、そうでもないのね。 うん、揺れる揺れる

 

 

「狼華は行かないの?」

 

「行くけど……ちょっと待って」

 

 

頭の中で何かが引っかかっているのに、なかなか思い出せない

 

 

「あ、思い出した!」

 

「?」

 

「名前、まだ聞いてなかったよ」

 

 

何か少しだけ違う気がするけれど、訊いてみることにした

 

 

「……あーそれね、呼ぶとき大変だものね。 ちょっと思い出すから待ってね」

 

「うん」

 

 

闇魔神が目を瞑ってしゃがみ込んだ

 

……自分の名前、元々ないとか言ってなかったっけ

 

 

「えーっとル、ル……ルーチェ! そう、ルーチェって名前だったのよ!」

 

「思い出せたようで何よりです、主様」

 

 

……まぁ、いっか

 

 

「これで私のことを名前で呼べるようになったわ、よかったね」

 

「う、うん……じゃあ、呼べるようになったことだし、記念にこれあげる」

 

 

そう言って、亜空間ボックスからリオが眠っていた洞窟で採取した結晶で作ったペンダントを取り出し、直接身に着けてあげる

 

 

「すごく綺麗な宝石ね……どこで見つけてきたの?」

 

「向こう側の太陽の光が届かないほど地下深くで」

 

「わざわざ降りて行ったの?」

 

「うーんと……」

 

 

……降りたというよりも……

 

 

「……地下深くまで落ちた」

 

「良く体が無事だったじゃない。 すごく頑丈だったのね」

 

「そうでもないよ。 背中から勢いよく落ちて、背中周りが真っ青に染まってたみたいだっただから」

 

 

……中の方はどうなってたかわからないけど

 

 

「それが頑丈だってことよ。 普通だったら原型留めていないから」

 

「うへぇ……」

 

 

自分が原型を留めていない姿を想像して、ちょっとだけ気持ちが悪くなった

 

 

「……あ、そうだ!」

 

 

引っ掛かっていたものがようやくとれ、伝えるべきことを思い出した

 

 

「ん?」

 

「ハルの手伝いしてあげて。 生き残りを探すのを一人でやってるから」

 

「ええ、そのつもりだったわ。 わざわざありがと」

 

 

……言わなくてもよかったか

 

 

「それじゃあ、私も送ってもらおうかな」

 

「ではこちらにどうぞ」

 

 

エミィに促されるままに術式の上に立った

 

 

「ねえ狼華」

 

「何?」

 

「暇があったらそっちに行ってもいい?」

 

「いいよ。 落ち着いたらいつでも来ていいからね」

 

 

……こっちはごたごたしていそうだけど、なんとかなるよね

 

 

「お話は以上ですか?」

 

「うん」

 

「送っていいわよ」

 

「では……」

 

 

エミィが、こちらにも聞き取れてない声で何かを呟くと、視界が真っ白に染まっていった

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「…………っ、く……」

 

 

身体に響き渡る鈍痛に意識が覚醒する

 

 

「…………」

 

 

状況を確認するために周囲を見てみる。 薄暗い空間は周りが岩肌で覆われていることがわかった

 

 

「……!」

 

 

身体を動かそうとすると、何かが身体を押さえつけてきた

 

 

「…………」

 

 

押さえつけてきているもの、それは無数の触手だった。 壁に磔にするように体を押さえつけてきて、まともに動かすことができなかった

 

 

「……」

 

 

……転移した後の記憶が全くないけど……その間に捕まったのか。 ……エミィにはもう少し勉強しておいてもらうことにしよう

 

 

「……」

 

 

まだ何もされていなかったみたいだったが、このまま捕まっていたら何をされるかわからないので、今まで失敗続きだった炎の術式を自身を中心に展開し、出力全開で解き放つ

 

 

「っ!! ぐぅううう……!!」

 

 

治癒力を最大限まで活性化させて、荒れ狂う炎に耐え忍ぶ

 

……これで、身体に巻きついているやつごと本体を焼き払ってしまえば……!!

 

 

「っ…………」

 

 

熱に耐えきれなかったのか、身体に巻きついていた触手が離れた。 落ちる身体を制御して地面になんとか着地し、向こうが怯んでいる隙に急いで入口まで走り抜ける

 

 

「!」

 

 

地上に出ると、湖が傍にあった

 

 

「……!」

 

 

気配を感じて振り返ると、奥からさっきの触手が這い出ようとしてきていた

 

 

「……我の名において命ず。 生者を蝕む邪を封じよ!」

 

 

言霊を発し、星霊に今出てきた洞穴とその周囲に結界を張り巡らせる。 そしてその上から幾重にもさらに複雑に結界を張る

 

……そこまでやれとは言ってないけど……まぁいいや

 

 

「……ふぅ」

 

 

結界を張り終えると、足の力が自然に抜けていき、その場に座り込んだ

 

……ああ、風が気持ちいい……

 

 

「あ、いつぞやの狼さん!!」

 

「!!」

 

 

そよ風を身体全体で感じていると、全く聞き覚えのない声が背後から聞こえてきた

 

 

「……」

 

 

後ろを振り返って声の正体を見てみると、すぐ近くに蒼い子と紅い子がいた。 蒼い子は大人しそうに、紅い子は活発そうに見えた。 そして、頭の上には蒼い子には青のカーソル、紅い子には黄色のカーソルが浮かんでいた

 

 

「……どちら様?」

 

「忘れてしまったの、あの一夜に交わした約束を?」

 

「…………」

 

 

約束事をしていないか思い出してみる

 

……そういえば、誰かに会おうとしていた気がする。 誰だったっけ……

 

 

「……冗談、そんなのないよん♪」

 

 

笑いながら紅い子が言った

 

 

「…………」

 

 

……無くてよかった

 

 

「狼さん狼さん、その恰好はどうしたんですか?」

 

「え……?」

 

 

言われて自分の身体を見てみる。 一緒になって炙られていたせいか、いつの間にか服が無くなっていた

 

……せっかくの新衣装が一日経たずに灰になるとは思わなかった……

 

 

「もしかして、もしかしなくてもさっきの噴火みたいなのが原因です?」

 

 

……外からは凄かったのか

 

 

「うん。あれ、私が引き起こした」

 

「わお! わんわんおすごい!」

 

 

……わ、わんわんお?

 

 

「初めて会ったときは全然強そうに見えなかったけど、しばらく見ない内にパワーアップイベントを終わらせてきたんでしょ?」

 

「え……あ、うん」

 

 

適当に返事をしながら、衣装を復元して着替える

 

 

「それもパワーアップした賜物?」

 

「これは元々だって」

 

 

……羞恥心が芽生え始めたら誰でもできるようになる……はず

 

 

「ねえ、探検に行ってみても?」

 

「ん?」

 

 

紅い子が私の後方を指差し、聞いてきた。 後方には、結界を張ったばっかりの洞穴がある

 

 

「駄目。 あそこには危険な奴がいて、近づいたら食べられちゃうよ」

 

「いざとなったら囮になってもらうから、大丈夫♪」

 

「……誰が?」

 

 

ここで初めて蒼い子が口を開いた

 

 

「ニャーニャーに決まってるでしょ?」

 

 

紅い子が、ニャーニャーと呼んだ蒼い子にそう返した

 

……ニャーニャー?

 

 

「んな……自分一人で行ってよ……」

 

「みんなで行くから探検なの。 一人で行ったら探検じゃない」

 

「…………」

 

 

……どっちでも探検って言うと思うな。 それよりも、蒼い方はニーアっていうんだ

 

 

「……囮にするんでしょ?」

 

「そうだけど?」

 

「じゃあ一人で行ってよ」

 

「嫌だ」

 

 

……あれ? 行く前提になってる?

 

 

「無理やり連れてく」

 

「いやっ……いやいやいやぁ!」

 

「…………」

 

 

その様子は、記憶の片隅に埋もれてしまっている、駄々をこねる子供を引きずっていく様に似ていた

 

……見たことないけど、龍人の記憶かな

 

 

「あいたっ!!」

 

「?」

 

 

悲鳴が聞こえ振り向いてみると、ちょうど紅い子が結界にぶつかって倒れていく最中だった

 

 

「な、なんでこんなところに結界が……」

 

「さっきの人がやったと思うよ」

 

「え?」

 

「…………」

 

 

……何も言うまい

 

 

「わんわんお、あの結界解いて」

 

 

戻ってきた紅い子が頼んできた

 

 

「駄目。 それに、わんわんおって何?」

 

「狼華のことだけど?」

 

 

諦めたのか、そのまま座り込んでそう返してくる

 

 

「呼びづらくない?」

 

「そんなことないもん。 私のことミュウミュウって呼べばいいし、ニーアもニャーニャーって呼べばいいもん」

 

「…………」

 

 

……ニーアに、ミュウっていうのか。 わざわざ呼びづらくしているだけだと思うんだけどなぁ

 

 

「ミュウ……ここにきて、だんだん幼児退行していってない?」

 

「成長の過程で幼くなるのはよくあることだよ、ニャーニャー」

 

「無理しなくていいんだよ、ミュウ」

 

「だって面白いことになかなか巡り合えないんだもん!!」

 

 

立場逆転。 今度はミュウが駄々をこねる子供になった。 それを冷めた目で見るニーア

 

 

「…………」

 

 

……そうそう巡り合えるようなものじゃないから、仕方ないね

 

 

「ニーアは退屈してても構わないの?」

 

 

地面を転がってるミュウをよそに、私がニーアに訊いてみる

 

 

「今は……ぼーっと空を眺めてるだけでいいよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

ニーアが空を見上げながら言った。 それにつられ、一緒になって見上げる

 

 

「………………」

 

 

空には未だ、この星全てを覆い尽くすほどの術式が張り巡らされ、ゆっくりと動いていた

 

 

「…………」

 

 

見上げるのをやめてニーアの方を向くと、ニーアはぼーっと見上げたままだった

 

……こっちはいろいろありすぎて疲れちゃったのかな

 

 

「狼華さんは……私たちのこと忘れちゃったんですか?」

 

 

急に喋り出すと、そんなことを聞いてきた

 

 

「うん。 ほとんど記憶が飛んじゃってて……」

 

 

狼っ娘になった大神に効力絶大な血を身体に塗られたところは覚えている。 けれど、その直前の記憶が全くない

 

 

「そうなんだ……それほどまで酷いことを……」

 

「…………」

 

 

ニーアが口を押さえながら呟いた。 何か勘違いしてるみたいだ

 

 

「向こうでの出来事は覚えてるよ? その前のことがすっぽりとないだけだから」

 

「器用に忘れるね」

 

「偶然だって……」

 

 

……いや、必然だったのかも……考えても仕方ないか

 

 

「私が向こうに行ってる間に、こっちで何か変わったことなかった?」

 

「え? えーっと……そういえば、太陽が隠れちゃっててしばらく夜のままだった」

 

 

……隠れ家に引き籠っていた時だったかな

 

 

「他には?」

 

「妖精たちが世界の終りだとか騒いでた」

 

「は、はは……」

 

 

……もう妖精たちが出てきてるんだ。 世界の終りだとか言ってる個体は黄色カーソルかな

 

 

「それだけ?」

 

「それと、今さっきの噴火。 それだけ」

 

「そう……」

 

 

……妖精のこと以外は繋から聞いたことと大差ないか

 

 

「!! 狼華、あれ!」

 

「!」

 

 

突然、ニーアが空に向かって指を差した。 その指先を目で追っていくと、空の一点に穴が空いていた

 

 

「…………!」

 

 

既視感を感じつつもそれを見ていると、そこから無数の白い蔦が現れた

 

 

「……!」

 

 

蔦が幾重にも重なり、そのままこちらに真っ直ぐ向かってくる

 

 

「させない!」

 

 

ニーアが氷の壁を創り出し、蔦の行く手を阻む

 

 

「……?」

 

 

氷の壁に阻まれた蔦がその場で静止した。 そして、無数の蔦が球体を形成し、 一部分を開けた

 

 

「な、なんのつもり……?」

 

 

ニーアが動揺する。 その間も、蔦は静止し続けていた

 

 

「……!!」

 

 

……もしかしたら……呼んでいるのかもしれない

 

 

「あ、危ないよ!」

 

 

出ていこうとすると、ニーアに腕を掴まれた

 

 

「大丈夫……な気がする」

 

「でも……」

 

「そうだ、これ持ってて」

 

 

懐から通信符を取り出し、ニーアの手に握らせる

 

 

「……お札?」

 

「何かあったら念を込めて。 遠くからでも話せるから」

 

「うん……わかった」

 

 

……といっても無事だったらこっちからすぐ伝えるけど

 

 

「…………」

 

 

球体の入口に近づいていき、そのまま中に入る。 入口が閉じ、引っ張られるような感覚が全身に伝わってきた

 

……こっちから行こうと思ってたけど、手間が省けてよかった

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

「…………」

 

「繋、今までどこに行っていたんだ?」

 

「…………」

 

「心配したんだぞ……繋?」

 

 

ようやく戻ってきたが、気になることがあった。 それは、今目の前にいる角の生えた女性、隷音が持っていた薬のことだ

 

 

「……隷音」

 

「!! ……なんだ?」

 

 

口を開くと、隷音が若干驚く

 

 

「あの薬、どこで拾ってきたの?」

 

「それは……気がついたら胸の内に入ってた。 前にも言ったと思う……」

 

「…………」

 

 

……母上もおかしな反応だったし……絶対怪しい

 

 

「隷音」

 

 

隷音を押し倒しながら、話しかける

 

 

「っぅ……繋……?」

 

 

隷音が怯えた表情で見つめてくる

 

 

「正直に言わないのなら……こっちにも考えがある」

 

「ほ、本当なんだって! いつの間にかあったんだ!」

 

 

声音を落として言うと、本当かどうかわからないことを言い始めた

 

 

「本当に?」

 

「鬼は嘘をつかない!」

 

 

苦し紛れの釈明をしてくる

 

 

「ねえ隷音」

 

「……?」

 

「嘘をついた鬼はどうなると思う?」

 

 

隷音の襟首に手をかける

 

 

「!! ……や、やめて……」

 

 

そのまま勢いよく引っ張り、服を引き千切る

 

 

「実際にその身で体感してもらったほうがいいか」

 

「繋……やめて……」

 

 

恐怖で動けない隷音を押さえつけ、霊気の縄で腕を縛り上げる

 

 

「ついでに、今までやられてきた分も返しておくよ」

 

「……っ」

 

 

目をつぶる隷音

 

……嫌われるかもしれないかな。 でも、こうまでしないといつまで経っても本当の男には戻れない。 そのためにも、相手をしてもらうよ……

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「………………!」

 

 

体中に重りが乗っている感覚が、突然消え、球体の出口が開いた

 

 

「…………」

 

 

外に出てみると、見覚えのある部屋に出た

 

……和を象徴する意匠……間違いない、ここは

 

 

「来てくださったのですね」

 

「!!」

 

 

声が聞こえ、その方向に向くとその姿に驚いた

 

 

「し、白狗……?」

 

 

黒い髪をなびかせていたが、外見は白狗を大人にしたような感じだった。 名前を知っていたが、思わず白狗の名前を呼んでしまう

 

 

「あの子を知っているのですか?」

 

 

……あの子?

 

 

「っていうことは……」

 

「はい、その通りです」

 

 

大神の身体から光が溢れ、瞬時に姿を変えた。 白くなった外見は狼の耳に狼の尻尾を生やしても、荘厳さを匂わせていた

 

 

「………………」

 

「前にもお見せしたはずなのですが……」

 

 

耳を伏せてしょんぼりとしてしまった

 

 

「えっと……うん」

 

 

必死に記憶を探る

 

……無い部分はここにくるまでの間だから……覚えてる。 初めて会ったのに襲われちゃったんだっけ

 

 

「あの時よりも、ちゃんとした服装になってるよね」

 

「それは……その……///」

 

 

服装のことを言うと、尻尾をパタパタと大きく振って、恥ずかしそうにもじもじとしてしまった

 

 

「?」

 

「あの時は……なぜか昂ぶる気持ちを抑えることができませんでした」

 

 

……確か、身体に憑りつかれていたんだっけ。 欲を促進させていたのかな

 

 

「それを詫びるために、貴方をここへ呼び寄せました」

 

「……あの蔦を使うしかなかったの?」

 

「外見が紛らわしいですが……その通りです」

 

 

……自分でも思ってたんだ

 

 

「この度はすみませんでした……」

 

「いいって。 大神さんは悪くないよ」

 

「そうですか……大神さん?」

 

 

私の呼び方に反応する大神さん

 

 

「……駄目?」

 

「この姿でいるときは……できればその……」

 

 

またしてももじもじさせてしまう。 荘厳さが台無しだ

 

 

「?」

 

「……は、ハクとお呼びください」

 

 

……ハク……狛……白……

 

 

「白くなってるから?」

 

「…………///」

 

 

ハクが顔を赤くして頷く

 

……大当たりだったか

 

 

「その姿じゃなくてもハクって呼んでもいい?」

 

「? 構いませんが……」

 

「じゃあ決まり!」

 

 

……なんか。よくわからないけど嬉しい。 同じ種族だからかな。 ……そうだ

 

 

「どうやって見つけたの?」

 

「日の光が届くところならどこでも見つけることができます。 地下に潜られてしまうと困難ですが……」

 

 

……影になっていても、地上だったらどこにいてもわかるってことなのね。 ……なんていうかくれんぼ殺しなんだ。 でも、それがいい

 

 

「今度、かくれんぼしよ?」

 

「見つけるのは苦手です……」

 

「…………」

 

 

意外だった




リ「第二回。 んで?」

ノ「はい。 変な風に出番来るけどどうして?」

リ「気にするな」

ノ「リオって出番来ない間何してるの?」

リ「三人、いや二人に嬲られてる。 どう嬲られているかは想像に任せる」

ロ「まえがきの伏線がここに……」

リ「その前からあったから」
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