待機場所まで行かなくてはならないというのに…
(これは、体力を使いすぎたな…)
すでにヘトヘトで目的地に着くまでに結構時間を使いそうだ。
「はぁ…、さすがに重力操作と形状変化で二千個を同時にやるのはキツイなぁ」
言っている以上にヤバイ。
身体はすでに重く今も歩けていることを自分でも褒めたいくらいだ。それほどまでに体力の消耗が激しい。
『重力操作のし過ぎよ』
不意に頭の中で声がする。
その声に俺は「あぁ、沙鬼か」と呟いた。その俺の声に反応するように沙鬼は笑う。
『重力操作は重力を操作するのと同時に重力を増やしている。一定の場所の重力を強くしたからってその代わりに他の場所の重力が弱くなるわけでもない。最初から重力を作っているのと同じなのよ?』
『うん、知ってる。それでもあいつを逃すわけにはいかなかったから』
『…人間に使われるのがそんなに楽しい?』
『……別に命令で動いてたわけじゃないよ。俺としてもサテラ・バートリーは邪魔になると思ったから』
『あくまで自分自身に従ったと言いたいの?』
『あはは、まぁそんなとこだね……で?何の用?』
『…ふふ、変わらないのね…。用ってほどではないの、ただ…そんな戦い方してたら持たないわよ?』
『その時はその時さ、持たなくても俺には神剣がある。どうにかなるさ』
『本気?』
『本気。それじゃ、体力もだいぶ回復したから急ぐよ。用があったら呼んで』
沙鬼の声がしなくなると同時に俺は待機場所へ向かう。
ーーいやな予感がするな、と感じながら。
「陵さん!」
「シノア…ただいま」
待機場所へ着くとそこには既にグレン隊がいた。他の隊あまり来ていないみたいだ。つまり、ここにいるのはグレン隊とシノア隊と鳴海隊そして相原隊だけとなる。相原隊は最初と比べて人数が少ない…ということは戦死したのだろう。
「陵さん、あの吸血鬼は?」
「あぁ、倒したよ」
「一人でですか…」
「まぁ、罠にかかってくれただけだけどね」
「お前、あいつ倒したのか!?」
「優、うるさい」
優と会話する体力は残っていない。
(あっ、そうだ。グレンに言わなきゃな)
グレンにさっきのことを言うべく近寄る。そこで違和感ーーどこか表情が暗い。
「グレン中佐、サテラ・バートリーを倒しました」
「!?はやいな…よくやった。下がれ、あと少しで出発する」
「……なにかありましたか?」
「…はぁ、第十三位始祖 クローリー・ユースフォードに計二十人が人質にされた」
「まさか、あそこは三十人で行ったはずですよね?」
さすがに驚きを隠せない。
鬼呪装備をもっていてさらにチームワークができていても三十人ではそのクローリーに勝てなかった。ということになる。
もしかしたらそのクローリーっていう奴はサテラよりも強いのかも…それはないか。俺はともかくあいつは魔法をつかえるんださすがに人数が多くてもチームワークができていても意味がない。
「それほど、クローリー・ユースフォードが強いということだ。これから、そのクローリー・ユースフォードがいる市役所へ行く。他の者にはもう伝えてある。だから少しでも身体を休めておくんだな」
「わかりました」
なるほど俺の嫌な予感は当たったようだ。
さてさて、何処まで戦えますかねぇ。と思いながらも近くにあった壁に寄っ掛かる。
それにしても、人質か…。人質にするっていうことは此方を誘き寄せるのが目的…誘き寄せてクローリー・ユースフォードは何がしたい?
人間の全滅?
「りょ…さ……陵さん!」
「……ん?どうしたの?シノア」
「いえ…怖い顔をしていたので」
「あっ、ごめん。考え事してたから…心配かけた?」
「はい、心配かけられました。次の任務について聞いたのですか?」
「うん。次は市役所だね」
隣にシノアがいると落ち着くな。
…きっと次の任務は1番危険になる。市役所には情報によると始祖が三人いるはずだ。だからこそーー
「シノア死んだらダメだよ」
「陵さんのお願いですから守らないとですね。陵さんも死んではダメですよ?」
「あははっ、努力するよ」
そして、しばらくして任務の説明がされた。
『相原隊はさっき言った通りここに残れ、他の隊は市役所に向かう。市役所にいるのはクローリー・ユースフォードとその従者二匹。仲間たちを救って俺たちは名古屋空港へ相原隊は三十分待っても他の隊が来なかったら名古屋空港へ行け。いいな?』
とのこと。俺がいない間に説明されたみたいだから、まぁこれは確認のようなものだ。
「じゃあ、シノア隊と鳴海隊ついてこい!」
「はい!」
みんなの揃った声が空気を震わせる。
この任務は本当の意味で命懸けだ。誰も気を抜くことをしていない。そんな緊張感の中俺には笑い声が聞こえたきがした。
◆
三十分後ーー
「…戻らないな、まさか全滅か…?」
まだ、待機場所には他の隊が来ておらず全滅?という不安から相原は一番嫌な状況を想定する。
そんな時、相原の背後から声がかかった。
「悪い、遅くなった!」
「あ…おまえら!」
「グレン中佐は?」
「中佐は…」
だが、相原は仲間の疑問に答えることができない。
バタバタバタという音とともに上空にヘリがある。今回の任務は言わば秘密裏に進めているものなので目立つヘリは今回の任務とは関係がない。つまりーーこれは帝鬼軍のものではない。
そう一瞬で考えある一つの答えにたどり着く。それに気づいた相原は今まさに近づいてきている他の隊に叫ぶ。
「こっちに近づくな!中佐は名古屋空港にいる!ここは私たちが囮になるから、おまえらは身を隠せ!」
そう叫んだあと相原は弓の鬼呪装備を展開しヘリに向かって弓を引く。その矢は見事にヘリに当たった。
そして、落ちてきたのは吸血鬼。その中で…相原の前に現れた吸血鬼は金髪でまだ吸血鬼になりきれてない証拠である青い目をした青年だった。
「……人間、君にちょっと聞きたいことがある」
その吸血鬼はただ冷たい目で相原を見下ろしながら言った。急に現れた吸血鬼に動きをとめる相原だったが他の吸血鬼の楽しそうな声により我に返り他の仲間を見る。ほとんどの仲間が吸血鬼に捕まっている光景。だからこそ相原の決断は早かった。
「全員自決だ‼︎口を割るな‼︎」
相原の指示により口の中に仕込んである毒をそれぞれ噛む。それによりバタバタと仲間が倒れていくのを見届けた相原は自分もと毒を噛もうとした時だった。
「!?」
口の中に入ってきたその手によって毒である薬を抜き取られた。その手は目の前にいる吸血鬼のものでどうやらその吸血鬼は口内に毒があることをすぐに見破ったらしい。ともあれこれで相原は自決が出来ない。
そして薬を抜き取られる前に相原は地面に押さえつけられているため、逃げることも出来ない。
「…口内に毒が仕込んであるのか…怖いくらいの忠誠心だ。吸血鬼にはない感情…でも、君には死なせないよ。聞きたいことがあるんだ。でも君は死なせないよ。聞きたいことがあるんだ。」
「…くそが、どんな拷問されても何も話さな…」
「黙れよ。きみが生きてることが他の吸血鬼にバレる。死んだフリをしろ。小声で話せ、君を逃がしてやる。」
「なぜ、私を逃がす?」
「興味ないから、人間にも吸血鬼にも」
「…信じられ…」
「どうでもいい、ただ質問に答えろ。僕は人を探しているおまえらの軍にいる人間だ。百夜護持院から来た少年百夜 優一郎と鈴谷 陵という名前。心当たりはないか?」
事実をいうと相原は二人のことを知っていた。
グレン達と戦っていた中であのグレンと渡り合えるほどの剣術の持ち主である二人。その内の一人は軍の中でも有名だったーー鈴谷 陵。柊家の次期当主である暮人に喧嘩をうった少年。本当は喧嘩を売ってはいないのだが、暮人に実力を認められたということがここまで肥大化してしまったらしい。そして、百夜 優一郎はついさっき聞いたばかりの名前だった。
「それは知ってる顔だ」
「違っ…!」
「知ってることを全部言え」
刹那、その吸血鬼から殺気が満ち溢れた。その雰囲気を感じてか別の吸血鬼が「お〜い、ミカどうした?」と聞くそれを一度無視しミカは会話を続ける。
「わ、私は…絶対に仲間は売らな…」
「ふざけるな。優ちゃんと陵ちゃんの仲間はおまえらじゃない」
「………!?」
そしてミカは他の吸血鬼の「ミカ?」という声を聞いてスッと立ち上がる。
「この人間も死んだ。自殺だ」
「でも、何故自ら死ぬ?馬鹿なのかこいつら?」
ミカの言葉を信じたようで他の吸血鬼二人は会話をしていく。そして最後の言葉ーー「とりあえず移動をしよう。名古屋市役所がここから貴族のいる場所では近いはずだ」という言葉に相原は未だ目の前に立っているミカにすぐに起き上がり刃物を首に突きつける。
「おまえら動くな‼︎動くとこいつを殺す‼︎!」
「あーん?そいつまだ生きてるぞミカ」
「捕らえろミカ、情報を聞く」
「動くなと言っている!こいつが死んでもいいのか⁉︎」
「はは、なんか勘違いしてるぞあいつ。別にミカが死のうが生きようがどうでもいいんだけど」
ミカは刃物を向けられても驚くことなどせずただ冷たい声で相原に問う「…なぜ動いた?」と。
「…百夜 優一郎及び鈴谷 陵二等兵はいま『名古屋市役所』にいる。だが、おまえらに行かれたら百夜 優一郎と鈴谷 陵を含む人間たちは皆殺しにされる。だから…行かないでくれ」
その言葉を聞いてミカはすぐさま刃物をもっている手を掴み後ろを向く。
「…なぜ僕を信じる?」
「うちの新入りを『優ちゃん』『陵ちゃん』と呼んだ。それに賭けることにした。さぁ、優一郎と陵を守れ。吸血鬼どもを市役所に行かせるな私をーー」
と、相原の言葉の途中でミカは掴んでいた手を潰す。とたんに相原の悲鳴が場を包む。
「ああああ…‼︎」
「他の仲間は自決した。なのにおまえは違う、無様に生き残って逃げようとしている。その段階でおまえはもう仲間を裏切ってる」
「ぐ…ぐぐぐぐ…」
「つまり、死にたくないんだろう?醜い人間が。なら情報を話せ、仲間を売れ。ここを襲った人間どもはいまどこにいる?」
「……死にたくない‼︎殺さないでください‼︎」
そう叫ぶ相原をミカは蹴り上げる。それにより相原は後方へと吹っ飛ぶ。それでも彼女は
「…言ったら、言ったら殺さないでくれますか?」
「…ああ、全部言えばね」
「日本帝鬼軍の部隊五十人は自動車博物館を襲おうとしています‼︎貴族ゼイン・リンドウ殺害計画です!」
その言葉にまたもや会話を始める他の吸血鬼二人。そしてその吸血鬼二人は相原の情報を信じることにしたらしい。自動車博物館へ行こうと準備を始めた。それを見届けて相原は少し笑う
「…上手くいったな。だが最後にもう一つ…頼みを聞いてくれ。私を…殺せ。拷問されて…口を割る前に私を…」
「自決は出来ない…死ねば私が言った情報が疑われる。だが…おまえが殺してくれれば…」
ミカは相原の言葉に耳を持たず立ち去る。やはり、殺す気はないようだ。それを見て相原はーー吸血鬼が言うことは結局は嘘なんだと。無理にでも体を起こし弓を構える。
「も…もう嫌!どうせ最後は殺す気でしょ!!殺されるくらいなら一匹くらい道連れに…‼︎」
「……馬鹿が」
ミカは振り向きざまに剣を抜く。
『ねぇ、ミカ。俺は人間をあまり殺したくないんだ。だって…その瞬間からきっと人殺しという名のバケモノになるとおもうからさ!』
そんな昔の記憶にある言葉が声がミカの頭に響いた。
そして、それによってかその剣は相原へ直撃かと思われたが少し肌を斬っただけに踏みとどまる。しかし、相原は斬られたと思い地面に倒れた。
「殺したのか?ミカ」
どうやら場所的に他の吸血鬼は彼女が死んだと見えているらしい。それならばとミカは彼女を殺したことにする。そして、去っていく吸血鬼達。ミカは五人の兵を連れて市役所へ他の吸血鬼は自動車博物館へ行くらしい。
そして去っていく吸血鬼の背中を相原は無言で見つめた。
そんな中でミカは空を見上げる。
「陵ちゃん…君は止めてくれたのかい?君にとってのバケモノにならないように…。あともうすぐ…君たちに会える。その時、陵ちゃんは僕のことをバケモノだと認めるかな…」
そんな言葉は誰にも届かず風とともに空を舞った。
結末を変えましたー!
相原さんは原作では死んでますがなんとなく変えてみました。
次回は明日か明後日ぐはいに投稿します