シックスセンスな織斑君とオルコットお嬢様   作:キラ

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何か嫌なことが目の前に迫っているときに、現実逃避として執筆している際の文字を打ち込む速度は異常だと思います。
というわけで2日しか空いていませんが第3話です。


しょうがないから手伝ってやる

 俺、織斑一夏はセシリア・オルコットのことが嫌いである。

 そしてオルコットもまた、俺のことを嫌っているらしい。

 

「妙な話だ」

「ん、どうかしたのか。一夏」

「ただの独り言だ。気にすんな」

 

 女だらけの学園生活は、3日目の昼休みを迎えていた。食堂に箒を誘い、さらに勝手についてきた女子生徒数人を加えたメンバーで昼食をとっていた最中、俺はなんとなく昨日のオルコットとのやり取りを思い出していた。

 

『わたくしが、あなたのことを嫌いだから、ですわ』

 

 冗談を言っているようには見えなかったし、おそらくあの言葉はあいつの本心からのものであるはず。

 互いに相手のことを好ましく思っていないのに、何が楽しくて一緒にいる時間を増やさなければならないのか。俺にはオルコットの考え、目的を読むことはできなかった。……結局、なんで俺を嫌っているのかは教えてもらえなかったし。

 俺に対する嫌悪が、俺と訓練をする動機につながっているらしいが……

 

「………」

 

 ……やめだ。これ以上推測したって、情報の絶対量が足りない状態では正解にたどり着ける見込みはほとんどない。せっかくの昼飯タイムなんだ、もっと心が明るくなるようなことを考えよう。

 

「ねえねえ、織斑くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「おう、なんだ?」

 

 女子のひとりがタイミングよく俺に質問を投げかける。よし、とりあえずこれでオルコットのことから思考を逸らせるな。

 

「ぶっちゃけ、セシリアと仲良かったりするの?」

「悪い、周囲の雑音でうまく聞き取れなかったみたいだ。もう1回言ってくれ」

「セシリアと仲いいの?」

「そうだな。やっぱり大相撲は横綱が2人いた方が盛り上がるよな」

「誰もそんな話してないよ!? というか聞き取れないんじゃなくて聞き取らないだけだよね!?」

 

 なかなかキレのいいツッコミをいただいた。素質を感じられるので後で名前を覚えておこう。

 

「んじゃ逆に聞くが、お前は何を思ってそんな質問をしたんだ」

「だって、放課後にISの自主訓練を一緒にしてるんでしょ? それに一昨日の夜もセシリアが織斑くんの部屋に行ってたって話もあるし」

 

 ねー、と互いに同調して頷きあう女子たち。事情を知っている箒だけは、特に反応もしないでサバ味噌定食を口に運んでいる。

 

「はっきり言っておくが、仲がいいなんてことはあり得ない。だいたい、俺がオルコットのこと嫌いだって宣言したのを忘れたのか」

「あれはほら、一種の照れ隠しなんじゃないかと思って。いわゆるツンデレってやつ? 『べ、べつにあんたのことなんて好きじゃないんだからね!』みたいな」

「男がやったら壮絶に気色悪いことになりそうだな」

 

 俺は思ったことはわりとはっきり言うタイプなので、そういうのとは無縁だ。

 

「でもでも、セシリアの方は織斑くんのこと気に入ってるんじゃない?」

 

 今度は隣に座っていた女子が尋ねてくる。なかなかオルコットの話題から離れさせてはもらえないようだ。

 

「それもないな。あいつ俺のこと嫌いだって昨日言ってたし」

「ええっ、そうなの!?」

 

 これに関しては初耳だったらしく、箒を含む女生徒たちの反応はかなり大きかった。

 

「ああ、本当だ。ま、あいつも何かしら利益が発生するからこそ俺に関わってるんだろうな」

 

 その点については俺も同じだ。オルコットに指導を受けることで、IS操縦の技術を高められるという明確なメリットが存在する。

 

「うーん、そんなドライな関係なんだ……けど、もしかしたらセシリアの方は本当に照れ隠しかもしれないよ?」

「………」

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後。

 

「お前って俺のこと気に入ってるの?」

「……はい?」

「俺のことを嫌いと言ったのは照れ隠しであるという説が浮上しているんだが」

「天地がひっくり返ってもあり得ませんわね」

「だよなあ」

 

 今のやり取りの中にも照れている様子などかけらもないことから考えて、やはりあの女子たちの予想は外れていたことがよくわかった。

 

「そういう織斑さんは? 本当はわたくしのことを嫌いではなかったりしますの?」

「べ、べつにあんたのことなんて好きでもなんでもないんだからね!」

「……ごめんなさい。気持ち悪いです」

「俺も自分で言ってて吐きそうになった」

 

 下手に悪ノリはするもんじゃないな……。

 

「時間も限られていますし、そろそろ始めましょうか」

「ああ」

 

 さて、今日も代表候補生さんから技術を吸収するとしますか。

 

 

 

 

 

 

「だんだんと動きが様になってきましたわね」

「そうか?」

「ええ。お世辞ではありません」

 

 アリーナの閉館時刻が近づいてきたところで訓練2日目は終了。地上に降りた俺は、オルコットからお褒めの言葉をいただいたことに少し満足を覚える。人間としては嫌っていても、実力のあるやつに認められるのは素直に喜ぶべきことだ。

 

「そういえば、織斑さんは篠ノ之さんとはどういったご関係で?」

 

 一呼吸入れたところで、オルコットが何気ない感じで俺に雑談を振ってくる。……ひょっとして、訓練終わりに少し話すというのは今後も通例になっていくのだろうか。

 

「幼馴染だ。会ったのは数年ぶりだけどな」

「幼馴染……ということは、あなたはあの篠ノ之束博士とも面識があったりするのでしょうか」

「まあ、可愛がってもらったのは覚えてるな」

 

 箒が篠ノ之束――ISを開発した世紀の科学者の妹であることは、すでに学園中の知るところとなっていた。箒自身は束さんの話をされるのを快く思っていないようだが、このIS学園に入った以上、あいつと姉を結びつけるような話題はそう簡単になくなったりしないだろう。

 

「不思議な巡り合わせですわね」

「巡り合わせ?」

「幼いころから篠ノ之博士と親交を持ち、あの織斑先生(ブリュンヒルデ)の弟であるあなたが、世界で初めてISを動かせる男性になったこと。偶然と呼ぶには少し出来過ぎなくらいです」

「誰かが意図的に仕組んだとでも?」

 

 オルコットの微笑の裏に存在する疑念を読み取った俺は、自分の身体を包む白式の装甲に目を向けながら言葉を返す。

 

「そこまでは言っていませんが……いえ、すべて根拠のない想像に過ぎませんわね。お気を悪くされたのなら謝ります」

「別に怒っちゃいない」

 

 俺がISを動かせた理由か……。

俺自身には、まったく心当たりはない。千冬姉や束さんがどう思ってるかは知らないけどな。

 

 

 

 

 

 

「ひとつ、お聞きしてもよろしい?」

 

 翌日も、訓練終了後に雑談が始まった。

 

「……お前、本当に俺のこと嫌いなのか?」

「ええ、嫌いです」

「だったらなんで毎日話のネタを提供してくる。嫌ってるなら必要以上に会話したくはないだろ」

「それは秘密ですわ」

「……ったく」

 

 話を聞かずに帰ってもいいのだが、なんとなくそういう気分にはなれなかった。

 

「織斑さんには、ISに賭ける思いのようなものはあるでしょうか」

「いきなり妙なこと聞くんだな」

「あら、そんなに変なことを尋ねたつもりはないのですけれど」

「俺以外の生徒に聞くんなら、別に普通のことだ。各々自分で進路を決めて、ISで何かを成し遂げようって気持ちでこの学園に籍を置いてるんだからな」

 

 だが俺は違う。たまたまISを起動させたのが原因で、本人の意志はまったく考慮されることなくここに放り込まれた。そんな人間が、入学間もないこの時期にISに賭ける思いなんて大層なものを持ってると考えるのはおかしい。

 

「ですけど、わたくしのお教えした動きを実践している織斑さんは一生懸命でした。何かしら目標がなければ、あそこまで頑張るのはなかなか困難かと」

「目標ならお前も知ってるだろう。模擬戦で勝って、その言葉遣いを修正させるっていうでかい目標がある」

「……そういえば、そうでしたわね」

 

 一瞬呆気にとられるオルコット。今の様子だと、本気で約束の内容が頭から抜け落ちていたらしい。

 

「ですが……本当にそれだけ?」

「それだけだ」

 

 オルコットの探るような瞳を正面から受け止め、俺は短くそう答えた。……なんでもかんでも、こいつに正直に話す必要はない。ほとんど勝てる見込みのない勝負の報酬に魅せられて馬鹿みたいに頑張ってる男、ということにしておけばいいだろう。

 

「そうですか。……一応言っておきますが、わたくしは手加減しませんわよ」

「むしろ必要以上に全力出してきそうだな」

「嫌い、ですから。容赦はしませんわ」

 

 笑顔なのに言葉は残酷。やっぱりおっかない女だ、こいつ。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 IS学園に新入生が加わってから、6日が経過した。

 今日は日曜日なので授業は休みだが、セシリアには午前10時から織斑一夏とともにISの自主訓練を行うという予定が入っていた。

 

「我ながら、なかなか……」

 

 見栄えのいいサンドイッチが出来上がったことに満足しながら、セシリアは壁にかかった時計に視線をやる。

 現在、午前9時20分。待ち合わせ場所の第3アリーナまではさほど距離がないので、ゆっくり準備していても十分間に合う計算だ。

 

「さて」

 

 これを見たら、彼はいったいどんな反応をするだろう――

 そこまで考えたところで、セシリアは自らの頬が少し緩んでいることに気づいた。

 

「………」

 

 織斑一夏。織斑千冬の弟にして、世界で唯一ISを動かせる男。

 お世辞にも言葉遣いは良いとはいえず、時々よくわからないギャグのようなことを口にする。

 しかし、おそらく頭の回転は速いと思われる。学習意欲も高く、読書が趣味というのはセシリアと共通していて印象深い。

 ……総合的に見て、決して悪い人間ではない。

 

 ――でも、嫌い。

 

 なぜ嫌いなのか。

 

 ――思い出すから。

 

 何を思い出すのか。

 

「……やっぱり、嫌い」

 

 思考を断ち切り、セシリアはサンドイッチをバスケットに詰める作業を再開する。……あまりぼーっとし過ぎていると、約束の時間に遅れてしまう。

 

 

 

 

 

 

「なかなかうまそうなサンドイッチだな」

「今日のはそこそこ自信がありますの。どうぞ召し上がってくださいな」

 

 模擬戦までいよいよ残り数日と迫ってきた日曜日。10時から訓練を始めて12時を少しまわったところで昼食をとろうということになり、いったんアリーナを出た俺とオルコットは近くにあったテラスにまで足を運んでいた。

 

「じゃあ早速、いただきます」

 

 オルコットが用意してきたというサンドイッチは、卵やレタス、トマトなど王道の食材が色鮮やかに挟まれていて、みてくれはかなりいい。それこそ食べるのがもったいなく感じるほどだ。

 だが食べ物とは読んで字のごとく食べるために存在する物なのである。というわけで、素直に一切れめを手に取り口に運んでいく。

 

 ……しかし、本当に食べるのがもったいない……というか、食べてはいけないような気が――

 

 ぱくり。

 

「………」

 

 おかしいな。卵サンドを食べているはずなのに、どうして最初に苦みを感じたのだろう。

 次に舌が焼き切れんばかりの辛みが襲ってきて、最後に吐きそうになるほどの甘みが押し寄せてきた。

 ……なるほど。食べちゃダメだと思ったのは見た目が綺麗だったからではなく、単純に体に毒だからやめておけと人間の生存本能が警告していたためらしい。

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

 期待と不安が入り混じった視線を向け、オルコットは上目遣いで俺の様子をうかがっている。くそ、こんな小動物みたいな目で見られたら正直にまずいなんて告白できない!

 

「とでも言うと思ったか」

 

 どんな顔されようとはっきり言ってやる。そもそもオルコット相手に遠慮する必要など最初からないのだから。

 

「まずい。超まずい。いったい何をどうやったらこんなものが作れるのかというレベルでまずい。もしお前が男だったらぶん殴ってるくらいだ」

「そ、そこまで、ですか……?」

 

 がーんとショックを受けた様子のオルコットは、がっくりと肩を落として残りのサンドイッチに目をやる。……というか、あんだけめちゃくちゃな味なのに外見だけは完璧って逆におかしくないだろうか。

 

「ごめんなさい……まさかそこまでおいしくないとは予想していなかったので」

 

 しゅん、とうなだれるオルコット。少し言い過ぎたか? いや、だがよく考えると……

 

「お前、これ味見してないよな。普通人に食べさせる前にちゃんと作れたかどうかくらいは確認するのが常識だが、なぜしなかった?」

「……今までの経験から、味見をするのが恐ろしくなってしまったので」

「半分故意犯じゃねえか!」

 

 つまり自分の料理がほぼ確実にまずいのがわかっていたうえで俺に毒見をさせたというわけだ。こんな非道な行いをするんだから、こいつが俺のことを嫌っているのは確かに間違いない。

 

「本当にすみません。……ですが、もしかしたらうまく作ることができたかもしれないとか、もしかしたら織斑さんの好みに合う味になっているかもしれないという淡い期待を捨てきれなくて……」

「………」

 

 どうやら、相当落ち込んでいるらしい。今まで見たことないほど弱々しい表情しているあたり、おそらくオルコットの最大のウィークポイントが料理なのではないだろうか。

 

「なんだかな……」

 

 いつも堂々としているやつにこんな顔されると、どうにも気持ち悪いと感じてしまう。

 なんとかしたいと、思ってしまう。

 

「そう気を落とすな。手伝ってやるから」

「……え?」

 

 一応こいつには、毎日稽古をつけてもらっているという恩がなくはない。向こうから頼んできたこととはいえ、今日の段階でISに対する理解が予想をはるかに超えて深まっているのは、紛れもなくオルコットのおかげなのだから。

 

「模擬戦が終わってからになるが、お前の料理を指導してやるよ。一応、俺は人並みにはうまくやれるしな」

「で、ですが……」

「遠慮してるのならその必要はないぞ。俺にも利益があっての提案だからな」

 

 困惑しながらも断ろうとするオルコットを押し切るために、俺はにやりと笑ってそれらしい言葉を並べたてる。

 

「ISに関しちゃお前の方が上だからな。そんなお前に料理を教えることで、俺はこの上ない優越感に浸ることができるというわけだ。わかったか?」

「………」

 

 しばらくぽかんと口を開けていたオルコットは、続いて俺の顔をまじまじと見つめ始めて。

 

「……ふふ、そうですか。それなら……ぜひ、お願いいたしますわ」

 

 最終的に、彼女の顔にはいつもの微笑が戻ってきていた。

 

「任せとけ」

 

 ――この時点で、俺はあることに対して見当がつき始めていた。

 なぜ、俺はセシリア・オルコットのしゃべり方に嫌悪感を抱いてしまうのか。その答えが、見えてきたような気がした。




この作品の一夏のギャグセンスは下手すると原作よりひどい気がします。

おそらく当初の予定通り次回で最終回になるはずです。

では、次回もよろしくお願いします。
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