シックスセンスな織斑君とオルコットお嬢様   作:キラ

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非常に投稿間隔が空いてしまったことを謝罪させていただきます。



予想外、ですわね

「おはようございます」

「あ、セシリアだ。おはよー」

 

 朝の教室では、いつものようにクラスメイト達がグループを作って談笑していた。

 その中のひとつ、入口付近の机に固まっていた生徒達が広げていた雑誌に、なんとなく目が留まる。

 

「セシリア、カモンカモン」

 

 雑誌を見ていた数人が私を見つけ、こっちに来いと手招きしてくる。何事だろうかと近づいていくうちに、私はその雑誌が見覚えのあるものだと気づいた。

 

「モデル本人のご登場ね」

「おはよう、セシリア」

「おはようございます。鈴さん、箒さん。……ああ、やっぱりこの雑誌でしたのね」

 

 集団の中にいた友人2名に挨拶しつつ、机の上を見る。そこにある雑誌には、いつも鏡で見慣れた自分の姿が映った写真が載せられていた。

 

「ねーねーセシリア、これっていつ撮ったの?」

「このドレスよく似合ってるよね」

「さすがプロが選んだだけある」

 

 ISの専用機持ちには、時々タレントのような仕事のオファーが入ってくる。大半は雑誌のモデルをやったりインタビューを受けたりといったあまり大きくないものだが、国によっては女優まがいのことまでする者もいるらしい。

 もちろん強制ではなく断ることもでき、実際そういった露出を嫌う人間もゼロではない。

 私個人としては、少しでもセシリア・オルコットという人間の知名度を上げることができるだろうという打算的な考えと、単純に女としておしゃれがしたいという純情が同時に叶えられるのでありだと思っている。

 特に今回は豪華なドレスを着たとあって、化粧の方もきらびやかなものになっていた。ドレス自体は富豪達の参加するパーティーで着る機会も多いけれど、コーディネートやメイクをする人が変われば印象も全然違うので新鮮だ。

 

「うーっす」

 

 そのままグループの中で話しているうちに、ダルそうな声とともに一夏が教室に入ってきた。

 昨日は途中でデュノアさんが来たので、結局彼に『男嫌いを克服したい』ことを相談するタイミングを逃してしまった。私自身の臆病な気持ちが大きくならないうちに、早めに行動に出た方がいいとは思っているのだけれど……

 

「おはよう一夏。風邪はもういいの?」

「おう。って鈴、お前なんで1組にいるんだ」

「別にいいでしょ。ところで噂の転校生は一緒じゃないの?」

「来る途中にあいつが女子に囲まれて身動き取れなくなったから置いてきた」

「ふーん」

 

 鈴さんに声をかけられた一夏は、会話を交わしながら私達の方へ歩いてくる。顔色もいいし、風邪はきちんと治ったようだけれど。

 

「……ふわぁ」

 

 眠いのだろうか、大きな欠伸をしていた。

 

「寝不足ですの?」

「ん? ああ……まあな」

 

 夜更かしして本でも読んでいたのかしら、などと考えていると、例の雑誌の持ち主である谷本さんが一夏に私の写真を見せていた。

 

「織斑くん、これどう思う? セシリアの晴れ姿」

「男子として感想を聞かせてほしいな」

 

 ぐいっと眼前に雑誌を突き出された一夏は、写真の内容を確認すると私の方を向いた。

 

「代表候補生ってこんなこともするのか」

「ええ、まあ」

 

 ふうんとつぶやきながら、彼は再び雑誌へ視線を戻す。

 

「で、どうなの織斑くん?」

「セシリア的には会心の1枚らしいけど?」

「わたくしそんなことは言ってませんわ」

 

 勝手に発言を捏造されたので、きちんと訂正しておく。

 一応、この青のドレスは自分に良く似合ってると評価しているけれども。

 

「………」

 

 しばらくじーっと写真を眺めていた一夏は、ふっと目を逸らして、

 

「まあまあなんじゃないか」

 

 それだけ言って、自分の席へと向かっていった。

 

「おう、意外に辛口」

「織斑くんって実は目が肥えてる?」

 

 谷本さん達には一夏の反応が意外だったらしく、驚いたといった感じで言葉を交わしている。

 私自身はどうかと言うと、自分の容姿を過大評価しているつもりはないので、彼の反応は予想の範囲内だった。確かに外見が優れているという自覚はあるし、このドレスはお気に入りのものだけれど、だからといって無条件で誰からも褒められるレベルなわけもないのである。

 ……でも、『似合ってる』くらいは言ってくれてもいいんじゃないかしら。

 

「違うわね」

 

 とそこで、成り行きを見守っていた鈴さんが口を挟んできた。

 

「凰さん、違うってどういうこと?」

「さっきの一夏、鼻が微妙にひくついてたでしょう。あれは何かいやらしいこと考えてる証拠だから。セシリアのドレス姿に興奮してたのよ」

「え、そうなの?」

 

 え、そうなの?

 

「そうよ。幼馴染のあたしが言うんだから間違いなし」

「本当なの篠ノ之さん」

 

 もうひとりの幼馴染に尋ねたのは、彼女の隣にいた鏡さん。

 

「む……そんな癖あっただろうか」

「箒が知らないのも無理ないわ。あいつのアレが出てきたのって小6の時からだし。思春期をともに過ごした人間だけが知ってることなのよ」

 

 そう補足する鈴さんは、なぜか誇らしげな表情を浮かべている。まるで『自分の方が一夏を知っている』とでも言いたげな様子。

 箒さんも言外の意味に気づいたのか、眉をしかめて反論する。

 

「代わりに私は小さいころの一夏を知っている。お前の知らない一夏をな」

「おおう、これは……」

「ザ・修羅場!」

 

 バチバチと火花を散らす両幼馴染。盛り上がるギャラリー数名。私は面白い話が聞けるかもしれないので静観。

 

「私は一夏と一緒にお風呂に入ったことがある。だからあいつの……その、お尻に大きなほくろがあるのも知っているぞ」

「な、なんですって……!」

「さらに! 私は一夏が小学3年生の時までおねしょをしていたのも知っている!」

「なっ……!? あ、あたしだって、一夏が中学の頃部屋にこっそり隠してたエッチな本の中身とか知ってるんだから!」

「なんだと! 一夏のやつ、破廉恥な……ちなみに、どんな女が載っていたのだ」

「えっと……ツインテールの巨乳とか。あとメイドも」

「め、めいど……」

「織斑くん、そういうのが好みなんだ……」

 

 ……これ、一夏の恥ずかしい話の暴露大会になってないかしら。

 

「あ、あと教育実習の先生が金髪のハーフで、やたらデレデレしてたことも」

「何、それは本当か! 詳しく聞かせ――」

「お前ら人の過去を容赦なくほじくり返してんじゃねえ!」

 

 ヒートアップしていた2人の会話は、離れた席の一夏にもばっちり聞こえていたらしい。顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。

 彼があそこまで恥ずかしがってる姿、初めて見たかもしれない。

 まあ、それはひとまず置いておいて。

 

「興奮……」

 

 それって、この前メイド服を着た時みたいに、一夏が私の姿に満足してくれたってことよね。

 メイド服は彼の性癖上補正がかかっていたに違いないが、今回はそういった事情はないはず。純粋に、似合っていると思ってくれたのだろう。

 

「……ふふっ」

 

 なんとなく。なんとなくだけど、うれしかった。思わずにやけそうになってしまうところを、なんとか引き締める。

 

 その時だった。教室の戸が勢いよく開けられ、同時に入って来たのは……ふたりの転校生のうちのひとり、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。

 大きな音に反応して、生徒達の視線が彼女に集中する。

 

「………」

 

 一目見ただけでわかるほどの不機嫌オーラ。それを隠そうともせず、彼女は一直線に教室の前の方へ向かっていく。視線の先には、一夏がいた。

 昨日のふたりのやり取りを思い出す。ボーデヴィッヒさんは、初対面で一夏のことを認めないと言い放ったのだ。どう考えても良い感情を持っているとは思えない。

 どんどん近づいていく距離。果たして何が起きるのか――

 

「おい一夏! 私を置き去りをするとは何事だ!」

 

 ……ん? 『一夏』?

 

「私が追加のおかずを選んでいる間に逃げ出したのはなぜだ」

「いや、だって朝からギャーギャーうるさかったし」

「お前がだらしないのが悪いのだろう。何もなければ私も静かにしている」

「誰も頼んでないっての。ところで、シャルルはどうした」

「女どもに囲まれていたから置いてきた」

「お前も俺と同じことやってるじゃないか」

 

 顔を突き合わせて口げんかを始める一夏とボーデヴィッヒさん。

 確かに仲良くはしていない。けれど、昨日の様子から判断すると違和感しかない。

 

「なんか、えらく打ち解けてるわね」

 

 鈴さんの言う通りだ。私が一夏の部屋に案内した時に感じた、ボーデヴィッヒさんの刺々しさ、冷たさ。それらがなくなっている気がする。

 私の知らない間に何かあったのだろうか。それを確かめるため、彼らのもとへ向かおうとしたのだが。

 

「全員席に着け。ホームルームの時間だ」

 

 タイミング悪くチャイムが鳴ったので、諦めて自分の席に戻る。まあ、次の休み時間に聞けばいいわよね。

 

「ハァ、ハァ……遅れてすみません!」

 

 ちなみに、女子に囲まれていたらしいデュノアさんは30秒遅れで教室に飛び込んできた。

 

「ひどいよ、一夏もボーデヴィッヒさんも……」

 

 恨み言がぽつりと聞こえてきた。どうやら一夏は彼とも打ち解けられたようだ。

 

 

 

 

 

 

「この男を徹底的に鍛えることにした」

「断ったけど粘着してきた」

 

 1時限目の休み時間。一夏とボーデヴィッヒさんに事情を尋ねたところ、こんな返事がかえってきた。

 

「鍛える、というのは」

「そのままの意味だ。教官の弟として恥ずかしくないような男にする。さしあたってはISの技量と、普段の生活習慣だな」

「教官?」

「こいつ、ドイツにいた時千冬姉にしごかれたんだとよ」

 

 ボーデヴィッヒさんをじとーっと睨みながら、一夏が私に説明する。彼女はドイツ軍に所属していて、以前に織斑先生にISの指導を受けたらしい。その時の癖で、先生を教官と呼んでいるとのこと。

 

「私はあの方を尊敬しているのだ。その弟があまりだらしがないようでは困る」

「だらしがないだらしがないって、会って1日で何がわかるんだよ」

 

 確かにそれはそうだ。1日どころか、正確に言えば一夏と彼女が出会ってから半日ほどしか経っていない。その短時間でひとりの人間の性質を判断するのは難しい。

 

「自分で言うのもなんだが、俺は校内でも聖人君子の織斑くんとして有名だぞ」

「それはないですわね。2ヶ月見てきたわたくしが保証いたします」

「お前も俺の敵か」

「すぐばれるような嘘をついても仕方ないでしょう」

 

 ボケているのか真面目に言っているのかわからないけれど、今日も一夏は平常運転ね。

 私たちのやり取りを聞いていたボーデヴィッヒさんは、呆れた様子で口を開く。

 

「昨日お前の部屋に行った時、ほこりが溜まっていた」

「ほこり? そんなわけないだろ、つい一昨日掃除したところだ」

「寮に戻ったら部屋の四隅と奥の棚の上を見てみろ。自分の掃除がいかに雑だったのかがわかるはずだ」

 

 かなり具体的な指摘に、文句を言おうとしていた一夏の動きが止まる。

 

「お前、俺の部屋に来たの、1回だけだよな」

「そうだが?」

「俺を罵倒するだけ罵倒して帰っただけだよな。なんでそんなとこまで見えてるんだ」

「視力はいいからな」

「そういう問題ではないと思いますけれど」

 

 まあ、驚いた。つまりボーデヴィッヒさんは、あの短い間に部屋の汚れ具合をばっちりチェックしていたということだ。そんな素振りを見せていたかしらと、記憶を掘り起こしてみる。

 

「……ああ、そういえば」

 

 一夏の部屋のほこりとは関係ないけれど、ひとつ気になることがあったのだった。

 

「ボーデヴィッヒさん、昨日と比べて随分雰囲気が柔らかくなっていますわね」

 

 端的に言うと、転校初日に感じられた『近づくなオーラ』が消えている。おそらく今なら、クラスメイトたちに話しかけられても普通に答えるのではないだろうか。

 

「ああ、そのことか。昨日はイライラしていて、ついあんな態度をとってしまった。すまない」

「いえ、わたくしは別にかまわないのですが……イライラというのは、何かあったのですか?」

 

 そう尋ねると、ボーデヴィッヒさんは少し困ったように苦笑いを浮かべる。初めて見る表情だ。

 

「恥ずかしい話だが、私は月の物が重くてな。昨日は特にひどかったから、ストレスで不機嫌になってしまっていたのだ」

「……なるほど。そういうことでしたのね」

 

 思ったよりも単純な理由だった。

 昨日の段階ではどうなることかと心配していたのだけれど、いろいろと杞憂に終わってくれそうで少し安心、というところかしら。

 

 

 

 

 

 

 授業が終わり、放課後。

 資料室で少し調べものをしてから、私は一夏の部屋に向かった。

 用件は、昨日話せなかったデュノアさんとのことについて。放課後まで待ったのは、ある程度まとまった時間をとりたかったからだ。

 

「で、どうして自分の部屋の前で棒立ちしていますの」

「銀色の小鬼に追い出された」

「あはは」

 

 ため息をつく一夏と、その隣で困ったように笑うデュノアさん。

 

「はじめまして。わたくし、セシリア・オルコットと申します」

「シャルル・デュノアです。よろしくね」

 

 彼と話すのは初めてなので、互いに軽く挨拶を行う。こうして浅いコミュニケーションをとるだけなら、今までも経験してきたので緊張することはない。

 

「銀色の小鬼というのは、ボーデヴィッヒさんのことですわよね」

「ああ。今から掃除するから出ていけと言われた」

「僕たちがいると邪魔だったみたいだね」

「部屋がきれいになるのはいいことかもしれんが、頼んでもないのに外に放り出されるのは納得いかん」

 

 確か彼女は、一夏の生活習慣を改めると言っていた。でも、そのためにわざわざ彼らの部屋を掃除するとまでは少し予想していなかった。思った以上にぐいぐい来ているらしい。

 

「掃除はどれくらいかかるのでしょうか」

「さあな。本格的にやるとは言っていたが」

「終わったら一夏の携帯にメールするって言ってたよね」

 

 もうメールアドレスの交換も済んでいるようだ。私なんて1ヶ月くらいかかったというのに。

 

「行くところがないのなら、わたくしの部屋にいらっしゃいますか?」

「そうだな。このまま廊下に突っ立ってても疲れるだけだし。シャルルも来るか?」

「僕もいいの? ルームメイトの人とか困らないかな」

「おそらく大丈夫だと思いますわ」

 

 昨晩、早くデュノアさんと仲良くなりたいなーと語っていたので、むしろ歓迎してくれるだろう。

 ただ、彼がいる手前で、一夏に彼についての話をするのは難しい。私の相談事はまた後回しになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

1時間後。ボーデヴィッヒさんから一夏へメールが送られてきたので、私たち3人は再び一夏とデュノアさんの部屋へ戻ってきた。

 

「なんでセシリアまでついて来てるんだ?」

「どれほど部屋がきれいになっているか、興味が湧きましたので」

 

 というわけで、ボーデヴィッヒさんが中にいるであろう部屋に足を踏み入れる。

 

「………」

 

 私も一夏もデュノアさんも、すぐには言葉が出てこなかった。

 

「む? オルコットも来たのか。そんなところで固まっていないで、さっさと中に入れ」

 

 きれいだ。

 もともと、一夏の部屋は決して汚くなかった。何度もお邪魔したことのある私はそれを知っている。

 けれど、今のこの部屋の状態と比べれば天と地ほどの差がある。塵ひとつ見当たらないし、圧倒的な清潔感が漂っている。まるで部屋全体がピカピカと輝いているかのよう。

 

「すごいですわね……」

「うん。いいのかな、こんなきれいな部屋使わせてもらっちゃって」

「………」

 

 感嘆の声を漏らす私とデュノアさんの横で、いまだに一夏だけは物言わぬまま。

 

「あの、ラウラさん?」

「どうした一夏」

「そこの机にある雑誌の山は、いったい」

 

 ロボットみたいな動きで一夏が指さす先には、丁寧に積み重ねられた雑誌が10冊ほど置かれていた。

 

「ああ、これか」

 

 ボーデヴィッヒさんの頬がほんのり朱に染まる。

 よく見てみると、一番上の雑誌の表紙には女性の裸体が映っていた。

 

「掃除していたらあちこちから出てきたから、とりあえずまとめておいた。あんな場所に隠しているとほこってしまうぞ」

「お前は俺のオカンか!?」

 

 叫びながら成年向け雑誌を机の中にしまう一夏。昨日に引き続き、珍しく彼が取り乱す姿を見ることができた。

 

「引き締まった生活は清潔な部屋から始まる。最初の舞台は私が整えたのだから、今後はしっかりするように」

「だから誰も頼んでないって言ってるだろ。そりゃ、部屋を掃除してくれたことには礼を言うけどな……というか、本当にきれいだな。どうやったんだ」

「気になるか? いいだろう、きちんと掃除をするポイントはだな」

 

 いつの間にか一夏の抗議の声は止められて、ボーデヴィッヒさんによるお掃除講座が始まっていた。デュノアさんまで聞き入っている。

 

「これはまた、すごいですわね」

 

 あの口が立つ一夏を相手に、完全に自分のペースで会話を運ぶことができている。素直に感心してしまうほどだ。

 でも……

 

「……なんなんでしょうか」

 

 彼女は、一夏との距離を一気に詰めてきた。

 そう認識した途端、なんだか胸が変にざわついた。

 原因は、よくわからない。

 




いろいろ考えた結果、なぜかラウラがオカンみたいな世話焼きキャラになっていました。まあ毎度毎度一夏と対立させるのもあれなので……

第2部はずっとセシリア視点でいきます。1部と逆です。
では、次回もよろしくお願いします。目標は来週中です。
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