改稿しました。
プロローグ
「なにそれ?」
俺の幼馴染が渡してきたのは、一つのゲームCDROMだった。
「だから、東方だよ。と・う・ほ・う」
「東方? 東宝シネマじゃないのか? そのDVDは東宝シネマ系列の映画なんじゃないのか?」
俺がそう言うと、彼はハアとため息をついた。
「映画じゃないんだよ。まあ聞くよりやってみたほうが早いかな。今日お前の家行くわ。大丈夫だよな」
「もちろんいいけど……」
なぜか、訳がわからないまま彼は俺の家に来るそうだ。
「それと、一応自分でも調べておけよ」
「わかった」
俺は、学校の昼休み、授業の終わりと始まりの間の時間、ずっと東方について調べていた。
「へえ、シューティングゲームか。おもしろそう」
いろいろ調べた結果、東方というのは弾幕シューティングゲームということがわかり、女の子のキャラクターを捜査してボスを倒すというものだった。
そして、放課後になると俺は幼馴染の黒土を連れて家に帰った。
「ただいまあ」
鍵が開いていたので、妹が帰ってきているのだろうと思い、俺はそのまま自室へと足を運んだ。
「あ、兄さんおかえり」
なんだろう。なぜ俺の妹である鈴奈が自分の部屋でなく、俺の部屋にいるのだろう。
「久しぶり、鈴奈ちゃん」
「あ、黒土さんお久しぶりです。それで、お兄ちゃんまた彼氏連れて来たの?」
「彼氏じゃねえし。そもそも俺は男だ!」
「冗談? 兄さん」
コロコロと笑う鈴奈を、今ものすごく殴りたい衝動を抑え、俺は黒土に例の事を話す。
「それで、その東方とやらを早くやりたいのだが……」
「お! やる気になったのか。いいことだ」
「東方!? 黒土さん! 私も、ものすごくやってみたかったんです! 音楽がとてもよくていつも動画で聞いているだけだったの」
「おお! そうか。なら今すぐにでも貸してやろう! なにどうせ霊にもやらせる予定だったんだ」
二人してキャッキャとはしゃぐ。その東方というものを鈴奈は知っているようだった。そういえば、何度か俺の部屋に来ては「この曲いいから聞いてみてよ」とか言っていた気がする。
しかし、俺はそういった類のものは一切聞かなかったのであるが、今思うと聞いてやればよかったかなとも思っている。
「んじゃ、もうPCにインストールしたから、あとは自分でやれよな。操作方法とかならファイルに入っているから、じゃあ俺はこれで」
黒土は鞄を持って部屋を出て行った。
「あ、おい…ってもういないし」
ハアとまたため息をつきながら椅子に座る。鈴奈はもう自室へ戻っており、隣の部屋から何をしているのか騒いでいる。たぶんさっき黒土に借りた東方を早速やっているのだろう。
俺は、PCに目をやった。この東方というゲームは本当に面白いのだろうか? そういった疑問を持ちながらも、黒土の手によってインストールされた『東方紅魔郷』というファイルを開いた。
シャラララーン♪
「うお!」
軽快な音楽がスピーカーから大音量で流れ出した。近所迷惑で鈴奈にも聞かれるのも嫌なので、すぐに音量を落とした。
「えっとこれはどうやったらいいんだ?」
まったく操作方法がわからなかった。そういえばファイルに説明書みたいなのが入っていると黒土が言っていた気がする。
ゲームを一旦終了させ、ファイルの中にある説明書を見つつ、ゲームの操作を自分のやりやすいように変更していった。
それをしている間に、時計の時報が鳴った。振り返って時計を見てみると短針が六を指していた。つまり今は十八時な訳である。
「やべ、飯作らねえと。鈴奈はどうせゲームに夢中になっているし」
自分も夢中で説明書を読んでいたのだが、今日の料理当番は鈴奈だったことを思い出した。
しかし、鈴奈は現在ゲーム中。どんな状況でもやっているかもしれない。というよりも、時間なんて忘れているのだろう。つまり消去法で俺が夕飯を作る羽目になる。
「ハア……」
本日何度目かのため息をし、キッチンへと向かった。
結局、鈴奈は俺が料理している間、一度たりとも一階に降りてこなかった。
「ごめんなさい」
そして現在説教中である。もちろん鈴奈は床に正座している。俺はというと、飯を食いながら説教をしている。行儀が悪いかもしれないが、これは必然である。
「で、なんで俺に夕飯の支度をさせたんだ?」
「はい。えっと……私がゲームをやっていたからであります」
「他には?」
「ゲームに夢中になっていました」
「本音は?」
「どうせ兄さんが作ってくれるだろうと……ハッ!」
「はい、今日の夕飯は煮干しな」
「そんなあ! 酷いです! どうして私だけなんですか! 兄さんも忘れていたんじゃないんですか?」
「ゲホッ」
お茶が気管に流れこんで咽むせてしまった。
「図星ですね?」
ニタニタと不敵な笑みを浮かべる鈴奈だったが、俺はそんなことには動じない。
「まあ、俺も忘れてはいたが、今日が当番ということ忘れていて、尚且つ一回呼んでも返事はなし。さらに俺がもう飯を食い終わる直前で降りてきて、堂々と侘びもせずに座って当たり前のように夕飯を食べようとしたのはどこのどいつだっけ?」
「……反省しています」
俺は論破したので、鈴奈は星座から土下座をしていた。まあもう許してやろうかな。
「はあ、今日は許すけど、次はないぞ?」
「はい! お兄様!」
現金なやつである。許されたとわかったらこの笑顔で、しかも破壊力抜群である。この笑顔を見れたのなら罪悪感なんてないに等しいと思う。
「それじゃ、あとは片づけておいてくれよ」
食べ終わった食器類を流しに置き、俺は自室へと戻った。
そして先ほどまで、見ていた説明書を閉じゲームを起動する。今度はうまく操作ができたみたいである。
このゲームには難易度が設定されており、EasyからLunaticまであり、俺はNormalでやり始めた。基本はNormalではじめ、それでも足りなければハードをやる予定なのだ。そして一時間が経過した。
「意外と面白かったな。ストーリ性もあったし」
ゲームを終了し、PCの電源を落とした。そして俺はこう呟いた。
「『また、明日もやろう』」
『なら、こっちに来てみる?』
「誰だ!」
振り返ると誰もいなかった。しかし、よく考えると後ろではなく、頭の中に直接話しかけられる感じであった。
「気の……せいか」
そう思うことにした。
風呂から出て、ベッドに寝転がる。
俺は何を思ったのか、ジャージから私服に着替えスマホや財布といった必需品を私用のカバンに放り込み肩にかけた。
そしておもむろにPCの電源をつけ、『東方紅魔郷』のゲームを起動した。
『ようこそ、幻想郷へ。幻想郷はすべてを受け入れるわ』
今度ははっきりと聞こえた。画面にそういう文字は浮かんでおらず、ましてやPCのスピーカーから聞こえたわけでもない。頭の中に響いた。
バチン! とPCから音がなり、その直後浮遊感に襲われた。
「うわあああああ!」
「兄さん。いる?」
ドアをノックしても応答がない兄の部屋に入った。しかし、そこには、兄の姿はなく、ただ真っ暗な部屋につけっぱなしのPCが『東方紅魔郷』のタイトル画面だけが浮かび上がっていたのだった。
感想など受け付けています。また次回が早く読みたいという方は気長に待っていてください。