神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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リリィの顔に、腕に、腹に、脚に、蹴りが飛ぶ。拳が飛ぶ。
リリィは対し腕を振るうが、それは防御にも反撃にもならない。すでに明石とハンナ・ユキオはリリィから離れ、天谷1人がリリィをボロボロにしている。天谷だけでも、ボロボロにできてしまっている。

「そろそろか?」
ユキオが呟く。リリィの顔に生気が無くなっている。目が死んでいる。明石も、グローブの光を見て頷く。
「全部終わらせよう」

天谷は振るわれる腕が邪魔だと言わんばかりに、持っている木の剣でリリィの右掌を地面に縫い付ける!更に、リリィの後頭部の髪を掴み、寺の石道に顔面を叩きつけた!

「今だ!!」「ほい来た」
明石とユキオが同時に飛びかかる!ユキオの掌がリリィの背中のマーク、明石の光るグローブが地面に固定された右掌をそれぞれ狙いーー




第29話ーーー決着

「……ふぅ……はぁ……」

紫村は、東京フィールドに建っているビル群のうちの1つに入り込み、2階の個室に入ったところでやっと一息ついた。側ではファトマが床にあったパソコンのマウスを投げて遊んでいる。

「静かにするんだよ、ファトマ……「あい!」んが!?」

指を1本立てて口に押し当て『静かに』のポーズをすると、ファトマは真似して人差し指を立て……紫村の鼻に突っ込んだ。慌ててファトマを少し遠くに放し、紫村はマナ・フォンのレーダーを確認する。敵が付いて来ていないかを確かめる為だ。

(……!?月の国の反応!仲間が来る……援軍か?いやでも、月の国の格好したスパイの可能性も……とにかく、ファトマだけは守らなきゃ……)

 

胸の鼓動が早くなっていくのを自覚しながら、紫村は手を前に構え、ファトマと入口の間に立つ。

やがて、部屋のドアが開き……

 

「メルト!!」

 

そこにいたのは、紫村や明石の仲間、スナイパーのメルト。紫村はホッと胸を撫で下ろす。

「お兄!」

ファトマが叫ぶように言う。

「何言ってるの、ファトマ?『お兄』じゃなくて『メルト』だよ。『メ・ル・ト』!」と紫村が訂正していると、メルトが動いた。

スナイパーライフルの銃口を持ち上げる。

「え?メルト?」

 

 

パン!と乾いた音が響き、紫村は持っていたマナ・フォンも落として倒れ伏す。

「リリィを倒せるかどうかは五分五分だ。俺があの場にいたところでそれは変わらない……ならば俺が終わらせる」

メルトは紫村のライフジャケットの襟を猫を連れていく時の様に掴み、そのまま片手で放り投げる。紫村の身体は窓を貫通し、そのまま下へと落下していくがメルトはそれを見てもいない。

メルトは、ファトマと対峙する。

 

「最初から、こうしようと思ってたわけじゃない。でも、状況が俺をここへ向かわせる事を許した」

「お兄!」

 

メルト……メルト・カルカヴァンは、カルカヴァン家の『男』として産まれた。

カルカヴァン家は400年以上続く占術師の一族。だが、その一族にはある特徴があった。

 

そこで生まれた「カルカヴァンの『女』」は代々特殊な力を継承し、幸福の未来を呼ぶ『予知絵』を描く占術師となる、と。

だがしかし、10数年前、カルカヴァン家に『男』……メルトが産まれてしまう。男児が産まれる事は、カルカヴァンの歴史にこれまでなかった事だった。一族の重圧もあり、メルトの母は無理をして次の子を産み、そして身体を壊して死んだ。

 

その母が最後の力を振り絞って産んだのがファトマ・カルカヴァン。カルカヴァン家の跡を継ぐ、占術師の『女』だった。

 

そこからのメルトは、ファトマのお世話係だった。母親の無理が子供にも影響を与えたのか、ファトマは身体が成長しても、心が子供のままだった。ファトマはまともに会話や意思疎通ができず、他人との会話は全てメルトを通していた。いや、会話だけではない。食事もさせた。風呂にも入れた。夜になったら彼女を寝かしつけるのも、メルトの仕事だった。

更に、彼女の描く予知絵はカルカヴァンの中でも特別だったが、彼女の絵の意味をメルトだけがきちんと理解する事が出来た。彼は、ファトマの声であり、手であり、足であった。

 

しかし、彼はファトマの声で、手で、足でしかなかった。

 

周りの人間達はメルトを通してファトマの予知を聞き、そして彼女を崇め、讃えた。しかし、メルトには見向きもしなかった。メルトはいつまで経ってもファトマの付属品で、彼には自分というものがなかった。

 

「後ろを向くんだ、ファトマ」「あい」

ファトマはメルトの言う通りに後ろを向く。その背中のマークが、メルトに剥き出しで突き出されている。もう、彼女を守る者はいない。

 

彼は心に決めた。ここで付属品(オマケ)としての人生を終える、これからはメルトとして生きる、と。

 

その腕がファトマの背中にゆっくりと触れる……

 

 

その直前に、メルトは見た。

地面に描かれた絵を。それを見てニコニコと笑うファトマの顔を。

「でけた!見て見てお兄!!」

そこに描かれていたのは、抱き合っている1組の男女。

ファトマの独特な絵は、しかしある人の特徴をきちんと捉えていた。

 

「こっちがファトマでー、こっちがお兄ね。うまい?」

メルトの顔を見て笑うファトマに、彼の手が震える。

「お兄。おうち、帰ろ?」

メルトの手が止まった。彼はファトマの横に膝を落とすと、彼女の頭を優しく撫でた。

「うまいぞ、ファトマ。良く描けてる」

 

(わかってる……わかってるんだ、ファトマ……

 

お前は何も、悪くない)

 

「お兄!」

撫でられて嬉しくなったのか、ファトマが懐に飛び込んで来ようとする。メルトは慌ててそれを避けた。抱き合ってしまったら死の予知絵が完成し、どちらかが死んでしまう。

「今は、これで我慢してくれ」

メルトはファトマに手を差し出す。ファトマはそれを両手で包み込み、顔に持っていく。

「あったかーい」

 

その笑顔を見て、メルトはただ思う。

メルト・カルカヴァンはファトマ・カルカヴァンを殺せない、と。

(ファトマは、俺無しでは生きて行けない。でも、お前といると俺は、いつまで経ってもお前の影のままだ。

どうすればいい……?俺はファトマを……)

 

そこまで考えた時、爆音が彼の耳に響いた。

音の方角を振り向くメルト。と、そこで更にもう1度爆発が。

 

今度は、自分達の部屋の壁を破壊していった。

 

壁の破壊で起きた粉塵がゆっくりと晴れ、中から1人の男が現れる。

水色の髪にボロボロの服。血塗れの左腕には、鎌の刃の部位の様な形状をした巨大な1本の凶器が装備されていた。

 

 

その男の特徴は、目元に描かれた♂と♀のマーク。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

兵藤一誠は目を覚まし、自分の身体が縛られているのを確認する。周囲にいたのは知った顔。かつての、仲間達だった。

 

木場祐斗とゼノヴィアは、一誠と同じ目線になる様に腰を下ろす。木場は正座、ゼノヴィアはあぐらをかいて座り一誠と顔を合わせる。

「……やっぱお前らはスゴいよな。俺なんかが勝てる相手じゃなかったよ」

自虐的に言う一誠に、木場は首を振る。

「そんな事ないさ。僕もゼノヴィアさんも、君を騙してやっと五分だった。イッセー君が最後に動きを止めなかったら、多分僕達がやられてたよ」

「イッセーは私が攻撃を喰らったと思って動きを止めてくれたんだろう?さっきも言ったけど、やっぱりイッセーはイッセーだな。私は嬉しい」

そう言ってイッセーにハグするゼノヴィア。イッセーはそれを少し照れ臭そうに受けた後、真面目な顔になって言った。

「木場、ゼノヴィア。過程はどうあれ、ここでの勝負は俺の負けだ。お前達は強かった。スゲー強かった。

そんなお前達に、受け取ってほしい物があるんだ」

 

イッセーは左腕に籠手を出現させると、その中から1枚の写真を取り出した。

「これは……オカ研の集合写真?」

「そう。これを受け取ってほしいんだ」

木場はイッセーから、写真を受け取る。笑っているグレモリー眷属の皆が、その写真に写っていた。

「それを俺の形見だと思って、最後まで取っておいてほしいんだ……よし、これでもう悔いはない。転送してくれ」

イッセーはそう言うと、目を閉じ下を向いた。木場はその顔を撫で前を向かせ、言う。

 

「待とう。

 

恐らく次の処刑……あと1分で全てが終わる。僕達3人は別々のチームだから、少なくとも誰か1人は生き残る。だから、それを待とう。まだ、太陽も月も星も、全てが生きてるんだ」

 

そう言って木場は、聖魔剣を1つ造り出す。

「これは僕の形見だ。もし、明石君が負けて処刑されて、僕達が負けたら、君達にこれを僕だと思って生きてほしい」

それを聞いてゼノヴィアも、デュランダルを出現させ床に置く。

「じゃあ私はこれを遺そう。アスカロン使いのイッセーと聖魔剣使いの木場なら、このじゃじゃ馬も扱えるだろう。多分」

うんうん、と1人で頷くゼノヴィア。その適当さについ微笑んでしまう木場にゼノヴィアが口を尖らせる。それを見て、イッセーもふふっと軽く笑ったーー

 

 

 

 




ーー近づいてくる明石の顔をぼんやりと眺めて、目を閉じるリリィ。今の彼の心には、もう生きる気力が残っていなかった。

彼の瞼の裏に、これまでの出来事が走馬灯の様に描き出される。

初めて戦場に出た事。大火傷を負ったあの夜。みんなで戦勝記念に食べたパン。独立の日、自分達を裏切った司令官。


そして、笑顔。
戦場で散って行った仲間達と、司令部に殺された仲間達と、ダンデライオンと、プゥと、ミケと、C・Bと、オスメスと、皆で笑ったあの日の思い出。

それが浮かんだ時、リリィは思った。
俺は、あの笑顔を当たり前のものにする為に戦ってきたんだと。
そして、まだそれは終わっていない、と。

リリィは全力で右手に力を入れ……


……剣が刺さっている掌の部位を、根性で引きちぎる!!

「「「「な!?」」」」

その勢いで頭に乗る天谷に肘打ちを喰らわせ、天谷が吹っ飛んだのを見て左手と両足を使い、横に全力で飛ぶ!!

真田ユキオの掌は空を切り、ユキオに手がぶつかりそうになった明石は慌ててグローブの光を消したーー

〜〜〜〜〜〜〜

ーー突如現れたオスメスは、鬼の形相でファトマに襲いかかろうとする!
「!逃げろ!」
メルトはファトマを突き飛ばし、ファトマと入れ替わる。

その脇腹に、ずぶりと肉が切れる感触を感じる。メルトの口から、紅い液体がドロリと溢れる。
「お兄!!」
ファトマが尻餅をついた後、再びこちらに近づいてくる。彼女は、逃げない。彼女の目には、メルトしか写っていない。
「お兄!!!!!」
グラリと崩れ落ちるメルトをファトマが受け止めたが、受け止められずに一緒に床に崩れ落ちる。その格好は、まるで抱き合っている様だった。
その2人の腹をちょうど貫通させる様に、オスメスの2撃目が突き立てられる!

「……ご……め……」
メルトが最後に感じたのは、自分の身体が持ち上げられる感覚。
暗くなっていく視界の中で最後に見たのは、泣きながらこちらに腕を伸ばすファトマだったーー

〜〜〜〜〜〜〜

ーー「バイバイ、丑三」「……グッナイ(良い夢を)
ナツメグの目から涙が溢れる。それは丑三も同様だった。
それでもナツメグは最後に笑い、


その上から降ってくる天井に押し潰された。


〜〜〜〜〜〜〜

独離腐寺に、池袋に、管制塔に、東京フィールド全てに一斉にアナウンスが響き渡る。

『星のキング・ファトマ、処刑完了。
星の国、敗北』
それを聞いて、真田ユキオは冷静に言う。
「マジかよ。俺ら死んだ」
それを聞いて、ゼノヴィアは少し残念そうに言う。
「そうか」

そして、彼らの身体が一瞬歪んだかと思うと、内側から爆発する様に弾けた。






『三国ドロケイ』、選別終了。
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