神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
--「ふんふんふーん♪」
巨大なキャンパスの前で、1人の女の子が筆をサラサラと動かす。持っている筆から滲む肌色が薄くなってくると、彼女は筆を放り出し、数瞬で眠りについた。
残されたのは、幼稚園児が描いたような稚拙な絵。しかしその絵を、十数人の大人が食い入るように見つめている。
「こ、この絵の意味は……?」
大人は一斉に、女の子に毛布をかける男を向き直す。男は絵を一瞥し、大人に向き直るとこう言った。
「次の快晴の日、海に出る。その海の中から何かが見つかる……ただし、船は一艘のみ。船員は6人。男4人に女2人……ですね」
大人達はその言葉をメモすると、眠っている少女に何度も頭を下げながら、絵の具の香りが充満した部屋から出て行った。残ったのは、男と少女のみ。
「おい、ファトマ。こんなとこで寝たら寒いだろ」
男はファトマと呼ばれた少女の身体の下に手をやると、毛布ごと彼女を持ち上げる。そして彼女を背中にやると、部屋に向かって歩き出した。
「おにぃ……」「ん?起きたのかファトマ?」
ファトマが片手で目をこすりながら、もう片方の手で空を探る。筆を探しているようだ。男はそれに気づくと、背中からファトマを降ろし、絵筆と黒インクをポケットから出す。
ファトマはそれを受け取ると、筆にインクをたっぷりと付け、ベチャベチャと言わせながら壁に絵を描き始める。男は反対の壁に寄りかかると、絵の完成を待つ。
その絵は2分ほどで書き上げられた。男にとってはいつものように見ている絵だ。
「おにぃ……」
「はいはい、これが幸せを呼ぶんだろ?」
男は手を大きく広げる。するとその胸に、ファトマが飛び込んできた。
男は黙って、ファトマを抱きしめる。気持ち良さそうな顔をしながら、ファトマは男に聞いた。
「おにぃ、幸せ?」
「……あぁ」
男はそれだけ言うと、ファトマの髪をすいた--
〜〜〜〜〜〜〜
リキイシ地区独立の日、終戦記念日とも建国記念日とも言えるであろうこの日、少年兵達のキャンプにはリキイシ地区の軍司令官が顔を出していた。つるっぱげにヒゲという典型的な上司は、ニコニコとこれまで1度も見たことのなかった笑顔で少年兵達に笑いかける。
「諸君!本当にご苦労だった!君達、若い力のおかげで我がリキイシ地区は独立を果たしたぞ!!」
そして大きく息を吸い……
「この勝利を祝して!!
構えぇ……な!?」
上官は目を見開いた。『構え』と言ったその時、少年兵達が軍部に襲いかかってきたのだ!
「貴様ら、血迷ったか!?ここまで育て、生かしてやったのは誰だと思っている!!」
言いながら上官は、少年兵の周りを囲ませていた部下達に、手で射撃命令を出す。部下達は当初の手筈通り、ライフルを構える!
しかし、玉は出ない!
そしてその隙に、1人また1人と少年兵に殺されていく!
「僕達はあなた方にさらわれてここまで来た。本来なら、裕福な家庭で幸せに暮らす未来もあったかもしれないのに」
「何度も死にかけた。俺なんかは腕も足も奪われた。それでも戦わなければならなかった」
「解放を求めて戦った同志が何人も死んだ。それでも私達は振り返る事は許されなかった」
「もー戦いは終わったって聞いたけど、そーなったら俺達は厄介払いとか、ふざけた事考えてるしー」
「上官。お前達が裏切らなければ、俺達もあんたらを裏切るような真似はしなかった。だが、結果はこのザマだ……オスメス」
皆の視線が上官を……いや、上官の少し上を向く。そこには、1人の男が立っている。水色髪の高身長。目の周りの♂♀マークが特徴のその男は、冷めた目でこちらを見下ろしていた。
「ねぇリリィ。皆さん。私の言った通りだったでしょう……?私としては、決して当たって欲しくはなかったですが……」
上官の首筋に、太い刃が添えられる。それを横目で見て、上官の全身から冷たい汗が流れた。
「ま、待て!?この場は祝勝記念のパーティーだったはずだ!それを何を唆されたか知らんが、軍に……国に反逆するとは何事だ!?今ならまだ許されるかもしれん!私を離せ!!」
オスメスはその言葉に黙る。上官の首筋に浮かんだ汗を一露拭い、上官の耳元で囁く。
「忘れましたか……?私が最も得意とするのは……
「……っひ!?嫌だ!嫌だ嫌だいやだイヤダイヤダっ--
液体が飛び散る音がし、首がコロンと転がる。血まみれになったパーティーの会場で、少年兵達は呆然と立ち尽くした。
誰かが、ポツリと言う。
「俺達の戦いは……終わったのか?」
その言葉に、背中に巨大な火傷跡のある男が噛み締めるように宣言する。
「そうだ……俺達の戦いは、終わった……」
仲間達の瞳から、ポロポロと涙が溢れる。それはだんだんと増えていき、最後は皆が泣き崩れた。
生きていることが、こんなに素晴らしいと思った事はなかった。彼らは生命の価値を理解し、ただ泣いた。
--数分後。
「いつまでも泣いては入られませんよ。リリィ」
その言葉にリリィもハッと我に帰る。ここからは現実と向き合う時間だ。
「皆、荷物は纏めているな……では元の計画通り、上官が乗っていた車に乗って軍本部を出る。元々少年兵者は本部と離れているから容易だ。
そして、あらかじめ軍に許可を得て止めておいた船に乗り込み、リキイシ地区から亡命する!!少年兵の存在を公にできない政府は、海外まで追ってくる事はない!」
皆が力強く頷く。戦いは終わった。今からは、希望とともに生きていける!
「目指すは戦争の無い国、日本!さぁ、行くぞ!」
『おう!!』
そして少年兵達は、未来への一歩を踏み出した--