神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
「……!?」(また、悪夢…!?)
明石は目を覚ます。その直後、彼は激しい頭痛に襲われた。
「うっ……痛い……」
隣ではミツバも苦しんでいる。彼女は服を着ているようだ。今回は服は転送されなかったらしい。どうやらここは校舎内だがさっきとは別の場所のようだ、と明石は判断する。
「な……何、今の夢は……」
俺の痛みが治ると同じくらいにミツバも頭痛が治まったようで、彼女はこちらを睨みつけてきた。
「さっきの怪物は……私達が選んだ不思議『
「は?」
「あんたがエンジェルを信じないから私は変な夢を見たのよ!」
「なっ……」
明石は、(宗教って怖ぇ〜)とその身に感じた。もはや催眠級だ。明石は、ミツバの追求から逃げる場所を探す。すると、窓の外、斜め下の方に、見覚えのある物が見えた。
(あ、あれは……俺の服……!!)
明石はミツバから逃げる為、そして服を取りに行く為、2階の窓から裸で外に飛び出した!
彼は服を着、イッセーと涙ちゃんの服、そして彼らが持っていた道具を手に取ると、彼らを探しに向かう。
一方その頃、イッセー君は……
「イッセー、私の服を貸してやろう。暖かいぞ」
「じゃあ、私はダーリンを抱きしめて暖めてあげる!」
「なっ、ズルいぞイリナ!」
「ちょっと待って!俺今裸だから!」
イリナとゼノヴィアの双丘が腕を刺激する。くぅ〜、良い仕事してくれる……じゃない!
俺がとりあえず服を探そうと思って廊下を歩いていると、前から変な妖怪が現れた。外見は全然違うが、どこか艮と似ているように思えた。左腕が無くなっており、そこから血が出ている。襲ってきたのか!?とも思ったが、奴はこちらを見向きもせず、俺の上を通って行ってしまった。すると、それに続くようにオートクレールとデュランダルを持って走るイリナとゼノヴィアが現れ、今の状況である。
俺は、煩悩と共に彼女らを振り払うと、自分の身に『赤龍帝の鎧』を纏う。
俺は自分の仲間達を探さなければいけない、と彼女らに伝えて、別れようとしたが、イリナとゼノヴィアも付いてきた。2人もさっきすれ違った奴に転送された仲間を、あいつを倒すのと並行して探していたらしい。
こうして俺達3人は、仲間を探しに行く。まずはてんてんと落ちているさっきすれ違った妖怪、『坤』の血の跡を辿っていく。そして、仲間達を見つけた!
……艮と坤に挟まれ、身動きが取れなくなっている仲間達を!
俺は即座に拳を構えて、彼らの方に跳ぶ。それと同時、いや、少し早く、艮が仲間達に攻撃を開始する。
「眼を開けて、明石君……!!」
涙ちゃんの声が廊下に響く。すると次の瞬間には、明石と涙ちゃんが転移する……その僅かコンマ数秒の間に、艮の爪が涙ちゃんの背中に届いた--
--明石は再び夢を見る。
舞台は学校ではなく、街……都会のどこか。その中に1人の少年が立っている。
『え……俺? 瞬……
「……う……」
明石は目を覚ます。周りには跳び箱や平均台などの運動器具が揃っている。どうやらここは体育倉庫のようだ。
隣を確認する。今度は、涙はそこに横たわっていた。目を覚ました涙ちゃんは、頭痛に声を上げた後、息を荒げながらも告げる。
「……時間が……無いから……聞いて……」
涙ちゃんは明石に細々とした声で告げる。
「いつからかわからないの。すなとりのときかもしれないし……まめまきのときかもしれない……もしかしたら、出会ったときからだったかも……いつからこんな想いができたかわからないけれど、やっと自覚することができたの」
涙の手が明石の手を優しく握る。
「明石君の事、大好きだよ」
明石の張り詰めていた力が、一気に抜けた気がした。それでも力を振り絞って上半身を持ち上げると、涙の顔に自分の顔を近づける。
2人の唇が重なった。
一瞬にも数時間にも思えたキスは、明石が離れることで終わりを告げた。どこか名残惜しそうに、そして少し照れたように涙ちゃんは言う。
「やっと言えた……良かったぁ……私いま……すごく幸せかも……」
「お……俺もだよ!俺も幸せだから……!なんつーかその……すごい嬉しかった!あーもー、こういう時に上手いこと言えないけど!とにかく好きだ!大好きだ!」
涙は目を細め、優しく……弱々しく笑う。明石は、その目から光が薄れていることに、気づいた。
繋いでいる手が、だんだんと冷たくなっているのに、気づいた。
「明石君は皆の司令塔なんだから……もっとしっかりしなきゃダメだよ……?」
「へ……?あ……うん……もちろん……てか、なんで今そんな事……?」
明石は、涙の背中に手を回す。背中を触れられると、涙は顔を顰めた。赤い、紅い液体にが明石の手にべったりと付く。
「何……コレ?」
慌てて明石は涙を抱き抱える。胸の下を腕で抱いて、背中を確認した。そこにあったのは……引き裂かれた制服。そして、生々しくえぐり取られた、3本の爪痕だった。
「涙……ちゃん?」
涙ちゃんは咳とともに、口から血を吐き出した。慌てて明石は涙ちゃんを寝かせる。
「こんなケガ……いつ!?」
そう言ったと同時に、明石は思い出す。艮の攻撃から逃げる為に眼を開く前、涙ちゃんに横に押された事を。
(まさか……あの時……!?俺を助ける為に!?)
涙ちゃんの声はだんだんと掠れてきた。それでも涙ちゃんは喋り続ける。涙がポロポロと下に流れていく。
「バカだね私……明石君に『好き』って……もっと……早く言っておけばよかった……」
「ダメだよ涙ちゃん!しっかり……!!今から死ぬ人みたいな事言うなよ!?バカじゃないの!?」
明石の声は虚しく体育倉庫に響くだけだ。
涙ちゃんの冷たい手が、明石の頬に伸びる。
「大丈夫……泣かないで……」
涙ちゃんは閉じそうな眼を必死に開き、明石を見る。
「あなたに会えて……私は幸せでした……」
「あっ……」
明石はこの光景に既視感を覚える。
(これは……『坤』に転送された時に見た……あの光景と同じ……!?)
「生きて明石君……生きて」
「嫌だよ……ダメだよそんなの……一緒に生きて帰るって約束したじゃん……」
「ゴメンね……もっと一緒に……いたかった……」
「だったら帰ろう……!BOXで皆待ってるから……!!すぐ手当てすれば助かるよ、きっと……っ!!」
手の力が、抜けていた。
それでも明石は縋るように手首を触る。脈は、動いていなかった--
ーーいた!明石だ。やっと見つけた。
俺は2人が飛ばされた後、艮と坤と対峙した。坤と艮は何かを話す(あいつら話せたのか!?)と、2体揃って超スピードでミツバを置いて行ってしまった。
怖かったとイリナに泣きつくミツバを置いて、俺は走り出そうとする。
「イッセー……彼らを探しに行くのか?」
そう問いかけるゼノヴィアに頷くと、彼女は手榴弾を投げてよこした。
「私にはデュランダルとエクスカリバーがあるが、イッセーは手ぶらだろう。持っていけ」
「俺はアスカロン持ってるけど……」
「護身とお守りと思って持っておけ、役に立つかもしれない」
そうやって彼女らと別れた後、必死で明石達を探した。10分くらい経っただろうか?そこでフラフラと歩いている明石を見つけた。
「おい、明石!良かった、生きてたか!涙ちゃんは!?」
「そこにいるよ……傍にいてやってくれ……」
「……お前は……どこに行く?」
「決まってんだろ?
その声は体育館に重く響いた。俺はゴクリと固唾を呑むと、明石にさっきもらった手榴弾を投げる。
「お前、手ぶらだろう?使え」
「……ありがとう」
明石は、フラフラとおぼつかない足取りのまま体育館を出て行った。
俺は、体育倉庫に入る。強い血の香りに少しむせる。
「やっぱりか……」
頬に涙が流れる。涙ちゃんは血溜まりの中で、息絶えていた。
俺の脳裏に、あの光景が浮かぶ。
『うそ……だろ、リアス、ハハ、そうだ、これはウソだろ!俺は騙されないぞ!ハハ……』
最愛の人の死体を見た、あの時の事を。
「……」
俺が付いていながら、俺と同じ思いをさせてしまった。覚悟が足りていなかったのかもしれない。大切な人が死んでしまう覚悟が……いや、その覚悟から眼を背けていたんだろう。もう二度と傷つきたく無かったから……
「これじゃあ、ダメだよな……」
俺がついていながら、こんなバッドエンドになったらダメだ。赤龍帝として、おっぱいドラゴンとして、リアス・グレモリーの眷属として失格だ。
俺は胸のポケットに手を入れたーー