とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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6月20日、IFシリーズの幻想編更新+SS一話追加しました


短編+異伝
SS


SS

 

 

 

フリーチケット

 

 

 

とある学生寮

 

 

 

「? 何でこれ?」

 

 

ひらり、と。

 

落ちたチケット型の紙きれを上条当麻は拾う。

 

父、刀夜に頼み、実家に眠る昔の写真を取り寄せてもらったアルバム。

 

その内の、おそらく誕生会であろう、妹の上条詩歌の隣で誕生日ケーキを吹き消そうとしている幼き自分が写っている大きい写真が何となく視界に止まり、挟んだページから剥がすように捲り取ったら、その裏に隠されていたのだ。

 

ぼんやりと弄びながら、ひっくり返して裏面を見てみれば、

 

 

「とうま、とうま、それなに? もしかして、ファミレスのクーポン券?」

 

 

外国人特有の顔立ちと銀色に輝く長髪をもつ天真爛漫の天然素材。

 

そこにいるだけでお日様に照らされるように温かな気持ちになれ、明るく行動的な性格もあって、学校にいればさぞ人気抜群な美少女であろう。

 

それをこの部屋で独占している自分は時々、足繁く通う彼女から『詩歌さんの寮にお持ち帰りしたいですけど、ベットでぎゅ~っと抱き枕にしたいですけど、手のかかる後輩、手を焼かせるルームメイト、師匠にこれ以上手を回らせるのも気がひけますし、ここは後一年の辛抱だと自分に言い聞かせて我慢します。ええ、当麻さん、信じてますよ』と羨ましがられたりもする(最後は何故か目が怖かったけど)

 

そんな居候のインデックスがアルバムを広げている当麻の背中から覗く。

 

別に疚しいものではなく、隠すものでもなんでもない。

 

まあ、彼女が期待するような食べ物に関するものではないのでがっかりするかもしれない。

 

当麻はほれ、とインデックスに見せる。

 

 

「あー、あれだよあれ。『自由命令権(フリーチケット)』って奴だよ」

 

 

○○してあげる券。

 

肩叩き券、お手伝い券、お買い物券、お風呂掃除券、食器洗い券……など無数の種類があり、まだお小遣いを貰えていない幼少期の子供でもできるポピュラーなお遊び。

 

そして、今、当麻の手にあるこれはその中でも最上位のもので、金額を無制限に希望する額を書き込める白紙の小切手と同じように、『なんでも』ということは、オールマイティーに(それでもモラルがあるが)頼める券である。

 

それを昔の自分は記念に未使用のまま取って置いたのだろう。

 

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

当麻がその子供のお遊びを説明すると、やや? 一般常識に疎いインデックスはふんふんと頷く。

 

 

「んでもってこれは、詩歌に一回だけ何でもお願いしても許される券なんだ」

 

 

「エエエーッ!?!?」

 

 

が、急に大きく驚きの声を上げて、当麻は何事かとインデックスに目を向ける。

 

 

「な、何だよいきなり。今、当麻さん変な事言ったか?」

 

 

「と、とうま。だってそれって……、きっ――禁止なんだよっ! 今すぐ厳重に封印すべきなんだよっ!」

 

 

「はあ? さっきも言ったがこれは子供のお遊びで、別におかしなモンじゃねーし、魔術とは何の関係ねーぞ。詩歌が俺のためにくれたプレゼントで、よく見てみろ」

 

 

10万3000冊の魔道書を記憶した修道女は、まさにオカルトに対する時の本番さながらの真剣さで紙切れを読み取り、

 

 

「確かに『たんじょうびおめでとう。はじめてのプレゼント。おにいちゃんのおねがいをいちどだけなんでもききます。かみじょうしいか』……って書いてあるんだよ……」

 

 

ますます問題かも、とインデックスの顔色がすぅっと変わる。

 

マッサージ、家事、お買い物、掃除洗濯、料理……あれやこれと世話を焼かれているのに(インデックスもだが)、ここにきて『自由命令権(妹)』なんて……

 

 

「ねぇ、とうま。この見つけた券で一体何するつもり?」

 

 

首をギュッと絞め、返答次第で今すぐにでも噛みつきスタンバイオーケーのまま、淡々とした声で問う。

 

 

「え、何って?」

 

 

急に抱きつかれたのもそうだが、何か怒っている感じに、当麻は困惑。

 

空気的に、今の自分は何故か叱られているようなまたは尋問を受けているような。

 

とりあえず、この『自由命令権(妹)』の使い道をこの場で決めないと修道女の追及を逃れられない事を悟り、じりじりと湿度の高い視線を向けられながら、う~ん、と悩んで、

 

 

「まあ、そうだな。折角だし―――」

 

 

と、そこでチャイムが鳴り、

 

 

「当麻さん」

 

 

同時に聞こえてきた声で誰だかわかり、応対するとドアが開く。

 

そこには背は当麻より頭一つ低く、腰のリボンでまとめた黒髪の少女。

 

その内から優雅さが滲み出る所作は清廉にして、可憐、響く声音は銀細工の鈴を転がすように涼やかで、男女問わず、一たび聴けば嘆息する者がいる。

 

世が世なら学校の制服ではなく、十二単などを着てそうな大和撫子……と皆が憧れの『お姉様』―――な訳だが、そんな彼女、上条詩歌が上条当麻の妹である。

 

 

「お邪魔します」

 

 

詩歌はこの部屋の合い鍵をもっており、食材をもってきてくれたり、部屋を掃除してくれたりと、訪れるたびに色々と世話を焼いてくれる。

 

現に、ここに来る途中のスーパーで買い物したのか、詩歌の手には、学生鞄と、食材の詰まったビニール袋。

 

そこまでしてくれなくてもいいんだけどな、と当麻は思うが、それでも彼女の来訪は嬉しく、迷惑ではない。

 

当然『こんにちは、当麻さん、インデックスさん』という挨拶が続くものと思っていた当麻だが、詩歌はふと居間に入った途端、立ち止まって、

 

 

「じぃ……………」

 

 

と、見つめる。

 

正確には、その視線は当麻ではなく、インデックスでもなく、その手の中にある紙切れへと向けられている。

 

 

「どうした?」

 

 

「ああ、なるほど。懐かしいですね。はい、その文字は間違いなく詩歌さんが書いたものです。思い出せば、初めてのプレゼントなのに一度も使われなかったな~って………で、どうします? 時効だなんてつまらない事は言いませんよ」

 

 

しみじみと昔を懐かしむように目を瞑りながらうんうんと頷く詩歌。

 

前の自分がどうして使わなかったのはある程度予想できるが、詩歌から折角作ったのに使われなかったオーラを醸し出しているので、

 

 

「……何でもいいのか?」

 

 

「ええ、何でも♪」

 

 

よし。

 

こうなったら滅多に出来ない体験を、

 

 

―――がぶり

 

 

銀髪シスターに噛まれた。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「お兄様」

 

 

「お、おう」

 

 

瞬間、当麻は――、なんだか――、むずむずとする感覚を覚えた。

 

お嬢様養成所の名門常盤台中学の高嶺の花として咲き誇る女の子から、敬意を込めて様付けされると、少しだけ偉くなったような気がする。

 

 

「兄さん」

 

 

「あ、ああ」

 

 

うん、今度は頭が良くなったような気がする。

 

 

「兄貴!」

 

 

「おう!」

 

 

今度は頼もしくなったような。

 

心なしか胸を反らして、調子に乗り、

 

 

「この愚兄、跪きなさい」

 

 

「ははー……」

 

 

そんな付け上がった頭を叩くような言葉。

 

思い切り蔑んだ目で見下されており、こう、ぞくぞく……けど、何故かしっくりとくる。

 

ああ、自然と平伏してしまう身体が憎い!

 

決して―――じゃないのに……!

 

 

「にぃにぃ♪」

 

 

「ぶぶふぅ―――!?」

 

 

思い切りむせてしまう。

 

上げて上げて落してから―――不意打ちのクリティカルヒット!

 

本人も恥ずかしかったのか顔を紅潮させながら、そう甘えられるとかなりクル。

 

 

「……とうま、大丈夫?」

 

 

ほっとしたような呆れたようなとても複雑な表情で、この呼び名だけで一喜一憂しているチョロい当麻(ばか)をみるインデックスさん。

 

 

『じゃあ、これから当麻さんの事を兄と呼んでほしい』

 

 

それが何でも叶えられる『自由命令権(妹)』を使ってのお願いだった。

 

 

「ふ、ふん! 何とでも言うが良いインデックス! 今のスーパーお兄ちゃんな当麻さんはちょっとやそっとじゃへこたれません事よ!」

 

 

「さっき、思い切りへこんでたような気がするんだよ」

 

 

ツッコミはスルー。

 

もったいないような気もするが、この周囲にはお姉さんな詩歌は、滅多に『お兄ちゃん』と呼んでくれないのだ。

 

その点だけ、常々お隣さんが羨ましい。

 

なので、当麻は兄成分を補充できて大変満足している。

 

100円ショップでも売られてそうなほどとても安い、兄の尊厳である。

 

 

「まあ、色々と応えてあげる気でしたんですが、欲が無いというか……でも、ふふふ、おにぃが満足しているようなので良い事です」

 

 

「……とうま……(お兄ちゃん)

 

 

釣られて微笑んでいる詩歌の隣で、インデックスが小さく何かを呟く。

 

 

「何か言ったかインデックス?」

 

 

「………」

 

 

「ん? どうかしたか?」

 

 

インデックスはとても不満そうにじっとこちらを見つめている。

 

 

「……それだけ?」

 

 

「それだけって、何がでせう?」

 

 

「別に何でもないんだよ!」

 

 

そして、プイッとそっぽを向いてしまう。

 

あれ? 何か地雷でも踏んだか?

 

 

「ふんだ。とうまはやっぱりとうまで十分なんだよ。とうまのばーか」

 

 

原因不明だが、インデックスは拗ねてしまった。

 

 

「はぁ~……」

 

 

そして、詩歌が呆れたように溜息を吐く。

 

 

「不肖な兄に代わって、詩歌さんがお姉ちゃんになりましょう! さあ、この胸に飛び込んでいらっしゃいな♪」

 

 

いや、もう抱きついているし。

 

当麻が突っ込む前に、ヒュバッと舌を伸ばして獲物を捉えるカメレオンの如く、インデックスをハグってるマイシスター。

 

可愛いものに目が無い妹にとって、インデックスはいつか抱き枕にして一緒に寝たい子。

 

 

「し、しいか!?」

 

 

「ふふふ~、じたばたしてもダメです。エネルギー吸収するまでこのままです」

 

 

明るい笑顔を浮かべて、充電中。

 

当麻が聞く所によると、この猫可愛がりに、主な被害者だった幼馴染の妹分は色々と苦労したそうなのだ。

 

 

『詩歌さんって、昔から所構わず抱きつく癖があってね。距離感(パーソナルスペース)の測り方がとても近いというか。ホント、私だけでなく他の子にも………べ、別に嫉妬してる訳じゃないのよ!』

 

 

うん、とても恥ずかしいのだ。

 

 

「むむぅ~……しいかは強引なんだよ」

 

 

けれど、インデックスの顔を見れば満更でもない様子なので問題ないだろう。

 

愛情たっぷりなスキンシップである。

 

しかし、そろそろ止めてもらわないと、巡り巡って、この話を聞いたビリビリのストレス発散に付き合わされそうな気がする。

 

 

「ふふふ~、解放してほしければ、愛のある合い言葉を」

 

 

「? え、っと『ひらけごま』?」

 

 

「ぶぶー違います。ヒントはさっきインデックスさんが言おうとした言葉です」

 

 

「うぅ……しいかはホントに強引なんだよ。これがこの前テレビで言ってた肉食系女子なのかも」

 

 

いや、それは違う。

 

 

 

「……しいか……(お姉ちゃん)

 

 

 

ぼそぼそとこちらには聞こえない音量のか細い声で、詩歌の耳元に。

 

その合い言葉の答えに『正解です♪』と詩歌は名残惜しむ感情のままにもう一度ぎゅっと抱きしめてインデックスを解放。

 

その時、インデックスは一瞬だけ寂しそうな顔をしたけど先の拗ねた雰囲気は霧散していた―――で、それはそれで良かったんだけど、

 

 

「あの~、それでお兄ちゃんタイムは? もしかして、もう終わりでせうか?」

 

 

「空気の読めないせっかちな兄上です。そんな(あん)ちゃんには……はいな」

 

 

鞄から取り出した財布から、見覚えのあるような、とてもよく似ている数枚の紙切れを扇状に広げる。

 

 

「実は詩歌さんも昨夜アルバムを眺めていまして、これを見つけたんですよ」

 

 

にこにこととっても悪戯心の満ち満ちた笑顔。

 

女の子の贈り物には男の子は三倍返しが世間一般の基本法則とされてるが、どうやら昔の自分は偉く気風が良かったらしい。

 

良い兄してたんだなぁ……その負債が将来に回ってきてるけど。

 

 

「それって、まさかと思いますが、マイシスター」

 

 

「ご想像の通り。何をお願いしようかな、お兄ちゃん(ハート)」

 

 

『自由命令権(兄)』が5枚……

 

もし時を遡れるのなら、そっと両方の肩に手を置きながら、にこやかに『考え直せ。妹は将来、とんでもないドSになるんだぞ』と言ってやりたい。

 

 

「じゃあ、これから詩歌さんの事は『お姉ちゃん』って、呼んでください、お兄ちゃん♪」

 

 

その後、兄のちっぽけな尊厳が地に落ちたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

キセキの世代

 

 

 

体育館

 

 

 

去年の<大覇星祭>。

 

能力使用が認められる学園都市の競技は、普通のよりもスピーディかつパワフルで派手なため、『観る』スポーツとしては世界レベルで人気が高い。

 

ましてや、このコート上の片側はトップクラスの美少女軍団で華がある。

 

ただし、この多少の当たりでもファールに取られるバスケットボールでも、激しい当たりが認められているように『やる』方は試合(ゲーム)というより、闘争(バトル)だけど。

 

 

「………じゃあ、行こうか、皆」

 

 

まず、唯一の最上級生である真浄アリサが片目を瞑りながらバスケットボールを、リズム良く床に打ち付ける。

 

それを狙って、相手選手の1人が飛び出し、それを交そうとボールを両手で持ってしまった真浄に張り付く。

 

こちらは所詮、下手をすれば体幅をよりも大きいボールを体育の授業でしか扱っていない素人だが、向こうは経験者を揃えているようで、そのディフェンスは、フェイスガードどころではなくぴったりと張り付くその姿は、まるでシールのようで、ドリブルもパスも許さない。

 

粘着力のあるシールを素肌にべっとりと貼り付けられたような気分―――それを剥がそうと足掻くほどに、取り返しのつかない事になっていき、必死に突破口を探るうちに真浄は二歩歩いてしまった。

 

能力ありでも基本ルールは同じで、トラベリングもあり、もうこれ以上は動けない。

 

 

「仕方ない。ちょっと動かないでくれるかな」

 

 

と、閉じた左目――<魔眼殺し>と呼ばれる特殊なコンタクトレンズを外した――その名に相応しい<氷結青眼(ブルーアイズ)>を開眼する。

 

抑えられた右目より蒼く輝く魔性の眼光に晒された瞬間、相手選手は肖像のように固まってしまう。

 

その隙にパスを出し、その先にいる彼女はボールを受け取らず、そのまま弾いて―――新入生のLevel5の1人、御坂美琴の手元に渡る。

 

マークについていた相手は思ってもみなかったパスコースの変更に驚き、手を出そうと振り向いたときには抜き去った美琴の後ろ姿しかなかった。

 

 

「行くわよ!」

 

 

低く早い、電光石火のドライブで敵陣に切り込む。

 

だけど、Level5のマークについていたのは1人ではなく、抜いた先に2人のディフェンスが待ち受けている。

 

進路を塞がれて美琴の動きが一瞬止まる。

 

止まるのは致命的。

 

案の定、抜いたばかりの相手がやってきて、退路を塞いでしまう。

 

3人に囲まれた美琴は辛うじてボールをキープしているものの、なす術が無い。

 

けど、彼女の顔に焦りはなく、ボールを奪われる事もない。

 

最高の電撃系能力者として<超電磁砲(レールガン)>と異名を持つ美琴は、たとえ視界の中になくても、電磁波レーダーで360度相手の動きを感知している。

 

そして、今の彼女は体内の神経電流も完全に掌握しており、脳から筋肉への電気信号(インパルス)が伝わる時間が極めて速い。

 

つまり『感じてから動く』リアクションタイムがほぼ反射の域にまで達しており―――また、彼女がサポートしてくれる。

 

 

「―――っ!」

 

 

誰もいない場所へパスを出し、そこへ走り込んだ彼女と合わせるように美琴も姿勢をさらに低くして、相手の脇をすり抜けると、相手の股を通るバウンドパスで、まるでそこに来ると信じていたようなジャストタイミングとピンポイントな場所にボールが返り、ワンツーで切り抜ける。

 

が、それでもしつこく食い下がる相手。

 

向こうとしても、例え『五本の指』の名門でも、女子中学生に大の高校生が簡単に負けるなんてありえないし、許されない。

 

美琴はよそ見しながら――それでも確信して――ボールをパスし、そして、彼女は今度は柔らかく片手で勢いを殺すと―――美琴にではなく、ノーマークとなったもう一人のLevel5に―――渡った。

 

 

「空気の抵抗力も、地球の重力もバッチシ計算済みよぉ!」

 

 

優しく取り易いように減速されたボールを受け止めたのは、食蜂操祈。

 

美琴にマークが集中し、ゴール前まで相手のいないフリーな食蜂は、何故か二歩後退――スリーポイントラインまで、下がってからシュート体勢に入る。

 

 

「えいっ!!」

 

 

食蜂操祈の3Pシュート。

 

普通は、あそこでレイアップでも何でもシュートするのがセオリーだが、2点よりも3点のほうが価値は高く、また、御坂美琴ばかりが活躍するのはこのプライドが許さない。

 

 

だ が、

 

 

「アンタねぇ、真下からでもリングに当てるのがやっとなノーコンの癖に、そこから入るはずがないでしょ! 調子に乗んな!」

 

 

「はァーー! ノーコンって、御坂さん、それが仮にもチームメイトにかける言葉ぁ!?」

 

 

高さ良し……だけど、距離足りず、方向もずれてる。

 

そもそもいくら力を溜めようが女子がワンハンドの3Pシュートなんて普通はできない。

 

心理掌握(メンタルアウト)>に使うリモコンを持てれば十分な体力の食蜂には格好つけが良い所である。

 

 

「はっはっはー、ご安心めされよ、後輩諸君!」

 

 

その時、フリースローラインからレーンアップのロケットジャンプ。

 

火炎と熱風を操る<鬼火(ウィルオウィスプ)>の補助もあるが、これは純粋な鬼塚陽菜自身のバ怪力によるところが大きい。

 

この中で最も高い長身を誇る鬼塚陽菜の高さの前に、最後の砦としてリング下で待ち構えていた選手の指先は肘までしか到達する事が出来ていない。

 

シュートのつもりではなった角度の高い弾道(あと見当違いの方向)を宙でキャッチし、相手のガードを新体操の空中三回転捻りのように身を捻りながら……と大変アクロバティックかつダイナミックに交して、そのまま―――アリウープ!

 

 

「―――ボンバー!!」

 

 

この手で、確実に入れる―――ダンク。

 

策も技術も関係なく、純粋なパワーで、力ずくで、ボールをリングに叩きこみ―――爆発。

 

 

「……………」

 

 

相手も、審判も、唖然呆然。

 

能力にも耐え切れるはずの合成素材のリングが木端微塵。

 

鬼塚陽菜、彼女の最大の欠点は、『加減が苦手』であり、調子に乗るとバ火力を炸裂してしまい、この通り。

 

 

「陽菜さん。退場」

 

 

「ええぇ!? そりゃないよ、詩歌っち!?」

 

 

「それはないと言いたいのはこっちの方ですよ。去年もそうでしたが今年で何回、器具をぶっ壊してんですか。良いですか、今年だけですよ」

 

 

疲れたのか静かな平淡な口調。

 

パス回しの中継役として活躍していた上条詩歌から問われて、陽菜はしばし空中に視線を彷徨わせた。

 

無意識に指折り数える動作もする。

 

 

「……9個、かな」

 

 

「サバを読みましたね。今確実に10以上数えました」

 

 

「じゃ、じゃあ10個!」

 

 

「それも違います。14個です」

 

 

きっぱりと、冷静に詩歌はそう告げる。

 

 

「嘘だぁ! そんなに壊してないよっ!」

 

 

「……嘘。そうですね、保険のかかっていた我が校の物も入れたら、軽く20は超えてます」

 

 

何度か陽菜の後始末をしてくれている詩歌の前に、陽菜は言葉に詰まる。

 

 

「いくら常盤台中学でも、限度があります。だから……これ以上は陽菜さんの自己負担になりますよ」

 

 

「イエスマム!」

 

 

理路整然と説明した後に詩歌は指先をコート外に向け、審判にレッドカードを出される前に自主的にチームメイトを退場勧告。

 

が。

 

その後すぐに、今の光景に相手チームはそのリングに自分達の末路を見たのか、降参。

 

そうして、常盤台中学は勝ち星を重ね、レッドカードも重ね、長点上機学園に僅差で敗れ、学園都市全校で、2位という結果に終わった。

 

 

 

 

 

フリーチケット2

 

 

 

とある学生寮

 

 

 

上条当麻は、上条詩歌の保護者。

 

詩歌と買い物の際、上条当麻は基本的に荷物持ちしか仕事がない。

 

けれど、色々と苦労している。

 

 

「………とまあ、昨年はこんな理由で優勝できなかったんですよ」

 

 

「ふーん、色々と大変だったんだなー、全く」

 

 

例えば、スーパーを出た時と立ち位置が反対になっている。

 

そう、自然と車道側を歩く。

 

交通量が多く、事故が起きやすそうな危険な場所では、自らが車道側を歩く。

 

吹けば消えてしまうほど小さな、言葉にしなければ伝わらない細やかな優しさ。

 

 

「で、当麻さん、今日は宿題は出ましたか?」

 

 

「? 出てねーけど……いや、それよりも何でこんな事訊いてくんだよ? 妹が兄の課題を気にすんのはどうかと思うぞ」

 

 

「そりゃあ、夏休みの件がありますからね。うっかり忘れちゃったなんて、もうごめんです」

 

 

「うぐっ……―――って、そう言えば、あの読書感想文出して以来、小萌先生から………」

 

 

他愛のない話をしながら、学生寮に辿り着き、当麻は、半歩、下がって詩歌の背後に回る。

 

そのポジションチェンジの意図は、妹が足を踏み外した際にガッチリと受け止められるように後方待機するため。

 

高低差が生じても、変わらぬ気配り精神。

 

しかも、落下防止だけでなく、自らがブラインドとなることで階下のパンチラショットも同時にシャットアウト。

 

弱点などない完璧超人な妹に過保護ではないかと思われるかもしれないが、詩歌は年頃の女の子でもある。

 

その証拠に、当麻はようやく妹の弱点を一つ発見した。

 

 

 

 

 

 

 

夕食後のこと。

 

 

「では、当麻さん。いつものお願いします」

 

 

「ああ」

 

 

ポンポン、と叩いてベットの隣に招こうとしたのだが、いつも詩歌はベットに腰掛けた当麻の脚の間にお尻をはまりこむ。

 

ん♪ とそのまま催促されるように背筋を伸ばすので、当麻は何も言わずに若干距離をとるように背筋を伸ばして詩歌の漆黒の髪に触れて、まとめている妹のお守りともいえる髪飾りを外す。

 

妹のようで妹ではない、いつもと違う女の子になった詩歌の髪を、最初に教えてもらったとおりに、まずは手櫛でほぐす。

 

 

「ふふふ、くすぐったいです」

 

 

髪に指を通すと、詩歌が首筋を震わせながら、そう言う。

 

そして、大体の感触を確かめたら髪を一房手に取り、ブラシを通して、軽く角度を調節してから、頭皮から毛先までブラッシングする。

 

詩歌の髪は艶々でさらさら、その一本一本に不思議とその芯が熱を持っているように温かく、触り心地も良い。

 

当麻のツンツンのようにツンツンしている部分もあるが、ブラシが引っ掛かることはなく、兄的に曲者な妹本人とは違って素直である。

 

普段は隙があるようで隙のない、皆に好かれるお姉さん的な印象の強い妹だが、こうして無防備に背中を晒して、髪を梳かれている姿は、年相応に幼く見えるので新鮮である。

 

なので、

 

 

「どこかかゆいところはあるか? 地肌マッサージもやってやるぞー」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

それに兄的サービス精神が触発された当麻は、終わって一息ついたその一瞬に不意打ちのように詩歌の髪に手指を差し入れて、髪ではなく、携帯サイトで独自に学んだ頭皮への直接刺激(マッサージ)を敢行。

 

 

「……ぉ…ぃ…ゃん。……わふっ」

 

 

と、今度は弱ったような、困ったような、変な声。

 

詩歌は慌てて自分の口を両手で押さえ、耳たぶを真っ赤にする。

 

 

「どうした?」

 

 

「な、なんでもないです。なんでもありません。なんでもなかとです」

 

 

「いや、今、変なモン混じってなかったか?」

 

 

「とにかく、続けてください。マッサージ……気持ち良かったですから」

 

 

兄妹のグルーミングの時間は、インデックスが入浴中に密かに行われる。

 

あの『自由命令権(兄)』で一度やらされて以来、意外と評判が良かったので、日頃の感謝をこめて詩歌の髪を梳かすのが、なんでか家事に代わる当麻の仕事になっていた。

 

 

(猿とか犬の毛繕いはコミュニケーションみたいなモンだったっけ? まあ、女の子の髪を梳かすのは緊張するが、妹だし、家族だし、オッケーだよな)

 

 

家事炊事を頑張っている妹に対しての、兄なりの労い。

 

指圧の心は母心、押せば命の泉湧く、その精神で精一杯やる。

 

 

「わふうぅ……」

 

 

最後にもう一回、ブラシを通すと、ブラッシング中(当麻の手が髪に触れてる間)ずっと背筋をまっすぐ張り詰めていた詩歌は、よよっとベットから前のめりに倒れた。

 

常盤台最恐の師である寮監との組手の後のように、くたくたのふらふらに。

 

インデックスが風呂から出る前に、復活したが―――それまで具体的に10分の時間が経った。

 

その後日、教室で三大馬鹿(デルタフォース)に『最近、詩歌の髪を梳いてんだけどさ。深夜通販とかでいい感じのブラシ売ってねーかな?』と相談したところ、『平然と髪を梳くとは、カミやんは勇者か?』と慄かれたり、『カミやん! 爆発しろ!』と思い切り大乱闘になった。

 

 

 

 

 

時を超えて アフター

 

 

 

水鏡小学校

 

 

 

彼女と出会ってから長年の時が過ぎた。

 

色々な出来事があった。

 

そして、あの時からずっと彼女に片思いをし続けてきた。

 

この一方通行な想いは彼女と過ごす日々を重ねていく度に大きくなってきている。

 

でも、自分の手は汚れている。

 

この穢れは一生取り除かれる事はなく、だからこそ、純白な彼女には触れてはならない、と思っていた…けれど、

 

 

『そんなしみったれた理由で詩歌さんを諦めるなんて、根性がまったく足りてねぇぞ!!』

 

 

……もうそろそろそれに終止符を打つべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ここは元々RFOという廃校だった場所。

 

しかし、今では普通の学校として機能しており、<置き去り>や、彼女が世界各地から集めた、強大な力を持つが故に怪物扱いされている子供達を受け入れている。

 

そして、ここ最近は彼女はここを拠点としている。

 

何でもここの責任者でもあり、今は校長の女性と古い知己で、学園都市の拠点として彼女にこの校舎の一室を貸し与えているのだそうだ。

 

それに校長以外にも、ここの教師連中は彼女と顔馴染みが多く、中には自分が世話になった者までいる。

 

と、今日、わざわざ学校の総力を挙げて祝っている彼女の姪の、と言っても今は主役がいないが、誕生日のパーティを抜けだし、外へ出る

 

喧騒から外れ、しばらく頭でも冷やす。

 

建物の脇をしばらく歩いていると、

 

 

「おや、どうしたんですか? あー君」

 

 

彼女がいた。

 

だが、用事があって一緒に連れだした彼女の姪の姿はいない。

 

 

「おい、子守りはどーしたァ」

 

 

「ふふふ、用事も終わりましたので、親の許へ送ってあげました。しばらくは親子水入らずにしといてあげてください」

 

 

もう昔のように制服という訳ではなく、私服の上に修道服と白衣が組み合わさったような上着を羽織っている。

 

だが、あれから10年以上の時が過ぎたが、あの頃のように若々しく綺麗で、でも、どことなく大人っぽい雰囲気を持っており、その胸元も……幾分か成長している。

 

一応は背も伸びているのだが、それ以上に身長が伸びた自分の顎先程度しかない。

 

そして、彼女の魅力は昔と変わらず、いや、年々大きくなっている。

 

 

(……ン?)

 

 

だが、何かが足りないような気がする……とよく見てみれば、彼女がいつもつけていた髪飾りがない。

 

纏めていた柳髪が解き放たれ、さらり、と風に乗る様は幻想的で………どことなく儚かった。

 

まるで役目を終えた天女のように、このままどこかへと消え去ってしまいそうだ。

 

今……この想いを伝えなければ、きっと一生後悔する。

 

 

「それでは、少し準備がありますので。また―――」

 

 

「―――待ってくれ」

 

 

制止の声に彼女は立ち止まり―――

 

 

―――カツッ。

 

 

そして、足元にあった小さな段差に躓いた。

 

 

「っ!」

 

 

だが、即座に手を広げ、倒れてくる彼女を昔よりも少し筋肉質になり強靭となった体でしっかりと受け止める。

 

 

「どうも、ありがとうございます。あーくん」

 

 

覚悟を決める。

 

もう迷わない。

 

誤魔化さない。

 

足踏みもしない。

 

何があろうと、今ここで彼女にこの一方通行な想いを伝える。

 

 

「あー君?」

 

 

そのまま両腕をその背中にまわし、抱きよせる。

 

 

「詩歌……俺はお前を支えたい。友達(ダチ)としてじゃねェ。1人の男として、詩歌を支えたい」

 

 

「……、」

 

 

覚悟を決める。

 

 

「―――詩歌、好きだ。誰よりもお前を愛している。ずっと、ずっとテメェだけを見てきた。この想いは絶対に誰にも負ける気はねェ。絶対にテメェを幸せにしてみせる」

 

 

しん、と2人を静寂の空気が包む。

 

そして、おもむろに口を開く。

 

 

「“反射”なンかしねェから、嫌なら突き飛ばせ。……友達が良いならそう言ってくれ。この事はなかった事にしてもいい。だがな―――」

 

 

「……しませんよ。……そんなことしません」

 

 

彼女が自分の腕の中で身じろぎしたが、それはそこから逃れるためのものではなく、より深く、自分に身を預ける為だった。

 

 

「……いいのか」

 

 

「はい、私を支えてくれる人を拒絶なんてしません」

 

 

再び身じろぎし、両手を動かす。

 

その手が自分の背中にまわされていく。

 

腕がどかされた事で、彼女の豊満な腕が直接自分の胸に押し当てられ、さらにその両手に抱き締められて押し潰される。

 

その柔らかな感触に意識した途端に―――

 

 

「クスッ、あー君。顔が真っ赤ですよ」

 

 

しかし、そう言っている彼女の顔もどこか赤い。

 

が、それも、

 

 

「ふふふ、ギュギュギュ~」

 

 

「オイ!?」

 

 

と、最後に力強く抱き寄せると、満足した笑みを浮かべながら、すっと離れる。

 

 

「……私、明日からここから旅立ちます。また世界各地を巡る事になると思います」

 

 

学園都市(ここ)を、離れる……

 

 

「……あー君の気持ち…嬉しいです。けれど、まだ応えられません。……もしかしたら、一生応えられないのかもしれません」

 

 

やはり、俺では―――

 

 

「でも、やっぱり1人は寂しいもんです……あー君、私と一緒に来てもらえませんか?」

 

 

「―――ッ!?」

 

 

その言葉が荒れ狂う波のように身体中に、頭に、そして心にまで広がり、響き渡り、全てを埋め尽くしていく。

 

 

「もう1度言いますが、あー君の気持ちには応えられないかもしれません。ずっと、お友達のままだと思ってましたから」

 

 

それでもいいですか? その言葉に一方通行は迷いなく頷く。

 

彼女は人を救う。

 

己のために人を救う。

 

誰よりも己を犠牲にし、多くの人を幸せにしてきた彼女は誰よりも温かくて、優しくて、強くて――――弱い。

 

そんな彼女の背中を守りたかった。

 

たとえどんな事があろうと。

 

 

「ふふふ、でも、最初に行く所は決まってます」

 

 

「ン? どこだァ?」

 

 

「実家です。あー君の事を両親にも紹介しなければいけませんしね。あ、そうそう、折角だから今から当麻さんにも挨拶をしときましょう―――」

 

 

と、そこで悪戯ぽくニヤリと笑い、

 

 

「―――友達としてね」

 

 

 

つづく

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