とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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第2章
閑話 存在意義


閑話 存在意義

 

 

 

病院

 

 

 

私の目の前に、ある研究者の裏切りにより深い眠りに堕ちている子供達がいる。

 

最近、それが勘違いだと知ったけど……

 

私は無言のまま、ベッドに眠り続けているお姉ちゃんの頬へ手を伸ばそうとするが、途中で止める。

 

本当は、触れたいのに、触れることができなかった。

 

 

「毎日、来てくれるんだね?」

 

 

カエルのような顔をした医師が話しかけてきた。

 

彼は私の命の恩人で、<冥土帰し>と呼ばれる凄腕の医師だ。

 

その技量は、一族が行っている人体実験で、私が彼以外の誰もが匙を投げだすほどの大怪我を治せたくらいだ。

 

おそらく、彼よりすごい医師はいないだろう。

 

 

「お姉ちゃんは、まだ眠り続けているんですね」

 

 

そんな彼でもお姉ちゃんを起こすのは無理だった。

 

 

「まだ彼女達の目を覚まさせるのは難しいね? でも、意識が無くても、耳などの感覚器は生きていたりするからね? 昏睡状態になった男性の手を、その人の奥さんが握ったら、突然目を覚ましたという事例も実際にあるんだよ? だから、ほら」

 

 

しかし、彼は諦めたりせず、頑張ってくれている。

 

忙しいはずなのに、お姉ちゃんたちのために手を尽くしてくれる。

 

 

「え?」

 

 

「握ってあげてくれるかい?」

 

 

私が触れてもいいのだろうか、戸惑う。

 

しかし、もう一度促されたので、手を伸ばし、お姉ちゃんの手を握った。

 

お姉ちゃんの温もりが伝わる。

 

今にも握り返してきそうな気がする。

 

 

「お姉ちゃん……」

 

 

でも、お姉ちゃんは私の呼びかけに答えてくれない。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「実は、2人の人物に協力してもらうつもりでね? 彼女達の協力があれば、目が覚めるかもしれないね?」

 

 

冥土返しからもたらされた希望。

 

しかし、少女はすぐに否定する。

 

 

「<置き去り(チャイルドエラー)>は『欠陥品』。誰が協力しようと目を覚ますなんて、絶対に有り得えませんよ……」

 

 

少女の発言をカエル顔の医者は咎めない。

 

なぜなら、『欠陥品』の彼女達の為に涙を流し続けた事を知っているから。

 

 

「だから、私が……みんなを救うよ。……絶対、私が、Level5になる。……あの学校の<風紀委員>になって、学園都市の平和を守って、ずっと待ってる……。だから……みんなは犠牲になんかなってない。私はみんなと一緒に……」

 

 

 

 

 

第10学区 少年院

 

 

 

ここは学園都市で犯罪行為を犯した学生たちが集められる唯一の少年院。

 

罪を犯した学生、つまり凶悪な能力者を捕らえ入れる施設であるためか、対能力者の最新機器が完備されており、ここで能力を使うのは自殺行為。

 

超能力の封じられた土地。

 

無論、学生達の全員が能力者ではないし、ここには能力者以外、<スキルアウト>の割合も少なくはない。

 

先日、武装し能力者狩りの騒ぎを起こしたある<スキルアウト>組織もここに収監されている。

 

そんな数多くの犯罪者を収容している施設に、常盤台の制服を着た女子学生がやってきた。

 

綺麗な光沢をもつ黒髪をさらりと流し、温かな輝きを秘める瞳、そして、夏の日差しに日焼けもせずシミ一つない瑞々しい白い肌。

 

可愛らしい淡い桃色の唇に、整った目鼻顔立ち。

 

彼女は世俗とは一線を画す仙女のような魔性の美しさを秘めてはいるが、その見ただけで癒されるような柔らかな微笑みと、人懐っこい犬の尻尾のように揺れる後ろ髪のおかげで、気軽に声をかけられるような親しみやすい空気を感じる。

 

それに小さくて華奢な、守ってあげたくなるような美少女なので、声を掛けようとする男も少なくはなく、実際、何人かの男子学生に声を掛けられたりもする。

 

彼女は丁寧な対応で柔らかく彼らの申し出を断り、ここへ1人でやってきた。

 

学園都市に住む学生ならほとんどが近寄りたくないこの犯罪者が集められる施設で、彼女は明らかに浮いており、周囲の視線を集めている。

 

 

「ここですか……」

 

 

しかし、彼女は気にすることなく奥へと進み、手続きを済ませ、目的を果たす為、ここにいるとされる人物に会うために面会室の扉を開けた。

 

 

「ん? 誰かと思えば、あの時の……」

 

 

「はい。一応、はじめまして、上条詩歌と言います。この前は、本当にお世話になりました。黒妻綿流さん」

 

 

常盤台中学の女子学生、上条詩歌はそう言うと目の前の人物、黒妻綿流に深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

黒妻綿流。

 

時代を走り抜けた無能力者組織、<ビックスパイダー>を作り上げた伝説的な<スキルアウト>。

 

学園都市の<海賊ラジオ>でも彼の話題は取り上げられており、武装した複数人を、素手で、しかも1人で勝ってしまうほどの実力者。

 

そんな黒妻でも予想外な相手が面会してきた事に驚くが、礼を受け取る。

 

あの時、詩歌が我を忘れて武装した<スキルアウト>を止めたのは彼で、その後、大怪我を負った彼らを病院へ連れて行ったのも彼だ。

 

 

「俺は止めただけだ。大したことはしてねぇよ。あいつらにもいい薬になっただろうしさ」

 

 

黒妻は謙遜するが、あの時の詩歌を止めるには相当な強さと度胸が必要である。

 

 

「そんなことありません。あの時我を見失っていった私を止めてくれなかったら、一生ものの後悔をしていたかもしれません」

 

 

黒妻は詩歌を見据え……ふっ、と笑みを零す。

 

 

「……どうやらすっきりしたみたいだな。あの男のおかげか?」

 

 

黒妻の問いに、詩歌は顔をあげ、真っ直ぐ目を見て答える。

 

 

「はい。私のお兄さん、当麻さんのおかげです。当麻さんもあなたにお礼を言っていました」

 

 

「そうか。それは良かった。アイツがアンタの兄さんかいい兄をもったな」

 

 

「はい、自慢の兄です。――――それと、昨日、女子学生達が<スキルアウト>との喧嘩で大変お世話になったそうで、こちらも本当にありがとうございました。あの子達は私の妹分みたいなものです。この恩も含めて、いつか返させて頂きます」

 

 

詩歌は当麻の怪我の看病とインデックスの世話をしていたため、ちょっとしか? 関わってないが、昨日起きた武装<スキルアウト>集団による能力者狩りに美琴達が関わっていた。

 

 

「ありゃー、元々は俺の仲間、<ビックスパイダー>が起こした事件だしな。気にしなくていい。むしろ、迷惑掛けてすまなかったな。でも、女の子がああいうところに来ないよう注意しといてくれ」

 

 

「はい。やんちゃな妹達に伝えときますね」

 

 

(そう言ってますけど、美琴さんと黒子さんが<キャパシティダウン>で危機に陥った時、助けていただいたと聞いてます。……陽菜さんから聞いてた通り、度量が大きい方です)

 

 

詩歌は黒妻の度量の大きさ、頼りになる雰囲気、筋の通った性格に好感を抱く。

 

そして、黒妻も、

 

 

「わざわざ、ここまで礼に来るなんて真面目だな。そういえば、アンタ、どうやって俺がここにいることを知ったんだ?」

 

 

「黒妻さんがここにいることは、陽菜さんから教えていただきました」

 

 

詩歌のルームメイトである陽菜は<ビックスパイダー>で、黒妻にバイクの乗り方を教わるなど世話になっていた。

 

そのため、陽菜にとっては黒妻は兄のような存在である。

 

 

「そうか、陽菜の奴がか……アイツにも礼を言っといてくれ。今回の件で、世話になった、と」

 

 

陽菜が元々、この事件に三船の残党が関わっていることもあり調査しており、その際、『黒妻綿流』の噂を聞き、その後、まあ色々とあって互いの目的が一致したため共に行動していた。

 

 

「わかりました。陽菜さんに伝えときます。―――あ、そうそう、陽菜さんから聞きましたけど、ムサシノ牛乳好きなんですね。私もアレ、好きなんですよ」

 

 

ムサシノ牛乳とはスーパーで売られているおいしいと評判のブランドで、密かに豊胸効果があるのではないか? と噂されている牛乳である。

 

で、黒妻もその愛好家の1人である。

 

 

「おお、やっぱ牛乳はムサシノ牛乳だな。通りでアンタ、胸が大きいんだな」

 

 

確かに詩歌の胸は大きめのサマーセーターを着ているが、やはり若干、人目につく。

 

しかし、それを指摘するのはどうだろうか?

 

まあ、傍から見ればセクハラ発言だが黒妻にとって、背が大きいと言っているのと変わらないので、いやらしさはまったく感じず、詩歌も褒め言葉として受け取り笑顔で返した。

 

でも、一応、釘を刺しとく。

 

 

「その発言あまり女性には言わない方がいいですよ。特に陽菜さんには」

 

 

「ああ……確かに」

 

 

その昔、詩歌と街を散策していた際に、『何故、男が女子の制服を着ているんだ』と巡回中の<警備員>に注意されたことがあり、暴れたことがある。

 

幸い、詩歌がすぐ止めたので騒ぎにはならなかったが、それ以来、陽菜の近くでは、胸の話題が禁句となった。

 

そして、それが原因で元<ビックスパイダー>の<風紀委員>と亀裂が…(といっても、今も時々連絡を取り合っているようなので仲が悪いという事はないだろう)

 

と、会話も盛り上がってきたが、

 

 

「そろそろ面会時間が終わりですね。それでは失礼します」

 

 

「おう。こちらも会話できて楽しかったぜ。もう自分を見失ったりするなよ」

 

 

「はい、黒妻さん」

 

 

最後にもう一度礼をし、詩歌は面会室から出ていった。

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

夏が始まり、さんさんと照りつける太陽の下、喉の渇きを癒そうと、1人の少女、『常盤台の姫様(エース)』、御坂美琴が公園へとやってきた。

 

 

「ん~と、詩歌さんはいないよね?」

 

 

美琴は周囲を見回して、詩歌の姿を探し、いないことを確認する。

 

 

「前に詩歌さんに見られた時、首を絞めて気絶されたからなぁ~……なんか思い出しただけで首が痛くなったかも」

 

 

美琴はもう一度、確認すると目の前の獲物―――自動販売機へ狙いを定め、足に力を込める。

 

 

「それじゃあ、いきますか…―――はっ」

 

 

勢いよく右足を蹴り上げ、

 

 

「ちぇいさーっ!!」

 

 

常盤台中学内伝、『おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法』。

 

これは、某不幸な少年も御用達の(ほとんど世話にはなっていないが)金を飲み込むことで有名な自販機を掛け声とともに蹴り飛ばすだけで種類は選べないが、ジュースが無料で手に入るというものだ。

 

美琴も以前この自販機にはお札が呑まれた事があり、それ以来こうして、その金額分は、と詩歌の目を盗んで蹴り飛ばしている。

 

やってることは、器物破損と窃盗なのだが……

 

 

「お、出た出た―――ん?」

 

 

美琴がジュースを取り出そうとした時、自販機の横にツインテールの影が浮かび上がった。

 

ツインテール、と言えば美琴がまず連想するのは、

 

 

(黒子―――ッ!?)

 

 

そのとき、美琴は何かが自分の内側を全て、覗きこまれたような感覚に陥った。

 

その感覚は、

 

 

(まるで詩歌さんの<異能察知>で見られたみたいに……)

 

 

そう詩歌が自身の能力を“視た”時と同じ。

 

もしかして、と顔を上げた美琴の視界に入ってきたのは予想外の人物だった。

 

 

「……<風紀委員>だよ、常盤台のお姉さん。器物破損と窃盗の現行犯で拘束します」

 

 

そこにいたのは、詩歌でもなく、黒子ではなく、金髪のツインテールに赤いランドセル小学生。

 

 

「……こんな簡単にチャンスが来るなんて」

 

 

少女は美琴をじっと見つめながら何かを呟く。

 

先ほどから違和感を受けている美琴は、少女から異様な敵意を感じる。

 

そして、あれは危険だと警告している。

 

その警告通りに、

 

 

(来たっ!)

 

 

少女が一瞬で美琴との間合いを詰める。

 

これは明らかに<風紀委員>が学生を無傷で捕縛する動きではない。

 

本気で敵を倒す時の動きだ。

 

警戒していた美琴は少女の飛び掛かりを難なくかわす。

 

 

(詩歌さんと比べれば遅―――なッ!?)

 

 

しかし、少女は人間離れをした動きで、すぐにまた襲いかかる。

 

美琴は反射的に少女に電撃を放ってしまった。

 

 

 

 

 

路地裏

 

 

 

「超すごいパーンチ」

 

 

「たいしてかわらブギャアアアアア!!」

 

 

おざなりな掛け声と共に放たれた一撃は、目の前の<スキルアウト>、横須賀、通称モツ鍋を物凄い勢いでふっ飛ばし、巻き込まれたガードレールをスクラップにしてしまった。

 

 

「<風紀委員>ですの」

 

 

そこへ学園都市の治安維持を司る<風紀委員>、白井黒子がようやく騒ぎを聞きつけてやってきた。

 

気絶した大男、無残に破壊された現場、そして、威風堂々と山の如くその場にそびえ立つ漢。

 

何故か彼の周りだけ温度が1、2度高くなっているような気がする。

 

彼女は瞬時にこの現状を把握し、そして、この現状を引き起こした男と思われる削板軍覇にまずは穏便に事情聴取から始める。

 

 

「そこのあなた、これは一体どういう事ですの?」

 

 

「おう! そいつに根性を入れてやっただけだ!」

 

 

削板軍覇は倒れているモツ鍋を指さす。

 

 

「はあ?」

 

 

当然、白井黒子は削板軍覇が何を言っているのかが理解できなかった。

 

 

「そこにいるモツ鍋が通算30回目のリベンジで俺のすごいパンチを10発も耐えられるようになってな! そこで、敬意を称してさらに一段階上の超すごいパンチを喰らわせてやったんだ!」

 

 

この根性男の発言はいまいち要領がつかめない。

 

まるで王道バトル漫画に出てくるような感じである。

 

黒子の良く知る大先輩が、拳一つで相手をぶっ飛ばすのは見た事があり、連続虚空爆破事件でも憐れな男1人を掃除ロボットごと吹き飛ばしたと聞いた事があるが、このメチャクチャな現場を見る限り、『超すごいパンチ』とやらはどうもそれ以上………

 

と言っても、彼女のあれはほとんど素の力だけでやっているのだが、

 

 

(とりあえず、この男を拘束した方がいいですわね。話を聞く限りでは現行犯ですし)

 

 

「あなたを傷害と器物破損の容疑者で拘束しますわ」

 

 

黒子は事情を理解するのは後にして、削板を拘束しようと、その場で逆さまにする。

 

そのままいけば頭を打ち、気絶するだろう。

 

 

(えっ!?)

 

 

しかし、

 

 

「ハアッッ!!!!」

 

 

軍覇は、口元から出た波動が地面ぶつかる衝撃で体を回転させて着地し、回避した。

 

 

(やりますわね)

 

 

黒子は驚くがすぐに<空間移動>で頭上に現れ、軍覇の頭を踏みつけようとする。

 

だが、それすらも、

 

 

「ほお~、これが<空間移動>か?」

 

 

確実にあたると思われた<空間移動>による奇襲攻撃もあっさりかわされ、おもしろいの一言で片づけてしまった。

 

ハチャメチャな動きで、恐るべき余裕である。

 

黒子は<風紀委員>の訓練を受け、Level4の高位能力者である。

 

この学園都市でもトップクラスの実力者なはず……

 

黒子を相手にこうまで余裕を見せられたのは、お姉様と大先輩くらいのもの。

 

 

「一体、どういうことですの?」

 

 

黒子が思わず呟いた問いに、漢、軍覇は後ろに蜃気楼を発生させながら答えた。

 

 

「それは、根性だ!!」

 

 

(本当にどういうことですのーッ!!?)

 

 

しかし、軍覇の簡潔な答えは、より一層黒子の混乱をさせるだけだった。

 

それもそうだろう。

 

軍覇は『根性』の一言で片づけているが、その本人でさえもその能力は完全に把握していないのだ。

 

あまりの意味不明な事態に、拘束するよりか話を聞いた方が良かったのでは考え始める。

 

そのとき、公園の方から衝撃音が聞こえ、稲光が走った。

 

この強烈な雷撃、思い浮かぶのは1人。

 

 

「もしや、お姉様!? 今、行き――――ええっ!!?」

 

 

だが、黒子よりも早く、軍覇は赤青黄色の爆煙をあげて公園へ跳んでいってしまった。

 

まるで、漫画やアニメの熱血漢のヒーローのように。

 

ここは能力者達が集う学園都市。

 

しかし、それでもあの漢は桁外れ過ぎて、黒子でさえも唖然とさせられてしまう。

 

あまりの事態に放心した黒子に一部始終を見ていた男子学生、原谷矢文は同情するように肩を叩き、声をかけた。

 

 

「あいつが何者だか訪ねらればLevel4の<幻術使い(イリュージョニスト)>と思っておいた方がいい」

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

先ほど思わず放ってしまった電撃も“避けた”。

 

さらに街灯による目潰しをしてからの電撃を“避けた”。

 

まるで、上条詩歌の<異能察知>みたいに“事前に”わかっているかのように……

 

 

「ねえ、あんた、何者?」

 

 

美琴は足を止め、再び自販機の前に対峙し、目の前の少女に問いかける。

 

Level5の美琴とやり合って未だに立ち続けている少女に。

 

 

「自己紹介がまだだったね。私は、先進教育局特殊学校法人RFOの<風紀委員>、木原那由多だよ」

 

 

『先進教育局特殊学校法人RFO』、その単語は聞いた事がある。

 

幻想御手事件が終わり、しばらくして姉が見つけ出した、今は廃校となっている建物の名前で、

 

 

(それって確か、詩歌さんが言っていた木山春生の教え子たちの学校……)

 

 

そう、木山春生が<置き去り>達に教鞭をとっていた教育施設だ。

 

あれはまともな教育施設ではなく、生徒だった<置き去り>達も非道な実験のせいで今は昏睡状態だと聞いていたが、そうなると目の前にいる彼女の正体は、

 

 

「もしかして、<置き去り>なの?」

 

 

名由他は美琴の問いに首を横に振る。

 

 

「違うよ。私はただの過程…絆理お姉ちゃん達が実験体(モルモット)になった実験から派生した、能力体結晶を代表とする、いくつかの予測結果に向かう過程の一つ。そして、ただの実験体。それが私」

 

 

再び美琴は違和感を感じる。

 

この感覚は………まさか!?

 

 

「あんた、今、私のAIM拡散力場に何かしたの?」

 

 

美琴の核心をついた問いに名由他は驚いた顔になる。

 

 

「へえ、普通は気づくことすらできないのに。……そこまで推測できるなんて、これを体験したこともあるのかな? でも私を除いて、これができるのは滝壺のお姉ちゃんだけなんだけどな。さすがLevel5、経験豊富だね」

 

 

「そうね。これを体験したのは初めてじゃないわ」

 

 

他人の能力の性能に増幅や阻害の出来る姉、上条詩歌にとって、能力の波長であるAIM拡散力場すらも観察できる。

 

そして、彼女に自身の『能力開発』を何度も付き合ってもらった美琴にとってこの感覚は身近なもの。

 

ただ、姉以外では初めてだが、

 

 

「それじゃ、これも体験したことある?」

 

 

名由他は静かに―――右手、と呟く

 

すると名由他の呟きに反応したかのように、美琴の右手から地面に電撃が撃ち込まれた。

 

 

「えっ?」

 

 

「絆理お姉ちゃん達の実験から生まれたものの一つが<体晶>。まあ、試作は前からあったし、出来そこないの失敗作もいたらしいけど、私はエネルギーの流れとタイミングを操れるんだ。滝壺のお姉ちゃんみたいに追跡や乗っ取りはできないけどね」

 

 

言い終わると名由他は一瞬だけ表情を曇らせ、そして、不気味な笑みを浮かべて呟いた。

 

 

「今はまだ、だけど」

 

 

そのまま、能力を暴発させ、美琴を自身の電撃で飲み込ませた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

実験体(モルモット)、それが私、木原一族の異端児、木原那由多が幼くして選んだ人生だ。

 

私は、<置き去り>は『欠陥品』だ、一流の実験には一流の実験体でなければ、などと考え、自ら実験体へと志願した。

 

そして、『実験体を壊すことで限界を研究するのが第一歩』と考える身内の中でも最低で最悪で最高の狂科学者(マッドサイエンティスト)、幻生おじいちゃんに使い潰すように実験体にされ、髪の色も金色になってしまった。

 

私は、一族によるエリート教育を受け、幼い頃から実験も行っていた。

 

しかし、『実験体の安全まで完全に配慮していた』ので、一族内の評価は低く、『欠陥品』扱いされていた。

 

『諦め』を司る<木原>の病理おばさんにも、それは<木原>らしくないとお叱りを受けた事もある。

 

私は<木原>の姓を持ち、<木原>の教育を受けたのにも関わらず、<木原>らしくない。

 

<木原>の教育を受けなかった円周お姉ちゃんの方が<木原>らしいのかもしれない。

 

でも、私にはどうも<木原>のやり方が合わないのだ。

 

私と同じような<木原>、最も多くの実験体を殺し、1人も死なせなかった<木原>で、研究職を辞め、教師になった加群おじさんも昔いたけど、今はもうどこかへと行ってしまった。

 

<木原>の『欠陥品』である私は一体誰を見習えば良いのだろう?

 

そんなある日、私はお姉ちゃんたちに会った。

 

そして、お姉ちゃんたちの友達になった時、産まれてから感じていた物足りなさが消えた気がした。

 

そう、私は心地のいい居場所を見つけることができたのだ。

 

存在意義を得られたのだ

 

でも、それはたった数ヶ月でなくなってしまった。

 

お姉ちゃんたちが信頼する先生、木山春生によって……

 

だから、私は力を求めた。

 

復讐するための力を、お姉ちゃん達の約束を守るための力を求めた。

 

お姉ちゃん達のようになる人が減るのを望んだ。

 

その望みを叶えるため、より多くの実験に身を捧げた。

 

また、親戚の数多おじさんから一族秘伝の体術を教えてもらった。

 

さらに、布束砥信という『5本の指』の1校、長点上機学園の学生が生み出した<学習装置(テスタメント)>を用いた人体実験でAIM拡散力場を見れて触れるようになる能力を開花させることができた。

 

……でも、 学園都市とは異質の力を注ぎ込む実験を受けた際、あちこちが爆発して吹き飛ぶ重傷を負ってしまったが、 一族謹製で作られた『AIM拡散力場制御義体』でさらなる力も得た。

 

その際、<冥土帰し>には世話になったけど……

 

そして、幻想御手事件で木山春生の真意を知った。

 

彼女はお姉ちゃん達を裏切ってなかった。

 

だけど、彼女の計画は能力者達の頂点Level5の<超電磁砲>によって潰されてしまった。

 

彼女の行動は感心できることではないし、<超電磁砲>の正当性も分かってたけど、感情としては割りきることができなかった。

 

だから、<超電磁砲>が私の、お姉ちゃん達の憧れとして相応しいかどうかを見極めたくなった。

 

そして、<超電磁砲>という『壁』を乗り越えることで私の存在意義を証明したかった。

 

 

 

つづく

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