とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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リハビリです。


閑話 出発前の出来事

閑話 出発前の出来事

 

 

 

とある学生寮

 

 

『あらあ? こんなところに会えるなんて、なんて偶然力♪ ちょうどいいから付き合ってちょうだぁい♡』

 

 なんて。

 近くのスーパーに買い物に行く途中にある公園で、遭遇した超能力者なお嬢様S―――と彼女が率いる綺羅星のような何かが瞳の中で瞬く集団がわらわらと集まり、あれよあれよと人の波に押されてタクシーに放り込まれ……

 

 お星さまをお目目に輝かせる女子学生らがカゴメカゴメと腕を組んで人海戦術で取り囲んで完全貸切にされた、デパートの水着売り場。

 学園都市最大の繁華街・第15学区の中でも人気トップのデートスポット・<ダイヤノイド>を短時間とはいえその一画を専有せしめたのは、素直に凄いとは思うが超能力クラスの異能をバリバリと行使したのは超能力の活用法としてどうなんだろう、と無能力者は思う。

 

 うわー、これってバレたら説教もんじゃねコイツ。

 

 特別、密告(チクッ)たりするつもりはないが、どうせ愚兄が言わなくても、問題児監督を任されている妹のことだから知られるだろう。

 そんな未来(さき)を見た上条当麻は、最も説教もとい折檻を受けているものとして、南~無~……とそっと手を合わせた。

 

『ふふぅ~、そんなに拝まなくてもサービスしてあげるわよぉ♪ とりゃ私のセクシー力に悩殺されなさいっ☆』

 

 で、急に体をくねらせて何やってるんだコイツ? ひょっとして……ハラでも壊したのか?

 

 と心配し、体調不良のままあの過酷な苦行を受けるのは不憫と思い、『夏だけどお腹冷やしやすい恰好はやめておいた方がいいぞ』と年長者としてアトバイスした……結果。

 

『よーし、ここってスタンガンおいてないかしらぁ? なるべく電撃力がお子様レールガン並に凶悪なのが、ショック療法にはイイわよねぇ』

 

 女王様のご機嫌急降下。

 

 

 

 その後、最新の防犯グッズの実験台にされるところを、トランプ兵ならぬ老若男女店内にいる客全員に追われる鏡の国のアリスごっこから、どうにか這う這うの体で自身の学生寮まで帰還した。

 

(むっ、人の気配)

 

 まさかここまで追手が! 学生寮の場所は教えてないはずだが、人気デパートを制圧できる超能力者に住所特定など造作もないだろう。

 そぉ~~っと当麻は気配の方向に目を向けると、読みかけらしい本を膝に乗せ、ベランダ窓辺に背中を預け気持ちよさそうに寝ている少女……妹がいた。

 

「なんだ詩歌か」

 

 合鍵は最初から渡してあるのだから、勝手に部屋に上がりこまれたことは何も文句はない。そのくらいの遠慮は兄妹間にないものだ。しかし。

 

 すぅ……と。

 寝ている割には姿勢よく、しかし口が半開きになっている。

 時たま年相応の仕草を見せるのだから扱いに困るのである。この妹は。

 無防備もいいところだが、確かにそのように昼寝ができれば気持ちよいだろう。

 

(何か上に掛けるもん……タオルケットは、今ベランダに干してるようだし……ん?)

 

 折角の眠りの妨げにならぬよう音を立てず。視線を部屋に巡らす当麻はそれが目に入った。

 何か少し前に見たような表紙。

 そう、詩歌の膝の上にあるのは、水着のカタログ雑誌である。

 

(ああ、そういや学芸都市に行くんだったけか)

 

 妹曰く、学芸都市は基本、水着で過ごすものだそうだと。

 その話を聞いた時の自分の眉が顰めるものであったのは想像にし難くはない。

 そもそも愚兄的に、保護者同伴なしで海外に遠出するのは反対である。

 たとえ、その時期にちょうど偶然にも近くに出張予定の娘に溺愛してる父がどうせ行くものだとしても、世の中何があるかわからないのだ。

 

(とはいえ、妹がやる気になってることにあれこれとぐちぐち言うのは兄としてどうなんだろうか)

 

 それにこの夏休み、去年までは彼女はいないものの妹と人生トロフィー機能を獲得していたが、今年の当麻は受験生。成績が低飛行な愚兄は、あまり妹に構ってやる時間がないのだ。

 もしも言うのだとすれば、何も理由なくダメだダメだではなく、それは理路整然としたもので説かないと。

 

 それとはまた別に、兄として妹がどんな水着を着ていくかは気になるもので。

 検閲して、とりあえず最低の肌色のボーダラインはとりあえず50%以上だと。

 どれどれと、起こさぬようそっと膝の上の水着カタログ雑誌を取り上げて、そして何の躊躇もなくごくごく普通にペラリと表紙をめくり、

 

 

 そして、脳が処理落ちして、一瞬、目の前が真っ白になった。

 

 

「は、はあァーッ!? おい、ちょ、これ、何!? TバックだろうとNGなのに、OやVって―――ぶほっ、I!? どうやって着るんだよこれ!?」

 

 建前上、ローレグと紹介文に記載されているも股下から股上までが5cm――ベルトにしか見えない!

 着たままの状態でもあやとりのように7種の変化が楽しめる仕様―――ええ、これは凶器ですね! わかってる。

 ウォータリング素材ぃ? 透明なビキニの中に色つきの液体を入れておくことで、体の向きによって模様を変えられる―――本当に見えないのか!?

 乱反射クリスタルビキニ―――こんなのモザイクと変わらねぇじゃねぇーか! 形はごまかせても色がかわんねーぞ!

 

「無意味!! 圧倒的に無意味!!」

 

 それだけではない、隣のページを見れば、

 典型的なビキニの『外側』だけを紐で形作り、その中のちょうど局部をピンポイントに逆三角形の『点』状の布を当てただけのワイヤードビキニや一見すると白いスクール水着にしか見えないが水に濡れると三点以外全部透けてしまうスケルトンワンピ……

 

 こんなのヌーディストビーチでないと一発レッドの退場モンだろ。

 いや、愚兄も別に聖人君子ではなく、上条当麻個人の内部には女の子の肌色を追い求めるロマン当麻も存在していることは確かではあるものの、もう、あまりに露出過多すぎて、逆にエロくない。エロなんて次元を飛び越えてしまってんぞこれ。

 人間、未知との遭遇には混乱するしかねーぞ。

 

「くそ!! まさかこんなかのどれかを着るつもりなのかよ!!」

 

 発表会って超能力だけじゃないの!?

 おいおい学園都市、時代の先取りしすぎてんだろ! 専門的な特殊用語が多すぎて方針が何にも理解不能状態に陥ったぞ!! ホントにあと2、30年後には常識になってんのか。

 

 これはいくらなんでも説教しかねければいかん。そのためには、内容を理解しなければならない。

 しかしこれまで、オシャレに無関心な無精者の男子学生として、服飾関連に口を出すことをしなかったせいか、どうやれば賢妹のご乱心を阻止できるか不安ではあるものの……

 

「っ!」

 

 次のページを捲ろうとする、科学の禁書(カタログ)を握り締める上条当麻の右手に汗が滲む。

 

「やっぱりゲンゴロできねーよな。なんというか、言葉に言い表しにくいけど、この情報には『圧』みたいなものが……」

 

 別に年齢制限が課されているわけではない。コンビニや書店の棚に並んでいても何の違和感もないだろう。

 どこにでもあっても不思議ではない。

 しかし。しかし、だ。当麻にはどうしてもこの書を漫画週刊誌のような気軽さで読み進めることはできない。なんというか、おかされる。下手をすれば性格も変わってしまいかねない、そんなオーラ、そんな『圧』が確かにある。思春期丸出しの男子学生の上条当麻にとって、写本であっても書き込まれた叡智(どく)を寿命と引き換えに解読しなければならないような代物と同然。そんなものと同じ扱いをされたら図書館の修道女とその管理者達がお怒りになるのだろうが、こちとら頭に血が上っていて知恵熱に茹ってきている。

 それでも、けして男の子な興味本位からではない、保護者フィルター的な検閲義務として、震える右手は意を決して次のページへ―――

 

「………………………………………………………………へへっ。手遅れだ。この街は斜め上の未来に生きてる」

 

 にへら、と上条当麻は力なく笑った。

 

 セックスアピール水着!

 学園都市の科学技術の粋を集め、3万8000種の動物の求愛行動を参考に設計された、究極の一品!

 生物が生物として最もセクシーだと感じるものを片っ端からかき集めた、老若男女どころか鳥獣魚虫まで問答無用で発情させます!

 そのこだわりようは単なるラインの視覚効果だけにとどまらず、内臓された小型スピーカーや布地に織り交ぜられたフェロモン芳香粒(電気散布式)まで利用し、五感を多角的に極悪に攻める!

 舐めれば求愛味!

 触れば求愛感触!

 いいや、もはや得体のしれない超技術で第六感的求愛の領域にまで達しているかも?

 

 ……ただし一つ注意点があるとすれば、これは着用者が一番影響を受けるので、発情しっぱなしの

 

「―――なんてもんこの世に発明してんだよ。ああ、考えるのは自由だ。だとしてもそれを頭の外から作り出しちゃ倫理的にストップがかかるもんってあるだろォ!! 核兵器並の危険物を開発した責任者はどこのどいつだ、そいつのドタマごと幻想はぶっ殺ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!!」

 

 右の拳を自らぶっ壊しかねない勢いで岩のように握り締め、

 軋音が煩く、歯をも砕かんばかりに噛み締め、血の涙でも流さんばかりの鬼気迫る顔の愚兄の頭上、

 雑巾絞りのように捩じり切ったカタログの紙片が舞う。

 元凶を駆逐しようにも、もはやその思考は賢妹を冷静に諭せるだけの余裕がなくなってる、も―――

 

「諦めんじゃねぇ上条当麻。妹が間違ってれば止めてやるのが兄ってモンだろ。この社会的に生きるか死ぬかの瀬戸際を見逃すな。絶対死守ラインだ。集中だ。集中しろ。……よし、一度『ゾーン』に入るぞ」

 

 精神コマンド的な自己暗示で、混乱異常から状態を戻した愚兄。

 そこから、瞬間的な爆発的な脳思考演算。

 その周囲の景色から色音さえカットした、時間が停止したかの如くの集中力。

 この状態を後の模擬試験中に発揮できてればと思うほどで。そして―――

 

 

 

「―――見えた。勝利の方程式」

 

 

 

 閃く。

 

 一つだけでは危険物。

 しかし、酸性に塩基(アルカリ)性のものを混ぜれば、中和されるのが物の理だ。受験生としてきちんと勉強してるのだ。

 

 そう、重ね着ならば―――!!!

 

「まず、この乱射クリスタルビキニってのは、形はごまかせても色に不安がある」

 

「ふんふむ。当麻さん的についつい見ちゃうって感じですか?」

 

「ああ、視線を持っていかれることになるだろう可能性は高いだろうな。だが、そこでウォータリング素材のを上に着れば……どうだ!!」

 

 くわっっっ!! とひとつの真理に至ったように大きく、限界以上に開眼して上条当麻は告げる。

 

「形はごまかせるが色が見えてしまうかと不安な乱反射クリスタル水着だが、そこに色のついた模様が変幻するウォータリング素材の水着を組み合わさることで、互いが互いの欠点を打ち消しあう相互作用が生まれる。

 つまりっ! 一つではエロ水着でも二つ重ねれば帳消しにされて、問題はなくなるんだっっっ!!!!!!」

 

「色のついたクリスタルって、なんだかミラーボールみたいですねー」

 

「うむ!!」

 

 上条当麻は腹式の丹田に力を込めて、一つの幻想をぶち壊したかのよう大げさに天井に右手を突き上げて、言い放った。

 

「これは誰も予想しなかった、この当麻さんのみが唯一弾き出した解答!! ズバリ、この新たなステージを、ミラーボールスタイルと言おうじゃないかーっ!!」

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

 で。

 

「ふふふ、人が寝ているところを盗り取った女性水着のカタログを手にし、革新的なアイデアを堂々と口にする、この図。まあ、主義主張は個人の自由で保障されていることでなんも問題はないわけですし、優しいかわいい妹は温かい目で見守りましょう」

 

 だめだ。幻聴が聴こえる。上条当麻を満たしていた高揚感がサァーッと引いていき、客観的な現状把握能力を回復したところで、ぎぎぎ、と首を回しその方を確認する。

 そこにあるのは―――微笑。寝顔ではなく、笑顔。ただし、若干生温かい。

 

 これって……

 もしかしなくても……

 終わってるんじゃないのだろうか……

 

「………………………ちゃうんです」

 

「違う? ああ、なるほど。こういう時は、流石ですお兄様、とよいしょするべきでしょうか」

 

「やめて! こんなとこで持ち上げないでーっ! い、今のは戯言でありまして……。ほら、お兄ちゃんがボケたのに、詩歌までボケたら収拾がつかなくなるだろ? しっかりツッコミいれてくれないとっ。ね?」

 

「当麻さん、言葉というものは一度胸の内から外に発してしまうと取り返しのつかないものなのです」

 

「あのでございますね。とても詩歌様の記憶に入れておくには相応しいものでないというか……いや、その……けしてやましい気持ちから出た主張ではないので、誤解しないでいただきたいというか」

 

「うんうん」

 

 まだ寝起きで目がとろんとしてるというか、いつもよりもゆったりめな慈愛な笑みで頷く詩歌、どうやら脳活動が何割かカットされている天然気味な賢妹が胸ポケットから黒革の手帳とペンを手に取った。

 

「なぜそこで手帳を取り出すんでせう!? まさかそれは伝説の―――」

 

「違いますよ」

 

 言って、賢妹は手帳に何やら書き込み始めた。

 

「え、じゃあ、何書いてんの?」

 

「うん? 兄名言記録帳を更新しているだけですが」

 

 どうやら、死神から寿命を決められる閻魔帳(デスノート)ではなく、羞恥で首を吊りたくなる黒歴史(ブラックヒストリー)のようである。

 

「別にやましい気持ちではないのでしょう。ええ、なかなか聞けない斬新なアイデアでしたよ。しかし詩歌さんの理解力が足りないせいか、どうしても誤解してしまいそうなんです。一妹としては、この『当麻さんの提唱するミラーボールスタイル』と題して客観的な記録しておきたいですね」

 

 どんなに名言と賢妹が言おうと、それを読んだ人間には迷言としか思われない気がする。

 

(っていうかいつまでも詩歌さんが冷静でいられると当麻さんがものすごく恥ずかしいんですけどなんかこう……『女性水着のカタログを覗き見て何考えてるんですか!?』とか『この変態兄貴! その思考、矯正してやる!』とか、そういうリアクションが欲しいんでせう!

 何でもいいから説教してくれないと、お兄ちゃんものすごく胸締め付けられんだけどーっ!!)

 

 とそんな愚兄の心境を一切無視し、

 

「ちょうど発想に行き詰っていたところなので、根掘り葉掘り質問しますがいいですか? 葉っぱまで掘っちまうくらいに聞き出しちゃって、たっくさん花咲かせちゃいます。まずは何を参考にしたら天啓が閃いたのか訊いてみたいです」

 

「………………あー、アレだよアレだねアレでせう」

 

 やましい気持ちが出発点ではないことは確かなのに、途中から悶々としていたことを白状したくなった。

 

「当麻さん……オレオレ詐欺じゃないんですから、『アレ』などとわけのわからない表現はなさらない方がよろしいかと思います」

 

「玉虫色表現は、日本人のお家芸だ。カオティックの中から生まれ出たから、うまく説明付きにくいかなーと。だから、記録したって無駄じゃね」

 

「これは当麻さんがそういうものがお好みなら、と少々特殊になりますので忘れないうちに詩歌さんメモしておきたいです!」

 

「メモらないでください、忘れてください、記憶から完全消去してください、お願いします。とにかく、上条当麻はそういう人ではありませんからー!」

 

 これ以上、この話題をするのは危険。

 底なしに最安値を更新し続ける兄としての株もそうだが、このままだと上条当麻の想像の中の『愚兄の提唱するミラーボールスタイルバージョン詩歌』が実現してしまう。

 まさしく、幻想投影である。

 それはある意味で当麻の夢を具現化したものであって、見たいか見たくないかと問われれば前者である! だが、それでも妹のためを思うのならば、なんとしても幻想はぶち殺さないとあかんのである!!!!!!

 

「そんなことよりもだ。詩歌さんや」

 

「はいなんでしょう当麻さん」

 

「当麻さん常日頃口酸っぱくして言ってきたでしょう? 清楚を大事に。このカタログを読んだが―――足りない。まったく足りない。明らかに肌色50%越えしてる布面積もそうだが、圧倒的に慎みが足りてない!」

 

「うーん、でも当麻さん。想像してみてください。開放感溢れる南国ビーチで、あまりイモっぽい水着だと逆効果で悪目立ちしてしまいます」

 

「だからってなぁ―――「じゃあ、実際に見てみます?」」

 

 へ? と言葉の意味の理解に停止した当麻の目の前に立ち上がる賢妹。そして止める間もなく、詩歌が自分のスカートをまくる。

 

「っ!?」

 

「ふふふ。ちゃーんと、着てますよー」

 

 ―――水着、だ。ビキニタイプのもので形は同じようなものだが、水着である。

 

 しかしさすがに驚く……

 奇襲攻撃(イタズラ)だとすれば頭に大をつけるくらい成功してる。

 受け流すことを得意とするブドウマスター当麻であっても、切磋琢磨に不意打ちスキルが磨かれてるアサシンマスター詩歌は一度喰らってしまえば立て直しも難しいもので。

 

「ちょっと忙しくて通販で取り寄せたものですから、サイズに不安がありまして……私の学生寮で着替えようとしたら、親の仇を見るように陽菜さんに待ったがかかりまして。ルームメイトの精神安定を無視したら、部屋が大炎上してしまいかねませんので。ここでチェックを。

 それに男の人がこの水着でどういう感じに見るのかも勉強できますしね」

 

 サマーセーターを脱ぎ、

 前のシャツのボタンをはずし、

 スカートのファスナーをおろし、

 

 とここに至った経緯を話しつつ詩歌が段階をつけて服を下に落としていき、細く浮き上がった鎖骨や綺麗な隆起曲線を描く胸。そしてほっそりとした脾腹があらわになっていく。

 ただ制服を脱いでるだけのはずなのに、酷く倒錯した空気が流れる。

 

「じゃん! どうですか」

 

 これって、妹の着替えを見せつけられているということになるんでせうか?

 ちゃんと水着だとわかってるんだが、胸の下で服を押さえるポーズをとられると、こちらも鼻の上を押さえたくなる。

 直視し難いのに目を逸らすことができないほど、強い主張がその肢体にはあった。

 

(…………いかん。何秒見た)

 

 周りが女子ばかりのお嬢様学校に通っているからかといって、こういう男子的な視線に無頓着なのは問題だ。人格的に無防備すぎる。

 既に目を閉じても細部までくっきり思い出せるほど、脳裏に焼き付いてしまってる。

 

(……落ち着け。心を無にする。当麻さんは、木石の如く無の心で動揺を鎮めるんだ。地蔵モードオン)

 

 視界に入れると大変アレなので愚兄は顔を横へむける―――も、すすすと詩歌も合わせて円を描くようにすり足でついてくる。

 

「なんで対峙するんだ」

 

 >当麻は、逃げた。

 >しかし、詩歌に、回り込まれた。

 

「そりゃあ、当麻さんが、折角、いの一番に今年の水着を見せたのに、反応が薄いからです」

 

 逃げられないのは仕方ない。

 上条当麻は逃げ足回避能力に自信があろうと、行動パターンを把握されてる賢妹は魔王も同然なのである。

 そういうわけで、意を決して真正面を向くと、

 

「うーん……」

 

 詩歌が水着の紐の位置を整えながら自分の姿を見下ろして、首を傾げている。『気に入ってもらえなかったのだろうか?』と思ったことが顔にありありと書いてあるのがわかる。

 

「水着について語ったあの熱意はどうしたんです? もしやこれは当麻さんのミラーボールスタイルくらいパンチがきかないとノックアウトしねぇぞという意思表示?」

 

 突然の状況からのオーバーヒートとクールダウンの繰り返しのせいで、まだ頭の回転が不調な愚兄。試行とは裏腹に会話のテンポが遅れ気味で、しかし早く説教して止めないと事態は一向に加速していくばかりである。このままだと最悪のピンチを脱したというのに会話が逆流してしまう。

 

(まずは、冷静に、相手の脅威度を確かめるんだ)

 

「……それにもぶっとんだ特殊機能がついてんの?」

 

「? 普通の水着ですよ」

 

 ほっと内心でまずは胸を撫で下ろす。

 

「……じゃあ、なんでカタログ読んでたんでせう?」

 

「ちょっと水着づくりの参考に、水泳部の子たちの伝手から特別に研究企業の方から取ってきてもらったんです」

 

「お前にとって、水着は作れるものなの?」

 

「学校では、ドレスの仕立ても習ってますよ」

 

 家事スキルが斜め上に突き抜けてる賢妹である。

 

「操祈さんは外見に気を使うんですけど、あの子は、こちらが指定しないと無難に済ませちゃうでしょうし、短パンとか機能的な方に嗜好が傾いちゃってるんです。―――しかしっ、幼馴染の晴れの舞台! 常盤台中学は、最高学年の三年は進路に集中させるため、二年が新入生の一年の面倒を見るのが通例、姉妹制度ともいわれる伝統であって、

 つまり、詩歌お姉ちゃんが手を抜くわけがないのですっ」

 

 グッと握り拳をとるポーズ。

 無駄に気合が入ってるところを水差すようで悪いが、それの参考にしてるのが斜め上な最先端(アレ)である。

 

「断られたら、どうすんの?」

 

「大丈夫です。ちゃんと“エサ”があります。意外と新しい扉が開くかもしれません」

 

 どこでどうなってそういう予想になるのか、愚兄では考えの及ばない高次元人心掌握術でも持ってるんだろう。

 

「もうほとんど時間的に余裕がありませんが、夜なべしてでも彼女にピッタリなビックリドッキリ発電系能力者(エレクトロマスター)専用水着を用意して見せます!」

 

「うん、あまり無茶すんなよー」

 

 賢妹の背景にメラメラと燃えているイメージが見えて、止めてもダメなパターンだと悟る愚兄。

 とりあえず、その『発電系能力者の幼馴染』のためにも、無駄に有り余る才能を使ったとんでも水着でないことを祈っておこう。

 

「あ、当麻さん、お土産のリクエストはあります?」

 

「リクエストねー……」

 

 妹のセンスに任せても問題ないと思うが、そもそも自身の身の回りの出来事くらいしか受信しないアンテナの低い愚兄であるからにして、『学芸都市』といわれて具体的にぱっと連想できるものがない。というか、実演旅行の件で初めて知ったくらいである

 しいて、位置的になんとなくハワイアンなイメージが思い浮かんだんだが……そう、今の水着詩歌が浜辺を歩いて―――

 

「……流石にそれはちょっと」

 

 急に顔を赤らめる賢妹。

 

「どうした詩歌」

 

「いくらなんでも詩歌さんをお土産(プレゼント)にするのは……でも、欲しいなら―――」

 

「本当にどうしてその発想に至ったんだ詩歌さんや!」

 

「こちらをじーっと見つめてたので。目は口よりも訴えるリクエストで察しました」

 

「以心伝心に齟齬が生じているようだから、ちょっと真剣に口で家族会議を語り合おうか!」

 

「はい、そうですね。人間、口で言ってくれないとわからないものです。

 ―――というわけで、水着の感想はどうなんです? そろそろ聞きたいんですけど……」

 

「え、ああ、似合ってるんじゃないでせうかー」

 

 ふんふむ、と詩歌は片目を閉じる。

 こちらが適当に流してることを察しており、またそれに向こうは納得してない。おそらく何か要求してくるだろう。

 さて、どんな無茶ぶりが飛び出してくるか不安なところだが、これまでの会話時間は立て直すには十分余裕があり、先とは違い地蔵フィールドが展開しているのである。この上条当麻、制空圏内に入れば、右から左へと流して見せよう。

 

「じゃあ、これで詩歌さんを撮ってください♪」

 

 と携帯カメラを渡される。

 微妙に肩透かしを食らわされた気分になるものの、警戒は怠らない。

 青春とは予想もつかない方向から襲い掛かってくることもある野獣の如きものなり。

 目の前に相手がいようとどのようなハプニングが起こるかわからないので心構えは解くべからず。

 とはいえ、あまり却下しすぎて機嫌を損ねるのも好ましくない。

 

(……まあ、写真写りを確かめたいのか)

 

「合図から10秒間、いろんな表情をするので、『ここだ!』と直感した瞬間に、一度だけシャッターを押してください。

 今、この時の私の気持ちを表情に込めますので、かわいく撮ってください」

 

「なんで一度だけなんだ? 記録容量は余裕だし、何枚撮っても同じだと思うんだが」

 

「『二本の矢』のたとえです。この優しいかわいい妹が求めるのは、当麻さんの瞬間最大風速です。あの『ミラーボールスタイル』を熱く語った時のカミカゼをもう一度! てきとーに流して撮った写真に魂はこもりませんッ!」

 

 大真面目な顔で言い切られた。一度引き受けてしまった以上は、断るわけにはいかず、また暗に先ほどの返しを責められている。

 

「素人になんて高い要求をしやがんだ……」

 

「技術云々じゃありません。かわいく写るかどうかは撮る人の気概次第だと思います。いわば、そのものの心象風景です」

 

 人それを理不尽なプレッシャーというのではないか。

 でも、今どきのカメラは『おまかせ』にしておけば素人でもある程度の出来になるだろう。

 

「そしてそれで詩歌さんは当麻さんのグッとくるポイントを学習するわけです」

 

「せんでいいせんで」

 

 まあ、合図されてからカメラのシャッターを切るだけの簡単な仕事だ。いざとなれば目を瞑ってでもできるのだ。なにせもとがいいのだから適当に撮っても絵になるだろう。かといって早々にシャッター切って仕事を済ませてしまうのも手を抜きすぎるのがバレるし、誠意が疑われる。またどんな奇襲を仕掛けてるのか思惑が分からない以上は迂闊に目を離すのは危険なので、ポーズだけは取る。

 方針を決めて、精神統一に深呼吸するカメラマン当麻を他所に、モデルの詩歌はそのままごろん、とベットに寝そべったのである。

 

 最初にズームボタンを間違って押してしまったせいか、レンズが肌色いっぱいだった。

 今の彼女はお腹を出したビキニだが、今は更にそれを見せびらかすようにしている。完全に弛緩した状態で、無防備な姿をさらしている……そう、服従を誓う犬のようなポーズだ。あの賢妹がそうしていることに、意味の解からない興奮を覚える当麻だったが、その程度であっさり我を忘れるほど精神は軟ではない。

 

 レンズ内で、なんとなく焦点を当ててるおへそを隠すよう、手のひらをお腹に這わせられる。

 

「ん……と、当麻さんポイントはここですか?」

 

「いや、気になったというか……普段見えないとこだったが、詩歌って腹筋割れてないんだな」

 

「師匠から腹筋は割れない程度の配分に鍛えるようにと言われてるので意識してるんです。何分、腹筋の割れた女性というのは男受けがあまりよろしくなく、そこまでする必要はない。というか、似合わないそうで……」

 

 とはいえ、触ってみないと確証はできないが見てる感じ、ぷにぷにと程よい脂肪がついてるだろうけど、下にしっかりとした筋肉があるのだろう。こう、身をよじるたびに内で動いてるのがわかる。

 これ以上意識を向けすぎないよう、全体像が写るよう、徐々にズームを調整していき―――水色のラインが流れ落ちるのが画面に入った。

 

 

 ぱさっ。

 水着によって支えられていた大きく実った果実が、フルルンと瑞々しく弾む。

 

 

 パシャッとフラッシュが瞬く。

 

「ふんふむ、このタイミングですかなるほどです」

 

「……………………………………撮ってから言うのもなんだけど、水着が脱げかけてるぞ」

 

「―――はい?」

 

 寝っ転がった拍子にどこかを引っかけたのだろう。とはいえ、胸のリボンが解けたようだが、それでも布地は貼りついてるように剥がれてない。

 と、一拍おいて、賢妹は意外にも固まって頬を染めた。

 

「つまり、ここで『この右手でその幻想をぽちっとな』しちゃうってことは、当麻さんのグッとくるポイントはこういう場面なんですね?」

 

「写ってるとは思うけど、当麻さんはちゃんと笑顔の方を撮るつもりでして……」

 

「さすが当麻さんですね。正直、私を恥ずかしがるポイントをわざと捉えてるんじゃないかと油断なりません」

 

 いそいそと紐をまた結び直してから回収したカメラのチェックを行う。

 

「それともまさか、詩歌さんにとって恥ずかしい写真にしておけば変な使われ方をしないで済むとでも考えてませんか」

 

「けしてそんなことはないぞ。いやほんと、たまたま、偶然、こうなってしまったというかなんというか」

 

「意識なしにシャッターチャンスを狙われる方が、危険度が高い気がしますけど、まあ、見たところ問題ありません。

 あまり動くと胸元のリボンが解けて外れそうなデンジャラスな感もあるようですけど、実はヌーブラと同じでトップ全体がペタッと胸に貼りついてるんです。だから間違って解けてもポロリはありません。意外とガードは固い安心設計なんですよ。

 残念でしたね当麻さん」

 

「兄としてはひとまずは安心できる代物らしいが、何故そこで残念なのかを言われるのかお伺いしたいとこなんだけど???」

 

「ふふふ、それとも映りも結構いい出来ですし、旅行中さびしくないようにこの写真を枕元に飾っちゃいます?」

 

「いや、いい」

 

「……今のご時世、声をかけるだけで騒がれたりするそうですが、家族ならセーフ。恥ずかしがることはありませんッ。家族の写真ですッ。

 それとも当麻さんは優しいかわいい妹の写真がいらないんですか?」

 

 ぷくーと賢妹の頬が膨らんできた。

 いや、確かに家族の写真が写ってはいるのだろうが。

 

「普通の写真なら何枚でも飾ってやるが、それは違うだろ。部屋に誰か来たときとか問題だろ。笑いのネタになるならまだましだが、『うわ、こいつシスコン大将』とか引かれたら困るだろうが」

 

「その時は責任を取って……毎週新作をお届けします♪」

 

「誤解を解くどころか収拾をつかなくさせてどうすんだよマイシスター!」

 

「それとも思い切って、抱き枕も作っちゃいます?」

 

「あのな。妹の抱き枕を見て、どんな気持ちになるかわかってるのか」

 

「……どんな気持ちになるんですか?」

 

「………」

 

 黙り込むと詩歌がジリッ、ジリッと、すり寄ってきた。

 

「さぁ、思い切って言っちゃってみましょう当麻さん! カミカゼは二度吹くものですよ!」

 

「目を輝かせるんじゃあないマイシスター!」

 

「いえいえ。今後の対策を練るためにも、貴重な兄の意見感想は参考に大事です」

 

「言わん。黙秘権を行使する!」

 

「ぶぅ~、けちんぼ。これくらい教えてくれてもいいじゃないですか」

 

「絶対に訊かれても答えん」

 

 両手で耳を塞ごうとするも詩歌にひっぺ剥がされる。

 

「ふふふ、言うまで放しませんよ~」

 

「く、相変わらずその細腕にどんだけ力があんだよ……」

 

「家事って意外と筋トレになりますし、師匠に鍛えられてますから」

 

 その気になれば空き缶を握り潰せる握力。見た目でわからないスペックの高さは、卑怯とさえ思うところがある。お仕置きのアイアンクローの時は特に。

 

「―――だが、体重は軽いんだなー」

 

「おっ、およよよっ! 当麻さん!?」

 

 一部分がたわわに育ってるものの平均身長より若干小さめな身軽さは、見た目通りである。持ち上げるのは造作もない。

 

「放さないとこのままベランダに追い出すことになるぞ」

 

 ほれほれーとブランコのように揺らす。―――それがいけなかった。

 

「やっ、っとと、急にやられると、バランスが―――「むぐっ」―――ひゃん!?!?」

 

 手を放した詩歌が―――そのまま―――抱き着いた。

 

「――!! ―――! ――!!」

 

 ま、前が見えない……

 というか、この完全に視界が覆い尽くされる絶景、というか、むにゅううぅぅと顔全体を覆っているおそろしくやわらかくて温かな感触は――しかも、今は水着で、ほとんど生肌で――愚兄の言葉を封殺するには十分すぎた。

 表情筋をフルに酷使して一切表に出さない。

 たとえ『女の子はやわらかいものだと人生トロフィーを獲得した』と思ったとしても、それは心の内に秘めておくべきものなのだ。

 が。

 詩歌が息をしているだけでも、それが上下にこすり付けられていて……これは……なんというか……

 

 すごい―――

 という我ながら意味の分からない感想を思い浮かべてしまう。

 

 もう、のしかかれている重み――といってもあまり重くない――にまで心地よさを覚える。この事態に幸せなものを感じられるほど。

 

 が、このままだと下手をしなくても天国行きになりそうである。

 

「ほひ~……」

 

「し、詩歌さん……」

 

「ひゃんっ! い、今しゃべらないで!」

 

 ぎゅうっ! とさらにきつく抱きしめてきた。

 い、息が。

 

「すうぅぅぅっ」

 

「ひゃぁぁぁっ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 今頃、学芸都市への能力実演旅行へと向かってるであろう、とある学生寮。

 

「………」

 

 模試を行う三沢塾へ向かう前、朝の郵便受けから“ソレ”が入った封筒を改めて、固まる上条当麻。

 思い返すは、あの日。

 あのあとも絡み合いがさらにこんがらがって大変だったが、そこは割愛する。

 ―――何故ならば。

 密着した賢妹の身体の柔らかい感触とか、動くたびに髪がくすぐりすれて薫る芳香とか、敏感肌に悶える吐息とか、そういった物が原因で湧き出る煩……ものを抑えるのに忙しく、このままだと人生の記念トロフィーを賢妹で埋め尽くされそうな勢いであった。

 よって、最初を以外はほとんど覚えていない。余裕がなかった、いやほんとに。

 

 とりあえず、水着の検閲は、無理やり抑え込む水着を着ても、体のラインが強調されて逆効果になる気がするし、でかいパレオを巻いておくことを厳命することで終いとなった。

 

 

 

 で。

 封筒に入っていたのは、写真である。わざわざ写真立てに入ってる。

 ただ、まるで当麻の手のひらの上から小人が“浮かび上がってるよう”に見えるのだ。

 

 騙し絵『トロンプ・ルイユ』

 フランス語で『眼を騙す』という意味で、超現実――現実を無視したかのような、夢幻を目撃しているかのような、人に独特の非現実感をもたらす芸術作品――シュルレアリスムにおいてよく用いられる技法。

 愚兄的にわかりやすく言い換えれば、『トリックアート』だ。

 映画スタジオのリアルな奥行きを感じさせる舞台美術における背景セットによく利用されていて、その二次元で三次元を再現する騙し絵手法を学園都市の写影技術で成したのが、この写真。

 

 と、わざわざご説明のメモもついていた。

 なんと無駄に手が凝ってるというかなんというか、我が妹ながら抜群の笑顔でご利益がありそうだが―――あの時の写真だ。

 写真とわかっていても、その犬の服従ポーズでさらけ出されてるお腹を指の腹で撫で触ってみたくなる魔性の欲求に駆られるような、

 そして、それに従ったら何かが終わるかもしれない。それともはじまるのか?

 落ち着け俺の思考。はじまるものなど、なにもないぞ!

 

「そうだ。わかってる。これはただの紙だ」

 

 妹で、紙で、平面で……―――うん、裏返してしまえば問題ない。

 

「……、」

 

 ないのだが、戻す。

 裏返しておくのは、なんとなく後ろめたいというか、すごく悪いことをしている気分になる。

 かといって、枕元に置いておくのは気恥ずかしすぎるし、それで夢にも出て悶々としてしまったら愚兄的に禁固刑に処される有罪判決(ギルティ)である。

 また常にポケットに忍ばせて持ち歩くなどもってのほかだ。どうせ自分のことだから、不幸にもどこかに落としてしまうことになるだろう。

 なるべく、隠さないけど人目に入らないような所に……

 

 そこで、ふとそれが視界に入った。

 

(ああ、あれは父さんからの……)

 

 先月のことだ。

 家族ぐるみの付き合いがある、とある知り合いの統合コンサルタントから、家電ゴミから金やレアアースを再利用(リサイクル)する回収事業を支援してみないかと誘われて、ブラジルへと出張した父の上条刀夜はそのまま北上しながら現在いるであろうアメリカへと渡ったそうだが、

 部屋の隅の箪笥棚の上にある数個の置物はすべて、その途上に父が寄った地域から見つけてきたという、とある部族っぽい(アステカ文明のどうたらこうたら)土産のトルコ石でできたお守りだ。

 

 それはタグのようなものが貼り付けられており、そのアルファベットや数字は何らかのコードのようだが解読は無理があって、ぶっちゃけて当麻には意味のない情報である。

 ぱっと見で詩歌がフランス語でもイタリア語でもないと見抜いて、アルファベットを使わない文化圏の言葉を無理にアルファベットに似せたような綴りではないかと予測。

 それから賢妹が『直感的に(なんとなく)これがいい感じです』と棚の上に配置してから―――一度も動かしてない。

 愚兄の右手は、<幻想殺し(イマジンブレイカー)>。神様の奇蹟さえ打ち消すようなもので、お守りとかそういう神様系な代物に触れるのはなるべく遠慮していたのだ。

 そこを、ちょっとお守りの位置をずらせば、写真立てを置けるスペースが空く。

 

「ここなら目立たないし、指摘されるまで気づかないはずだ。こう、なんか、飾ってみると、神棚っぽく……」

 

 

 

 その来年の夏。それもちょうど一年後の話。

 ある陰陽博士は、宝くじが当たるよりもはるかに低い確率で素人が偶然に組み上げてしまった独特の陣形を見て警告した。

 

 陣形というのは、ただ壊せばいいというものではなく、

 そのレールを組み替えたり、中途半端に壊してしまえば何が起こるかわからない、下手に弄ればこの状況より最悪になりかねない、と。

 

 

 

つづく

 




大変お待たせしました。

およそ3か月ほど放置して申し訳ありません。

色々とあって……というより、パソコンがバックアップごと壊されてしまい、データが真っ白に帳消しとなりました。

おかげで1か月ほど物書きする気力がなくなってしまいましたが、今は新しいパソコンに切り替え、自身の記憶から発掘する作業に四苦八苦してる最中です。

でも、一応、生きてます。

また次回の更新が遅れることになりそうですが、なるべく早く投稿できるよう頑張ります。
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