とある愚兄賢妹の物語   作:夜草

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絶対能力者編 絶対能力進化計画

絶対能力者編 絶対能力進化計画

 

 

 

路地裏

 

 

 

日が暮れ、闇に包まれた路地裏。

 

そこを、白、孤独なまでに他の色を一切含まない純粋な白さもった少年がたった一人で歩いている。

 

そして、彼の目の前に一人の少女が現れる。

 

 

「現在時刻は20時48分です。第9982次実験開始まであと11分40秒ですので、所定のポイントへ移動をお願いします」

 

 

その時、愉悦を感じたかのように少年の口角がつり上がり、血のように真っ赤な双眸が見開かれた。

 

 

 

 

 

とある学生寮 初春の部屋

 

 

 

「はい、もしもし」

 

 

『初春さん。夜遅くにすみません。詩歌です。唐突ですが、そちらに美琴さんはいらっしゃいませんか?』

 

 

「え、御坂さんですか? 御坂さんならここにいませんが、先ほど電話がありましたよ」

 

 

『……初春さんに電話……失礼ですが、何をお話になられたか教えてくれませんか?』

 

 

「えーと……ZXC741ASD852QWE963‘について調べて欲しいって―――」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『<妹達>を運用したLevel6への進化法

 

学園都市には7人のLevel5が存在するが、<樹形図の設計者>の予測演算の結果、まだ見ぬLevel6へ辿り着けるものは、1名、Level5序列第1位、<一方通行>のみと判明した。

 

この被験者に通常の<時間割り>を施した場合、Level6に到達するには250年もの歳月を要する。

 

我々はこの<250年法>を保留とし、実戦による能力の成長促進を検討した。

 

特定の戦場を用意し、シナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作する。

 

予測演算の結果、128種類の戦場を用意し、<超電磁砲>を128回殺害する事でLevel6に進化する事が判明した。

 

しかし、<超電磁砲>を複数確保するのは不可能である為、過去に凍結された<量産型能力者計画>の<妹達>を流用してこれに代える事にする。

 

武装した<妹達>を大量に投入する事で性能差を埋める事とし、2万体の<妹達>との戦闘シナリオをもって、Level6へと進化を達成する――――』

 

 

 

 

 

河川敷

 

 

 

少女は路地裏から必死に逃げてきた。

 

少女の身体には無数の傷が刻まれ、そして、少女に不釣り合いのものを二つ装備していた。

 

額にある破損している軍用ゴーグルと肩に掛けられているアサルトライフル、F2000R<オモチャの兵隊(トイソルジャー)>。

 

そのせいか、少女はお嬢様養成所と呼ばれている常盤台中学の制服を着ているというのに、まるで苛烈な戦場にいる兵士の1人のように見える。

 

 

(やはり、<オモチャの兵隊>では通用しませんか……)

 

 

<オモチャの兵隊>は赤外線によって標的を捕捉し、電子制御で『最も効率よく弾丸を当てるように』リアルタイムで弾道を自動調整する。

 

しかも、射撃による反動は『卵の殻すら割らない』程軽い。

 

つまり、これさえあれば小学生ですら人を容易く殺す事が出来る。

 

しかし、<オモチャの兵隊>を携えていても少女は背後から迫りくる影に脅威を抱いていた。

 

 

(あと少しで―――ッ!!?)

 

 

その時、少女は真上から落ちて来たナニカに吹き飛ばされてしまう。

 

少女の体は10mほど飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 

「悪ぃなァ……。今日はちっと、機嫌がよくねェンだ。だから、とっとと、終わらせてもらンぜェ」

 

 

そのナニカ、少年はゆっくりと少女へ近づいていく。

 

 

「ミサ…カは」

 

 

少女、9982号はおぼろげな意識の中で、対峙している相手の今日の攻略の仕方を思い出す。

 

 

「目標の能力を正確に把握できていません…が―――」

 

 

目の前の少年は、ありとあらゆるベクトルを操る学園都市の第1位、

 

化物だと呼ばれる最強の能力者、<一方通行>。

 

 

「これまでの実験結果から周囲にバリアのようなものを張り巡らしていると推測します」

 

 

そして、今まで何千回も自分を殺してきた相手。

 

 

「しかし、目標が地に足をつけて歩行していることから、下方――少なくとも足裏には能力は展開されていないと思われるため、足裏からの奇襲が最も有効的であると結論付けます」

 

 

9982号は振り向いて、一方通行が所定の場所にできた事を確認する。

 

 

「何、ブツブツ言ってンだが、知らねェが、次で今日の実験は終わりにするぞ」

 

 

「はい、これで終わりですとミサカは宣言します」

 

 

瞬間、一方通行の足元に凄まじい爆発が起き、辺りを爆風の渦へ飲み込んだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

9982号はフラフラな足取りで一方通行の生死を確認しようとする。

 

 

「目標……完全に沈黙……?」

 

 

が、その時、真横から何者かが迫りくるのを察知した。

 

 

「ざァーンねンっ!! テメェの考えはてンで的外れなンだよォ」

 

 

しかし、振り向いた時には既にもう遅く。

 

左足を引きちぎられ、向こうの線路に敷かれている車両まで投げ付けられる。

 

 

「うっ」

 

 

四肢がバラバラになりそうな衝撃。

 

9982号は息をしているが、もう指先一つすら動かせなくなった。

 

一方通行は虫の息の9982号を見て、一瞬だけ目を細めると、9982号を叩きつけた車両を浮き上がらせる。

 

 

「チッ……これで終わりだァ」

 

 

そして、後ろを振り向き、車両を浮き上がらせている力を解く。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

(……お姉様)

 

 

最期を悟ったのか、9982号はお姉様―――クローン元のオリジナル、御坂美琴に貰ったゲコ太のバッチを視界に入れると瞳を閉じる。

 

瞳を閉じた瞬間、9982号は誰かに腕を掴まれた気がした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「―――今、なンか……」

 

 

一瞬、一方通行は背後に懐かしい気配を感じた。

 

どこで生まれたのか、両親はどんな顔をしていたのか、何故学園都市にいるのか。

 

そして、自分の名前さえも忘れ去った。

 

そんな一方通行が不思議な事に一瞬とはいえ、郷愁を覚えた。

 

そして、あの夢で見た少女の顔が脳裏に浮かび上がった。

 

 

(一体――――)

 

 

しかし、振り向いた一方通行の視界に入ったのは、圧倒的な電撃の奔流だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「アアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

美琴の目の前で、自分と瓜二つの少女が車両の下敷きになった。

 

今日出会った自分のクローンがいたぶるように殺された。

 

電子の情報だけではなく、目が、耳がその現実を知る。

 

 

「ン?」

 

 

Level5、第1位の<一方通行>。

 

<妹達>を1万人近く殺した殺人者。

 

 

(この男がッ!! 殺したッ!!)

 

 

美琴は能力で磁場を操作し、砂鉄の剣、いや、砂鉄の竜巻を作りだす。

 

 

「おおっ!? スゲェ、スゲェ、何だ、新技かァ?」

 

 

人を容易く細切れにするそれで、流れるように一方通行を飲み込む。

 

 

「ふーン、磁力で砂鉄を操ってンのか。おもしれー使い方だ」

 

 

だが、それらは一方通行に届く前にはじき返される。

 

 

「ま、タネが割れたら、どーってことねェがな」

 

 

(そんなっ、あれを喰らって傷ひとつ負ってない!? ―――なら!)

 

 

周囲にある大量の鉄骨の群れを操り、逃げ場のないように一方通行の周りに集束させる。

 

 

「……? このパワー……オマエ……」

 

 

しかし、それすらも一方通行にはじき返される。

 

 

(何……私の攻撃をあしらえる能力者なんて詩歌さんかあの馬鹿以外には……)

 

 

「なンだァ、オマエ。……ひょっとしてオリジナルかァ?」

 

 

ようやく、一方通行は目の前の乱入者が<妹達>のオリジナル、<超電磁砲>だと知る。

 

 

「何で……何でこんな計画に加担したの……?」

 

 

美琴は必死に自我を繋ぎ止めてる理性を振り絞って質問する。

 

もしかしたら、話の分かる奴なのかもしれない、そう信じて……

 

 

「あァ? 何だ、いきなり」

 

 

「答えて! それだけの力があって……無理矢理やらされている訳ではないでしょ! こんなイカレた計画に協力する理由は何!? あの子に恨みでもあったわけ?」

 

 

大げさに溜息をついて一方通行は答える。

 

 

「理由? 理由ねェ……そりゃあ、絶対的なチカラを手にするため」

 

 

聞いた瞬間、世界がクリアされた。

 

 

「最強だとか学園都市で1位だとか、そんなつまンねェもンじゃねェ」

 

 

一切の音が消えて。

 

 

「俺に挑もうと思うことすら許さねェ程の絶対的なチカラ――無敵が欲しーンだよ」

 

 

一切の色が消えて。

 

 

「オマエもLevel5なら分かンだろ?」

 

 

一切の香が消える。

 

 

「何よ……それ……ゼッタイテキなチカラ? ムテキ?」

 

 

『美琴さん。今日、あなたはLevel5になったそうですね。本当におめでとうございます』

 

 

「そんな……そんな事でっ!」

 

 

『しかし、何度も言いますが、くれぐれも本気を出す時は注意してください。強大な力を使うには巨大な責任が伴います。間違っても、人に向けるなんてことは絶対にしないでください』

 

 

「アンタはっ!! そんなッ!!」

 

 

『ふふふ、そんなこと言わなくても分かりますよね。なんせ、私の後輩で、生徒で、幼馴染で―――』

 

 

美琴は自分の中にある、安全装置が全て解除されたのを感じた。

 

 

『―――自慢の妹なんですから』

 

 

目の前の男、一方通行を殺す為だけに、全神経、全思考を集中させる。

 

姉に封印された本気の力を解放する。

 

一瞬で、近くにある鉄骨資材を砂鉄の剣で1mほどに切り裂き、目の前に浮かせる。

 

 

 

 

 

「そんなモノの為にあの子を殺したのかアアアァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

そして、いつものメダルではなく鉄骨による全力の、本気の、最大の超電磁砲が放たれる。

 

圧倒的な爆発音と衝撃波が訪れ、そして、美琴の視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「うぅ……」

 

 

薄く目を開けると、目の前に呆気なさそうな顔している男の姿が映る。

 

 

「オイオイ、今のがオマエのとっておきかァ? まさかLevel5の本気がこンなシケたもンだとは思わなかったぜェ。まあ、これが第3位と第1位の圧倒的な差だなァ」

 

 

動こうとするが、体中が痺れた様に力が入らず、起き上がることもままならない。

 

 

「さて……次はこっちの番だ」

 

 

口の中には錆びた鉄の味が広がる。

 

 

「そのザマじゃ、あンま期待できねェが」

 

 

体中に痛みを感じる。

 

 

「ちったあ、楽しませてくれよな三下ァ」

 

 

男がこちらに何かを言っているが朦朧とした意識ではよく聞きとる事が出来ない。

 

 

「―――お待ち下さい」

 

 

その時、後ろから毎日自分が耳にする声が聞こえた。

 

 

「ッ」

 

 

その声に、自分の声に美琴の意識が覚醒する。

 

 

「計画外の戦闘は予測演算に誤差が生じさせる恐れがありますとミサカは警告します」

 

 

何とか起き上がり、後ろを振り返ると黒い影が20ほど視界に入る。

 

けれど、能力の目で見て、彼女達が自分のクローンであることが分かる。

 

 

「特にお姉さまはLevel5ですので」

 

「戦闘による生じる歪みは」

 

「非常に大きく」

 

「時間の短縮はおろか」

 

「計画が破綻する恐れがあります」

 

「またミサカには今後予定されている実験に合わせた」

 

「チューニングが」

 

「施されており」

 

「計画を途中で変更する事は極めて困難であるとミサカは説得します」

 

 

そして、Level6を生み出す為に作られたクローンであることを理解する。

 

彼女達は自分を犠牲にすることに何の感情を見い出さない実験動物であると理解させられる。

 

 

「チッ、分かった、分かった、分かりましたよ。ちょっとからかっただけだっての。リレーして、しゃべンな。気持ち悪ィ」

 

 

小うるさいハエを追い払うように<妹達>に手を振ると、一方通行は美琴に歩み寄る。

 

 

「そーいやァ。自己紹介がまだだったな。オマエのクローンにゃ、世話ンなってンぜ」

 

 

美琴は直面した地獄のような現実に絶望して立ち竦んでいる。

 

 

「俺の無敵化を手伝ってくれてンだ。感謝しなきゃな」

 

 

そして、一方通行は美琴の真横に立ち、耳元に囁く。

 

 

「<一方通行>だ。ヨロシク」

 

 

美琴は詩歌との約束を破り、一片の迷い無く殺すつもりで全力をぶつけたのに……第1位には相手にもされなかったってことを理解した。

 

完全に、自分が負けた事を理解した。

 

 

「じゃーな、オリジナル」

 

 

そして、一方通行は美琴の心に止めを刺すと翻り、その場を去る。

 

 

「お待ちください。まだ実験は終わってませんとミサカは再び警告します」

 

 

そのとき、<妹達>の1人が一方通行に警告する。

 

 

「ンあ? どういうことだァ」

 

 

一方通行が振り返ると、<妹達>とは別の方向から美琴に一つの影が近づいてくるのが視界に入った。

 

その影の肩には気絶している<妹達>、9982号が担がれており、彼女の左足には包帯が巻かれ応急処置が施されている。

 

しかし、雲の影に隠れて顔を確認する事が出来ない。

 

 

「……誰だ? テメェ」

 

 

一方通行は突然現れた目の前の人物に問いかける。

 

しかし、一方通行の問いを無視して、魂が抜けたように呆然としている美琴を片腕で抱きしめる。

 

 

「……美琴さん……」

 

 

そして、しばらく抱きしめると一方通行へ向き直す

 

その時、乱入者を覆っていた雲の影が晴れる。

 

 

「ッ!!?」

 

 

一方通行に強烈な既視感が襲いかかる。

 

目の前の月夜に照らされた乱入者に目が奪われる。

 

 

「………はじめまして、第1位」

 

 

乱入者、上条詩歌は静かに、ただ静かに一方通行を怒り、そして悲しみが入り混じった瞳で睨みつける。

 

その時、一方通行の胸に得体の知れない痛みが走った。

 

 

 

つづく

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