wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

2 / 50
一話を投稿させていただきます。



Main story


 刀霞が視界に映る情景には、真っ暗な世界が広がっていた。

 何も見えず、何も聞こえず。ただ漠然と沈黙の影が全身を包みこんでいる。しかしそれでも、唯一理解できることもある。理由や理屈などはなく、ただ誰にでもあるような、そんな漠然とした感覚。

 自分が今、夢の中にいるのだと。

 

――ここが夢ならもしかして……。

 

 刀霞は必要以上にあたりを見渡す。大切な何かを見落としてしまったかのように。

 何故かそこにいるような気がしてならない。そんな淡い期待を抱くも、結局は見つからず……。馬鹿馬鹿しくなった刀霞は、ついその場で苦し紛れの吐露を落とした。

 

「……いるわけないか」

 

 ぽつりと呟いたその瞬間――。

 刀霞の眼前に、ボンッと真っ白な煙が噴出した。

 煙が少しずつはれていく度に、彼の心臓の鼓動が早くなる。

 

――まさか、もしかして会えるのか。あの憧れだった少女に……。

 

 やがて煙が薄くなり、景色が鮮明になる。絶剣の姿を期待した彼だったが、視線の先には何も見えなかった。いや、正確には視線が高すぎたせいか、見えなかっただけで実際には現れていた。彼女ではない別の生き物が。

 刀霞は視線を下ろすと一匹の白猫を視界にとらえた。

 

「嘘だろ……」

 

 別の意味で彼はまた驚愕してしまう。

 目の前に現れた飼い猫に、刀霞は酷く肩を落として、細いため息をついた。

 

「勝手に落ち込まないでほしいニャ」

 

――喋った……。

 

 しかしよく考えてみたらここは夢の中。別に何が起きても不思議ではないかと、刀霞はすぐ落ち着きを取り戻し、面倒くさそうに飼い猫の言葉に反応した。

 

「なんでお前が出てくるんだ。俺はユウキに会いたかったのに」

「助けたいニャ?」

「誰をだよ」

「ユウキのこと」

 

 刀霞は一呼吸間をおいた後、乱暴にその場で腰を落として胡坐をかき、腕を組む。猫は静かな足取りで刀霞の元へ歩み寄り、彼を中心に散歩するかのようにくるくると優雅に歩いた。刀霞は目の端で猫をおいかけるが、特に振り向いたり体を動かしたりはせず淡々と答えた。

 

「――そりゃ助けたいさ」

「どうしてもニャ?」

「できるならね」

「一生今の世界に帰ってこれなくても?」

「愚問だな」

「ご主人が代わりに死ぬことになっても?」

「くどいぞ」

 

 彼は即答してから、歩く猫を捕まえると指先で顎を撫でる。猫は気持ちよさそうな顔で素直に彼を受け入れると、その小さな身体を彼の胡坐に押し込んだ。何気なしに猫の頭を撫でていると、満足したのか猫は落ち着いた声色で口を開いた。

 

「いいよ」

「……何が?」

「ユウキ、助けにいこう」

「……夢の世界で助けても意味ないだろ」

「夢じゃなくて、本当に行くニャ。ボクがユウキの死ぬ直前の時間軸まで連れて行ってあげるニャ」

 

 刀霞は猫の言っていることが理解できなかった。SAOはラノベの世界。言ってしまえば空想の世界。そんなことできるわけがない、と一笑して猫をからかった。

 

「本当に、ご主人の決意は変わらないんだね?」

 

 猫は真剣な表情をしつつ、強い口調で彼に問う。真剣な猫の表情を見て刀霞は一瞬顔が強張る。しかし彼は悩むことなく「ユウキの代わりに死ねるならこんなに嬉しいことはないよ」と、穏やかな口調で答えた。

 猫は彼の言葉を聴いて、少し安心したような顔つきになり、いつのまにか口に咥えていた何かを刀霞の手のひらにポトンと落とした。

 

「これは?」

「ボクの毛玉」

 

 無言で毛玉を猫に投げつける。

 

「ぁぃター! 冗談ニャ、本当はこれニャ!」

 

 猫が涙目で咥えていた何かは綺麗な小瓶だった。ひし形のような形をしていて、中には透明の液体が入っていた。刀霞は猫に「これは?」と尋ねると、猫は笑顔で「飲むニャ」と答えた。彼は小瓶の蓋を明けておそるおそる匂いを嗅ぐ。どうやら無臭のようだ。

 

「本当に大丈夫か……?」

「とにかく早く飲むニャ。連れてく前に夢から覚めたらユウキを助けられないニャ」

 

 意を決して一気に飲み干す。まったくの無味無臭に刀霞は「ああそうか。夢だから味とかないんだな」と奇怪な合点がいった。

 

「今飲んだのは、悪い病気を自分の中に取り込むことができる薬ニャ。ご主人はユウキが亡くなる前にユウキの悪い病気を吸い取るニャ」

 

 刀霞が「どうやって吸い取ればいいんだよ」と尋ねると「ユウキに触れるだけでいいニャ」と答えた。彼は今だに本当にSAOの世界にいけるのか半信半疑に感じていたが、そんな様子を見て猫は少し悲しそうな表情で改めて彼の意志を確認した。

 

「今ならまだ引き返せるニャ。夢から覚めたらご主人は今の生活に戻れるニャよ」

 

 刀霞は少し名残惜しそうな表情で猫の頭を撫でた。そして決心した顔つきで猫の言葉に答える。

 

「行こう」

 

 彼の言葉を聞くと同時に猫の周囲から白い煙が、蒸気機関車のように勢いよく吹き出した。猫の姿は煙でまったく見えない。

 刀霞はたまらず二歩三歩後退し、様子を見ていると煙の中から小さいドアが出現した。刀霞は「こ、このドアから入ればいいのか?」と尋ねると、ドアから「そうニャ」と猫の声が聞こえた。どうやら猫はドアに変身したらしい。

 

「さ、時間がないニャ。早く行くニャ」

「な、なぁ」

「なんニャ」

「小さすぎて入れないと思うんだが」

「…………」

「…………」

 

 ドアの大きさは猫用の出入り口ぐらいしかない。入るどころか頭すら通らない。ちょっとした沈黙が続いた後、猫はコホンと咳払いをして、先ほどと同じように煙を出してから今度は刀霞に合った大きさのドアに変身した。

 

「よし、じゃあいくか」

 

 刀霞は気を取り直してドアを開けるとそこには周辺と変わらない、ただ真っ暗な世界が広がっていた。しかし、奥になにか小さな光があるのがわかる。刀霞はその光に向かって、一歩二歩と慎重に歩を進める。彼が歩めば歩むほど、光が強くなってくる。次第に光で目が開けられなくなるぐらい近づくと同時に、猫の声が聞こえた。

 

「そっちの世界の仮想空間に飛ぶことになるから時間があまりないニャ。着いたら病気をすぐ吸い取るニャ。いいかニャ、すぐニャよ!」

「わ、わかった」

 

 そう言葉を返した瞬間、今までに感じたことのない強い光が、突如刀霞の視界を突き刺した。

 眩い閃光は瞬く間に全身を覆う。彼はひたすらに、前へと歩を進めながら、決して不快ではないその感覚に、自然に身を委ねた。

 暖かくて、優しくて、どこか懐かしい。まるで母が抱きかかえてくれるような、そんな暖かさに、刀霞は何かが満たされていくのを感じた。

 

 そのまま委ねて、委ねて、委ねて……。

 




 読んでいただき、有難うございました。
 今後ストーリーをつなげていく際に、少しずつ修正できたらいいと思います。
 文章がめちゃくちゃですいません。
 この先も頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。