wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

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 第二話になります。
 私の能力がまだまだ未熟なため、表現の難しい部分や世界観が簡潔に伝わるよう一部原作やwiki等を引用している部分があります。ご容赦下さい。




 ここは24層にある街、セルムブルグの少し北に位置するとある小島。

 小島の中心には大木があり、それを中心に周辺には美しい花が一面に咲き乱れている。広大な夕日の淡い光が分厚い雲を透かし、オレンジ色の景色が一面に広がる。小島を囲む湖の水面は夕日を反射し、キラキラと宝石のように輝いていた。

 刀霞は、うつ伏せで倒れていた。どうやら本当にALOの世界に飛ぶ事ができたのか、もしくはまだ夢を見ているのか……。

 

――暖かい……

 

 このまま眠ってしまいそうだ。夢の中で眠るなんてなんとも滑稽だが心地良い暖かさに負けそうになりそうだ。

 と、その時――。

 大地が一瞬揺れるような衝撃と音が刀霞を襲った。突風が吹き荒れ、大木が軋み、風に負けて咲き乱れていた花びらが粉雪のように幾枚も舞い上がる。

 

「な、なんだ!?」

 

 衝撃による効果で意識を覚醒させた刀霞が飛び起きる。すっかり目が覚めた彼はあたりを見渡し、そうかここはユウキが亡くなった場所だと気づく。先ほどの衝撃は、ユウキが最後のソード・スキルを使用した瞬間なのだろう。

 刀霞は大木の影からそっと音がした方へと顔を覗かせる。するとそこには、かつてのSAO事件の生き残り、そしてユウキの親友でもある1人の女性が、体に力が入らずその場に倒れるユウキをそっと抱き支えていた。

 彼女の名は結城(ゆうき) 明日奈(あすな)

 アスナはこの小島でユウキと出会い、その技術を買われてユウキの仲間であるスリーピング・ナイツと共にボスを討伐してほしいと相談された。アスナもかつての強い意思を取り戻すため、快諾した事をきっかけにユウキたちと行動を共にすることになる。そして紆余曲折を経て、ユウキの病気を知った。

 ユウキの望む夢を叶えたい。その気持ち一心で明日奈は己が中心となってユウキを善導していく。そんな日が続くうちにいつの間にかユウキはアスナのことを姉のように慕っていた。明日奈も時間の許す限りユウキの傍にいることを心に誓った。

 

 しかし、今日その日が来てしまったのだ。いつか来るだろうと予感していた日が。

 

 そっと抱き支え、ユウキの瞳を見つめるアスナの姿を見て、刀霞はすぐにユウキの元へ飛び出す事ができなかった。

 

「…………」

 

 刀霞は無言でその様子を伺っていると、何故か胸に何か突き刺さるような痛みを覚える。

 

――なんだろう、とても苦しい。何度も読み返した場面なのに、実際に見ると全然違う……。

 

 刀霞は一度木を背にして、立ったまま両手で胸をおさえて荒くなる呼吸を落ち着かせる。その間、スリーピング・ナイツのメンバーを筆頭に、シノンを含むSAOの生き残り組みが続々とユウキの元へ集まり、彼女の最後を見届けようとしていた。

 その数分後、何十人ものプレイヤーが、列を作って飛んでくる。その先頭にあるのは、長衣の裾をはためかせて飛ぶ、シルフ領主サクヤの姿だ。後ろに続くのは、様々な階調のグリーンを身にまとうシルフたちである。あの人数では、今ログインしているシルフのほぼ全員が集まっているに違いない。 

 いや――セルムブルグからだけではない。外周部のいろいろな方向から、いくつもの帯が小島目指して伸びてきていた。赤いリボンはサラマンダー。黄色いのはケットシーだろうか。インプ、ノーム、ウンディーネ……それぞれのリーダーに率いられたプレイヤーの大集団が、一直線に大樹へと向かって集まってくる。その数五百……いや、千を超えるだろうか。

 ユウキが吐息混じりに囁くあいだにも、小島の上空にまで達した剣士たちは、次々と滝のような音を立てて降下してきた。サクヤやアリシャたち領主を先頭とした大集団は、すこし距離を置いてアスナたちを取り囲むと、次々に草地に片膝を突き、こうべを垂れる。さして大きくもない島は、みるみるうちに無数のプレイヤーで一杯になった。

 そして、総勢100名を超える妖精たちが尊敬の意を込めて彼女の新たな旅立ちが今以上に素敵であるようにと、目を伏せて祈っていた。

 彼女はとても愛されていたのだ。絶剣という異名に恥じない実力を兼ね備え、15歳の少女とは思えない剣技で相手を圧倒する。若くして彼女はALO最強のプレイヤーだと賞されるほどに。キリトも認める彼女の実力はプレイヤー全ての憧れでもあった。私も、俺も、僕も、あんなふうになりたいと。そんな憧れであり、目標である最強の剣士が今日旅立ってしまう。

 彼らはこの現実を受け入れ、乗り越えようとしていた。彼女の名前はALOから廃る事はない。アスナが受け継いだマザーズ・ロザリオがある限り。祈る人々はそう信じていると心に刻んで。

 ユウキは今にも閉じそうな紫色の瞳でじっとアスナを見た。すうっと大きく息を吸い、まるで最後の力をすべて振り絞るかのように、切れぎれだがはっきりとした声で話しはじめた。

 

「ずっと……ずっと、考えてた。死ぬために生まれてきたボクが……この世界に存在する意味は、なんだろう……って。

「何を……生み出すことも……与えることもせず……たくさんの薬や、機械を……無駄づかいして……周りの人たちを困らせて……自分も悩み、苦しんで……その果てに、ただ消えるだけなら……今この瞬間にいなくなったほうがいい……何度も、何度もそう思った……。なんで……ボクは……生きてるんだろう……って……ずっと……」

 

 か細い声は刀霞にも届いた。その場に座り込み顔を俯かせたまま彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「でも……でもね……ようやく、答えが……見つかった、気がするよ……。意味……なんて……なくても……生きてて、いいんだ……って……。だって……最後の、瞬間が、こんなにも……満たされて……いるんだから……。こんなに……たくさんの人に……囲まれて……大好きな人の、腕のなかで……旅を、終えられるんだから…………」

 

 

――違う。

 

 

 刀霞は唇を噛み締め、肩を震わせる。

 

――まだ、終わりじゃない。終わってはいけない。そんな最後の瞬間なんて、俺は許さない……。

 

 そしてアスナはユウキに最後の言葉を告げる。

 

「わたし……わたしは、かならず、もう一度あなたと出会う。どこか違う場所、違う世界で、絶対にまた巡り合うから……そのときに、教えてね……ユウキが、見つけたものを……」

 

――やめろ、やめてくれ。そんな約束なんて、俺は聞きたくない……。

 

 本当はわかっている。ユウキの言葉の意味も、アスナの言葉の意味も。

 何度も何度も読み返した。読み返しては心が押しつぶされそうになった。だけど彼女の最後を認めようとしても俺にはできなかった。ずっとずっと受け入れられず、現実逃避するように二次創作をして、挙句の果てには夢の中でも彼女を救おうとしている。

 

 刀霞の脳裏に彼女の死が過る。

 

――あぁ、この先は……あの言葉だ。最後の……言葉……

 

 ユウキは唇がごく、ごくかすかに動いて、微笑みの形を作った。アスナの意識に直接、声が響く。

 

――ボク、ぼく頑張って生きた。ここで……生きたよ……

 

 

 

「駄目だ!!」

 

 

 

 一人の若々しい男性の声が、悲しみに満ち溢れた空間の中で響き渡った。

 刀霞は自分でも驚いていた。気づいたときにはユウキの心の声を否定するかのように力強い声を発し、アスナたちの前に姿を現していた。

 

「俺は、許さない……ッ」

 

 アスナは溢れる涙を流しながらも、声の主の方へ顔を向けた。声に気づいた妖精たち、スリーピング・ナイツのメンバー、キリトたちもアスナと同じ方向へ視線を向かわせた。

 視線の先には若い青年風の男が不気味なほど静かに立っており、現実世界でよく目にするような私服を着ている。まるでキリトが其処に立っているかのようであったが、キリトよりも頭一つ分ほど背が高く、髪も青年の方が僅かに長い。表情は俯いていたせいか、長い前髪のせいか読み取ることができなかった。

 

 アスナは発言の意図が汲み取れなかった。彼は一体何を許さないのか。彼女は全てを受け入れて旅立った。アスナを含め、スリーピング・ナイツのメンバーやキリトたちも覚悟を決めて彼女が最後まで笑っていけるように見送った。

 その15年間を力ある限り必死で生きてきた彼女を、許さない――?

 その言葉だけでアスナは強い憤りと怒りを感じた。まるでユウキを侮辱しているかのように聞こえたアスナは、涙を流しつつ刀霞に敵意を向けるような強い口調で訴えた。

 

「貴方にユウキのなにが……!」

「……たった15年で満足できる人生なんて、俺は許さない」

 

 アスナの言葉を遮るように刀霞は呟いた。最初の声とはうってかわり、とても悲しそうな声に変わっていた。

 俯きながら刀霞はユウキの元へゆっくりと歩み寄る。表情こそ見えないものの、彼女の元へ歩く姿はとても悲しんでいるように見える。彼はユウキの元へ辿りつき、彼女の亡骸の前で立ち尽くす。その時の青年の表情がアスナにはハッキり見えた。

 それはとても一言では表現できなかった。辛そうで。苦しそうで。泣きそうで。壊れそうで。彼の体が今にも消えてなくなってしまいそうな、酷く脆い存在に見えた。そして誰よりも、なによりも彼女の死を決して認めないという強い意思があるようにアスナは感じた。

 刀霞はユウキの前に崩れ落ちるように膝をつき、ユウキの右手にそっと、自身の左手を添える。

 

――とても冷たい……憧れだった彼女の手はこんなにも……

 

「なにを……」

 

 アスナは彼の行動に戸惑いを隠せない。瞳に涙を浮かべたまま困惑した表情で彼に尋ねた。アスナの目には彼の手が震えているように見える。

 

「ユウキは死なせない。絶対に」

 

 刀霞は、アスナにだけ聞こえるような擦れた声しか出せなかった。アスナは目を大きく見開き、表情が固まってしまう。その言葉を聞いた瞬間、石碑の前でユウキと写真を撮った思い出がアスナの脳裏に一瞬過ぎる。

 

「そ……そんなこと……」

 

 できるわけない。医者も見離した病気なのに、貴方に何ができると言うの?

 仮想空間で彼女を救う手立ては存在しない。アスナは己の無力さを誰よりも感じていた。

 それでも尚、ユウキとの思い出がアスナの脳裏を駆け巡ってしまう。もう一度目を覚ましてほしい。そんな我侭があふれ出すほどに。

 

「お、おいっ。何するもつりだよ!」

 

 アスナの言葉を遮るようにスリーピング・ナイツのメンバー、ジュンは見知らぬ青年に対して強い口調で威嚇した。俺たちの大切な仲間に近づくなと言わんばかりに勢い良く立ち上がり、涙で溢れた瞳を拭う間もなく武器を構え臨戦態勢にはいる。それに続いてスリーピング・ナイツのメンバー全てが武器を構えて青年を睨み付けた。言葉を発したのはジュンだけだったが表情も、感情も。メンバー全員がジュンと同じ気持ちだった。

 

「ま、まって!」

 

 アスナは彼の言動に困惑しながらもジュンたちを制止する。アスナは彼が嘘を言っているようには見えなかった。いや、嘘でも信じたかった。死なせないという言葉に。

 刀霞は威嚇されてもなお彼らに視線を傾けることはなく、ユウキの手を離すことはなかった。彼はジュンの威嚇に反応する余裕がなかったのだ。

 理由はユウキの表情だった。アスナの腕の中で眠るように横たわるユウキを見て刀霞の心が強く揺れ動いていた。満足そうなユウキの顔に、幸せそうなユウキの表情に。心が砕けそうになる。

 本当に、本当にこれでいいのだろうか。

 

――……このまま彼女を生き返らせて、本当にそれが正しい事なのだろうか……。

 

 ユウキは家族や仲間の死を乗り越え、それでも前を向いて必死に生きてきた。ここで生き返らせるのは簡単なことかもしれない。だが、それは彼女の覚悟や意思を踏みにじる事になるんじゃないか?

 ――いや、それでも生きていたほうがいいに決まっている。正しいはずなんだ。でも……彼女の意思を尊重するなら……このまま静かに見送る行為こそがユウキの幸せに繋がるはず――。

 

 死なせる事が正しい?

 

 彼は左右に首を振る。それは詭弁だと。彼女にはもっと生きていてほしい。それが心の底から願う本音だった。

 最初に決めたことじゃないか。たとえユウキに恨まれたとしても、生きていてほしいと。

 

「……頼む。ユウキの覚悟を裏切ることになったとしても、彼女が生きてくれるのなら……俺は……俺は……ッ」

 

 いつのまにか刀霞の頬には涙がつたっていた。声が擦れてほとんど声にならない。

 そんな最中、キリトだけがその青年の違和感に気づいていた。

 

「あいつ……妖精じゃ、ない」

 

 本来ALO(アルヴヘイム・オンライン)というゲームには大きく分けて10種類の妖精族が存在する。各種族によって特殊能力や領地が違うのだが、見た目ももちろん変わってくる。大体の特徴はキリトでなくともある程度のプレイヤーならばわかる。

 さらに、キリトには腑に落ちない点があった。どの種族にも該当しない見た目。ALOの世界観には似つかわしくない一般的な私服。そして何より頭上にHPカーソルが表示されていない。

 キリトは咄嗟に左手を前に差し出し、メニュー画面を開く。周囲のキャラクターネーム一覧を確認し、周囲のキャラクター名の一覧がリスト化された画面が表示される。キリトが1名ずつ名前を確認していくと1人のネームだけ《?????》という名前があることに気づく。

 キリトはそのネームのキャラクター情報一覧を選択する。本来であればそのキャラクターの種族、装備、レベルなどがわかるのだが、キリトは唖然とした。全て《?????》としか表示されていない。

 キリトの鼓動が一瞬高鳴る。最初にキリトがこのALOにログインし、アイテムの一覧を確認した頃の記憶を思い出す。そう、SAOのアカウントをALOにコンバートした際に、アイテムの引継ぎはできなかった。その時のアイテム名の表示も《?????》だった。

 

――こいつもSAOの生き残り……? いや違う。俺のキャラクター情報には種族覧には《スプリガン》と表示されていた。ならこいつはどうして……。

 

 キリトは脱線する思考を戻そうと首を左右に振る。

 論点はそこではなかった。NPCならキャラクターネーム一覧には表示されない。しかし《?????》とはいえこのゲームに存在していることには間違いない。

キリトは本来あり得ない結論に至る。顔が強張り、額に汗が走った。

 VRMMOの世界に生身の人間が存在している。

 キリトは逸る気持ちを抑えきれず、その青年に声をかけた。

 

「お前――」

 

 キリトが青年に言葉をかけたその刹那、ユウキの右手から黒く発光した光が出現した。その光はどこかおどろおどろしく、その黒い何かは刀霞の左手を伝い、彼の全身を包み込む。

 それに対するかのように、白く優しい光がユウキを包み込んでいた。

 アスナを含め、周囲の人はその光景に暫く見入ってしまう。何が起きているかはわからないが、少なくとも彼がユウキを攻撃しているようには見えなかった。

 そしてアスナがユウキの最初の変化に気づく。ユウキの見た目こそ大きな変化はないが、ユウキの手を握っていたアスナにだけは確かに感じ取ることができた。

 

「え……?」

 

 アスナの鼓動が少しずつ高鳴る。自然と涙が溢れる。ユウキは握り返す事はなかったが、アスナには確かに伝わったのだ。ユウキの手に体温が戻りつつあることに。

 刀霞を包んでいた黒い光は消え、それと同時にユウキを包んでいた白い光も消えてしまった。刀霞がユウキの手をそっと離すと、ユウキは瞬く間に強制ログアウトしていった。

 と、同時に刀霞も草地に伏して倒れた。

 一体何が起きたのか、誰もが混乱していた。全員の視線は倒れた刀霞に集まる。キリトはゆっくり彼に近づきつつも、アスナの無事を確認する。アスナは「私は大丈夫……」と答えるとキリトは頷いて視線を彼の方へと向ける。

 

――いったいこいつは何者なんだ……?

 

 キリトが刀霞に触れようとした、その時。

 刀霞の体から大量の光の粒子が溢れ出す。彼の姿は徐々に透けて、粒子が舞い上がるたびに彼の体は足元からゆっくりと消えていく。それは明らかにログアウトとは違うエフェクトだった。

 

「お、おい……」

 

 キリトは彼に触れようとしたが間に合わない。触れようとした部分が光の粒子となって姿が完全に消えてしまった。

 

「ゆう……き……」

 

 薄れ行く意識の中、刀霞が零した彼女の名。

 

 悲しそうで。苦しそうで。どこか傷ましい。

 

 彼が口にした悲壮の声に、アスナは堪らず胸を抑えた。




 閲覧していただき、ありがとうございます。

 どうしてもストーリーのつじつまが合わないため、大きく内容を変更しました。結果的にいい作品になるように今後も頑張りたいと思います。

 前書きにもお伝えしましたが、私の能力がまだまだ未熟なため、表現の難しい部分や世界観が簡潔に伝わるよう一部原作やwiki等を引用している部分があります。

 今後もあるかもしれません。ご容赦下さい。
 どうすれば表現力が高まるかアドバイスをいただけると凄く嬉しいです。
 宜しくお願い致します。

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