wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

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三十九です。大変お待たせ致しました。

短いです。おもちです。

おもちーっ。


39

「あー、ユウキさん?」

「なぁに」

「飽きないか?」

「ぜーんぜん?」

「そ、そうか」

 

 ぐぃっと背伸びしたユウキが、ぽすんと俺の胸に体を預ける。

 胡坐の中にユウキがすっぽりと収まってから、かれこれ一時間が経っただろうか。

 俺たちは、今やすっかり見慣れた、あの小島へピクニックへ来ている。

 いやまぁ、別にピクニックと名称する程遠出するような距離でもないし、行こうと思えば散歩ぐらいのノリで来れる場所なのだが。

 それは兎も角として、どうだろうこの快晴たるや。

 ほってりとした陽気と、優しくすり抜ける穏やかな風。波打ち際のちゃぷちゃぷと揺れる水面の音と、中央に聳え立つ大樹から聞こえる木々が靡く音が不思議と心地いい。

 昼寝……もとい、日光浴するにはもってこいの天候だ。

 

「トウカが言うことなんでも聞いてやるって言ったんだからねー」

「まぁ、頑張ったのは事実だし、あんな断末魔聞かされたらな」

「あ、そゆこと言うんだ」

「悪い悪い」

 

 ユウキの、ぷっくりとした膨れっ面に人差し指を押し当てる。

 空気が抜けて、溶けるように、にへらーと笑うその表情は、なんとも幸せそうだ。

 

「なんだか久しぶりな気がするな」

「へー? なにがー?」

 

 空を仰ぐように、ユウキが俺の顔を覗き込む。

 

「こういう、のんびりとした時間を過ごせるのがさ」

「そだねぇ。色々あったからねー」

 

 確かに色々あった。

 色々ありすぎて、思い出すのが辛くなるほどに。

 一方的に怒鳴りつけて、勝手に縁を切って、独りで勝手に死のうとしたはずが、周りの人たちに助けられて。

 幾度となく喧嘩を繰り返し、馬鹿みたいに異見を押し付けて。何度も何度も下らない問答を繰り返して。

 最終的には丸く納まったのかもしれない。けれど……。

 ――いや、それ以上深く考えるのはよそう。

 せっかくの時間が、また無駄になってしまう。

 

「よっこいせ」

「ふわー」

 

 投げ出すように仰向けに倒れると、背もたれを失ったユウキも同じように倒れこむ。

 俺はトトロか。

 

「なんか、いいな。こういうの」

「だしょー。ほかほかーって感じがいいよねー」

「ああ、本当にな」

 

 心地よいという言葉がしっくりくる。

 暖かすぎず、寒すぎず。地面は程良く柔らかくて、不快に感じるものは一切ない。

 この小島をここまでのんびり過ごすことができたのはこれが初めてじゃないか? 事ある毎にここで衝突してきたから、本来ここが観光スポットだということをすっかり忘れていた。

 

「今日はここに来れて良かった」

「ほんと? ボク、ないすあしすと?」

「ああ、ないすあしすと」

 

 仰向けからうつ伏せに変わり、にやりとサムズアップするユウキに、同じく親指を立てる。

 

「ご褒美、もらってあげてもいいんだよー?」

「ほう、自分で言うか」

「誠意を見せたまえー」

「誠意ねぇ……」

 

 先ほどのお返しと言わんばかりに人差し指を頬にねじ込んでくる。

 正直、形のないものを見せるのはあまり得意ではない。

 努力とか、それこそ誠意とか。

 けれど、まぁ。

 決して自惚れているわけではないが。

 

「こうか?」

 

 とりあえず、ぎゅっと抱きしめてみる。

 すると、

 

「むぎゅぅ……」

 

 何かが潰れたような声で、ユウキが鳴いた。

 ……そこまで強く締めたつもりはないのだが。

 

「絶剣様? わたくしめの誠意は伝わったでしょうか」

「はむはむ……」

「襟元を食べるな」

「はふはふ……もっともっと……」

「お気に召したご様子で」

 

 言って、再び抱きしめる。

 以前はこんなこと冗談でもできなかっただろうな。

 慣れというものは末恐ろしい。

 や、今でも十分羞恥心は残っているつもりだ。

 ただ、それ以上に彼女のこの、なんだ。

 惚けた顔がまた――と、

 

「いいのかな……」

 

 ふと、ユウキが顔を埋めたまま口にする。

 

「いいって、なにがだ?」

「恋人でもないのに、こんなことしちゃって」

「…………」

 

 肯定も否定もできないようなその一言に、俺は一瞬、口を紡いだ。

 ユウキは続ける。

 

「ボク、トウカが大好き」

「……ああ」

「すごく、すごーく好き」

「…………」

「トウカとずっと、ずぅーっと。こうやって過ごしたいな……」

「……そっか」

 

 俺は、空を仰いだまま相槌を打ち、彼女は、胸に伏せたまま、言葉を放つ。

 対照的な間ではあるけれど、想いは多分……。

 いや、多分なんかじゃない。

 同じ気持ちだ。まったく一緒で、何一つ違わない。

 だけど、それを口にしたら俺は、また嘘つきのままで終わってしまう気がしてならない。

 そんなことは、これ以上俺自身が許せない。

 だから、言いたくても言えないんだよ。

 

『ゲームと現実は違うの。いくら絶剣だからといって、実際はまだ十五歳の女の子なのよ?』

 

 当たり前だ。分かってるさ。ゲームと現実は違うって事ぐらい。

 

『帰るべき場所にも、支えてくれる仲間の中にも、トウカさんがいないじゃないですか……』

 

 必要ないだろう。俺がいなくてもユウキは……。

 

『男だったらねぇ、一緒に暮そうぐらいの一言ぐらい言ってみなさいよ!』

 

 馬鹿言うなよ。そんな無責任な言葉、簡単に言えるか。

 

『ユウキの帰りを待ってくれている人……誰も、いないじゃない……』

 

 ――――。

 

 

『トウカさんは、どこにいるんですか?』

 

 

 

「ユウキ」

「へ……?」

 

 彼女を抱きかかえて、体を起こす。

 その後は、体が勝手に動いてしまっていた。

 

「あ……」

 

 ユウキの短い声が、僅かに色を帯びる。

 ――俺が彼女の額に口付けをしたからだ。

 

「――今は、これが精一杯だ。もし病気が治ったらとか、もし許されるならとか、そんないい加減な言葉でお前の気持ちを弄ぶようなことはしたくない」

「…………」

「だけど、俺はいつもお前を想ってる。お前が俺のことを想ってくれている以上に、俺はお前のことを想ってる」

「…………」

「だから……おわっ」

 

 言葉尻に、ドンッとユウキに押し倒されてしまった。

 ほんの少し前まで寡黙だった彼女は、頬がすっかり染め上がっていた。

 

「う~~……ッ」

「お、おい……」

 

 興奮して酔ったように赤くなり、目は血走る。

 その表情は羞恥心というよりも、何かを込み上げてくるものを必死に耐えている様子で、眉をひそめ、酷く強張らせている。

 動悸が荒いのか、胸を抑えながらズリズリと俺の顔元へ詰め寄る。

 鼻息が直に当たる距離。

 ユウキは押し殺すような、微かな声で訴えた。

 

「もっと……してくんなきゃ……やだ……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい」

「ん」

「ん、じゃないわよ。ほら、できたよ」

 

 ふと気づけば、目の前には仏頂面のリズが立っていた。

 突き出された両手には、耐久値がしっかりと回復された、俺の愛刀『霧氷』が握られている。

 

「あ、ああ。ありがとう」

「どうしたの? ぼーっとしちゃって」

「いや、なんでもないよ」

 

 淡白な返事をしながら受け取る俺の不自然さに、リズはかくも怪しいと顔を顰める。

 ユウキと別れてから間もなく。俺は、リズベットが構える鍛冶屋へと脚を運んでいた。

 というのも、今日はスリーピング・ナイツの集会があるとかでどうしても行かなければならないとのこと。

 俺も顔を出した方がいいのか尋ねると、なんと絶対に来てはいけないと念を押されてしまった。ただ、ユウキ曰く、別に嫌われているとか牽制されているわけではない。寧ろ後々話さなければいけない事だから、今はただ待っていてほしいとユウキは言う。

 一体何を話してくれるのか不安が募るばかりだが、暇を持て余していた俺は、ユウキと別れてからちょうど良くリズが武器のメンテナンスが終わったから受け取りに来いというメッセージを受けて、こうして来たわけだ。

 

「まぁ、あんたのことだから、どうせまたユウキに何かしたんでしょ」

「いやいや。後半は寧ろアイツの方から――」

「後半……?」

「い、いや。なんでもないよ」

「……ははーん?」

 

 悪戯に笑みを浮かべるその姿は、一種の悪役に見えなくもない。

 何か良からぬことを考えているな。俺にはわかる。

 ていうか、仲間だったら多分誰でもわかる。

 

「そういえば聞きたいことがあるんだが」

「なによ?」

「ソロでも倒せそうなボスって何か心当たりあるか?」

「んーそうねぇ……」

 

 右手に持っているハンマーを手に打ちながら、リズは小難しそうに腕を組む。一回それを置け。

 どうやら心当たりはあるらしい。「アレは無理だしー……アイツはパーティ推奨だしー……」と呟くも、

 

「っていうか、あんた。そんな軽装で挑むつもりじゃないでしょうね」

「いや、一度見てみたいだけさ。戦うつもりはないよ」

 

 挑まないとは言っていない。

 

「どうだか……あー、でもごめん! 私じゃちょっと思いつかないわ。私ってば殆どソロじゃ狩りはしないし、採取も手伝ってもらってるぐらいだからね……」

「となると、知っている奴がいるとすれば……」

「まぁ、キリトかアスナ。後はー……そうね。お金がかかってもいいなら、アルゴに聞いてみたら?」

「アルゴ、か」

 

 残念ながらキリトとアスナは共通の用事がある故に連絡はとれない。

 無理に聞けないことはないが、プライベート中に首つっこむのはどうかと思う。

 となると、やはりアルゴが近道か……?

 確かに情報屋の中でも一番の在庫を抱えているであろうアイツなら知ってそうだ。

 ただいくつか問題がある。

 まず、俺とアルゴの仲は正直そこまで良くない。なにせ喧嘩別れしてからその日以降会っていないからな。いくらビジネスとはいえ嫌いな人物に情報を提供してくれるとは限らない。

 仮に提供してくれたとして、見返りはなんだ? 莫大な金銭か、情報の等価交換か……。無論ユウキや仲間の情報は絶対に売るつもりはないが、彼女のことだから知らず知らずに引き出されてしまうことだってある。

 そういう意味では情報屋は得策とは言えないな。

 

「わかった。まあ、観光程度に考えてたから気楽に探すよ」

「無茶なことして刀折ったら許さないわよ」

 

 軽く胸を小突いて、リズはクスリと笑う。

 

「大丈夫だって。それじゃ、またな」

「ええ、またね。トウカ」

「あ、そういえば」

「なによ」

「その髪留め、似合ってるぞ」

「……うっさい! 早く出て行け!」

「理不尽だ……」

 

 

「……誰も気づかなかったのに、なんでアイツだけ……あ――――もう! 私はキリト! キリト一筋なんだからぁ!!」




今回も読んでいただき、誠に有難うございます。

劇場版の方は現在進行形で編集中です。

まだもう少しお時間をいただく形になります。大変申し訳ございません。

今後とも更新は続けて参りますので、長い目で見ていただけたらと思います。
また、活動報告でも申し上げた通り、話数が非常増えていく作品になりますので、サブタイトルを撤去し、数字のみで区切りをつけていきたいと思いますので、宜しくお願い致します。

細かな更新等はツイッターにて報告しております。
良し悪し関わらず感想も含めてフォローしていただけると嬉しいです。

@Ricecake_Land

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