wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

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40話です。

短いです。

おもちです。

おもち。


40

 お前は守られている。

 

 かつてその言葉を誰かに吐き捨てられた記憶がある。

 親父か、それともじーちゃんか。今となっては思い出すことができない。けれど、火乃瀬さんがそう言い放った瞬間、呼応するように幼少の頃に受けた古傷が微かに疼いた。

 誰に吐かれたのかまでは判らなくても、言葉の意味は己の体が覚えていたらしい。多分、稽古の際親父に木刀で殴られながらそう言われたのか、もしくはどこか違う場面で――。いずれにしても良い気分ではない。

 だけど、そんなことよりも。

 あの音が頭から離れられない。今、この瞬間もだ。

 ズキリ、と胸の内が軋むような、あの音。古傷よりも疼いて、なによりも重く圧し掛かる。

 良かれと想い至った行動を、真っ向から間違っていると咎められた胸中によく似ている。

 守られているということは、結局甘えていることと一緒だということか。

 やはり親父の教えは正しかったようだ。甘えは俺にとって、不要なものでしかなかった。

 今まで甘えることに慣れていなかったから。子供の頃からずっと欲していたものが掌に収まって、すっかり有頂天になっていた。

 

 確かに火乃瀬さんの云う通りだ。

 仲直りできたから、分かり合えたからそれで済ませていいことか?

 仲間に頼って、乗り越えられたらそれでめでたしめでたしなのか?

 ……いいや違う。

 

 いつまでも甘えているわけにはいかない。

 今一度、よく思い出せ。

 俺は何故ここへ来た? 自らの命を捨ててまで来た理由はなんだ?

 決まってる。あいつを、ユウキを救うために俺は来たんだ。

 ずっと笑っていてほしい。普通に誰かを好きになって、普通に幸せになってほしい。そのために必要なことはなんだってやる。

 だから、よく考えろ。今俺がすべきこととはなにか。

 

 そうだ。火乃瀬さんがそう言ったように、今の俺が守られている側なら、もっと強くなればいい。

 誰よりも、ユウキよりも強くなって、他人から認められるような存在になれればきっと――。

  

 ……違うな。何か違う。

 

 守られているって、本当にそういう意味なのだろうか。

 火乃瀬さんは、俺が今考えているような意味合いでその言葉を口にしたのだろうか。

 力の強さとか、屈強な精神とか、そんな問題ではないような気がしてならない。 

 いや、そもそも強くなる必要があるのか? 他人から認められたら、それがなんだっていうんだ?

 命を救うという目的は果たせたじゃないか。それで十分だったはずだろう。それ以上なにを望むことがある。今更強くなる必要なんてどこにもない。

 そうさ。守る側になる必要も。幸せになってほしいと願う必要も……。

 ――ああ駄目だ、さっきから矛盾してばっかりだな。

 ついこの間、俺はユウキに想いの丈を伝えたばかりじゃないか。

 

『お前のことをいつも想っている』

 

 想っている? 想っているだって? ……ふざけるなよ。お前のような弱者はあいつの隣にいる資格なんてあるわけがない。

 傍観者でいいはずだ。それこそ無関係な存在であるべきはずなんだ。

 だから、火乃瀬さんが言った言葉は何一つ間違っていない。所詮俺はどの人間とも同じ、アイツの強さに敵うことのできない、劣った者として見られるべき存在なんだ。

 それで、いいはずなんだ。

 

 じゃあなんだ? このさっきから燻っているような、苛立ちが募るこの感覚は。

 さっきから言動と感情が一致しない。

 

 ……何がしたいんだよ。俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってもなぁ……」

 

 適当に各階層の市街をぶらぶらと宛てもなく探索しているものの、アルゴがどこを拠点にしているのか皆目検討もつかない。

 人に尋ねても知らぬ存ぜぬばかりで尻尾すら掴めず終いだ。

 情報屋の情報がほしいなんて間の抜けた話ではあるが、それを教えてくれる情報屋なんて果たしているのだろうか。

 ……あれ、俺は何を探しているんだっけ?

 たしか、情報屋を探しているんだよな。アルゴの居場所が知りたくて、その場所を虱潰しに探していたわけだ。んで、結局見つからなくてアルゴの事を知っていそうな情報屋を探そうとして、情報屋のアルゴの拠点を知っている情報屋の拠点を聞きたいがために情報を集めようとして……。

 

「いかん……ゲシュタルト崩壊してきた……」

 

 頭を抱えた、その瞬間。

 

「なぁにぶつぶつ言ってんだ、ヨ!」

「おごぉ!?」

 

 突如として尻に衝撃が走る。

 車に轢かれたような勢いの如く数メートル先まで吹っ飛ばされて、余力を失った体はすり鉢のように地面に削られる。

 ああ、人が削れる音を初めて聞いた。ゾリゾリっと。トラウマになりそうだ。

 戦闘区域外なためダメージは感じない。しかし、何の前触れもなく訪れたインパルスに混乱を極め、路上に突っ伏していると……

 

「にゃハハ! 相変わらずダサダサだナ!」

「な、なん……ッ」

 

 目を白黒させて、なにがなにやらと振り返る。

 するとそこには向日葵のような黄色を靡かせた、いかにも性格の悪そうな《ケットシー》が立っていた。

 

「アルゴ……!」

「いい度胸じゃないカ。情報屋の情報を集めようだなんテ」

 

 言って、ふんすと鼻を鳴らすその表情からは不思議と機嫌の悪さを感じない。

 好戦的な態度あれば今すぐにでも立ち上がり、自衛のためにアルンで買い占めた小型犬のぬいぐるみを撒菱の如くばら撒いてやりたいところではある。が、今日は喧嘩をしに来たわけじゃない。

 堪えろ。堪えれるんだ俺……!

 

「何も蹴り飛ばさなくたって……」

「何言ってんダ。オイラの事を嗅ぎまわってたじゃないカ。蹴られて当然ダ」

「別に嗅ぎまわってわけじゃない……って、誰から聞いたんだ? そんなこと俺誰にも――」

「ばーか。オイラの情報網を甘くみるなってノ。侍の格好した変人が白昼同道とオイラのことを尋ねまわってるって連絡がきたんだヨ。変人って聞いてすぐにお前だってわかったサ」

「せめて侍の格好で気づいてくれ……」

 

 打って変わって、にししと笑うアルゴが手を差し伸ばす。流れのまま手を置いて、引かれるがまま体を起こす。

 どういうことだろう。言動とは裏腹な態度に戸惑いを隠せない。先日の口論からまだ日も浅くないだけに、顔を合わせたら避けられるか罵られるかの覚悟はしていたのだが……。

 予想が外れただけあって、彼女を直視できなかった。

 どこかで謝らなければいけないなと、反省はしていた。ゲームとはいえ、女性に対し本気で嫌がっているものを脅迫の材料として利用したのだ。ユウキのプライベートを守る為だとしても、ユウキ本人が耳にしたら気持ちの良い反応が返ってくるとは思えない。無論、俺も正しいことだとは思っていない。

 ――これがいい機会かもしれない。素直に頭を下げて、謝ってしまおう。

 と、思い至り「この前の事なんだが」と言いかけた、その直後だった。

 

「この前は悪かったナ」

「え……」

 

 彼女の口から、思いがけない言葉が零れ出てきた。

 頬を掻いて、不器用な面持ちでアルゴは続けて言った。

 

「聞いたんダ。キー坊とアーちゃんから」

「聞いたって――」

「ああいや、正確には話してくれた、だナ。絶剣のこと。一通リ」

「……そうか」

「先に言っておくけど、誰にも言うつもりはないし、これ以上あの子に干渉するつもりもないヨ」

「……随分、聞き分けがいいんだな」

「――まぁ、否定はしないサ」

 

 言って、アルゴはふわりと反転すると、

 

「オレっちに用があるんだロ? 丁度いい。オイラもお前にききたい事があるんダ。ついてきナ」

 

 若草色のフードを深く被ると、アルゴは羽を広げて地を蹴った。俺の返答を待つことなく。

 

「あ、おい!」

 

 行き先も告げることなく飛び立っていく彼女に、俺も慌てて羽を広げる。

 一体どこへ向かうのやら。尻を蹴飛ばしたり勝手に飛んでったり。忙しない奴だな。

 とはいえ、さっきの話も含めてこちらの用件だけでは終わらなさそうだ。とにかく見失っては適わない。

 ああ、ぶつくさ考えている間にただでさえ小さいアルゴがすっかり点になってしまった。

 すかさず後を追いかける。

 羽を靡かせ、風を裂き、勢いに勢いを重ねて飛翔する、が。

 

「…………!!」

 

 アルゴとの距離が中々縮まらない。

 それどころか差が開くばかりで、堪らずちょっと待ってくれと声を上げる。すると振り向いたアルゴが眉を八の字に曲げて、

 

「なにしてんダ! どんくさい奴だナー!」

「ちょ、も少しペースをだな……ッ」

「ちんたらしてると置いてくからなスカポンタン!」

 

 

 風を切る音で会話が噛み合ってない。だが最後のはハッキリと聞こえた。悪口のボキャブラリーが品薄すぎやしませんか。最近の小学生でも使わないって。すかぽんたん。

 そもそも俺は飛行自体得意ではない。や、飛べることは飛べるんだ。だがそれ以上に周りのスピードが異常に早いのだ。よく考えてみてほしい。百戦錬磨のSAO生き残り組みと半生を仮想現実空間で過ごしている《スリーピング・ナイツ》。経験と慣れがものをいうこの世界で、初めて降り立って数ヶ月の俺としてはよく飛べている方だと思うのだ。平均かそれよりも少し上ぐらいの飛行技術だと信じている。否、信じたい。信じさせてくれ。

 そんな希望的観測を抱いていたのは、何も今回が初めてではない。

 つい先日のことだ。いつもの仲間たちと、話の流れで空を飛ぶ際に使用する『補助スティック』と訓練次第では不要な『随意飛行』の差について意見交換をしていた。

 無論『随意飛行』の方がメリットが多い。その点については俺も含め皆同意している。それだけに、『補助スティック』を使用している仲間は誰もいない。俺自身もようやく随意飛行に慣れつつあったが故に、話にはそれなりについていけた。

 そして、やはりというか。そういう話になると競争したくなるものだ。揃いも揃って皆ノリノリだった。俺も成り行きで仕方なく参戦することに……というのは少し嘘で、内心ではそれなりにワクワクしていた。慣れからの影響も相まって、多少なりとも自信があったからだろうか。

 ――いや、恐らく殺生を交えた争いとはあまりにもかけ離れた、単純な競い事は久しく経験していなかったからだろう。年甲斐もなく昂ぶっていたあの時の心情は今でもよく覚えている。

 流石に古参のリーファやキリトに勝とうなどと思っているはずもなく、とはいえ飛行に関しては俺と同じく苦手意識をもっているというシリカとは同等程度だと。そう高を括っていた。

 ところがどっこいシリカのスピードときたら。肩を並べるどころか大差での決着だ。リズやクラインにも負けて、結局俺は最下位で皆にからかわれるハメとなり、赤っ恥をかいたというわけだ。

 その後シリカに『これが普通だと思ってました』なんて言われたら、返す言葉が見つからない。さらに、余程嬉しかったのだろうか、自身よりも格下が現れたことで、随分とはしゃいでは皆にハイタッチを求めていた。なんだ。大人を虐めて楽しいのか。俺だって傷はつくんだそ。

 ようするに、周りの水準がおかしい。

 

 そうだ。だから俺は悪くない。皆が悪い。ついでにアルゴも。

 

 

 

 

「ったく。見つかったらお前のせいだからナ」

「何にだよ……」

 

 飛び立った町から北西へ飛行して二十分。必死に追いかけて、ふと前触れもなく降り立ったそこは、何の変哲もない樹海だった。

 道という道はない。まさに富士の樹海とよく似ている。地面には木の根が波打つように群生し、岩やら倒木やらが一面に広がっていて、右を見ても左を見ても苔の絨毯だけが視界いっぱいに広がっている。無意識に数歩でも進んでしまったら、あっという間に方向感覚を失うことだろう。

 しかし、そんな中でもアルゴは一言「ついてきナ」と手を招いて、すいすいと奥へ進んでいく。つづら折りに歩める彼女を見失っては適わないと、俺は足早にアルゴの背中を追いかけた。

 

「随分と静かだな。モンスターはスポーンしないのか?」

「するけど限られた奴しか出てこなイ」

「へぇ、強いのか?」

「弱いらしイ」

「らしいって、見たことないのか」

「二ヶ月に一度しか沸かないからナ」

「二ヶ月に一度!?」

 

 さらっと発言したわりには、沸き時間があまりにぶっとんでいる。驚きのあまり、つい声が裏返ってしまった。

 

「お前まさかそいつの探索に付き合えって言うんじゃ……」

「馬鹿いうナ。お前一人でどーこーできるような相手じゃなイ。階層の三分の一を占めるこのマップの広さの中、沸く時間は分かってても場所はランダムなんダ。誰かがいつ倒したかも分からない状況で、二人で探しても時間の無駄サ。それに、仮に見つかったとしても、近づいたらあっという間に逃げちまうらしイ。なんでも、猫みたいな姿をしてるらしいゾ」

「へぇ……。って、いいのか。そんなに情報垂れ流して」

「別に構わないサ。攻略サイトにも載ってる情報ダ。その癖誰も探しに来やしないけどナ」

「まぁ、時間と労力を考えたらな……」

 

 アルゴが肩を竦めるのも頷ける。

 こんな生い茂った木々に囲まれては、上空からの散策は皆無だろう。徒歩での探索を進めたところで、こう似たような景色が広がってはまともに調べることもできないだろうし、見たところ小さな洞窟や丁度猫一匹が納まるような木の窪みが至るところに点在している。猫程の大きさで動きが素早いなら枝の上にもいるだろう。静かであるが故に足音でバレてしまう可能性だってある。どこにいても不思議ではないのだろうが、それだけにキリがないんだろうな。

 

「因みに見つけた際の情報提供の相場は?」

「目撃情報の場合の報酬はナシ。二ヶ月毎日二十四時間張り込むなんてできないからナ。ただし、討伐できた際の報酬は、まぁ情報屋にもよるけど……平均一千万ユルド程度ってとこかナ。それからドロップ品の提供とかモンスターのステータス、色々上乗せしたら一億ユルドは下らないゾ」

「それはまた豪い高額な……」

「キー坊やアスナでもお手上げのコンテンツだヨ。今となっちゃ都市伝説みたいなもんサ」

「――それで、なんでそんな場所にオレを連れて来たんだ?」

 

 都市伝説よりも気になる点をアルゴの背中に問いかける。

 すると、アルゴはくるりと振り向いたかと思えば、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「こういうこト」

 

 アルゴは後ろ向きのまま一歩後退する。

 すると、彼女の体は何かに吸い込まれるかのように忽然と消えてしまったのだ。

 

「は、はぁ!?」

 

 状況が飲み込めない。

 消えた場所をパントマイムのようにぺたぺたと触れてみるものの、何の感触も得られない。転移やスキルとも違う。まるで空間から切り取られたかのように跡形もなく、ただの静寂だけがそこには広がっていた。

 最初からアルゴなんていなかった? いやいや馬鹿言うな。さっきまでずっと一緒にいたじゃないか。

 

「アルゴ!! どこだ!? 大丈夫か!?」

「うるさいナー! 聞こえてるってノ!」

「おほほ!?」

 

 何もない空間から突如、アルゴの顰めた顔だけがにゅるりと飛び出してきた。

 物凄く恐い。生首こんにちは。変な声でた。




今回も読んでいただき、誠に有難うございます。

少しずつですが進展はしている……はずです。
劇場版に関しては正直、かなりてこずっています。ストーリーに矛盾が生じるばかりで現状結末まで至っていません。
頭では浮かんでいるのですが、表現に苦しんでいます。大変申し訳ございません。
今後の進行に関しましてはツイッターにて報告致します。

次回も宜しくお願い致します。

おもち。
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