wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

7 / 50
 第六話を投稿させていただきます。

 前回の前書きでも書きましたが、主人公の名前を他の作品とかぶってしまうことを避けるため、変更させていただきました。以後主人公の名前は「霧ヶ峰 刀霞」(きりがみね とうか)になります。宜しくお願いいたします。

 今回はちょっと短いかもしれません。




 貴方には、己の命を捨ててまで、救いたい人がいるだろうか。

 

 救いたい人が貴方の存在を認知しなかったとしても?

 

 救いたい人が貴方ではない、違う誰かを愛したとしても?

 

 救いたい人が貴方のことを忌み嫌っていたとしても?

 

 その人が自分にとってどんな存在なのかはその人にしかわからない。逆もまた然りだ。

 

 『私の死と引き換えに、貴方が生き返ってくれるなら、これ程幸せなことはない』

 

 そんな切なくて、悲しい言葉を有言実行できた俺もまた、幸せ者だ。

 

 俺はいずれ死ぬ。それも遠い未来ではなく、近いうちに。

 

 その時に俺は胸を張って言えるだろうか。悔いのない選択をしたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先生……」

「はい、どうしましたか?」

「……本当に大丈夫ですか……?」

「ははは、問題ありませんよ」

 

 先生、声が笑っていませんよ。

 

 ベットで仰向けになっている俺の視界を、大きな機械が覆い、手首足首にはバイタルや健康状態を数値化するため必要な手錠型の電極が取り付けられている。まさか自分がユウキと同じ状況になるとは思いもしなかった。

 そう、倉橋先生の提案とはメディキュボイドの被験者になってほしい。という案だった。

 倉橋先生曰く《メディキュボイド》の被験者は現状木綿季しかいないため、『未成年の女性』としてのデータは十二分に揃っていたのだが、『成人男性』のデータは不十分なため、将来の医療発展のために力を貸してほしい。ということだった。

 必要であれば謝礼も出るというが、正直お金にはあまり興味がなかったので、半分をSAO事件の被害者支援の募金に、そしてもう半分はユウキの今後の生活費として当ててもらうことを条件に承諾した。もちろん木綿季には伏せておくことも含めて。

 承諾後、俺は実際に体内のウィルスの有無の確認をするため、健康診断を行った。

 そして血液検査から判断した結果、《陽性》そして木綿季の体内にかつてあったものとまったく同じ《HIV-1型》だった。だが、ここまでならばエイズとはいえ、ほとんどの日本人は《HIV-1型》なため、珍しくもないのだが、俺はA型であるにもかかわらず、エイズの結合組織がB型のものであると発覚した。

 つまりエイズの組織構成というものは各血液型により構造上変化する。A型にはA型の、B型にはB型の組織構成があるのだが、ユウキの血液がB型であったため、俺の血液とは違う構成になっていたのだ。尚且つ、結合組織の進行状態が発病してから2年~3年ほど経過している状態であることも発覚した。

 あらゆる矛盾が重なった、過去に前例がないこの事実に、倉橋先生は信用せざるを得なかった。俺の体調に大きな変化が起きなかったのも、エイズの結合組織がA型とは異なる構造だったため、進行に遅延が発生していたという理由で合点がいく。

 しかし、あくまでも進行が遅いだけであり、時間が経過すると共に体内のウィルスはA型のものへと組織が再構成されていく。投薬による遅延は可能だが、確実な治療方法はない。

 

 それでも俺はこの残り少ない命を使って、誰かが助かるのであれば十分だった。

 

 《メディキュボイド》の始動確認が済むまでしばらくいつもの病室で過ごしていたのだが、ちょうどメディキュボイドが設置されている無菌室へ引っ越しする前日の日に、アスナがお見舞いに来てくれた。とは言っても、木綿季の序でだが。

 

 そして俺は彼女からある相談を受けた。この事実をキリトたちに話してもいいだろうかと。

 実は病院の屋上で俺が逃げたあと、小島に現れた人物に似た人を見つけてしまったと連絡してしまったらしい。

 キリトはなんの確証もないし、仮に本人だったとしても一人で接触するのは危険だと警告したらしいのだが、結局は俺の元へ尋ねて来てしまった。

 結局のところ、キリトは既に俺の正体を五割ほど看破していたらしい。俺が明日奈や倉橋先生に別世界から来たという話をする前に、彼なりの独自の発想で結論に至っていた。

 しかし、確固たる自信があるわけでもなかったので、彼も真意を確かめるべく、俺と話がしたいと明日奈に相談していたらしい。

 帰れる保証はなにもないが、もしかしたら元にいた世界へ帰れる手かがりに繋がるかもしれないという明日奈の説得に、俺はキリトにだけなら話しても構わないという条件で返答した。

 別にシリカ、リズ、クライン、エギル、シリカ、リーファ、シノン。そして《スリーピング・ナイツ》のメンバーを信用していないわけではない。

 

 そもそも俺は一人で死ぬつもりだったのだから、元々周りに話すつもりなどなく、なにより気を使わせてしまうことになるのが凄く嫌でもあったので、どうせ関わるのであれば、普通に友達として紹介してほしいと明日奈にお願いを申し入れた。

 木綿季の件と、俺がメディキュボイドの被験者であることは勿論のこと、知るのはキリトと明日奈と倉橋先生の三人だけにしてほしい、と。

 

 そして俺は、改めて深々と頭を下げる。

 

「頼む、ユウキには……俺という人物がいることを言わないでほしい」

「え……?」

 

 アスナはキョトンとしている。どうやら助けたことを伏せておけば問題ないと考えているらしい。

 

「いい結果にしろ悪い結果にしろ、俺は彼女の人生に大きな影響を与えてしまった。だから、もう接触すべきじゃないんだ。俺はもう目的を果たす事ができたし、これ以上木綿季に会う必要も理由もない」

 

 本音ではあったが、つまるところ単純に俺は怖かった。これ以上木綿季の人生に干渉することが。ただでさえ辛い思いをしている彼女に、そうさせた本人であるこの俺が、どの面下げて会えばいいのかと。

 

「……霧ヶ峰さんは木綿季に二度会っています……ご存じの通りあの車椅子の子は木綿季です。木綿季は霧ヶ峰さんにとても感謝していたんです。まるで兄ちゃんができたみたいだって……それに……それに霧ヶ峰さんは……!」

 

 明日奈は拳はぎゅっと握りしめ、最初よりも強い言葉で俺に何かを言いかけた。

 

 あぁ、明日奈は何か勘違いをしている。直観的にそうわかった。

 

「俺は別に彼女を恋愛対象としてみているわけじゃないさ。とにかく彼女が助かればそれで良かった。後、刀霞でいいし、敬語もいらない」

 

 彼女の言いかけた言葉を察した俺は苦笑いで答えた。

 

 これは見栄でもなく、本心だ。そもそも憧れのような存在なだけであって、特別彼女に好意を抱いているわけではない。それに車椅子の少女が木綿季だと発覚した時も、結果的に妹に振り回されたような感覚しかなかった。それに、彼女の負担になるような感情を持つべきじゃない。

 しばらく長い沈黙が続いた後、アスナの目に悲しみの色がある事を察した俺は、重い空気を断ち切るように話題を逸らす。

 

「あ、あぁそいえばさ! 俺もキリトに聞きたいことがあったんだ! 機会があれば、今度連れてきてほしいな。明日には無菌室に引っ越すことになるだろうから、部屋は倉橋先生に聞いてくれればわかるからさ!」

 

 俺の妙な気遣いに察してくれたのか、明日奈は小さく笑みを溢した後、先ほどとは緊張感のぬけた軽い口調で話してくれた。

 

「……わかった。なら私も明日奈でいいよ、刀霞。それで、キリトくんに聞きたいことって?」

「それはまたキリトが来た時に話すさ。今はまだ秘密ってことで」

 

 アスナは「何よそれ」と、少し怪しむような表情を含ませていたが、すぐ笑顔に戻り、

 

「じゃあ、私そろそろ行くね。明日はキリトくんと一緒に来るから」

「あぁ、そうだ明日奈。その、なんだ。木綿季は元気にしてたか?」

 

 アスナはニッコリと微笑んで答えた。

 

「――元気だよ!」

「そうか。なら、いいんだ」

 

 アスナは「じゃあまた明日ね」と一言残して彼女は病室を後にした。

 ……明日奈の言葉を聞いて安心した。結局木綿季のことをそれなりに心配している自分がいる。無理してないか、ちゃんと食事はとっているか、リハビリは順調なのか。気づけば木綿季のことばかり考えている。

 

――まぁ、それは元の世界でも変わらないか。

 

 

 

 

 翌日。

 

 心配性な俺は頭上のメディキュボイドが本当に問題なく稼働するのか不安でならなかった。

 

「なんだ刀霞、意外と臆病だな」

「ほっとけ」

 

 幾度も倉橋先生に確認をとる俺を見て、キリトがからかってくる。

 メディキュボイドが設置されている無菌室に引っ越しが済んだ俺は、キリト、明日奈、倉橋先生の立ち合いのもと、はじめてのフルダイブをすることとなった。

 

 ――遡ること二時間前。

 

 メディキュボイドの始動と調整が必要なため、準備が完了するまでの間、俺はキリトと二人っきりで話すことができた。

 彼はすんなりと俺の話を信じてくれた。明日奈からあらかたの話を聞いていたらしく、問題点はどうやってここに来たかだった。

 

「それで刀霞さん。どうやって仮想空間でもあるALOに直接来ることができたんですか?」

「刀霞でいいよ。それに関しては俺もよくわかっていないんだ。仮眠とるために目を瞑っていたら気づいたら夢の中で飼い猫につれてこられたというか……」

 

 ファンタジーにも程があるが、ありのままをキリトに伝えることしかできない。

 

「そうか。なら、刀霞。ALOの世界に行きたかった意思、というか強い思いはあったのか?」

「あぁ、それはあったと思う。目的は木綿季を助けることだったし……もしかして直接現実世界に直接飛ばなかったのと何か関係があるのか?」

「断言はできないけど、木綿季にとってVRMMOが現実世界だ。だから刀霞の強い意思がALO、もとい木綿季のいる世界に引き合わせた可能性がある。つまり帰れる手がかりは木綿季にあるかもしれない。もしくは、可能性は低いがあいつが関わっている……か」

「茅場、晶彦……」

「可能性は低いけど、ね……」

 

 俺とキリトはしばらく思考していた。そして、俺はある結論に至った。

 木綿季の現実世界はもうここだ。フルダイブする必要がなくなったことで、彼女の意思は元の現実世界へ戻ったのだ。それなら俺はそれを尊重したい、と。

 

「まぁ、俺は誰かを利用してまで帰りたいとは思っていないさ。誰かが原因で帰ることができないのなら俺は帰れなくてもいいと思ってる」

「だけど……行動をおこさなきゃ一生帰ることはできないと思うぞ」

「それでもいいさ。俺の最後の仕事はメディキュボイドの被験者。帰ることは願望であって要望じゃあない」

「……とりあえずALOにも何かが手がかりがあるかもしれない。まだ断言するには早いと思うから、とにかくフルダイブしてみよう」

「……すまないなキリト。お前にまで迷惑かけてしまって」

 

 すっかり巻き込んでしまった。彼にも他にやらなければいけないことが多々あるし、本当に申し訳なかった。頭を下げて謝罪した俺の肩をポンと叩いてくれたキリトは、穏やかな表情で口を開く。

 

「何言ってんだよ。木綿季を助けてくれたんだ。もう刀霞は俺たちの仲間さ」

「そうそう、気にしちゃだめだよ、刀霞」

 

 後ろを振り向くとアスナが立っていた。

 

「大丈夫、キリトくんも私も迷惑だなんて思ってないわ」

「……ありがとう」

 

 謝罪ではなく、深い感謝を込めてもう一度キリトたちにお辞儀をした。

 そして、ふと思い出した疑問をそれとなしに尋ねる。

 

「そういえばキリト、なぜあの時俺を斬らなかった?」

「あの時……?」

「ユウキを助けようとした時さ。君なら俺がユウキに近づく前に攻撃することもできたろう? 何よりアスナに危険が迫っていると感じたんじゃないのか?」

「……あぁ、確かに最初こそはそう思ってたさ……だけど」

 

 キリトはそのまま視線を窓際に向けて、もの悲しげな表情で呟いた。

 

「――……苦しそうだったんだ」

「……苦しそう?」

「あぁ、ユウキを看取っていたあの中で、君が誰よりも一番苦しそうに見えたんだ……だから攻撃しなかった……いや、できなかったんだ」

「私も、そう見えたの。あの時の刀霞の顔、本当に辛そうだった。それに……」

「それに……?」

「ううん……なんでもない。気にしないで」

 

 明日奈は何かを言いかけるも、思い止まったように表情で誤魔化した。

 少し気になるが詮索はやめておこう。あの時は彼女もいっぱいいっぱいだったに違いない。

 キリトという大切な人を一度失いかけて、そして親友である木綿季を失いかけた。近しい人が離れていく恐怖を二度も経験している明日奈にとって、色々と思うこともあるのだろう。

 

「……あの時は俺も必死だったからよく覚えていないんだ。でも、おかげで木綿季を助けることができた。ありがとうキリト、アスナ」

「それを言うなら、こちらこそだよ」

「そうだよ……こちらこそ、木綿季を助けてくれて本当にありがとう……」

 

 二人の感謝が鋭く胸に刺さる。

 ――俺は本当に正しいことをしたのだろうか。そんな懸念が未だに晴れない。

 ……これ以上感謝されるのがなんだか辛い。

 

「――そろそろ準備も終わった頃だな。そろそろ戻ろう」

 

 俺は誤魔化すように会話を切る。

 お礼を言われて苦しくなるのは初めてだ。

 これが偽善と言うやつなんだろうな。

 

 俺は、その場から逃げるように《メディキュボイド》がある無菌室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を戻して二時間後。

 

「なんだ刀霞、意外と臆病だな」

「ほっとけ」

 

 キリトたちが病室に戻るやいなや、倉橋先生に何度も確認をとる俺の姿を見てからかってきた。仕方がないだろう。フルダイブなんて初めてなんだから。

 

「それでは始めたいと思いますが、とりあえずALOのアプリケーションを入れておいたので、そちらの方へリンクするということでいいですか?」

 

 倉橋先生の問に俺は緊張しながら答えた。

 

「え、えぇ……お願いします」

「刀霞、キャラクターを作成したらとりあえずその種族の拠点に飛ばされるはずだ。俺たちは隣室のアミュスフィアですぐ向かうから、合流するまで待っててくれ」

「あぁ、わかった」

「種族は決まっているのか?」

 

――そういえば決めてないな……どうしたものか。確か木綿季はインプだったから、拠点が被って会ってしまったら元も子もない。やはりここはインプ以外にしたほうがいいだろうな。

 

「得に決めてはいないが、インプ以外にしようと思う」

「そのことなら大丈夫、木綿季は私たちと同じレネゲイドだから拠点にはいないと思うわ。逆に他の種族にしてしまうとスリーピング・ナイツの誰かに出会う可能性があるから、木綿季以外誰も属してないインプがいいと思うの」

 

 明日奈は俺の気持ちを察し、アドバイスをしてくれた。俺はその考えを率直に受け入れ、インプに決めた後、改めてキリトから「インプ領で落ち合おう」と場所を再度確認し、いよいよフルダイブすることになった。

 

「では、刀霞さん。いきますよ」

「あ、その前に先生。一つお聞きしたい事が」

「なんでしょう?」

「俺の余命は、後どのくらいですか?」

「……今のところまだ分かっていません。何分初めての例ですから……ただ、初期症状が半年以内に発生する確率は低いと思います」

「つまり……半年後には歩けなくなる……か」

「……ええ、恐らくは……」

 

 十分すぎる。

 

「歩けなくなるまでの間、外出することは可能ですか?」

「えぇ、もちろん。性行為をしなければ基本感染はしませんので」

 

 なら問題ないな。童貞の俺には無縁なものだ。

 

「なら、キリト。今度おすすめの観光スポットでも教えてくれ。動けなくなる前に色々見たいところがあるんだ」

「……あぁ、まかせとけ」

「よし。じゃあ先生、始めて下さい」

「わかりました。落ち着いて、リラックスしてください。心拍数が危険域まで達すると強制ログアウトされてしまいますので」

「わかりました」

 

 メディキュボイドの起動音が徐々に大きなり、まるで飛行機のエンジン音のように音が高くなる感覚が脳へ響き始める。

 どうしよう、凄く不安だ。いよいよフルダイブするのか。落ち着け落ち着け。きっと大丈夫さ。

 そして、いよいよその瞬間が、というところで俺は肝心なことを思い出す。

 

――そいえば、これってリンクスタートって言わなきゃいけないのか? 確かキリトやアスナも言ってたよな……いやしかし、言わずとも起動する展開もあったような……でも、言わなければ起動しないってことになるとみんな俺の言葉を待っているのか……? 言った方がいいか……言った方がいい、よな。よ、よし、言おう。言うぞ。

 

「り……りんくすたーと!」

「あ、言わなくても大丈夫ですよ」

「…………」

 

 機械に覆われた視界の中で、アスナとキリトの喉仏を鳴らして咳き込むような、強引に押し殺しているような笑い声が聞こえた。後で覚えてろよ貴様ら。

 

 そして、今まで感じたことがないような、心中に渦巻く何かを、確かに俺は感じ取る。

 

 そうか、これが復讐心というやつか。




 今回も閲覧していただき、ありがとうございました。
 次回は主人公がALOにフルダイブする展開になります。
 今後、戦闘する展開が増えるのと、オリジナル設定を使用する部分がありますので、ご注意下さい。
 コメントしていただける方がいてくれて本当に感謝です。閲覧していただけるだけで、いろんな人から力をもらっています。
 またコメントいただけると嬉しいです
 今後も頑張りますので、よろしくお願いいたします。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。