wake up knights   作:すーぱーおもちらんど

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第八話を投稿させていただきます。

少し遅くなって申し訳ありません。

今回の内容は少々残酷な表現が含まれています。

ご覧になる場合はご注意下さい。




「――……ぅ……」

 

 意識を失ってから30分後、ユウキは目を覚ました。

 

 若干意識が朦朧としつつも、ユウキがあたりを見渡すと、あまり綺麗とは言えない埃っぽい小さな部屋にいる事に気づいた。

 目の前には弱弱しい光を帯びた電球がぶら下がっており、窓の外には一本の街灯が見えるが、木綿季はインプ領内のどこかにある、人気のない2階の部屋にいることしかわからなかった。

 

 

 

――……ここ……どこだろ……あれ……ボクなんでこんなところに……確か……お菓子を買って――

 

――そうだ。ボクあいつらに……!

 

 ユウキは椅子に座らせられた状態で、手を後ろに組まされ、両手足共に縛られていた。スタンは解かれていたが、手が縛られているためメニュー画面を開く事ができず、ログアウトやGMコールによる通報ができない。暫くユウキはなんとか脱出しようとジタバタと暴れていたが、どうやっても拘束を解くことはできなかった。

 

「ぅ……く……うごけない……!」

 

 やがて、後ろから扉の開く音が聞こえる共に、聞き覚えのある男性の声が部屋に響いた。

 

「おんやー。やっとお目覚めかぃ絶剣さまぁ」

 

 ユウキは恐怖と怒りが入り混じるような感覚に陥るが、この部屋に連れ込んだであろう犯人の目を強く睨みつけ、抵抗の意思を示しすように訴えた。

 

「お前たち……なんでこんなこと……!!」

「よく言うぜ。人のプライド散々踏みにじりやがってよぉ」

「俺たちの方がよっぽど傷ついてるよなぁ?」

「ホントホント。手加減された上に落胆されたもんなぁ。ボク死にたくなっちゃうよぉ」

 

 煽るような笑い声で、木綿季は完全に思い出した。

 そう、かつてこのサラマンダーたちは、小島でユウキとデュエルで戦ったことがある。アスナがユウキと初めて出会う前の話だが、最初こそお互いに真剣に戦っていたのだが、三人目を倒した時点で、三人がインチキだとユウキに文句を言ってきたのが事の始まりだった。

 大して強くないわりに、下品な笑い声で挑発したり、文句ばかり言ってくるサラマンダーたちに落胆したユウキは、「三人同時に相手にしてやるからかかってこい」と喧嘩を売ってしまったのだ。結果的に圧勝したユウキは、ボロボロになった三人の前で観戦している人たちに向けてVサインをしたり、すぐに次の対戦相手を探すなど、逆に挑発し返すような行動をとってしまった。

 それが三人にとっては屈辱以外のなにものでもなかった。いつか復讐しようと心に決めていたのだが、絶剣と仲間たちがボス階層をクリアしたという事実から、リベンジした所で勝ち目がないと諦めかけていた。

 が、ある日風の噂で絶剣が帯剣もせずにインプ領でお菓子を食べ歩きしているという情報を入手した。

 彼らは、実力では敵わないということは承知していたため、彼女に精神的なダメージを与えようと拉致計画をしていたのだ。

 若干目立ちたがりなユウキは褒められたり尊敬されたりするとつい気が緩んでしまうため、そこに漬け込まれてしまった。

 

「さぁーて、それじゃあ声出されても困るからサイレンスかけさせてもらうねぇ?」

 

 そう言うと、縛られたユウキの手を勝手に操作し、デュエルの申請をしてしまう。抵抗ができないユウキはなされるがまま承諾され、事実上スキルが通るような状態になった。

 そして、そのまま三人で《サイレンス》という魔法をユウキに重ねがけをし、彼女は沈黙状態となってしまう。

 つまりユウキは魔法が使用できず、喋ることができないため、事実上大声で助けを呼ぶことが不可能になってしまったのだ。

 本来サイレンスという魔法の効果時間は5分ほどだが、三人に重複されてしまったため、15分は喋ることができない。ユウキは助けを呼ぶことも、拘束により自ら脱出することもできない。

 

「ま、あんまり暴れるようだったらまたスタンネイル使えばいいっしょ」

「あんまり使うなよー。効果時間短いわりに結構高いんだぜ」

「そう言うなって。その値段分、絶剣ちゃんに体で払ってもらっちゃおー!」

「………!!」

 

 ここでユウキはやっと、事の重大さに気づいた。身動きもとれず、助けも呼べず、ログアウトもできない。そしてあの男の言葉の意味。

 嫌悪と恐怖が一気に高まり、身体が板のように硬直する。

 恐怖に青ざめ手が震え、薄い刃物で背をなでられるような戦慄がユウキを襲う。

 

――やだ……やめて……怖い……怖いよ……

 

「……っ……!……!!」

 

――助けて……誰か……誰か……!!

 

 これから先何をされるのか想像しただけで体が震える。

 そんな恐怖に十五歳の少女が耐えられるはずもなく、ユウキはとうとう涙を流してしまった。

 

「うわぁぁぁ……絶剣ちゃんでも泣くんだねぇ! かんわぃぃぃ!!」

「お、おい。あんまり大きな声だすなって」

「大丈夫だって、こんなところ誰もこねーさ。それより見てみろよ……」

 

 ALO最強の剣士と言われたあの絶剣が涙を流して俺たちに恐怖している。

 それだけで男たちの気分は高揚してしまった。

 

「めっちゃ震えてるじゃん……たまんねぇ……」

「俺、俺先な!!」

「まぁそう急くなって。ゆっくり楽しもうぜ」

 

 そういうと、一人の男がユウキの手を再度手に取り、装備画面一覧を表示させる。

 

「…………?」

 

――なに……? なにするつもりなの……?

 

「これ一度はやってみたかったんだよねぇっ……!!」

 

 そう言うとステータス画面を操作し、ユウキの装備を強引に1つ外してしまった。胸部のミスリルプレートが外され、薄いインナーのような上着だけが露になる。

 

「――――ッ!!」

 

 ユウキは必死に抵抗しようとするが、強く固定された手足は動かすことができず、抗うことができない。

 

「おぉぉ……すっげぇ……」

「うわぁ……お前すげぇ性癖してんのな…」

「やっべ……これだけでヌけるわ俺……」

 

 ユウキは恐怖と羞恥が入り混じり、涙で溢れた赤面の表情でキッと男性たちを睨みつけるが、それは逆効果だった。

 

「あぁぁ……駄目だって……そんな顔されたら我慢できねぇよ……」

 

 そのまま続けるように足装備を外され、透き通るような細い素足が露になる。

 

「うわぁ……絶剣ちゃん綺麗な足してるねぇ」

「も、もういいだろ? 早く全部脱がしちまおうぜ……!!」

 

 必死に抵抗を続けていたが、やがて男たちの狂気に似た恐ろしい表情に体がすくんでしまい、それ以上体のいうことがきかなくなってしまった。

 

――やだ……やだよぉ……ボク……こんな……こんなやつらに…助けて……誰かボクを助けて……アスナ……みんな………姉ちゃん……

 

 がっくりと項垂れるユウキ。目には光がなく、抵抗する気力を失ってしまい、枯れることのない涙をただ流すことしかできなかった。

 それを目の当たりにした男たちの興奮が一気に頂点に達してしまう。

 

「それじゃ、絶剣ちゃんの恥ずかしいところみちゃおっかなー」

「もう死んでもいいわ……神様マジでありがとう!!」

「俺も俺も! あの絶剣ちゃんを強姦できるとか死んでも悔いないわ!」

 

 ――と、歓喜に身を震わせた、その直後。

 

「――だったら今死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 長髪のインプが雄たけびを上げながら窓ガラスを蹴破り、そのまま突風のような鋭い勢いで後ろからサラマンダーの男を1人串刺しにした。

 

「が……っ……」

 

 悲痛な叫び声をあげる間もなく地に伏してしまったサラマンダーのHPはみるみる削れていく。さらに追い討ちをかけるにようにトウカは深々と大剣を突き刺し、三人のうちの一人をそのままリメインライト化させてしまった。

 死亡エフェクト後に1分間のみそのプレイヤーを示す炎が残り、その間に蘇生魔法やアイテムを使えばその場で復活できるが、しなければ自領地で蘇生される。

 

 この一定期間残ってる炎を《リメインライト》という。

 炎になっても意識がとどまっており見聞きが出来る為、迂闊に情報性のある会話は出来ない。1分経過してようやく動けるようになる、ということである。

 また死亡直前の死亡エフェクトを《エンドフレイム》といい、種族によってこのエフェクトは違う。同じくリメインライトの色も違う。

 

 項垂れていたユウキは一瞬の出来事だったため、見過ごしてしまったがサラマンダーの一人がリメインライト化したことは理解できた。

 しかし、拭うこともできない涙で視界がぼやけていたユウキは、誰が来てくれたのかは未だにわからなかった。

 

――……誰だろ……助かった……のかな……ボク……

 

「なっ……誰だてめぇ!!」

 

 トウカは相手の反応に構うことなく、ユウキのすぐ隣にいたサラマンダー1人に膝蹴りを食らわせ、彼女から引き剥がすと、素早く手足の拘束を解き、そのまま抱きかかえて窓から飛び去った。

 もう1人のサラマンダーはあっという間の出来事に一時的な放心状態になるが、膝蹴りを食らった男に「なにしてんだ早く追え!!」とつっこまれ「あ、あぁ!」と状況が呑み込めないままトウカを追う。

 トウカは窓から飛び出すと同時に急上昇し、自分が出せる最大のスピードでインプ領の中心街へと向かった。

 そして、暫く飛んでいる内に、ユウキの意識は少しずつ覚醒しつつあった。

 

――……おとこの……ひと……?

 

「……ぁ……ぅ……」

「悪いな。何か状態異常になってるみたいだが、俺は解除の仕方がわからないんだ。とりあえず安全な場所に移すから、すぐにログアウトしろ」

「……ぅ……」

「無理に喋らなくていい。後は俺が片付けとくから、そのまま寝とけ」

「…………」

 

――この人……なんだか、会ったことあるような……気がするなぁ……それに……なんだろ……凄くあったかい……

 

 精神的に疲れて果てたユウキは、そのまま刀霞に体を預けた。ユウキは彼が本当に敵か味方かわからなかったが、この人は凄く安心できる人だと直感的に受け入れてしまった。

 トウカは暫くユウキを抱えて飛んでいたが、後ろを振り向くとサラマンダーの姿が見える。

 最初の一撃は不意打ちだからこそ勝てたものの、相手もそれなりの手練れであることは間違いない。真正面から戦っていたら確実に負けるのはわかっていた。だからこそトウカはユウキの救出を最優先にした。恐らくユウキを人質にとられていたらトウカは何もできなかっただろう。

 とにかくユウキだけでも安全な場所へ避難させなければ。彼女の安全を最優先に考えたトウカはさらにスピードを上げ、全速力で飛ぶと、中心街とは遠いが小さい宿屋を発見した。

 そのまま急降下し、急いで一室を借り、ユウキをそこに寝かせ肌を隠すように毛布をかけた。

 

――……よし。とりあえずユウキはこれで大丈夫だな。だけどこのままじゃアイツらが追ってくる。すぐに戻らないと。

 

「君も……ログアウト……しなきゃ……」

 

――お。どうやら状態異常は解除されたみたいだな。ユウキも俺の初期装備を見て悟ってくれたのだろう。このまま戦ってもアイツらには勝てないと。まぁ、俺も勝てるとは思ってないさ……でもな……

 

「今あいつらを放置して逃げるほど、俺は冷静じゃあない」

 

 トウカ心底腸が煮えくりかえっていた。とにかく奴らを殺したくて仕方がない。ユウキの前では冷静さを装ってはいるが、心は勃然と憤怒が湧き上がっていた。

 彼女がどんな酷いことをされ、どれだけ辛い思いをしたか。想像しただけで怒りがこみあがり、唇を噛み締め、握り拳に力が入る。

 そんな怒りに猛っている彼が、ふとユウキの顔をみると、ユウキは疲弊しつつも、不安そうな目でトウカの表情を伺っていた。

 

「大丈夫。今はとにかく休め。今度は勝手に徘徊すんなよ」

 

 トウカは疲弊しきった彼女の頭をそっと撫でると「うん……助けてくれて、ありがと……」と一言お礼を伝えた後、ログアウトした。

 

「さて……」

 

 宿屋から出たトウカは、上空へ飛び上がり、敢えて奴らに目立つように姿を現した。するとほどなくして《リメインライト》から復帰したサラマンダー含め、三人全員が俺を囲うように立ちはだかる。

 

「てめぇ……わかってんだろうな……」

「あぁ、場所を変えよう。三対一でやるなら人目のつかないほうがお前らも都合がいいだろ」

「へぇ。GMコールしないんだ。敵討ちってやつー? マジかっこいいねぇ」

「もういいからとっとと殺そうぜ。早く絶剣ちゃん探して続きやろうよぉ」

 

――……槍と大剣、それに斧……か……ま、なるようになれ、だな。

 

「……向こうの山岳地帯でやろう」

「あぁ、いいよ。死に場所くらい選ばせてやる」

「どうせならこいつがリスポーンしたところに待機して何度も殺そうぜ」

「いいねーそれー」

 

 敵の挑発を軽く流したトウカは、山岳地帯まで三人を誘導した。

 

――……とにかく、これでユウキの安全は一時的かもしれないが保障されるだろう。仮に俺がここでやられたとしても、ユウキのログアウトした場所までは悟られていないし、待ち伏せされることもないだろう。後はユウキがGMコールしてこいつらを監獄送りすれば問題なく解決だ。

 

――……いや。違うな。監獄送りじゃ手ぬるい……絶対殺す。必ず殺す。有象無象の区別なく、俺はお前たちを許しはしない。

 

 しばらくして、山岳地帯に到着したトウカと三人のサラマンダーは、一定の距離を保ちつつ、お互いにデュエル申請をした。もちろん向こうからは三人分送ってきたので、トウカは迷うことなく申請を通す。

 

「俺に先やらせろよ……こちとら不意打ちくらってドタマにきてんだからよ……」

「あーいいよ。でも殺すなよー。甚振りてぇのはお前だけじゃねーんだ」

 

 そう言うと、刀霞が最初に《リメインライト》させたサラマンダーが斧を肩越しに担ぎ、ゆっくりと近づいてきた。

 

「……斧、か」

「あー……痛かったなぁおい。どう落とし前つけてくれんだテメェ……」

「さぁね。落とし所がほしいなら地獄に叩き落してやろうか?」

「ははっ……言うじゃねーか……ビギナーのくせによぉぉぉ!!」

 

 斧を振り上げた男が鬼のような形相で突っ込んでくる。

 

――遅い! これなら……!

 

 振り落とされた斧をかわすため、後ろにバックステップをするが、斧が地面にめり込むと同時にものすごい衝撃波がトウカの体を襲う。

 大剣で防御体勢をとるが、あまりの威力に吹っ飛ばされかけた。

 

「なんつー威力だよ……!」

「てめぇの貧弱な剣じゃ俺の攻撃は防ぎきれねーよゴミがぁぁ!!」

 

 そのままの勢いを維持するように斧を乱打するが、一発一発の攻撃はトウカよりも遅かったため、なんとか避け続けることができた。

 回避しつつ、攻撃の隙間を縫うようにトウカはひたすら大剣を叩き込む。

 

「くそがぁ!! んなもん効かねぇんだよぉ!!」

 

 トウカの振り下ろした大剣が、突如赤く発光した斧に強く弾かれ、そのまま後方に吹っ飛ばされてしまい、木に叩きつけられてしまった。

 

「ぐ……!」

 

鈍痛に耐えかね、そのまま崩れ落ちるように倒れてしまうトウカは、武器こそ手放すことはしなかったが初めて体験する状況に困惑する。

 

――……なんだ今の……攻撃が……弾かれた……? 衝撃で体がいうことを効かない……

 

斧にはソードスキルの一つに、《アックス・バッシュ》というスキルが存在する。

 

 お互いの武器が交差すると、相手の武器を弾き、ノックバックと一定時間の麻痺効果を与えることができる。武器同士の衝突が条件と、このスキルの存在を知っている者には回避されてしまう事がほとんどのため、発動条件は厳しいが、発動中は《ウェポン・ブレイク》などの破壊効果は一切無効化される。

 

「ビギナーじゃこのスキルはしらねーだろ? 雑魚のくせに粋がってんじゃねーよ」

 

 体が動かないトウカに、男が斧を担いだまま威風堂々と歩みより、唾を吐きかけ見下すような目で落胆する。

 

「おいおいもう終わりかよ……どんだけ弱いんだこいつ……」

「それなりにお前もくらってたじゃねーか。ま、所詮はビギナーだな」

「早く殺そうよー。もうこいつつまんねーよ」

「まぁそう急くなって」

 

 意気揚々と近づいたその男はあろうことか、動けないトウカの腹部を踏みにじり、あざ笑いながら挑発をし始めた。

 

「ぐ……ぁ……!」

「おいおいもーちょっと頑張れよー! まだ始まったばっかじゃねーか!!」

 

――くそ……さっきのが《ソードスキル》って奴か……はは……奥が深いな……

 

 初めて目にした《ソードスキル》と、自分の情けなさがあいまって、トウカの表情にはつい笑みがこぼれた。

 

「笑ってんじゃねーよくそが!!」

 

 その笑みが逆に怒りを買ってしまったのか、トウカの顔をおもいっきり踏みつけ、腹部に先端の尖った斧を突き刺した。

 

「……っぐ……!!」

「俺にもやったんだ……てめぇも味わっとけや!」

 

 みるみるうちにHPが減り、残すところ三分の一程度になってしまったところで大剣持ちの男が斧持ちの男の攻撃を制止する。

 

「おいまてよ。俺にもやらせろって」

「あぁ、悪い悪い、後はお前に譲ってやるよ」

 

 トウカの腹部に刺さった斧を引き抜いた男は、大剣持ちの男とハイタッチをした後、刀霞の元に歩み寄るやいないや、刀霞の左腕に大剣を振り下ろし、切断してしまった。

 

「……ッ……あ゛ぁ゛っ」

 

 ゲームのシステム上痛覚はないが、左腕を切られたという事実に脳が反応し、感覚的な痛覚がトウカを襲う。

 

「おお、いい悲鳴上げるねぇ」

「なー、もう早く殺して絶剣ちゃんさがそーぜぇ」

 

 槍持ちの男はすっかり萎えてしまったのか、刀霞に興味をもつことなく大剣持ちの男を急かしはじめる。

 

「あぁ、そうだなー。こんなゴミよりも絶剣ちゃんの体嬲るほうが楽しいわな」

「残念だったなぁお前、かっこいいヒーロー気取ってんだたろうけど、このゲームは実力がものをいうんだわ。おつかれぇ」

 

――……くそ……ここまでか……一人ぐらいは倒せると思ったんだがな……

 

「そーいやさ、俺たちBANされっかな?」

「そうだなー。まぁこのアカウントがBANされても別アカウントあるから問題ねーけとな」

「な……!?」

 

 その一言にトウカは驚愕した。

 そしてその表情を見逃さなかった男は、ニタニタと笑い、苦悶の表情を誘うようにさらに挑発を重ねる。

 

「あんれー? もしかして驚いちゃったー? 俺たちこのアカウント捨てアカなんだよねー」

「そーそー。ほとぼり冷めたら別アカでまた絶剣ちゃん捕まえちゃえば済む話だしー」

 

 キリトとアスナにこの状況を伝えようにもいつ戻ってくるかわからない。戻る前にユウキがログインしてしまったらあの人気の少ない宿屋から復帰してしまうことになる。

 男たちはトウカを《リメインライト》させたら別アカウントでインプ領に戻り、トウカが飛び上がった周辺を散策するだろう。

 

――もしそこでユウキが見つかってしまったら……

 

 トウカはその事実に動揺を隠すことができなかった。片腕を落とされ、未だ麻痺状態であった彼にできることは、懇願することしかできなかった。

 

「く……そ……やめろ……やめてくれ……俺はどうなってもいいから……あの子には手をださないでくれ……たのむ……」

「あぁだめだってそんなー。お前がどうなろうが価値なんてないんだから懇願しても意味ないよー?」

「それより絶剣ちゃん捕まえたら今度は下から脱がそうぜー!!」

「あーいいねぇーそれ」

 

――……何も……できないのか……また……

 

 諦めかけていたトウカの脳裏に、悲痛な姿が過ぎる。泣き叫び、苦しみ、助けを求めているユウキの姿が。

 

――……泣いてる……ユウキが……泣いてる……

 

――……誰が……やった…………誰が……

 

 今にも失いそうな意識の中で目を開けると、そこには不敵な笑みをうかべている男が三人。

 

――……お前か。……お前たちか。

 

『殺せ』

 

 トウカの心の中で何かが渦巻く

 

『殺してしまえ』

 

 それは、自分ではない何かが心の感情を代弁しているような感覚だった。

 

――……あぁ……殺してやるさ……

 

 トウカは、その感覚に全てを委ねた。彼女を守るために。

 

「――……や……る……」

「はー? なにー? きこえねーよゴミ」

「――……ころ……して……やる……」

「あー、はいはい。それじゃ殺してあげましょーかね。ほなさいならー」

 

 男が不適な笑みを浮かべ、剣を振り上げてトウカの腹部に剣を突き刺そうとした瞬間――

 

 それは起こった。




今回も閲覧いただき、ありがとうございました。

次回は早めにあげられたらいいなと思います。

コメントもいただいて、本当に嬉しいです。

誤字脱字が多いかもしれませんが、引き続き読んでいただけたら幸いです。

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