長らくお待たせして申し訳ない。ではではどうぞー。
「おーい喜喜!すまんが外の鉄パイプを取って来てくれないか?」
「お嬢...何度目ですかい?てか何を作ってるんで?」
私の使いの化け犬『喜喜』に外にある鉄パイプを取ってくるように頼む。魔法で強化して絶対に壊れないようにして後は鉄パイプを合体させれば完成だ。
弾も自作で作るつもりだ。
「自作のショットガン!ウッドストックはもう作ったから、あとは鉄パイプをくっつけるだけだ!」
「はぁ...まあ何にせよ、怪我には気をつけてくだせぇよ...」
喜喜は複雑な経緯があってここからかなり離れたところで暴れていたことを私がとっても長くお話(物理)をしたら部下になってくれた。見た目は特大マチェット二本を腰にぶら下げた2メートル超の巨人なのだが、見た目に合わず本人の性格が『他人さえ楽しめば自分はどうでもいい』って感じだ。
「お嬢、これですかい?」
「おお、そうだそうだ。すまんな喜喜。」
「お安い御用ですや。」
そう言って喜喜は私のベッドに腰掛け自分のマチェットを磨き始めた。
全く、主人兼女の子のベッドに腰掛けるってのは...まあ喜喜ならいいか。
「んー、できたできた!んんんん...!」
「ずっと暗いとこにいて辛かったでやしょう。外出てちょいと運動することを勧めますや。」
こういう気配りができる本当に優秀な部下。ほんと最高。
「おお、じゃあそうするかな。ついでに何か人里で買ってくるよ。何が欲しい?」
「そうですねぇ...お嬢の唇なんてどうです?」
「...何だ喜喜、そんなに鉛玉が欲しいのか。わかった、サービスでさっき作ったヤツでプレゼントしてやろう。」
「おや、何だかとても魚が食べたくなってきたんでやっぱりさっきのは無しでお願いしますほんとスミマセンしたマジ勘弁してください」
「よろしい。じゃあ行ってくる。」
「お気をつけて、お嬢。」
口は余計だが、いい部下だ。
「あー...太陽が気持ちいいな。」
スタスタと木が生い茂った山道を歩く。
鳥が囀り、木のいい香りが漂い、足元には小さな花が咲き、挨拶をしてくる天狗達...この感じがとても好きだ。
「ふぅ...そろそろ一服しよう。」
胸にしまっていたタバコを取り出し、火をつける。口に咥え煙を吐けば、それだけで満ち足りた気分になる。
「平和だねぇ...」
そんなことを呟くとフラグになるって誰かが言っていたのかもしれないが...気にしない気にしない。
「...まさに平和そのもの...だよな?
なあそこにいる妖精よ。ちとこっちまで来て話さないか?」
「うわっ」
「ばーれーてーる!」
「にーげろー!」
小さな妖精達がガサガサと音を立てながら逃げていく。追うってのも無粋な気がしたんで、そのまま慌てて逃げていく妖精達を見ていた。
「...やれやれ...酒の匂いが随分と酷い妖精だったが...酒豪の妖精なのかね...」
ほわぁと口から煙を出し
「そこにいる誰か!敵意がないなら出て来なさい!敵意があるなら出て来なくて結構!そのまま射抜きます!」
可愛らしい声と裏腹に殺気が漏れ出している。
妖精ではここまでの殺気は出せない。
岩から立つのも面倒なので、そのまま待機していた。...ていうか敵意があったらとっくに攻撃していると思うんだがな...
「いや、そもそもお前は誰なんだ。」
「はうっ!?」
一際小さな声と悲鳴が聞こえ、すぐにビシュッ!という音と共に赤黒い矢が私めがけて飛んでくる。
どうやら驚いて矢を離してしまったらしい。
「...やれやれ。ちゃんと矢を握っていろお嬢ちゃん。まぁ...」
何処からか時計の針の音が聞こえ、だんだんとそれがスローになっていく。
一本の矢が私の眉間に刺さりそうになっていた。
「...私に矢は効かんがな。」
時は止まり、全てがモノクロの世界になった。素早く眉間の脅威をキャッチする。
グロテスクに赤くなってる趣味の悪い矢だ。なんだか血の色っぽくて不気味だ。
使ってるやつの趣味がしれんな。
「...時間が再び動き始める。」
私くらいになれば弓矢くらい指二本で簡単にキャッチできる。
やれやれ、物騒な世の中だな。ただ藪がガサガサ揺れただけなのに矢を射ってくるのか。どれ、矢を射ったヤツの顔を見てくるかな。
林を少し進むと、すぐに可愛らしい声と...少し若い男の声が聞こえた。
「見たところ、人間だな?ここがどこだか分かっているのか?」
弓を持ち、左側だけゴツい鎧を着たハリボテの片目女鬼が本物の若い白狼天狗に絡まれていた。
...え?なんだあの鎧右側だけスッカスカだぞ?
「い、いえその、ヒスイちゃんの家に行こうとしてて...」
ほうほう、ヒスイの知り合いか。あの軽そうな酒ビンでも渡しに行くのだろうか?
助けてやりたいが...この場合白狼天狗が真面目に仕事をしているって言ったほうが良いな。一般人は山に入ってはいけないはずだから、正当な理由であの娘を注意している。
...まぁ、なんであろうが私は放っておくだけだ。人里まで行かないとならん。
「ヒスイ? ...ああ、あの天使だかなんだかよく分からん自称天霊様か。だがそれとこれとは話が別だ。今すぐ山を降り
「...その必要はないぞ。」何者!?」
...やれやれ、友人の名を聞くとつい体が動いてしまう。悪い癖だ。
「全く...私の客だぞ?」
威圧感タップリ。ついでにオートマグを腰に吊るしてあるからビビるはずだし、天狗とは一度カチ合ったと思うがな。
末端までは私の話はいっていないのか。
「だ、だが勝手に侵入を...」
「...というか鬼の子じゃないか。天狗共は頭が上がらない存在だった気がするが?」
「い、いや...しかし...」
「それとも?」
声色を昔やった断罪のアルバイトの時の声に変え、戦場の時の目のように鋭くすれば空気は一気に変わる。
目の前にいるやつが私よりも弱いのならば絶対にひれ伏す程度の空気。
「私の客人を...勝手に追い払うつもりか?」
「は...はひ...!す...すびばせんでしたぁ!」
噛みっ噛みの謝罪を残して若い天狗は行ってしまった。
...少し悪いことをしたかな。
否、友人を乏しめるのは私の中では大罪。あれぐらいが丁度良いだろう。
「ありがとうございます。なんか、助けられちゃいましたね。」
微笑んで少女は私に礼を言う。
なかなか可愛らしい少女だ。...なぜ幻想郷にはレベルの高い奴が多いのだろう。紫は狙って入れているのだろうか?
「何、構わんよ...
...私としては、こっちの方が気になるがね」
タバコを持つ仕草で赤黒い矢を見せる。
すると矢に対して面白いように顔色が青く染まっていく。
「あ!?
えと、その、すみませんでしたぁ!」
「...感謝したり謝罪したり、忙しいな?ところでお前、名前は?」
「あ、はい。朱恋、『暁朱恋(あかつきしゅれん)』です」
「朱恋、か...私はシュガー・ルキフェル。ルキフェルの方で呼んでくれ」
「ルキフェルさんですね。さっきは本当にすみません...」
「だから、私は気にしてないって...ま、どちらかというと別に気になるのが...」
顔を近づけ、先程から気になっていたことを確かめる。
「ふぇ?...っ!?」
「...ずいぶんと酒臭いな。浴びるようにでも飲んだか?」
「い、いや~...本当に物理的に浴びたと言いますか...」
「全く...酒に溺れるにはまだ早かろう?
まぁ、何にせよ風呂に入れてやる。家に来てくれ。」
「え? いやでも、迷惑かけられないですし...」
「いやなに、如何せん酒に良い思い出が無くてだな...」
ここに来てからもそうだし、ここに来る前もそうだ。酒でとてもとっても痛い目にあった。
だから早めに脅威は消しておきたい。
「え?...そんなにお酒に弱いんですか?」
「んにゃ、今のはほんの建前だ。本当はこの矢が気になる。」
匂いだけで酔いそう...。
悟られないように早めに話題を変えよう。
「一言で終わらせれば、私の能力。ちゃんと説明すれば『血を操る程度の能力』です。」
「血を...操る...!?」
「あの、ルキフェルさん?」
「...ん!?ああ、ちょっと昔の知人の能力と勘違いしてしまってな。」
「昔の知人...ちなみにどんな能力ですか?」
「んー...『地域を操る程度の能力』だったかな?
本当に古い話な上、あいつ自身と会話を交わした覚えがほとんど無くて、どうも曖昧なんだ。」
「へぇ~...そんな方が...」
「...っと、話が逸れたか。さ、家はわりと近いんだ。」
成る程...この娘が...
見た目ではわからないものだ。あの『バケモノ』なんてな。
「...さあ!着いたぞ。ここが私の家だ。」
「は、はぁ...な、なかなかステキなお家ですね!」
「皮肉はよせ。元は廃墟だった家を改築してるんだ。なに、今に幻想郷一の家にしてみせるさ。
おーい!客人だぞ!」
「おや、お嬢様。もうお帰りで?」
私が声を上げるとすぐに家の中から喜喜が顔を出す。
「...!」
ちょこんと私の背中へと隠れる。まあ当然の反応だ。2mちょいある巨人が巨大マチェット二本腰に下げていきなり出てきたら驚くだろう。
「ハッハッハッハ!まぁそうビビるな。見た目ほど悪いヤツじゃない。」
「おやおや!可愛らしいお嬢さんだ。
怖がらせちまって申し訳ありやせん。ですが安心してくだせぇ!手出しはしません!
まぁ...」
喜喜の大きな手から白い鳩がパタパタと羽を広げて飛んで行った。それも何羽も。
「おぉぉ!」
どうやら朱恋は気に入ってくれたらしい。
「鳩やトランプ、お茶は出させてもらいやすが...」
トパパパパパ、とトランプを出したりお茶を出したりと嬉しそうに手品をキメる喜喜に釘付けの朱恋。目がキラキラしていて少女の見た目同様の可愛らしさを醸し出す。
「喜喜!久し振りの振る舞いを邪魔して悪いが...」
「ああ、わかってやす。お風呂の準備でしょう?」
「話が早くて助かるな!」
「な...なんでわかったんです?」
不思議そうに朱恋は尋ねる。
「ああ...」
トントン、と自分の鼻を突いて当然だと言わんばかりに答える。
「犬の鼻を舐めちゃいけませんよ。酒の匂いはすぐにわかります。それにお嬢とは長い付き合いだ。考えてることはだいたいわかりますや。」
「そのおかげで何度か助けられたしな。感謝しているぞ喜喜。」
「勿体無き言葉...有り難う存じます。
では私はお湯を入れてきますや。」
「うむ、頼んだぞ。」
喜喜は何本か薪を持って風呂場の外側へと向かって行った。
外の世界の最新のお風呂とは違って、家は昔懐かし五右衛門風呂だから、とても風流があっていい。寒空の日はかなりキツイがな。
「...さぁ、私達は中で待とう。友達から貰った茶菓子が沢山あるんだ。」
「ルキフェルさんって...お菓子好きなんですか?」
「ああ。私が3年間同じ菓子しか食べなかった時の話でもしてやろうか?」
「へぇ。何があったんです?」
「私が各地を放浪してた時だ。あの時は本当に...楽しかったよ。『スシキミ』って極悪非道のマフィアがあってな...」
居間でソファーに座り、隣同士菓子をつまみながら昔話と洒落込んだ。
久しぶりに懐かしい話ができ、とても楽しい時間を過ごせた。
「...いやな、そんなもんだよ。その世界ってのは。人なんざ都合のいい時に他者を利用して都合の悪い時にゃ知らん顔だ。
私もそうだったな。『物資をくれ』って言うから菓子でもあげようとしたら私を殺そうとしてきやがった...」
「いやいや待ってください、何の話です?」
「ああ、私が超極貧地域に潜伏したスシキミのリーダーを探しに行った時の話だ。」
「あ、その話続いてたんですか。」
「お嬢っ!風呂が沸きましたよー!」
ここからいいところだ、ってのにお風呂が沸いたようだ。
まあ丁度いい。本題は朱恋をお風呂に入れることだった。危ない危ない、忘れるところだった。
「さあ、こっちだ。
あ、服は私が洗って直しておくから大丈夫だ。」
「あ、ありがとうございます。
...ってええ!?な、直してもらうのは悪いですよぉ。大丈夫です!」
「なに、私は裁縫は得意だぞ?そのくらいのボロさならすぐに直せるさ。」
後をついてくるように言い、朱恋は言う通りにちょこちょこついてくる。その姿を可愛く感じたのは内緒だ。
「さ、ここだ。ゆっくり浸かるといい。」
「あ、ありがとうございます...」
「あ、包帯とかは外してくれ。新しいのを用意しておくから...」
「...!?あ...はい。わかりました。」
「何だ?タトゥーでも掘ってあるのか?だとすれば大丈夫さ。私だって昔は背中中にやばいの入れてたしな。今はちょっと特殊なことして消しちまったが。
あー...眼帯はどうする?というかオシャレでつけてるのか?」
「みます?恐らく空洞が広がってるばかりですけど。」
眼帯に関しての質問はしない方がいいな。もう片方の目が逝っちまうほどに辛い目にあったようだ。
「ああ、結構だ。大変だったんだな。
ゆっくり浸かるといいぞ。私が魔法をかけておこう。」
パッチーン、と指を鳴らす。
それだけだ。
「...?何をしたんです?」
服を脱ぎ脱ぎしながら朱恋は問いかけてくる。
「だから言ったろ?『魔法』さ。」
『周囲の土の水分を犠牲に、お風呂の品質を極限まで上昇』させた。効能は『疲労回復、肩こり、魔力回復、体力回復』だ。
「...どうした?左腕でも痛いのか?」
朱恋が左腕を隠すように右手で覆い出した。
「...なっ!...何でもないです。」
うむぅ、見るからに怪しい。
「...無理をしないでくれ。傷だったら染みるぞ?かなりな。」
「い、いえ...決してそういうわけじゃ...」
「見せてくれよ。私ならすぐに直せるから。」
「い...いえ...」
恥ずかしそうに下がる朱恋。その先は脱衣所の壁だ。すぐに追い詰めた。
「見せてくれ...いいじゃないか...」
「だ...ダメですよぉ......そんなこと...」
「いいから...見せてくれっ!」
「ダメぇ!」
無理矢理左手をこちらに見えるように取る。
「......ほぉ。」
「うう...恥ずかしいですよぉ......ルキフェルさん...」
傷はあったが、最近できたものではない。
もっと昔から、もっと言えば常習化した手首の切り傷。所謂『リストカット』の痕。
自殺常習者よりもさらに多くの傷跡だった。
「...何だ?...これが能力の代償か?...」
握ったまま朱恋に問う。
朱恋はウルウルと目が涙で濁っていて、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「......」
目は全てを物語る。
どうやらそのようだ。
「...はぁ、そうか。...いや、すまないことをしたな。」
「うう...非道いですよぉ...ルキフェルさん...」
「...すまないな。私は空気が読めないんだよ...
...謝罪と言っちゃ何だが......私にも一つの秘密があってな。これは喜喜以外の人には一言も言っていないことだ。
...『我が身の加護よ、その身を休めよ』
「...え?」
「私とて傷なしでここまで生きてきたわけではないさ。」
「え?...え?」
「この腹の弾痕は裏切った仲間からの弾。胸の一文字は侍に斬られた。首の跡はベルトでの最後の抵抗をされたときので、手の火傷の跡は砲弾の薬莢を入れ替えた時、右の小指、薬指がないのは砲弾がここをかすったからだ。顔の火傷は火事で逃げ遅れた仲間を助けに行った時にできた。肩に穴が空いてんのは串刺しになった時で、頬の皮がないのは拷問だったかな。耳が欠けてんのはどっかの野良犬にやられたんだ。
私は能力を使って隠している。いかんせんこの見た目だと皆ビビって挨拶すらしてもらえないのでな。この美しい...自分で言うもなんだが、加護された見た目を愛しているのでな。」
「......」
「...そうか。驚きで声も出ないか。すまないな、すぐにこの見た目はやめるよ。
...お前も随分と辛い目にあってきたのだろうな。どら、背中を流してやるからさっさと風呂ん中へ入んな。」
「...は、...はい。」
風呂桶にお湯を汲み、朱恋に頭からかけてやる。近くの石鹸を手につけ、朱恋の背中をゴシゴシとこすっていく。
「ふふ、可愛らしい背中だ。
...懐かしいものだ。私にもこんな時があったな...」
「そ、そうなんですか...」
まだ朱恋の声は強張っている。先ほどの私の見た目にまだ嫌悪感を抱いているのだろうか。
「すまないな、汚いものを見せてしまって。」
「いえ、そんなことないですよ。ただ少し驚いただけです。その見た目とのギャップがありすぎて...」
「ハッハッハ!まあそうだよな。こんな見た目からじゃあんなのは想像できないよなぁ。
そら、洗い終わったぞ。ゆっくり浸かってくれ。」
「ふわぁ、なんだか気分が楽になったなぁ...調子が良くなってきた。」
それはそうだ。背中を流してるお湯は能力で効能たっぷり。素晴らしく調子が良くなる。
「ハハ!それが私の魔法のご加護さ!
さ、肩までゆっくりつかりな。普段の疲れなんざそこでゆっくり消すといい。」
「ふにゅやぁぁぁぁぁ.......」
猫のような声をあげて朱恋はお湯に浸かっている。
そんな様子を見ながら、やはり見た目で人は物事を判断するのは間違ってんだな、って思った。