生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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貧乳アマゾネス可愛い。



#7

 女の子というのは何というか、とにかく甘いものが好きなようだ。

 食べ物に限らずとも、それに準ずるもの、甘い言葉や、甘い恋愛などもそうだ。

「このタイヤキのアンコっていうの凄く美味しいね!」

 今隣にいる女神様は食べ物の方であるみたいだが。

「東洋の方から伝わった食べ物みたいですね」

 現在、人探しをしつつも、出店で食べ物を買って食べ歩いていた。

 勿論、ベルが全額出している。

 最初は、早く見付けようとベルはスタスタと歩いていたが、ヘスティアの方から、食べながら探しても良いじゃないかという提案を受けたのだ。

 ヘスティア曰く、「このお祭りは年に一度しか無いんだから、君も楽しまなきゃ損だぜ」ということらしい。

 渾身の決め顔で言われたが、目茶苦茶可愛かったのでベルはそのまま流されてしまったのだ。

「あ、見たまえよ! 大道芸をやってるよ!」

 そう言って、ピエロの仮装をした人物を中心に出来ている人だかりを指差した。

「でも、二人を探さないといけないので、後でですね」

「分かっているよ!」

 ヘスティアという女神(女性)は表情豊かな美少女である、というのが、ベルの抱いている印象である。

 じゃが丸くんの店には割りと行く方であり、店員をしているヘスティアにもよく会う。

 彼女の人懐っこい性格や容姿、コロコロと変わる表情も相まって、来る人来る人に好かれていたのは、見ているだけで分かった。

「そういえば、君って、眼鏡なんて掛けてたかい?」

 ふと、ヘスティアが指でベルの掛けている眼鏡を指した。

「掛け始めたのはつい最近ですからね」

 まあ、貰い物なんですけどねと付け足すベル。

 別に嘘を吐く必要も無いので、正直にそう言った。

「似合ってると思うよ」

「...ありがとうございます」

 屈託の無い笑顔でそう言われ、ベルは正直眩しいなと思いつつも、素直に喜んだ。

 お世辞かもという可能性は無きにしも有らずではあるが、彼女に限ってそんなことはないだろう。

「しかし、君の探し人も見つからないねぇ」

「そうですね。せめて、何処に行きそうなのか、聞いておけば良かったですね」

 失敗したと、ベルは思った。

 こんなに広く、かつ人も大勢いるオラリオ内での、人探しは困難を極めるだろう。

 どうしようかと、ベルは唸っていると、ヘスティアがそうだと、言い出した。

「きっと、闘技場じゃないかな」

「闘技場って、調教(テイム)を行ってる場所ですよね...」

 正直、シルのような女性が見に行くようなものではないとベルは思っていた。

 荒々しい、悪く言えば野蛮な闘技場での催し物は、シルが興味を持つとは思えなかったのだ。

「うん、あれはこの祭り一番の目玉イベントだからね。街中の人達が、挙って闘技場に行くんだよ。老若男女関係無くね」

 そう説明してくれるヘスティアに、ベルはなるほどと頷いた。

 オラリオに来て、まだそんなに経ってはいないので、その情報は助かると素直に思った。

「それじゃあ、闘技場の方に行ってみますか」

「うん、そうしよう!」

 ヘスティアは元気にそう言うと、ベルの腕を引っ張って歩き出す。

 どうやら、彼女自身、その催し物を見たいらしい。

 子どものようにウキウキとしているヘスティアを見ていると、本当にこの子が神様なのかと疑ってしまいそうだった。

「ヘスティア様は、見たことあるんですか?」

「ううん、初めてだよ」

 腕を引っ張りながらそう答えるヘスティアに、どうしてと、ベルは疑問に思った。

 てっきり、行ったことがあるのかと、先の会話で思っていたからだ。

「毎年、この時期はアルバイトがすごく忙しくなってね」

 あははと笑いながら言うヘスティアに、ベルは少しだけ悲しい気持ちになってしまった。

 同じくアルバイト生活を送っている身としては、他人事ではないからだ。

 いくら女神と言えど、地上ではただの女の子に過ぎない。

 女性を大事にしろと育てられたベルにとっては、何分どうにかしてやりたい気持ちはあったものの、何をすれば彼女の為になるのか分からなかった。

 故に、ベルは今打てる自身の最善手を打つことにした。

 

 

「...ヘスティア様、じゃが丸くん奢りますよ」

 

「それをこのボクに言うのかい!?」

 

 

 どうやら、この選択は間違いであったらしい。

 

 

 

 

 

「やっぱり凄いねー。あんな風に簡単に出来ちゃうなんて」

「流石、ガネーシャ・ファミリア...調教(テイム)の技術じゃ追随を許さないわね」

「これだけの大舞台で、あんなに堂々と...本当に凄いですね...」

 現在、闘技場内観客席にて、一際目立っている箇所があった。

 ティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテ、レフィーヤ・ウィリディスの三名のいる席だ。

 三人の美少女と言える容姿、さらにロキ・ファミリアという、トップのファミリアに所属しており、知名度においても群を抜いていた。

「アイズも一緒に来れたら良かったのにねぇ」

「...本当ですね」

「レフィーヤ、表情がガチ過ぎ」

 ティオナの一言で、レフィーヤの顔がまるで幽鬼のようになり、それをティオネが見て軽く引いていた。

 どんだけ、この子はアイズのことが好きなのかと。

 ティオネはたまに本気でレフィーヤにはそっちの気があるのではないかと思う時がある。

 完全に憧れのそれというのは分かってはいるのだが、これを見てしまうと、であった。

「そろそろ出ない?」

「そうね、団長へのお土産も買わないといけないし...」

「ティオネさん、表情がマジ過ぎです...」

 今度はレフィーヤがドン引きする番であった。

 ティオネの今日この祭に来た理由の九割九分が、団長____フィン・ディムナ____へのお土産を買うことであった。

 勿論、好感度を上げるためである。

 他の団員からは、ティオネさんマジ肉食獣や、愛に生きる女と書いて、《ラブビースト》とまで噂されている。

 所謂、恋愛ガチ勢であった。

 そのガチッぷりは、当の本人であるフィンに対して、良い方向へ向かっているのか、悪い方向へ向かっているのかは、それは誰も知らない。

 強いて言えることとすれば、そのアプローチに対して、フィンが苦笑している点であるが。

「...私からすればどっちもどっちなんだけどなぁ」

 そんな二人に、消えいるような声で、そう呟くティオナ。

 彼女からしてみれば、二人のようにそうやって好意を全開に出来るような人物はいないので、ある意味羨ましくも思ってはいた。

 元気っ子や明るい、能天気など様々言われるティオナではあったが、実はとても繊細というのは本人の談である。

 アマゾネスである彼女は、その生まれ故に強い者に惹かれる。

 強い子供を残そうとする、本能から来ているものであった。

 しかし、強ければ良いのではなく、その中でも性格や容姿等も勿論熟考されるのだ。

 もし、強さだけで良いのなら、別に同じ団員のガレス・ランドロックやベート・ローガでも良いことになってしまう。

(うわぁ、ありえない...)

 絶対に論外だと想像して、首を強く横に振った。

(でも、あの子は...)

 次に想像したのは、いつぞやの、豊穣の女主人で会った白髪紅眼の少年であった。

 彼はlv:1でありながら、ミノタウロスを撃破したと、そう彼女は認識している。

 最初からミノタウロスが弱っていたとは言っていたが、それを信じる者はあの場面にいたメンバーで誰一人としていなかった。

 ロキが嘘を吐いていないとは言ったものの、とてつもない違和感があったのだ。

 何かを隠している、そんな違和感が。

 しかし、あれ以降、それを言及するのは控えるようにと言われてしまったのだ。

 言ったのはロキとフィンであった。

 ファミリアのトップ二人にそう言われてしまえば、他の団員は渋々ながらもそれに納得するしかなかったのだ。

 少年を探して、問い詰めるという人が現れないのはその為であった。

(見た目はまあ、可愛い系で良い感じだし、性格も問題無い...)

 どんどんティオナの思考はおかしな方向へ進んでいたが、それに彼女自身が気づくことはなかった。

 まるで、少年を自身の伴侶候補に入れようとしていることに。

「何やってるのよ、早く行くわよ」

 すると、その場面を見られたのか、怪訝そうな表情で見てくるティオネ。

 レフィーヤは不思議そうに首を傾げていた。

「...うん、今行くよ」

 ティオナは、その思考を一端放棄して、二人に続き闘技場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

「モンスターだあぁぁぁぁぁ!!!!」

 闘技場の外、その場には人々の悲鳴と絶叫が響き渡っていた。

「グオォォォォォォ!!」

 怪物達の咆哮が、それに続き響き渡る。

 トロールや、うねる角の生えた巨大な蝙蝠、銀の甲殻を持つ巨大な蟹など、どのモンスターも10M(メドル)を越えていた。

 これらのモンスターはダンジョンの上層の中でも、下の方にいる存在だ。

 故に、オラリオに住む一般市民には恐怖の対象でしなかなく、そこらにいる冒険者にとっても脅威の存在であった。

 

 

「リル・ラファーガ」

 

 

 瞬間、人々を襲おうとしたモンスター達が爆散した。

 

 

 爆風と轟音により、逃げ惑う人々の足は止まる、というより止まらざるを得なかった。

「三体、撃破...」

 その場に立っていたのは金の髪を靡かせた女剣士だ。

「け、剣姫...」

 誰が呟いたのか、彼女を表す二つ名を口にした。

「...そこ」

 彼女は直ぐ様、剣を構え、モンスターの元へ突貫し、高速で斬り伏せていく。

 アイズ・ヴァレンシュタイン。

 オラリオ最強の剣士にして、《剣姫》の異名を持つ美少女であった。

 彼女の舞うような剣撃に、恐怖に震えていた人々は一転して見惚れていた。

 それほどまでに、彼女の剣技は美しかったのだ。

「次は、どこ...?」

 アイズの目は、斬り伏せたモンスターに見向きもせず、既に別の標的へと向かっていた。

 

 

 

 

 

「この状況は一体...」

 闘技場に着いたベルは、阿鼻叫喚の絵図になっている、この場を見て、唖然としていた。

「何があったんだろう...」

 ヘスティアは不安そうな表情を浮かべ、ベルの服の裾をギュッと掴んだ。

「ベルくん!? それにヘスティア様!?」

 慌てた様子で走ってきたのはギルドの制服姿をしたエイナであった。

「エイナさん、どうしたんですか、一体...」

「実は、闘技場内からモンスターが逃げ出したらしくて、それで大騒ぎなの。今、避難誘導をギルド職員でやっているところなんだけど...」

 なるほど、現状がこれかとベルは理解する。

 モンスターが逃げ出したとなれば、慣れていない一般市民達はパニック状態になってもおかしくはないからだ。

「それより、ベル君達も早く逃げて! ここは凄く危ないから!」

「...君はどうするんだい、ハーフエルフくん」

 隣にいるヘスティアが、口を開いた。

 純粋に彼女を心配している目であった。

 エイナもベルと一緒にではあるが、割りとお店には来る。

 もし女神と言えど、初対面の相手に対して、そこまで思えないが、顔見知りであるが故に彼女は心配していたのだ。

「私は、ここに残って逃げ遅れていない人がいないか、確認しなければいけませんので」

「ちょっと待ってください。それじゃあ、エイナさんも危ないじゃないですか」

 それに反論したのはベルであった。

 エイナとは仲が良いため、彼女がここに残るなど、絶対にさせたくないと、ベルは思っていた。

「...でも、私はギルドの職員なの。こういう時に街の人達を助けなくちゃいけないの」

 エイナの表情はとても真剣で、覚悟というのが垣間見えた。

 私だけ逃げるつもりはない、そういう表情だ。

「...それなら、僕も手伝いますよ」

「それはダメ! ベル君に何かあったら私...」

「それはこっちの台詞です。エイナさんに何かあったら、それこそ僕はじいちゃんに殺されちゃいますよ」

 比喩ではなく、本気で、ベルはそう言った。

 彼の祖父は、女性を大事にしろという教えの中で、一番やってはいけないということを念入りに教えていた。

 

 

『女を見捨てて逃げる男なんぞ、死んでもいいだろ?』

 

 

 というか死ねと、そう言っていたのだ。

 故に彼は、この状況において、エイナを置いて自分だけ逃げるなどという考えは端から無かったのだ。

「だから、僕も手伝いますよ」

「でも...!」

「それに、今人探しをしている最中なので、元から逃げるつもりはないですよ?」

 そう笑って言うベルに、エイナはどう反応していいのか分からなくなった。

 ギルド職員として、一般市民であるベルには早く逃げて欲しいというのがある。

 しかし、彼女個人としては一緒に居てくれた方が心強いなとも思ってしまっていたのだ。

 戦闘力を一切持たないギルド職員、しかも女性にとって、今の状況はとてつもなく不安になってしまうのは当然であった。

 自分は歳上、故に年下の彼を引っ張っていかなければいけない。

 心の中でそう誓っていた彼女は、現在それが壊れそうになっていた。

「...取り敢えず、まだ人が居ないか、こっちの方見てきますね」

 二人はあっちをお願いしますと言って、ベルは走っていってしまった。

「あっ、ちょっと待ってって_____」

 エイナの声は届かず、既にベルの姿は見えなくなっていた。

「ハーフエルフ君。ベル君の言う通り、あっちを見に行こうじゃないか」

「ヘスティア様!? ベル君もですけれど、あなたもこんなことする必要なんて...」

 無いんですよ、そうエイナは口にしようとしたが、すぐに阻まれてしまう。

「ボクはね、これでも神様なんだ。"子供たち"が困っているのなら、手を差しのべなくちゃいけないんだ。それに、こういうときは数は多い方が良いと思うんだよ」

「ヘスティア様...」

 真っ直ぐとそう言ってくるヘスティアに、エイナは何も言えなくなってしまった。

 全くどうして、彼も彼女もこうなんだと、思わざるを得なかった。

「よし、ハーフエルフ君。そうなれば早く行こうじゃないか。モンスターに襲われたら一溜まりもないからね」

「...はいっ!」

 二人は、取り残されている人達がいないか、確認しつつ、ベルとは逆の方向へ走っていった。

 

 

 

 

 

「シルさーん! リューさーん!」

 ベルは東のメインストリートを走っていた。

 勿論、二人を(・・・)探すためであった。

「リューさんならともかく、シルさんは早く見つけないと...」

 リューのことを、只のウェイトレスにしては、強すぎないかと、ベルは常々思っていたのだ。

 ミアが元冒険者だったという話を聞いたことがあったので、もしかしたらリューも元冒険者なのかもしれない。

 故にリューなら逃げ出したモンスターに遭遇しても問題なく対処出来るだろう。

 しかし、シルは本当に只のウェイトレス。

 しかも、種族的にも何の補正もないヒューマンだ。

 もし、モンスターと遭遇なんてしてしまえば、それは考えるまでもないことだった。

「もう避難してくれてたら良いんだけど...」

 そう呟きながら、ベルは速度をあげて、ストリートを走り抜けていく。

 途中、何かによって破壊された形跡のある建物や道路などを見かけ、ベルは更に速度をあげていった。

 最悪の想像というのは、したくなくても勝手にしてしまうのは、人としては普通のことだろう。

 ベルにとって、気兼ねなく付き合える数少ない友人だ。

 失ってしまえば、それは悲しいはずだ(・・・・・・)

「居ないな...もしかしてもう...」

 数分程走り続け、誰も居ないストリートの中央で足を止めるベル。

 疲労の色は一切見えないが、精神的にはそうでもないようだ。

「いや、もう避難しているかもしれないな」

 これだけ探して見つからないのなら、既に避難している可能性は高いはずだ。

 一端合流するかと、来た道を引き返そうと、身体をそちらに向けたその時だった。

 

 

『グオォォォォォォ!!』

 

 

 突如、空から巨大な白い毛並みの猿が襲来したのだ。

 着地の衝撃で、舗装されていた道も、その轟音と共に破壊されていた。

 シルバーバック、十一階層に出現する大型モンスターだ。

 ミノタウロスに比べれば、力は劣るが、それでも下位の冒険者にとってはかなりの脅威になる存在であった。

「邪魔」

 ベルは掛けていた眼鏡を外すと、シルバーバックの胴体の部分を肩から腰にかけて、素手で(・・・)袈裟斬りにした。

 斜めから両断されたその身体は、ずり落ちるようにして、地面へと落下する。

 邂逅して僅か数秒。

 シルバーバックは断末魔の悲鳴をあげる間もなく、この世から消滅したのだった。

「ナイフ持ってくれば良かったな...」

 眼鏡を掛け直し、シルバーバックを切り捨てた右手を軽く振りながらぼやくベル。

 まさか、こんな風にモンスターと出会うことなんて誰が予想出来たか。

「急ごう...」

 ベルはシルバーバックから排出された魔石を無視するように踏み砕き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「すげぇ...すげぇよ! あれを一撃で、しかも素手でやりやがった!」

 ベルが過ぎ去ったストリート、その路地からそんな声をあげて、出てきた男がいた。

「あいつなら、俺の武器を...ははははっ! これは、楽しみだぜ...!」

 中々に高い身長と、赤髪が特長の青年で、その顔は喜色に溢れ、今から小躍りでもするんじゃないかというくらいである。

「最高だ、はっはっはっは...!!」

 誰もいないストリートの真ん中で、青年の笑い声が響き渡っていた。

『シャァァァ!!』

 すると、その笑い声に反応したのか、大きな蛇のようなモンスターが、その青年の前に出現した。

「おいおい...こちとら本業は鍛冶師なんだけどなぁ」

 やれやれと、後頭部を掻きながら、背中から大剣を引き抜いた。

 

 

「今、俺は最高に気分が良いからな。手加減なんて出来ねぇぞ、蛇野郎!!」

 

 

 青年は下から振り上げるようにして、その蛇を頭から両断した。

 

 

 

 


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