生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
「おぉ! 遂に来てくれたか、
目の前の赤髪の青年はベルに対し、まるで旧知の仲のような気安さでそう言った。
「......旦那、ですか? すいません、人違いじゃないですかね」
全くもってこの青年のことを知らないベルは素でこのような反応をしてしまった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まさか、あんたが言ってる相手って......」
ヘファイストスが慌てたようにそう言った。
いつも落ち着いている彼女を知るベルにとっては珍しい光景であった。
「おう。旦那、つまりはこの人、ベル・クラネルさんだ」
青年はそう言って、ベルの顔を見てニヤリと笑う。
いや、本当に誰? というのが、ベルの思いではあったが、一応笑い返しておいた。
「......この小僧が主神様の言っていた弟分か。男にしては随分と可愛いらしい顔している奴だのう」
興味ありげにベルのことを覗く黒髪の女性。
上半身はその豊満な胸をサラシで巻いているだけという何とも目のやり場に困る格好をしていたが、ベル的には最高にありだった。
男にしては可愛いと言ったのは許そうではないか、そう思った瞬間、隣に居たエイナに足を踏み抜かれたが、まあ役得だったのだから良しとしよう。
「なあ、旦那。ここに来たってことは
すると、青年は距離を詰めて、ベルの両肩に手を置くと、前後に揺らしながらそう言った。
止めて欲しい、くらくらする、と思っていたベルであったが、ふと気付いたことがあった。
「あ......もしかして、あなたがヴェルフ・クロッゾさん、ですか?」
脳裏に唐突に出てきたその名前。
あの大剣に長々と刻まれていたメッセージを思い出したのだ。
『私の名前はヴェルフ・クロッゾと申します。この度は折り入って話をしたいことがございまして_______』
あの堅苦しい文面を書いていた人物とは到底思えなかった。
要はこの青年、ヴェルフ・クロッゾが一度会って話をしたいのだが、あなたの家を知らないので、大変失礼ではあるが、ヘファイストス・ファミリアの工房に来てくれないかということである。
本来なら先方に態々出向かせる時点で、かなり失礼で、尚且つ顔も全く知らない人物からの誘いだ、ベルも行く気などなかった。
しかし、あの大剣を使わせて貰ったという貸しと、未だに返せていないことを考えると、会わないわけにはいかなかったのだ。
まあ、ヘファイストスに会いに行くついでに、この人物を知らないかと聞くつもりではあったため、その手間も省けたようだが。
「そうそうそう! 俺がヴェルフ・クロッゾ! いやぁ、流石旦那、ちゃんと名前覚えててくれるなんて!」
笑いながら、バシバシとベルの背中を叩くヴェルフ。
背骨がミシミシいっていたが、そんなことよりも確認しなくてはいけないことがあった。
「ちょ、ちょっと良いですか? 話をしたいことがあるってありましたけど、それに旦那って_______」
「あぁ、それはな_______おっと、旦那。この話は後だ。お隣を見てみな」
いきなりどうしたと、ベルは言われた通りに周りを確認した。
「......」
エイナが不機嫌そうに頬を小さく膨らませていた。
「え、エイナさん......?」
恐る恐る声をかけるベル。
それは腫れ物に触るように慎重なものであった。
「.....放っておかれるのは、ちょっと辛いんだけどな。後ちゃんと挨拶はさせて欲しいんだけど」
少し半面で睨み付けるように言ってくるエイナに、ベルはタジタジになってしまう。
確かに友人と遊びに来たら、友人の友人と出くわしてそれで話が盛り上がって着いていけないというそんな状況にも似ていなくはない。
確かにそうなれば自分も嫌だなと思いつつ、ベルは謝った。
「ごめんなさい、エイナさん。こちらヘファイストス様とヴェルフ・クロッゾ、さん。そして、えっと......すいません、貴方は......?」
ベルが先程から気になっていた黒髪の美女は、悪い悪いと言って、前に出てくる。
「手前はヘファイストス・ファミリア団長、椿・コルブランド。お主のことは主神様から
そう言って、手を差し出して来たのでベルは躊躇いなく握手に応じた。
ミシッ。
「ちょっ、コルブランドさん......?」
「何、椿で良い。手前もお主のことはベルと呼ばせて貰うからのう」
そう言って笑顔で応じる椿ではあったが、明らかにその色は黒かった。
まるで、聞きたくもない惚気を聞かされまくった恨みを晴らしているかのような感じだ。
現にベルの右手は先程から本来鳴ってはいけない音が鳴っていた。
「は・じ・め・ま・し・て! エイナ・チュールです! 」
すると、その握手を妨害するようにエイナが間に割って入ってくれた。
助かったと、ベルは内心でエイナに感謝しつつ、右手を擦っていた。
「おう。さっきも言ったが手前は椿・コルブランド。よろしく頼むエイナよ」
しかし、割って入って来られたのも何処吹く風と、椿はエイナへ普通に挨拶していた。
握手をしていたようだが、ミシミシいってないということはごく普通の握手らしい。
それならこちらも普通の握手が良かったと、ベルは心の中で嘆いていた。
「よろしく、エイナ嬢。俺のことはヴェルフでいいぜ」
「よ、よろしくお願いします、ヴェルフさん......」
ヴェルフのエイナ嬢呼びにエイナは少し困惑していたが、流石ギルドの受付嬢、笑顔は崩さなかった。
苦笑ではあったが。
「私はヘファイストス。まあ、分かるとは思うけど。よろしく、チュール」
「はい、此方こそよろしくお願いいたします、神ヘファイストス。何時もうちのベル君がお世話になっています」
ヘファイストスとエイナは笑顔で対面しているが、その実、全くもって笑っていない。
体感温度も急激に低下し、まるで
「うちの、ベルねぇ......あ、そうだ、ベル。前"一緒に"お茶した時に言ってたお菓子、用意してるんだけど、食べるわよね?」
「え? あ、はい。っていうか、用意してくれてたんですか? そんな態々......」
「_______ベル君! "また一緒に"あそこのカフェに行こうね。あーんだって何回もしたもんね」
エイナは何故かヘファイストスに対抗するように前に出てきてそう言った。
止めてくださいそんな恥ずかしいことを暴露するのはと、ベルは思ったが今の空気的に言い出すことは出来なかった。
「_______別に良いのよ、ベルのためだもの。それにこの前"貰ったプレゼント"のお返しよ。気にしなくていいわ」
そう言ってヘファイストスは、左腕に付けている赤いビーズと銀のビーズ交互を繋げたブレスレットを然り気無く見せ付ける。
エイナへ。
「っ......! へ、へぇ。ヘファイストス様にそんなプレゼントしたんだ......?」
エイナの表情が焦りと動揺に染まり、その視線はベルを射抜いていた。
「はい、そうですけど。それがどうかしましたか?」
ベルはその視線をまるで無視するかの如く、そう答えた。
「えっ......」
「ふっ......」
泣きそうな表情をするエイナとは真逆で、勝ち誇った顔をするヘファイストス。
何なんだ、この空気は。何故こんなにも重いんだ。
ヴェルフと椿も、同じ事を思っていたのか、ベルのことを見ていた。
どうにかしてくれ、そう目で伝えて。
「というか、エイナさんにも今日あげようと思ってたんですよ」
悲しみに包まれていたエイナは、ガバッと顔をあげてベルを見る。
逆にヘファイストスは、先程のエイナのような表情をしていた。
「本当は、帰る時に渡そうと思ってたんですけど、今渡しちゃいますね」
そう言ってベルはポケットから、赤いリボンとピンク色の包装紙でラッピングされた箱を取り出した。
「はい、エイナさん。いつもありがとうございます。これからも色々迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします」
そう言って、ベルはエイナへその箱を手渡した。
「あ、ありがとう。......これって、開けていいの?」
「どうぞ。そんな高いものではないですが」
エイナは包装を丁寧に剥がし、箱を開ける。
中には、緑のスエード紐とチェーンで編み込まれたブレスレットが入っていた。
「これって......」
「すいません、お店で買うとちょっと高いので、材料だけ買って手作りしたんですよ」
すいませんと、申し訳なさそうにそう言った。
「ううん! そんなことない! すっごく嬉しいよ!」
最早先程までのエイナは何処にもいない。
幸せ全開の表情で、ベルの言葉を否定するとさっそくとブレスレットを着けていた。
「どう、かな......? 似合う......?」
少し恥ずかしそうに右腕に着けたブレスレットを見せるエイナ。
「とてもお似合いですよ。喜んでくれて、良かった」
安心したように言うベル。
安い材料で作ったもので、ここまで喜んでくれるのなら、作って良かった素直に思えた。
「本当にありがとう! 大事にするね!」
ムードのへったくれも無くなってしまったが、先程のような変な空気も無くなったのだから良しとしよう。
「......ベル? これって、私だけじゃなかったの?」
「はい? えぇ、まぁ。お世話になっている人全員にあげました」
リューさんやシルさん達にもあげてますねと、指折りで数えながらそう言った。
「......そう」
目に見えてしょんぼりしているヘファイストス。
そのリューやシルという人物が誰かは知らないが、少しだけ恨みたくなってしまっていたのだ。
それを聞いていたはずのエイナも、少しは思うことはあったが、取り敢えず、今は喜びを心の中で爆発させていた。
「こりゃあ、旦那。すげぇな......あんな神様見たことねぇぜ」
「無自覚でやっているのか、分かってやっているのかは分からんが、きっとそういう素質があるのだろう。末恐ろしい小僧だのう......」
ヴェルフと椿は恐々とした表情でベルを見ていた。
それに対し、ベルは何ですかとクエスチョンを浮かべるのみであったが。
「あ、そうだ。ヴェルフさん。さっきの話の続き」
「......お、おう! 悪い悪い。すっかり、旦那に圧倒されちまってよ」
今の光景に圧倒されることなど無かったと思うがと、ベルは言いたかったが、そんなことよりも聞いてしまいたかった。
更に他にもベルには聞きたいことがたくさんあったのだ。
ヴェルフはゴホンと咳をして喉を整えると、ベルをしっかりと見据えてこう言った。
「_______俺、ヴェルフ・クロッゾは、旦那、ベル・クラネルに専属契約を結んで欲しいと思っている」
今回の話、前話と一緒で良かったかもしれない......
申し訳ございません、もしかしたら編集するかもしれません。
来年も、稚拙なこの作品ではありますが、どうか宜しくお願い致します。
そして、改めて皆様にどうか幸がありますことを祈っております。
※但しリア充はry