生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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どうもです。
今日も一日頑張ります! by笑顔の素敵なキュートアイドル。


#17

 最近、妹の様子がおかしい。

 アマゾネスの少女ティオネ・ヒリュテは、フォークでトマトソースのパスタをくるくると巻きながらそんなことを考えていた。

 現在時間はお昼で、彼女が所属しているロキ・ファミリアのホーム《黄昏の館》の食堂は人でごった返している。

 ダンジョンに潜っている者達を抜いても、人がこれだけいるのはオラリア最大規模の勢力を誇るロキ・ファミリアだからこそであろうが。

「はぁ......やっぱり一人でランチは寂しいわね......」

 彼女は深く溜め息を吐きながらそう言った。

 現在、彼女はお一人様。

 決して、ティオネがぼっちだとか嫌われているだとか、そういうことではない。

 いつも一緒に食べているメンバーが軒並み(・・・)ダンジョンに潜っているのだ。

「私もダンジョン行こうかしら......」

 また深い溜め息を吐いて、パスタを巻いていたフォークを音を立てずに置いた。

 彼女の妹の名前はティオナ・ヒリュテという。

 姉とは対照的なとても明るい少女で、それと同時に身体の一部分も対照的でもあった。

 そんな彼女の様子が最近おかしいのである。

 ダンジョン探索に以前より積極的に参加するようになったのだ。

 そのペースは《戦姫》とも呼ばれるアイズ・ヴァレンシュタインと並び始めるのではないかと言われる程だ。

 何故なら、あの日から今日までティオナは毎日ダンジョンに潜っているからだ。

 朝から晩までである。

 勿論、それを知った周りの者達は心配し、理由を尋ねた。

 どうして、そんなにハイペースでダンジョンに潜るのかと。

 そして、ティオナはそんな皆に只一言。

 

 

『欲しいものが出来たんだー』

 

 

 笑顔でそう告げたのである。

 欲しいものと言われ、何かのモンスターのレアドロップか、はたまたお金を稼いで何かを買うのか。

 しかし、それは尋ねても答えることはなかった。

 只笑顔で内緒と、そう言ったのだ。

 その時の表情は、普段の元気っ娘なティオナを知る者達からすれば酷く大人びたもので、色気すら感じられたという。

 それが、周りの者達の抱いた感想だ。

「原因はあれしかないわよね......」

 "あれ"とは、約十日程前の怪物祭り(モンスター・フィリア)で起きた、モンスター脱走事件のことだ。

 あの事件以降、ティオナの様子は激変した。

 その内容は、先程の周りの者達の抱いた感想とほぼ同じだったが、一つ付け足せば、夜な夜なティオナの部屋から艶やかな喘ぎ声が聞こえてくるのをティオネは知っていた。

 それは本当に自分の妹なのかと一瞬思うくらいで、少しだけショックを覚えたのは記憶に新しい。

 まあ、ティオネも(ひと)のことは言えないのではあるが。

 そして、もう一つだけティオネは彼らが知らないことを知っていた。

「まさか、ティオナが男を欲しがるだなんてねぇ......」

 ティオナの言う欲しいもの、それは件の事件で彼女達(・・・)に鮮烈な情景を叩き込んだある少年のことだった。

 名前をベル・クラネル。

 ヘスティア・ファミリアというファミリアに所属している現在Lv:1の冒険者だ。

 Lv:1とは言わずもがな、冒険者としては最弱だ。

 例えLv:1の冒険者が逆立ちしたって、Lv:5の冒険者には勝てない。

 それこそ、アマゾネスという種族であるティオナが欲しがるような段階ではない。

 しかし、ベル・クラネルはどうだったか。

 Lv:1でありながら、Lv:5のティオネ達が、武器無しとは言え苦戦するようなモンスターを、大剣で圧倒的に切り刻み、虐殺したのだ。

 そんな存在をLv:1と判断することなど出来るはずがない。

 ティオネは今でもあの光景を思い出すと、身体が震えてしまうのを抑えられなかった。

 それ程までに、ベル・クラネルの存在があの時は恐ろしかったのだ。

 そして、それ故にティオナはベル・クラネルという圧倒的強さを持った少年を欲しているのだった。

「でも、ティオナだけじゃないのよね......」

 また溜め息を吐いて、ティオネは俯いた。

 彼女の言う通り、変わったのはティオナだけではなかった。

 《剣姫》であり、《戦姫》であるアイズ・ヴァレンシュタインと、《千の妖精》ことレフィーヤ・ウィリディスの二人だ。

 あの事件に関わったもう二人の当事者である。

 彼女達も、ティオナと同じくダンジョンへ潜っている。

 アイズは元からハイペースでダンジョンに潜っていたので、そこは変わりはなかったが、今までよりも更に気合いが入っていた。

 まるで、誰かを目指しているかのようなそんな感じであった。

 そして、レフィーヤはティオナやアイズとは少し方向性は違うのだが、まあ変わったのだ。

 ティオナとアイズは目の前で圧倒的な"力"を見せつけられたので、それに影響を受けてしまうの仕方の無いことだ。

 しかし、レフィーヤはそれを見ていない。

 それなのにどうして変わってしまったのか、それは敗北をしたという悔しさから来ているものであった。

 いや、それよりも自分が慕う存在に興味を持たれていた忌々しい男に命を救われたという悔しさの方が大きいはずだ。

 しかも、エルフであるが故に異性に関しては潔癖で、それも理由に入っているだろう。

 これらの理由から、ティオネといつも一緒にいるメンバーは、ダンジョンに潜っているのだった。

「はぁ......本当に私もダンジョン行こうかしら......」

 また深く溜め息を吐いて、ティオネは置いたフォークを手に取ると、くるくると巻く作業を再開する。

 しかし、その作業は中止せざるを得なくなってしまう。

「嘘でしょ......?」

 ティオネの持つ、フォークが突然折れてしまったのである。

 いくらLv:5の冒険者とは言え、力の制御はきちんとしているのだから、こんなことは起こり得ることはない。

 それこそ、感情が高ぶり、自分では抑えきれないときなど、そういう時だけだろう。

 しかし、周りの者達からは、「やべぇ、ティオネ姉さんマジおこだよマジおこ......」「団長絡みで何か嫌なことでも、あったんだろ?」「もしかして、私が道を歩いているときにコケちゃって、それを通り掛かった団長に助けてもらったことかな......手もしっかり握っちゃったし......」「うわぁ......それだわ」等という会話が繰り広げられていた。

 取り合えずティオネは既にフィンに助けて貰ったという女性冒険者へロックオンしつつ、キッとその集団を睨むとそのざわつきを止めさせた。

 ちなみにロックオンとはどういう意味かと言えば、その女性冒険者が後で酷い目に遇うことが確定したということだ。

 具体的には訓練メニューが倍増するくらい程度ではあるが。

 そこは普通の冒険者にしてみればとても辛いことではあるが、決して死にはしないので、大丈夫だろうとは勿論ティオネの談だ。

「何か悪いことでも起きる前兆かしらね......」

 ティオネは折れたフォークを忌々しげに見ながら、そんなことを呟いた。

 フォークが折れたということもあるが、アマゾネスとしての勘と、女の勘が両方合わさり、最強に見える勘が働いたのだ。

「まぁ、気にしても仕方ないわよね......」

 それよりも、目の前にあるパスタを早く処理して、ダンジョンへ向かおうと決心するティオネ。

 それにはまず、折れたフォークを持って厨房に謝りに行くことから始めることにした。

 

 

 

 

 

「リリルカさん、そろそろお昼にしようか」

「......」

 モンスターを大剣で、斬り払い、落ちた魔石を拾うと、ベルは後ろでアイテムを回収し終えたリリルカへそう言った。

 第九階層のルームと呼ばれる大部屋で、モンスターが大量発生するというアクシデントにベル達は遭遇していた。

 しかし、それもベルの活躍により、ものの数秒で肩はついてしまったのだが。

 まあ、魔石やアイテムを結構な数量回収出来たので、ベルにしてみれば、ラッキーとも言える現象だ。

「ちゃんと、地面に敷くシートを持ってきたから安心してね」

「......」

 背負っているリュックからから折り畳んでいたシートを取り出すと、バッと広げ、ルームのど真ん中に敷く。

 ベルは周りを見渡して、重石になりそうな手頃な石を見つけると、それをシートの隅に置き、しっかりと固定する。

「リリルカさん、どうぞ。座っていいよ」

「......」

 リリルカが座るのを見てから、ベルもシートに腰を下ろすと、バッグからバスケットを取り出した。

「今日はサンドイッチを持ってたんだ。まあ、貰い物なんだけどね」

「......」

 バスケットを開けると、色とりどりのサンドイッチが姿を現した。

 オーソドックスな野菜とハムのサンドイッチや、人気の高い玉子のサンドイッチなどぎっしりと詰め込まれている。

「どれにしようかなぁ。うーん、じゃあ、野菜のにしようっと。リリルカさんは?」

「......」

「分かった、玉子サンドだね。はい、どうぞ」

 リリルカが指差したのを見て、ベルは玉子サンドを取って、はいと渡した。

「うん、美味しい。流石、ミアさん。リリルカさんも美味しい?」

「......」

「なら、良かった」

 ベルはサンドイッチを再度頬張り始めた。

 今、ベルとリリルカが繰り広げている会話は、果たして会話と言えるのだろうか。

 間違いなくベルが一方的に話しているだけにしか見えないだろう。

 実際、それは正しかった。

 朝の9時にダンジョン前広場に集合という約束の通り、二人はそこに集まった。

 ベルはきちんと5分前にきていたのだが、それよりも早く来ていたのか、リリルカは既にいた。

 勿論、ベルは謝ったのだが、リリルカは頷くだけで、喋ろうとしなかったのだ。

 意志疎通は取れているようで、頼めばその指示通り動いてくれるし、きちんと仕事はしてくれたのでそこは問題はなかった。

 しかし、喋ってくれない。

 内心でそろそろどうにしかしないとな、というか腹が立って来はじめたので、ベルは食事を中断し、すぐ行動に移った。

「_______リリルカさん、朝からどうしたのかな? そんな反応され続けると流石の僕も怒らないといけなくなるんだけど」

「っ!?」

 ベルの少し声色を変えた発言に、リリルカは身体をビクッと震わせると、涙目で首を大きく横に振っていた。

「あぁ、昨日のこと引き摺ってるのか......いや、本当ごめんね。あんなこと(・・・・・)になっちゃって」

 それを言われ、リリルカは顔を真っ赤にし、涙目でベルを睨んだ。

 怖い怖いと、ベルは苦笑して、サンドイッチを頬張る。

「......まぁ、凄い精神力だとは思うけど」

 ベルは消え入るような声でそう呟いた。

 昨日の注意(・・)を受け、更に人としてかなりの辱しめを受けたのに、それでも尚、約束をきちんと守るのは、素直に凄いことだとベルは称賛していた。

 約束など破ろうと思えば破れるものではあるのだが、それを破らなかったのは、リリルカのプライドだろう。

 ベルはリリルカをある意味で尊敬していた。

「それはそれとして、ちゃんと話をしよう? 食事は楽しく美味しく、ね?」

 スマイルを心掛けながらベルはそう言った。

 実際、ベルは皆で美味しいご飯を食べることも好きだ。

 一人で食べるのも悪くはないが、皆で何気ない会話をしながら進める食事も中々に素晴らしいことだと、ベルは常々考えていた。

 故に目の前の不機嫌栗鼠娘にそう提案したのだ。

「......そんなの無理に決まってるじゃないですか」

 今日初めて口を開いたリリルカははっきりと否定を意味する言葉を告げた。

「どうして?」

「ど、どうしてって、リリは昨日、あ、貴方のせいで、お、お、おも......」

「おも? って、あぁ、お漏ら_______」

 うにゃあああと、リリルカは声をあげて耳を塞ぐ。

 リリルカにとって、いや人類においてもかなり嫌なことだろう、それを口に出されるのは。

 この時ベルは、故郷でたまに面倒を見ていた赤ん坊のことを思い出していた。

「ふぅん......リリルカさんって、僕より年上なのにお漏らしとかしちゃうなんて、恥ずかしくないの?」

 はっきり言ってドン引きだねと、ベルは告げる。

 それを言われた瞬間、リリルカの表情はひきつり、頬を紅潮させ、目が潤んでくる。

「というか、あの状況で漏らすとか意味がよく分からないんだけどさ、僕別に何もしてないよね? リリルカさんが勝手にやらかしたことだよね?」

 容赦なく叩きつけられるベルの言葉にリリルカは先よりも更に顔を紅潮させ、目も潤み、身体もプルプルと震え始めていた。

 実際、ベルは悪いことは何一つしていないだろう。

 只、リリルカへ注意(・・)をしただけだ。

 それに彼のナイフは未だ戻ってきていない。

 現状から見て悪いのは間違いなく_______。

「もうリリルカさんっていう呼び方もあれだね。さん付けなんてする必要ないよね」

 だから、リリルカってこれからは呼ばせてもらってもいいよね、ベルはそう言った。

 年上は基本的には敬うべき存在ではあるのだが、それを今のリリルカに適用するのはどうかと、ベルは判断したのだ。

「ねえ、公衆の面前で無様に失禁してしまった15歳のリリルカ?」

 全くの無表情で、ベルはそうリリルカへ言った。

 言葉の棘は、最早言葉の鉄槍となってリリルカへ突き刺さる。

 既にリリルカの顔面は涙で決壊寸前状態だった。

 寸前、だったのはリリルカの精神力が人並外れていたからだろう。

「_______さあ、早くお昼を食べて探索に戻ろう! って言っても、今日はもうちょっと行ったら一旦帰ろうとは思ってるんだけどねー」

 無表情から一変して、あははと笑みを浮かべるベルにリリルカは恐怖を抱いた。

 この際、リリルカの実情(・・)は棚に上げておく。

 目の前で泣く寸前の女の子がいるのに、いつもと変わらない表情でもう元通りみたいな会話をするなんて、なんて優しくない(・・・・・)人なんだと。

 リリルカは必死に泣くのを堪えながら、ベルを睨み付ける。

 ここで泣いてしまったらいよいよリリルカは終わりである。

 人間として。

「そうだ、リリルカ。これから最低でも一週間は僕と契約結んでもらうからよろしくね」

 ベルは魚肉を挟んだサンドイッチを手に取りながら、ふと何気なくそう言った。

 無論、リリルカはそんなことを聞いてもいないし、するつもりもなかった。

「あぁ、大丈夫。ナイフが見つかればすぐにでも契約は切ってあげるし、勿論その分のお金だって払うよ」

 見つかればの話だけどと、ベルは再度それを口にする。

 あぁ、この人はリリを完全に見下している、そうリリルカは思った。

 いや、もしかしたら人としても見られていないのかもしれないと。

 最初出会った時の優しそうで気の弱そうな雰囲気は一切霧散していた。

 瞳はとても冷たく、放つ言葉も暖かみがない鋭いものだ。

 リリルカ・アーデは間違えたのだ。

 あのナイフに手を掛けてしまったことを。

 このベル・クラネルという少年に関わってしまったことを。

 

 

 リリルカ・アーデは完全に間違えてしまったのだと。

 

 

「だから、良いよね? リリルカ?」

 笑顔でそう告げるベル。

 その表情からは、断るのは許さないというものが読み取れた。

 故に今のリリルカに言えることは只一つ。

「......は、はい。わ、わわかりました。べ、ベル、さ様」

 震える声は全く抑えられない。

 既に膝に置かれているリリルカの手の甲には、涙が零れ落ちていた。

 誰か助けてと、リリルカは心の中でそう願った。

 この男はどうすることも出来ない存在だと。

 リリルカでは、只蹂躙されるしかないそんな化物みたい存在だと。

 故に助けて欲しいとリリルカは必死に願ったのだ。

 

 

「ベル......?」

 

 

 そんな声が、後方から聞こえた。

 リリルカは最早誰でもいい助けて欲しいと、振り返った。

 そこにいたのは_______

 

 

「......ヴァレンシュタインさんに、ティオナさん、ウィリディスさんじゃないですか」

 

 

 一人は《剣姫》、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 もう一人は《大切断》、ティオナ・ヒリュテ。

 最後は《千の妖精》、レフィーヤ・ウィリディス。

 オラリオでも最大最強を誇るロキ・ファミリアの主力とも言える冒険者達がそこにはいた。




リリィが可愛すぎて作者はどうにかなってしまいそうです。
あぁ、リリィが欲しい......

そんな作者が当てたのは男であり女である両刀使い、シュヴァリエちゃんです。
うん、忠義可愛い。
マタハリもエロ可愛い。
結論、みんな可愛い!






あと次回修羅場(嘘)です。

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