生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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嫁セイバー可愛いよ。


#21

「ベル君、ちょっと良いかい?」

「はい? 何でしょう」

 朝、ホームにて。

 フライパンの上にバターを落としながら、ベルはヘスティアからの呼び掛けに振り向かず、そう応えた。

「ベル君が雇っているサポーター君の事なんだけれど......」

 顔は見れないので分からないが、その声色から何故か言いにくそうにしているヘスティアを想像できた。

 ヘスティアにはサポーター、つまりはリリルカを雇ったその日に、既に契約をしたと報告してある。

 まあ、一時的であり、きちんと契約した(・・・・・・・・)

のも最近のことではあるが、時間的に大差は無いので問題はない。

 問題だったのは、その日(・・・)、リリルカについて聞かれた際に、彼女が何処のファミリアに所属しているかを答えた時に起きた。

 ソーマ・ファミリア。

 その言葉を聞いた瞬間、ヘスティアの表情が一変したのである。

 いつも見せる、ころころと変わる愛らしいヘスティアの表情とはうって変わって、眉間には少しシワが寄っていた。

 勿論、ベルはどうしたのかと質問した。

 すると、ヘスティアは少し考え込むようにしてから、表情をいつもの笑顔に戻し、何でもないと答えたのだ。

 この瞬間、ベルはリリルカ・アーデ、強いてはソーマ・ファミリアには何か怪しいところがあると確信した。

 リリルカがベルの所持していた安物のナイフを盗んだ理由も、恐らくその何かであることも。

 しかし、それに関してベルが問い質しても、ヘスティアは何でもないと言って、結局答えることはなかった。

 その表情からして、あまり言いたくないことなのか、それとも不確定要素があって話す段階ではなかったのかは分からない。

 今、思えばヘスティアはソーマ・ファミリアに関する噂を知っていたのだろうと、ベルは判断していた。

 それを言わなかったのは、ベルを信じたいという気持ちがあったのだろうか。

 そして、今。

 ヘスティアとの、リリルカの件での二度目の会話であった。

「リリルカがどうかされました?」

 ベルはバターを溶かしたフライパンの上に、ミルクと塩少々と混ぜておいた卵を流し入れながらそう聞いた。

「......ベル君は言ったよね? そのサポーター君の所属がソーマ・ファミリアだって」

「はい、言いましたね」

 卵をフライパン全体へ広げるように入れた後、少しの間放置する。

 その間、近くの棚から皿を二枚取り出しておく。

 更に魔石が動力源のオーブントースターに、パンを二枚入れ、セットした。

「実は君のアドバイザー君から、相談を受けたんだけど......」

「ああ、そういうことですか......」

 ふつふつと良い感じになってきた卵を、木ベラで中心に寄せながら纏めていく。

 それを用意していた皿に乗せ、付け合わせに水にさらしておいた葉物野菜を添える。

 すると、丁度焼き上がったのか、トースターからチンという音が響いた。

「よし、出来た......」

「ちょっと、ベル君! さっきからボクの話しちゃんと聞いてるのか______」

「ヘスティア様、出来ましたよ」

「うん! ベル君の作るふわふわとろとろのスクランブルエッグ大好き!」

 皿に乗ったベル特製のスクランブルエッグを見ると、ヘスティアは子供のように喜んでいた。

 

 

 

 

 

「......って、ベル君! 違う! 全然違うよ!」

「ヘスティア様、フォークを此方に向けないでください。危ないです」

 ソファに隣り合って座りながら、朝食を取っていたのだが、ヘスティアがフォークを向けながら声をあげる。

 先程まで、幸せそうにモグモグとスクランブルエッグを頬張っていたのにどうしたのだろうと、ベルは疑問符を浮かべた。

 ちなみにメニューは、スクランブルエッグとトースト、"ニンジン"で作ったポタージュで、ポタージュは昨夜、ベルが作ったのを温めたものだ。

「美味しくなかったですか?」

「ううん、凄く美味しかったよ。ベル君良いお嫁さんになると思うよって、だから違うよ!」

「お嫁さんって何ですか、お嫁さんって......」

 華麗なノリツッコミを決めるヘスティアに、おぉと心の中で称賛をあげつつも、嫁発言に納得のいかないベル。

 確かに家事に関しては他の一般男性に比べればかなり出来る方だと自負はしている。

 しかし、それは故郷で一人暮らしをしていた為に身に付いた、ある種仕方のないことであったので、良い嫁発言をされても特にピンと来るものがない。

 出来て当然。

 それがベルの認識であったのだ。

「君のサポーター君のことだよ!」

 ヘスティアはガッと顔を近付けて、ベルにそう言った。

「......ちっ、やっぱり流せないか」

「聞こえてるよ! ベル君!」

 むぅぅぅぅと、頬を膨らませながら、バシバシとベルの肩を叩くヘスティア。

 まあ、この距離で聞こえない方がおかしいので、ベルの言動は確信犯的なものであったが。

 後、スクランブルエッグを食べているから、叩くのは止めて欲しいと、ベルは思っていた。

「もう! 君のサポーター君のことだよ!」

 この時点で、ゼェハァと息を荒くしているヘスティア。

 流石に悪いことをしたとベルは少し反省する。

「______はい。リリルカがどうしました?」

「君のアドバイザー君から、昨日相談を受けたんだよ。契約を解除して、新しいサポーターを雇った方が良いって......」

 真剣な眼差しで、ヘスティアはベルを見る。

 純粋に心配している、そんな表情だ。

 ヘスティアにとっては初めての、只一人のファミリアの一員で、そして何処かズレている存在(・・・・・・・)だった。

「エイナさんったら、心配性だなぁ。別にソーマ・ファミリアの人だからって大丈夫ですよ。遅れは取りません」

「違う! ボクが心配してるのはそういうことじゃない(・・・・・・・・・・)んだよ!」

 論点が違うと言わんばかりのヘスティアに、ベルははいはいとおざなりに返した。

「ちょっと、ベル君! 本当に分かってるのかい!?」

「......分かってますよ(・・・・・・・)、ヘスティア様」

 ベルはスープを飲むのを止めてそう言った。

 そう、ベルはヘスティアが何を言わんとしているかを理解していた(・・・・・・)

 だからといって、ベルがヘスティアの忠告(・・)を聴くかどうかは別であったが。

「まあ、あの子を見てると少し思うところ(・・・・・・・)がありましてね。それに布石、というかそれに近いもの(・・・・・・・)も打ってますので」

 最善は尽くしますよと、ベルは笑顔でそう言った。

「......ベル君」

 最早、両者に会話が成り立っているのか、それすらも怪しかった。

 いや、成り立たせるつもりが端からなかったのだ、ベルには。

「さ、ポタージュのおかわりはどうですか? 結構、上出来だと思うんですよ、今日のは」

「......うん、頂くよ」

 ヘスティアは、只そう言うことしか出来なかった。

 たまにベルは全く別の表情を見せる。

 酷く冷たい笑みを浮かべるのだ。

 その表情を見ると、ヘスティアはベルに対し、何も言えなくなってしまうのだった。

 本来、超越存在(デウス・デア)である神が地上の人に覚える筈のない感情が沸き上がって。

 

 

 その後、両者に会話は無く、酷く静寂に包まれた朝食となった。

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 朝食と片付け、冒険の準備を終え、ベルが向かったのは《豊穣の女主人》だった。

 時間はまだ9時前。

 店の開店時間より、約一時間程早い。

 しかし、ベルは普通に店の扉を開けて入店していた。

「あ、ベルさん! おはようございます!」

「おはようございます、シルさん」

 最初に迎えてくれたのは鈍色の髪が特徴的なシル・フローヴァで、相変わらず笑顔が素敵であるとベルは思っている。

「あ、いつものですよね」

 そう言って、シルはキッチンの方へ向かうと、バスケットを持ってきた。

「はい、どうぞ」

 笑顔でシルはベルへそのバスケットを手渡ししてくる。

 受け取ると、バスケットは結構重かった。

「いつもありがとうございます。今日のメニューは......」

「いえいえ! 好きでやってることですし! あ、ちなみに今日は極東の"コメ"っていう植物を使った"オニギリ"っていうものなんですよ」

 そう言われ、ベルはバスケットの中身を確認すると、そこには白い球状のものに黒い何かが巻かれたものがズラッと並んでいた。

「"コメ"を炊いて、それを握ったものに"ノリ"という海草を乾燥させたものを巻いたものなんですよ。すっごく簡単なので、私でも作れます!」

 ちなみに中には色んな具が入っていますと、シルは教えてくれた。

 シルの料理の腕は、はっきり言って、お世辞にも上手とは言えない。

 悪く言えば"下手"なのだ、純粋に。

 味付けの際に味見をしなかったり、調味料をぶちまけたり、茹で時間や焼き時間を誤ったりと、そういう凡ミスが重なりまくった結果に生じるものである。

 しかし、純粋であるが故に改善の余地はあるので、まだ救いがあった。

 

 

 だがしかし。

 

 

 シルよりも料理が苦手な人物は、ベルが知っている限り一人だけ存在した。

「クラネルさん、おはようございます」

「おはようございます、リューさん。相変わらずお綺麗ですね」

 や、止めてくださいと、頬をほんの少しだけ赤らめたのはリュー・リオンだ。

 滅多に笑わない、表情を変えないで有名なリューが、ベルにだけ対し、こういう態度を見せるのはお察しの通りだろう。

「ちょっと、ベルさん! リューにだけ、そういうこと言うんですか!」

 メラメラと嫉妬の炎を燃やすシルであったが、それにベルが気付くことはなかった。

「そうですね......シルさんは綺麗っていうより可愛い系ですよね」

「もうっ、 そんなこと言われて喜ぶほど私は単純じゃないんですからね!」

 そう言う割には、身体をクネクネさせ、顔も口元が緩んでいた。

「......クラネルさん。今日もダンジョンに行かれるのですね」

 その装備とバスケットを見る限りと、リューは先程のベルの口撃から復活したのか、冷静さを取り戻してそう言った。

 まだ少し顔は赤かったが。

「はい、まあ、時間がないので、こんなハイペースですけど、もう少し経ったら、少しだけ中休みを置こうかとは思っていますが」

「時間がない、ですか......」

 リューはそう呟くと、その事に関して特にベルへ聞くことは無かった。

「......私も料理が出来たら良かったのですけど」

「はははは、そうですね。......気持ちだけ受け取ってきます」

 ベルは誰にも聞こえないような小声で後半、そう呟いた。

 そう、ベルの知る料理が苦手な人物というのが、彼女リューであった。

 リューの料理の腕は、常軌を逸しており、何故かサンドイッチを炭化させてしまうのだ。

 更には甘い筈のクッキーも何故か"辛く"なるという魔法を見せつけてもらった。

 材料に辛くなるものは使っていないというのにだ。

 サンドイッチの調理行程を最初から見ていたのだが、失敗している様子はなかった。

 しかし、突如料理が炭素の塊に変化したのだ。

 理解に及ばない、そんなレベルの変化で、ベルは目を疑った。

 これにより一度ベルは地獄を見ているため、少々トラウマになっている。

 まあ、全部食べたのだが。

 それ以降、リューも自身の料理の腕を感じて自重したのか、料理をしなくなった。

 人には得意不得意があるので、仕方がないのではあるが、些かこの次元違いの腕は是正するのは厳しいとベルは判断していた。

「でぇぇぇぇぇいにぁぁぁぁぁぁ!!!」

「よっと」

 横から奇声をあげながら突撃してきた猫人(キャット・ピープル)を後ろに反れる形で回避するベル。

 勿論そんなことをすれば、そのまま壁に衝突してしまうので、きちんとフォローをする。

「......いきなりどうしたんですか? アーニャさん」

「お前が目の前でシル達を口説こうとするからだろうにゃ!」

 シャアアアアと猫のように(猫であるのだが)威嚇してくるのはアーニャ・フローメル。

 彼女はシルやリューと同じく《豊穣の女主人》のウェイトレスであるのだが、少々いや、かなり破天荒な部分があるのがたまに傷だ。

 あと、クソ生意気なところが。

「というか、抱き抱えられている状態で言われても、格好つかないですよ?」

「お・ろ・せ・にゃ!!」

 あのままでは壁に衝突しそうであったので、瞬時に抱き抱えたのだが、この状態がおきに召さないらしい。

 じたばたと、腕の中で暴れるアーニャに、ベルは溜め息を吐く。

 純粋な腕力では意外ではあるが、彼女の方が勝っている。

 レベル差というやつだ。

 本来なら、その筋力差では彼女を抱き抱えてもすぐに振り払われてしまうかもしれない。

 しかし、ベルがそのバタバタと動くアーニャに合わせて、動くことにより、力を拡散させるという妙技を行っているが為に、振り払われていないのである。

 その上、例えアーニャが本気で殺しに掛かってきたとしても、ベルなら返り討ちにすることが出来る。

 まあ、そんなことはしないが。

 兎に角、今のアーニャが滅茶苦茶面白かったので、もう少しこのまま観察しようとベルは思っていた。

「ちょっと、ベルさん! 何でアーニャをお姫様抱っこ_______」

「あんたら......さっきから何をやってんだい!!」

 落ちたのは《豊穣の女主人》_______の女主人、ミア・グラントの怒りの雷だった。

 開店前とは言え、これだけ騒いでいたら外の人達に丸聞こえであるだろうし、開店前の忙しい時間帯にこんなことをやっていたらキレるのは当然のことだろう。

「さっさと、準備に戻りなぁ!」

『は、はい(にゃ)!』

「了解しました。ミアお母さん」

 シルとアーニャは揃って返事をすると、厨房の方へ走っていった。

 勿論、シルは笑顔でベルにまた来てくださいと言いながら。

 リューは冷静に返事をした後に、自身の持ち場へ戻っていった。

 勿論、厨房ではないが。

「はぁ......ったく。あんたが来ると、あの子達が煩くなるんだよ。どうしてくれるんだい?」

「そんなこと言われましても、知らないですね」

 そう言うベルへ、恐ろしく早い手刀を落としてくるミア。

「......すっごい、痛いんですけど」

「男なら、これくらい我慢し。うちの子達をたぶらかして生きていられるだけ、マシだと思いな」

 明らかに目がマジなミアに、ベルは苦笑するしかない。

 手刀も滅茶苦茶痛いだけで、別に問題はなかった。

 ミアが本気を出せば、ベルの頭は間違いなく、"ザクロ"と化していただろう。

「ほら、こっちも忙しいんだ。さっさとそれ持ってダンジョンに行ってきな」

 シッシッと手を振ってくるミア。

 ベルは分かりましたよと、少し笑いながら出口へ向かう。

 全くもって、いつものことであった。

「あ、そうだ。坊主」

「はい? 何でしょう」

 ちょうど扉に手を掛けようとしたとき、ミアがベルの足を止めた。

「これ、捨てといてくれ」

「おっとっと......これは?」

 ベルは危なげなく、それをキャッチする。

 投擲されたのは一冊の本であった。

 かなり古ぼけており、タイトルも読めないほどに傷んでいた。

「いつからあるのかは分からないけど、どっかの客が忘れたもんみたいでね。いい加減邪魔だから、捨てといてくれ。別に坊主が欲しいって言うのなら、くれてやってもいいさ」

 そう言って、ミアはずんずんと厨房へ戻っていった。

「やっぱり返答は聞かないんですね......」

 本当に相変わらずだと、ベルは少し溜め息を吐きながら、受け取った古本をチラリと眺めたのだった。




今回はあまり話が進みませんでしたね。
書いててふと思ったのは、今作の"ベル"は間違いなく主人公の器では無いなということ。
それを考えると、やっぱり原作"ベル君"は主人公兼ヒロイン(えっ?)としてとても良いですね!
すごいピュアで、女性にはすごく弱いけど、漢を見せてもくれるそんなベル君は最高です。




あと、最近SAOを見たので、今作のベルを裏ボス的な感じでキリト達と戦わせるのを思い付いたので、気が向いたら書こうと思います。(書くとは言っていない)


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