生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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※注意
今作のベル・クラネルは、タグの通り、性格ががかなり変わっています。
その為、原作とはかなり違う流れになってしまうことがありますので、それが嫌だと思われる方にはお奨めできません。
それが大丈夫という方はどうぞ、ご覧下さい。


第一章 死兎降誕 The Birth of Death Rabbit.
#0 プロローグ


 ダンジョン内、第五階層。

 洞窟のようなその空間に、コボルトの悲鳴が木霊する。

「...やっぱり、小さいなぁ」

 そう、ふうと息を吐いて、短剣を革の鞘に納めて、呟いたのは、白髪紅眼の少年で、その手には小さな魔石が握られていた。

「多分、合わせれば2000ヴァリスくらいにはなるかな...」

 腰にぶら下げていた巾着の中には沢山の小さな魔石が入っていた。

 ダンジョンに潜ってまだ半月程しかたっていないが、既に目測で換金額を算出することくらいは余裕で出来ていた。

「さて、そろそろ戻るか」

 少年はアルバイトの休日を利用して、こうしてダンジョンに潜っては、ゴブリンやコボルトを倒して、お小遣いを稼ぐと同時に運動の代わりにしていた。

「でも、やっぱり歯応えないよなぁ」

 また今度行くときはもう少し下の階層に行ってみるか、そう思いながら、来た道を歩いていく。

 実際、今の少年からすれば、ゴブリンもコボルトもはっきり言って物足りなかった。

 だから、もっと強いモンスターでも現れれば________

 

 

『ブモォォォォォ!!』

 

 

_________いた。

 雄叫びをあげ、目を血走しらせ、涎を垂らしている、ミノタウロスが。

「えー...なんでこんな所にミノタウロスが...」

 少年は冒険者ではないので、あまり詳しくは分からないが、確か十階層過ぎた辺りじゃないと出てこないんじゃなかっけ、とか考えていたが、既にこちらに狙いを定めているミノタウロスは、止まらず爆走中だ。

「...取り敢えず逃げよ」

 はっきり言って、キモかった。

何というかこう、近付きたくないキモさというか、触りたくないキモさというか、とにかくキモかった。

 故に少年、ベル・クラネルは、先程のもう少し強いモンスターと戦いたいという願望をいきなり捨てて、ダンジョンを走り出した。

 

 

『ブモォォォォォォ!!』

 

「最悪だぁぁぁ!!」

 

 こんなはずでは無かったのに。

 ただ、お小遣いを稼ぐのと、身体を動かしに来ただけなのに、どうしてこんなことに。

 

 

 ベル・クラネルはミノタウロスが嫌いになった。

 

 

 

 

 

 

 

「って、行き止まり!?」

 場面転換して、助かったとかそんな甘いことは無く、ベルはいきなり壁にぶちあっていた。

 比喩ではなく物理的に。

『ブモォォォォォ!!』

 既に後ろには雄叫びをあげている筋骨隆々の鼻息を荒くしたミノタウロスが迫っていた。

 なんか色々やばい光景だった。

 なんとか同人みたいに!

「...こうなったら、あれをやるしかないか」

 ベルは覚悟を決めると、腰に差している革の鞘から短剣を引き抜いた。

 刃渡り20c程のその短剣は、別に業物でもなんでもなく、どこかの店で3000ヴァリスで買った安物だ。

 しかし、目の前の敵、ミノタウロスに対しては絶対的に釣り合わない 武器で、恐らくその刃が皮膚に触れた瞬間に砕け散ってしまうだろう。

 それほどこのミノタウロスは強いのだ。

 しかし、ベルにとって、獲物の良し悪しは関係のないことだった。

 

 

「...斬る」

 

 

 そう呟いた瞬間、ベルの左目が赤色から青色へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ...」

 彼女は今の状況を理解できないでいた。

 遠征を終えて、帰宅中の彼女のパーティは、十七階層でミノタウロスの群れに遭遇した。

 しかし、彼女とそのパーティメンバーからすればミノタウロス程度は、そこら辺の雑魚と対しては変わりはなかった。少し強い雑魚程度だ。

 それらを圧倒していたのだが、その内の一体が下級階層へ逃走してしまったのだ。

 彼女等なら問題ないが、下級階層にはレベルの低い冒険者がいる。 lv:1の冒険者ではミノタウロスを倒すことは出来ない。

 もし、下級階層を散策中の低級冒険者がミノタウロスに見つかったのなら、間違いなく殺されてしまう。

 故に、彼女とそのパーティは急いでミノタウロスを追い掛けて来たのである。

 この場に彼女しかいないのは、彼女が一番速かったのと、他のメンバーが割りとゆっくりめで来ていたことが理由だろう。

 しかし、いざ来てみれば、これは一体どういうことなのか。

 目の前には、右腕を失った(・・・・・・)ミノタウロスに立ち向かうようにしている白髪の少年がいる。

 お世辞にも強そうには見えないし、装備品も間違いなく低級冒険者のものだ。

 

 

 しかし、どういうことなのか。

 

 

「"死兎・十七分割"」

 

 

 少年が呟くと、一瞬で姿が消え、ミノタウロスを一閃した。

 そして、次の瞬間には言葉通り、ミノタウロスが十七の肉片と化していた。

 

 

「見えない...」

 彼女は過去何度もダンジョンを潜り、その中で色々な強いモンスターと戦ってきた。

 勿論、素早いモンスターもいたし、彼女はそれに臆することなく挑み勝利した。

 故に彼女より速い冒険者など片手で数えられるくらいしかいないだろう。

 それなのに、彼女ですら捉えきれない速さとはどういうことなのか。

 

 

 彼女には疑問しか浮かばなかった。

 

 

 唯一捉えきれたのは、一閃し、短剣を鞘に納めるところだけだった。

 しかし、一回の斬撃で十七に分割することなど出来るのだろうか?

「まさか...」

 彼女はある考えにたどり着いた。

 あの一撃にしか見えなかった一閃は_______

 

 

_______十六回の斬撃の集合体なのでは、と。

 

 

 十七に分割するには最高でも十六回、最低でもそれ以下の回数斬らなければならない。

 それをあの一瞬で行うためには、一瞬の内に最高十六回斬るという、 人智を越えた技を行わなければならない。

 例えそれ以下の回数だとしても等しく困難なものであろう。

 それは、オラリオ最強の剣士と呼ばれる彼女でさえ無理な話だった。

 理由はもう一つあった。

 あの得物では、あんな芸当は絶対に無理だということだ。

 見たところ、業物でもなんでもなくただの安物の短剣で、持ち主の技量が例え最高峰の剣士だとしても、恐らく剣の方が先に壊れてしまうだろう。

 使い手と得物、両者の"力"が拮抗し、初めて武器を振るう行為は"技"へと昇華する。

 しかし、少年には一切そのきらいが見られなかった。

 一体、彼は何者なのだろうか?

「ふぅ...最初からこうしておけば良かった...」

 少年は勝利したことを喜びもせず、一安心と息を吐くと、ミノタウロスの居た場所に小走りで向かう。

「これは...角?」

 少年が拾い上げたのはミノタウロスの角だった。

 モンスターを倒すと、稀に魔石だけではなく、こうやってドロップアイテムが出現することがある。

 こういうドロップしたアイテムは武器や防具の素材になるため、高い価値で取り引きされるのである。

「やったぁ! 今日はついてるのかも!」

 彼女は知る由もないが、先程最悪と言って逃げていたときとはうって 変わっていた。

 ヒューマンというのはとても現金な生き物なのである。

 しかし、ふふふと笑いが出ている少年は本当に嬉しそうだった。

「...可愛い」

 兎みたいで。

 彼女が思わず声に出してしまう程には可愛いかったのだろう。

「...!? え、えっと、ど、どちら様でしょうか...?」

 すると少年は彼女の存在に気が付いたのか、小動物のように怯えた様子で聞いてくる。

 恐らくダンジョンの中でいきなり人に会ったから驚いているのだろうが、彼女からしてみれば、その反応がひどく悲しい。

「...私は、ロキ・ファミリア所属、アイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。...君は?」

「あ、はい。僕はベル・クラネルと言います」

 取り敢えず簡単に自己紹介を済ませる二人だったが、彼女、アイズ・ヴァレンシュタインが聞きたいのは別のことだった。

「...ねぇ、ベル。さっきのミノタウロスを倒したの。...あれは何かな?」

 いきなり名前を呼び捨てで呼ばれ、少し驚いたベルだったが、アイズにそう言われ、気付いてしまった。

「...も、もしかして、見てました?」

「...うん。ばっちり」

 アイズは首を縦に振りながらそう言った。

 それを聞いて、ベルの顔は「やってしまった...!?」と、目に見えて分かる表情になった。

 

 

「...それで、ベル。...さっきのあれについて教えて欲しい」

 

 

 アイズはベルに近付き、彼の手首を掴むと、ジーッと視線を向ける。

 

(近い。滅茶苦茶近い。鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近い...!)

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは美少女だ。

 それはもう、その辺にいる可愛い(笑)女の子等よりも圧倒的に可愛い。

 本来なら、今の状況は「え、ここは天国ですか?」とか反応してしまうくらいには嬉しい状況だ。

 ベル・クラネルは男の子だ。

 故に、可愛い女の子や綺麗な女性が好きだ。

 至極当然、当たり前のことだろう。

 しかし、歴戦の冒険者である彼女から出るオーラにより、見事それを打ち消し、ただただプレッシャーをかけるだけの行為に変わっていた。

「ジー...」

「え、えっと______」

 

 

 

 

 そんなこんなで、物語は始まりを告げる。

 これは、オラリオに出会いを求めにやって来た少年と、彼を取り巻く者達の英雄譚である。

 

 

 

 

(...助けて、祖父ちゃん! 可愛い女の子には会ったけどなんか怖いよ!!)

 

 

 ベルは少し彼女のことが苦手になったらしい。


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