生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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今回は短めです。



#27

「......むぅぅぅぅん」

 ヘスティアは一人、唸っていた。

 場所は勿論ホームで、ベッドの上で仰向けになりながら、何かを見ていた。

「ベル君のステイタス。本当に何なんだろう......」

 

 

ベル・クラネル

Lv:1

力:SSS 1293 耐久:I 0 器用:SSS 1485 敏捷:SSS 1457 魔力:I 0

《魔法》【霊障の御手】

・常時発動魔法

《スキル》【求道錬心(ズーヘン・ゼーレ)

・早熟する。

・自身の追い求めるものがある限り効果持続。

・自身の追い求めるものの大きさにより効果向上。

《※※※》【※※※】

 

 

 ヘスティアが見ていたもの、それはベルのステイタスであった。

 四日程前に更新したそれは、見た瞬間に声を上げてしまう程の成長率で、力・器用・敏捷の三つの数値がパラメーターの限界を越えていた。

 更に新たに魔法まで発現している。

 どういう効果なのかは見て分からないが、得たいの知れないことだけは分かった。

「このスキルの効果なんだろうけど......」

 【求道錬心】という謎のスキル。

 これによりベルの成長率は著しいまでに早い。

 そして、更に言えば、このステイタスはヘスティアが知る一番最近(・・・・)のステイタスだ。

 今がどうなっているかは分からないのだ。

 少なくともこのステイタスよりも高くなっていることは間違いなかった。

「自身の追い求めるもの、ねぇ......」

 あのベルにとって、追い求めるものとは一体何なのだろうか。

 彼をここまで早く成長させているのだ、とてつもなく高い目標なのだろう。

 しかし、全く以てどのような存在なのか全く見当がつかない。

「少し_____うんうん! そんなことはない! ベル君は......!」

 言いそうになってしまった言葉を引っ込め、更に別の言葉を繰り出そうとするも、上手く言葉に出来ない。

 ヘスティアにとって、ベルは初めて出来たファミリアのメンバーで家族のような存在だ。

 その言葉の先は口にしてはいけない。

 そんなこと、ヘスティアは認められなかった。

「......はぁ、ベル君のやつ。早く帰って来いよぉ......」

 ヘスティアは、そう言って枕に顔を沈めた。

 

 

 

 

 

 ベル・クラネルは歩いていた。

 北東のメインストリートを抜けて、繁華街からやや離れた場所。

 そこは、工業系ファミリアが軒を連ねるエリアで、様々な作業着を来た男達をよく見掛けた。

 主に往来するのは、ドワーフの男や獣人等の筋力に優れた者達だ。

 煤で全身が汚れていたが、それこそ彼らが職人と呼ばれる証しでもあるのだろうか。

 ベルはあまり"彼ら"に詳しくないので分からないが、"彼ら"がこの街を支えているというのだけは分かった。

 現に、オラリオの公益の大元の魔石関連の製品は皆ここで製造されている。

「へぇ、初めて来たけど、こういうところなのかぁ......」

 街の賑わいとは、別の意味で賑わっているこのエリア。

 職人と呼ばれる者達の、喧騒が耳に届く。

 親方であろう人物の怒号や、それに返事をする弟子の声、金属を加工する独特の高い音が響いていた。

「......これに書いてるのは、この辺りだよね」

 手に持っているのは幅の広い長剣で、刀身には文字が刻まれていた。

 要約すると、明日の午後十二時に此処(・・)に来て欲しいという内容だ。

 《青の薬舗》での耐久説教をミアハと喰らい、その後色々あって(・・・・・)、少し疲れたなと思いながら、そこを出た際、目の前に刺さっていたのだ。

 入り口付近の真ん前にあったので、道行く人々は、訝しげな表情でそれを見ていた。

 誰もそれを処理しなかったのは、面倒事に巻き込まれたくなかったのと、この剣が抜けなかったかのどちらかだろう。

 一定のレベルの冒険者でなければ、抜けないように調整されていたのだ。

 この時ベルは、へぇと少し口角が上がっていた。

 更に驚きだったのは、剣を握った瞬間に、文字が浮き出てきたことだった。

 どういう技術かは分からないが、とにかく凄いものなのだろう。

「普通に知らせればいいのに......」

 このようなメッセージの送り方をするのは、ベルの周りでは一人しかいない。

 ベルからしてみれば、態々武器に文字を刻むのは手間だろうし、更に言えば武器から作るとなると、もっと手間だと思っていた。

 恐らく、彼のこだわりというやつなのだろうか。

「......ここか」

 辿り着いたのは一軒の小屋で、如何にも(・・・・)という感じの外観をしている。

 鍛冶場と呼ばれる場所で、ある種、神聖な領域と言ってもいいかもしれない。

 ベルはこの鍛冶場の前に立った瞬間に空気が変わったのを肌で感じ取ることが出来た。

 ズンと重くなるような感覚がベルを襲ったのだ。

「......ごめんくださーい。ヴェルフさん、居ますかー? ベル・クラネルです」

 扉を三回ノックして、そうベルは呼び掛けた。

 声を掛け、数秒。

 少しドタドタとした足音が扉の向こうから聞こえる。

「おお! 旦那、よく来てくれた! さあ! 早く入ってくれ!」

 扉を開けたのは、勿論この鍛冶場の主であるヴェルフ・クロッゾであった。

 目に見える嬉しそうな表情で、早く早くと、ベルを急かしていた。

「失礼しま_____って、ヴェルフさん、それは......?」

 入ってすぐに目についたのは、そこらに転がっている工具や、燃える炉でもなかった。

 扉から少し顔を出すようにしていたので、最初は見えなかったが、入ってからすぐに気付いた。

「あ? ああ、これ(・・)か。別に気にしないでくれ。それよりこっちだ」

 ヴェルフは、そんなのどうでもいいとベルを片手で(・・・)手招きしていた。

 

 

 そう、今のヴェルフにはあるはずの左腕が存在しなかったのだ。

 

 

「こっちだぜ、旦那」

 少し固まってしまっているベルを尻目に、ヴェルフはズンズン奥______地下へ向かっていく。

「は、はあ......」

 取り敢えず、ベルはヴェルフの後を着いていくことにする。

 しかし、ベルは地下の工房に入った瞬間、更に驚くことになった。

「______何ですか、これは......?」

 部屋に広がっていたのは無数の斬撃痕で、まるで討ち入りでもあったかのような惨状だった。

 よく見れば、血のようなものも飛び散っていた。

「これは......?」

 部屋を更に奥へ。

 するとそこには黒い布を掛けた大きな何かが鎮座していた。

 全長1.5m程の大きさのその何かは、禍々しいまでに存在感を放っており、ベルですら少し気圧されてしまった程だ。

「さあ、旦那。早速ご対面と行こうか」

 ヴェルフはニタニタと笑いながら、掛かっている黒い布に手を掛けた。

「これが俺の人生、最初で最後で最強の最高傑作だ!!」

 思い切り、ヴェルフはその黒い布を剥ぎ取った。

 

 

「これは、一体......」

 

 

 現れたのは、真っ赤な溶液の入った立方体の硝子の箱だった。

 真っ先に脳裏に過ったのは、"血"という単語。

 周りに飛び散って、染みになっているのをみると、益々それにしか見えない。

「これは、あいつ(・・・)を納める鞘みたいなものなんだよ」

 そう言って、コンコンと、手の甲で硝子の箱を叩くヴェルフ。

「鞘って......これがですか......?」

 只の血の入った水槽にしか見えないベルは、首を傾げるだけであった。

 更に言えば、その中に何が入っているのかも、紅い液体のせいで、中身がどうなってるのか分からない。

 この中に入っているのは、果たして本当に武器なのかと。

 ベルは只々そう思っていた。

「言ったろ? 鞘みたいなものなんだって。こうでもしないと納めきれねぇんだよ(・・・・・・・・・)。こいつは」

「納めきれないって......どういうことなんですか? というか、この中には何が入ってるんですか?」

 ヴェルフの言葉に疑問を感じそう言うベル。

 すると、ヴェルフはその辺に転がっていた長剣を拾い上げ、硝子の箱の中に入れた。

「見てろよ」

 瞬間、硝子の箱の中で異変が生じているのにベルは気付いた。

 

 

______長剣が呑まれていく(・・・・・・)

 

 

 グチャグチャと音を立てながら、入れられた長剣は形を失っていく。

 さながら、獲物を喰らう肉食獣のような獰猛さを、その何かにベルは感じ取っていた。

「化物、ですか......」

「そうだな。旦那の言う通りだ。間違っちゃいねぇ。只、こいつは武器なんだ。そこは間違っちゃいけねぇぜ」

 これを見て、どうやって武器と判断しろとと、ベルは思わなくもなかったが、それはすぐに解消されることになる。

「今から、旦那にやって欲しいことがあるんだよ」

「やって欲しいこと?」

 

 

「ああ。旦那には、こいつをこの箱からひっぱり出して貰いたいんだよ」




【悲報】ベル、更にチート化。







あと、メインヒロインが決定しました(まだヒロインするとは言ってない)。

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