生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
今すぐステラァァァァァしたいです。
もし、この場に居合わせていたのなら、誰もがそれを理解するだろう。
広がるのは一本の草木も無い荒れ果てた大地。
散在する岩や砂、全てが赤銅色に染まっている。
この茫然と広がる大空間、通称『
衝突したのは二つの"力"。
血に濡れた赤黒の魔槍と、血に染みた巨大で武骨な鉄塊。
どちらの武装も
神速で打ち合わされる武器と武器の衝突。
それだけで空気は振動し、衝撃波で大地は罅割れ、抉られる。
「君、また強くなったんじゃないかい? 本当、底無しだね、『
「それはお前にも言えることだ、『
互いに互いを称賛する言葉をぶつけ、両者は睨み合う。
槍を持つのは美少年と見間違える金髪碧眼の男。
しかし、彼から放たれるのは圧倒的強者の風格で、並みの者であれば即座に卒倒しかねない。
相対するは、巨大な鉄塊を握り締めた大男。
全身隙無く狂い無く余分なものが何一つ無い、それ程までに鍛え抜かれた肉体からは、先の男以上の、丸で目の前に巨大な山が聳え立っているかのような威圧感が醸し出されていた。
「......次で終わりにするか」
「そうだね。君も僕も全力を奮っているわけでもない、只の遊びなわけだし」
それにと、『大英雄』は続けると天井、つまりは地上の方へ目を向けた。
それに対し、『英雄の一』はそうだなと一言返すだけだった。
瞬間、二人が感じたのは、強大な殺意と重圧感であった。
______何者かが、何かを殺戮している。
それを確信出来る程の、"死"を二人は感じ取っていた。
「僕達が留守にしている間に地上では、随分面白いことになってるみたいだね。噂の
「......そう言えば、お前はあれと
二人は紛れもない"真の『英雄』"である。
それこそ、神話に名を残す『英雄』だ。
彼ら程の
しかし、だ。
その"真の『英雄』"足る彼らが"化物"や"怪物"と評すその存在。
"英雄"と"怪物"の違いは、只の力の方向性だ。
その力が少なくとも善意に傾けばそれは英雄となり、その力が少なくとも悪意に傾けばそれは怪物となるのだ。
善と悪という概念により、強大な力を持つものは英雄にも怪物にもなってしまう。
二人はそれを理解していた。
それを知っているが故に真の意味で英雄や怪物などと言う言葉は滅多に使わないようにしている。
そんな二人が揃えて、化物、怪物と評すということは、つまりは
「......嬉しいね。こうやって僕達に新たな後輩が生まれてくるのは。最近の冒険者達は惜しい所まで来ている人達はいるけど、まだまだだったからね」
「......その誕生が、果たして吉と出るか凶と出るかは未知の領域ではあるがな。......まあ、少なくとも、私達にとっては喜ばしいことではあるがな。怪物寄りではあるが」
_______あれは"英雄"にも"怪物"にも、
にすらなれる。
それが
「それじゃあ、本当に終わりにしようか。早く地上へ戻らないと、また皆にどやされるからね」
「ああ、私もそろそろ
「まあ、君は僕が本気を出した所で殺しきれるかなんて分からないんだけどけね」
「はっ、何を言うか。お前はそれでも私を殺し切る。それが私の認めた最強の英雄足るお前だろう?」
その後、彼らに会話は無く、起きたのは莫大な魔力の解放と、それに伴う烈風の嵐であった。
「血を捧げ、狙い穿つはその心臓!
「撃滅の千光、神造の王剣。斬塵滅消、『
英雄達の放つ至上の一撃、『
「ただいま戻りましたー。ヘスティアさ______」
「ベルくぅぅぅぅぅぅん!!!」
「んぐぁ!?」
ホームの扉を開け、真っ先にベルの腹部を襲ったのは、ヘスティアの助走込みのタック_____熱い抱擁であった。
少なくない衝撃がベルの腹部を襲い、思わず変な声をあげてしまう。
いくら全体的に柔らかい肢体を持つヘスティアと言えど、質量を持っているのには変わり無く、更に不意だったこともあり、ベルは押し倒される形になってしまった。
「この
「ててて......あぁ、すいません。ちょっと野暮用があって......」
腹部と背中に軽い痛みを覚えながら、ベルはどうにか返答をする。
ベルの上には、ヘスティアが抱き付くようにして覆い被さっている。
それにより、彼女のその豊満な双丘が、ふにゅりと形を変え、押し当てられていた。
「シャラップだよ、ベル君! 君が居ない間、ボクがどんな気持ちでいたか分かってるのかい!?」
ヘスティアは本当に心配したと、そう読み取れる表情をしており、その目には涙が見えた。
ああ、これは悪いことをしてしまったと、ベルは罪悪感に苛まれる。
ヘスティアにとって、ベルは只一人のファミリアである。
そのベルが何の連絡も無しに突然一週間も顔を出さなければ、心配するのは当然だろう。
「ヘスティア様、すみま_____」
「君が居ない間、美味しいご飯が食べれなかったじゃないか! ボクよりベル君が作る方が美味しいのに、全くもう!」
「あれー? まさかのそっちですか?」
いや、自分が悪いのは分かってるのだが、納得のいかないこの気持ちは何なんだろうか。
ぷりぷりと怒るヘスティアは、まるで栗鼠のように頬を膨らませている。
どうやら、本気のようだ。
自分なら心配要らないと、信頼されている裏返しなのか。
いや、それだとしても納得はいかなかった。
「......ヘスティア様、本当にすみませんでした」
「ベルくむぎゅっ!?」
故にベルはヘスティアを抱き締め返すという方法に出た。
決して悲しかったわけではない。
そう、ヘスティア様をモフりたくなったのだと、ベルは言い聞かせていた。
あと、自分は炊事係りではないぞという意思表示でもある。
「ヘスティア様って、あれですね。マシュマロみたいですよね。......おっぱ」
「それは絶対にセクシャルハラスメントだよって......ベル君?」
ふと、ヘスティアは不思議そうな表情を浮かべると、ベルの頬を両手で包み込んだ。
「......どう、しました?」
「何かあったのかい? 何かこう、雰囲気というか、その、少し変わった気がしてたんだけど......」
ヘスティアはそう言うと、うーんと唸りながら、ベルの頬をフニフニと弄り出す。
「あれですよ。男子三日会わざれば刮目して見よって奴ですよ......あと、くすぐったいです」
止めてくれと、ベルは視線で訴えるが、眼前の女神様はそれを汲み取ってくれることはなく、難しい顔をしながらフニフニと弄るのを続行していた。
赤子みたいだなと、故郷で面倒を見ていた子を思い出すベル。
赤子と女神を同列に並べるのはどうかと思ってはいたが。
「というか、いつまで乗っかってるつもりですか......」
流石にこの体勢はキツいと、ヘスティアを抱き抱え、ガバッと起き上がるベル。
その際に、いきなりお姫様抱っこをされてびっくりしたヘスティアが、可愛らしい悲鳴をあげていたのは、面白かったというのはベルの談。
「まあ、僕も成長してるんですよ。......そうだ、ステイタス更新して貰っても良いですか?」
「......ベル君が自分から言うなんて珍しいね。やっぱり何かあったのかい?」
ベルにお姫様抱っこされながら、寝室へと連れて行かれるヘスティア。
お姫様抱っこされるのに抵抗が無いというのは、それ程までに、今のベルが気になるということだろうか。
恥ずかしがってくれないのが、少し残念だとベルは思っていた。
「実はこの一週間、少し
その時浮かべたベルの微笑は、ヘスティアには酷く
ヘスティアはベルの胸に顔を押し付けることで、その微笑から目を背け、心を落ち着かせる。
胸の中で、息を少し荒くするヘスティアに、ベルは疑問符を浮かべると同時に、くすりと笑った。
その笑みが果たして
「じゃあ、お願いしますね」
「うん、分かったよ」
ベッドの上で、上着を脱いでうつ伏せになったベル。
その上に、股がるようにして乗るヘスティアは、何か嫌な予感がして堪らない。
神の直感というべきか、兎に角嫌な感覚が犇々と彼女を襲っていた。
「......行くよ、ベル君」
「はい、どんと来いです」
ベルの背中に刻まれている鐘と炎が重なりあったエンブレムに、ヘスティアの
これによりステイタス更新は完了する。
背中には
無論、ベルは読むことが出来ず、ヘスティアに翻訳してもらわなければならない。
「......え?」
「ヘスティア様......?」
ヘスティアの様子がおかしい。
背中の上で、ずっと固まったまま動かない。
途中、何度も呼び掛けるが、ヘスティアは反応しなかった。
「ちょっと、僕の話し聞いてます?」
ベルは起き上がり、無理矢理にヘスティアをどかした。
ヘスティアはそのままベッドへぽふんと仰向けに寝転んでしまった。
「ヘスティア様......? どうしました?」
おーいと、呼び掛けても依然固まったままで、ピクリともしない。
流石にこのままでは話が進まないので、ベルは強硬策へ出た。
「えい」
むにゅり。
「ふにゃあああああ!!?」
何の色気もない悲鳴に、ベルは少し残念な気持ちになった。
アスティはもっと可愛い反応してくれるのにと、内心思いながら。
「やっと、反応してくれましたね。もう、びっくりしましたよ。死んじゃったかと思ったじゃないですか」
「それは、こっちの台詞だぁぁぁぁぁ!! い、いなり、
ヘスティアは顔を真っ赤にして、ベルへ詰め寄ると襟元を掴んでシェイクする。
効果は抜群だったらしいが、代償もそれなりのようだ。
今のベルは首の据わらない赤ん坊のようだった。
「ははははは。酔います、酔いますから」
「笑って誤魔化すな~!」
こんなやり取りが、約十分程続いて、漸く本題に移るのであった。
「......ヘスティア様、機嫌直して下さいよー」
「......けっ。分かってたさ。ベル君が実は変態入ってたことくらいっ」
すっかりやさぐれヘスティアと化した女神様を見て、ベルは只々苦笑するばかり。
いや、過失は完全にベルの方にあるので、何も言えないが。
「仕方ありませんね、こうなったら等価交換です。僕のを揉んでも良いですよ?」
「馬鹿だろ君は!」
「そうですよね。ヘスティア様と僕の胸じゃ等価交換にすら値しませんよね!......失念していました。ベル・クラネル、一生の不覚っ......!」
「そういうことじゃないっ!」
くっと悔しそうな表情を浮かべるベルに、ヘスティアはチョップを繰り出す。
通称『
「......と、まあ、茶番は置いていて。一体どうしたんです?」
「......茶番って、納得がいかないけども」
むむむと唸るヘスティアは、はぁと溜め息を吐く。
そして、意を決したようにベルの方を見据えた。
「取り敢えず、これを見てくれたまえ」
「はい?」
そう言って、ヘスティアから手渡されたのは、更新の度に渡されるいつもの羊皮紙であった。
ベル・クラネル
Lv:1
力:SSS 2986 耐久:SSS 3050 器用:SSS 3438 敏捷:SSS 3333 魔力:SSS 2899
《魔法》【霊障の御手】
・常時発動魔法
《スキル》【求道錬心(ズーヘン・ゼーレ)】
・早熟する。
・自身の追い求めるものがある限り効果持続。
・自身の追い求めるものの大きさにより効果向上。
《※※※》【※※※】
「......ベル君」
ヘスティアは両手を自身の膝に置き、俯いている。
しかし、彼女の腕は何故か震えており、ベルを不安にさせた。
「ヘスティア、様......?」
ベルは震えるヘスティアの肩に手を掛けようと近付づく。
すると。
「おめでとおぉぉぉぉ!!! ベル君、ベル君!! レベルアップだ!!!」
一転して、破顔させたヘスティアの絶叫が廃教会に響き渡った。
一回死んだから当然だよNE☆