生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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頭が痛い......



#31

 神会(デナトゥス)

 三ヶ月に一度、定期的に開かれる集会で、ファミリアを持つ神々が集まって様々な議題に取り組む、というのが表向き。

 基本的に神々は適当な所があるので、実際にはお菓子や飲み物を持ち寄って、飲みながらの世間話の場になっているのが現状ではある。

 稀に真面目な会議を行ったりするので、それで釣り合いが取れていると言っているのが、よく騒いでいる男神達(馬鹿達)であるのだから説得力は言うまでもない。

 しかし、今回は珍しくきちんとした目的があっての集会だ。

 騒がしいという点については、いつも通りではあったが、その白熱っぷりと気合いの念、本気というの神々から感じ取れる。

 一体、何についての話し合いなのか。

 それは_______

 

 

「絶対に『最後の襲撃者(ラスト・アサルター)』だろ!!」

 

「最後とか付けちゃうのはぁ。次に付けるときとか凄い付けづらくなるからなぁ......」

 

「じゃあじゃあ! 『忍風丸』は!?」

 

「それ、前に誰かに付けた気がするから駄目」

 

「お願いだから、もう少しまともなのに......」

 

「......『暗器王(アンキング)』、よくね?」

 

『それだ!!』

 

「やめてくれえぇぇぇぇ!!!」

 

 

 一柱の神の悲鳴が会場に木霊する。

 それは絶望を形にしたかのような余りにも悲痛な叫びであったので、周りの神(悪のりしている連中)は爆笑していた。

 逆にそれにあまり関与していない、遠目から見ている神達はそれに同情の念を送っていた。

 

 

 命名式。

 

 

 何を命名するのかと言えば、二つ名である。

 レベルアップした冒険者に最も合うものを付けるのではあるが、神々のセンスや悪のりが酷いと悲惨な二つ名が付いてしまうこともしばしばで、先程のがそれの典型的なものである。

 ちなみにその神は、同じファミリア内のヒューマンの女性冒険者(可愛い)に手を出したのが、運悪く他の神々にも広まってしまったのが原因と言えるだろう。

 男神(おとこ)の嫉妬というのは何とも恐ろしいものであった。

「うぅ......胃が痛くなってきた......」

「大丈夫か、ヘスティア? 胃薬ならあるぞ」

「ああ、ミアハ。良いから良いから。いつものことよ。気にしないで」

 そんな会話をしていた三柱の神。

 一柱は白をベースとしたドレスに身を包んだヘスティア。

 もう一柱は赤のドレスに身を包んだヘファイストス。

 そして、さらにもう一柱が天界でもイケメンと評判のミアハであった。

 この三柱、割りと仲が良く、こうしてつるむことが多々ある。

 ヘスティアがミアハと仲が良く、そこにヘファイストスが入ったという形だ。

 友達の友達は友達じゃない、というのはよく耳にするが、ミアハの誰にでも優しいおおらかな性格とヘファイストスの面倒見の良い性格が合わさり、更に言えば常日頃ヘスティアの面倒を見ていたというのがあってすぐき意気投合したのであった。

 曰く、二人は彼女の保護者らしい。

「ヘファイストスはボクの胃がどうなってもいいかのかい!?」

「あーもう......うるさいわね。胃の一つや二つくらい大丈夫よ」

 先程から妙に機嫌の悪いヘファイストスは、テーブルに肘をおいて、深い溜め息を吐いた。

 今朝からずっとこうなのだ。

 ヘスティアとミアハに会った時も、不機嫌オーラが割りと全開だったので、びびった程だった。

 ミアハが。

 そして、ヘスティアは恐らく気付いていない。

 所謂、鈍感という奴であった。

「まあまあ、二人とも。荒れる気持ちは分からないでもないが、少し落ち着いたらどうだ? ほら、ヘスティアよ。胃薬だ」

「ミアハ~、ありがとう~」

 胃薬に嬉しそうに飛び付くヘスティア。

 どうやら本当に辛かったらしい。

「......別に私は普通だけど?」

 普通、と言いつつもヘファイストスからはピリピリとしたオーラが放たれており、ミアハは苦笑するしかない。

「何があったかは知らないが、話してみると楽になるかもしれないぞ」

 ミアハのモテる理由の一つとして、その圧倒的気遣い力があるだろう。

 誰かが悩みを抱いていたら、それとなく近寄って話を聞いてあげる。

 話すだけでも楽になると、そう言って話しやすくして、聞いてあげた上で更に解決策を提示するのだ。

 彼に助けられた神や人はたくさんおり、皆が彼を慕っている。

 一部ではミアハのお悩み相談室を作って欲しいという声もあったりなかったりらしい。

「......うちの馬鹿(・・)が、怪我して帰ってきたのよ」

「怪我、か......何れくらいの程度だ? 私で力になるのなら今すぐにでも貸すぞ」

 ミアハは医療の神だ。

 現在は零細ファミリアで薬の調合をしているのだが、天界に居た頃、つまりは全盛期ならばどんな怪我、病気も手を翳すだけで治すことが出来る程であった。

 そういう案件に関して彼がいるのは相当に心強いはずだ。

「......ありがとう。怪我はもう大丈夫だから」

 そう言う割りに、ヘファイストスの顔色は優れない。

 かなり深刻なことらしい。

「......何、また話せるようになったら言ってくれ。私は何時でもお前の力になる」

「本当、ありがとう。ミアハ」

 あまり踏み込むべきではなかったなと、少し後悔するミアハ。

 しかし、分かったことがあったのは、ヘファイストスはその子供が怪我をしたことに憂いてるわけではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということだ。

 何か別の理由がある。

 そう確信したミアハではあったが、口には出さなかった。

「じゃあ、お前んとこのヒューマン、ヤマト・命だが、『絶†影』に決定!」

「よし! よし! 多少あれだが、全然ましだ! よし! よし!」

 もう一人、二つ名が誕生したらしい。

 その冒険者が所属しているファミリアの主神であるタケミカヅチは、狂喜していた。

 まあ、『暗器王(アンキング)』より遥かに良い二つ名だろう。

「タケ、喜んでるなぁ。あんなに喜んでるの久しぶりに見たよ」

 胃薬を飲んで多少胃痛が良くなったのか、ヘスティアは表情を和らげてそう言った。

「まあ、仕方ないわよ。自分の子供達に変な二つ名なんて付けられたくないもの」

 分からなくはないと、ヘファイストスはそう言った。

 実際にそれをやられると思うと寒気がするからだ。

 しかし、ヘファイストスはオラリオどころか世界的にも有名な鍛冶師のファミリアの主神だ。

 彼女の機嫌を損ねれば、自分のファミリアに武器を売って貰えなくなってしまうかもしれず、それをやろうとするものはいなかった。

「っと、そうだ。用事があるんだった」

 すると、ミアハが何か思い出したかのように声をあげた。

「どうしたんだい、ミアハ?」

「いや、ナァーザ_____うちの子と一緒に新製品に使う薬草を買いに行く約束をしていてね」

 いやぁ、危ない危ないと、ミアハは安心したように息を吐いていた。

 良く見れば、額に冷や汗が見える。

 忘れてしまうのがそれ程までに恐ろしいことなのだろうか。

「へぇ......何? ミアハも春が来たの?」

「違う違う。彼女はそんなんじゃないさ。それに私よりも良い者が居るみたいだしな」

「......ふーん。まあ、今日はミアハの所の子の名前が決まるわけでもないしね。出ても問題は無いけど。あ、ちなみにその子、買い物に行く約束したとき何か言ってたかい?」

 この神会であるが、本当に真面目な会議でない限り、途中の欠席も立ち歩きも全く以て問題無かったりする。

 理由としては、神々の適当さだ。

 それだけで片付けてしまうのもあれだが、本当にそうなのである。

 実際、二つ名を付けるなどという行為も神々にとっては遊びのようはもの、つまりは娯楽の種であるのだ。

 神々が地上に降り立って来たのも、娯楽に飢えていていたからというのが真実だ。

 これを地上の人々が知ったら神への尊敬の念はたちまち瓦解してしまうことだろう。

「え? ああ、喜んでいたよ。顔を赤くしていたのは心配だったが。でも、嬉しいよ。そんなにまで研究熱心だと」

 はははと笑うミアハに、ヘスティアとヘファイストスは呆れた視線を送っていた。

「っと、早く行かないと、彼女に殺さ_____怒られてしまう。お先に失礼するよ」

 ミアハは割りと物騒なことを言いかけてから、席を立つと会を抜けて行った。

「......多分、ミアハの奴。勘違いしてるよね」

「当たり前でしょ。あの超鈍感よ超鈍感」

 ミアハは鈍感、しかもかなりの。

 唐変木と言って良いのかもしれない。

 他人の好意には、まるで気付けないのだ。

 他人の機微に関しては鋭いのにである。

「まあ、そこがミアハの悪いところでもあるし、良いところでもあるんじゃないかな」

「......うん、まあ、そうね」

 ヘファイストスは微妙な表情を浮かべ、それに同意した。

 何か自分も痛い目にあっているかのようなそんな表情だ。

「あら、ヘスティア、ヘファイストス。久しぶりね」

 すると、横から妖艶な雰囲気を纏った声が聞こえた。

 二柱はそちらの方を振り向いた。

「げっ、フレイヤ......」

「あら、フレイヤじゃない」

「うふふ。げ、だなんて。女の子が使っちゃ駄目よ? ヘスティア」

 そこには美の女神フレイヤがいた。

 天界でもトップクラスの美貌を誇る彼女は男神達からとても人気があり、それと同時にフレイヤ自身も"奔放"な所があるため、お世話になったことが多い神もいるだろう。

「し、仕方ないじゃないか......ボクは君が苦手なんだよ......」

「それを面と向かって言うだなんて、うふふ。私はそういう正直なところ好きよ?」

 ヘスティアはテーブルに突っ伏すと、まるで溶けたスライムのようにグデェとなった。

 心労が限界を越えたのだろうか。

「フレイヤ。あんまりこの子のこと、からかわないでよね」

 見かねたヘファイストスは、溜め息を吐きながら二柱の間に入った。

 見て分かると思うが、ヘスティアがフレイヤのことを一方的に苦手としているところがあるのだ。

 まあ、あの神(・・・)と対峙したときよりは全然ましであるのだが。

「そんなつもりはないわ。只、ヘスティアとはもっと仲良くしたいだけよ」

 底の見えない何か不気味な笑みを浮かべ、ヘスティアを見るフレイヤ。

 案の定、ヘスティアはテーブルに突っ伏しているため、その視線を見ることはなかった。

「......で、どうしたのよ? まさか、本当に挨拶だけに来たのかしら? というか、神会(デナトゥス)に出るのも珍しいじゃない」

「ええ、そうね。本当は顔を出すつもりはなかったのよ。でもね、久し振りに貴方達に挨拶しようと思ってね。それに、聞いたのよ。ヘスティアの所の坊や______ベル・クラネルの二つ名を決めると聞いてね」

 ベル・クラネル。

 約一ヶ月で、Lv:2に達した期待の新人冒険者である。

 彼の噂は先日から、オラリオ全土に広まっていた。

 何と言って、あの《剣姫》アイズ・ヴァレンシュタインの最速記録を圧倒的に更新したのだ。

 当然の如く、オラリオは騒然となった。

 

 

 曰く、ミノタウロスの大群を皆殺しにした。

 

 曰く、18階層の『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』"ゴライアス"を単独で討伐した。

 

 曰く、最近、ダンジョンに出没する異常な強さを誇る黒いミノタウロスを討伐した。

 

 曰く、《猛者》オッタルが彼に興味を抱いている。

 

 曰く、ロキが彼をスカウトしようとしている。

 

 曰く、ヘファイストスが特別に彼の専用の武装を造った。

 

 曰く、彼は人智を越える力を持っている。

 

 

 そんな出所不明の噂が何故か流れているのだ。

 どれも尾ひれが付きそうな眉唾物で、どれが真実なのかも分からない。

 例え、どれかが真実だとしても到底信じられないことではあるが。

 まあ、とにかく。

 オラリオはベル・クラネルという冒険者の噂で持ちきりなのである。

「......フレイヤ、どういうことだい。それは?」

 突っ伏していたヘスティアは起き上がると、表情を一変させてそう言った。

 フレイヤが興味を抱く。

 その行為だけでも酷く珍しい。

 しかし、それは同時に何か良からぬことが起きることを示していた。

「はぁ......やっぱりあんた。______ベルに手を出す気?」

 深く溜め息を吐いて、一度俯いてから、ヘファイストスはフレイヤを睨み付けた。

 感情には怒気が孕んでいる。

「あらあら、ヘスティアにヘファイストス。顔が怖いわよ? まるで大事なものを取られた子供みたいよ。......もしくは恋する乙女と言ったところかしら?」

「違うっ! ボクとベル君はそんなんじゃない! ......でも、ベル君に何かするつもりならボクは君を許さない」

 下衆の勘繰りというのは誰であろうと鬱陶しいものがある。

 それに、ヘスティアはベルとの関係をそんなもので表して欲しくなかったし、何より彼女自身、彼のことをまだ理解していなかった。

「......あんたが何を企んでるかは知らないけど、それに地上の子を巻き込むのは止めなさい」

 挑発、そう取れるフレイヤの言葉にヘファイストスは苛立ちを隠せなかった。

「ふふふ、本当に大事にされてるのね、そのベルって子は。正しく《神に愛された子(メサイア)》みたいじゃない」

 フレイヤは楽しそうにそう言った。

 彼女達の怒りの感情を歯牙にもかけていない。

 恐らく態と言っているのだろう。

 そして理由は分からないが、フレイヤも同じで、ことこの話題に関しては彼女達に対して良い感情を持っていないということも読み取れた。

 少なくとも、ヘスティアとヘファイストスは頭に血が上っていてそれを理解したかと言えば怪しかったが。

 そして、そんなフレイヤの態度は、更に二柱を神経を逆撫でしていく。

 

 

「そんなお伽噺出すなんて、何やフレイヤも随分メルヘン思考になったなぁ?」

 

 

 更なる神の介入。

 そこに居たのは天界最大のトリックスターであるロキであった。

「あら、女の子はメルヘンが好きなのよ、ロキ。久しぶりね? 元気にしてたかしら?」

「女の子言える歳や無いやろ? 歳考えろ歳を。てか、珍しいやないかい、(こっち)に出てくるなんて。自分、何企んでるん?」

「酷いわねぇ。歳に関しては貴女も同じでしょ? それにヘスティアとヘファイストスにも同じ事を言われたわ、企んでるだなんて。私だって傷付くのよ? 」

「前科があるから仕方ないんとちゃうか?」

 そんな二柱のやり取りは完全に絶対零度の眼差しが交差する恐ろしいものとなっていた。

 彼女達は地上でも最大最強を誇る二大ファミリアの主神であるのだ。

 こと地上に於いて、彼女達を敵に回せるものも、彼女達に逆らおうとするものもそうはいない。

「ロキ......」

 ヘファイストスは割って入ってきたロキに違和感を感じながら、呟いていた。

 普段なら、あの馬鹿騒ぎしている連中の中に混じって、悪のりしていているはずなのだ。

 しかし、今の彼女はどうも違和感があり、不自然であった。

「あぁっ......! もうっ! 今度はお前かよ、ロキっ!」

 ヘスティアは、自身が最も嫌う神であるロキが現れたことにより、視線を送る対象をそちらに変更した。

「あ"? 何やドチビ、ワレ居たんかいな? 全然気付かんかったわ」

「チビ言うな! このまな板! つり目!」

「ぶち殺すぞ!?」

 始まる眼の飛ばし合い。

 それにより霧散した先の空気。

 ある意味救われたのか。

 ヘファイストスは安心していた。

「あらあら、始まっちゃったわね。......うーん、そうね。今日はこの辺で御暇させて貰うわね」

 フレイヤは何かを一考してからそう口に出した。

「......あんた、本当に挨拶しに来ただけなの?」

「ええ、そうよ。久しぶり貴女達に会いたかっただけ。それなのに、貴女達ときたら失礼しちゃうわ」

 その言葉とは裏腹に、フレイヤはニコニコと笑っていた。

 その笑顔はまるで彼を思い出させるような、そんな表情で、ヘファイストスを戸惑わせた。

「......悪かったわ。変に当たって」

「良いわよ、別に。気にしてないもの。それに貴女達の気持ちも分かるわ。大切なものは取られたくないっていうの」

 私も同じよ(・・・・・)、そうフレイヤは続けた。

「......だから、別にそんなんじゃないってば。ベルは弟みたいなものよ」

 少し頬を赤くして、目線を反らすヘファイストス。

 普段の彼女からは想像出来ない態度に、フレイヤは少しだけ驚くも、顔には出さなかった。

「......そう。ごめんなさいね、ヘファイストス。ヘスティアにも謝っておいてくれるかしら」

 そろそろ行かないといけないの、そう彼女は続けると、取っ組み合いになりかけているヘスティア達に目を向けた。

「分かったわ、伝えておく。次会ったときは、一緒にお酒でも呑みましょう?」

「ええ、是非」

 そう言って、フレイヤは優雅に歩き出す。

 美の女神である彼女は、挙動の一つ一つが洗練され美しかった。

 現にそれに見とれている神も少なくない。

 そんな中、フレイヤは途中振り向くと、ヘファイストスの方へ軽く手を振ってきた。

 ヘファイストスはそれに応えるように軽く手を上げ返した。

「......ほら、あんたらもみっともないから止めなさい」

 溜め息を吐きながら、ヘファイストスは未だに眼を飛ばし合っている二柱の神の頭部へ手刀を繰り出し仲裁に入った。

「痛いっ! 何するんだ、ヘファイストス!」

「痛っ! 何するねん、ヘファイストス!」

「黙りなさい、迷惑よ」

 

 

 その後、ヘファイストスに視線に黙殺される二柱の神が居たとか居なかったとか。

 

 

 

 

 そして、何人かの命名が終わり、遂にベルの番へとなった。




二つ名、少し悩み中。

あと、鬼ころし級ムズすぎて鬼やらい級を大人しく回る日々。
力になれずごめんなさい、全国のマスターさん。

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