生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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#37

 "アルミラージ"。

 彼らは白のもふもふとした毛並みにふさふさの尻尾、真っ赤な瞳に、額には一本の角が生えたとてもあいくるしいモンスターだ。

 オラリオの子供が一度飼ってみたいモンスターランキングトップ10に入っているとかいないとか。

 そんなアルミラージではあるが、その可愛いらしい外見とは裏腹に非常に好戦的なモンスターとしても有名である。

 それにより、何れ程の冒険者が命を落としたのか。

 外見に騙され、近付いた冒険者が頭から喰い殺され、手を差し出したら腕ごと喰い千切られる。

 更に恐ろしいことにそれらは群れで行動する。

 危険度で並ぶヘルハウンドも群れで行動はするが、こちらは数が違かった(・・・・・・・)

 故に下級冒険者が特に恐れるモンスターの一種で、人喰い兎とも呼ばれている、のだが。

「お"らあぁぁぁ!!!」

 ヴェルフの持つ黒の大剣がアルミラージの群れを横から薙ぎ払う。

 上下に分断され、首の方は外壁に吹き飛ばされ、グチャリと音を立てた。

 そこからは血がベットリと流れ落ちている。

「あっちに行ってください!」

 リリルカの《リトルバリスタ》に装填された貫通性に優れた《ピアーズ弾》が、アルミラージ達の額の角の脇を狙って(・・・・・・・・)次々と射出される。

 その矢は頭部に留まらず、そのまま貫通し、外壁へ突き刺さった。

 矢の(シャフト)にはアルミラージのであろう脳味噌の一部が付着している。

『うおぉぉぉぉ!!』

 ヴェルフは大剣で容赦無くアルミラージを斬殺していく。

 場合によっては鉄腕で頭からぐしゃりと粉砕していた。

 リリルカは脳天目掛けて矢を的確に射っては矢を回収し、アルミラージを撃ち貫いていた。

 その途中で、魔石もしっかりと回収しながらである。

 二人とも、鬼神の如き戦いっぷりだった。

「......何か、二人ともテンション高いっていうか、これじゃあ僕の出番無いんだけどな」

 ベルは一人、只突っ立っているだけである。

 右手には新たな武器である短剣、《クニークルス》を持っているも、それは空振るように下を向いていた。

 パーティの士気が高いのは大いに結構で、ステイタス更新時の経験値(エクセリア)稼ぎにもなり、二人は更に強くなることが出来るので寧ろ戦って欲しいくらい。

 しかし、少しくらい此方にも活躍させて貰っても良いじゃないかと思うベルであった。

「......それに何だか凄く複雑な気分」

 次々と魔石に姿を変えていく、アルミラージに何故か同情の念を抱いてしまう。

 まるで自分が同じ目にあっているようなそんな気分だ。

 もしかしたら、ティオナに白ウサギ君などという渾名を付けられていたからだうか。

 そんなことを考えているうちに、アルミラージの群れは着々と数を減らされていき、既に残りは三体になっていた。

「ちょっと、一匹くらい、僕にもやらせてよ!」

 流石に何もしないというのはあれだなと思ったベルは、一体に接近すると、《クニークルス》でアルミラージを斜めに一閃した。

 悲鳴をあげる間もなく、斜めに両断され、肉がずれ落ちる。

 遭遇して、十数分後。

 狂暴な(愛らしい)五十を越える(・・・・・・)兎の群れは、三人(ほぼ二人)の手によって、無惨な肉片と化したのだった。

「......ふぅ。狩った狩った! 雑魚でも多いと面倒だなぁ、やっぱり!」

 肩を回すことで、持っている大剣もぐるんぐるんと回り、非常に危ない。

 しかし、ヴェルフはLv:5の冒険者だ。

 そこのところは気を使っているのだろう。

 恐らくきっと。

「......矢の回収は、二十本使ったうちの十五本。マイナス五本で......新しく購入した《ピアーズ弾》は価格も少し高いくらいで、威力も充分、強度も問題無し。弾も全て回収済み。費用的釣り合いとしては余裕でお釣りが出ますね。うん、これなら......」

 ぶつぶつと呟きながら、リリルカは何かを手帳にメモしている。

 ベルとパーティを組んだことによって、金銭の余裕が出来たリリルカは、恩返しをするべく武装の強化を行った。

 リリルカは非力であるが故に、剣や槍などの近接武器は使うことが出来ず、魔法も変身魔法一つだけである。

 彼女が持っている武器はボウガンである。

 これなら、非力な彼女でも安定した威力を発揮することが可能で、装填する弾の種類を変えれば更なる威力上げも可能だ。

 これ程リリルカに適した武器は無いだろう。

「流石に切れ味が圧倒的に良いね。振りやすさも中々。まあ、一回しか切れてないけど......」

 ベルは右手に持った《クニークルス》を見ると、ふうと溜め息を吐く。

 まあ、一度しか試せていないのだから、この反応は仕方がないことだろう。

 しかし、それでも今まで使った短剣の中では隔絶した性能を持つことは理解した。

 右太股の横には支給品の短剣が差してあるが、もう使うタイミングは魔石の剥ぎ取り時くらいだろうとベルは考えながら、《クニークルス》を納刀する。

「......それにしても、この数は異常ではありませんか。ヴェルフ様が殆ど倒してはくれましたが、少なくともアルミラージが三十体以上はいた気がします」

「ああ、それは俺も思った。幾ら群れだとしても、これは多すぎだ」

 リリルカとヴェルフの発言に、ベルは確かにと、顎に手をやる。

 見ていた感じではあったが、確かにアルミラージの数は異常であった。

 ベルにとって、モンスターが大量に発生するのは見覚えのある(・・・・・・)ことでもり、関係性があるのではないかと頭を捻ることになる。

「もしかして、ダンジョンに何か異変が起きているのかな......」

「異変、ですか......?」

「それってどんなものなんだ?」 

 二人の視線に貫かれ、ベルは今辿り着いた考え(・・・・・・・・)を言おうか言わまいか、思考の海に落ちる。

 少なくとも、これは一つの答え(・・・・・)であるとベルは直感していた。

 いや、答えであると確信していた(・・・・・・・・・・・・)

 ベルは少し逡巡して、その口を徐に開いた。

「......いや、流石にそこまでは分からないよ。只漠然とそう思っただけだからさ」

 結局、ベルは答えないことを選んだ。

 ここでそれを説明したとして、変な混乱や不安を煽りたくないというのが理由である。

 今のパーティのリーダーはベルなのだ。

 気を遣うのは当然のことであった。

「......まあ、だよな。普通に考えて」

「そうですね。というか、それよりも今は中層攻略に集中ですよね!」

 二人はその言葉で納得すると、そう言って特に何も追求はしてこなかった。

 ベルのポーカーフェイスは、過去の経験から言って折り紙付き(・・・・・)である。

 初見で、彼のあからさまなものを除いて、嘘を看破するのは不可能に近い。

 まあ、それも人智を越える存在が相手であれば変わってくるのだが、それもどうとでもなった(・・・・・・・・・・・)

「うん、リリルカの言う通りだ。あ、確か18階層はモンスターの出ない安全階層(セーフティーポイント)なんだよね?」

「別名《迷宮の楽園(アンダーリゾート)》と呼ばれる階層で、噂によると湖や森もあるらしいですよ。あと、ダンジョンなのに昼夜の変化があるとか」

 リリルカが手帳を見ながら、ベルへそう説明する。

 態々調べてくれたのかと、その情報に有り難く思いつつリリルカへお礼を言うと、今度はヴェルフへ視線を向けた。

「おお、リリ助の言う通りだ。あそこはいいぞ。景色も良いし、水も美味い。只、冒険者達が店を開いてるんだがな、物価が糞みたいに高いのが難点だ」

 なるほどと、ベルは頷いた。

 中層にもなれば、道具の消費は多くなってくるだろうし、それを補充するためにもこういう場所での買い物は貴重になるだろう。

 その分、商品の金額が割高になってしまうのは仕方がない。

 彼らもそこに来るのは命がけなのだ。

「あとは......」

 だから、リリ助言うな!というリリルカの叫びを軽く無視して、ヴェルフは後は何かあったかなとぁと頭に手を当てて考えている。

 その間、ヴェルフの膝にはリリルカの蹴りが何度も命中しているが意に介さずであった。

 レベル差というのはこういうところにも出てくるのである。

「......ああ、そうそう。あそこ安全階層なんて呼ばれてるが、モンスターの襲撃は少ない頻度ではあるが普通にあるぞ」

 ヴェルフ曰く、それによって何度もその冒険者達が開いている店は壊滅させられているらしい。

 ダンジョンであるから、例え安全階層でもモンスターは現れるらしい。

 安全というのは他の階層に比べてという意味なのだろう。

 結局、一番安全なのは自分のホームだけなのかもしれない。

 しかし、懲りずに戻ってきては再建をし続けているという話を聞いて、流石冒険者(商人)だと、ベルは呆れながらも感心していた。

「その18階層を目指そうか。《迷宮の楽園》、結構興味があるしね」

「俺は異存はねえ。旦那に着いてくだけだ」

「はい、ベル様が言うのなら。......でも、18階層の前、17階層には《迷宮の孤王(モンスター・レックス)》、"ゴライアス"が門番として待ち受けているかもしれません」 

「かも?」

 かもしれないというリリルカの言い方に疑問を感じ、ベルは思わず聞き返した。

「先日、ロキ・ファミリアがダンジョンに遠征に行ったという情報を手に入れました」

「そういえば、ティオナがそんなことチラッと言ってたような......」

 そう言って、ベルはあのお祝い会を思い出した。

 酒が入り、皆少し酔い始めた頃合い、ティオナはベルの隣に入り込むと垂れ掛かり、ふにゃふにゃと甘え始めた。

 

 

 

『ベール君♡』

 

『何ですか?』

 

『くっついていーい?』

 

『もうかなりくっついてますよ。......ティオナ、もしかして酔ってます?』

 

『酔ってないよー。あ、ベル君、あーん』

 

『酔ってる人は皆そう言うんですよ。あーん......』

 

『どう、美味しい?』

 

『はい、美味しいですよ。流石、ミアさんですね』

 

『もう! あたしが居るのに他の女の名前出さないでよ!』

 

『他の女の名前って......ティオナ、やっぱり酔ってますよね?』

 

『酔ってにゃいもん! もっと甘やかせてにょ!』

 

『......あーはいはい。ごめんなさい。酔ってませんよね。どうぞ、好きなだけ甘えてください』

 

『やったー! えへへ、ベル君の膝枕♡ 暫く遠征に行くからベル君分の補充ー......もぐもぐ』

 

『僕の指は食べ物でもなければおしゃぶりでもないですよ。赤ちゃんですか、全く......はーい、よちよち。ティオナちゃん』

 

『えへへ♡』

 

『ティオナが......女してるっていうか赤ん坊プレイしてる......!? あたしも団長にあれくらい行った方が良いのかしら......』

 

『男にくっつくなんて穢らわしい穢らわしい穢らわしい穢らわしい穢らわしいティオネさんは逆に控えた方が良いかと思いますマジ過ぎて団長が少し引いてますというかあれやった確実に終わりです穢らわしい穢らわしい穢らわしい穢らわしい穢らわしい穢らわしい......』

 

『......レフィーヤ、どうしたの? 無視した時のロキみたいな目してるよ?』

 

『ねえ、レフィーヤ。今なんか言ったよね? ねえ? アイズにガチでちょっと引くレフィーヤ。ねえ? ねえ?』

 

『ベル様の膝枕、ずるいです! リリもしたいです! ベル様分補充したいです! ベル様の赤ちゃんになりたいです!』

 

『本当です! 私もして欲しいです! 補充したいです! ベルさん、次は私の番ですよね!? 赤ちゃん!?』

 

『私は、どちらかと言えばしてあげる方が......』

 

『リューは駄目! 前にベルさんに膝枕してあげてたんだから、今度は私なの! だーめ!』

 

『シル......貴女、酔ってますよね?』

 

『酔ってないでふよ!』

 

『......そうですね、分かりました。_______アーニャ、今すぐ水を持ってきなさい』

 

『にゃー! 公共の場で変態プレイしてる輩となんて関わりたくないにゃ______すみません、調子こきました。マッハで持ってきます。だからお仕置きは勘弁してください、いやマジで本当に』

 

 

 

 などというやり取りを思い出し、ベルは大変だったなぁと少し苦笑いしそうになる。

 ぶちギレ寸前のティオネと迷走するレフィーヤはアイズが緩衝材かつ清涼剤になったため、大事には至らなかった。

 ティオナとリリルカ、シル、リューは結局交代で膝枕というカオスな状況になった為、周りの男性客が本気で殺しにかかってきそうだったとはベルの談。

 まあ、もしあの場でベルを殺しにかかれば、ティオナやリュー辺りが逆にぶちギレて同じ事をしかねないだろうが。

「ダンジョン遠征の際に、障害となるゴライアスは既に討伐されていると予測出来ますが、《迷走の孤王》は時間で復活します。まだ、正確な復活までのインターバルは判明していませんが、ロキ・ファミリアが遠征に行って既に一週間程が経っています。そろそろ復活していてもおかしくはないです」

 リリルカの言葉を聞いて、ベルはふうんと相槌を打った。

 何か考える様子のベルを見て、ヴェルフが横から口を挟んだ。

「......まあ、問題ねえだろ。ゴライアス程度、旦那が負けるとも思わねえし。それに何かあったとしても俺が片付ければいいだけだしな」

 ヴェルフはオラリオでも数少ないLv:5の冒険者だ。

 それ程の冒険者が中層最初の壁であるゴライアス程度に遅れを取るわけがない。

 逆にゴライアスが可哀想になってしまうだろう。

 故にこの中層攻略については何も問題はない。

「......なるほどね。うん、分かったよ。取り合えず、ゴライアスっていうモンスターを倒せば別に問題はないんだよね。まあ、居たらの話だけど」

「おお、その通り、何も問題はねえ!」

「......まあ、リリもそこは何も心配していません。只、一応お耳に入れておいた方が良いものだと思いまして」

 誰一人、ゴライアスとの戦闘を心配しているものはこの場にはいなかった。

 ベルからしてみれば、ゴライアスがどのようなモンスターかも知りもしないが、自身の障害となる存在だとは到底思えなかった。

 彼の直感が、そう告げていたのだ。

「それならさっさと行っちゃおう。戦わないで済むのなら、それに越したことはないだろうしね」

 ベルのその言葉に二人は頷いた。

 今の二人にとって、ベルの言葉は絶対であった。

 パーティのリーダーであるのも理由ではあるが、一番の理由は、それがベルだから(・・・・・)だろう。

 二人はベル以外のパーティに入る気は欠片もない。

 ベルだから、パーティを組んでいるのだ。

 もしベルが居なければ、リリルカとヴェルフは組むこともなかっただろうし、組む気すらなかっだろう。

 それを考えれば、このパーティは酷く歪なものだと言えた。

「......っと、二人とも。モンスターみたいだよ」

 歩いていると、開けた場所に出た。

 直径数十M(メドル)の空間で、そこに足を踏み入れた瞬間にアルミラージの群れが出現する。

 数は先程よりも少し多い。

「......お前達には悪いけど、試し切りの相手になってくれよ」

 だから二人とも手を出さないで、そう告げるとベルは《クニークルス》を引き抜き、疾走を開始した。

「了解って......」

「もう聞こえてませんね......」

 二人の視線の先には、楽しそうにアルミラージを狩り続ける死兎(ベル)がいた。

 《クニークルス》の高速の刃に、アルミラージは切り刻まれ解体されていく。

 さながら、それは一つの芸術作品のように。

 アルミラージの血がしぶき、死兎の白髪を染めていく。

 《血染髪(レッド・キャップ)》。

 そんな言葉が二人の頭を過った。

 血に染まる戦鬼、それが今の彼にぴったりな言葉だ。

 もし、今の彼を無闇に止めにかかれば、あのアルミラージと同じ運命を辿るだろう。

「......うん?」

 ヴェルフがふと、何かに気付いた。

 向こうから複数の人影が見えたのだ。

「一人怪我をしているみたいですね」

 リリルカが見たのは、肩に粗い造りの斧が突き刺さり、血を流している女性冒険者の姿だった。

 彼女は仲間であろう冒険者達に担がれている。

 武器の形状からして、間違いなく天然武器(ネイチャー・ウェポン)で、アルミラージがそれを使用したのだろう。

 かなり深く斧は突き刺さっており、彼らが通った道には血が、道標のように続いている。

『ギイィィィィ!!』

 背後から、甲高いモンスター達の鳴き声が木霊する。

 それは間違いなくアルミラージのものだった。

 彼らはあのアルミラージの群れに襲われ、怪我を負ったのだろう。

「......」

 その冒険者達はベルが戦っているところを態と突っ切るよう(・・・・・・・・)にして、13階層を抜ける別ルートを走り抜けていく。

 ああ、なるほどと二人は理解した。

 

 

 

 怪物進呈(パスパレード)

 

 

 

 アルミラージの大群は、そのまま無心に戦うベルの元へと押し寄せた。




第四章タイトルを少し変更しました。
あと、ソード・オラトリアの漫画を買ったんですが、キャラがみんな可愛い。
......ヒリュテ姉妹ハァハァ



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