生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。 作:キャラメルマキアート
「ロキ・ファミリアに改宗する気はないかい?」
フィンが何気なく言ったその言葉。
それにより、今この天幕内は酷い静寂に包まれていた。
「......えっと、すみません。理由を聞いてもいいですか?」
切り出したのはベルであった。
その表情には若干の戸惑いが見えたものの、すぐにそれは消え、彼の心中には疑念だけが残った。
「理由? そんなの簡単なことさ。よくある話だよ。実力の高いもの、若しくは将来有望なものをスカウトすることなんて」
フィンは表情を崩さない。
浮かべるのは笑顔だけだ。
只、その表情は酷く冷たく且つ恐ろしいものにしかベルには見えなかった。
実際に、スカウトというのはよくある話であった。
実力の高いもの、将来有望なものを他のファミリアから引き抜くことで自身のファミリアの力を強固にしていく。
無論、両者の同意が無ければ成立しないことではあるのだが、成立することは少なくはない。
ロキ・ファミリアのような大規模ファミリアにスカウトされるようなことがあれば尚更、スカウトされた冒険者はそれを魅力的に感じてしまうだろう。
自身の経歴に箔が付き、実力を伸ばす機会も大きく増える。
そうなった場合、主神である自分の神を説得し、成立してしまうことはあるのだ。
神も地上の人々は自分の子どものようなもので、それを考えると子どものためを思って送り出してくれているのかもしれない。
「......フィン、それは本気で言っているのか?」
口を出したのはリヴェリアであった。
少なくとも、この中ではベルと一番関わっており、彼のなりはある程度、分かっているつもりではあるが、フィンの言葉には疑問を生じせざるを得なかった。
もし、自身がフィンやガレスと同じ程度しか関わっていなく、相手も他の冒険者であれば止めはしなかっただろう。
しかし、勧誘しているのはあのベル・クラネルだ。
ミノタウロスを瞬殺し、中層レベルのモンスターを圧倒し、僅か一ヶ月でランクアップを遂げた。
そんな彼の実力は並みの冒険者ではないということを大いに語っていた。
更に言えば、フィン自身が直接勧誘するなど前代未聞であった。
勧誘してくるのは主にロキや他の団員で、フィンが関わるのは最後の段階、そのものがロキ・ファミリアに入っても問題ないかという見定めの時だけだ。
彼の慧眼に敵えば晴れてロキ・ファミリアの団員と名乗れるのだ。
その判断には例え主神であるロキも口を挟むことは出来ない。
フィンが駄目と言えばその話はなかったことになってしまう。
それはファミリア内における会議の中でも同じである。
そんなフィンが勧誘しているのだ。
驚くのは無理のない話であった。
「ああ、本気だよ。それに君達も彼が入団してくれれば心強いとは思わないかい?」
「それは、そうだが......」
リヴェリアは言葉はフィンの言葉を否定することが出来なかった。
既に彼は幹部になれるほどの実力を備えている。
もし、成長すればベルの実力がどうなるかなど言わずもがなであった。
そんな彼が入団してくれれば確かに心強いのではあるが、心の中では引っ掛かりを覚えてしまっている。
「儂は良いと思うぞ。この小僧っ子なら何も文句はない。力を測る必要も無かろう」
ガレスは寧ろ賛成と、フィンの提案に乗っていた。
歴戦の猛者であるガレスは、既にベルの実力を認めていた。
戦わずとも分かる強者の匂いを感じて。
「それで、クラネル君。どうだい? 今のファミリアよりも待遇は確実に良くするし、悪い話ではないと思うよ。それに君なら
再度、フィンはベルの顔を窺った。
何一つ悪い条件ではない。
間違いなくこの選択を受諾した方が、ベルにとって
故にベルの選択は迷いなく一瞬で決定された。
「勿論、お断りさせていただきます」
ベルの即答にまた天幕内は静寂に包まれた。
「へぇ......どうしてだい?」
それでも尚、フィンは表情を崩さなかった。
変わらぬ笑みを浮かべ続け、そうベルに問うた。
「簡単な話ですよ。
ベルも笑みを浮かべていた。
それもフィンに匹敵するほどの冷たい笑みだ。
「誰も裏切れなんて言ってないよ。僕は君に最良の選択肢を示しただけだ。考えれば分かるだろう? それに君が言うのなら、君のところの神様、えっと確かヘスティア様だよね? 僕らが
平然とそう告げるフィンにリヴェリアは驚きを隠せなかった。
何時もの彼はこんな態度は絶対に取らない。
ロキ・ファミリアの団員なら誰しも彼の人格を知っている。
優しく、強い。
それがフィンである。
しかし、それを絶対と言い切れるのは、長い付き合いのリヴェリアだからこそのものだった。
そんな彼が、お前のところの神を保護してやるからファミリアに入れと言っている。
ここまで相手を見下した言い方をした姿は見たことがなかった。
更に言えば、神は地上の人間達より遥かに格上の存在だ。
力を失っているとは言えそれは常識と言えるものであった。
神に軽んじた態度を取るものもいるが、それは信頼関係からのもので、名しか知らぬ神にこのような不遜な態度をフィンが取っている。
異常意外の何物でもなかった。
それに対し、ガレスは只腕を組んで黙り込んでいるだけだったが、その瞳はフィンを貫いている。
いや、
「さあ、どうかな? これで心起きなく改宗出来ると思_______」
「_______あまり舐めたことを言わない方がいいですよ、フィン・ディムナ。ふざけたことを抜かしているとその首、斬り落としますよ?」
刹那、極限にまで濃密な殺気がこの空間に充満した。
ガレスは自身の愛斧である第一等級武装《グランドアックス》を
「......ほう」
ガレスは思わず、感心の呻きを口にしていた。
繰り出したその斧は、ベルの短剣《クニークルス》により寸でのところで防がれていたからである。
「ガレスっ!! 貴様、何をしている!?」
リヴェリアは
かける声もガレスの一撃が放たれた後であるのがその証拠で、普段の彼女であれば、事が起きる前に防いでいるはずだ。
「......ふぅん。斬り落とすねぇ。_______それ、君に出来るのかい?」
フィンの絶対零度の視線をベルへ向けている。
常人であれば、相対しただけで失神する程の"圧"をフィンから感じる。
しかし、その"圧"をベルはまるで微風でも浴びているかのように流していた。
「そうですね。やれないことはないですよ。やるとしたらこの場全員一気に落とさないと僕が殺されてしまうので、それより速く殺せばいいだけですしね。まあ、無傷とはいかないでしょうけど......」
ギギッという武器同士が掠れる音を奏でながら、ベルは
オラリオでも最強格の実力を誇る三人に対して。
「......それで、ふざけたことっていうのは何のことかな?」
「ええ、知らないと思いますけど、僕って女性には優しくしろって昔から徹底的に教えられていてですね。そんな僕に女性を裏切れっていうのは、死ねって言っているのと同じなんですよ」
祖父からの教え、それはベルの心の底に深く根付いている。
それが彼のポリシーであり、生きる上での基盤となっているのだ。
それを否定するようなことを言われればベルは反応せざるを得なかった。
「それに、僕はヘスティア様のところで冒険者になったんです。今後も含めて改宗する気は絶対に来ないですよ」
少なくとも、女性が悲しむ顔は見たくなかったし、そんなことをしてしまえばベルは祖父に殺されてしまうだろう。
更に相手が神ともなれば尚更だった。
「まあ、そもそも。仲間になるっていう人相手にそんな圧力で強いるなんて、論外じゃないですかね」
ロキ・ファミリアの品格を落としますよ、そう続けるベル。
フィンは只黙ってそれを聞いていた。
「_______ははっ」
すると、不意にフィンが吹き出した。
その様子に、この場にいた全員の意識はそちらに向かうことになる。
「......うんうん、本当に君は面白いなぁ......うん、正しく
フィンは先とは違う暖かな笑みを浮かべ、何かに納得すると、態度を一変させて、頭を垂れるように謝罪体勢に入った。
「......そういうことですか」
その謝罪に対し、ベルは珍しく不機嫌さを露にしていた。
不愉快だという表情だ。
「ガレス、武器を下ろすんだ」
フィンはガレスへそう言うと、《グランドアックス》を下ろさせた。
ガレスはそういうことかと、納得し笑った。
「悪いな、ベルよ。反射的にお主を殺そうとしてしまった。許せ」
「......ええ、別にいいですよ。僕も悪かったですし」
ベルも《クニークルス》を下ろすと納刀した。
そして、豪快に笑うガレスに、リヴェリアは
「......フィン。心臓に悪いから止めてくれ」
リヴェリアの心的負担は常に重い。
それはファミリアの母親、姉、副団長としてのもので、それに加え今のやり取りが重なり、リヴェリアは頭を抱えたくなる。
そんなリヴェリアにフィンは苦笑を浮かべるだけであった。
「......しかし、いきなり
そう、ベルは今フィンに試されていたのだ。
冒険者としての器が何れ程のものなのかを量るために。
「噂に聞く《光を掲げる者》がどれ程のものか知りたくてね。やはり凄いね。思わず
にこやかに、いや
よく言いますよ、ベルはそう心の中で呟くと舌打ちをしたくなる。
フィンの武装が槍というのをこの時始めて知ったベルであったが、その技量は遥か天上のもの、神域のものだろうと予測していた。
何故ならガレスが首を強襲するより前、更にベルがその攻撃を防ぐ意思を持つ前、既に喉元へは
いや、それを感じさせる程の殺気がベルを襲ったのだ。
極限の殺気は攻撃の意思さえも消し去り、例え高位の冒険者だろうとも読み取ることを不可能にしてしまう。
それ故にベルは放たれてから槍の到達に気付いたのだ。
もし、これを彼の持つ
「あと、言わなければいけないことがあるね。_______君の生き方と神ヘスティアへの侮辱をここに謝罪させてもらう。本当にすまなかった」
一転して、フィンは深く頭を下げた。
心の底からのその謝罪にベルは少し困惑する。
「......まあ、僕よりもヘスティア様を
実際にベルが怒った理由は、ヘスティアを見下した態度をフィンが取ったからである。
ヘスティアは神ではあるが、ベルにとってはそんなことは関係なく、
その恩人を見下されれば誰だとしても不愉快に思うだろう。
ごく当たり前のことだ。
「あとで、君のファミリアに何か贈らせてもらうよ。お詫びの気持ちだ」
「......それはありがとうございます。ヘスティア様も喜びますよ。でも、程々なものでお願いしますね」
霧散。
空気が元に戻った感覚が浸透する。
この場に残留していた殺気も消え、天幕内の空間は平常になった。
あるのは二人の交差する笑み。
それを眺めていたもう二人は、只々これまでにないフィンの行動に疑問を感じているようであった。
そして、ベルの異常性にも。
「......面白いのう。全力とは言えんが儂の一撃を防ぐとは。これはフィンが、いやロキが気に入る理由が分かった気がするな」
「......それに関しては私は何も言えん。只、言えるのはフィンとベルは
目の前にいる二人の冒険者。
その共通点をどこかで感じ取ったリヴェリアとガレス。
その二人の呟きは、露となってこの場に消え去った。
「______うん? あ、少しやり過ぎたみたいだね」
「______本当ですね。どうしてくれるんですか?」
フィンとベルは、天幕の外が少しざわついていることに気がついた。
その割りには、特に焦ることもなく淡白な反応になっていた。
「......あれだけのものを放っておいてよく言うな。お前らは。......はぁ、後で他の団員のフォローをしなくてはいけなくなってしまった」
「......お主ら、構えておけよ。特にベルよ。受け身はきちんと取っておけ」
深い溜め息を吐くリヴェリアと、何か物騒なことを言うガレスに首を傾げるベル。
フィンは分かってるよと言いつつ、苦笑していた。
そして、その時はすぐに来ることになった。
「ベルくん!! 大丈夫!?」
「団長!! お怪我は!?」
取り合えず言えるのは、ベルはまた背中を中心に大ダメージを負ったということだろう。
ちなみにフィンは
学んだのは、乙女の突撃とは、ミノタウロスの突撃を遥かに上回る破壊力を出す。
よく覚えておこうと思ったベルであった。
ベルが入っていた天幕の外、そこには少し規模を小さくした天幕が多数展開されていた。
リリルカは、ベルがフィンに呼ばれていった姿をまるで捨てられた子犬のような瞳で見送っていた。
ベル様ぁ、と情けない声が出そうになってしまったかもしれない。
かなりアウェイな環境だ。
一人は心細い。
せめてベルが出てくるまで我慢しよう、そう思っていた時だ。
ティオナ(意識はベルのいる天幕に向かっている)とティオネ(意識はフィンのいる天幕に向かっている)が私達のところにと、自分達が泊まる天幕へ案内してくれた。
そこは五人以上が広々と寝そべられる程の広さで、既にアイズ、レフィーヤが居り、出迎えてくれた。
幹部クラスなると、周りと違うものなのかと思ったリリルカであったが、ティオネ曰く、"下の団員が気を使って睡眠が取れなくなるから固められている"らしい。
それを聞いたレフィーヤは戦々恐々し、アイズは小首を傾げていた。
序列のようなものはやはりどこのファミリアでもあるのだろう。
それはオラリオ最大手のファミリアでも例外ではない。
いや、だからこそなのだろうが。
ともかくとして、リリルカはへぇと興味深そうに頷いていた。
「......むぅ。ベル君、遅いなぁ。というか、何話してるのかなぁ」
ふと、体育座りをするティオナは横にぷらぷらと揺れながら、不機嫌そうな顔をしてそう言った。
「......団長、白ウサギ君を呼んで何を話してるのかしら」
妹と全く同じ体勢、表情でそう言うティオネ。
只違うのは、大腿部に押し潰されたその胸部の大きさか。
ちなみにこの事に関して、妹の方に言及すると狂戦士の如く怒り、まあ良くない結果になるのは目に見えているので、誰も触れたりはしない(一部を除いて)。
「......リリルカさん。これ、私が淹れたハーブティーなんだけど飲む?」
ベルの話をしたくない、聞きたくないレフィーヤは、隣に座るリリルカへこの階層で取れたハーブで淹れたお茶を差し出した。
「わぁ、良い匂いです......ありがとうございます! お姉様!」
「あうっ......」
リリルカの嬉しそうな笑顔と、その言葉の魅力的な響きにレフィーヤは目眩していた。
このファミリアでは末っ子的ポジションにいるレフィーヤにとって、"姉"という響きは絶大な威力を発揮する。
現に、この後レフィーヤはクッキーやら何やらとリリルカに勧め出している。
無論、全て手作りであり、ロキ・ファミリア随一と言っていい"女子力"が炸裂していた。
「でも、確かに気になる......」
アイズは珍しく表情を難しくし、考え込んでいた。
ベルは彼女にとって、興味対象の一人である。
最近、ランクアップを遂げ、《光を掲げる者》という二つ名を貰ったあの少年に興味津々なのだ。
「ぐぬぬ......! ......お、お説教じゃないですか? 冒険者としての心構えとか、常識の無さとか......?」
親愛なるアイズが話題を振っている。
いくらベルのことが嫌いなレフィーヤであってもそれを無下にすることなど出来なかった。
そう、彼女はロキに匹敵するアイズ好きであるのだ。
「違う気がする......」
そして、敢えなくレフィーヤの言葉は話を咲かせることもなく撃沈する。
普段からベルへの興味を反らすために色々手は打っているのだが、それが全て裏目に出てしまい、結果上手くいっていない。
アイズはむむむと、何かを考えていた。
「むっ......お姉様。ベル様をあまり悪く言わないでください。ベル様は勤勉なのですよ」
更に"妹"からの擁護の声にレフィーヤは泣きそうになる。
リリルカもレフィーヤに匹敵する程のベル好きであるのだ。
好きなものが悪く言われれば、誰だってむっとしてまう。
その気持ちが分かるレフィーヤは何も言えずに小さくなるだけであった。
ちなみにティオナは、意識が完全にベルの方へ向かっているので、聞こえていなかった。
「......もしかして、勧誘?」
アイズがふと考え付いたその言葉を口に出した瞬間、ティオナは目を輝かせ、レフィーヤは目を濁らせた。
「それ本当!? アイズ!! ベル君うちに入るの!?」
「それは駄目です! 断固反対、断固拒否です!! 絶対許しません!」
全く以て対照的な反応をする二人にアイズは、少し気圧される。
あの戦闘狂の彼女が気圧されるのだから、かなりのものであったのだろう。
「五月蝿いわよ、馬鹿二人。......まあ、ありえなくないわよね。あのアイズを抜いて最速でランクアップした冒険者、しかも《光を掲げる者》なんて二つ名。団長じゃなくても興味持つわよ」
でも出来れば私に興味を持って欲しいという、ティオネの乙女の願いは言葉にはならなかった。
『へへへ......』
「何であんたらは嬉しそうなのよ......」
顔を緩ませているティオナとリリルカに、ティオネは呆れながらそう言った。 好きな人が褒められたら嬉しくなってしまうのは、仕方のない事だと思える。
無論、こう言っているティオネも例外ではなく、もしフィンが褒められたら当然でしょとドヤ顔を決め込んでくることだろう。
逆に貶せば、彼女の逆鱗に触れることになってしまう。
「ま、待ってくださいよ! 確定事項ではないとは言え、嫌ですよ! 私、あの男と同じファミリアなんて!」
しかし、レフィーヤの猛反発は変わらない。
彼女としては、ベルと一緒のファミリアなど死んでも嫌なのだ。
「こら! レフィーヤ、またベル君を悪く言って!!」
先程とは違い、きちんと聞いていたティオナはレフィーヤに噛みついた。
実は、このやり取りは毎度のことで、ベルの話題になると同じことが繰り返される。
しかし、これで険悪な関係にならないのは普段からの信頼の現れなのか。
まあ、自分が好きなものが他人も好きかどうかなんて分からないので仕方のないことではあるのだが。
「......ねえ、レフィーヤは何でベルのことそんなに嫌いなの?」
アイズはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
あの時、助けられて以来、レフィーヤはベルのことをかなり目の敵にしている。
それは誰が見ても明らかで、隠そうともしていなかった。
いくら咎められようが、そのことに関しては絶対に認められないものがレフィーヤの中にはどうやらあるらしい。
「そ、それは_______」
その時だった。
全身に走る酷い悪寒。
強烈なまでの殺意の波動。
それは莫大な"殺気"であり、この場全員を硬直させてしまう程のものであった。
「ベル君!!」
「団長!!」
アマゾネスの姉妹はどうにか正気を取り戻すと、その殺気の放たれた方向_______ベルとフィンのいる天幕へ瞬時に駆け出した。
全力疾走。
それは第一級冒険者の破壊とも言える疾走であり、その余波で彼女達がいた天幕は甚大な被害を受けた。
「......っ! 待って! 二人とも!」
アイズはその二人を追うべく同じく全力で走り出した。
ロキ・ファミリアでもトップクラスの実力を誇るアイズの疾走は、アマゾネス姉妹のを優に越える。
しかし、今の彼女達のそれは火事場の馬鹿力の如く、ステイタスを越えたものとなっており、アイズでさえも追い付けるか分からなかった。
「ちょっ、待って下さい! アイズさん!」
「ああ! リリを置いて行かないで下さい!」
一番出遅れた二人は、追い付こうと走るものの、気付いたときには既に三人は視界から消え去っており、追い付ける可能性は無いに等しかった。
更にステイタスの差と適正が後方支援なのがそれを困難にしており、二人と前三人の距離はどんどん開いていく。
結果、天幕からは誰も居なくなり、その天幕も外から見たら、解放感溢れる趣に仕上がっており、寝るのには大変不便なものと化していた。
無論、後で説教を喰らう嵌めになったのは言うまでもない。
ちなみにアマゾネス姉妹ですが。
ベルやフィンに傷を負わせたりするのは、大変危険ですので絶対にお止めください。
命の保証は出来ません。
もしそれをやってしまった剛毅な方は、彼女達が全力で殺しにかかってくると思われますので、とにかく逃げてください。
特にベルに何かやらかしてしまった方は要注意。
途中、エルフのウェイトレス達も混じったりして、逃走が更に困難になる可能性があります。
オラリオ外に逃走するのをおすすめします(出れるのなら)。