生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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プリズマファミリー強かったね。
なんで子ギルがいるのか分からなかったけれども!


#42

 《迷宮の楽園》に太陽は存在しない。

 その為、昼夜という概念も勿論存在しないはずなのだが。

「本当に日が暮れちゃった......」

 現在、日はしっかりと沈み"夜"へとなっていた。

 あの後、背中に大分ダメージを負ったベルであったが、そんな表情は一切見せない対応を見せた。

 その程度であれば、我慢することなど何でもないし、女性に余計な心配は掛けさせたくなかった。

 まあ、既にかけてしまっているので、少し手遅れではあったが。

 その後、ヴェルフを捜索に向かおうとしたベルであったが、空が暗くなり始めたので中止せざるを得なくなった。

 その為、今ベルは自室と用意されたテントから広場への道を歩きながら上、つまりは天井を見上げていた。

 地上のそれとなんら変わりの無い"空"が展開されている。

 ティオナ曰く、《迷宮の楽園》の天井は全て、魔力を帯びた結晶(クリスタル)で構成されているらしい。

 詳しいことは彼女もよく分かってはいないようではあったが、簡単に言えば昼間に魔力を光として放ち、夜は放った魔力を再び吸収するために光が消えるらしい。

 あまりにもざっくりとした説明ではあったが、取り合えずベルはその言葉に頷いていた。

 結局のところ、この《迷宮の楽園》には昼夜という概念が、偽物ではあるが存在していることになってしまうのだが、もしこの場に学者が居た場合、それは違うとはっきり否定してくるだろう。

 まあ、そんなことどうでもよいことではあるのだが。

「あー! ベル君! こっちこっち!」

 向こうから、ふと声がする。

 そちらの方を見てみれば、ティオナがブンブンと手を大きく振っていた。

 喜色満面と言った、そんな表情である。

 その表情をしっかりと視認出来たのは、その後方にある焚き火のお陰だろう。

 そうでなければ、普通は見えないはずだからだ。

 更に周りを見渡せば、食事の準備をしているのか、ロキ・ファミリアの団員達がせっせと働いていた。

 そんな中、見る限り何もしているようには見えないティオナが何も言われないのは、やはり幹部クラスの実力者だからだろうか。

「あ、ティオ_______」

 ナと片手をあげ、返そうとしたのだが、ベルの視線はティオナの背後の方へ固まってしまう。

「おーい、旦那! こっちだこっち!」

 ベルが探していた彼、ヴェルフは呑気にそんな言葉を投げ掛けて来た。

 

 

 いや、何故ここにいる。

 

 

 というか、何処に行っていたという、疑問がベルの脳内を埋めている。

 割りと頑張って探していたのに、ふざけるなと言いたいベルであった。

「......ヴェルフ。君、どこ行ってたの?」

 歩を進め、中央には焚き火が炊かれている広場へ入ると、ベルは真っ先にティオナとヴェルフ達がいる所へ向かった。

「いやぁ、(わり)(わり)い。街歩いてたら、ロキ・ファミリアの遠征にうちのもんが着いてきてるって知ってな、挨拶に来てたんだよ」

「何で、それをヴェルフは知らないんだよ......」

 一応というか、彼はヘファイストス・ファミリアである。

 大ファミリアの遠征に参加となれば、その情報は否応でも耳に入るはずだ。

 それにヴェルフはLv:5冒険者。

 実力からして、真っ先にメンバー入りしてもおかしくはないのだ。

「もしかして、ヴェルフってハブられてたりするの?」

 ストレートにぶつけるべき言葉ではないことはベル自身理解していたが、言わずにはいられなかった。

 まあ、ヴェルフなら大丈夫だろうという安易な考えではあるのだが。

(ひで)えなぁ、旦那。ちゃんと遠征に参加するのは知ってたさ。けどよ、俺は旦那に着いていくと決めたんだぜ。なら、その遠征に参加する意味は()えだろ」

 当然とばかりに告げるヴェルフに、ベルは何も言えない。

 勝手にしろと言った分、下手なことは言えないのだが、もっと自分の所属するファミリアも優先すべきだと思っていた。

 まあ、少なくともヴェルフにとってファミリアよりもベルの方が大事だということになるのだが。

「もうっ、ベル君っ! 《赤色の剣造者(ウルカヌス)》とじゃなくて私と話そうよー!」

 すると、横からギュッと腕を絡めてきたのは、頬を膨らませたティオナである。

 更にティオナは二人の間に割り込むようにして入ると、ヴェルフのことをジト目で睨み付けた。

「おう、《大切断(アマゾン)》か。......何だ、お前も旦那に惚れ込んでる口か? ......まあ、今更驚きもしねえが。旦那に迷惑かけんじゃねえぞ?」

「迷惑なんてかけてないし!」

 ティオナの視線を無視したヴェルフは気をつけろよと、注意を促していた。

 迷惑云々は別にして、その光景を見たベルは思っていた疑問を口にすることにした。

「あれ? 二人って知り合いだったの?」

「うん! まーねー! 何度か遠征で一緒になったから。......あ、別にそういう仲だったとかじゃないからね!」

「......そんな勘違いしねぇだろ、馬鹿」

 マジで勘弁してくれよとヴェルフは割りと本気で嫌そうな顔をしている。

 何か過去にあったような、そんな顔ぶりだった。

「というか、私もベル君とこいつが知り合いだったのに驚きだったんだけど。それにその旦那って何なの?」

 ちなみにではあるが、未だにティオナはベルの腕に絡み付いて一切離れようとしていない。

 寧ろ、自身の身体を擦り付けるようにしてくっついている。

 マーキングのようなものなのだろうか。

「ああ、それは俺が旦那の専_______」

「あー! ヴェルフ様! どこ行ってたんですか!」

 すると、大きな籠を背負い、その中に薪を入れたリリルカが声をあげると、どんどんと音を立てるようにして歩み寄っていく。

 後ろにはレフィーヤとアイズの姿が見え、彼女達の腕の中には果物や野草があった。

「おう、リリ助。実はな、ここ(・・)に居たんだよ」

「もう! ふざけないで下さい!」

 ふざけてねえんだよなぁというヴェルフの呟きもリリルカには聞こえない。

 その後、くどくどと説教を始める彼女に、ヴェルフは軽くたじたじになっている。

「......ヴェルフ・クロッゾ」

 一緒に来たレフィーヤは何故か、いつもベルが向けられているような視線をヴェルフへと向けている。

 いや、ベルよりかは少しではあるがマシしれない。

 それでもおおよそ、只の嫌いという感情で向けるものではない。

 何故だろうと、ベルは思っていたが、分かるわけもなかった。

「......赤髪の人?」

 そんな中、アイズはポカンと首を傾げていた。

「おいおい、《剣姫》の嬢ちゃん。いい加減俺の名前はヴェルフだって言ってるだろ?」

 リリルカの説教から離脱し、ヴェルフはアイズへそう言った。

 説教回避の好機(チャンス)だと言わんばかりの表情だった。

「......赤髪の人も、私のことを《剣姫》って言ってるよね」

 こりゃ一本取られたなと、ヴェルフは笑う。

 ティオナは呆れ、レフィーヤは苦虫を潰したかのような表情を浮かべ、アイズはまた首を傾げていた。

 取り合えず、ヴェルフはロキ・ファミリアの面々とは顔見知りのようだというのは理解出来た。

 只、仲が良いのか悪いのかというのはあまり判断がつかなかったが。

「あ、そうだ。運ぶの手伝いますよ」

 ベルはそう言って、レフィーヤへ(・・・・・・)手を差し出した。

「な、何ですか......!? わ、私のじゃなくてアイズさんの運んでくださいよ!...... というか、今更手伝うとか遅過ぎるんですよ。役に立たないですね」

 レフィーヤは警戒心全開といった表情でベルを見ている。

 その小声の呟きもしっかりとベルの耳に入っており、苦笑するしかない。

 何というか、とても気難しい子なんだなというのがベルの印象だ。

 いや、ベル以外に対しては普通に良い子なんだろうが、その側面を見たことがないためにそう思うことしか出来なかった。

「そうですか。それなら、ヴァレンシュタインさんのも(・・)運びますね」

 ベルはそう言うと、アイズとレフィーヤから強引にそれらを奪うと腕の中に抱えた。

 レフィーヤに対しては、彼女の肌に触れないよう気をつけてだ。

 もし触れてしまえば、何を言われるかわかったものではないからだった。

「なっ......!」

 苦悶の表情を浮かべるレフィーヤ。

 何故、そんな反応をされなくてはいけないのか。

 少し傷つきそうなベルであった。

「......ありがとう、ベル」

 それとは裏腹にあまり表情は変えないが、感謝の念を込めてくれるアイズに少しだけ癒された。

「いえいえ。リリルカ、薪重くない?」

「はい! 全然大丈夫です!」

 先程よりも元気になっているのは気のせいかと思ったベルであったが、気のせいではないようだ。

 頭を撫でたくなってしまったが、生憎両手が塞がってしまっているためにそれは出来ない。

「あ、ベルくん。私も手伝うね。それ半分ちょうだい」

「いえ、大丈夫ですよ。それにここに泊まらせて頂いてる身ですから、これくらいしないと」

「もうっ! そんなの気にしなくていいの!」

 ティオナは強引にベルの手から篭を奪った。

 恐らく好きな男によく見られたいが為の行為だろう。

 普段であれば、彼女は積極的にこういう仕事をするわけではないからだ。

 無論、言われればするのではあるが。

 そんな複雑な女心を、ベルは微妙に察知していた。

「よし、旦那が働くなら俺も働かないとな! リリ助、それ貸せよ」

「嫌です!」

「何でだよ......」

 そんなやり取りがヴェルフとリリルカの間で行われていた。

 まあ、結局ヴェルフが強引に篭を奪取する形にはなったのだが。

 ムスッとするリリルカの頭をベルが撫でることによって表情が一気に恍惚としたものになったのだが、隣で歩いているティオナが逆にムスッとし始めたので、変な板挟み状態になってしまったベルであった。

「......」

「レフィーヤ? どうしたの? そんな悪乗りし過ぎて手がつけられなくなったロキを見るリヴェリアみたいな顔して......」

「......いえ、別に何でもないです。それより早く私達も行きましょう!」

 胸中、様々なものが蠢いているレフィーヤであったが、それを呑み込むと純度100%の笑顔をアイズへと向けた。

 アイズの為だけに作られた笑顔である。

 こんな笑顔は彼女自身の親にも見せたことはなかった。

「......? うん、行こう」

 アイズは首を傾げていたが、すぐに返事をすると、一緒に準備を手伝いに向かった。

 鈍感と、アイズはリヴェリアによく言われている。

 更に天然とも言われてしまう彼女ではレフィーヤの機微を読み取ることは出来なかった。

 一度戦闘に入れば、彼女の感覚はその真逆を行くのではあるのだが、日常では活かされていないようだ。

 どうやら、レフィーヤの苦難は続くらしい。

 恐らく、永遠に。

 

 

 

 とまあ、とにもかくにも。

 こうして準備は進み、宴は幕を開けることになった。

 

 

 

 

 

 _______のだが。

 

 

 

「よーし! ベル君! 全力で行くからね!!」

 

 

 

 目の前には完全にやる気満々になったティオナが《大双刃(ウルガ)》を構えている。

 そして、周囲からはロキ・ファミリアの好奇の視線が集中していた。

 

 

 

「どうして、こんなことに......」

 ベルは深い深い溜め息を吐きながら、にこりと笑顔を浮かべている黄金の小人族(パルゥム)を睨みつけた。


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