生きているのなら、神様だって殺してみせるベル・クラネルくん。   作:キャラメルマキアート

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遅くなりました!
その代わり過去最長になってます。



#43

 針のむしろ。

 そう形容出来る程に、現在のベルには数多の視線が突き刺さっていた。

 好奇、疑問、嫉妬、羨望、様々な感情が籠ったそれは、ベルの周囲、ロキ・ファミリアや遠征に同行しているヘファイストス・ファミリアの面々から向けられており、酷く居心地が悪いものであった。

 理由は簡単だ。

 ベルがアイズ・ヴァレンシュタインを抜いて、世界最速でランクアップし、尚且つ《光を掲げる者》などという二つ名を授かっているからだ。

 冒険者になって、約一ヶ月の奴にいとも簡単にランクアップされてしまえば、それに対し複雑な心情が発生するのは当然のことである。

 故に今、突き刺さる視線は酷く心を削っていた。

「ベル君、大丈夫?」

「......ベル様?」

 両隣に陣取るティオナとリリルカが心配そうな表情でベルの顔を覗いていた。

 それに対し、何でもない、大丈夫だとベルは言うが、二人とも納得はしていなかった。

「......ごめんね。皆、ベル君に興味津々だから」

 ティオナは軽く周りを見渡してから、少し溜め息を吐いてそう謝ってきた。

 ベルへと放たれる視線に気付いたのだろう。

 興味津々と、軟らかい表現(・・・・・・)をしたのは、その中に混じる悪意ある視線を感じ取ったからだ。

 もし、見知らぬ冒険者であれば、即座にキレかねないが生憎と此処にいるのは全員が見知った冒険者であり、同じファミリアの仲間であった。

 ヘファイストス・ファミリアの冒険者もいたが、何度も遠征に着いてきて貰っているのでもう仲間のようなものだろう。

 流石にそんな彼らに、彼女も何かすることなどは出来なかった。

「いえ、別に。気にしてませんよ。それに謝らないで下さいよ。ティオナのせいじゃないですし」

「でも......」

 不安そうな彼女の表情は、酷くベルの嗜虐心をくすぐったが、すぐに振り払った。

 実際に、謂れの無い謝罪は一番困るのだ。

 まあ、それ程ファミリアを大事に思っているのだろうかと、ベルは推測する。

「......不躾な人達ですね。不快です」

 右隣にいるリリルカは同じように周りを見渡すと、シャーッと今にも猫のように威嚇しそうだった。

 体格的には子猫といったところだろう。

 リリルカにとって、ベルへ失礼な視線を向ける冒険者達が酷く不快だった。

 消えればいいのにと、内心リリルカは思ってはいたが、そんな内心ベルは知る由もなかった。

「______それじゃあ、皆。ここまでの遠征御苦労様。今回も皆素晴らしい動きだったよ」

 そんな中、この宴の上座に座すフィンが今日の総評を話し出した。

 ダンジョン内での立ち回りや連携の練度など、褒めるところは褒め、駄目なところにはしっかりと的確なアドバイスを送っている。

 彼らはその言葉に真剣に耳を傾けていた。

 一番驚いたのは、話し始めた瞬間にベルを襲っていた視線は消え、皆、フィンの元へと集中したことだ。

 彼の圧倒的なカリスマ性は、一時の興味対象などよりも遥かに大きく、この場全員の注目を集めている。

 天性のカリスマと、彼の思慮深く冷静沈着で優しい性格は慕われないはずがなかった。

 まあ、普通に考えてベルのような得体の知れない新参者の冒険者よりも自分達が慕う団長(冒険者)の方が優先度は高いに決まっているが。

「______そして、特にラウル。あの時の君の冷静な判断のお陰で怪我人も最小限に抑えることが出来た。皆、彼に拍手を」

「あ、ありがとうございます!!」

 ラウルと呼ばれた青年が立ち上がると深く礼をした。

 それに合わせ、他の冒険者達は大きな拍手を送った。

「......えっとね。フィンがダンジョンに一緒に来る時はこうやって、皆にアドバイスを送ったり褒めたりするんだ」

 横からティオナが小声でそう教えてくれた。

「......そうなんですか? 流石、団長。広い視野の持ち主ですね」

「......うん。どんなに大変な戦いになっても、フィンは絶対に私たちを見てくれてるんだ。だから、皆もそれに応えてる」

 これがこのファミリア、ロキ・ファミリアの在り方なのだろうか。

 いや、フィンの在り方というべきか。

 良いところはしっかりと褒め、悪いところはしっかりと注意する。

 そんな彼からの言葉をここの冒険者達は受け止め改善している。

 このファミリア、絶対の力を持った彼であるからこそ出来ることである。

 彼の器の片鱗が少し、掴めた気がしたベルであった。

「ラウル......後でホーム裏ね......」

 そして、少し離れた場所(フィンのことを見れるベストポジション、但し隣ではない)では、そんなラウルという青年を色の無い瞳で見つめながら、ティオネは何か言っていた。

 怖い、怖すぎる。

 彼女の周りだけ黒いオーラが出ており、見ているだけで何かに侵食されそうだった。

「まあ、ティオネもいつものことだから......」

 あれがいつものことなのかと、ベルは少し戦慄していた。

 というか、一々そんなことに反応していたら、身が持たないというか切りがないというか。

 妬きもちを妬く女性は愛らしいのではあるが、度を越えた(・・・・・)のは流石に此方の身が持たない。

 まあ、ベルの祖父はそれすらも受け入れていたのであるが。

「______と、この辺にしておくね。流石にこれ以上長いと我慢が出来ないのもいるみたいだしね」

 フィンは気付いたように話を中断すると、どこからともなく腹の鳴る音が響く。

 鳴らしたのは如何にも食べ盛りな、小太りの少年冒険者であった。

 周りから笑いが込み上がる。

 失笑や馬鹿にしているものなどではなく、暖かなものだ。

 笑われた冒険者も仕方ないだろと、隣にいた冒険者に言っており、その表情からは恥ずかしさが読み取れた。

 ロキ・ファミリアの仲間の"絆"というものが垣間見えた瞬間である。

「......まあ、確かにお腹減ってたから幸運(ラッキー)だけど」

 名前も知らない冒険者に感謝をしつつ、ベルは早速食事に手をつけることにした。

 パンを主軸においたメニューで、肉や野草がごろごろと入ったスープや湖で取れた魚を煮込んだもの、獣肉をまるごと焼いた豪快な料理が並んでいる。

「......美味しい」

 スープを一口。

 肉と野菜から出た優しい味わいがベルの口腔に浸透する。

 実に十数時間振りの食事だ。

 昼食も結局、食べる機会がなく、あの後も食べることが出来なかった。

 空腹は最高の調味料とは言うが、それを除いてもこのスープは美味しかった。

 作っているものの腕が良いのだろう。

 こういう環境だと、食糧も不安定になり、質の良い食材を使用することも難しくなる。

 そんな中、こんなにも美味しい料理を作れるのはとても凄いことであった。

 またベルは名前も知らない誰かに感謝をしつつ、その料理に舌鼓をうつ。

 

 

 

 美味しいものを食べることは、とても幸せなことである。

 

 

 

 言い方は違うがベルの祖父がよく言っていた言葉である。

 食欲、睡眠欲、性欲というおおよそ全ての人間が持つ三大欲求を全力で謳歌していたベルの祖父は、それはもう毎日が楽しそうだった。

 そして、そんな姿を見てきた彼は当たり前のように祖父の生き方に影響された。

 食に関してだが、彼の祖父は何処から持ってきたのかも分からない食材を、連れ込んでいた(・・・・・・・)女性に料理させ、何時も美味しそうに食べていた。

 ベルも一緒させて貰っていたのだが、勿論それは美味しいものであった。

 連れ込んでいた女性も日によって違うので、毎度毎度味の違う、風土も違う料理が出てくる。

 彼女達から料理の仕方も教わった。

 それが頻繁に続いた結果、ベルは田舎出身でありながら色々な料理に詳しくなり、舌も肥えていったのだ。

「......ベル。これ」

 ティオナの左隣に座っていたアイズがふと、何かを差し出してきた。

「どうも、ありがとうございます。......これは?」

 渡されたのは表皮が黄色い果実で、大きさはあまり大きくない。

「ダンジョンで取れた果実。......甘くて凄く美味しい」

 表情のあまり変わらないアイズが、思わずドヤ顔をするくらいには美味しいのだろうか。

 しかし、ティオナは何故か苦笑してベルを見ている。

 その隣にいるレフィーヤは断ったら殺すとそう視線で訴えてきている。

 何だろうかと思いつつ、ベルは躊躇いなく、その果実を口に放り込んだ。

「......これは、確かに甘いですね」

 口に広がる暴力的な甘味。

 何というか、歯医者を敵に回すんじゃないかというレベルの甘さだ。

 例えるのなら蜂蜜に砂糖をぶちこみ、さらに追い蜂蜜をこれでもかっていう表現でもまだ足りない、という感じだ。

 果物特有の甘さではあるので、食べられるのではあるが、何個もいけるかと言えば首を縦には振りづらい。

「......どう? 美味しい?」

 乗り出して聞いてくるアイズ。

 珍しく積極的(アグレッシブ)な動きをするアイズに驚きつつ、ベルは即答した。

「......ええ、美味しいです。でもこれならパイとかにした方がもっと美味しくなりますよ」

 アイズの表情を曇らせることなど、ベルに出来なかった。

 女性に不味い料理を出されても、一切の表情を変化させることなく完食出来るベルである。

 無論、改善点はきちんと指摘はするのだが。

 今回食べたこの果実も、調理すればもっと食べやすくなるはずだ。

 それを踏まえてそう言ったのだが。

「......パイ? 美味しいの?」

「ええ、美味しいですよ」

 デザート系も美味しいが、ミートパイのような主菜系でも美味しい。

 それに作るのもそこまで難しくもない。

 ファミリアに所属する前からではあるが、割りと作っており、ヘスティアからはかなり好評だった。

 目を輝かせながら、フルーツパイを食らう女神様はとても可愛らしかった。

「......それって、じゃが丸くんよりも?」

「どうして、比較対象がじゃが丸くんなのか分かりませんけど......僕は美味しいと思いますよ。あ、そうだ。良かったら今度作りましょうか?」

「......いいの? ......うん、楽しみ」

「「「......なっ!!」」」

 この時、この場にいた三人の乙女の脳裏には稲妻が走っていた。

 ティオナとリリルカは、然り気無く料理を作って貰う約束をしているアイズへ尊敬と畏怖、嫉妬を感じていた。

 余りにもスムーズ過ぎて全くの違和感はなかった。

 もし、これを計算で出来るのならアイズはとんでもない小悪魔だ。

 まあ、本人は至って素の状態なのではあるが。

 そして、レフィーヤ。

 彼女はアイズへ料理を作る機会を得たベルに対し、嫉妬しか湧いていなかった。

 いや、得体の知れない人物ではないにしろ、信用のおけない男の料理などアイズの口に入れさせてたまるかと、レフィーヤは思考している。

 以上のことからそこからの三人の動きは必然的に決まっていた。

「ねえ! ベル君! そ、その、私もお菓子食べてみたいなあって......」

「はい! リリも食べたいです!」

「あ、アイズさん! その、パイなら私が作りますから! 絶対そこの男よりも美味しく作れますから!」

 三人の言葉に首を傾げるベルとアイズ。

 そして、何故か息のぴったり合っている二人に、三人は複雑な心情を生じさせていた。

「ええ、構いませんよ。というか、誘うつもりでありましたから。ティオナとリリルカにもご馳走しますね。勿論、ウィリディスさんにも」

 気を取り直し、笑顔を浮かべ、そう言うベル。

 よっしゃとガッツポーズをするティオナとリリルカ。

 乙女らしからぬ喜び方というのは分かっていたので、決して表には出していないが。

 対称的にレフィーヤは、まるで敵の施しは受けないと、断固拒否の体勢に入っている。

 ベルは苦笑いを浮かべた。

「うん。......レフィーヤのも食べてみたい」

「はい! 私超頑張っちゃいます! 楽しみにしていてくださいね。あ、ティオナさんにリリルカさんも! ......貴方はいいですよ。来なくて」

 しっかりと三人には良い笑顔を浮かべるが、ベルに対しては嫌な顔を浮かべている。

 しかも他の人には気付かれないようにだ。

 ここまで露骨だと逆に清々しいとベルは感心していた。

「そうですか。三人とも羨ましいなあ。......リリルカ、後で味の感想教えてね」

 別に大して残念そうにも見えない表情でそう言うベルは、こそりとリリルカに耳打ちをする。

 料理を趣味とするベルにとって、他の人が作った料理の味を知るのは勉強になる。

 まあ、それが出来ないのでリリルカに聞こうとしているのだが。

「え、あ、はい......」

 そんなリリルカは微妙な表情で、ベルとレフィーヤを交互に見遣(みや)った。

リリルカはどうして、この二人が仲が悪い(一方的ではあるが)のかが分からなかった。

 エルフは確かに異性との接触を嫌うが、レフィーヤは男嫌いではなかったはずだ。

 ファミリアの男性冒険者と普通に会話しているところを見たからである。

 つまりは、別の理由があることになるのだが、皆目見当がつかない。

 リリルカとしては、二人とも仲良くして欲しいものではあるのだが、レフィーヤはそれを拒絶することは目に見えていたので何も言えなかった。

 ベルが可哀想だと、少し思ってしまった。

「おーい! 旦那ー! 飲んでるかー?」

「はい?」

 すると、ベルを呼ぶ陽気な声______完全に酔っている______が横から聞こえる。

 間延びしている声から察するに酔いの度合いは結構なものだろう。

「ヴェルフ様! もう、ベロンベロンじゃないですか!」

「おーリリ助かー。相変わらず小せえなー」

 ヴェルフはリリルカの頭をかなり荒く撫でた。

 無論、リリルカはかなり嫌がるのだが、冒険者としてのレベル差的に抗うことが出来ない。

「ちょっと、《赤色の剣造者(ウルカヌス)》。酒臭いから近寄らないでよ」

「うわぁ......それはマジで傷付くわー」

 そう言う割りには全く平気そうなヴェルフに、ティオナはまたかと頭を抱える。

 どうやら、何時ものことらしかった。

「 ヘファイストス・ファミリアの人達とですか?」

「おう、そうなんだよ。いやぁ、あいつらじゃんじゃん注いでくるから止まんなくてなぁ」

 豪快に笑うヴェルフに、ベルはガレスを思い出していた。

 成長したら、ああいう風になるのだろうかと大分失礼なことを考えながら。

「......良いなぁ、赤髪の人。私もお酒飲みたい」

 その瞬間、ヴェルフを除いた面子、特にティオナとリリルカが雷を喰らったかのような反応をする。

 過去の惨劇を省みれば、それは当たり前の反応であった。

「お。《剣姫》も飲みたいのか。なら、ちょうど良い。此処に一本______」

「吹っ飛べ!!」

 ティオナの回し蹴りが、ヴェルフの米神に直撃する。

 Lv:5冒険者であるティオナの蹴りは、岩石をも砕く。

 そんな破壊力の蹴りを喰らえば常人なら一瞬であの世にいきかねないのだが。

「おい、痛えじゃねえか。《大切断》。首がもう一回回ったらどうするんだ」

 即ちそれを死と言うのだが、本当は特に痛そうな素振りを見せなかった。

「相っ変わらず、何なの! 頑丈にも程があるでしょうが!」

 ティオナがキレている。

 分かっていて(・・・・・・)アイズに酒を飲ませようとしたこともそうだが、何より本気ではないとは言え、自身の一撃を喰らって平然としているのに納得がいっていなかった。

 それ程までにヴェルフは頑強だった。

「駄目ですよ、アイズさん! お酒なんて飲んじゃ! それにああいう危ない人と飲んだら何をされるか分からないんですからね!」

「......?」

 レフィーヤはアイズに最早説教をする勢いで、飲酒の危険さを説いていた。

 酒を飲んだアイズがやばいというのもあるが、酔ったヴェルフいや、男に何か良からぬことをされるのではないか、そんな心配をしていた。

 アイズは誰が見ても美少女と言う程の容姿を持つ。

 そんな彼女に劣情を催す男は星の数ほどいる。

 もしも万が一のことがあったらと思うと、レフィーヤはその人物(・・・・)を殺したくなった。

 まあ、そんな万が一など、億が一にもあり得ることではないのだが。

「......おい、猿。アイズに盛ってんじゃねえぞ、殺すぞ」

 チンピラを彷彿とさせるような柄の悪い声が横から入った。

 ベート・ローガという狼人の高位冒険者で、レベルはティオナやティオネに並ぶ存在だ。

 ベルはベートの姿を久し振りに見たのだが、相変わらずな感じだなと思っていた。

 アイズに好意を抱いているのも。

「あ? んだよ、駄犬。これをどう見たらそう見えんだよ。邪推って言葉知ってるか? そう思ってる奴ほど変なこと考えてるって。つまりだ。お前はそこらにいるエロガキと大差無えってことだよ。発情犬(ホット・ドッグ)

「あ"あ"ぁ!!? てめえ、マジで殺すぞ、糞猿!!」

 額を擦りつけるようにして、声をあげる二人。

 いきなりの臨戦体勢にベルとリリルカは驚愕していた。

 会話してすぐに勃発しかけるなど、どれ程仲が悪いのだろうか。

 喧嘩は同レベルでしか起きないというが、そういうことなのだろうか。

「......あーもう。また始まった。ほんっと! 馬・鹿! よね、こいつら」

 呆れた声が聞こえる。

 馬鹿という部分に力を込めて言ったのは、頭を抱えているティオネであった。

「あれー? ティオネ。フィン・ウォッチングはもう良いの?」

「あんた、次団長を鳥扱いしてみなさい。妹であろうと殺すわよ。ティオナ」

 ここにも似たような人種はいたらしい。

 ティオネはとても良い笑顔を浮かべているが、放たれているオーラが邪悪だ。

 子供なら間違いなく泣き叫ぶだろう。

 そして、リリルカは人格豹変し過ぎだろうと、ベルの背中で震えていた。

「もう。只のアマゾネスジョークじゃんかー。ていうか、ティオネって、本当フィンのことになると冗談通じないよね」

「そんなの当たり前でしょ? 私は団長に本気なんだから冗談(・・)なんてあるわけないじゃない」

 清々しい程に気持ち良く、ティオネはそう言い切った。

 ある種、漢らしいその姿に思わずベルは感嘆の息を吐いた。

「ふーん。別に良いもーん。私にはベル君居るし」

 ギュッと腕を組むと、頭をベルの肩の辺りに擦り付けるティオナ。

 むぅと、ティオナに対抗心を燃やすリリルカも同じくベルの腕を取ると、後は全く同じであった。

 しかし、そんな彼女達へ目も向けず、ベルはアイズから先程貰った果物を片付けるべく奮闘している。

 食べ物を粗末にするのは許せないのと女性から貰ったものだ。

 どうにか頑張っているベルであったが、あまり進んでいるようには見えない。

 これはジャムもありだなと、ベルはそんなことを考えていた。

「......白ウサギ君? _______いえ、ベルで良いかしら?」

「ええ、どうぞ。僕も名前で呼ばれる方が嬉しいですし」

 白ウサギ呼びは男して複雑過ぎますからと、ベルは思っていたことを告げる。

 ウサギはあまり強い動物には見られない。

 むしろ逆であり、何よりも格好良くなかった。

 ベルにとっては、それが重要であった。

「そう、ならそう呼ばせて貰うわね。あと、一つ聞きたいことがあるの」

「はい、何でしょう?」

 

 

「あの時、団長に何したの?」

 

 

 

 走ったのは、緊張であった。

 いや、それよりもベルへ向けられていたのは間違いなく殺気と呼べるもので、ベルへ向ける目も凍てつき据わっている。

 ティオネをよく知る者なら分かることである。

 今、彼女はぶちギレ寸前までになっていた。

「ティオネ、さん?」

 レフィーヤは突然の変化に驚き固まっている。

 ティオネが怒るととんでもないことになるのはファミリアの周知事項だ。

 過去に他のファミリアの冒険者がフィンを侮辱したことがあった。

 その翌日、その冒険者は見るも無惨な姿で発見された。

 実に何年も前の話ではあるが、細かいことは伏せられて(・・・・・・・・・・・)密かに語り継がれている為にティオネを本気で怒らせてはいけないという暗黙の了解が生まれている。

 そして、今。

 その暗黙の了解が破られようとしていた。

「ティオネ! 何言って_______」

「黙りなさい、ティオナ。私はベルに話があるの」

 余計な口を挟むなと、ティオネの眼光は告げている。

 ティオナも思わず、黙り込んでしまう程にその威圧感は計り知れないもので、レフィーヤはリリルカは恐怖で震えているように見えた。

 アイズは只、黙ってティオネとベルのことを見ているだけであった。

「何をしたか、ですか。どういう意味ですか、それ」

「そのままの意味よ。何もなかったなんて団長達は言ってたけど、あんな殺気(・・・・・)が放たれておいて何もないわけないでしょ?」

 あの時、フィンが何もないと言った手前、ティオネは納得がいかなかったが、納得せざるを得なかった。

 だが、それでもティオネはフィンが心配だった。

 自分を心配させない為に嘘をついて誤魔化している可能性だってありえるのだ。

 それなら、今目の前にいるベル・クラネルという男に聞けばいいと、そんな考えに至った。

「はぁ......一体どんな説明したんだろ......まあ、そうですね。ディムナさんの戯れに僕が引っ掛かっただけですよ」

「戯れ?」

「ディムナさんの冗談ですよ。それでまあ、僕はその意図に気付かずに、少し感情が昂りましてね」

 思い出したら腹が立って来たと、ベルは悪態を吐きそうになる。

「......それって、フィンがベルを怒らせるようなことを言ったってこと?」

 アイズがポツリとそう言うと、ベルはその質問に首を振った。

「はい。僕の冒険者としての器を試したのでしょうね。まあ、あの時は僕も頭に血が上ってしまったので悪かったとは思っていますが、ディムナさんも中々に悪い人(・・・)だと思いますよ」

 その代わりに、ヘスティア・ファミリアには予想以上の素敵な贈り物が届くことになるのだが、この時ベルは何も知らない。

「フィンが相手をわざと怒らせるようなこと言うなんて珍しいね。というか! ベル君にそんなことするなんて......!」

 ベルの隣では静かに怒りを燃やすティオナと、フィンの知らぬところで好感度が下がっているリリルカがいた。

「......それって本当なのかしら」

「本当ですよ。嘘を吐く理由なんてありませんし。だから何も無かったって言ったのはそういうことだと思いますよ。現に僕やディムナさん達には何もありませんでしたし」

「そう......悪かったわね。疑うようなことを言って」

 すると、意外なことにすんなりとその言葉を受け止めているティオネ。

 ベルの予想だと、納得が行かず少々拗れるはずだったのだが、それは見事に外れてしまった。

「......意外ですね」

「どういう意味よ、それ。......まあ、そうね。納得できた(・・・・・)からよ」

 そう言うティオネの表情は、何処か別の何かを見ているようであった。

 只それに気付いたのはどうやベルだけらしく、ベルも踏み込まない方が良いと判断し何も言わなかった。

「でも、もし団長に何かしてみなさい。私はベルを殺すわよ」

 そう言って、ベルを一瞥すると、ティオネは取っ組み合いになりかけているヴェルフとベートの方を見た。

「ちょっと! そこの馬鹿二人!! 見苦しいから止めなさい!」

「んだよ、怒蛇(ヨルムガンド)! あの人に振られたからってこっちに当たんじゃねえよ!」

「てめえはすっこんでろ、"雌大猩々(メスゴリラ)"!」

「......取り合えず、あんたらは今すぐここで死にたいってことで良いのよね? まあ、絶対に殺すんだけど!」

 更なる火種が放り込まれたことにより、最早収拾がつかなくなりそうになっている。

 それを見ていたティオナは溜め息を吐き、リリルカとレフィーヤはおろおろし、アイズは只無表情でその光景を見ていた。

 恋する乙女が殺す殺すと発言するのはどうかと思うと、ベルは思ってはいたが絶対に口には出さまいと、決めていた。

 キレたティオネに近づくのは愚行の極みだと、付き合いの短いベルでさえ理解出来ている。

 いや、誰しもが分かることではあるだろうが。

「お、何だ何だ。また(・・)戦うのか! よーし、じゃあ俺はヴェルフの兄貴に賭けるぜ!」

「僕はベートさんに賭けます!!」

「俺はティオネの姉御に5000ヴァリス!!」

「皆さーん! 順番に並んでくださーい!」

 すると、戦いの匂い感じ取ったロキ・ファミリアやヘファイストス・ファミリアの冒険者があれよあれよと集まり、懐の金を賭け始めた。

 その動きが余りにもスムーズなので、これも何時ものことなのだろう。

「......はぁ。何故こうなるのだ」

「ガハハハハッ! 血気盛んな奴等だのう!」

 その光景を見ていたリヴェリアは深い溜め息を吐く。

 彼女の周りに集まっているエルフの女性冒険者達は心配そうな表情でリヴェリアを見ている。

 ガレスは既に酒を10本近く空けており、その周りには散乱した酒瓶と飲み比べで負けた倒れ伏す男達がいた。

 まあ、つまりは両者も何時もの状態というわけだが。

「......はははっ。全く仕方がないなぁ」

 フィンはそう言いながらも笑っている。

 血気盛んな彼らを見て、仕方がないと思いつつ、彼らの成長を見るためか。

 いや、笑っている理由は全く別のものであったが。

「......その戦い。少し待ってくれるかい?」

 そして、声をあげたのもフィンであった。

 その言葉に、いがみ合っていた三人は止まらざるを得なかった。

 それ程までにフィンは、絶対上位の存在であるからだ。

 ファミリアが違うヴェルフや、基本誰かに従うというものを嫌うベートも例外ではない。

 勿論、ティオネは当たり前のようにその言葉で止まる。

 暴走したティオネを止められる存在などフィンくらいであろう。

 ちなみにではあるが、もしフィンからの応援があれば彼女は死んでも勝利をもぎ取る所存である。

「君達が戦うのも良いけど、ここには新しい顔もいるんだ。......ねえ、クラネル君。此処で君の実力、見せてくれないかい?」

 瞬間、沸き立っていた彼らのざわめきは、全く別のものになった。

 賭けに水を刺されたのではなく、あの《光を掲げる者》が戦うかもしれないということに、彼らは反応したのだ。

「いやいや、ちょっと待ってくださ_______」

「はいはいはいはーい!! フィン! それなら私がやりたい!!」

 断ろうとしたベルの言葉を遮り、いつの間にか腕から離れ立ち上がっていたのはティオナであった。

 その目は爛々と輝いており、早く早くと訴えているように見える。

「おおっ!! 旦那が戦うなら、邪魔物は下がらねえとな!」

「ちっ......興が冷めたぜ。だが......」

「......興味がある、でしょ? ......まあ、あの時のあれの再確認もあるからちょうど良いわね」

 そして当の本人達はフィンの言葉に納得すると、この機会を二人へ譲った。

 他の面子も既に戦うのは三人ではなく、ベルとティオナという認識に切り替わっている。

 つまりはもう既に手遅れというわけだった。

「よーし! それなら行こうっ! ベル君!」

「あぁ、まだ食べ終わってないのに......」

「ベル様!?」

 ティオナにずるずると引っ張られていくベルを、リリルカは見送ることしか出来なかった。

 何故なら彼女にはベルを連れ戻す術がないからである。

「ふっふっふっ......ティオナさんにボコボコにされれば良いんで______って、アイズさん? どうかしました?」

「......ううん。何でもない」

 女性らしからぬ黒い笑みを浮かべるレフィーヤであったが、隣に座っているアイズの様子がおかしいことに気づいた。

 只無表情でベルとティオナを見つめるアイズは、そう言いつつも視線はしっかり二人へと向いている。

「ルールは簡単だよ。武器は自分の装備一つのみで、どちらかが戦闘不能、もしくはこちらで判断する。そして、勿論殺しは駄目だ」

 フィンのルール説明に、無理矢理中央に引きずり出されたベルはあることに気付いた。

 殺す以外なら何をしてもいいということになるのではないかと。

 まあ、どちらにせよ。

 ベルには構わないことでたるのだが。

「っと、その前に準備をしないとね」

 フィンがパチンと指を鳴らすと、中央で燃えていた焚き火が消え、一瞬暗闇に落ちる。

 しかし、次の瞬間にはここにいる全員を囲むように灯りが展開された。

「これは......」

 周りには多数の火の灯りがあり、この数から察するに既に用意されていたものだ。

「......最初からこのつもりだったんですか」

 その思惑に気付いたベルであったが、既に遅かった。

「よーし! ベル君! 全力で行くからね!」

 《大双刃(ウルガ)》をぶんぶんと振り回し、やる気は既に十分と言わんばかりのティオナ。

 振る度に切れる空気の音がとても物騒であったが。

「どうして、こんなことに......」

 ベルはフィンのことを睨みつけるが、彼は何処吹く風と言わんばかりに笑みを浮かべている。

 素直に殴りたいと思ってしまったベルは悪くないはずだ。

「それでは二人とも_______始め」

 そして、無慈悲にもフィンは笑顔で開戦を告げる。

 ベルは仕方無く、腰に差してある《クニークルス》を引き抜くと、迫り来るティオナの攻撃へ備えた。

「はあ!!」

 ティオナは大双刃を斜めから斬るようにして振るう。

 Lv:5の膂力と、第一等級武装が合わさりそれは驚異的な威力へと変わる。

 《大双刃》による必殺の一撃がベルの構える《クニークルス》目掛けて放たれた。

 

 

 

 ピキリッ。

 

 

 

 そんな音がベルの耳に届いた。




あれ? 全く進んでいない?
次回ですよ次回!







最近までにあった嬉しいこと。
・うちの兄貴がLv:90フォウマ、矢避けLv:10、他Lv:6に出来たこと。
・イリヤがカルデアに来たこと。
・オルタニキも続いてカルデア入り。
・うたわれるもの 二人の白皇を購入。
・感動の余り号泣してしまった。



私のソシャゲ運(fgoにおいて)は止まることを知らんなぁ!!

あと、ネロ祭の高難度クエストが難しいのでどうにかしろ下さい。


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